>>1 ホルモン系のかく乱とともに、神経活動を介した遺伝子発現のかく乱による発達障害が、先の子供たちの
問題の一因となっている可能性がある。そこで膨大な種類の化学物質から、どんな物質にかく乱作用がある
かを調べるのには、網羅的にしかも簡便に転写レベルの遺伝子発現量を調べることができる
DNAマイクロアレイは最適の実験デバイスであるといえる。しかし脳にDNAマイクロアレイを適用する場合、
他の臓器に比べて多種類の細胞で構築されている上、それぞれの種類の細胞が特有の配置をとることで
機能しているので、注意深い条件設定が必要で、なおかつ高い定量性や感度が求められる。また再現性を追求するために
何度も実験を行うのは、高価な市販の輸入アレイでは難しく、コストパフォーマンスが要求される新たなマイクロアレイの開発が要求されていた。
同プロジェクトのの青山学院大学・田代朋子教授(理工学部)は理化学研究所と共同で、定量性と再現性に優れたマイクロアレイを開発し、
それを基に、神経突起およびシナプスの構造と機能に関わるマウス遺伝子群を中心としするマイクロアレイ「シナプト・アレイ」を開発した。
現在同アレイの改良を行うとともに、さらにヒト・サル用のシナプト・アレイの開発も進めている。
従来マウスやラットでは、行動に対する環境化学物質の影響は一応調べられているが、霊長類などより
ヒトに近いレベルでの基礎的データはほとんど存在しなかった。社会的関心の高い問題、すなわちヒトで
特に発達している知能や社会性など、脳の高次機能に与える影響を科学的に検証するためにも、
霊長類を用いた行動(個体)レベルでの実験は必要であると考えられる。同プロジェクトの
東大大学院・吉川泰弘教授(農学生命科学)らは、サル(カニクイザル)を用いて、母親にダイオキシンや
BPA(ビスフェノールA)などを母親ザルに与え、次世代の子ザルの行動に及ぼす影響を、学習試験、
出会わせ試験、アイコンタクト試験などを通じで、基礎的データを集積している。
これらの障害を抱えた子供が大人に成長して以降、さらに問題を引き起こす場合も考えられる。
あるいは、子供時代に顕在化しなくても、成年期以降に若年性痴呆などを起こすといった可能性もある。
農薬などの化学物質汚染が日本より10年ほど早く起こった米国では、大人のADHDが社会問題となって
いる。推論の域を出ないが、環境化学物質による性ホルモン系のかく乱が、もともと備わるはずの
性・生殖行動や子育てに関わる脳機能の発達障害を起こし、少子化や児童虐待など育児行動の
障害の一因となっている可能性を否定する科学的証拠は今のところ存在していない。環境化学物質の
行動レベルへの影響の検証や、長期間に渡る影響を正しく評価するためには、このような多角的な
実験データをより詳しく集めたリスク評価が求められている。
( ´`ω´)つ
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