東北大学医学系研究科の大内憲明教授、多田寛医師及び先進医工学研究機構の樋口秀男教授
のグループは、マウスのがん腫瘍に抗がん剤がたどり着くまでの過程を、直径数ナノメートル
の粒子1個の蛍光を利用して、動画像化することに成功した。この成果により、抗がん剤の
薬効を向上する道に明るいナノの光がともされることになるだろう。この成果はアメリカの
がん専門雑誌(Cancer Research)で2月1日(アメリカ時間)に発表された。
ナノテクノロジーとバイオテクノロジーは次世代の産業を支えると予想されている分野であり、
先進国がこれらテクノロジーの開発と利用にしのぎを削っている。最近では、ナノテクノロジー
の第二世代としてナノテクノロジーで発展した技術を、医療に応用するナノ医療が芽生えつつ
ある。大内研究室の多田寛医師らと樋口教授らは、乳がんに対する画期的な抗ガン剤である
ハーセプチンに蛍光を発する半導体ナノ粒子を結合し目印とした。この目印付きのハーセプチン
をマウスの静脈に注射して、血管からがん細胞に到達するまでの全過程を、新たに開発した
超高精度の蛍光顕微鏡装置にて動画として観察した。抗ガン剤ハーセプチン1分子は、血管から
すり抜け(図1)、その後、動いたり止まったりを繰り返しながら、がん細胞に近づいてゆき、
がん細胞に結合して、細胞内を走り細胞核付近に至る(図2)、動画像が観察された。この
ように、抗がん剤1分子の挙動を観察できたことにより、抗がん剤がどのような経路でがん
細胞に近づき、どの場面に最も時間を費やすかを理解することができた。この研究は将来、
副作用の少なく、迅速にがん組織に到達する抗がん剤開発に役立つだろう。
http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=152051&lindID=4 図1.半導体ナノ粒子を目印として観察されたマウスの血管から飛び出す、抗がん剤1分子の運動
図2.マウスに埋め込んだ、ヒト乳がん細胞の中を走る抗ガン剤1分子
http://release.nikkei.co.jp/attach.cfm?attID=0152051_01.jpg ※語彙説明
ハーセプチン :乳がん細胞のなかで約30%は細胞表面にタンパク質HER2を過剰に発現し
これが癌化を引き起こしている。ハーセプチンはタンパク質HER2に対する
抗体であり、抗体が結合することにより、HER2の機能が弱まり、がん細胞の
増殖が抑えられ、最終的には死滅させることができる。日本では、最初のがん
抗体治療薬として2001年に発売された。現在ではハーセプチンを含めた抗体
医療の2005年の国内売り上げは550億円にのぼり、年20%前後の成長を
している。
半導体ナノ粒子:半導体材料を数ナノメートルまで小さくすると、量子力学的な効果により、蛍光
を発することができるようになる。この半導体ナノ粒子は非常に安定であり、
従来の有機蛍光分子の1000倍以上の光子を出すことができる。また、半導体
ナノ粒子の大きさを変えることで蛍光の色を変えることができる。