脳が顔を識別する3ステップ
サッチャー元首相をマリリン・モンローに変形させる過程から、脳がどのように名前と
顔を一致させているかについての手がかりが得られた。
よく見知っている顔を認識するとき、たとえ年齢や髪形が変化した場合であっても脳の
特定の部位が決定的な役割を果たしていることがこれまでに神経科学者により知られてた。
しかし、これまでその正確な位置ははっきりわかっていなかった。
ロンドン大学のPia Rotshteinらは有名人の顔写真を使った実験で、顔の識別の過程に
は、物理的な顔の特徴、その顔を知っているか否かの判定、その人物についての情報検
索、の少なくとも3段階があることを示した。
Rothsteinのチームはコンピュータを使って映画スターのマリリン・モンローを英国前首
相マーガレット・サッチャーに、あるいは、ジェームズ・ボンド役を演じたピアース・ブ
ロスナンを英国現首相であるトニー・ブレアに徐々に変形させた一連の画像を作成した。
物理的な顔の特徴は元の顔から別の顔にだんだん変化していったが、画像を見ていた被
験者にはマリリンからサッチャーに突然切り替わったように見える傾向があると、研究グ
ループの一員のJon Driverは言う。
次に一連の画像から3種類の2枚組の画像を選んで被験者に見せ、その時の脳を機能的磁
気共鳴装置(fMRI) でスキャンした。三つのうちの一組は同じ画像で、別の一組は物理的
な特徴は違うがどちらもサッチャーとわかるもの、残りの一組は物理的な特徴が同程度
違っているが、一方はサッチャーと、もう一方はマリリンと認識できるものだ。
この結果、脳の中で別々の仕事をしている三つの部位が特定された。最初の領域、後頭
部にある下後頭回と呼ばれる一組の構造は、二つの写真の間で目や髪といった物理的特徴
が異なっているときに最も活性化した。
2番目の耳のすぐ後ろ側にある右紡錘状回と呼ばれる部位は、サッチャーとマリリンの画
像の組み合わせの時活性化しており、顔を区別し、おそらく知っている顔と比較している
領域とみられる。
3番目の前側頭皮質と呼ばれる領域は、顔と関係する知識を保存しているとみられ、その
有名な対象をよく知っているときに最も活性化され、あまり有名でない英国の政治家のよ
うな場合ではあまり活性化されなかった。
この研究は顔の認識にかかわる三つの段階があることをはじめて示したものだ、とテネ
シー州NashvilleのVanderbilt大学で顔や物体の認識について研究している心理学者
Isabel Gauthier。
Driverは、今後の目標として傷害や病気の結果、人々の認識に問題を持つ患者を研究し
たいと言う。失顏症と呼ばれる自分自身の子供の顔の認識にも問題を抱える人もいる。痴
呆の患者は家族の顔と名前を一致させるのに困難をきたしたりすることもある。彼はそう
いった患者の特定の問題が、今回特定された脳の特定部位の不具合と関連づけられるのか
を検証し、訓練により患者の回復に結びつけられないかと考えている。
記事全文はこちらです。
[email protected] 13 December 2004; | doi:10.1038/news041213-1
Celebrity shots probe face recognition
Helen Pearson
http://www.nature.com/news/2004/041213/full/041213-1.html Morphing Marilyn into Maggie dissociates physical and identity face representations in the brain
Pia Rotshtein, Richard N A Henson, Alessandro Treves, Jon Driver &�Raymond J Dolan
Nature Neuroscience, published online. doi:10.1038/nn1370 (2004).
http://www.nature.com/cgi-taf/DynaPage.taf?file=/neuro/journal/vaop/ncurrent/abs/nn1370.html