ミラーのホワイトデー(14)
恥ずかしすぎておかしくなってしまいそう。
絶対に耳の先まで赤くなってる。
もう限界だった。
その時――。
「ありがとうな」
声とともに、ふんわりと頭を撫でられる。
その気持ちよさに思わず顔を上げる。
そこには、あの人の穏やかな微笑み。
私が大好きな、あの微笑み。
あの人の手には、私が差し出したチョコレート。
受け取ってもらえた…!
私の顔に笑顔がはじけた。
ミラーのホワイトデー(15)
嬉しくてたまらない。
言えてよかった。
渡せてよかった。
心からそう思える。
まるで夢のよう。
ただのカードでしかない私。
決して口にしてはいけない想い。
でも、チョコレートを渡すくらいなら許されるかもしれない。
チョコレートに想いを込めるだけなら…。
そう思ったから、勇気を出せた。
そう思ったから、頑張れた。
だから、笑顔。
頬を赤く染めたまま、でも幸せいっぱいの笑顔。
その笑顔の私を、優しく撫でてくれるあの人も笑顔。
二人とも、笑顔。
とっても幸せ。
ミラーのホワイトデー(16)
そんな幸せの中、私は自分の手に視線を落とす。
私の手に残った、真っ白なメッセージカード。
あの人がくれた、まだ何も書かれていないメッセージカード。
「それは好きに使っていいぞ」
カードを見つめる私に、あの人の声が届く。
このメッセージカードの使い方…。
考えるまでもなかった。
私にはもう…。
無意識に言葉がつむぎだされる。
「今度…来られたら…」
一瞬だけあの人に向けた、真摯なまなざし。
でも、すぐに笑顔でごまかす。
「あ、いえ…何でもありません」
いけない。
私は、これ以上を望んではいけない。
だから、慌てて言葉を飲み込んだ。
そして、心の中で問いかける。
(このメッセージカードも…もらってくれますか…?)
ミラーのホワイトデー(17)
メッセージカード。
それは、想いを込めるもの。
それは、気持ちを伝えるもの。
私の想い。
私の気持ち。
それは――。
ぽふ。
想いをめぐらす私の頭に、またあの人の手が触れる。
「また来いな」
微笑むあの人。
その温かい微笑みが、私の複雑な想いを解きほぐしてくれる。
「はいっ」
間髪入れずに応える私。
素直に微笑む私。
私にできる、一番の笑顔。
そう、これが今の私の正直な気持ち。
思い悩むのはよそう。
多くを望むのはよそう。
あの人に頭を撫でてもらいながら、幸せいっぱいになる。
こんな私なんかの笑顔でも、あの人は嬉しそうに微笑んでくれる。
これでいい。
これだけでいい。
私は、これだけで本当に幸せだから。
これ以上は、望まないの…。
ミラーのホワイトデー(18)
あの人の笑顔に送られて、私は部屋を後にする。
手には、あの人にもらった真っ白なメッセージカード。
今日という特別な日にもらった、私の新しい宝物。
決して使われることのない、大切な大切な宝物。
私にもわかっている。
私はただのカード。あの人は人間。
だから、私がこのメッセージカードに想いをのせるのは、いけないこと。
許されないこと。
でも――。
カードをそっと胸に抱きながら、私は思う。
思うだけなら、私にも許される。
夢見るだけなら、きっと許される。
それだけなら、きっと許してもらえる。
だから私は、このメッセージカードに夢をのせる。
この真っ白なカードに。
大切な宝物に。
素敵な夢を。
幸せいっぱいの夢を。
大好きなあの人への「夢」を――。
―――――――――― 完 ――――――――――