★ なげやりな さくらの1日 ★ 4th story

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103CC名無したん
わたしがインターネットに興味を持ったのは、知世ちゃんが苺鈴ちゃんとメールのやり取りをしていると聞いたからだ。
今は香港にいる苺鈴ちゃん、それに・・・小狼くんと連絡が取り合えるのがとても嬉しかった。
それにインターネットでいろんな人と知り合いになるのはとても楽しかった。
みんないい人ばかりで掲示板でのやり取り、仲良くなった人との他愛もないメール、とても楽しいことばかりだった。
インターネットはなんて便利で楽しい所なのだろうと思った。

そう、あの人と知り合うまでは。
104CC名無したん:2001/07/03(火) 23:10
その人との出会いは取り立てるほどのことではない。
たんにわたしがよくお邪魔する掲示板で何度か書き込みを交わしただけだ。
「あのドラマ・・・」とか「最近暑いですね・・・」とかその程度の内容だったと記憶している。
だから、わたしにとってその人は別に大して気にとめることのない、ただのインターネット上で知ってるだけの人だった。
だがある日、その人からわたしにメールが届いた。
内容はささいな挨拶だけだった。
だが問題は内容ではない。
わたしはその人にメールアドレスを教えた記憶はないからだ。
ではなぜメールアドレスを知っているのだろう?
その疑問はわたしを妙に落ち着かない気持ちにさせた。
だから、わたしはその人にメールを返した。
挨拶とともに、メールアドレスの出所についてそれとなく聞いてみた。
1日と経たずに返信が来た。
メールアドレスの出所は先に述べた掲示板からだった。
そういえば一度メール欄にメールアドレスを書き込んだような気がする。
疑問が解けると不思議と気分が良くなった。
その人のメールのには、突然のメールの非礼を詫びる文が添えられていた。
それはとても丁寧な文だったので、わたしは「悪い人ではないな」そう思った。
105CC名無したん:2001/07/03(火) 23:10
それがキッカケでわたしとその人はメールのやり取りをするようになった。
その人はわたしよりずっと年上でいろんな事を知っていたし、わたしの話を親身に聞いてくれたからだ。
それにその時わたしはすでに何人かとメール交換をしていたので、わたしにしてみれば、ただメール友達がひとり増えた、それだけのことだった。
その人は毎日のようにメールを送ってきた。
こまめな人なんだな、そう思った。
せっかくメールしてくらたのだからと、わたしは可能なかぎり返信した。

その人とメール交換をするようになって1ヶ月ほどのことだろうか、学校の行事の準備で忙しくてメールをチェックできな日々が続いた。
行事は無事に終わり、ありふれた日常が戻った。
そして1週間ぶりにメールをチェックした。
メールボックスはその人からのメールであふれ返っていた。
たったの1週間で20通以上も送られてきたのだ。
その内容は「返事ください」というものばかりだったが、一番新しい1通、そこに「メールが無理ならお電話ください」という文とともに携帯電話の番号が書かれていた。
心配をかけてしまった、わたしはそう思った。
だからわたしはメールではなく、直接あやまりたい、そう思ったのだ。
106CC名無したん:2001/07/03(火) 23:10
わたしはメールに書かれていたその人の携帯電話の番号に電話をかけた。
2、3度のコールの後、思ったより甲高い、だか大人の男の人の声が出た。
わたしは緊張しながら、その人のハンドルネームを呼んだ。
すると「あ、ひょっとしてさくらちゃん?」
気さくな感じのする喋り方だった。
わたしはメールの返事ができなかったことを詫び、それから学校で行事があったこと、その行事での出来事を話した。
5分くらいだろうか、長くも短くもない電話だった。
だがその5分足らずの電話で、わたしの家の電話番号はその人に控えられしまっていたのだ。
その事にわたしはまったく気づいていなかった。
107CC名無したん:2001/07/03(火) 23:11
それからもメールの交換が続いた。
毎日その人からのメールは届いた。
いつの間にかお互い自身の事をメールで話し合うようにもなっていた。
お互いの趣味、嗜好、日々の出来事、いろいろだ。
ある日の事、その人からのメールに画像ファイルが添付されていた。
その画像は30歳くらいだろうか?男の人の写真だった。
メール本文によると、どうやらそれはその人の顔写真らしかった。
「イメージと比べてどうかな?」
「さくらちゃんはどんな顔なのかな?」
そんな文が添えられていた。
送られたからには送り返す、それが礼儀だと思った。
だから何気なしに自分の写真を送った。
これまで何度も小狼くんに写真画像を送っていたので、特に抵抗もなかったし大したことでもないと思っていた。
今は後悔している。
わたしは馬鹿だったのだ。
世間知らずだった。
108CC名無したん:2001/07/03(火) 23:11
何十通目、いや百何十通目のメールだろうか?
そこには「今度会いませんか?」と書かれていた。
それだけではない。
「友枝町駅の駅前にはXXXXXという美味しいケーキ屋さんがあるんですよ。今度ご一緒にいかかですか?」
そう、書かれていた。
なぜ、わたしの住んでいる町を知っているのだろう?
住所を教えてはない。
そしてすぐにあの電話を思い出した。
電話番号から調べたのだ。
ゾッとした。
あの人はわたしの事を調べている。
うっすらとした恐怖を感じた。
わたしはあの人とのメールのやり取りをやめた。
「さいきん忙しくてお返事できないのでメールは結構です」
そう書いて送った。
やんわりと断ったつもりだった。
だが、その人はそうは取らなかった。
忙しさを案じる内容のメールが何度も送られてきた。
「お暇があれば返信ください」と文末にかならず添えて。
気持ち悪かった。
だがメールなら削除すればいいだけだ。
小狼くんからのメールもあるのでメールを受信しないわけにもいかなかった。
なによりも実害はまだなかった。
109CC名無したん:2001/07/03(火) 23:11
ある日、電話が鳴った。
その日はお父さんが出張だったので、お父さんからの電話かな?と思って取った。
「あ、さくらちゃんだね、おひさしぶりです」
その声を聞くと全身に寒気がした。
あの人の声だった。
わたしが二の句を次げないでいると、その人は勝手に話し始めた。
「最近、ぜんぜんメールくれないね?」
「よっぽど忙しいんだね」
「メール読んでくれてる?」
そして・・・
「わたし、あなたの事が好きなってしまいました」
全身から気持ちの悪い汗が出た。
まだ何か喋っていたが耳に入らなかった。
汗ばむ手で電話を切った。
するとすぐに電話がかかってきた。
今度は電話を取らなかった。
呼び出し音に耳をふさぎ、わたしは自分の部屋に駆け込んだ。
110CC名無したん:2001/07/03(火) 23:11
なぜわたしを好きだと言うのか?
会った事もないわたしをなぜ好きと言うのか?
理解できなかった。
感じるのは嫌悪感だけだった。
いつの間にか自分の周囲を探られていた。
電話番号から住所もきっと洗い出しているだろう。
わたしの本名も。
今思うと、学校行事の話題もまずかったかもしれない。
その内容からわたしの通っている学校が判明するかもしれない。
ひょっとしてこっそりをわたしの事を見ているのかもしれない。
なにをされるか分からない、そう感じた。
次の日、学校を休んだ。
外に出るのが怖い。
111CC名無したん:2001/07/03(火) 23:12
学校を休んだ日の午後、その事を相談したくて知世ちゃんにメールをした。
電話口でも良かったが、きっと電話では考えがまとまらないと思ってメールにした。
夜、知世ちゃんから電話がきた。不思議な事件が起こらなくなって使わなくなって久しい、あのピンク色の電話にだ。
この電話ならあの人からの電話ではない。
そう思って出ると実際にあの人ではなく、知世ちゃんの声だった。
それがなぜだか感激で涙が出てきた。
その日は家の電話に何度か電話がかかってきたが、あの人からの電話かもしれないと思うと、受話器を取ることができなかった。
知世ちゃんの声はいつも通り柔らかくて、口調は優しくて、わたしの心を潤した。
ストーカーというものを聞かされた。ネット犯罪というものも初めて知った。
わたしは自分の無知さ加減、警戒心の無さを思い知らされた。
知世ちゃんはわたしの幾つかアドバイスをくれた。
相手に自分はその気がまったくないことを伝える、というのもひとつだ。
それになによりも嬉しかったのは、知世ちゃんがいつも通り「さくらちゃんなら、ぜったいに大丈夫ですわ」と言ってくれたことだ。
なんの根拠もない言葉だと分かってる。
でも嬉しかった。
でも知世ちゃんが言われるとなぜだか勇気付けられた。
これが親友なんだな、と思った。
112CC名無したん:2001/07/03(火) 23:12
わたしは意を決してメールボックスを開いた。
案の定、あの人からのメールが届いていた。
「昨日は電波の調子が悪かったみたいですね」
「昨日の言ったことは本気です」
「本当に好きです」
「今度いっしょにお食事でもいかがですか?」
そんな言葉ばかり羅列されていた。
吐き気がした。
この人は自分が嫌われているとは露ほども思っていないのだろう。
あの人にメールをするのははっきり言って気持ち悪い。
だが自分の意思を伝えなければ。
「わたしはあなたとお付き合いする気はありません」
それだけ書いて送った。
それだけ書くのが精一杯だった。
メールを送信する時、生理的嫌悪感が全身を這いまわった。
送信から1時間もしない内に返信が来た。
その内容にわたしは愕然とした。
「好きになてくれるまで待ちます」
そう書かれていた。
それから自分がどれだけわたしのことを好きかをしたためた、詩とも小説とも取れない文章が記されていた。
涙が出た。
知世ちゃんの声を聞いて出た涙とは対極の涙だ。
なんで分かってくれないんだろう?
わたしはあなたが嫌いなんです。
113CC名無したん:2001/07/03(火) 23:12
その日から、わたしはインターネットをやめた。
メール交換もやめた。
小狼くんや苺鈴ちゃん、ほかのお友達にはパソコンの調子が悪いとメールした。
あの人との接点を断ち切りたかった。
お父さんに事情を話して電話番号を変えてもらった。
これであの人から電話がかかってくることはないだろう。
・・・でも、あの人はわたしの顔写真を持っている。
あの人はわたしの住所を知っているかもしれない。
そう思うと、外に出るのが怖い。
家にいるのも怖い。
いつあの人が目の前に現れるか、そう思うと今でもカラダが震える。
・・・こわい。