ミラーのホワイトデー(1)
「今夜はさくらちゃん李君にホワイトデーのプレゼントをもらうの巻ですわ〜」
「ほえ〜そんな約束してないよ〜」
「大丈夫ですわ〜李君はちゃんとご用意なさってますわ〜」
「ほな、チャッチャともらいに行こか」
「ほえ〜」
いつも以上にあわただしく窓から出ていくみんな。
それをいつも通り小さく手を振って見送る私。
いつも通りのお留守番。
でも…。
私は小さくため息をついた。
いつも通りじゃないのは私の気持ち。
今日もまた1年で今日しかない特別な日。
そう…特別な日なのに…。
ミラーのホワイトデー(2)
あれから1ヶ月。
チョコレートを渡そう…そう誓った日から1ヶ月。
もう1ヶ月もたってしまった。
きっと渡そう…!
そう誓ったのに…結局渡せなかった。
もっと早くお留守番ができていたら…。
そう思うと、悲しくて涙が出そうになる。
でも、それは仕方がないこと。
私はさくらさんのためにあるカード。
ただのカード…。
だから我が侭はいけない。
私はまぶたに溜まった涙をそっとぬぐった。
ミラーのホワイトデー(3)
あの日のことを思い出す。
あの人に教わりながら、幸せいっぱいの中で作ったチョコレート。
完成を見ずに、冷蔵庫の中にしまったチョコレート。
あの人は「待ってるから」と言ってくれた。
だから、きっと待っていてくれた。
でも…私はそれに応えられなかった。
心を込めて作ったチョコレート。
私の想いを全部詰め込んだチョコレート。
渡したかった…。
あの人が待っていてくれたのに…。
ぬぐったばかりのまぶたから、涙があふれた。
ミラーのホワイトデー(4)
謝りに行こう。
そう思った。
私はただのカード。
そう、ただのカードでしかない。
でもあの人は、そんな私にたくさん優しくしてくれた。
本当に、たくさんたくさん優しくしてくれた。
だから、一生懸命謝ろう。
嫌われてしまってもいい。
許してもらえなくてもいい。
ちゃんとごめんなさいを言おう。
どんなに辛くても、どんなに悲しくても、ちゃんとごめんなさいを言おう。
それが私にできる精一杯のことだから。
私には、それくらいしかできないから…。
ちゃんと謝ろう…。
そう、心から思った。
もう一度だけ涙をぬぐうと、私はそっと廊下に出た。