ユネスコ(本部・パリ)が、破壊の危機にさらされている世界遺産の保護に、
宇宙から人工衛星で撮影した画像を活用するネットワーク作りに乗り出した。
11月にメキシコで初の世界会議を開き、各国の協力態勢を話し合う。ユネ
スコのマリオ・ヘルナンデス・リモートセンシング主任は「衛星を使えば、広大な
遺産や紛争地域の遺産も鮮明な画像で確認できる。衛星の地球観測技術
は、遺産保護に不可欠な技術になる」と話す。【早田利信、永山悦子】
世界遺産は、文化遺産と自然遺産、複合遺産を合わせ812カ所ある。
うち34カ所は災害や戦争、開発による破壊の恐れがあり、「危機遺産」に
登録されている。コンゴ民主共和国では、地域紛争や密猟によって五つの
自然遺産すべてが危機遺産だ。
ユネスコは、01年から欧州宇宙機関(ESA)などに協力を求め、広大な
コンゴの遺産地域(約7万平方キロ)を撮影した衛星画像から地図を作り、
植生や土地利用の状況を明らかにした。マウンテンゴリラなど野生生物の生息
地域の把握や違法伐採の確認にも活用しているという。
また、インカ帝国の遺跡で知られるペルーのマチュピチュでは、地すべり災害が
多発し死者も出た。危機遺産ではないが、衛星による継続的な観測で地形
変化をキャッチできれば、被害を避けられるという。
メキシコでの世界会議は11月28日から。ESA、米航空宇宙局(NASA)
などの宇宙機関のほか、自然保護団体、各国文化庁などが参加。コンゴでの
実績を踏まえ、今後の協力態勢などについて話し合う。
ヘルナンデスさんは「衛星を活用すれば、数十センチの小さなものを見分けたり、
広域を定期的に監視することも可能だ。日本とも技術協力を進め、アジアの遺
産保護に取り組みたい」と話している。
衛星による地球観測にくわしい地球科学技術総合推進機構の坂田俊文理
事長は「衛星は地表の『変化』を把握するのに向いている。遺産地域へ迫る開
発や熱帯雨林の減少、川の変化などの情報は、保護対策のきっかけになる。
日本も近く陸域観測衛星(ALOS)を打ち上げる予定なので、協力は可能だ」
と話す。
毎日新聞 2005年10月26日 15時00分
ソース
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/kagaku/news/20051026k0000e040068000c.html