■新型インフルエンザの流行阻止は抗ウイルス剤の迅速投与がカギ
〜London大などがタイ想定したモデル研究をNatureに発表 (08/04/2005)
ベトナム、カンボジア、インドネシアなど東南アジアでは、野鳥や家禽類にH5N1型の高病原性トリインフルエンザ
ウイルス感染が蔓延しており、ヒトの発症例も持続的に報告されている。高病原性トリインフルエンザウイルスが
ヒト-ヒト易感染性を獲得した場合、有効性が確認されたワクチンがない状況では、発症者群の素早い発見と
迅速な抗ウイルス剤投与がカギになる。英London大学Imperial CollegeのNeil M. Ferguson氏らは、タイを舞台に
インフルエンザの伝染と特定の介入法の影響をシミュレーションし、Nature誌2005年8月3日号に報告した。
感染の拡大を考える場合、1人の患者から感染、発症する2次患者数(basic reproduction number:R0)が
1未満なら、感染者数は減っていき、流行は自然に終息する。したがって、対策の最終目標はR0を1未満に
すること、となる。
そのためには、集団の接触率を下げる、治療または隔離により個々の感染者の感染性を下げる、ワクチン接種
または抗ウイルス剤の予防的投与により非感染者への感染可能性を下げる、などの処置が必要だ。
H5N1型ウイルスについては、有効性が証明されているワクチンはなく、ワクチン製造には時間がかかる。
そこで研究者たちは、タイでの流行を想定し、実験的にA型インフルエンザのサブタイプに有効性が確認されている
ノイラミニダーゼ阻害剤(今回はリン酸オセルタミビル、商品名はタミフル)の予防的投与を中心とする封じ込め策の
有効性とコストを評価することにした。
タイを選んだのはデータの入手が容易だったため。タイ国民と、隣接する国の住民で国境から100km以内に
居住する計8500万人が対象。感染した1人の患者の体内でウイルスの変異または組み替えが起こり、流行が
始まると仮定した。
対策がない場合、R0=1.5(感染者1人から1.5人感染する)なら、60〜90日以内にタイ国内全体に感染は広がる。
1日の発症者数のピークは流行開始から約150日後に訪れ、感染者は集団の33%になる。R0=1.8ならピークは100日後、
集団の50%が感染する。
抗ウイルス剤の予防的投与をあまねく行えば、R0=3.6以上でも流行を阻止できる。が、そのためには、1人あたり
少なくとも2コース(20日間)のタミフル投与が必要になり、実現可能性は極めて低い。したがって、効果を最大、費用を
最少にする限定的な使用を考えねばならない。
最も現実的なのは、発症者が出た場所を中心に、一定距離内の住民に予防的投与を行う方法だ。
(中略)
成功率を高めるポイントは、発症者群の早期発見、迅速かつ感度の高い診断、抗ウイルス薬の速やかな配布
(好ましいのは発症発覚から48時間以内)、高い抗ウイルス薬使用率(90%より高いことが望ましい)など。
抗ウイルス薬の備蓄は、R0が1.8以下の場合で300万コース分以上が必要と推定されている。今回の
シミュレーションの結果は、R0が1.8を超えた場合には、封じ込めは実現困難になることを示唆した。
(後略)
http://medwave2.nikkeibp.co.jp/wcs/leaf?CID=onair/medwave/tpic/389868 (引用元配信記事)
MedWave Open
http://medwave.nikkeibp.co.jp/MED/ (08/04/2005) 配信