健康なヒトなら、腫瘍との直接接触によって癌に「感染する」ことはないが、イヌならありうる。
Claudio Murgiaらは、イヌ可移植性性器腫瘍(CTVT)で、その腫瘍細胞が伝染性物質であることを
明らかにしている。
CTVTは、主として交尾中にイヌからイヌへ伝播する組織球性腫瘍であり、最初にその特徴が記載
されたのは130年前のことである。CTVT細胞は長らく、新しい宿主に接木のように生着できると
考えられてきたが、別のデータからは、発癌ウイルスの関与が明らかになっている。Murgiaらは、
伝播の問題を解決する手段として分子遺伝マーカーを用い、CTVTの起源を調べた。
イタリア、インドおよびケニアで治療したイヌの腫瘍組織と正常組織とをマッチさせ、これらを用いて
世界中の採取源から単離して保存した腫瘍組織との比較を行なった。CTVT細胞についてはすでに、
MYC癌遺伝子の近くに挿入された広範囲散在反復配列(LINE-1)を隠しもっていることがわかっており、
Murgiaらは、これがCTVT細胞の特徴であって、イヌそのものの遺伝的素因でないことを確認した。
イヌ主要組織適合遺伝子複合体(MHC)内の多型を分析し、マイクロサテライトマーカーをゲノタイピングし、
ミトコンドリアDNAの多型調節領域を分析すれば、腫瘍細胞およびその宿主を遺伝的に区別できる。
さらなる分析からは、CTVTの起源がオオカミにあったかもしれないこと、現在の腫瘍クローンは
発生から250〜2500年経過していることがわかる。
また、マイクロサテライトデータは、腫瘍細胞が異数体であっても、そのゲノムは驚異的に安定して
いることをも示しており、興味がもたれる。これはCTVT細胞にテロメラーゼが発現し、短いテロメア
によるDNA損傷が起きないようにしているためと考えられる。
(以下ソースにて)
Nature Japan Cancer Update
http://www.natureasia.com/japan/cancer/0609/2.php