独立行政法人理化学研究所は、アグロバクテリウム(根頭がん腫病菌)が植物に感染後、
葉緑体などの色素体内へタンパク質を送り込むことで宿主の代謝機能を改変し、腫瘍形成を
誘導していることを発見しました。植物科学研究センター生産制御研究チームの榊原均
チームリーダー、生長制御研究チームの笠原博幸上級研究員らによる研究成果です。
土壌細菌の1種であるアグロバクテリウムは植物に感染すると、細菌が持つTi-プラスミド上の
T-DNA領域が植物細胞の核ゲノム中に組み込む性質があり、植物の遺伝子組み換えに広く
活用されています。植物に入ったT-DNA領域には細胞分裂の制御に関わる植物ホルモン
(サイトカイニンとオーキシン)の合成酵素遺伝子がコードされており、これらが過剰に作り出す
ホルモンにより正常な細胞分裂制御が行えなくなり、植物細胞はコブ(クラウンゴール)をつくり
ます(根頭がん腫病)。
今回の研究は、このコブを作るメカニズムの一端を解明したもので、アグロバクテリウムの
サイトカイニン合成酵素である「Tmr」を感染植物の色素体(葉緑体など)内に送り込むことで、
植物本来のサイトカイニン合成径路を改変し、効率よく高活性型のサイトカイニンを作り出して
いることを明らかにしました。細菌による植物細胞の代謝機能改変戦略を分子レベルで明らか
にした画期的な研究成果です。核ゲノムにコードされ、翻訳された後に色素体内に移行する
タンパク質には通常「トランジットペプチド」と呼ばれる付加配列がありますが、Tmrはこのような
配列を持たないことから、新規のタンパク質輸送システムの解明につながる可能性も秘めて
います。葉緑体の代謝改変を可能にすることで植物の生産性向上技術への応用が期待されます。
本研究成果は、米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences
of the United States of America:PNAS』のオンライン版(7月4日、日本時間7月5日付)に
掲載されます。
◇ポイント◇
・土壌細菌のアグロバクテリウムがトマトやバラなどの植物に感染し、腫瘍を形成する原因は
葉緑体などの色素体の代謝系を一部乗っ取るため。
・アグロバクテリウムが宿主細胞に作らせるサイトカイニン合成酵素(Tmr)はトランジットペプチドを
持たなくとも葉緑体などの色素体内に移行する。
引用元:理化学研究所プレスリリース
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2005/050705/index.html