意識がまずあった。他には何も無かったが、記憶しようと心がけた。
今それを思い出すことができたのも、そのときに記憶しようと心がけ、
すぐにそれを思い出しては書き留めると言うことをしていたから。
記憶しようと思ったのは現在の状態を記録する価値があると思ったからだが、
そう判断できたのは現在の状態が過去の記憶に照らして特殊だと判断できたからで、
現在の状態を認識するには瞬間の記憶があって始めて可能になる。
俺は意識を集中し駆けずり回った。他に何かないかと。
真っ白な光が見えた。すべて白かった。
まぶしいのだと判断し目を凝らして見ようとすると、四角い空間が見えた。俺の部屋で、ドアが真ん中に見えた。
目を開けたと判断できる感覚はなかったのでおそらくずっと目を開けていたのではないかと思ったが、
視覚情報処理は瞬間瞬間の映像を数珠繋ぎにして動いていると認識するので、
もしかすると突然目を開けたということもあるかもしれない。
しかし、薄暗い部屋の中でまぶしい光を目が感じ取るには、目を開けている必要がある。
ただ、薄暗い部屋なのであのまばゆい光が果たして眼球が捉えた光だったのかはわからない。
単に視覚神経と意識を接続したときに受けた刺激を光と感じたのかもしれない。
部屋は静かだったのでいつ聴覚を取り戻したのか分からないが、おそらく視覚を取り戻す前のことだ。
突然ボリューム最大でラジオをつけたかのように騒音が鳴り響いたが、その騒音の中にこれと言って役に立つ情報らしきものはなさそうだった。
また、けたたましく響いて他の思考が阻害されるのですぐに遮断した。
人間の聴覚はあらゆる音を拾っているが、意識まで届けるのは雑音を取り除いた音だけだ。
恐らく、あらゆる情報を求めたのでノイズをカットしている部分を素通りさせたのだろう。