【技術】タコの目のレンズをまねたメガネ

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タマネギのような層状構造で、柔軟で軽量なレンズを作る。

 タコの目によく似たレンズが米国の研究者によって作成された。レンズ球は数十万層も
のプラスチックからなっており、カメラや望遠鏡、眼鏡に革命的をもたらすかもしれない。

 一般的なガラスのレンズは、入射してくる光を中央に集めるのに曲面を利用している。
強く集光するためには表面はよりカーブしていなければならず、したがってより厚く重く
なる。この問題を回避するために、自然界では目は密度がある一定の方向で変わっていく
素材を利用している。

 空気と水のように、密度(屈折率)の違う二種類の物質の間を通過するとき、光は曲げ
られたり反射したりする。二つの物質の差が大きいほど屈折も大きくなる。つまり、平ら
な物質でも端に向かって屈折率が大きくなっていけば、曲面レンズのように光を集めるこ
とができる。

 多くの生物レンズは一つ一つ屈折率が異なっている数十万のナノスケールの層状構造か
らなっており、この滑らかな密度の勾配を利用して焦点を合わせている。

 ヒトの目ではこのレンズは約2万2千層からなっているが、空気よりも高い屈折率を持
つ水中に棲む動物では、もっと強いレンズが必要になる。例えば、タコの目はヒトの目よ
りも焦点能力が5倍ほど高い。

 オハイオ州ClevelandのCase Western Reserve大学のEric Baerとワシントン特別区の海
軍研究試験所のチームは、このタコの能力を合成レンズでまねる研究にとりかかり、この
ほどポリメチルメタクリレートとポリスチレンアクリロニトリルという二種類のポリマー
をナノメートルスケールでおよそ6000層ほど積層した厚さ50μmのプラスチックを作成し
た。これらのポリマーはそれぞれ異なる屈折率を持っており、1%ほど屈折率の違うそれぞ
れのフィルムの積層数を変えながら100種類ほどのフィルムを作成した。

 積層後、球状に成型したところ、タコの目に匹敵する焦点能力を持つ目ができ上がっ
た。この技術を使えばもっと強力なレンズも作成可能だとBaerは言う。「どんな屈折率の
レンズでも作れると思いますよ。」彼らはこの成果を先週マサチューセッツ州ボストンで
行われた物質材料研究会(Materials Research Society)年会で発表した。

 この種のレンズにはいくつかの利点がある。同程度の能力を持つガラスレンズはおよそ
4倍ほどの重量があり、また、このプラスチックレンズの焦点能力もナノメートルの層を変
えることで調整することができるといった柔軟性がある。彼らは最終的にもっと柔らかい
プラスチックを使って、レンズを曲げることで焦点を変えられるようにすることを計画し
ている。

 将来的な応用としては、遠隔操作でピント合わせをする軽量レンズの様なものも含まれ
ている。これは無人空中探査機やミサイル誘導の目としてのもので、研究プロジェクトに
資金を提供している国防総省国防高等研究事業局を満足させるものになるだろう。

 しかし、この技術はヒトの目にも福音をもたらしそうだ。Baerは既にこのレンズを使っ
て彼自身のメガネを作った。このメガネは彼に渡された処方せんの要件を満たしているが、
完全に平らだ。

記事オリジナル、関連リンク等はこちらです。
[email protected] 07 December 2004; | doi:10.1038/news041206-5
Plastic eye mimics octopus vision
David Cyranoski
http://www.nature.com/news/2004/041206/full/041206-5.html

Z5.5. Bio-Mimetic GRIN Lens Using Polymeric Nanolayered Film Systems.
Bio-Mimetic GRIN Lens Using Polymeric Nanolayered Film Systems.
E. Baer; A. Hiltner; Y. Jin; J. Yu; A. Ranade; H. Tai; J. Shirk; M. Wiggins; M. Sandrock
http://www.mrs.org/meetings/fall2004/abstracts/f04_abstract_z.pdfの594(17)ページ

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