副題:高いエネルギー分解能で速中性子スペクトル測定を実現
サマリ
3つの位置敏感型比例計数管(PSPC)と
2つの表面障壁型シリコン半導体検出器(SSD)
からなる複合型の速中性子スペクトロメータを開発した。
このスペクトロメータによって、反跳陽子の
エネルギーと反跳角の高精度な同時測定が可能になり、
その結果、5MeV単色中性子に対して1.7%の高分解能スペクトル測定に成功した。
本文
■中性子のエネルギー分布の必要性
中性子は、エネルギー毎に原子炉開発、核融合炉開発、医療照射、薬品開発
など様々な用途があり、物質との反応過程も大きく異なる。
速中性子(100keV〜15MeV)は、主に核融合炉開発で利用され、
そのエネルギー分布(スペクトル)の高分解能測定は、
核融合炉における核燃焼プラズマ診断で必要な技術である。
当研究室では、中性子の様々な産業利用に対応するために
単色中性子フルエンス標準の維持、供給を行っている。
単色中性子標準場では、中性子検出器や線量計へフルエンス
(単位面積あたりを通過する中性子数)を与える校正の際に、
目的以外のエネルギーを持つ中性子の量を知る必要がある。
単色中性子は、加速器からの荷電粒子との核反応によって発生させるが、
特に速中性子の場合には、照射室内の構造体との散乱による減速や
中性子生成の競合反応によって、目的外のエネルギーを持つ中性子が
混在する場合が多いので、標準の信頼性向上のために
中性子標準場においても高分解能中性子スペクトルの測定は重要である。
>>2 ■今後の展開
近年、航空機乗務員の宇宙線に起因する中性子による被曝や、
医療施設などで導入されている大型線形加速器から発生する中性子の線量評価
の問題などで、15MeV以上の高エネルギー中性子が重要視されている。
そこで産総研では、高エネルギー領域の中性子標準の整備を行っている。
この中性子スペクトロメータについて、さらなる研究を積み重ね、
高エネルギー中性子にも対応できる技術を確立するとともに、
実際にそれを中性子の標準システムに組み込むことを目指している。
http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol05_12/p22.html