カスパーゼは、向アポトーシス経路のきわめて重要な成分であり、さまざまな種類の癌に
カスパーゼ8の発現消失がみられるが、この機能的な意味は未だ明らかにされていない。
Stupack、LahtiとChereshらは現在、神経芽細胞腫からカスパーゼ8が消失すると
転移癌の形成が助長されることを示している。
Stupackらは、患者から採取した神経芽細胞腫細胞系を発生途中のニワトリ胚に移植し、
その増殖、浸潤および自然転移を分析した。それにより、浸潤性の高い神経芽細胞腫系ほど
カスパーゼ8を発現せず、この酵素を発現するものは、周囲組織に浸潤した場合の
アポトーシスレベルがはるかに高いことがわかった。カスパーゼ8が発現しても原発腫瘍の
大きさに影響はないが、肺および骨髄に転移癌が定着しにくくなった。
さらに、RNA干渉法を用いてカスパーゼ8タンパク質の発現を減少させると、
カスパーゼ8発現細胞が転移癌を定着させる能力が高まった。
不適切な細胞外マトリックスで細胞が増殖すると、カスパーゼ8の活性化が起こる。
この活性化は、インテグリンに何も結合していないか、またはこれが拮抗を受けていることが
引き金となっており、インテグリンを介する細胞死(IMD)として知られている。
間質組織の多くは、I型コラーゲンを主なマトリックス成分とするが、Stupackらは、
カスパーゼ8が発現する神経芽細胞腫細胞をI型コラーゲンマトリックスで三次元培養すると
アポトーシスを来たすことを突き止めた。しかし、同じくカスパーゼ8を動員して活性化させる
細胞死受容体経路を阻害しても、上記細胞の細胞死が妨げられることはなかった。
この所見から、細胞死受容体経路に神経芽細胞腫の転移を抑える機能があるかどうかが
問題になってくる。Stupackらはほかにも、患者から単離した転移癌はα3β1インテグリンの
発現が少なく、I型コラーゲンマトリックスのカスパーゼ8発現細胞の生存率が高いことを
明らかにしている。このことから、何も結合していないインテグリンが依存性受容体と同じように
機能し、リガンド不在時にアポトーシスを誘導することがわかる。
以上のことから、カスパーゼ8は転移抑制因子であり、カスパーゼ8の発現抑制または
インテグリン発現の変化によってIMDを乗り越えると、細胞の生存率が高くなり、
腫瘍浸潤が助長されると考えられる。
http://www.natureasia.com/japan/cancer/0602/3.php 文献
原論文
Stupack, D. G. et al. Potentiation of neuroblastoma metastasis by loss of caspase 8. Nature 439, 95-99 (2006)