ミラーのお留守番

このエントリーをはてなブックマークに追加
178CCミラーたん
ミラーのバレンタイン(1)

「なんやさくら、またチョコ1つ余計に作ってもうたのか?」
「ほえ〜なんでだろ?」
「ま、後でわいがもろたる。ほな、チャッチャと小僧んとこ行こか」
「さくらちゃん李くんにチョコレートを渡すの巻ですわ〜」
「ほえ〜恥ずかしいよ〜」
「ほなミラー、留守番頼んだで」
「お願いしますわ」
「ほえ〜」
 あわただしくみんなが窓から出ていく。
 私はいつものように小さく手を振って見送った。
 窓を閉めると、私は小さくため息をついた。
 また封印をといてもらえた。
 またこうしてお留守番ができる。
 また…あの人に会えるかもしれない。
 嬉しかった。
 でも…。
179CCミラーたん:02/02/14 22:24 ID:s22KU+KT
ミラーのバレンタイン(2)

 今日は特別な日。
 1年に1日しかない特別な日。
 私はカード。あの人は人間。
 でも今日だけは、今日だけなら許されるかもしれない。
 ただのカードでしかない私。
 でも、今日だけなら…。
 ありったけの勇気で、あの人の胸に…!
 想像しただけで頬が熱くなる。
 胸のドキドキが止まらない。
 でも、それはかなわぬ夢。
 私にもわかっている。
 第一、私にはあの人にあげるチョコレートがない…。
 だから想像するだけ。
 あの人にチョコレートを渡す私。
 照れくさそうに、でも笑顔で受け取ってくれるあの人。
 うつむいた私の頬にあの人の手がそっと触れ、
 私はゆっくりと目を閉じる…。
 そんな想像に頬を赤らめ、胸をドキドキさせる。
 それだけいい。
 それだけで私は幸せだから。
180CCミラーたん:02/02/14 22:24 ID:s22KU+KT
ミラーのバレンタイン(3)

 机の上には、きれいにラッピングされたチョコレート。
 さくらさんが1つ余計に作ってしまった、星の形のチョコレート。
 ピンクのリボンがかけられ、透明な包みに入っているチョコレート。
 私にもこんなのが作れたらな…。
 ちょっとだけ、さくらさんがうらやましかった。
 今日は部屋を出ないでおこう。
 そう思った。
 会いたいけど、今日だけはダメ。
 今日が特別な日じゃなければ会いに行けるのに。
 昨日や明日なら会いにいけるのに。
 今日じゃなければ…。
 そこでハッと我に返った。
 いけない。
 私はいつからこんなにも我が侭になってしまったのだろう。
 カードとしてさくらさんのお役に立てることが一番の喜びなのに。
 それなのに…。
 せつなくて胸が張り裂けそうになる。
 自分はカードとして失格なのかもしれない。
 やっぱり…会いたい…。
 そう思ってしまうのだから。
181CCミラーたん:02/02/14 22:25 ID:s22KU+KT
ミラーのバレンタイン(4)

 コンコン。
 不意にドアがノックされた。
「さくら、いるか?」
 あの人の声。
 あまりに突然のことで、とっさに声が出ない。
 カチャ。
 ドアノブが回される。
「入るぞ」
 ドアが開きかけた。
「ダメっ」
 私の口から出たのは、思いもかけない言葉。
 開きかけたドアが、ピタリと止まる。
「さくら…じゃないのか?」
 扉越しにあの人の声。
「…ごめんなさい」
 思わず謝ってしまった。
 でも謝らずにはいられなかった。
 私はさくらさんじゃないから。
 でもそれだけじゃない。
 今日という特別な日に、私は何もあげられない。
 今までたくさんもらったのに。
 私もたくさんたくさんあげたいのに。
 大好きなのに…。