関節リウマチは関節の滑膜に炎症が起きて、関節が腫れて痛み、病気が進行すると
関節の骨や軟骨を破壊してしまう難治性の自己免疫疾患です。罹患率は世界人口の
約1%ときわめて高いものの、その病因は長い間不明でした。しかし、近年、PAD4が
関節リウマチの発症および慢性化に深く関与していることが明らかになりました。
PADはカルシウムイオン(Ca2+)存在下でタンパク質中のアルギニン残基をシトルリン
残基に変換する酵素で、5つのタイプ(PAD1-PAD4とPAD6)が広く体内の組織中に分布
しています。この5つのPAD中で、PAD4だけが核移行シグナルをもち、真核生物の遺伝子
の発現を調節していることがわかっています。これまでに佐藤教授らは世界に先駆けて
SPring-8の構造生物学IIIビームライン(BL38B1)及びPFの強力な放射光X線を使って
ヒトPAD4のX線結晶構造解析を行ない、Ca2+結合部位やCa2+による新規の酵素の
活性化機構などを明らかにしてきましたが、今回新たにヒストン(H3とH4)のアミノ末端
(N末端)ペプチドとPAD4との複合体のX線結晶構造解析にも成功しました。その結果、
これまで見つかっていなかったまったく新しいヒストン認識の仕組みを明らかにすることに
成功しました。さらに、なぜPAD4がヒストンのN末端尾部の複数のアルギニン残基を
シトルリン化できるかなども構造科学的に明らかにすることができました。この研究成果は、
真核生物のDNA転写調節に関する基礎的な構造科学的知見を与えるとともに、
関節リウマチの効率的・高選択的な新規薬剤開発に大きく貢献するものと期待されます。
ソース
http://www.spring8.or.jp/ja/current_result/press_release/2006/060403 Structural basis for histone N-terminal recognition by human peptidylarginine deiminase 4
Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 10.1073/pnas.0509639103
http://www.pnas.org/cgi/content/abstract/0509639103v1