北大遺伝子病制御研究所の畠山昌則教授ら分子腫瘍(しゅよう)分野の研究グループが、
「ESXR1」というヒトの遺伝子に、治療の難しい膵臓(すいぞう)がんをはじめ、
大腸や肺など多部位のがんの増殖を食い止める働きがあることを、世界で初めて発見した。
がんの原因となる遺伝子だけに作用するため今後、副作用の少ない遺伝子治療への応用が
期待される。十七日までに、英国のがん専門誌「オンコジーン」(電子版)で発表した。
畠山教授らは、ESXR1が作るタンパク質が、別の遺伝子の活動を抑える可能性がある
ことに注目。三万を超えるヒトの全遺伝子をコンピューターで照合した。その結果、ESXR1
タンパク質が、ヒトの細胞増殖に関係する遺伝子の一つ「K−ras」に結合すると、K−ras
遺伝子がタンパク質を作らなくなることを突き止めた。
同グループによると、正常なK−ras遺伝子が作るタンパク質「K−Ras」は、外から
刺激を受けて細胞増殖の開始や停止をつかさどるスイッチの役割を果たす。一方、何らかの
原因で傷がついたK−ras遺伝子が作るタンパク質「変異K−Ras」は、刺激に関係なく
細胞増殖の信号を出し続け、がん細胞を増殖させる。
畠山教授によると、ヒトの代表的ながんはK−ras遺伝子の傷(変異)が主な原因。その
割合は、これまでの各種の研究データから膵臓がんの70−90%、大腸がんの50%、
肺がんの20−50%、胃がんの5−10%を占める。
同グループは、大腸がんや胃がんの細胞に遺伝子ESXR1を注入した実験で、K−ras
遺伝子に傷を持つがん細胞がそれ以上増殖しないことを確認した。さらに、ESXR1はK−
ras以外の細胞増殖にかかわるヒト遺伝子に影響を及ぼさないことも分かった。
畠山教授は「傷ついたK−ras遺伝子が原因のがんであれば、どの部位のがんでも有効」と説明。
早期発見が難しく、外科切除術以外に有効な治療法があまりない膵臓がんに、その効果が最も
期待されるという。
同グループは、既に遺伝子治療の研究にも取り組んでおり、畠山教授は「多くのがんに対して、
がん細胞だけを選んで標的とする新しい治療法の開発につなげたい」と話している。
引用元:北海道新聞
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?&d=20050518&j=0047&k=200505182575 Paired-like homeoprotein ESXR1 acts as a sequence-specific transcriptional repressor
of the human K-ras gene
Oncogene advance online publication 9 May 2005;
doi:10.1038/sj.onc.1208736
http://www.nature.com/cgi-taf/dynapage.taf?file=/onc/journal/vaop/ncurrent/abs/1208736a.html