★ なげやりな さくらの1日 ★ 3rd story
○月○日 はれ
なんだか不思議。ちょっと風邪ひいただけなのに入院することになっちゃった。
でもこれで堂々と学校さぼれるんだよね。はにゃ〜ん。
入院してる間、雪兎さんや知世ちゃん、クラスのみんながお見舞いに来てくれる。
これって学校さぼるよりも楽しいね。ただ、毎日注射されるのが痛いし面倒くさいなぁ。
明日の注射はミラーさんに代わってもらおうかな。
ある日、お見舞いに来てくれた知世ちゃんがリンゴをむいてくれた。わぁ〜、上手だね〜。
ちょっとわたしも練習してみようかな。フルーツナイフを借りてケロちゃんの頭をむいてみる。
「ギャーーー! さ、さくら!なにすんねん!? 死んでまうやないけーっ!」
もう、ケロちゃん静かにしてて! 途中で皮が切れずにむけると願い事が叶うんだよっ!
むき終わった頃にはケロちゃんもおとなしくなった。
「ところでさくらちゃん、元気そうですけど何の病気で入院されてるのです?」
どきっ! いつか聞かれると思って今までごまかしてたけど、親友の知世ちゃんには隠し事は
できないよ・・・。ううん、知世ちゃんなら隠したって勝手に調べるだろうけど。はう〜。
「知世ちゃん、あのね・・・わ、わたし・・・」
「わたし、はくち病なのっ!!」
知世ちゃんは点々になった眼をパチクリしてた。ほえ〜、恥ずかしいよう。あ、ごまかさなきゃ!
「あ、あのね! 白痴ってパソコンでも変換できないよね? なんでだろ? あは、あははは・・・」
病室が真っ白になった。 ちょうどそこに看護婦さんが入ってきて場の空気を救ってくれた。ほっ。
でもそれはインシュリンっていう強いお薬を注射する時間。ほえ〜、ミラーさんに代わってもらうの
忘れてたよ〜! だって、この注射を続けてから今まで健康(?)だったのが急に怠くなったり、
高熱を出したり、なげやりになったり・・・ほえ?あんまり変わってないのかな?
そんな日々が続くうち、薬の副作用で髪が抜け始めてきちゃった。洗髪するたびによけい落ち込んじゃう。
知世ちゃんはそんなわたしを元気づけようと、退院後に着る約束をしてるバトルコスチュームに合わせた
ウィッグ(かつら)を用意してくれた。でも虹色のアフロヘアーはわたしの趣味じゃないよ・・・。
とにかく、自分でインシュリン注射ができるようになったら退院できるかもしれないということで、
スポンジに注射をする練習を始めた。でも時々意識がもうろうとしてケロちゃんに注射してた。
でもだいじょうぶ、インシュリンは猫エイズにも使われてるって知世ちゃんが教えてくれたし。
ああ・・・なんだか、すごく体中が痛いよ。なげやりな生活もいいなぁなんて思ってたけど、
久しぶりに外に出て遊びたくなってきちゃった・・・。
最近、すごくたくさん夢を見るようになったの。今日は小狼くんとクロウさんとお母さんが出てきて
みんなで夏の別荘でバーベキューしてるの。三国人は犬肉でも食ってろってクロウさんが言ったんだよ。
あ、言ったのわたしかもしれない。びっくりしたのは、夢の中で小狼くんが指をわたしの鼻の穴に無理矢理
入れてきたの。ほえ〜、ケロちゃん、これって予知夢なの?! やだよう。でもその問いに答えるはずの
ケロちゃんは美味しそうに焼けてたから、みんなで食べちゃった。・・・こんな夢。
でも夢から覚めた時、わたしは無菌室っていう所にいて鼻に管が入ってた。小狼くんの指よりはマシだよね?
・・・・・
--------- 3年後 ---------
「ほぉ〜、このケーキ、怪獣が作ったわりには美味いんじゃないのか?」
「お兄ちゃんのバカー! さくら怪獣じゃないも〜んっ!!」
「あはは、桃矢、さくらちゃんに失礼だよ。さくらちゃん、とってもおいしいよ」
「ホントですか?! はにゃ〜ん♥」
あどけない日常がそこにはあった。ごく普通の、そして至高のひととき、永遠に戻らないひととき。
取り憑かれたように、かつて自らが撮影した、かつての日常に魅入る少女がいた。
こんなことを、これまで何千回繰り返してきただろうか・・・。
「さくらちゃん、これからはわたくしの戦いですわ。わたくしからさくらちゃんを奪った病気との・・・」
一時期はショックで自殺未遂を繰り返した少女は、今では見違えるほど精神的に成長していた。
そして今日は、海外で仕事をしている父親と共に世界的プロジェクトのプレゼンテーションに赴くため、
会場を兼ねたホテルの一室にいた。
「失礼いたします。 知世様、intel corporationの方がお見えになりました。」
「 いま行きますわ。・・・さくらちゃん、魔法で病気は治せませんが、もう二度とあんな哀しい事が
起きないよう、これからのわたくしに究極の魔法をかけてくださいね。」
母親と同じ骨髄性白血病に冒され若くしてこの世を去った少女は、DVDプレーヤーの中から天使の笑顔で
何度も彼女に声援を送ってきた。そして、これからも・・・
「知世ちゃん、ぜったいたいじょうぶだよっ! なんとかなるよっ!」
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