社会福祉公社技術部さくら板支所 第3分室

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501トリック・オア・ディライト 6/10
「用件を言ってくれ。それによる」
「おまえの関与は疑っていないが」 ジャンは携帯電話の泡部屋写真をマルコーに突きつけた。「これを
アンジェリカがやったとの情報が入ったんでな」
 マルコーは鼻で笑い飛ばした。「まさか。アンジェリカがこんなたちの悪い悪戯をするわけがないだろう」
「え? 私、何かやったんですか?」
 お菓子を漁る手を止めて写真を覗き込むアンジェリカに、リコが楽しげに話しかけた。
「アンジェってすごいね。こんなの一人でやっちゃうんだもん。ジョゼさんの部屋から恥ずかしい雑誌を盗んで、
ジャンさんの部屋を泡だらけにして、雑誌を誰かに見つけさせてジャンさんにも恥ずかしい思いをさせる
イタズラ。どうしてそんなことしようと思ったの?」
「うーん……」 アンジェリカが考え込んだ。「覚えてない……」
「そっか。じゃあ今度、泡のイタズラだけ一緒にやろうよ。誰かの部屋を泡だらけにしてさ、その中に入って
みんなで遊ぶの。きっとふわふわで楽しいよね」
「うん、楽しそう!」
「トリエラに相談して、誰の部屋でやるか決めよう」
「うん!」
(何なんだ) マルコーは考え込んだ。(よく分からんが、ここままじゃアンジェリカが悪戯したことにされる。
いや、アンジェリカに罪を着せたクズみたいな情報屋がいるんだ。こいつが何もかもすぐ忘れるのをいいこと
に――くそったれ)
 マルコーはジャンに向き直った。「アンジェリカを犯人だと決め付ける前にきちんと全部調べたのか? 
洗剤の出所や遺物の照合なんかを」
「それはやってない。が、状況証拠だけで十分だろう」
「状況証拠だけでどうアンジェリカを犯人だと断定する? ベアトリーチェでも使って同じ洗剤の匂いがする
人間を片っ端からしょっ引いてみればいい。そもそも、こんな大掛かりなのは子供一人じゃ無理だ。特に
アンジェリカはな。あんたも知っての通り、一人じゃ俺の部屋の場所さえ思い出せん」
 ジャンは少し考え込み、「ジョゼのやつ」と呟いて、「じゃあアンジェ、絶対やろうね!」と言うリコを従えて
去っていった。
502トリック・オア・ディライト 7/10:2011/10/31(月) 03:27:08.26 ID:ADr6GbHs0
(アンジェリカに罪を着せようとしたのはジョゼか) マルコーは湧き上がる怒りを抑えた。(ふざけやがって。
俺が放っておいてるからってアンジェリカに好き放題できるとでも思ってるのか? こいつを放っておくことも
叱り付けることも、好き放題していいのは俺だけだ)


「……で、ジャンよぉ、あんたの部屋の洗剤と同じ匂いのする人間はこれだけ集まったわけだが」 ベルナルドが
室内を見回しつつ腕を組んだ。「全員罰するのかい? これだけの人間を?」
 二課オフィスの壁際には、居残りの作戦二課員がほぼ全員が集められ、横一列に並べられていた。ヒルシャー
だけは「僕にはアリバイがありますしさっきジャンさんの部屋を捜査したので洗剤臭いのは当然です」と言って
トリエラを連れて列から外れようとしたが、言い訳も効かないほどトリエラと2人で長々と笑っているため、
犯人最有力候補に名を連ねることになった。
「ジャンさん、よく考えてください」 フェッロが切り出した。「要するに洗剤は給湯室にあったものです。
皆自分のマグカップくらい自分で洗っていることですし、全員匂いくらいして当たり前ですよ」
「なんか、こういうのってわくわくするね。探偵小説みたい」 ヘンリエッタがすべてを無視してリコに笑いかけた。
「うん、犯人はおまえだ、ってやつだよね。ヘンリエッタは誰だと思う?」 リコも楽しげに返した。
「これだけいるんだから、全員グルだとか? きっとみんなジャンさんが嫌いで、憎んでるんだよ。だって
すごく怖いもん!」
「すごい、名探偵だねヘンリエッタ! 脳細胞、灰色だね!」
 無駄話に花を咲かせる年少の義体2人を、いまだに口元と脇腹を押さえているトリエラが止めに入った。
「ふ、2人とも…… ぷっ…… くく…… その辺にしときなよ…… くくく……」
「黙れトリエラ。元はといえばおまえの担当官が適当この上ない推理で捜査を撹乱したせいでこうなったんだ」
 トリエラに厳しく言い放つジャンから、ヒルシャーが目を逸らした。「ところで、ラクイラの件はどうなった
んですか?」
「ラクイラがどうしたんだ? 何の報告も受けてないぞ」
「…………。いえ、予想できた答えではありますが」


(変なとこで切れましたがorz一時投下終了します)
503CC名無したん:2011/10/31(月) 13:00:17.71 ID:b0Z1W2eNO
昼休みに吹いたじゃないかwwお茶返せwww
突貫工事で期限に間に合わせるとは乙おつでございますw
途中なのは連投規制に引っ掛かったのかな?

今夜10時半〜11時頃で良ければ連投規制避け支援カキコできますよー。
>>502氏が1、2レス書き込むごとに自分が空打ちすれば規制に引っ掛からないよね?
せっかくハロウィン話なんだから今日中に読みたいしね!
SS的にはぶつ切れになっちゃうだろうけどそこは勘弁してください。
あと>>495レスありがとうございましたw

>>493
ちょw哀れとか言うなしw
なんかスゴイあやしいサークル臭がプンプンするんだがw>獣汁焼肉
きっとあれだよ>>480の後でベルナルドさんが連れて行ってくれたんだよ。
そしてタレにたっぷりニンニク効かされるオチが…
504CC名無したん:2011/10/31(月) 21:49:42.15 ID:HCk+7cyu0
「じゅーじゅーやきにく」。
清楚で可愛い女の子に爛熟しきって獣じみた肉欲を思うがまま原稿にぶつけてエロい汁まみれに描いた18禁成人漫画家みたいだなあと…

絶対あると思ったんだが【とらのあなwebSite】サークル/作家検索には載っていなかった。



でも気分を害すといけないしこれからは略して「JJY」と呼ぶ。いいね?
505CC名無したん:2011/10/31(月) 22:20:04.64 ID:ADr6GbHs0
>>503
吹いていただけましたかwwww突貫した甲斐がありましたwwww

はい、途中なのは連投規制があったためでございます。
真夜中挟んでやればよかったんですが、1日仕上げで書いてたもんで
あんなほぼ朝方ってな時間までかかっちまいましてorz
残り3篇しかないので空打ちはなくて大丈夫ですが、今後必要になりましたら
是非お願い致します!

では続きどうぞ。アホですよ
506トリック・オア・ディライト 8/10:2011/10/31(月) 22:21:39.27 ID:ADr6GbHs0
「とにかく、犯人が名乗り出ない限りおまえらは帰さん。明日は祝日だが、そんなの関係ない。休暇が
欲しければ自首しろ。それまでは俺もここを動かん」
「あのージャンさん、ちょっといいスか」 アレッサンドロが挙手した。「泡の他に、ジョゼさんのやばい雑誌
でしたっけ? 物が増えたのは分かりましたけど、何か減ってないんスかね? トップシークレット系のやつ」
「別にやばくない。何だったら君にも貸すぞ」
 割り込んできたジョゼを無視してジャンが答えた。「調べてない」
「じゃあ、そっから調べましょうよ。犯人探しはそれからにしませんか? ここにはいないかもしれませんし。
俺、公安一課のレスキリアンさんにちょい探り入れてみます」
 アレッサンドロの申し出にジャンはしばし考え、「そうだな」と答えた。
「アレッサンドロは公安部へ、ヒルシャーとマルコーは作戦一課へ探りを入れろ。他の奴は俺の部屋の捜索
プラス掃除だ。全部終わるまで帰ることは許さん」
 死ぬほど嫌そうな顔で溜息をつく大人たちの中で、リコの無邪気な声が響いた。
「ねえペトラ、アレッサンドロさんて、いつも冷静にああした方がいい、こうした方がいいって言えて、場の流れを
変えられてすごいよね。そういう人がだいたい真犯人なんだって本当かな?」
「ええ? それはちょっとないと思うけどなあ?」
 ペトルーシュカがしどろもどろになるのを聞きつけ、ジャンがアレッサンドロを振り向いた。
 アレッサンドロがははっと軽く笑い飛ばした。「やだなあジャンさん。俺なわけないじゃないスか」
 リコがにこにこと明るく続けた。「でも、さっき皆で集まる前にアレッサンドロさん、ジャンさんの顔を見ただけで
何があったか当ててみせてたよね。それって真犯人だけができることだよね? すごいなあ」
「いや、違いますから。マジで違いますから」
 睨み付けるジャンから、アレッサンドロが顔を引き攣らせつつ後ずさりした。
「ただの特技です。いや、悪戯じゃなくて顔見ただけで何があったか当てる方が特技。知ってるでしょ? 
知ってますよね? ねえマルコーさん? ヒルシャーさんも?」
 マルコーとヒルシャーはアレッサンドロの声が聞こえないふりをしてそっぽを向いた。
 アレッサンドロの表情が絶望に染まった。「ジョゼさん? ベルナルド?」
507トリック・オア・ディライト 9/10:2011/10/31(月) 22:23:54.59 ID:ADr6GbHs0
 ジョゼはアレッサンドロを無視し、ヘンリエッタと「お菓子おいしかった?」「はい、とっても!」などと
いちゃいちゃ話しながらオフィスから出て行った。
 ベルナルドはアレッサンドロの肩をぽんと叩き、彼にしては珍しく黙ったまま、憐れみの視線だけを残して
去っていった。
「アレッサンドロ」
 衆人環視の中、ジャンがぽきぽきと拳を鳴らした。
「予定変更だ。公安部へは行かなくていい。今すぐ格技訓練場へ来てもらおうか」


「あー、面白かった!」
 義体棟へ帰る道すがら、リコがスキップしつつくるりと振り向いた。
「ねえヘンリエッタ、ハロウィーンていろんなことが起こって楽しいね。ジャンさんにお菓子いっぱいもらえたし、
泡の部屋もすっごく面白かった! 探偵の仮装したらもっと楽しかったかな? こんな帽子を被って、パイプを
咥えるの。ヒゲもあった方がいいと思う?」
 ヘンリエッタもにこにこと返した。「ヒゲはない方がいいかもね。でも、本当にアレッサンドロさんが犯人だった
のかな?」
「ジャンさんが言うならきっとその通りなんだよ。ねえ、アンジェ? トリエラ?」
 アンジェリカが天使よろしく微笑んだ。「うん…… そうだね?」
 やっと笑いを納めたトリエラは目を泳がせながら返事をした。「さあ、どうなんだろ……?」
 トリエラが思うに、アレッサンドロは無実だ。その彼が冤罪によりただ今生き地獄を見ているであろう現実を
思い浮かべてしまい、今度こそ本格的に笑い事ではなくなっていた。
(なんでみんなサンドロさんを助けなかったんだろう。多分、全員彼が無実だって分かってたはずなのに、
ヒルシャーさんまで…… 結構ひどいな)
 義体棟へ足を踏み入れると、カフェテリアの方が何やら騒がしかった。何事か覗いてみると、一期生、
二期生を問わず義体たちが、クラエスの運んでくるお菓子やお茶に群がって黄色い声を上げていた。
 クラエスがトリエラたちを振り返った。「あら、お帰りなさい」
 トリエラはカフェテリアをぐるりと見回した。そこかしこに目鼻をくり貫いたカボチャが飾り付けられ、皆思い思いの
仮装を楽しんでいる。ヘンリエッタ、リコ、アンジェリカも、喜び勇んで他の義体たちに混じってお菓子の中に
飛び込んでいった。
508トリック・オア・ディライト 10/10:2011/10/31(月) 22:25:08.82 ID:ADr6GbHs0
「なんだ、自分でお菓子焼いてたんだ。大盛況だね」
「ペトラの姿が見えないわ。彼女、どうしたの?」
「うん、サンドロさんがちょっと…… なんていうか、彼には珍しくドジ踏んだっていうか」
「そう。悪戯の犯人はアレッサンドロさんてことになったのね」
「うん…… うん?」 おかしなことに思い当たり、トリエラは眉根を寄せた。「どうしてクラエスが悪戯のこと
知ってるの? ずっと義体棟にいたよね?」
 クラエスがふっと笑った。「野菜型の宇宙人が知らせに来たのよ。カボチャのお化けの姿をしていたわ」
「え…… まさかクラエス、あなた……?」
「私は『お菓子をくれなきゃ悪戯する』ってちゃんと宣言したんだけど」
 トリエラはクラエスを指差した姿勢で固まった。「え…… だって、ジャンさんは、リコ以外にお菓子を貰いに
来た義体はいなかったって……」
「『クラエスの監督も大事な仕事だ』なんて言ってたくせにね…… リコ以外の義体は見えてないのよ、
ジャンさんは」
 クラエスは呆然と固まるトリエラの手を取り、ピッキングツールを握らせた。「はい、これ返すわ。勝手に
借りてごめんなさいね、別にあなたに疑いの目を向けようとしたわけじゃないから」
 トリエラが唖然として口をぱくぱくさせる中、クラエスは艶やかに黒髪を翻し、香ばしい匂いを漂わせる
オーブンの方へ、足取りも軽やかに去っていった。


-ag deireadh-
509CC名無したん:2011/10/31(月) 22:32:32.63 ID:ADr6GbHs0
ご精読ありがとうございました!

そしてサーセン、訂正
最後10/10

別にあなたに疑いの目を向けようとしたわけじゃないから

別にあなたに疑いの目を向けさせようとしたわけじゃないから

です
読み返したら誤字脱字山ほどありそうな・・・


でもまあおまえら
ハッピーハロウィーン
510CC名無したん:2011/10/31(月) 22:36:27.32 ID:LEqb3WDQ0
GJ!
やっぱり犯人はクラエスかw何気にリコひでぇww
いやー、いいハロウィンだったわwありがとうございましたw

規制避けが必要な時はお声かけてくださいまし。
できるだけお手伝いさせていただきますー。
511CC名無したん:2011/10/31(月) 23:49:14.92 ID:LEqb3WDQ0
最後の最後にエルザでやっつけ。
近所の子がこんな格好でお菓子もらいにきた。
http://pita.st/n/aehmnsw7
512CC名無したん:2011/11/01(火) 23:33:56.26 ID:9PE1B5Cw0
>>511
すいません、ラウーロと一緒にツボりましたが
どうか殺さないでwwwwwwwwwwww
1コマ目で化けて出たのかと思いました
お化け祭りに相応しい素晴らしい締めくくりをありがとうございますwwww
513CC名無したん:2011/11/02(水) 00:16:39.02 ID:bTIas9fWP
ラウーロさん、公園に来て下さい。待ってます…
514CC名無したん:2011/11/02(水) 00:33:43.94 ID:+UXWSJEw0
>>510
コメどうもです!
犯人は・・・この展開ベタだよなあと思いつつ
やっぱり彼女にやっていただきましたよええ
書き始めた当初は酔っ払った二課員みんなが真犯人という
オリエント急行的オチを考えていましたが
ジャン山があまりにも可哀想なんでやめましたwww
515焼肉の中の人:2011/11/02(水) 18:10:57.06 ID:N0ABQH280
>>493他の皆様 ・・・もう、おkです焼肉でもJJYでも。(^-^;;;
※つか許可戴ければマジで変えるかとも。
普段でさえ赤面する「とら」の店内インフォに「じゅーじゅーやきにく」と
無表情にアナウンスされたときの俺の「顔」。→ まず無いとは思うが。
492>>いじって戴き、ありがとうございます。(^-^)
GJ>>トリック・オア・ディライト
516CC名無したん:2011/11/03(木) 00:13:50.05 ID:ZS3VWcyM0
さて、カボチャも終わっちまったことだし次は何書くか

年末までのイタリア行事は

11/1 諸聖人の祝日
12/8 聖母マリア処女懐胎の祝日
12/25 ナタレ
12/26 聖ステファノの祝日

ってなもんか
517蘇芳 ◆Ecz190JxdQ :2011/11/03(木) 04:17:11.83 ID:riN7aSqb0
「ヒルシャー、呑みに行こうぜ」
「こっちの状況を見てくれよ…
どうみてもそんな余裕無いのわかるだろ」
「なんだよ、可愛いトリエラが一緒だから呑みには行けないってことか」
「ベルナルド、頼むから笑えない冗談はやめてくれ…
イタリア人は冗談が上手いんだろう?」
「ああ、でもそれ以上に女の子を口説くのが上手いんだぜ」
「とにかく、今日はこの資料を訳さないといけないんだ。
トリエラは翻訳の手伝いだ。
ちなみにこれは課長には内密にな…
義体に書類仕事を手伝わせるのは…」
「ヒルシャーお前も隅に置けないな」
「そういう意味じゃない。
とにかく黙っていてくれ」

ベルナルドさんは公社の大人とは思えない人だ。
私はどうしても「上」の立場であるはずの大人の課員を名前で呼ぶのに抵抗がある。
条件付けのせいか、私の性格か、わからないけれど。
ジョゼさんとジャンさんは苗字が同じだから仕方ないにしても…
それなのに、ベルナルドさんは絶対に名前で呼べと私に迫る。
条件付けで義体は公社の大人に本気で逆らうことはできないのを知っているくせに、どうしても必要な命令以外であんなに頑なになる人はベルナルドさんだけだ。
けれど、その頑なさはヒルシャーさんのそれとはあまりに違い、それがどこか面白い。
嵐のようなベルナルドさんが去って、ヒルシャーさんはため息をつく。
でもその溜息はどこか楽しそうだ。
そして、なぜか感じる、胸の奥の小さな痛み。
518蘇芳 ◆Ecz190JxdQ :2011/11/03(木) 04:17:41.68 ID:riN7aSqb0

「なんだか嬉しそうですね」
「嬉しい、というよりは羨ましい、だな」
ヒルシャーさんはいつもの何か諦めた笑顔で笑う。
「ベルナルドは僕に生きられない人生を生きている。
僕にないものを持っている。
ああいう風に生まれついていたら、と思う時があるよ」
「今からでもなったらいいじゃないですか」
私と違って長生きも可能なのだから。
その一言を飲み込んだのは、きっと、条件付けのせい。
「そうはいかないよ。
今更ああはなれないさ。
生き方を真逆に変えるのは、失うものが多すぎるよ。
今ある大切なものを全て捨てることになるからね。
そしてベルナルドみたいなやつは案外、一番大切なものだけは捨てないし、繋がりだけはああ見えて大切にしてるのさ」
「私にはよくわかりません」
「そうかな。
確かに、今のところそこまでトリエラとかけ離れた人格の義体はいないから、そんなものかもしれないな」

そんなベルナルドさんが担当官になると言う。
義体の名前を決めるために呑みに行こう!とヒルシャーさんに迫って、またヒルシャーさんは嬉しそうに困っている。
私がヒルシャーさんを困らせた時は、寂しそうなのに。
同じ苦笑いでも、どうしてこんなに違うんだろう。
519蘇芳 ◆Ecz190JxdQ :2011/11/03(木) 04:18:39.99 ID:riN7aSqb0

「古典文学でも、オペラでも、昔の彼女の名前でも好きにしてくれよ。
僕はまだ仕事があるんだ」
「おお、ヒルシャーの昔の女の話を聞かせてくれよ。
俺の昔の女じゃ数が多すぎて候補が絞れねえよ」
「僕の昔の女の子は、ガラスの靴を履いて逃げて行ってしまったよ」
「なんだそりゃ
でもまぁ逃げられたってところはヒルシャーらしいな」
僕の昔の女の子。
その響きに、また胸の奥が疼く。
「ヒルシャーさん。
行ってきたらどうですか。
明日の座学はどうせ独作文です。
この資料翻訳もドイツ語なんですから、座学の時間でやればいいじゃないですか」
「おお、トリエラは気が回るな。
じゃ、ヒルシャーは借りていくぞ」
「本当は明日のテキストはもうレジュメまで刷ってあるんだが…
明日は頑張って両方終わらせよう」

そしてヒルシャーさんはまた嬉しそうにベルナルドさんに引きずられていく。
ベルナルドさんと組む義体はどんな子なのだろう。
その子との「繋がり」もベルナルドさんは大切にするんだろうか。
私とヒルシャーさんの「繋がり」はベルナルドさんにはどう見えているんだろうか。
520蘇芳 ◆Ecz190JxdQ :2011/11/03(木) 04:21:58.80 ID:riN7aSqb0

今のところ、私とヒルシャーさんを繋ぐのは、クマのぬいぐるみと、スーツ。
あまりにアンバランスで、まさに今の私たちのよう。
スーツを着る年齢になったらぬいぐるみでは遊ばないし、ぬいぐるみを抱いて寝る子供はスーツは着ない。
それでも、この組み合わせが今の私たちで。
フラテッロ。
これが私たちの繋がりの名前。
私たちは絶対兄妹には見えないけれど。
それでも私たちはフラテッロ。
だから、私は諦めない。
いつか、ヒルシャーさんが嬉しそうに困ってくれるその日まで。


タイトル「クマのぬいぐるみと、スーツ」
ハロウィン終わっちゃいましたけど、まだまだいろいろ書いてます。
最近クラエスものが多かったので、トリヒル(お邪魔虫つき)で。
ヒルシャーとベルナルド、あまりにタイプ違うんですけど、交流があったら面白い…というのがきっかけです。
ハロウィンセッション、とても楽しかったです。
次にここまで盛り上がれるイベントはナタレでしょうかね。
521CC名無したん:2011/11/03(木) 18:17:37.85 ID:DK95iQx40
楽しいハロウィンセッションのおかげで大分MP回復しましたw
職人の皆様ありがとうございます!
これから投下の作品もぜひぜひwお待ちしておりますww

>>512,>>513
レスありがとうございますw 自分的にやはりハロウィンはエルザを書かないと。
ええ31日中に描き上げないと呪われそうだったので必死で描きましたとも。

>>515
いやもう申し訳ございませんとしかorz ひらがなが可愛かったのでつい;;;
わんこ→ビーチェ+やきにく とゆー考え無しな発想の結果でした;;;

>>520
GJ! 嬉しそうに困ってるヒルシャーさんいいなあw
蘇芳氏の作品にはいつも義体や担当官、職員の置かれたやるせない状況を表す
心の痛覚をクリーンヒット(褒め言葉)な文章がさらりと気負いなく入っているけれど、
今回は割りとやわらかく感じるのはトリエラが積極的に前向きなせいでしょうか。
これもやっぱりベルナルドさん効果なのかなw
522CC名無したん:2011/11/03(木) 21:21:54.57 ID:DK95iQx40
>>516
ナタレセッションは12月かな?11月はあんまりイベントないんだね。


なんかカボチャ祭りのファンシーなあれこれを見てたら
「不思議の国のフラテッロ」が見てみたいとか思った。
やっぱりトリエラは褐色の白ウサギだろうなw
ハートの女王様は…モニカ部長?
赤ずきんちゃんなリコも出てきたし『おとぎばなし』も楽しそうだなw
エロパロスレであったエロくないフラテッロ寓話なんかは
ほんとは全年齢保管庫にも転載したいところ。
523CC名無したん:2011/11/03(木) 23:30:50.36 ID:RFcGizpa0
トリヒルなら復活祭で熊のヌイグルミあげるイベントが。。。。


あれは4月だったか?
524CC名無したん:2011/11/04(金) 09:42:40.22 ID:dJnG8zd/O
アホな私はトリエラのクマ見て、もう7年もこんなんやってるのかと勘違いした
だいぶ後になって他の話も読んで、1年に何個も貰ったんだと気づいた
525CC名無したん:2011/11/04(金) 22:18:01.83 ID:eT/ykj380
>>523
いいねえ。復活祭はその年によって日にちがずれるみたいだね。
春分後の最初の満月の後の日曜日、大体3月下旬〜4月のはじめだって。
卵形のチョコとコロンバって鳩の形のケーキが贈られるらしい。

>>524
同じく。1巻のナタレの後はぽこぽこクマを贈ってるみたいだけど、
10巻のナタレの6年前(1巻の5年前)に救出→1年間治療(1巻の4年前?)→フラテッロに
だとすると、1巻の前までは復活祭とナタレの年2回くらいだったのかな?
526CC名無したん:2011/11/04(金) 23:16:37.43 ID:DCt7GRgW0
>>517-520
GJです!
この2人、交流あったらきっと本当に面白いですね
なんだか呑みに言った際の妄想湧いてきたんですが
文章化しちゃってもよろしいでしょうか?
アホな話にならないよう心掛けますので、もしよろしければ・・・
527蘇芳 ◆Ecz190JxdQ :2011/11/04(金) 23:54:23.41 ID:89oBz5mJ0
526さん、大歓迎です!
私の作風にとらわれず自由にやっちゃってください。
こういう広がりがここの醍醐味だと私は思ってます。
528CC名無したん:2011/11/05(土) 00:26:34.34 ID:HiY91UBW0
>>527
ありがとうございます!
許可をいただけたからには頑張ります!
僕に生きられない人生を生きているとヒルシャーに言わしめるベルナルド
ちょっくらいじらせていただきます!
529CC名無したん:2011/11/06(日) 14:22:49.20 ID:/4hRcf3b0
>>528
外野だけどwktkして待ってるw

>>431
御伽噺つながりで不思議の国のフラテッロ。話違ェ…orz
http://pita.st/n/dkvwxy34
530CC名無したん:2011/11/07(月) 22:55:14.67 ID:/42569sF0
>>529
トリエラさん俺んとこにも来てry
和みました、どうもです!



和ませていただいたところにこんなの持ってきちゃっていいのかってかんじですが
ベルナルドとヒルシャーが呑みに行った話上がりました
蘇芳様のSSのビタースウィートな雰囲気をぶち壊しにしないよう
シブめの話に仕上げたかったんですが、どうにもエグ味が出ちゃいまして
これ全年齢でいいのかいな・・・って雰囲気です
PG−13てとこでしょうか、親御さんのコミック借りてガンスリ読んでる君は
中学生になるまで待とうな!待っても面白くなかったらごめんな!
531In Vino Veritas 1/9:2011/11/07(月) 22:57:47.81 ID:/42569sF0
 ハコに入るとタルが待ってた。バーテンはソムリエ、客はオシャレ。照明はゆらちら揺れる蝋燭で、ピアノの
生演奏は艶っぽいラウンジジャズ。どこそこのなんとかって銘柄を入荷したって店主からメールが来たんだ、
とか何とか隣のドイツ人が楽しそうに薀蓄垂れてやがるが、おまえ、こりゃどう考えたってなんか違うだろ。
いかにも学歴過剰のゲシュタポ野郎が行きつけにしてそうなお上品バーではある。が、こんな本命彼女との
デート専用みたいなとこに野郎2人でむさ苦しく乗り込んでどうするつもりだ。今回は場合が場合なんで
店のチョイスを任せてみたが、やっぱりヒルシャーとは趣味が合わないんだってことだけは確かだ。俺が目指してた
のは要するに、農務省特選ものの乳をぶら下げたおねえちゃんたちがポールに絡み付いて踊ってるような
下世話な店でな、ぶっちゃけその中で一番美人だったやつの名前を義体の名前として採用しようかと思ってた。
名前なんざ何だっていいんだとさ、だから好きにしろとさ。思い入れがない方が身のためなんだ
とさ、
義体なんざ何年もしないうちに死んじまうもんだっていうからな。
「何だっていいって言うなら、別に僕を連れ出してまで相談する必要なかっただろ。目を閉じて電話帳をめくって
指差してみればいいだけの話だ」
 ヒルシャーが、奴には珍しく適当な調子で言い放った。どうやらご執心の一杯を心待ちにしてるらしく、
バーテンにテイスティングはいいから注いでくれ、なんて言ってそっちの方ばっかり見てやがる。
「そういう退屈なのは却下だね。これから辛苦を共にする相棒だぜ? 妹だっけ? 何だっていいや、
とにかくずっと一緒にいりゃ親身な情と一緒に、ああこいつ面倒くせえなあ、ってのも少なからず湧くと思う
んだよ。おまえがいい例である通りな。そんな時に思い出すのさ、そいつの名前がどんな楽しさの中で
生まれてきたのかってことを。それなのに皆口を揃えて条件付けされたみたいに同じことばっかり言いやがる。
ジャンの『男性名にしておけ』に始まって、ジョゼの『男性名がお勧めだ』だろ、マルコーまで『男性名が
お勧めらしい』ときたもんだ。ヒルシャー、おまえだけだ、『電話帳からランダムチョイスしろ』なんて言うのは。
他の3人よりひどい」
532In Vino Veritas 2/9:2011/11/07(月) 22:59:37.47 ID:/42569sF0
「とはいっても」 奴はワイングラスを受け取ってぐるぐる回し始めた。「名前だぞ? どうやって楽しめって
いうんだ」
 俺の前にもグラスが届いたもんで、ちょっと飲んでみた。さすがに味はいい。だがこういう渋っ辛いのは
好みじゃない。
「その辺はおまえさんがどれだけ参考にすべき楽しいエピソードをお持ちかによるね。さて、ぶっちゃけタイム
といこうぜ。トリエラって名前はどこから取った? 昔の女か? だろ?」
 ヒルシャーが肩を竦めた。「いや。僕の出身地」
 何だよそれ。「……つまんねえ」
「悪かったな」
「創造力のかけらもねえ」
「電話帳よりましだろ」
「彼女の素体を選んだ理由は? 何かあるんだろ? 二股かけられた昔の女を彷彿とさせるとか、ブロンドの
人妻とやらかした不倫がいまだに忘れられないとか、なんかこう、鬱々と女々しいのが」
 長い長い溜息。心底呆れました、みたいな。「要するにベルナルド、君は僕がトリエラに過去の女性の面影を
重ねて日々感傷に浸ってれば満足なんだな?」
「その通り。オペラの国イタリアへようこそ」
「分かった」 奴はえらくマニアックなチーズを注文しつつ、「こうしよう。君が昔付き合った大勢の女性の中から、
君を特にこっぴどい目に遭わせた人物の名前を選ぶ。そうすれば君も道化師カニオよろしく毎日悲劇に
どっぷり浸れる。これぞイタリア。どうだ?」
 分かってねえな。「オペラってのは他人の不幸を見れるから楽しいんじゃねえか。自分で浸ってどうすんだよ」
「主人公になるさ。君の義体が嫌でもそうさせる」
533In Vino Veritas 3/9:2011/11/07(月) 23:00:48.69 ID:/42569sF0
 イヤな含蓄篭ったお言葉どうも。義体にとっては担当官が世界のすべてだっていうんだから、そりゃ担当官は
主役にならざるを得なくてそれは強制だ。条件付けもへったくれもなく無理矢理。ガキんちょをヒロインに
据える趣味なんかなくても、ヒロインがトリエラ並の糞生意気だとしても関係ない。俺が主人公、ヒロインは
義体、始まる前から配役確定。うまく立ち回らんと間違いなくプライベートに響くぞこりゃ。隣の野郎を
見てみろよ、ゲイじゃないのに彼女なし。いや、いるけど知られないようにしてるだけか? そういやこいつの
こと何も知らない。俺とは趣味が合わない元警官なんだってこと以外。要するにヒルシャーは、プライベートに
響かないように、仕事場じゃ私的なあれこれをひた隠しにしてるってことだ。トリエラだって職場でのヒルシャー
しか知らないだろう。よく呑みになんかついてきてくれたよ、ザルだって噂は本当か。
 ザル野郎は美味そうにグラスの中身を飲み干し、デキャンタで注文し直した。そんなにお気に召したのかね、
この渋っ辛いのが。「素体はどんな子なんだ?」
 いいのかそんなこと聞いて。せっかくの渋っ辛い酒が不味くなるぞ。「マルチェッラ・ベルトラーミってぴんと
こないか? 12歳、ローマ郊外在住」
 ヒルシャーが不意に、本当に渋っ辛い酒飲んでるみたいな面になった。「こないだ新聞に載った社長令嬢か。
自宅で何者かに襲われ意識不明の重体、警察は一時実父アントーニの関与を疑ったが、彼は何の取調べも
受けずに捜査の対象外になった。アントーニの会社は与党の資金源だから、当然のポリティクスが働いた
ってことは想像に難くない」
「ベリサリオ曰く、条件付けの新しい試みなんだとさ。俺が国立病院回って選んだんじゃなく、こんな珍しい
ケースの素体がいるから担当官をやってみないか、って課長に宛がわれたんだ。割と一方的に」
「新しい試みって?」
534In Vino Veritas 4/9:2011/11/07(月) 23:02:09.43 ID:/42569sF0
 どこから説明するかな。「マルチェッラは物心つく前からその何者かとやらに虐待を受けててな、おかげで
解離性同一性障害を患って、主人格のマルチェッラの他に交代人格をいっぱい抱えてる。分かってるだけ
でも4人だ。マルチェッラ自身は大人しくて人見知りで臆病、しかし何らかの刺激――暴力とかな、を受けると、
攻撃的な男の人格シルヴィオ、媚びる女の人格のチンツィア、多幸的で笑い上戸のアリアンナ、無感情で
外的要因に対し恐ろしく鈍感なベアトリーチェのいずれかが顔を出す。それらのうちどれかを残してあとは
封印してみよう、ってのがその新しい条件付けの試みなんだとさ」
 ヒルシャーが深々と溜息をついた。「まさに悲劇だな」
「悲劇的じゃない義体なんかいるのかよ」
「残す人格は君が?」
 頷いた。「慎重に選べとさ。できればマルチェッラを残してやりたいが、今のところベアトリーチェを考えてるよ。
うちの仕事をするなら多分それが一番いい」
「ベアトリーチェか」 奴は勝手に俺のグラスに渋辛を注ぎ足しつつ、「高貴な女性に多い名前だ。『神曲』の
中で主人公ダンテを助ける永遠の淑女でもある」
「永遠の淑女ね」 そりゃ俺だって知ってるさ、ダンテ・アリギエーリが幼少時から恋焦がれたベアトリーチェが、
他の男のものになった挙句にえらく若くして夭逝したってことくらいは。「ま、地名よりはましだな」
「僕の故郷を馬鹿にするなよ。いいとこだぞ」
「どうせライン川沿いのド田舎なんだろ? 喜べ、そんな田舎者の方をずっと見てる美人が後ろのテーブルに
いるぞ」
 ヒルシャーが、どれどれ、とばかりにちらっとそちらを振り返った。すると、背後のテーブル席に一人でいた
黒髪の女が婀娜っぽく微笑んで手を振り返してきた。谷間を覗いてくださいと言わんばかりの際どい胸元に、
金色のネックレスがたるんで挟まってる。正直そそる。
 ヒルシャーが俺の方に向き直った。「まあまあだな」
「だろ? 今日は彼女にしとくか?」
「遠慮しとくよ。欲しければ君にやる」
 おいおい。「信じられんね。おまえ、トリエラがいない所でも聖人君子気取りなのか?」
「隣のテーブルにいる帽子の男が見えるだろ」 確かにいる。ガラの悪いのが。「あれが彼女のポン引きだ。
僕は素人の方がいい」
535In Vino Veritas 5/9:2011/11/07(月) 23:03:49.84 ID:/42569sF0
 大変だね、元警官はいろんな余計なもんが見えちまって。「じゃあ俺がもらうぜ、遠慮なく」
「構わないが、ボられるぞ」
「足りなくなったら貸してくれ。その時は電話するよ」
 俺は自分のグラスを持ってヒルシャーの隣を離れ、美人の待つテーブルへと向かった。彼女は、あら、
彼じゃなくてあなたが来たの、みたいな表情に一瞬なりかけたが、すぐに元の媚びた微笑を浮かべて俺を
出迎えた。お上品バーで思わぬ拾い物だ。入店した瞬間に今夜はもうだめだと諦めたが、捨てる神あれば
何とやら、ってやつなんだろう、多分。
 いくらかかるか分からんが、役に立ってもらえるならよしとしよう。どうせ担当官になれば給料が跳ね上がる
んだ、その前祝にドカンといこうぜ、ドカンとな。


 郊外にぽつんと佇むこの豪邸。昔は貴族所有の屋敷だったとさ。貧乏庶民の夢の館だ、鷹狩りでもするのか
ってほどの広大な夢の前庭に、モーターショーでしかお目にかかれないような夢の車がずらっと無造作に
並んでいる。
 舞踏会でもするのかってほど広い玄関を抜け、床一面に敷き詰められた分厚いペルシャ絨毯を踏み抜いて、
豪華絢爛なフラスコ画だのルネサンス時代の調度品だので飾られた広い廊下を抜け、ウォークイン式の
冷蔵庫が何台もある贅沢なしつらえの広い台所にやってきた。広い広いって陳腐な表現になるのはご愛嬌だ。
そもそも、ここは俺ん家じゃないんでな。
 女を連れ込んだわけじゃない。あの美人にはたんまり弾んで帰ってもらった。俺が彼女と連れ立って店から
出て行くところをヒルシャーが見てる、それだけで彼女もヒルシャーも今夜のところはお役御免てわけだ。
あとで誰から何を言われても、みんな「ヒルシャーの言うことなら真実なんだろう」ってことで納得するだろう。
生真面目キャラはこういう時お得だね、俺は今更転向する気にはなれねえが、とか何とか考えつつ、俺は
キッチンの明かりをつけ、バケツにいっぱい水を溜めて、椅子に縛り付けた血塗れ痣だらけの男に
ぶっかけて叩き起こしてやった。
 目の焦点が俺に合った。それが起爆剤となり、気絶してたせいで弛緩してた身体が一気に緊張したんだろう、
四肢に力を取り戻した男が暴れ出した。「寄るな」とか「誰か助けてくれ」とか、そんなかんじの情けない悲鳴つき。
536In Vino Veritas 6/9:2011/11/07(月) 23:05:02.77 ID:/42569sF0
「まあまあ、落ち着けよ。冷静になって話をしよう」
 俺はじたばたする男の目の前に椅子を引っ張ってきて座り込んだ。
「せっかくだし、腹割っていこうぜ。俺をイカれてると思うか、アントーニ?」
 男――アントーニ・ベルトラーミは、少し暴れることができたおかげで我に返ったみたいで、憎悪と恐怖が
入り混じった目を真っ赤に充血させて俺を睨んできた。
「こんなことをして、タダで済むと思ってるのか?」
 笑っちゃうね。だから、笑ってやったよ。「まさか。思っちゃいないさ。あんたは与党のシュガーダディで、
言ってみりゃこの国のボスも同然だ。こんなことがバレたら俺の首がすっ飛ぶどころか、何も知らない俺の
仲間もまとめて一巻の終わりだよ。だがな、別にあんたを痛めつけて楽しもうってわけじゃない。ここには
話を聞きに来てるだけだ。さて、ぶっちゃけタイムといこうぜ。なんで自分の娘を殺そうとした?」
 奴は寝耳に水とばかりに目を大きく見開いた。「何だって? 殺そうとなんかしていない」
「馬用の鞭や火かき棒でぶん殴ったり、葉巻の火を押し付けたりしといてか? その後手篭めにして、
バスタブでのリストカットに追い込むのもか?」
「あれは躾だ。悪いことをしたら多少叩いたり、部屋に閉じ込めたりはするが、私の実の娘だぞ? 殺したり
なんかするものか」
 ま、ありがちな生かさず殺さずってやつだな。「子供を虐待する親ってのは何らかの精神疾患、例えば、
自分自身が子供の頃虐待を受けて心的外傷を負ったとか、そういうやつを少なからず抱えてるもんだ。
しかしあんたにそんな診断書を書いた医者はいなかった。ここで謎なのが、正気の人間がなんでそんなことを
やってのけてたのかってことだ。娘が生まれてからずっとな。言えよ」
 アントーニが、半分潰れかけの目で必死に助けを求めてきた。「本当に躾なんだ。マルチェッラにああすれば、
他のガキどもが同じことをされないように言うことをきくから」
 他のガキどもね。そりゃPTSDの診断がないわけだ。サイコパスってのは傍目には至って普通の人間にしか
見えない。でもこの屋敷の敷地を掘り返してみろ、その他のガキどもとやらのホトケがいっぱい出てくる
だろう。それが表沙汰にならないってことは、お金様の力がどれだけ偉大かってことだ。羨ましいね。
537In Vino Veritas 7/9:2011/11/07(月) 23:06:15.38 ID:/42569sF0
「だから女房はいつでも旅行、使用人は他の屋敷にかかりっきりってわけか」
「おまえに何の関係がある? 私が一声かければこの場に内務省と国防省の治安部隊全員を呼んでやる
ことだってできるんだぞ。だが、今ここで私を放せば、おまえが望むものを何だってくれてやる。何からだって
逃がしてやれる。本当だ」
 与党のスポンサーってことは、さっきも言った通りこの国のトップらを思うまま牛耳ってる真の親玉ってことで、
要するにこいつは俺の大大大ボスってことだ。公社みたいな超法機関で働いてりゃそのうち、業務関連で
保護した子供をこいつに提出するような仕事まで回ってくる可能性もないとは言い切れない。間違いない
のは、こいつが与党を手懐けてる金の他に、きちんと模範生として納めてる莫大な税金が公社の潤沢な
資金の中でもけっこうな額を占めるだろうってことだ。これから跳ね上がる俺の給料もこいつの金。娘を
殺人マシンに改造するのもこいつの金。
「関係あるんだなこれが。あんたの娘はこれから俺が面倒見ることになった。残念ながらあの子はそう長くは
生きないが、でき得る限りは可愛がってやるつもりだよ。だから、はじめましての挨拶代わりといっちゃ
なんだが、まずは最初のプレゼントをあの子に用意しようかと思ってな。花と、サイコ親父の反省だか後悔だか
更正だか死亡記録だかを。マルチェッラはどれが一番喜ぶと思う?」
「そういうことか」 アントーニが吹っ切れたように高々と笑った。「そういうことか。分かったぞ。おまえは
内閣府直属の社会福祉公社とかって組織の人間か。うちの娘は義体とやらになるんだな、そうだろ? 見ろ、
貴様らのやっていることは何だ? 死にかけの子供を体のいい道具として再利用することが福祉か? 
テロリストに私的な復讐を果たすための盾として不運な子供たちを使い捨てることが福祉だっていうのか?
一体どっちが虐待だっていうんだ! 私が一言、そんな人道に背く組織は即刻排除しろと首相に声をかけ
れば、明日からおまえは路頭に迷う。そうなりたくなければ――」
 俺はジェリコの銃口をサイコ野郎の眉間に向けた。「そうはならんさ」
 アントーニは会心の笑みを俺に返した。「いずれ分かる」

538CC名無したん:2011/11/08(火) 00:14:34.71 ID:hq0oOTRcO
支援
539CC名無したん:2011/11/08(火) 00:59:19.89 ID:VYTdtjAO0
12時またいですぐ来るかと正座で待機してたけどごめん離脱…orz
540CC名無したん:2011/11/08(火) 10:52:10.19 ID:w1/ywyjR0
過去エピソードの「隙間埋め」SS職人が増えたな。。。。
541CC名無したん:2011/11/08(火) 21:57:53.41 ID:EWoIh0lW0
ぶつ切れすんません
規制食らっちまってorz
542In Vino Veritas 8/9:2011/11/08(火) 22:02:31.29 ID:EWoIh0lW0


 窓を締め切り、ガスの元栓を全開にして管を抜き、俺は屋敷を後にした。殊更ゆっくり歩き、前庭を抜けた
ところで振り返り、台所のあたりを狙って9 パラを一発ぶち込む。すると、凄まじい轟音をあげて紅蓮の炎が
満天の星空を突き、木屑やら石屑やらガラスの破片やらを飛散させて、貧乏庶民の夢の館は跡形もなく
吹っ飛んだ。
 外門を出たところにヒルシャーがいた。奴は自前のメルセデスに寄りかかって、暇そうに燃え盛る屋敷の
残骸を見ていたが、俺が出てきたのに気付くと、俺が普段吸わないお高めの煙草の箱を投げ寄越してきた。
「一箱全部吸っておけ。ガス臭い」
 箱を開けて早速最初の一本を頂戴する。一口目で分かったがワインと一緒で好みに合わない。いつもの
俺の安煙草の方がいい。
「おいおい、飲酒運転で俺のストークかよ。執行猶予つき保護観察2年プラス俺への接近禁止命令は硬いぞ」
「僕のストーカー行為から逃げ回ってたってことにするか? それとも、金が足りなくてあの黒髪の彼女を逃し、
不貞腐れて僕の家で飲み明かしたってことにするか?」
 趣味は合わないが気は利く野郎だ。ヒルシャーのことはまだよくは知らないが、どうやら生真面目一辺倒
ってわけでもないらしい。トリエラとたびたびギスつくのはあれだ、ティーン少女の扱いが分かってないだけ
ってことなんだろう。大人のことなら分かってる。俺のことも。同じ野郎同士遠慮はいらねえってことなら、
俺だって遠慮なく奴の家に転がり込むくらいのことはやらせてもらったっていい。
「ワインはもういい。テキーラあるか? ショットガンやっても悪酔いしない上物、できればパトロン」
「あるわけないだろ。ライムもない。途中で買っていけばいい。塩ならある」
「カードは?」
「僕に勝てると思ってるなら甘いぞ」
「女は?」
「連れ込みたいなら自宅まで送る」
 俺は笑いながらメルセデスの助手席へ滑り込んだ。俺が乗ってきた車は適当にギってきた盗難車だから
当然ここへ乗り捨てて行く事にする。明日は不運な誰かが手柄を急く警察にたっぷりこってり搾られ、
やってもいない罪を白状させられるだろう。今回ばかりは獲物が巨大だ。すべての人間の目が眩む。
ある意味俺の目も。
543In Vino Veritas 9/9:2011/11/08(火) 22:04:14.15 ID:EWoIh0lW0
 ヒルシャーが素早くイグニションのキーを回し、発車させつつ、笑ってる俺を横目で見た。
「何か可笑しいことでも?」
「いや、おまえって、見かけによらず付き合いいいなと思ってさ」
 溜息。「自分でも信じられない。呑みに付き合うだけの予定だったのに。明日は早出で今日できなかった
仕事を片付けなければいけないんだ」
「多分、その調子でおまえは、地獄の果てまで付き合ってくれるんだろうな。女の子を義体になんか改造して
汚れ仕事をやらせるような俺たちのこった、行き着く先は皆一緒だろうさ」
 奴は正面に向き直り、本人は全然そのつもりはないんだろうが、俺から見たら十分キザったらしく見える
笑いを漏らした。「道連れができて何よりだよ」
 ヒルシャーがお上品バーで言ってた言葉が脳裏に蘇る。ベアトリーチェ、高貴な女性に多い名前、ダンテを
助ける永遠の淑女。呑み直すには十分な肴、なかなか上等な名前に思える。それに夢中になるために、
これから大量に酒を買い込むとするか。サイコ野郎の言葉を洗いざらいヒルシャーにぶちまけても笑って
いられるくらいの量が欲しい。そんなもんでヘコんでる暇はないほどフラテッロってのは大変なんだぞって
いう先輩の言葉を真摯に受け止められるくらいの量が欲しい。


-initium-
544CC名無したん:2011/11/08(火) 22:08:20.32 ID:EWoIh0lW0
お待ちいただいた方、予告もなく突然落ちてすみませんでしたorz
うっかり8連投したら0時またいでもダメでした
以前は大丈夫だったのに2chのご機嫌は窺い知れませんな・・・

せっかく待っていただいたのに楽しい話じゃなくて申し訳ない
545CC名無したん:2011/11/08(火) 22:26:12.88 ID:VYTdtjAO0
待ってた!GJ! てか筆早!
なんかこういうヒルシャーって新鮮だ。ビーチェの性格と生い立ちとなんか色々納得。
内容は重いんだけど話のテンポ感がよくてハリウッド系の映画みたいだ。
同じキャラを書くのでも職人さんのそれぞれの持ち味が出てきていいなあ。
いやはや楽しませていただきました、ありがとうございますw
タイミングが合わなくて支援できなかった、残念。

>>530
レスありがとうございますw
自分も早く文章リハビリしてSSセッションに混ざりてぇorz
546CC名無したん:2011/11/10(木) 00:13:18.50 ID:QpcU/PEn0
>>540
隙間埋めっていうかただの妄想ですわ
妄想なのにおっさんしか出てこねえっていう致命的な欠陥をどうしよかと考えた挙句
モブで巨乳のチャンネーを突っ込んでみるという苦肉の策に出てみましたが
ガンスリファンの需要を考えると無駄この上ない足掻きでしたすんません><

>>545
感想ありがとうございます!映画みたいなどとお褒めの言葉恐縮です
せっかくのなのでラスト後に脳内スタッフロールと共にFell on Black Daysなど
頭の中で流してくださるといた甲斐があるってものです
ヒルシャーは本編ではトリエラ相手にまごついてる印象が強いですが
野郎同士でいる時はあんなかんじなんじゃないかと捏造させていただきやした
リハビリ後の復活楽しみにしてます!


遅ればせながら、ネタをくださった蘇芳様、ありがとうございました m(_ _)m
次回作も楽しみにお待ちしております!
547CC名無したん:2011/11/10(木) 00:16:05.75 ID:QpcU/PEn0
>頭の中で流してくださるといた甲斐があるってものです

書いた甲斐があるってものです
の間違いです><
548CC名無したん:2011/11/10(木) 01:11:16.21 ID:K2fCtK830
老若男女万遍無く登場させて
銃火器、特殊部隊、諜報機関の薀蓄を散りばめて
イタリアの芸術、歴史にEU政治に地下経済の裏事情を絡めて
なおかつ地方と中央の格差を衣食住の視点で描いて

義体に改造された少女の悲哀と日々の喜びを群像劇に仕立てて
担当官のやむにやまれぬ大人の事情にユーモア、苦悩を織り交ぜて

原作者が考えていない過去エピソードを許可なく勝手に妄想して
時系列順に矛盾しないよう「隙間」を埋めるのは難しい。。。。


まあ、苦肉の策でも好きなようにやったらいいんじゃね?
そのうち外伝でアンソロジー共同執筆の機会があるかもしれんし。
あとは絵師さんもいるといいねえ。
549CC名無したん:2011/11/10(木) 23:17:21.02 ID:wpFsqhKeP
ちょっと前に作ったやつですが、アニメ1期BGMとハイライトシーンの
MAD置いておきます
http://www.youtube.com/user/hiro0978765
550CC名無したん:2011/11/10(木) 23:50:05.92 ID:Ha7ZwsjV0
>>546
また渋い曲を。英語得意じゃないのに必死で調べちゃったじゃないかw
"I'm a seach light soul they say but I can't see it in the night.
I'm only faking when I get it right."とかベルナルドっぽくていいなあ。

>>549
重かった(笑)画質がいいからしょうがないかw
静画のMADってのもいいもんですね。エッタの一途さがより際立つ感じだw
551CC名無したん:2011/11/11(金) 00:14:58.60 ID:SlJbO3BK0
>>548
おお、頑張るね
こだわりの一品の投下をwktkして待ってるぜ!
552CC名無したん:2011/11/12(土) 00:02:33.21 ID:JAXHpm1t0
>>549
ちくしょうDVD欲しくなったじゃねえか
北米版本当に買おうかな

ふと気付いたんだが
横になってる時のエッタの髪が枕とまっすぐ平k・・・ゲフンゲフン
きっと義体って髪も強靭なんだうん
553CC名無したん:2011/11/12(土) 00:05:49.91 ID:vQG6wh/70
>>549を見た後だと面影のかけらもないが
ジョゼッタ組で不思議の国のフラテッロを描いてみたよ。
http://pita.st/n/cfgmqty0
554CC名無したん:2011/11/12(土) 21:03:57.19 ID:5RajglvTO
>>549
エンディング曲の使い方が上手すぎる…
そして第9、アンジェリカが霞んで見えない
⊃Д`)
555CC名無したん:2011/11/12(土) 23:50:39.86 ID:vQG6wh/70
>>549
やっと全部見れた…GJです、なんかもうじわじわくる。


これは個人のチャンネルみたいだけど
保管庫に貼らせていただいてもいいのでしょうか?
556CC名無したん:2011/11/13(日) 00:32:21.59 ID:QlVwotCtP
どうぞ。このアカウントはこれ専用です。
557CC名無したん:2011/11/13(日) 17:04:38.97 ID:7G6Zqgi10
>>553
ジョゼ山の胡散臭さが半端ないwww
公社のエッタならジョゼ山だけにはスカートの中喜んで見せそうだと・・・
おっと全年齢板でしたなすまん
558蘇芳 ◆Ecz190JxdQ :2011/11/14(月) 01:14:21.24 ID:yHLUNX5y0
「早く雪が降らないかな」
「どうして?」
「だって、私、雪に触ったことないもん」
その後、ヘンリエッタは困ったような顔で黙り込んだ。
私とヘンリエッタが一緒に暮らすようになった、少し後の話だ。

私は公社に来るまで病院にいた。
だから、いろんなことを知らない。
やったことないことも、見たことないことも、食べたことないものも、いっぱいある。
初めてのことは全部嬉しくて、嬉しいから友達に話したくて、友達がいることも嬉しくて。
それでいっぱいおしゃべりしようとすると、みんな困った顔になっちゃう。
だんだん、その理由は私にもわかるようになった。
それは、私が病院にずっといたのは「普通」じゃないから。

病院での生活が「普通」じゃないことは知っていた。
だけど、義体だって「普通」じゃないから。
条件付けとか、体にいろいろ入ってるとか。
きっと、みんな「普通」じゃないことに慣れてると思った。
「普通」じゃない私の話を聞いてもみんな平気だと思ったのに。
この部屋に来たばかりのヘンリエッタは、「普通」じゃない話を私がすると黙ってしまう。
うつむいて、黙って、そのまま止まっちゃう。
だから、私は怖かった。
ヘンリエッタと友達になれないんじゃないか、って。
友達と同じ部屋で寝る、ってずっと憧れていたから。
どうしてもヘンリエッタと友達になりたかった。

ビアンキ先生のカウンセリングでも私は「ヘンリエッタと友達になりたい」って相談した。
先生は笑って、「二人とも知ってるけど、二人とも好きなことを話せばいいんだよ」って教えてくれた。
相手が知らないことを話すより、二人とも知ってるけど大好きなことのほうがいいんだって。
559蘇芳 ◆Ecz190JxdQ :2011/11/14(月) 01:15:32.51 ID:yHLUNX5y0
でも、それはとっても難しかった。
ヘンリエッタは可愛い洋服が好きで、ジョゼさんにいっぱい買ってもらってる。
私はズボンしかないし、洋服を選ぶのが楽しいって気持ちはわからない。
ヘンリエッタも訓練は頑張ってるけど、私みたいに「動くのが楽しい」って思わないみたい。
なかなか二人とも大好きなことってみつからなかった。

初めて二人で「楽しい」って思えたのは、雪だった。
ヘンリエッタは小さな雪だるまを作って、訓練でダメにした洋服のはじっこを雪だるまのマフラーにしてた。
私も雪だるまの作り方を教えてもらって、一緒に作った。
その後ジャンさんが来て、「リコは雪の中での行動は初めてだから訓練が必要だ」って、ヘンリエッタと三人で射撃訓練場に行った。
ついたら、ジャンさんは怒ったような顔で、でも優しく、「まずは走り回って体を温めてこい」って言った。
雪の中で、ヘンリエッタと初めてした鬼ごっこ、楽しかったな。
いっぱい転んだし、寒かったけど、楽しかった。
ジャンさんは「訓練だ」って言ってたのに、結局銃は出さなかった。
鬼ごっこのあとは訓練用の壁や平均台でアスレチックみたいに遊んだ。
ヘンリエッタが初めて笑ってくれた。

あの雪の日、私たちは友達になったんだ。
ヘンリエッタ、今日は、また雪だよ。
私たち、今日で死ぬかもしれないんだって。
死んじゃったらもう会えないんだよ。
ねえ、だから、ちょっとだけ思い出して。
小さな雪だるま。
鬼ごっこ。
また一緒に遊ぼうよ。
560蘇芳 ◆Ecz190JxdQ :2011/11/14(月) 01:17:10.60 ID:yHLUNX5y0

後ろからついてくるヘンリエッタの足音を感じながら、私はやっぱり言えなかった。
ヘンリエッタ。
私の友達。
私の名前は憶えてるのに、私と遊んだことは忘れちゃってる。
でも今でも大切な友達。
アンジェの時は、忘れちゃうのはちょっとずつだったのに、ヘンリエッタは全部いっぺんで、だからアンジェの時より辛かったよ。
でも仕方ないよね。
お仕事できなくなっちゃったら、私だって困るもん。

ねえ、これが終わったら一緒に雪だるま作ろうね。
そうしたら、もう一度友達になれるよね。
561蘇芳 ◆Ecz190JxdQ :2011/11/14(月) 01:22:44.97 ID:yHLUNX5y0
タイトルは「雪だるま」です。
スキーやるため雪を切望している私なのでつい思いついちゃったのでした。
「いつもの蘇芳」な作品は、重いように見えて思いつくきっかけは軽いのです。

>>530さま
すごいです!
ベルナルドらしさと描写のスピード感、そしてヒルシャーの意外な一面。
自分の心の弱さを知っているベルナルドが痛くて、でもそれがあるから感情移入できる。
多重人格というアプローチも面白いですね。
この病気は医学的に真面目に扱っちゃうとえらいことになりますが…
ベアトリーチェの性格の説明としては納得できると感じました。
562CC名無したん:2011/11/14(月) 23:47:16.75 ID:ANzoWpbS0
>>550
必死で調べてくださってありがとうございます!
おかげさまで皆様が書かれたSSを読んだ後に頭の中で流れる脳内スタッフロールに
勝手に曲つけて一人でニヤニヤするのにハマってしまいましたwww

>>558-560
すいません汗で画面が見えません゚(゚´Д`゚)゚
リコ・・・・俺が代わりに友達になっちゃダメでry
「普通」じゃない話をするとエッタが黙ってしまう理由は、もしかしたらリコの勘違いで
他の義体たちが「これやったことがあるかとか食べたことがあるかとかリコは記憶あるんだ・・・」
みたいに感じたからかな、とも感じました。どちらにしろいろいろ霞んで見えます
勝手に脳内スタッフロールを流させていただいた時の曲はこれでした
Lorri Morgan-Little Snow Girl
ttp://www.youtube.com/watch?v=Y70y3QY2Xqo
クレジットが長かったら二曲目はDemi LovatoのGift of a Friendですかね
少々アイドル風味が強いので第一候補からは外しました・・・いや勝手に語ってすみません><

>>561
感想恐縮です!
この病気は付け焼刃で書ききれるもんじゃないので触れる程度に留めておきました
ビーチェのあの性格がきっつい条件付けからくるものなら「楽しいとか分からない」と
それ自体を疑問に感じることもないんじゃないかと考えた結果の妄想です
ご精読ありがとうございました!
563保管サポータ:2011/11/15(火) 00:50:54.27 ID:TIEma0ug0
>>556
ありがとうございます。設定の関係上かサムネが貼れないようなので
URLを転載させていただきました。
564CC名無したん:2011/11/15(火) 00:51:34.69 ID:TIEma0ug0
>>558
GJ、目の前にしんみりと雪景色が広がるようです。
蘇芳氏の作品はキャラの心理描写にしっかりとした現実感があって好きです。
565【】:2011/11/17(木) 00:39:42.23 ID:hhW31Byf0
例のあれが復元されたと聞いて。アホ小ネタ投下。


【類似点】


 平和な公社の昼下がり。義体棟から少女たちのにぎやかな笑い声が聞こえてきた。
東洋の島国では“箸が転んでもおかしい年頃”と言われる年齢の義体たちだが、
それにしても今日のその様はにぎやかというよりもけたたましい。
爆笑に次ぐ爆笑といったその声に、ジョゼとヒルシャーは首をかしげた。
「ずいぶんと楽しそうだな。何だろう」
「確か今日のこの時間は、女性課員による家政技術指導のはずですが……」
「プリシッラあたりが脱線してるのかな」
 一体どんな愉快なことがあったのかと好奇心に駆られて担当官たちが部屋の中を覗き込んでみると。
「リコ、もうそれ転がさないで〜っ!」
「でもヘンリエッタ、そっくりでおもしろいよ、ほら!」
「やめてそっくりすぎて苦しい……!」
「プリシッラさんがそんな動画を見せるからですよ!」
「だってクラエスが『パンジャンドラムに似てる』なんて言い出すから〜〜!!」
 笑い転げる彼女たちの前には、机の上をころころとランダムな動きで回るミシン用下糸巻き取り具《ボビン》と、
女性職員の携帯端末に映し出された名高い英国式最狂兵器の姿。

 かくて伝説の武器は遠く時を経てイタリア人と宿敵ドイツ人の腹筋に多大なダメージを与えせしめた。
その後も思い出し笑いの発作に悩まされた義体たちがつい力余って付属部品や本体を破損することが相次いだため、
結局義体棟でミシンが使用されることはなくなったという。


<< だすえんで >>
566トンズラはディナーの前に:2011/11/17(木) 21:25:13.65 ID:7udUu6Xc0
「助けたのは単なる損得勘定からだった・・・学校へも行かせず殺し屋に育てた私をあいつは好きだという・・・
アレッシオ、どうしたらいい?」

「失礼ながら旦那様――この程度の問題でお悩みとは、旦那様はアホでございますか?」

「・・・・・・・・・。私が人生を諦めるのはまだ早いか?」

「そんな簡単なこともお分かりにならないなんて、それでも旦那様はプロの活動家でございますか。正直、
ズブの素人よりレベルが低くていらっしゃいます」

「・・・・・・・・・・。車の用意をしてくれ」

「わたくしに逃亡の手助けをしろと? 旦那様が――プロの活動家である旦那様が、この一介の執事に
過ぎないわたくしに当局から逃れる手伝いをしろと? 本気でございますか?」

「・・・・・・・・・・・。国外へ脱出する」

「お許しください、旦那様。わたくしチャンチャラおかしくて横っ腹が痛うございます」
567CC名無したん:2011/11/17(木) 23:43:53.42 ID:hhW31Byf0
そういやあの毒舌執事ドラマ化されたんだっけ。
クリスティアーノの沈黙が気の毒ww
568CC名無したん:2011/11/20(日) 22:45:01.13 ID:sPiO8PdS0
ジャン「今日の予定は映画だったな」

クラエス「水曜日は外国映画です」

ジャン(いつもクラエスには退屈をさせているしな・・・ラバロ大尉にも悪いことをしたし、
   たまには楽しい作品を見せてやろう)

『モンティ・パイソン・アンド・ホーリーグレイル』開始

クラエス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ジャン「・・・・・・ぷっ」

クラエス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ジャン「wwwwwwwwどんだけフランス人嫌いなんだよwwwwwwwww」

クラエス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ジャン「だめだwwwもうwwwはwらwwいwwてwえwwwwwwwwwwwwww」

クラエス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ジャン「(あー笑った笑った)・・・・・・感想文の提出は明日後までだ」

クラエス「ジャンさん・・・・笑いたくてもクスリともこない・・・・そんな事あります?」

ジャン「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
569CC名無したん:2011/11/20(日) 22:46:14.98 ID:sPiO8PdS0
ジャン「今日の予定は映画だったな」

クラエス「水曜日は外国映画です」

ジャン(笑いの分からん奴め。そんなに陰気な映画が観たいなら望み通りにしてやる)

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』開始

クラエス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ジャン(・・・・・・・・・今更だが後悔だ・・・・これは・・・・・・・・・・・)

クラエス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ジャン(正直・・・・・ヘコむ・・・・・・・・・・・)

クラエス「・・・・・・・・・・・・・・ぷっ」

ジャン「・・・・・!!」

クラエス「wwwwwwwwそんなとこにお金隠しとく方が悪いでしょwwwwwwww」

ジャン「(笑った・・・・あれを観て笑いやがった・・・・)・・・・感想文の提出は明日後までだ」

クラエス「ジャンさん、無理にヘコまそうとする製作者の意図が見えると笑えてくる、そんなことあります?」

ジャン「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
570CC名無したん:2011/11/20(日) 22:47:38.10 ID:sPiO8PdS0
ジャン「今日の予定は映画だったな」

クラエス「水曜日は外国映画です」

ジャン(クラエスの趣味がいまいちよく分からん。どうせホラーを見ても感動作を見ても笑うんだろう。
   ならば頭を使わせてやる。これを観て推理に頭を悩ませろ)

『ユージュアル・サスペクツ』開始

クラエス「ああこれ・・・・カイザー・ソゼは○○○・○○○○なんですよね」

ジャン「・・・・・・!!」

クラエス「この役でオスカー受賞しちゃいましたしね・・・思いっきりネタバレですよね」

ジャン(俺も今回が観るの初めてだったのに・・・!!)
571CC名無したん:2011/11/20(日) 22:50:02.61 ID:sPiO8PdS0
ジャン「今日の予定は映画だが、観るんじゃなくて撮る方だ。おまえの場合人の作ったものを観るより
   脚本から監督から編集まで全部自分でやった方がいい」

クラエス「了解です。では主演をジャンさんにお願いします」

ジャン「俺は演技なんかやらないしそんな暇もない。役者は他の義体に頼め」

クラエス「それは残念です。主演には助演とのくんずほぐれつな絡みをしていただこうと考えて
    いたのですが」

ジャン「(・・・なんだと?) 子供が撮るような内容じゃなさそうだが一応聞いておく。どんな話だ?」

クラエス「助演は男性です」

ジャン「・・・・・・・水曜は外国映画だったな。ブロークバックマウンテンでよければ感想は明日後だ」
572CC名無したん:2011/11/20(日) 23:08:27.83 ID:sPiO8PdS0
クラエス「ジャンさんが私の趣味の合わない映画ばかり無理に観せようとするの」

トリエラ「それは仕方ないよ。私たちは自分がどんな映画が好きかあんまり知らないんだから、選ぶ方の
趣味になっちゃうのはしょうがない」

ヘンリエッタ「私はジョゼさんにオードリー・ヘプバーン映画のBDボックスセットをいただいたよ」

トリエラ「ヒルシャーさんが連れてってくれるのはだいたいヴィム・ヴェンダースだな。リコは?」

リコ「こないだジャンさんにトイ・ストーリー3を観に連れてってもらったよ」

クラエス「いかにもリコが好きそうなチョイスね」

リコ「ジャンさん、観ながらぼろぼろ泣いてたよ。1作目のディレクターズカット版から持ってるんだって」

トリエラ&エッタ「・・・・・!!」

クラエス「・・・・・・・クスッ」





しょーもないネタ連発失礼しました
573CC名無したん:2011/11/21(月) 00:00:31.11 ID:zSpzVuQF0
クラエス…おそろしい子w
574CC名無したん:2011/11/21(月) 06:15:37.48 ID:Q/PJpOduP
いやこれはクラエスの正確描写バッチリだな、面白かったです
575CC名無したん:2011/11/22(火) 22:17:46.68 ID:ST8mJNJ70
またしょーもない小ネタ思いついた


別の人生歩いていたら ジョゼ編


「これで転属は決定的になった。学年主任の兄は学校に残るかもしれないが・・・
自分はこの先汗臭い田舎男子校でクラス担任さ」

「まあ悲観するなよ
ここに残ってモンペに訴訟を起こされたら元も子もないんだぜ?」

「マルカントニオ、僕は小学校低学年が好きなんだよ
ここには幼女がいる。反抗期の中学生も外泊を覚えた高校生も遠い世界だった
このままプール時期、学芸会の衣装合わせと、堪能したかった」
576CC名無したん:2011/11/22(火) 22:19:02.90 ID:ST8mJNJ70
別の人生歩いていたら ジャン編


陸軍士官学校に行くのをやめる?
だめだジャン、法科大学に行かないならせめてそっちへ行け
もうユーロ高の時代じゃない
金持ちが自宅でマネーゲームしながら遊んで暮らす時代じゃないんだ

父さんはお祖父さんに逆らって法律家になったんだろ?
だから俺も好きなように選ぶ
ニートになるんだ!
577CC名無したん:2011/11/22(火) 22:21:25.29 ID:ST8mJNJ70
別の人生歩いていたら ヒルシャー編


「何ですか?」

「我々の編集したVTRだ。捏造取材って知ってるだろ?どこかで雇ったり身内に頼んだりしたサクラにやらせの
インタビューをする映像だ。肝心な部分は本物だとは言い張ってるが視聴者の誰も信じちゃあいない。
まあお前も隣の部屋で観てこい」

「どうして僕が?」

「どうして?現場に出たいんだろ?これが現場だ。コーヒーで画面を汚すなよ」

サクラは主に劇団員や主婦のバイト。彼らはまず軽い打ち合わせをして緊張をほぐされる。
その後あたかも偶然のようにマイクを向けられ・・・そして最後に大袈裟に驚いてみせる。
スタジオに返され、司会者が怒り、コメンテーターに話を振り・・・・・・
・・・・・・たっぷり批判したら最後に中傷だ。事実関係のウラも取らず、
放送倫理審査委員会も恐れず、ひたすらコキ下ろすんだ。
このチームの人の出入りが何故激しいのか分かっただろ?局側の対応のひどさに耐え切れなくなるからだ。
ハルトマン、お前はこの現場には不向きだよ。
視聴率のためならどこまでも過激になれるプロデューサーを
ザギンでチャンネーとシースー食うために制作費をちょろまかすディレクターを
想像できないだろ?
お前は幸せに育ち過ぎている。マスコミの報道を真実と信じている。
だから現場にはやれんのだ。
578CC名無したん:2011/11/22(火) 22:23:27.65 ID:ST8mJNJ70
別の人生歩いていたら マルコー編


「マルコー・・・それじゃツイッター失言が理由で仕事を干されたの?」

「それだけじゃないがいい口実だったんだろうさ」

「ほんと・・・芸人の世界って難しいんだね・・・」

「なに暗い顔面してんだよパトリツィア、スポンサー契約を切られなかっただけもうけもんだ。
少しくらいテレビ露出度が減っても、地方ドサ回りや結婚式司会の仕事はちゃんとあるぜ?」

「だったら事務所を去る必要までなかったじゃない・・・降板になったのは番組だけなんでしょう?」

「あんなくそったれな所でマネージャーでもやれってのか?吉○を辞めたって他にも行く所はいくらでもある。
ハリウッド・・・ボリウッド・・・イギリスでオーディション番組に出るのもいいな」

「別に私はマルコーがただの会社員でもよかったんだよ?将来結婚したらそっちの方がよっぽど安定するし」

「・・・面白い男は嫌いなのか?」

「ううん。でもね、そんなに芸能人ぶらなくても、私は真面目に働くマルコーが好きなの」

「心配するなって。困ったらファンに貢がせりゃいいさ」





スレ汚しすんません><
579CC名無したん:2011/11/22(火) 23:34:44.79 ID:cUb6sBw7O
イロイロ笑わせていただきましたww
職人さんが増えて最近このスレ覗くの楽しみだ。皆様ありがとうございますw
580CC名無したん:2011/11/23(水) 17:44:08.23 ID:8y9HIPFU0
クラエス編はないのん?
581CC名無したん:2011/11/23(水) 20:25:05.84 ID:qP8zmDOn0
こんなくだらない小ネタに感想とリクありがとうございますw
クラエス編やってみました


「ラバロさん!」

「久しぶりだなクラエス。今日脱稿したのか」

「貴方を捜してたんです!貴方が・・・10週連続アンケート最下位って噂を聞きました」

「心配するな。今からちょっと知り合いの編集者に会ってくるだけだ。最近の集○社のやり方には疑問があるんでな」

「え?」

「・・・ああそうだ、渡すものがあるんだった
一つは俺のアドレス帳だ。これからは自由に俺のアシを使っていい
そっちは以前おまえが同人時代に稼いだ金を貯金した口座の通帳だ
もう残高ゼロだから名義をおまえに戻したがな」

「どうしてこれを?」

「これまでおまえを一人前にしようと鍛えてきたが・・・最近のお前を見て不安になってきた
締め切りというものはよく考えて守らなきゃいかん
コミック売り上げ部数がどんなに多かろうと、『作者急病のため休載』を何ヶ月も続けるわけにはいかんのだ
この通帳の預金を増やせる間は締め切りを守るクラエスでいてほしい
休載可能な隔月刊じゃない
血の通った週刊だ
Hai capito?」

「Si, ho capito.」

「いい子だ」
582CC名無したん:2011/11/23(水) 20:26:57.39 ID:qP8zmDOn0
ついでにサンドロ編


「・・・どうしてブン回りの現金機ばっかり置いとくかね」

「プロに店を潰される自覚がないのよ」

「これなら開店前から並ぶ必要なかったぜ」

「継続して出る台に居座るためよ
リーチを重ねて出玉を増やすの
就活、税金、すべて無用の代物
気乗りしない?」

「いや・・・その・・・」

「大丈夫、いずれ楽しくなるわ」



「なあ、ロッサーナはどうしてこの仕事に?
CRエ○ァンゲ○オンにハマった・・・それとも現代型職場うつ?」

「私にだってできるもの。やるしかないでしょ」

彼女は不思議な女性だった
俺の目には涼しい顔でジャンジャンバリバリ出す完璧な人間に見えた
いつでも勝っているようで、いつも負けているようだった
583CC名無したん:2011/11/23(水) 20:31:02.01 ID:qP8zmDOn0
勤労感謝の日なのにヤクザな仕事のことばっかwピノッキオ編


「歌舞伎町の暮らしに飽きたか?」

「いや・・・意外な程なじんでしまって自分でもびっくりしている・・・案外性に合ってるのかもな」

「お前が伸び伸びしているのを見てると・・・当分うちの店に通うのも悪くないとフランカは言ってた」

「ここの暮らしは悪くないけど金銭感覚が狂うよ・・・
『情に触れると売れなくなる』、先生が言ってた言葉さ
クリスティアーノおじさんの所にいたナンバーワンだ
ロレックスをはめていつも六本木のマンションで昼寝をしていた
店では“ジョン☆ドゥ”(名無しの☆ジョン)で通ってた。自称元タレントで・・・
いつも枕してたけど、ピンドン入れさせるのも新規の指名集めるのも凄い腕前だった」

“ホストになるならつまらん情は捨てるんだな。ごちゃごちゃ考える奴は売れない”

「でも・・・そんな彼もあっさりと死んでしまった」

“キャバ嬢の財布は四次元ポケットだと思え”

「ある日自分のシマ外でキャッチをして他の店のケツ持ちに殺られた
・・・あんたもフランカもいい人だ。新宿にいるのはもったいないと思うよ
フランカとは恋人なのか?」

「違う。彼女は空っぽの俺の指名リストを埋めてしっかり稼げとロマネを入れる
俺にとっては唯一の客だ」
584CC名無したん:2011/11/23(水) 22:47:21.76 ID:p1fb/TAX0
フwラwンwコwww
なんだか公社がまっとうな仕事で勤労してるような気がしてきたぞww
585CC名無したん:2011/11/24(木) 22:31:00.94 ID:t5b3gkgE0
ごめんまた悪ノリで小ネタ続けちゃいます
いい加減ウザくなってきた人はNG「別の人生歩いていたら」でよろしくです

ではヘンリエッタ編



「ガブリエリさんが来てくださって助かりました
ジョゼさんの執刀を担当するなんて私、初めてで・・・」

「あなたは本当に手術が好きなのね・・・
それってどんな気持ちなの?
ミスしたら彼が死ぬかもって自覚はある?」

「彼・・・今死にかけだからそれでも構わないんですが・・・
でも外来診察は『やらなきゃ』ってかんじ
実際にメスを握るのは『したい』ってかんじなんです」

これは・・・完全に医師免許を持つ肉屋だな
586CC名無したん:2011/11/24(木) 22:32:27.03 ID:t5b3gkgE0
別の人生歩いていたら リコ編



「リ・・・リコ?リコがどうしてここに
それここの制服じゃないか」

ええと・・・

「ええと・・・」

こんな時なんて言うんだっけな・・・

「リコ・・・」

ああそうか・・・

「お客様お帰りでーす!」

「え?」



朝、出勤する度にいちばんに気になることがある
それは今日も会社に自分の席があるのかということ
よかった、ある。
誰も気付かない職場、素晴らしいことだ
ライバル会社が経営する居酒屋のバイト
私はそこでの時給をとても気に入っている
587CC名無したん:2011/11/24(木) 22:34:05.14 ID:t5b3gkgE0
別の人生歩いていたら トリエラ編



「ヒルシャーさん・・・」

「トリエラ!」

「わたし・・・参加しました」

「まだ出てきちゃ駄目だ!官邸に引っ込んでいなさい!」

「大丈夫です・・・ぶら下がりにはノーコメントで通しますから
聞いてください!私参加したんです!
間違いなくTPP参加国になりました!
これも圧力のおかげです
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ヒルシャーさん?
褒めてくれないんですか?
命令どおり・・・世論を無視したのに・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
588CC名無したん:2011/11/24(木) 22:37:51.54 ID:t5b3gkgE0
別の人生歩いていたら アンジェリカ編


「さあ座って。僕のことは覚えているかな?」

「・・・・・・
プロクラトーレ(弁護士)・ビアンキ・・・」

「うん、そうIDに書いてあるね。まあいいさ、しばらく君とは会ってなかったしな・・・
テレビや新聞によれば最近カジノに注ぎ込んだらしいね
じゃあアンジェリカ、その帳簿の中で遣い覚えのある金額はどれくらいになるかな」

「6億と9億・・・・・・13億・・・あと・・・20億・・・」

「ふむ」

大分低く見積もってる・・・

「先生、これって違法ですか?ファミリー企業から借り入れたお金・・・そのうち返せばいいんじゃありませんか?」

「いやあれはちょっとしたテストだよ、気にしないで
じゃあこのお話は覚えてるかな?
“むかしむかしあるところに、一代で製紙業を築き上げた男がいました
その男はとても働き者で、地方に行くときは車の中で寝泊りするほどの素晴らしい倹約家でした“
・・・・・・どう?
じゃあこの本をあげるから後で読んでみて
何かこみあげてきたら法廷で言うんだよ」

「先生・・・わたし・・・すぐにまたギャンブルできるようになります?」

「それを決めるのは僕じゃないんだよ。判事に聞いてごらん」
589CC名無したん:2011/11/24(木) 22:40:48.70 ID:t5b3gkgE0
別の人生歩いていたら エルザ編



「話すことなんてないわ」

「でも・・・ほら、今度一緒にお仕事するかもしれないから」

「じゃあ言っておくけど、麺を茹で過ぎたら、許さないからね」

「え?
どうして・・・どうしてもっちり感を大事にしないの?」

「あなた、もっちり感としこしこ感と、どっちが大事なの?」

「え・・・?」

「私はしこしこ感が一番大事
他のことなんかどうでもいいの
私の時間はすべて生地をこねるために使うわ
茹で上がりの喉越しを想いながら、つゆとの絡みを考えて掻き揚げを揚げるの
私たちはあと何年国産の小麦を使い続けられるかも分からないのに
あなたたちにはコシが足りないのよ!」

「そんなこと・・・そんなことない!
私・・・私だって、釜玉のこと、大好きだもん!」

「そう・・・なら、もう話すこともないでしょう
早く帰って」
590CC名無したん:2011/11/24(木) 23:01:08.67 ID:t5b3gkgE0
別の人生歩いていたら ペトラ編


「それは『ゴーストライター』だ!そんなものにメジャーデビューされてたまるか!!」

「違います!」

「どう違う!?日陰者で終わらないと言うなら証明してみせろ!!」

「♪ Pezzo di merda Alessandro
Non capisci un cazzo, Vaffanculo
どうして信じてくれないのYO
こんなに愛してもダメなのかYO
自分で歌えないダメラッパー
語彙暗記するだけ 頭はパー
グラミーの夢もどこへやら
出てきた終わった一発屋♪」

・・・なんてまっすぐなライムだろう
俺はいつの間にこんなに商業主義に染まっちまったんだ・・・

「認める
俺の才能は枯れたんだ」




はい、スレ汚しにも程がございました
一通りできたんで満足です><
591CC名無したん:2011/11/25(金) 21:56:52.56 ID:mmurZL2w0
エルザのこねたしこしこ麺食べたいw
592CC名無したん:2011/11/26(土) 00:43:39.50 ID:C9iX4P+20
今年は無印○品にひとくちパネトーネとシュトレンとパンドーロが出てた。
でかいの予約する前に見つけたかった……まあ大きいのは大きいので
腹いっぱい食べられるからいいやな。
593CC名無したん:2011/11/26(土) 09:58:48.67 ID:1AmSLYCh0
怒涛の小ネタにフいた。
トリエラ、大臣かよ!
594蘇芳 ◆Ecz190JxdQ :2011/11/26(土) 11:18:59.75 ID:Om1VqXNl0
「体が機械の女の子って普通ですか?」
「私…今幸せだから」

彼女の言葉は重く、鋭く、突き刺さった。
それは、「幸せってなんだろう」というような哲学的な問い。
それは、大人としての良心の呵責。
そして、この組織にいて、彼女たちをあんな人生にする行為に加担している自分への怒り。

隣の席で唸りながら書類作成をしているあの男は、もうこのことを忘れているのだろうか。
「フェルミさん」
「なんだ?
俺は今この書類で大変なんだ。
もしかして、エレノラが代わりにやってくれるのか?」
「はぁ…
それぐらい自分でやってくださいね」
いつもの会話。
もう戻ってきた日常。
あの重苦しい一日から、まだ二週間も経っていないと言うのに。
「フェルミさん。
幸せってなんでしょうね」
半分は独り言として、つぶやいた。
「どうした?」
自分の予想と違う一言をぶつけてしまったから、次の言葉が出てこない。
「もしかして、あのガキどもの事か。
気持ちはわかるが、仕事にそういう感情を持ち込むな。
ジョゼッフォ=クローチェの目を覚えているだろ?
どんな時も隠せない、あの厭世的な目の色を。
仕事が感情を食い荒らす時、人はああなっちまうんだ」
「わかっていますよ。
でも、私はあの子たちに言ってはいけないことを言ってしまいましたから…」
595蘇芳 ◆Ecz190JxdQ :2011/11/26(土) 11:20:27.62 ID:Om1VqXNl0

「普通は男女が一緒に仕事をしているだけで恋人ってことにはならないの」
「女の子なんだから…」はまだ無知という言い訳ができる。
だけど、もう一つは…あれだけは、私の「悪意」だ。

私は、男と同じに働きたかった。
だから、男以上に頑張ったつもりだった。
必死で努力して、登り詰めようと意気込んでいた。
それなのに、突き落とされた。
社会福祉公社。
非合法の組織。
その中でも実戦には程遠い仕事。
二課のほうがきついだろうし、大きな問題を抱えた人間も多いらしい。
でも二課のほうがずっと第一線に近い仕事なのだ。

私が公社に来る前、上を目指して必死に頑張っていた頃。
その頃も上司と二人で組んで仕事をすることが多かった。
そして、必ず陰口を叩かれた。
「エレノラはどうせあの男に媚びて評価をもらってるんだろ」
「女はいいよなあ、男の上司につけば安泰だ」
私は断じてそんなことはしていない。
上司のことは、プロとして尊敬はしている。
だけど、男女の関係なんかじゃない。
そうなりたいと願ったことも、行動したこともない。
私はただ仕事がしたかっただけだ。
それなのに、女だからと陰口を叩かれる。
いつしか、それは私のトラウマになっていた。
596蘇芳 ◆Ecz190JxdQ :2011/11/26(土) 11:22:10.85 ID:Om1VqXNl0
ヘンリエッタの無邪気な愛情は、私のトラウマを抉り、私の傷口からは再び血が吹きだした。
ジョゼッフォ=クローチェを素直に愛し、その役に立つことこそが彼女にとっての「仕事」であり、「幸せ」だった。
その姿を見て思った。
私も心のどこかであの上司を慕ったことはあるんじゃないの?
その気持ちがあるからこそ、頑張れたってところは本当にないの?
私がそう思わなくても、上司のほうに下心があった可能性だって否定できないじゃない。

本当に、私は、純粋に仕事だけを頑張って、そのことだけを評価されていたの?
社会福祉公社への「島流し」は本当に不当な評価だったの?
私は、彼と男女の関係になることを本当に望んでいなかったの?

その思いは私を混乱させ、混乱は私に悪意を植え付けた。
まだ幼い子供への悪意を。
私は、最低だ。

だから、私はヘンリエッタに苛立ちをぶつけてしまった。
私はヘンリエッタがジョゼッフォ=クローチェに恋していることを知っていたのに。
できることなら恋人にだってなりたかったろう、彼のためだからこそ頑張れるのだろう、それを知っていたのに。
「普通は男女が一緒に仕事をしているだけで恋人ってことにはならないの」
こんなひどい言葉をぶつけてしまった。
ヘンリエッタに「普通」という言葉をぶつける惨さ。
「恋人ってことにならない」と、彼女の縋るような思いを否定する冷たさ。
私は弱い。
私は醜い。
597蘇芳 ◆Ecz190JxdQ :2011/11/26(土) 11:23:59.78 ID:Om1VqXNl0

ヘンリエッタだけじゃない。
リコも私の心の傷を容赦なく抉っていった。
「死んじゃうのは嫌」と言いながら、命の危険のある仕事を日々こなすリコ。
私は彼女の言葉に、返す言葉を持たなかった。
同情したから、というのはもちろんある。
罪悪感だって感じてた。
だけど、それ以上に怖かった。
自分と同じ言語を話しながら、言葉が通じないかのような恐怖。
それは、近所に知的障害の男の子が引っ越してきた時の恐怖に似ていた。
同じ言葉を延々と繰り返し、食べることと鉄道にしか興味のなかった2つ年上の彼は、私にとってモンスターだった。
だから、私は彼とかかわらなかった。
何かをされたわけじゃないけど、ただ単に怖かったから。

それは私だけのことじゃなくて、彼が引っ越してきて一年も経てば、彼の姿を見かけると逃げる遊びは私たちにとって日常になっていた。
ある日、その「遊び」を彼の母親に見られた。
その時の彼女の目を、私は一生忘れないだろう。

そして、私は今、彼の名前を覚えていない。
あれだけ後悔したのに、彼の母親の目は今も鮮明に覚えているのに。
そのことがまた私に後悔を募らせる。
598蘇芳 ◆Ecz190JxdQ :2011/11/26(土) 11:25:19.28 ID:Om1VqXNl0

最後に追い打ちをかけたのは、シチリアから戻ってから聞いたリコの過去。
私はまた同じ過ちを犯したのだ。
リコの言葉に、ただ驚き黙り、逃げるしかなかった私。

だから、あれから私はずっと気持ちが晴れない。
今まで仕事で人の死はたくさん見てきたのに、それには慣れたつもりでいたのに。
生きている彼女たちのほうが、よほど私の心を抉る。

「エレノラ。
エレノラ!
何をボーっとしてるんだ。
行くぞ!」
「は、はい!」

いつのまにか、フェルミさんは書類作成を終えたらしい。
次の仕事がもう待っている。

この仕事が終わったら、ヘンリエッタにあの手帳のレシピを送ってあげよう。

The end
599蘇芳 ◆Ecz190JxdQ :2011/11/26(土) 11:33:22.04 ID:Om1VqXNl0
すみません、超ダークなものを注意書き入れ忘れて載せちゃいました…
カテゴリは「シリアス&ダーク」ですね…
タイトルは「後悔」です。

562さん
BGMありがとうございます。
もしご迷惑でなければ「この曲でSS書いて!」とかやっていただけませんか?
「いつもの蘇芳」じゃないものを書きたいとき、どうも自分だけでは限界があるのです。
歌詞が日本語じゃないといろいろ厳しいのですがw訳詞がある範囲でお願いできれば最高です。

感想をいつもくださる皆様にも感謝でいっぱいです。
今回はものすごく私っぽいダーク路線ですが、お許しください…

別の人生トリエラ編、大臣が来たら医者編と学者編もやってほしいです!w
ヒルシャーは医者、政治家、学者の3つを10巻であげてますからw
600CC名無したん:2011/11/26(土) 11:40:08.62 ID:rB2iTiHtP
シチリア篇、エルザの悲劇、儚く可憐なな2人の少女。
どうしようもなく心を惹かれ続けますね。乙です。