東京大学大学院農学生命科学研究科の小郷裕子・特任研究員、小林高範・特任助教、
板井玲子・特任研究員、西澤直子教授らは、植物が土壌から鉄を取り込んだ後に体内を
移行する時の調整をする新たな転写因子『IDEF2』を発見した。
米国生化学会誌『Journal of Biological Chemistry(5月9日号)』に掲載された。
鉄は植物の生育に必須の元素の1つ。足りなくなると、葉が変色するなどして生産性を
著しく低下させる。地球上の全陸地の67%は農作物の生産性が低い不良土壌であり、
その半分は石灰質アルカリ土壌。土壌中に、鉄は水に溶けにくい水酸化第二鉄の状態で
存在していることから、植物は鉄を吸収できず、鉄欠乏症になり枯れてしまう。
土壌中の溶けにくい鉄を吸収するため、イネやトウモロコシなどのイネ科植物は、根から
キレート物質のムギネ酸類を分泌し、土壌中の難溶性の鉄を水に溶けやすいキレート
化合物にして体内に取り込む。ムギネ酸類や、その前駆体のニコチアナミンは植物体内に
おける鉄の移行にも関与している。
この鉄の吸収・移行の仕組みは、DNA上のシス配列に結合する転写因子がスイッチに
なっている。植物体内で鉄が不足するとスイッチが入り、鉄の吸収・体内移行に関わる
遺伝子を発現させて効率的な鉄吸収・体内移行を行う。
研究グループは2003年、鉄欠乏で発現する遺伝子群の塩基配列から上流にある2か所の
シス配列IDE1、IDE2を見いだした。さらに昨年、IDE1と結合する転写因子IDEF1を発見
している。今回の研究では、シス配列IDE2に結合する転写因子IDEF2を見いだした。
このIDEF2で発現する遺伝子には、IDEF1等では発現しないものも多くあったことから、
IDEF1とは独立した経路でスイッチを調節していることがわかった。このIDEF2は、特に
鉄の体内輸送に関わる鉄・ニコチアナミンのトランスポーターを調節しており、イネでその
機能を抑制した実験を行ったところ、体内の鉄分配に異常が起きた。
今後、IDEF1とIDEF2の関係など、より詳細な研究を進めていくという。
今後、世界的な人口増加やバイオ燃料の増産に対応するため、改良した作物を不良土壌で
栽培することが期待されている。また、鉄は人間にも必須の栄養素であり、WHOの報告では、
世界で最も多い栄養障害は鉄欠乏で約30億人以上が鉄欠乏性貧血に悩まされているという。
植物の鉄吸収・体内移行の仕組みを深く理解することは、鉄欠乏耐性を持つ、あるいは鉄
含有量を高めた作物を作出することなどに役立ち、世界的な問題を解決することにつながる。
ソース:
http://tech.braina.com/2008/0528/bio_20080528_001____.html 知財情報局 2008年5月28日
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