ミラーのお留守番

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189CCミラーたん
ミラーのバレンタイン(5)

「さくらの奴、また何かあったのか?」
 扉を挟んで、あの人の心配そうな声。
「今日は…違います」
 一瞬の沈黙。
「…そっか」
 何かを悟ったような、どこか寂しそうな、そんな口ぶり。
「入っても…いいか?」
 もう私には拒めない。
 あの人の寂しそうな声を聞いてしまったから。
 その理由が、私にもわかってしまったから。
 それに何よりも、私も会いたかったから。
 私は静かにドアを開けた。
190CCミラーたん:02/02/17 03:32 ID:chC4zbe+
ミラーのバレンタイン(6)

「ありがとうな」
 目の前に、私が大好きなあの穏やかな微笑み。
 ぽんぽん。
 優しく頭を撫でられる。
 いつもなら、私の最高に幸せな瞬間。
 幸せすぎてもう何も考えられなくなるひととき。
 でも、今日は違う。
 今日は特別な日。
 1年に1日しかない特別な日。
 それなのに、私には想いを込めたチョコレートがない。
 悲しくて涙が出そうになる。
 でも我慢。
 そして笑顔。
 今の私にはこの笑顔しかないから。
 だから私にできる精一杯の微笑みを、あの人に向けた。
191CCミラーたん:02/02/17 03:36 ID:chC4zbe+
ミラーのバレンタイン(7)

 私の笑顔に、あの人も笑顔で応えてくれる。
 …はずだった。
 でも今、あの人の顔から微笑みが消えている。
「どうしたんだ?そんな辛そうな顔して」
 …え?
 辛そう?
 どうして?私はこんなにも笑顔なのに…。
「何か悲しいことあったのか?」
 あの人が優しく訊いてくる。
 なんでわかってしまうのだろう。
 でも…言えない。
 とても言えない。
 私は慌ててふるふると首を横に振った。
192CCミラーたん:02/02/17 03:37 ID:chC4zbe+
ミラーのバレンタイン(8)

「そうか。でも無理するな」
 温かい言葉。
 そしてまた頭を撫でてくれた。
「あ…」
 なんて優しいんだろう。
 ただのカードでしかない私。
 そんな私に、こんなにも優しくしてくれる。
 体中の力が抜ける。
 我慢できなかった。
 まるで魔法で引き寄せられるように、私はあの人の胸に抱きついていた。
 いけないとわかっていても、そうせずにはいられなかった。
 途端に、こらえていたものがこみあげてくる。
「…ごめんなさい」
 私の涙があの人のシャツを濡らした。
193CCミラーたん:02/02/17 03:38 ID:chC4zbe+
ミラーのバレンタイン(9)

 いつの間にか私の笑顔は泣き顔に変わっていた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
 何度も何度も謝った。
 そして、正直に話した。
 嫌われてしまうかもしれない。
 そう思うと怖かった。
 でも、嘘をつくことの方がもっと怖かった。
 だから、正直に全部話した。
 今日じゃなければ、本当の笑顔で会いに行けたこと。
 今日という日に、チョコレートをあげることができないこと。
 それが悲しくて、辛くて、部屋に閉じこもっていたこと。
 あの人の胸の中で、全部…正直に話した。
 あの人は黙って最後まで聞いてくれた。
 ときおり私の頭を優しく撫でてくれながら。
 その心地よさに励まされて、私は話し終えることができた。
194CC名無したん:02/02/17 12:40 ID:8TvHTMrl
>>189-193
はにゃ〜ん、ミラーたんの切ない気持ちが伝わってくるよ。
続き頑張って!
195ミラ〜たん:02/02/17 14:27 ID:8kWmqeUe
>>189-193
ミラーたんが超いじらしいvv
続き待ってます。
196CC名無したん:02/02/17 17:34 ID:NLHvKgS5
ミラー×桃矢の絡み超絶キボンヌ
197CC名無したん:02/02/22 12:25 ID:LkW1Vmlk
続きまだ?
198CCミラーたん:02/02/22 23:29 ID:xZy8D3ZQ
ミラーのバレンタイン(10)

 きっと嫌われてしまった。
 あの人はもう微笑んでくれないかもしれない。
 もう会ってくれないかもしれない。
 怖くて怖くて、顔をあげることができなかった。
 そんな私の頬に、あの人の暖かい指先が触れた。
 そっと私の涙をぬぐってくれる。
「…あ」
 思わず吐息が漏れる。
 そしてつい顔をあげてしまった。
 こんな泣き顔なんか見られたくなかったのに。
 心からの笑顔を向けたかったのに。
 泣いている私に、あの人が笑顔をくれるはずないのに。
 でも私は顔をあげてしまった。
 すぐに目を伏せようと思った。
 それなのに、私の体は私の言うことを聞かなかった。
 私の目はあの人の表情にくぎづけになっていた。
 なぜならそこには、私が大好きなあの穏やかな微笑みがあったから。
199CCミラーたん:02/02/22 23:30 ID:xZy8D3ZQ
ミラーのバレンタイン(11)

 私は泣き顔のまま固まっていた。
 それでもあの人は微笑んでくれていた。
 ただのカードでしかない私。
 今日という特別な日に何もあげられない私。
 大好きな人の前で泣いてしまう私。
 こんなダメな私に、あの人はまだ笑顔をくれる。
 嬉しかった。
 でも、また私がもらってしまった。
 しかも、私がもらったのは笑顔だけじゃなかった。
「作ってみるか?」
「…え?」
 一瞬、何のことかわからなかった。
「作ってみるか?チョコレート」
 きょとんとする私。
 あの人は私の頭を優しく撫でてくれながら微笑んでいる。
 その瞬間、私は言葉の意味を理解した。
200CCミラーたん:02/02/22 23:31 ID:xZy8D3ZQ
ミラーのバレンタイン(12)

 作れる…?
 私にも、作れる…!?
 チョコレートが、作れる…!!
 自分でも驚くくらいに、みるみる泣き顔が笑顔になっていく。
「やっと笑ったな」
 あの人が可笑しそうに笑う。
 恥ずかしい。
 でもその何倍も嬉しい。
 だから私は顔をそらさない。
 笑顔。
 それも、とびっきりの笑顔。
 今までで一番より、もっと一番の笑顔。
 嬉しくてたまらなかった。
 チョコレートが作れることが。
 一番の笑顔ができることが。
 想いを伝えられることが。
 あの人の後について階段を下りながら、私はその嬉しさに酔いしれた。
201CCミラーたん:02/02/22 23:31 ID:xZy8D3ZQ
ミラーのバレンタイン(13)

 初めてかけるエプロン。
 初めて立つキッチン。
 振り向けばすぐそこにあの人の微笑み。
 私が振り向くたびに、あの人は笑顔で応えてくれる。
 その上…
 ぽんぽん。
 いっぱい頭を撫でてもらえる。
 さっきから顔がゆるみっぱなしの私。
 そんな私に優しくていねいに教えてくれるあの人。
 チョコレートをボールに入れて湯煎にする。
 溶けたチョコレートをゆっくりとかき混ぜる。
 その度に私は振り向き、あの人は笑顔でうなずく。
 踏み台に乗っているから、こんなにも間近であの人の笑顔が見れる。
 もう幸せすぎて、チョコレートと一緒に私も溶けてしまいそう。
202CCミラーたん:02/02/22 23:32 ID:xZy8D3ZQ
ミラーのバレンタイン(14)

 あの人が棚の奥から箱を出してくる。
「どれでも好きなの使っていいぞ」
 丸、三角、四角、星…中にはいろいろな形の型。
 その中の一つに、私の手が無意識にのびた。
 感じる視線。
 のびた指先がピタリと止まる。
 私の指が目指したその先…それはもちろんハートの形。
 それに気づいた瞬間、恥ずかしさで胸が詰まりそうになった。
 頬が、耳が、あっという間に朱に染まる。
 慌てて手を引っ込めようとした。
 でももう遅かった。
 ぽん。
 また、頭を撫でられた。
「これでいいのか?」
 あの人の優しい声。
 私はもう、恥ずかしくて声が出せなかった。
 だから、小さくうなづいた。
 真っ赤な顔のまま…。
 ありったけの勇気で…。
203CCミラーたん:02/02/23 00:37 ID:8uV8p3mF
ミラーのバレンタイン(15)

 ハートの型に、チョコレートを流し込む。
 私の心を込めて。
 私の願いを込めて。
 私の想いを込めて。
 できた。
 私にもできた…!
 初めて作った、手作りのチョコレート。
 嬉しくて、また振り向いた。
 そこには変わらぬあの人の微笑み。
 そして私の頭を撫でてくれる。
 私にはこれ以上ないほどのご褒美。
204CCミラーたん:02/02/23 00:38 ID:8uV8p3mF
ミラーのバレンタイン(16)

「あとは冷蔵庫に入れて固めれば完成だ」
 その言葉で、私は一瞬凍りついた。
 今日…渡せない…。
 目の前が真っ暗になる。
 でも、あの人は笑顔で言ってくれた。
「この続きは、また今度来た時にな」
 ぽんぽん。
 また、私の頭を撫でる。
「待ってるから」
 そして微笑み。
 ――待ってるから――。
 あの人は今、そう言った。
 待っててくれる…。
 待っててもらえる…。
 このチョコレートが、渡せる…!
 そう思った瞬間、私の顔に笑顔がはじけた。
205CCミラーたん:02/02/23 00:39 ID:8uV8p3mF
ミラーのバレンタイン(17)

「はいっ」
 まるで本物のさくらさんのような、元気な返事。
 幸せいっぱいの笑顔。
 嬉しかった。
 ただのカードでしかない私。
 でも、そんな私がこんなにも幸せな気持ちになれる。
 本当に嬉しかった。
 やっぱり…会えてよかった…。
 そう思った。
 そして、誓った。
 もし今度会うことができたら、このチョコレートを渡そう。
 私の想いが全部つまった、このチョコレートを渡そう。
 今日という特別な日じゃなくても、きっと渡そう。
 その日が、私にとっての「特別な日」になるのだから。
 それは明日かもしれない。
 明後日かもしれない。
 いつになるかはわからない。
 でも、きっと渡そう。
 きっとあの人は笑顔で受け取ってくれるから。
 私も、私の一番の笑顔でこのチョコレートを渡そう。
 ありったけの勇気を出して。
 ありったけの想いを込めて。
 ありったけの「好き」を伝えるために――。



―――――――――― 完 ――――――――――