ネズミの心臓の筋肉細胞(心筋細胞)をネズミの太ももで培養、厚さが従来の10倍で
実物並みの約1ミリある心筋組織に育てることに、東京女子医大先端生命医科学研究所の
清水達也講師と岡野光夫教授のチームが成功した。清水さんらに協力している大阪大の
チームが、患者自身の筋肉で作ったシートを心臓に張って心筋再生を図る臨床研究を
始めるが、清水さんらのネズミの研究は、これまで難しかった毛細血管の再生ができ、
分厚くて拍動する心筋そのものを作製できたのが特徴だ。
清水さんらのチームは動物の細胞を培養液中で育て、シート状にする技術を90年代に開発、
さまざまな組織の再生に取り組んできた。だが、なかなか血管が育たず、0.1ミリ以上の厚さにできなかった。
今回は、毛細血管をつくることを優先。ネズミの心筋細胞から作った1センチ角のシート
(3層、厚さ0.1ミリ)を、ネズミの太ももの血管の上に乗せた。すると、1日でシートに毛細血管が
入り込んだので、翌日、次のシートを重ねた。この操作を毎日繰り返し、1センチ角で毛細血管を
備えた30層、厚さ1ミリの組織にすることができた。
このシートは全体が規則正しく拍動する心筋の特徴も維持されていた。細胞シートの中に血管の
もとになる細胞を混ぜると、毛細血管ができやすくなることもわかった。
心臓病患者から健全な心筋細胞を採取し、厚さ1センチ、3〜5センチ角の心筋組織に育てることが
できれば、悪くなった心筋と置き換えるなど再生医療への応用が考えられる。
今回の技術は、肝臓や腎臓などほかの組織の再生でも使える可能性がある。今後、大型動物で
実験を重ね、効果や安全性を確かめていく方針だ。
大阪大の澤芳樹教授(心臓血管・呼吸器外科)らのチームは、太ももの筋肉の細胞から作った
シートで拡張型心筋症患者の心臓を補強する計画。こちらのシートでは拍動や毛細血管の再生までは
確認されていないが、澤教授は「心臓組織を体外で分厚くすることができれば、応用の道が開かれる。
心臓移植の代替にも、なるかも知れない」と期待している。
http://www.asahi.com/science/news/TKY200701080288.html