岩手大学農学部附属寒冷バイオシステム研究センターの伊藤菊一助教授の研究グループは、細胞内のエネルギー消費を
高めることによる肥満対策や糖尿病治療薬などへの用途開発を始めた。適用する仕組みは、サトイモ科の野草である
ザゼンソウの花の部分が寒冷環境でも20〜25℃という高温を維持する機構である、UCP(脱共役タンパク質)による
呼吸代謝促進の機構を解明した基盤技術である。
初春の寒冷な時期に水辺で独特の花を咲かせるザゼンソウは、雪が薄く積もった外気温が零度に近い寒冷環境でも、
ザゼンソウの周囲の雪を溶かす現象がよく知られている。花の部分が20〜25℃に発熱し続けているからだ。このザゼンソウの
発熱機構を調べた伊藤助教授は、細胞内のミトコンデリア内に含まれるUCPというタンパク質が呼吸代謝を大幅に促進して
いることを明らかにした。
ザゼンソウのUCPは、動物や植物の細胞に含まれる従来のUCPに比べて、200倍も呼吸活性を示すことを発見した。ザゼンソウの
UCPを「UCPb」と表記している。このUCPbは細胞内のエネルギー消費を大幅に高める機能を利用し、肥満対策や糖尿病治療向けの
製薬を開発する計画。ガン細胞の増殖抑制効果もあるとみている。
肥満対策や糖尿病治療向けの製薬開発を進めるには、UCPbの生化学研究を進めると同時に、トランスジェニック動物
(遺伝子操作したマウスなど)を用いた効果の解析などの応用開発が必要になっている。こうした製薬開発などの共同研究の
相手先企業を求めている。また、冷害に強いイネの開発など、製薬以外の共同開発も検討している。
基盤技術となった発熱機構の研究成果は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の研究開発プロジェクトから産まれた。
研究成果から産まれた主な特許2件は科学技術振興機構が出願している。この内の1件は2004年11月に米国で出願された。
同研究成果などの問い合わせ先は、科学技術振興機構産学連携推進部技術移転支援センターである。
(丸山 正明=産学連携事務局編集委員)
http://nikkeibp.jp/wcs/leaf/CID/onair/jp/medi/401823