フラーレンから超撥水素材を開発
−フラーレンの階層的組織化のみで発現するハスの葉模倣の水をはじく機能−
1. 独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:岸 輝雄)ナノ有機センターの中西 尚志主任研究員
(ドイツ マックスプランク研究所コロイド界面部門兼任)らは、炭素系ナノ材料のフラーレンを用いて、
表面にナノサイズのフレーク構造を持つ微粒子を作製し、これを基板上に敷き詰めた薄膜がハスの葉
の様に水をはじく超撥水の機能を発現することを発見した。
2. フラーレンは、電子材料、医療材料、硬質添加剤などの様々な応用が期待されているナノ系炭素
素材である。しかしながら、現時点での実際の応用材料としての用途は、硬質ポリマー添加剤や潤滑油
添加剤など、ごく限られた例しか無く、新たな材料用途の開発が切望されている。一方、自然界のハスの
葉が示す自己洗浄機能は、表面で水をはじく超撥水性に基づくものであり、この機能を模倣した人工超
撥水膜の創製が、フッ素系ポリマーなどを用いて数多く研究されている。フラーレンは、フッ素系素材同様、
表面自由エネルギーが小さいことが知られているにも関わらず、これまで超撥水性材料として応用された
例はなかった。
3. 三本のアルキル鎖を置換基として導入したフラーレン化合物を溶媒中で自己組織化させることで、
表面にナノメートルサイズのフレーク構造を持つ球状微粒子(マイクロメートルサイズの直径)の創製に
成功した。この微粒子を基板上に塗布し、薄膜化させると、フラクタル形状の表面が構築され、この表面
での水の接触角が152°の超撥水性を示すことが見出された。この超撥水膜は、100℃に36時間以上曝
しても、フラクタル形状、超撥水性に変化はなく、また極性有機溶媒(アセトン、エタノール)や酸性、塩基性
水溶液に対しても非常に優れた耐久性を示した。本技術は、フラーレンを素材とする初の超撥水膜の
創製法であるのみならず、有機分子の自己組織化、階層化だけで自然界のハスの葉表面システムを
模倣できることを示した貴重な例と言える。
4. 本発明におけるフラーレンを素材とする超撥水膜の創製技術は、手法の簡便さ、基板を選ばない、
優れた環境耐性などの利点から、新たな超撥水素材並びにフラーレンの新用途として有用である。また、
このフラーレン化合物は非極性有機溶媒(トルエンやクロロホルム)に易溶であり、再回収・再利用もできる
ためコスト削減が見込める。分子の組織化に基づく材料であるため新たなソフトマテリアルとしての可能性
も十分に秘めている。
5. 本研究の成果は、国際学術誌「Advanced Materials」に近日掲載される予定である。
物質・材料研究機構プレスリリース
http://www.nims.go.jp/jpn/news/press/press217.html