ミラーのお留守番

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255CCミラーたん
ミラーのホワイトデー(5)

 あの人の部屋の前。
 初めてここに立った。
 心臓がドキドキする。
 辛いはずなのに、悲しいはずなのに、それでもドキドキする。
 頬が熱い。
 顔中が熱い。
 胸がはりさけそう。
 ダメ…私は謝りにきたのに…!
 そう思っても、心のどこかで期待してしまっていた。
 あの人の微笑みを。
 あの人の温もりを。
 そして何より、あの人に会えることを…。
256CCミラーたん:02/04/14 00:55 ID:wIqQAB8Y
ミラーのホワイトデー(6)

 止まらなかった。
 止めようとしたのに、間に合わなかった。
 気づいた時、私の右手は勝手に目の前のドアをノックしていた。
 ――コンコン。
 その音でハッと我に返る。
 でももう遅い。
「開いてるぞ」
 中からあの人の声。
 そして足音が近づいてくる。
 頭の中が真っ白になる。
 どうしよう…まだ心の準備ができていないのに…。
257CCミラーたん:02/04/14 00:56 ID:wIqQAB8Y
ミラーのホワイトデー(7)

 カチャ。
 ドアが開く音。
 顔を上げられない私の目に、あの人の足が映る。
 ぽん。
 あの人の手が私の頭に軽く触れる。
「さくら…じゃないな。どうしたんだ?」
 いつも通りの温かい声。
 そして優しく頭を撫でられる。
 やっぱり気持ちいい。
 思わず顔を上げてしまいそうになる。
 でも今の私にはその資格がない。
 本当はあの人の瞳が見たいのに。
 本当はあの人の笑顔が見たいのに。
 本当は…。
 あふれそうになる涙を必死にこらえた。
 そして、深々と頭を下げた。
258CC名無したん:02/04/14 02:01 ID:hyNzMZcM
CCミラーたんさん、お待ちしておりました。ヽ(´ー`)ノ
259CCミラーたん:02/04/14 03:19 ID:wIqQAB8Y
ミラーのホワイトデー(8)

「あ…あの…ごめんなさいっ」
 一生懸命に謝った。
 そうしないといけないと思った。
 だから、精一杯ごめんなさいを言った。
 こらえていた涙が頬を伝い、床に落ちた。
 それでも私には、謝ることしかできなかった。
「ごめんなさい…」
 不意にあの人の膝が折れるのが見えた。
 かがみ込んだあの人の目線が私の身長まで降りてくる。
 そしてその大きな手が私の頬に触れた。
「何をそんなに謝るんだ?」
 背の高いあの人の顔が、私の目の前にあった。
 いつも見上げてばかりいたあの人の顔。
 それが今、こんなにも間近にある。
 とても心配そうな表情。
 それは、いつもはさくらさんに対して向ける表情。
 でも今は、それが私に向けられている。
「泣いてちゃわからない」
 あの人の温かい指が、そっと私の涙をぬぐってくれた。
260CCミラーたん:02/04/14 03:20 ID:wIqQAB8Y
ミラーのホワイトデー(9)

 優しさが伝わってくる。
 こんな私に、こんなにも優しくしてくれる。
「どうしたんだ?」
 あの人の声。
 心が包み込まれるような温かさ。
 なんて温かいんだろう。
 あの人の優しさは、いつも私に勇気をくれる。
 その優しさに甘えて、私は恐る恐る口を開いた。
「あの…チョコレートのこと…」
 今にも消え入りそうな声。
 でも、あの人はそれでわかってくれた。
「ああ、こないだのか。ちゃんとできてたぞ」
 ぽんぽん。
 頭を撫でられる。
 え?
「良くできてた」
 あの人が私に笑顔を向ける。
 そしてすっと立ち上がると、大きくドアを開いた。
「あ、あの…」
 戸惑う私を、部屋の中に導く。
 私が困った顔を向けると、あの人は優しい笑顔で机の上を指さした。
261CCミラーたん:02/04/14 17:28 ID:rQcgXdfA
ミラーのホワイトデー(10)

「これ、私の…」
 振り返る私に、あの人が微笑みながら頷く。
 そこにあったもの。
 それは、ハートの形のチョコレート。
 私があの人と一緒に作ったチョコレート。
 私がありったけの想いを込めて作ったチョコレート。
 でも…。
 私がやったのは、チョコレートを冷蔵庫に入れるまで。
 きれいなラッピング。
 赤いリボン。
 そして真っ白なメッセージカード。
 これは…。
 もう一度振り向くと、あの人はまた私の目線までしゃがんでくれた。
「いつもさくらのために頑張ってくれてるからな」
 少し照れたような表情。
 でも、その瞳は本当に優しかった。
 笑顔で私の頭を撫でてくれる。
 その心地よさに、私の頬が緩む。
 あの人の顔がほころんだ。
262CCミラーたん:02/04/14 17:29 ID:rQcgXdfA
ミラーのホワイトデー(11)

「そういう顔してろ」
 嬉しそうにあの人が言う。
 そういう顔…?
 ちょっと小首をかしげてみる。
「泣いてるより笑顔の方がずっといい」
 その言葉で、ようやく気づいた。
 私…笑顔だったんだ…。
 くすっ。
 また、あの人が笑う。
 少し恥ずかしかった。
 でも、一度緩んでしまった頬はもう元に戻らない。
 恥ずかしさと嬉しさが混じり合う、ちょっとはにかんだ笑顔。
 それでも私はあの人にその笑顔を向けた。
 あの人が、笑顔の方がいいと言ってくれたから。
 泣いてるよりずっといいと言ってくれたから。
 今の私の正直な笑顔を、あの人に向けた。
263CC名無したん:02/04/14 17:35 ID:ljRGovrU
一月振りのご復活!!
264CCミラーたん:02/04/15 02:00 ID:Gf6HBqHs
ミラーのホワイトデー(12)

 今なら、渡せるかもしれない。
 この、ハートの形のチョコレート。
 私が初めて作った、このチョコレート。
 私の…想いの全て…。
 あの日、誓ったこと。
 きっと渡そう――そう誓ったこと。
 今なら、私にもできるかもしれない。
 思い切って、チョコレートを手に取った。
「あ、あの…これ…」
 声が震えてる。
 きっと顔は真っ赤。
 逃げ出してしまいたいくらい恥ずかしい。
 でも、勇気をふりしぼる。
 ありったけの勇気をふりしぼる。
 顔を伏せて、きゅっと目を閉じた。
265CCミラーたん:02/04/15 02:01 ID:Gf6HBqHs
ミラーのホワイトデー(13)

「これ…受け取ってくださいっ…!」
 あ…。
 言えた…。
 ちゃんと、言えた…!
 それが嬉しくて、思わず目を開けてしまう。
 チラッと上を見上げると、そこにはあの人の変わらぬ微笑み。
「俺でいいのか?」
「あ…はいっ…」
 慌てて目を伏せる。
 そうしないと、恥ずかしすぎて言えなかったから。
 でも、どうしても言いたかったから。
 それは、最後に残った勇気を全部使ってやっと出せた小さな声。
 伝えたかった、私の想い――。
「もらって…ほしいんです…」