ToHeart2(トゥハート2)

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115M ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/27(火) 17:15:12 ID:6Mxwea0q0

「… (;´Д`)」
 漏れは固唾を飲んで見守ったよ 
 琴音ちゃんと葵ちゃんが薬物を常用しているなんて思いもよらなかったしこの目で見てもとても信じられない
 でも実際に琴音ちゃんは葵ちゃんに注射をしているんだ
 (まさか薬なんて、しかも注射ということは…いわゆる覚醒剤?それも錠剤の奴とかじゃなくて本気の奴)
 しかしそれなら葵ちゃんの最近の異常な態度や攻撃性も合点が行く だってテレビとかでもいろいろ言ってるし 人格が破綻していってもおかしくない
 呆然としている漏れはつい物音を立ててしまったよ
 というか葵ちゃんのおしりがおしりが
 ともかく身を乗り出すあまりつい漏れも社殿の中に足を踏み入れていたんだ
 ぎい とすこし傷んだ床板が音を立てた
「あっ、藤田先輩」
 琴音ちゃんはすこし驚いた風に言う
「見るなっていったのに…」
「琴音ちゃん、なんてこと…君たちはなんてことをしてしまったんだ!」
 思わず泣きそうになってしまう漏れ そんな漏れを琴音ちゃんは不思議そうに見ている
「何を言っているんですか、藤田先輩?」
 琴音ちゃんの代わりに答えたのは葵ちゃんだった
「いつもどうりトレーニングの後のケアをしているだけですよ。どうしたんですか、慌てて」
 葵ちゃんの声は平静そのものといった風だ 
「ねえ、琴音ちゃん」
「う、うん…そうだよね」
 対する琴音ちゃんは歯切れが悪い 
「トレーニング後のケアって…こんな麻薬みたいなものを注射するのがかよ!」
 漏れは叫んだ 葵ちゃんたちが心配だったからマジになった そしてこれからどうすべきなのか 警察に行くべきなのか それと病院に いろいろと考えた
「麻薬…?」
116M ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/27(火) 17:16:46 ID:6Mxwea0q0

 葵ちゃんが不自由な姿勢で上半身を捻って琴音ちゃんのほうを見る なんだか葵ちゃんはぼんやりとしていていっそう漏れの不安を煽った
 琴音ちゃんは注射針を抜いてガーゼをあてると葵ちゃんのおしりをゆっくりと円を描くように揉み始めた
 そして葵ちゃんと目を合わせると にっこり笑って首を横に振った
「藤田先輩、なにか勘違いしているんじゃありませんか?」
 琴音ちゃんはおずおずと話し始めた
「勘違いって…注射とかしてるじゃないか!」
「ええ、注射していますけど何か?」
「何かって(;´Д`)それって中身は」
 琴音ちゃんはさらりと言ってのける
「サプリメントです」
「サプリメントって… (;´Д`) 」
「ええ、ですからサプリメントですよ。葵ちゃんのトレーニングの効果を高めるための」
「でも注射なんて (;´Д`)」
「経口摂取より、筋肉注射のほうが効果の出やすい、というか効果が出ないものもあるんです」
「そうなの…?」
 漏れは驚いた 漏れが考えようとする間に 琴音ちゃんが畳み掛けてくる
117M ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/27(火) 17:19:19 ID:6Mxwea0q0


「中身はなんと言うことの無い栄養剤とかその他諸々ですよ。大体麻薬とかだったら筋肉注射なんて面倒で痛いことなんてするわけ無いじゃないですか」
 琴音ちゃんは執拗に葵ちゃんのおしりをもんでいる 葵ちゃんはおとなしくされるがままになっていた
 どうにも釈然としないが 漏れにはそうした知識は無い 勿論琴音ちゃんは葵ちゃんのために一生懸命勉強したはずなので詳しい
 漏れは疑問を感じながら その場は引き下がったよ
「ああ、先輩、奥のダンボールを取ってくれませんか?私今、葵ちゃんから手を放せなくて」
 社の薄暗い奥を覗き込むと奥に小さなダンボールが置いてあったよ
 漏れは素直に従って靴を脱ぐと社殿に上がりこんだ そして奥のダンボールを取って琴音ちゃんに手渡そうとしたそのとき、ダンボールの中身が目に入った
「……(;´Д`) ナンダコレワ」
 中身は大量の使用済み注射器とアンプルの山だった
「医療廃棄物ですからね。一般ごみとして出せないじゃないですか」
 琴音ちゃんは無造作に注射器とアンプルをダンボールの中に放り込んだよ ちゃりん、とガラスやプラスチックのあたる音が社殿の中で反響した
118M ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/27(火) 17:20:59 ID:6Mxwea0q0

 いくら栄養剤といっても こんな大量の注射をしているなんてと思うとちょっと怖くなったよ
 でも琴音ちゃんはちっともそんなこと思わないみたいだ
「そうだ、藤田先輩」
 琴音ちゃんは何かを思いついたように突然嬉々として漏れに告げたよ
「先輩も注射してみたらどうですか?」
「エエエ(;´Д`) 」
 そんな、俺が注射なんて、注射なんて
「どう、葵ちゃん?藤田先輩に注射してもらおうか」 
 琴音ちゃんが問い掛けたが返事が無い
「葵ちゃん?…ああ、眠ったみたいですね」
 琴音ちゃんが 少し不自然な形に捩れていた葵ちゃんの腕を整えた うつ伏せで眠る葵ちゃん 恐ろしいことにおしりが丸出しだ
「よっぽど疲れてたんですね」
 葵ちゃんの寝顔は安らかで まるで死んでいるようだった 
 さっきまであんなに激しく気持ちを高ぶらせていたのに すっかり静かに寝息を立てている
 漏れは今思うに 苦しいトレーニングや試合への恐怖から葵ちゃんが逃れることのできる唯一の方法が眠りだったんじゃないかと思うんだ
「でも漏れ、注射なんてしたこと無いよ」
「大丈夫、簡単ですよ。教えてあげます」
 漏れは矢張り躊躇があった 先ず注射なんてことすること自体に恐怖があったし それに
「その、葵ちゃんはいいのかな」
「大丈夫でしょう」
「でも葵ちゃんのおしりが」
 何しろおしり丸出しの葵ちゃんに寝ている隙に注射するのだ
「藤田先輩、葵ちゃんのこと好きなんでしょう?」
「何言うの琴音ちゃん、いきなり(;´Д`)」
「好きなんでしょう?」
 ぎらぎらした琴音ちゃんの眼に漏れは何も言い返せない
119M ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/27(火) 17:21:51 ID:6Mxwea0q0

「葵ちゃんだってきっと藤田先輩のこと好きですよ…おしりくらい見られたって平気です」
「琴音ちゃん…」
「さあ、葵ちゃんを強くするためです」
 漏れはその言葉に弱い 加えて琴音ちゃんの言うことにはどうにも逆らえなかった
「藤田先輩には是非葵ちゃんにこれをあげてほしかったんです」
 がさごそと持参した紙袋を漁る琴音ちゃん どこか楽しげだ そしてその楽しげな様子になぜか不吉なものを感じたんだ
「注射器は毎回新品を使うんですよ」 
 小さなクーラーボックスに入れた注射器とアンプルを琴音ちゃんは取り出した
「最初は注射器の針も太いのを使ってしまって…それがええとアレ…じゃなくて、サプリメントにあわなかったりしたんですよ」
「へ、へえ、そうなんだ」
 注射器を漏れに手渡した琴音ちゃんはアンプルのふたを取った それも漏れに手渡す
「さあ、液剤を吸い上げて」 
 なれない手つきで漏れは注射の準備を始めたよ アンプルのラベルはなにか英語が並んでいてよくわからない どうも輸入品のようだ
「…こうかな」
「はい。そうしたら爪で注射器を叩いて、泡を上のほうへやってください」

120M ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/27(火) 17:26:35 ID:6Mxwea0q0

 とんとんと注射器を叩くと 注射器の液体の中の気泡が上に集まってゆく ポンプを押してその空気を抜くよう琴音ちゃんに命ぜられ 言うとおりにしたよ
「琴音ちゃん、ちょっとでも空気が入るとやばいんだよね、死んじゃうんだっけ(;´Д`)」
「大丈夫ですよ。よっぽど大きな気泡でも入らない限り、空気塞栓は起こりませんから」
 言いながら琴音ちゃんは葵ちゃんの上からどいた
「さあ!」
 有無を言わせぬ琴音ちゃんの声 漏れは恐ろしく緊張して琴音ちゃんと入れ替わって 葵ちゃんの足元にまたがったよ
 葵ちゃんは全く無防備で漏れにおしりをさらしていた
 みんなきっと漏れがそういうと欲情したんだろうとかおかずか?おかずかよおい?とか言うだろう
 でも…そのときの葵ちゃんのおしりを見て 欲情できる人間なんてそうそういないんじゃないだろうか
「…葵ちゃん(;´Д`)」
 漏れは思わず呟いた 葵ちゃんのおしりは漏れにとって憧れというか とても見たくて見てみたくて仕方の無いものだった しかしいま漏れの眼下に置かれている葵ちゃんのおしりは
「どうですか、先輩?」
 琴音ちゃんが話し掛けてくる やめてくれ 今混乱しているんだ
「ねーえ、先輩。どうですか」
 琴音ちゃんは…明らかに愉悦に浸っていた 間違いなく 漏れの反応を楽しんでいる
「その…凄い」
「ねえ、かわいいおしりでしょう?」
 琴音ちゃんは漏れの動揺、畏れを愉しんでいた 間違いない
「かわいい…?」
 漏れがそんな感想を持っていないことは琴音ちゃんもわかっていたはずだ
 
121M ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/27(火) 17:28:41 ID:6Mxwea0q0

 漏れにあったのは驚きだ
 何に驚いたかというとまずその大きさだ
 勿論女性的な意味での大きさではない 安産型とかそういう 牧歌的な表現でなされるものではない
 圧倒的な筋量だ 特に中央部の張り出しが凄い 
 そしてさらに凄いのは 縦横に走っている筋繊維の深いスジだ 
 葵ちゃんのおしりは理科室の人体標本のようにいくつものセパレーションに分かれ その塊がまたいくつもの柱状のぼこぼことした肉のすじに分かれていた
 特に凄いのはおしりの割れ目付近のそれで 発達し隆起した尻の山に引っ張られて境目が低く小さく見えたほどだ
 
 これは尻ではない 葵ちゃんの格闘家としての資質を支えるパーツに過ぎない 少なくとも性欲の対象となるものではない
 それまでも葵ちゃんの足や腕がどんどんと引き締まってゆく様を見て驚愕していたが 尻という女性らしい部位がこうも変貌しているなんて思いもよらず 漏れは 漏れは漏れは
「うふふふ、あはははは!」
 琴音ちゃんが笑う
「琴音ちゃん…」
「ホラ、藤田先輩が大好きな葵ちゃんのかわいいおしりですよ。触ったって良いですよ、あはは」
 漏れには琴音ちゃんがなんでそんなに嬉しそうなのかわからなかったよ(;´Д`)
「触るなんて、そんな」
 くすくすとわらう琴音ちゃんは 葵ちゃんとはまた違った怖さがあった 漏れは全く歯向かうことができないんだ
「そうですね。じゃあとりあえず注射をしてあげてください」
 そういうと琴音ちゃんは漏れに注射する場所を指示し始めた 正確には 注射する場所を見つける方法というか
 丹念におしえる琴音ちゃんはやはり大喜びで そして漏れはその後も何度か葵ちゃんに注射を施すことになる 今から思うと 琴音ちゃんは漏れにあの後も注射をさせるつもりで教えてたんだな(;´Д`)

122M ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/27(火) 17:29:38 ID:6Mxwea0q0


 それからほどなくして葵ちゃんは目を覚ました 随分疲れた様子でとても不健康に感じられたのは 漏れが注射なんかをしてしまったからだろうか 目の下に隈ができていて酷い有様なんだ(;´Д`)
 勿論注射してすぐにブルマとパンシは元どうり履かせておいたのだけれど 漏れが葵ちゃんに注射をしたことを琴音ちゃんが教えると 葵ちゃんは酷く恥ずかしがったよ 
 やっぱり悪いことをしてしまったようだけれど 別にお仕置きされることも無く ただ見ないように言っておいたのにとそれだけは叱られたよ
 要するに肌を露出するから外では注射ができない それで仕方なく神社の中でしていたんだそうだ
 すっかり遅くなってしまった 勿論照明などないので日が暮れたらエクストリーム同好会は終わりだ 漏れたちは帰り支度を始めたよ
 そのとき アンプルの容器を漏れはポケットにしまいこんだ なんとなく後で調べてみようと思ったんだ
 琴音ちゃんを家まで送ると漏れは葵ちゃんと二人になった 漏れは念のため それとなく葵ちゃんにその注射が麻薬の類ではないのか聞いて見た
「あのさ葵ちゃん、あの注射って、その…違法なものじゃないの?」
「違法って…!そんなわけないじゃないですか!藤田先輩ヘンです」
 葵ちゃんは漏れの言葉を一蹴した
「大丈夫ですよ、琴音ちゃんはちゃんと国産のものか、税関を通したものを取り寄せているみたいですし」
 ニコニコと笑う葵ちゃんは疲れていても愛らしい
 そう 表情はとても愛らしいんだけれど その体はまさに おぞましいまでの無駄を削ぎ落とした筋肉の塊だった
 そのギャップに漏れはくらくらと眩暈がするような気持ちになったよ
「それに筋力の向上が凄いんですよ!あと回復力も凄くて、どんなに辛く激しいトレーニングをしても翌日には回復していてまたトレーニングができるんです!例えば…」
 そう言って琴音ちゃんのサプリメントの効能について語る葵ちゃんは実に満足げだった 何処となく琴音ちゃんに似た不気味さを感じて漏れは「お、おう…」とか、そんなあいまいな受け答えしかできなかったよ(;´Д)


123M ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/27(火) 17:54:31 ID:6Mxwea0q0
あと2,3回で終わりになるとおもいます
目障りでしょうが、お許しください9
124M ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/27(火) 17:57:16 ID:6Mxwea0q0
すまんミスってあげてしまった
ホントゴメン
125CC名無したん:2005/12/27(火) 18:45:42 ID:hOo37ldf0
CSの場合は24日特別編で次は12話
たぶん1月6日13話最終回
126CC名無したん:2005/12/27(火) 18:51:29 ID:hOo37ldf0
7日かな?
127ゴッドエホバ大聖人:2005/12/27(火) 20:07:38 ID:BJ/y9/Uv0
アナルからグリセリンってのはどうだ!

うらー!!!
128むらた ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/29(木) 22:52:13 ID:k9i5zEh30
「いよいよ明日、坂下との練習試合だね、葵ちゃん」
 とうとう決戦の日が迫ってきていたよ
 漏れたちエクストリーム同好会(総勢三名)は最後の練習のために神社に集まっていた
 葵ちゃんも琴音ちゃんもこの一週間授業には出ていない かくいう漏れも半分くらいしかでていなかった
 一つには 葵ちゃんの発達をきわめた身体を見せたくなかったというのもある あれから葵ちゃんはさらにパワーアップを果たした 時々顔を出す町の道場ではもはや練習にならないらしい 
(葵ちゃんは多くを語らなかったが何人か病院送りにしていると聞く)
 そのため空手部員たちにはビルドアップされた葵ちゃんを見せたくはなかったのだ

 この数日葵ちゃんはとうとう精神的な最後の余裕を無くしつつあった そして琴音ちゃんが葵ちゃんい与える薬品や”サプリメント”の量も半端なものではなくなりつつあった

 
 ああ 駄目だ 酷いことになってしまっている そして漏れはそれに荷担していたんだ(;´Д`)
 知らぬこととはいえ許されることではない
 強くなりたいという葵ちゃんの言葉に逆らえず 琴音ちゃんの不吉な笑いに耐え切れず漏れは漏れの大切な葵ちゃんの体の中に恐ろしいものを入れ そうして…

129むらた ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/29(木) 22:53:26 ID:k9i5zEh30
 葵ちゃんの攻撃衝動の異常な昂進はとどまることを知らなかった そして恐るべき副作用 そうしたものも葵ちゃんの肉体を徐々に蝕んでいた
 男性化現象 皮脂の増大 体毛の増加 気分の変調 そして目に見えない甲状腺やホルモンバランスという 真に恐ろしい副作用はこれから始まるのだが そのときの漏れたちには知る由もなく

 あれからときどき葵ちゃんにチンコを踏んでもらったりいろんな形で窒息させられかけたり 言葉責めに合ったりもしたけれども それでも漏れは葵ちゃんのそばを離れることができなかった この勝負を見届けなければならない
 いまは琴音ちゃんの”サプリメント”の影響でこんなに荒れた性格になっているが 坂下を倒し綾香に自分を認めさせることができれば葵ちゃんはまたもとのさわやかな格闘美少女に戻るに違いない

 漏れは夢想した にこやかな笑顔で、時に真剣な表情でランニングやらシャドーを行い、汗を流す葵ちゃんを応援しエクストリームで勝ち進むことを そして日本を 世界を制することを
 
 それは幸せな未来だった 漏れ 琴音ちゃん葵ちゃん 3人で世界を目指すんだ 最高じゃないか!
130むらた ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/29(木) 22:55:40 ID:k9i5zEh30




 葵ちゃんは最後の調整としてサンドバックに向かっている 猛烈な打撃音だ そして


「坂下!殺す!綾香!殺す!」



 ・・・我に返った…(;´Д`)
 こぶしを叩きつけるたびに恐ろしい形相になってゆく葵ちゃん
 あのたおやかでしなやかな葵ちゃんの肢体の面影はない
 いま目の前にいる葵ちゃんは極限まで筋肉が膨らみパンパンに腫れ上がり 体はまるで3倍にも4倍にも大きくなったよだ けれど脂肪はこれっぽっちもついていない 躍動する体に合わせて筋肉が震えるのだがその重量感は…女性のものとは思えない
「殺せ!坂下!殺せ!」
「殺す!殺す!殺す!」
「綾香を殺せ!打ち殺せ!」
「綾香!殺す!」
 琴音ちゃんが葵ちゃんの後ろにたってバッグうちに合わせて叫ぶ 漏れには明日の試合が不安で不安でならなくなったよ
 実は昨日 坂下に話をしに言った 葵ちゃんはお前を殺すかもしれないと伝えた しかし坂下はまともに取り合おうとはしなかった 本当に試合をするのか こんな葵ちゃんと…

 もう漏れには判っていたのだ このころには
 さすがにもうこんなでたらめな結果が出るはずがない 
 なにかとんでもないことをやって葵ちゃんは強くなったのだ
 だがそれで本当にいいのだろうか…漏れには判断できない
「殺せ!殺せ!殺せ!」
「殺す!殺す!殺す!」
 ドシドシっという重たい音が間断なく続く あの突きとけり一つ一つが致命打になるのだ

131むらた ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/29(木) 22:57:19 ID:k9i5zEh30

 漏れは…漏れは葵ちゃんのことが好きだ
 そして好きなら本当にこのままで良いのか?葵ちゃんはこのままでいいのだろうか?
 漏れは自問自答した 考えて考えてそうしてあることに思い至ったんだ
 
 アンプル…
 葵ちゃんに初めて注射した日アンプルの空き瓶を持ち帰った
 あのアンプルは確か家にあったはずだ ラベルを見て調べてみよう
 漏れは練習に熱心な二人に告げた
「漏れ、明日の準備あるから帰るね」
「……っ!…」
 どすどすとバッグを叩く葵ちゃん その瞳にはもはや狂気しかない
「あした、放課後、道場で」
 漏れは琴音ちゃんい告げた 琴音ちゃんは少し怪訝そうな顔をしたが了承したようだ
 もう彼女たちの視界には漏れは入っていない
 漏れに攻撃性を向ける余裕すらない
 全ては明日の試合 試合相手の坂下に向かっているのだ

132むらた ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/29(木) 22:58:38 ID:k9i5zEh30
 葵ちゃんは 殺る気だ
 それはもう痛いほど伝わってきた
 明日行われるのはスポーツでも武道でもない
 そして…殺し合いでもない 恐らくは一方的な殺戮だ
 漏れには判るのだ葵ちゃんが別次元に行ってしまったのだと
 
 漏れはあのアンプルをしまった場所を思い出しながら家路を抱いた
 しかしあのアンプルが仮にとんでもないものだったとして
 どうするのだ公表すれば葵ちゃんは坂下との試合 いや…格闘技人生をフイにするかもしれないのだ
 だからといって黙っていたら…
 漏れは迷いながら家路を急いだよ

133邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/30(金) 22:14:05 ID:O54GzvQs0

 漏れは家に帰ると引き出しにしまってあったアンプルの壜のラベルを見たよ
「Plimobolan…プリモ、なんだ(;´Д`) ?」
 読み方が判らないのでとりあえずギコギコとインターネットで調べてみることにした
 ギコギコ…
 ググル先生で検索かけても英語のサイトばっかりヒットするんだ
 後は通販のサイトだ これは日本語のものもある。漏れは試しにそのサイトを開いてみた
 漏れの眼に飛び込んできたのはそっけない業者の販売ページだった
 やけにあっさりとかいてある

「プリモボランデポ:蛋白同化ステロイド」
 金額も半端じゃない 個人輸入代行の業者のようだが 特に説明書きもなくただ商品名と注文ナンバー その他数字と記号が羅列してあるだけだ
 ステロイドというと 昔友人でアトピー性皮膚炎の奴がいて 塗り薬を塗っていたようだが 皮膚病の薬ではないのだろうかと漏れは疑問に思ったよ

 もっとちゃんと英語の授業を受けていればと後悔したが後の祭りだった
 ステロイドで検索すればやはりアトピーの人向けのサイトばかりヒットする
 別に葵ちゃんは皮膚が悪いわけでなく むしろ肌は綺麗なほうだというかすべすべでつるつるでどうにもたまらない とくに葵ちゃんの足と足の裏は絶品で 足の裏で漏れの敏感なところをすりすりされると
 ああいかんつい脱線した
 とにかくステロイドでは埒があかない
 小一時間もギコギコしていただろうか 漏れは一計を講じた
「筋力 ステロイド」
 これでどうだ 
 ギコギコギコ…
 検索で表示されたそれは驚くべきものだった

134邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/30(金) 22:15:12 ID:O54GzvQs0

 漏れがざっと見たところによると ステロイドというのは要するに筋肉や筋力をつけるために使う薬物らしい それも成長ホルモンに作用して女性ホルモンを抑えたり 男性ホルモンを増やしたりという働きをするらしい
 漏れはその作用に関しては良くわからなかったよ でもその副作用についての様々な記述を見るにつけ漏れは自分でも血の気が引いていくのが判ったよ(;´Д`)
 
 とりわけ目を引いたのがステロイドを使用した人たちの末路についてだ
 あまり表面には出てこず 具体的な用例に名前は出てきていなかったが 有名なプロレスラーや 野球選手が命を落としたり重篤な障害を引き起こしている
 勿論格闘家にもそうした噂は常に付きまとい だれだれは”ユーザー”だとかいう噂話でインターネットの掲示板は持ちきりだった
 性欲の昂進 気分の変調 抑うつ状態 そうしたものには確かに葵ちゃんに現れていたが それにもまして気がかりなことというか 副作用についての記述は恐ろしい、おぞましいものがあって漏れは激しく動揺したよ(;´Д`)
 特に酷いのは葵ちゃんにの”女性”という部分に対する悪影響なんだ
 甲状腺の異常とかホルモンバランスとか難しいことは良くわからないが とにかく葵ちゃんの健康にとってとても危険なことだけは良くわかった
 漏れは矢も盾もたまらなくなって琴音ちゃんに電話をすることにしたよ
 いろいろと問い詰めたいこともあったが あれこれ考える前に電話機に手が伸びていた

135邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/31(土) 15:57:42 ID:f9WzDUd70

「あのー姫川さんの…ああ琴音ちゃん?漏れだよ漏れ」
「え?藤田先輩?」
 いきなり電話に出てくれたのが琴音ちゃんで助かった (;´Д`)
 琴音ちゃんの様子は至って普通でちょっと驚いている風だった
「琴音ちゃん、ややこしい話は苦手だから率直に言うけど」
「はい?」
 まるで平静な態度なんだ 漏れはなにか自分の調べたことがとんでもない勘違いとか そういうものであるような気がしたよ
 もしそうだった場合 一生懸命遣ってきた葵ちゃんと琴音ちゃんを侮辱することになる
 それはどうしても避けたかった けれど琴音ちゃんたちの不興を買って…
 呼び出し>詰り>罵り>殴打>スパンキング>局部踏みつけ>スパンキング>局部踏みつけ>スパンキング>局部踏みつけ>スパンキング>局部踏みつけ>スパンキング>局部踏みつけ

「ハァハァハァハァ」
「藤田先輩?先輩?」
「ああごめん、ちょっと頭に電波が」
「もう、なんなんですか」
「ええとな、その。葵ちゃんの注射のことだ」
「…注射?」
 眉をひそめる気配がこちらまで伝わるようだ 矢張り琴音ちゃんは気を悪くしてしまったようだ でも漏れも口に出してしまった以上引き下がるわけには行かない
「そうだ。漏れは自分で調べたんだ。このあいだ葵ちゃんに漏れが注射したときのアンプルの壜があっただろ。あれを家に持って帰ったんだ」
「…へえ」
 そっけない返事が気にかかるが続ける
「漏れはラベルの薬品の名前でインターネットで調べた。プリモブラン、いっぱい薬品の業者の宣伝ページが出たよ。其処からいろいろ調べているうちに」
「ステロイドのことですか?」
 琴音ちゃんの口からさらっとその名前が出た 漏れはぎょっとして二の句が継げなかった
136邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/31(土) 16:01:32 ID:f9WzDUd70

 琴音ちゃんも葵ちゃんもそんな危険な薬物に手を出していることを隠したいはずだし 事実漏れには一切告げていなかったからそれは間違いないと思っていた でも
「ええ、あの時藤田先輩が葵ちゃんに注射したのはアナボリックステロイドの一種ですよ?それがどうかしましたか?」
「… (;´Д`)」
「もしかしてなにか危険な副作用があるとでもかいてあったのですか?嫌ですね先輩、それは頭の悪い人が頭の悪い使い方をした場合の話ですよ」
「でも下手をすると死んでしまったり…」
 溜め息を付く琴音ちゃん
「あのですね、先輩。副作用のない薬物なんてないんですよ。例えばちょっとまえ話題になったバイアグラってありましたよね。
あれも元は血圧の薬だったのを、性機能の回復に効果があるという副作用が発見されて、それでそういう使い方をするようになったんです。それとかたとえばドグマチールという胃薬は…」
 葵ちゃんはぺらぺらと話し出した とても饒舌な様はすこし不自然なほどだったよ
「あ、あの (;´Д`)琴音ちゃん?」
 漏れは延々と続く琴音ちゃんの話を遮った
「それって、葵ちゃんもわかっているの?」
 明るく琴音ちゃんが答える 即答だった
「ええ、勿論ですよ。リスクも説明した上で葵ちゃんは使っています。来栖川綾香に勝つためだって言ったらなんだってあの子プクスクス……ああいえ、とにかく葵ちゃんは喜んで使っていますよ」
137それでは皆さん良いお年を ◆PIjcvUfWbQ :2005/12/31(土) 16:02:33 ID:f9WzDUd70

 漏れの心配が過ぎたのだろうか それにしても漏れはインターネットで調べた浅はかな知識で琴音ちゃんを疑ったことをそのときは恥じたよ
「ごめん…琴音ちゃん。漏れはなにか葵ちゃんや琴音ちゃんが不正な手段でスポーツをしようとしていたように思ってしまった。漏れは恥ずかしいよ」
 息を呑む気配 琴音ちゃんは漏れの真摯な告白に押し黙った
「漏れは最低な人間だ、一生懸命な葵ちゃんや琴音ちゃんたちを疑うなんて…本当にごめん」
 琴音ちゃんは漏れの誠意が通じたのか黙ってしまった 漏れは耐え切れなくなって 明日の葵ちゃんの健闘を祈る言葉を口にして 電話を切ろうと思った そのときだ
「一度回り始めた歯車は、止めることはできないんですよ」
 
 このときの琴音ちゃんの言葉は、その後の葵ちゃんの身体機能をそのまま暗示していたのだが その時は知る術もなかったよ
「え…?」
「なんでもありません、お休みなさい」
「ああ…夜遅く、悪かったな琴音ちゃん」
 ぶつっ 琴音ちゃんのほうから電話が切れた むなしく電話の発信音だけが受話器から聞こえるだけになった
 漏れは釈然としないまでも 疑念が払拭されて安堵したよ
 後は明日の試合だ 
 異常なまでに気合の入りすぎた葵ちゃん レフェリーは誰がやるのか判らないが もし葵ちゃんが坂下をとんでもなく痛めつけるようなことがあったら 漏れが体を張ってでも止めなくちゃならない
 それは勿論坂下のためでなく 葵ちゃんのためなんだ
 いくら計算されて投薬しているとはいえ危険な薬物を摂ってまで勝負にかける葵ちゃんに漏れは健気さと そしてすこしの哀しみを感じたよ (;´Д`)
 
138あけましておめでとう ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/02(月) 18:04:32 ID:cC13XZPA0

 ついにその日がやってきたよ
 葵ちゃんと坂下の決戦の日 いや エクストリーム対伝統的な空手の戦いだ
 両者にも意地がありプライドがある だから負けられないんだ
 そう 負けられない それは漏れにもわかる だがだからといってこういう結果を生むことになるとは 
 随分と誰かが手を回したらしく 放課後の武道場は随分と盛況だった 暇な生徒がどんどんと集まってきてえらい騒ぎだったよ
 格闘技ブームの昨今 話題のエクストリームと空手の異種格闘技だ ちょっと口コミで広がれば それはみんな興味を示すことだろう
 そしてそれは坂下が自ら広げたというのがもっぱらの噂だった 負けたら葵ちゃんエロビデオ出演というのもやたらと広がっていて どうも周知の事実となっていたようだ
 あまりにもよゆうたっぷりの坂下 しかし漏れは不安だった もちろん葵ちゃんが負けるなんてこれっぽっちも思っていない 漏れはもう坂下の身を案じていた 試合前、坂下はニヤニヤしながら葵ちゃんを煽るんだ
「松原、今日こそエクストリームが格闘技でもなんでもない見世物だって証明してやるぞ」
葵ちゃんも琴音ちゃんも無表情に聞き流すだけだ
 そのときの葵ちゃんはトレードマークの赤いブルマを長袖のジャージで包み 発達した体を隠していた
 もしあの時坂下が葵ちゃんの体をつぶさに見ていたら…恐らく酷く動揺しただろう
 葵ちゃんはこのときすでに漏れより太い上腕、血管の走りまくった前腕や大腿を持っていた
 一見してただの体でないと判る それは鍛えているというレベルではなくて 改造人間というのがふさわしい 
 その体を短い期間で作り上げた葵ちゃんの精神力はすさまじいものがある
 
139邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/02(月) 18:07:05 ID:cC13XZPA0

 準備のためそれぞれが別室に下がった
 おおごとになってしまったため 坂下は空手部 葵ちゃんは体育用具室をそれぞれ控え室として準備することになった
 恐らく坂下は道場で後輩たちに大口を叩いていることだろう
 葵ちゃんはいつもの体操服とブルマに着替えて オープンフィンガーグローブを手にはめるだけだから準備はあっという間だ 試合まではまだ時間があった
 漏れは葵ちゃんを不安げに見つめることしかできなかった 
 けれども
「あああ、藤田先輩、琴音ちゃん、どうしよう!わたしとても不安です、負けちゃったらどうしよう、ああ、絶対にかてっこない」
 急に葵ちゃんが不安におののきだしたんだ
「坂下先輩も、もちろん綾香さんだってとっても強いんです。わたしなんてどうしようもなくドン臭くてつまらないちんちくりんのチンカス女なのにこんなだいそれたことをして、おまけにまけたら…あああ!」
 あんなに自身まんまんだったのに…
 この不安定さも 薬物の副作用だったのだが そのときの漏れは知る由もなくて
 葵ちゃんは本当は不安でたまらなかったんだ だから漏れをあんなふうに扱って自信を
 漏れは誇らしい!葵ちゃんの役に立つことが出来て
 そのときはそう思ったんだよ
「さあ、葵ちゃんこれ」
 そんな葵ちゃんの様子を見て取った琴音ちゃんが かばんから取り出した薬壜から錠剤をじゃらっと掌にあけた
 その白い錠剤はなんともまがまがしい光沢を放っていたが 琴音ちゃんに全幅の信頼を置いているのであろう葵ちゃんは なんの躊躇もなくそれを多めの水とともに飲み干したよ
140邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/02(月) 18:08:21 ID:cC13XZPA0

 効果はすぐに現れた
「あはははは」
 葵ちゃんは突然笑い出した 漏れは琴音ちゃんを見る 琴音ちゃんは満足そうに漏れを振り返った
「あの、琴音ちゃん…?」
 琴音ちゃんは笑って返事をする
「血糖値が下がっていたんですよ葵ちゃんは。え?なんですか?錠剤の成分ですか?ブドウ糖ですよブドウ糖」
 漏れはそうなのかと感心した 思えばマヌケな話なのだがそのときはそれで納得したのだ
「あはははは!坂下!殺す!坂下!殺す!」
 急に怖いことを言い出す葵ちゃん
 しかし琴音ちゃんはまるで動じずに
「そうよ葵ちゃん!殺すのよ!坂下を殺して、そして、そして!」
「そう、来栖川綾香を殺す!殺す!殺す!」
 葵ちゃんはファイティングポーズをとるとシャドーを始めた
 まるで空気を切り裂くようなパンチ 本当に今の葵ちゃんは人を殺しかねない
 漏れは不安で不安でたまらなかったけれど でもこれが葵ちゃんの願いだったのならと押さえ込むことにしたんだ

 そして試合の時間がやってきた
 体育館に作られた特設のリング
 そこにいたのは空手部の連中と そして
 制服姿の 来栖川綾香だった

141邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/02(月) 18:11:40 ID:cC13XZPA0

 よくもまあこれだけのリングが用意できたものだと思ったよ
 ポストもしっかりと立っているし ロープもぴんと張っていて まるで本物のリングだった
 後から聞いたのだが 全て綾香の差し金だったらしく 綾香がそのあたりを金にものを言わせて作らせたそうだ 
 ある意味物凄く余計なことだったが金持ちのすることは良くわからない
 まるで映画のように葵ちゃんはリングまでの道を進んだ ライトアップこそされていないが 生徒たちの見守る中リングへの道を進む葵ちゃんはまるでプロの格闘家のような貫禄が合ったよ
 ステップに足をかけ リングに上がる葵ちゃんはもうやる気まんまんで そして綾香のほうを物凄い目で見ていたよ
 葵ちゃんに付き従う琴音ちゃんが葵ちゃんに声をかける
「葵ちゃん、ノックアウトよ!ノックアウトよ!」
「殺す!殺す!殺す!」
 明らかに様子がおかしい葵ちゃん
 いつもにもまして気合が入っている いや入り過ぎだ 綾香をじっとにらんで殺す殺すを連呼した後は コーナーポストにこぶしを置いて頭をつけ 何かを祈っている
 
142邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/02(月) 18:13:03 ID:cC13XZPA0

 そして坂下の入場だ さすがに坂下も戸惑っているが やはり余裕があるのだろう
 ゆっくりとリングインすると 葵ちゃんのほうへ歩いて近寄ってきた
「葵、わかっているわね、これが終わったらあんたは
「うふふふ、エロビデオ出演ですか?」
 ひるむ坂下 いつものあの豪胆な表情がさっと消えうせる
「そんなの、どうでも良いですよ」
「いや違うんだ。あれは売り言葉に買い言葉で…本当は葵には空手部に」
 葵ちゃんは笑った
 そう 笑った あざけりを含んだ笑いだった
「あははははは!!」
 冷たい笑い その場の全てが凍りつく
 アハハハハハハハハハ・・・・・・
 むなしく広い体育館に広がる笑い それは全く狂人のような笑いで 坂下は怒ることも忘れて呆然とそんな葵ちゃんを見つめることしかできないんだ
 そこに制服姿の綾香が割って入る
「私語はそれまでよ」
 余裕たっぷりの綾香はまさに女王の風格を漂わせていた 葵ちゃんの様子を見ても動じることがない
143邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/02(月) 18:14:36 ID:cC13XZPA0

「審判は私がするわ」
 そう 綾香がこの試合のレフェリーをするのだ ある意味これほど優れたレフェリーはいないのだが葵ちゃんはまたじっと綾香の方を見つめる
「…葵?」
 綾香はさすがに葵ちゃんに声をかけた
 思えば綾香は葵ちゃんに尊敬のまなざしを向けられることこそあれ 敵意をもって睨み付けられることなどなかったはずだ
 いや 彼女の人生の中で そこまで狂った悪意を向けられたことがあっただろうか
 バッティングやローブローに関する注意などを綾香が行っている間 坂下はひるんでいないことを誇張しようとしたのだろう ヘンにおどけたり 後輩の声援に手を振って答えたりした
 坂下は同性のファンが多い
 応援に来た女性のうち、空手部の坂下の後輩を除いても 観客のうち女の大半は坂下に声援を飛ばしている
 翻って葵ちゃんは男の期待を込めた視線が多いようだ
「やはりエロビデオ出演の話が利いているな…」
 漏れはその下種な期待に腹を立てると同時に葵ちゃんの漏れに対する様々な仕打ちを思い出していた
 奴らはきっと葵ちゃんは恥ずかしがり屋で負けたらエロビデオ出演という条件を悲壮な決意で受け取っていると考えているに違いない
 葵ちゃんが漏れのチンコを毎日のように踏みまくっていることを知ったらどんな顔をするだろう?漏れは少し愉快な気持ちになった ちっぽけな優越感だ
144邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/02(月) 18:15:49 ID:cC13XZPA0

 レフェリーの注意が終わった 坂下はおどけたついでに要らぬことを葵ちゃんに言う
「ノックアウトだ」
 そういうとグラブを合わせる代わりに 思いっきり葵ちゃんが体の前に構えていたグラブに 丁度鉄槌を下す要領で思い切り自分の拳骨を叩きつけた
 当然勢いで 葵ちゃんの腕は下方に弾き飛ばされるかと思ったが 葵ちゃんの腕はびくともしない
 そう まるで動かずまるで鉄柱を殴ったようにそのまま固まっていたんだ
 驚愕の表情の坂下 無表情の葵ちゃん やがて吐き捨てるように言う
「綾香さん」
 寒寒とした声に綾香はぎょっとした顔
「試合でもし人を殺してしまっても、罪にはならないですよね」
「…え?」
 綾香はあっけにとられ そしてすこし慌てた表情になった まったくあんな綾香を見ることになるとは意外だった 答えを待たず葵ちゃんは会話を打ち切り背を向ける
 その様はあまりにもクールで 漏れは怖いと思うと同時に すこしかっこいいとも思ったよ(*´Д`)
145邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/02(月) 18:18:41 ID:cC13XZPA0

 葵ちゃんがいったんコーナーに戻ってくる
「葵ちゃん、練習どうりよ!いつものように相手を襲って、どんな汚い手を使っても殺すのよ!」
「うん!殺す!坂下も綾香も殺す!犯して殺して犯して殺して犯して殺してやる!」
「その意気よ、葵ちゃん!」
「殺す…殺す!殺す!殺す!]
 ……(;´Д`)
 これは試合前だから、興奮しているから過激になっているんだと そう信じたい
 そして葵ちゃんはそこで初めて長袖のジャージを脱いだ
 まずジャージのズボン そして上
 そうしていつもの体操服とブルマになった葵ちゃんを見た場内はどよめいた
 遠目にもわかる 恐ろしいまでにビルドアップされた葵ちゃんの体
 発達しきって、そして無駄な脂肪は一切ない 完璧な肉体
 脚部は丸太のように張り詰めた大腿 膝へ向かって絞り込まれそこから下腿部へ 見事に二つに分かれたカーフ
 上腕は子供の胴体もあるほどの腕 そして前腕部 
 きっと服に隠された部分も恐ろしい肉体であるに違いない
 そして体のすべてに 異常なまでに血管が浮きまくっている
 まさに筋肉の城というべき葵ちゃんの肉体は 体育館の2階から遠巻きに眺めるギャラリーにも良くわかったことだろう
 葵ちゃんは人類を超えた


 …いや 人間をやめた!
 フリークス…いや その表現すら生ぬるい
  
 坂下も目を剥いている 勿論綾香もだ 危うく綾香はこちらへ歩いてきそうになって思いとどまった レフェリーという公正を求められる立場が綾香をそこに押しとどめたんだ
 でも そんな縛りがなければ綾香は多分看破していただろう 葵ちゃんたちがおこした”罪”を そして責めたに違いない
 葵ちゃんが一体何をしてこの場に臨んだのかということを…

146邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/04(水) 01:48:49 ID:9Ki/DwHh0

 そして第一ラウンドのゴングが鳴った
 
 二人ともお互いゆっくりコーナーを出る
 と、坂下は猛然とラッシュしてきた その表情には明らかに恐怖が混じっている
 葵ちゃんの体を見て 恐慌に駆られたのだろう 焦りに焦った攻撃はなりふりかまっていなかった
 がんがんと葵ちゃんに坂下の攻撃があたる 全部命中だ 重たそうな突きやけりが顔面にもヒットする
 一方的にやられる葵ちゃん 漏れは思わず叫んだ
「葵ちゃん!ガードだガード!なにやってんだ!」
 しかしその漏れの肩を琴音ちゃんが掴んだ
「…大丈夫ですよ」
「でも琴音ちゃん(;´Д`) 随分打たれてるよ」
「葵ちゃん、下がってませんし」
 たしかに葵ちゃんはまるで下がらず坂下の攻撃を受け止めている しかしいくらなんでも酷く打たれすぎではないだろうか
「あはははは!」
 琴音ちゃんが笑う
「ねえ、藤田先輩!」
 リングの喧騒に負けぬよう琴音ちゃんが漏れの名を呼んだ
「なんだよ…っ」
 漏れは葵ちゃん心配でついぞんざいにこと音ちゃんに答えた
 しかし琴音ちゃんはそんなことに頓着せず
「藤田先輩は、人殺しでも好きでいられますか!」
「…なんだって?」
「葵ちゃんが人殺しになっちゃっても、愛せますか?」
147邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/04(水) 01:50:27 ID:9Ki/DwHh0

 一方的な試合展開に場内からは「見掛け倒し」「エロビデオ」などの囁きが聞こえた
 それでも葵ちゃんは一歩も引かない それに坂下はむしろさっきより必死の形相で葵ちゃんを激しく打った
「琴音ちゃん、訳のわからないこといってないでちゃんと応援してくれよ (;´Д`) 葵ちゃんやられちゃうよ」
 しかしにやにやと笑う琴音ちゃん
「作戦どうりですよ。わざと打たせているんです」
「なんだって (;´Д`) 」
「だから、わざと打たせているんですよ。一応坂下先輩も上級生だし、すこしは立てて上げないと」
 漏れは怒り驚き呆れ そして怒鳴った
「ぜってーうそだよそんなの!葵ちゃんがそんななめたことするわけねーじゃんか!」
 その次の瞬間だった
 打たれていた葵ちゃんがいきなり反撃した
「うぎゃあああ!ぐぎゃあへいあkっぎうぇrq」
 人間のものとは思えない悲鳴とともに吹き飛ぶ坂下
 漏れはあっけにとられた 小学校のころからなんどか殴り合いのけんかも見たが これほど人が吹っ飛んでしまうのは初めてだったのだ
 葵ちゃんが何をしたのかはよく判らない フックかストレートかアッパーか とにかく殴りつけたのは確実だと思う
 なぜならそのとき坂下の左顔面は完全にへしゃげており 頬骨は折れて陥没していたのだ
148邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/04(水) 01:51:54 ID:9Ki/DwHh0

 漏れが琴音ちゃんの方を向いていた一瞬の間に それがおこり 振り返ったときには坂下は宙を舞っていたのだ
 しかし惨劇はそれではおわらなかった
 葵ちゃんは反対側のコーナーに坂下を押し込むと 物凄い勢いで坂下を殴り始めた
「ふんっ!ふん!ふんっ!」
 葵ちゃんが無慈悲に坂下にこぶしを打ち込む
 時折お腹や足を蹴ったりしている
 5発まで数えてやめた 何か赤いものがロープやマットに飛んでいる
 坂下の血だった
 見れば坂下は顔をぼこぼこに晴らしすっかり顔の形を変えていた
 頭部までへしゃげておりジャガイモのようなすさまじい部品に成り果てていた
 そしてぐったりとロープにもたれかかり 葵ちゃんの攻撃を受けつづけている
 葵ちゃんは無表情で ただ坂下をひたすらに打ち据えつづけた
 これは試合ではない もはや虐殺だ 漏れはそう思った
「人殺しになっても好きでいられるかだって?冗談じゃねえ!好きな人に人殺しなんてさせたくねーんだよ!」
 漏れの叫びは琴音ちゃんに届いただろうか とにかく勝負はついた
「おい綾香!なにやってんだてめえ!ロープダウンだろうが!坂下のダウン取れよ!」
 漏れは綾香に向かって叫んだ 綾香は呆然と目の前の情景をただ見ている
 綾香らしくないことに あまりの自体に我を忘れたようだ
149邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/04(水) 01:52:44 ID:9Ki/DwHh0

 綾香が割って入ろうとする
「葵、ダウンよ!コーナーに…」
 そのときだった 葵ちゃんの狙い済ました必殺のハイキックが見事に坂下の側頭部にヒットした バランスを崩した坂下の鼻からはまるで押し出されるように盛大に鼻血が噴出し マットを汚した
 見れば葵ちゃんも返り血を浴びて真っ赤だ
 ブルマの赤より真っ赤な葵ちゃんの体
 それは恐ろしく印象的な光景だった
 真っ赤に染まった顔面の 眼だけが光っている 血に飢えた獣だ 
 ずるずるとまっとに崩れ落ちた坂下 もはやカウントの必要もない 腕時計から顔を上げた琴音ちゃんは満足げに呟いた
「58秒…まあ、秒殺というか、分殺ですか」
 漏れは琴音ちゃんを振り返った 声とは裏腹に魂が抜け落ちたような表情だった
「好きな人を人殺しにさせたくない、ですか。間に合いませんでしたね」
「…っ!」
 漏れは慌ててリングに分け入った
 ざわつく体育館ではこの一分あまりの残酷ショーに興奮するもの 泣き出す女子生徒 引きまくる奴など様々だ 
 どっと乱入してきた空手部の部員たちが坂下を介抱する
「保健室へ」「バカ救急車だ」
 混乱する部員たちを冷ややかに見つめる葵ちゃん
 冷たい声で宣言する
「無駄ですよ」
 葵ちゃんにとって強敵であり尊敬すべき先輩であった女性はいまやただの肉隗に変わりつつあった
「死は止められません」

150邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/04(水) 01:53:52 ID:9Ki/DwHh0

 それは部員たちには最高の煽り文句だったに違いない もともと血気盛んな空手部の部員たちだ だがそのとき 葵ちゃんに反論できるものはいなかった
 まず 坂下の容態が葵ちゃんの言うとおりになりつつあり そして
 真っ赤に返り血で染まった葵ちゃんは息一つ切らせず そこに立っていた 瞳は覚めている そしてその深さは底知れぬ恐怖を周囲に与えていた
 これがオーラという奴なのだろうか もはや葵ちゃんにかかってくる奴など一人もいるまい そう思った矢先だった
「葵!」
 綾香が鋭く叫んだ さっきはちょっと自失したようだがさすが綾香だ 毅然とした態度をしている
「そのまえに…セリオ、病院に連絡して、大至急救急車を手配してもらって頂戴」
「かしこまりました、綾香様」
 リングの外で控えていたメイドロボに命じると 綾香は葵ちゃんに向き直った
「待ってくれ綾香!葵ちゃんは…」
「あなたは黙ってなさい」
 冷たく綾香に言われる その冷たさが絶妙に良かったので漏れは引き下がったよ (;´Д`) なんで漏れはこんなときにまで
「葵…あなた…」
「勝ちましたよ、綾香さん」
 二人の会話はかみ合わない
「ここまで痛めつけることはなかったでしょう!坂下はこれでは、再起は…」
「こんなの、どうでも良いんですよ」
 唾でも吐きかけるような勢いで葵ちゃんはぴくぴくとけいれんする坂下を見た
151邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/04(水) 01:54:39 ID:9Ki/DwHh0

「私は綾香さんに近づいて、綾香さんに勝ちたくて、綾香さんのようになりたかったんです。強くなりたかったんです」
「そのためにこんなことを?」
「はい!坂下先輩だってぶっ殺してやりますっ!」
 明るく笑う葵ちゃん しかし誰も笑顔の者など居ない 琴音ちゃんも無表情で ただ葵ちゃんだけが晴れやかな勝利者だった
「坂下…のことじゃないわ」
 はあ?と眉をひそめる葵ちゃん それはなんとなく馬鹿にしたような表情で 綾香のプライドを傷つけるのに十分だったに違いない
「残念だわ」
 はーあ と綾香は溜め息をついた
「坂下先輩のことですか」
「違うわよ」
 綾香がはじめて葵ちゃんをにらんだ 憎悪すらこもっている
「私はあなたが強い子だと思ってた。その素質があると思ったから目をかけていたのよ。でもとんだ思い違いだったわ」
「…どういうことですか」
 はじめて葵ちゃんの表情に動揺が走る それは急転直下 さっきまでの興奮した様子も、KO後の覚めた様子もない 心の底からの動揺だった
「あなたは弱い」
 綾香は心底無念そうに言った
「こんなに弱い子だったなんて」
152邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/04(水) 01:56:00 ID:9Ki/DwHh0


「どうしてですか?わたしこんなに強く…今日は、ちゃんと作戦を立ててきたんです。
30秒だけ坂下先輩に打たせて、まあこれは遊びですけど。後はロープに追い詰めてダウンするまで連打。とどめはハイキック。これで一分でKO。完璧な試合でした。いったいなにがいけないって言うんです」
「…とぼけるの?」
「なにがですか!」
「…運動競技者として、よ。確かに総合格闘技のドーピング規制はゆるいけれど…それでも、倫理的に超えてはならない一線がある」
「な、なにを言い出すかと思えば…私は不法なことなんてしていませんよ」
 呆れたように綾香は続ける
「薬に頼って手っ取り早く強くなろうなんて、そんな甘えた根性があなたの”弱さ”なのよ」
「弱い…」
 葵ちゃんはその言葉を重たく受け止めた
「そう、あなたは弱い。葵は弱いわ。本当に残念…」
 綾香はもう何も言うことはないと言いたげに葵ちゃんから目を話し 坂下の方へ歩もうとした そのとき
「そんな…私これまで必死で…」
 葵ちゃんの涙声が聞こえてきた 漏れは慌ててタオルをもって葵ちゃんのそばに駆け寄ったよ
「葵ちゃん!」
 でも漏れの声は葵ちゃんには届いていないようだ 綾香に突き放されたことがショックだったのだろう
「わたし、こんなにがんばったのに!必死にがんばったのに…うううっ」
 一人喧騒の中立ち尽くす葵ちゃんは血まみれで 漏れはとにかくタオルで拭いてやらなければならないと思ったよ
 でも…
153邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/04(水) 01:57:20 ID:9Ki/DwHh0

 でも
「うわあああああ!」
 怒涛の叫び それがなんなのか初めはわからなかった 
「来栖がわああ!あひゃかへや!ころしゅうう!」
 葵ちゃん!みさくらが入っている!葵ちゃんは再び戦闘マシーンとしての己を活性化させそして坂下の体の横にかがみこむ綾香に踊りかかろうとしていた
「うわあああああああ!ころしゅうう!」
「葵ちゃん!駄目だ!やめろ!やめろおぉぉぉ!」
 返り血を振り払い 邪魔な人間を蹴散らして綾香に突進する葵ちゃん 振り返った綾香の驚愕の表情 セリオがすばやくこちらに走りよってくるが 間に合いそうにない
 漏れも葵ちゃんを止めようとするが あまりのことに動けなかった
 防御には不十分な体勢で 葵ちゃんの攻撃を受け止めようと構える綾香 だが中腰である上気持ちが入っていない とても危険な状態だ
「うわぁ!」
 葵ちゃんの渾身の右ストレートが綾香に伸びる見事な鋭い一撃で これではさすがの綾香も食らってしまうに違いない そう思った矢先
 
 
 





 破局


 そう 破局が訪れたのだ
 あまりにも早すぎた破局だった

154邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/04(水) 20:59:54 ID:OuW8Cvie0



 悲鳴 絶叫が再びリングにあがる だれもがその声は綾香の声だと思ったようだ
 だが実際は違っていた 葵ちゃんの絶叫だった
「い…痛い!いたいですっ!琴音ちゃん!先輩!いたい…い」
 なにが起こったのか判らない 綾香が何かを仕掛けたのかと思ったが綾香は半ば葵の攻撃を受けることを予期してあきらめた表情になっていて、その余韻が冷めない
 セリオあたりが眼からビームでも放ったのかとおもったのだがそれもない

 そして漏れはもう一度葵ちゃんを良く見た 葵ちゃんの右腕 見事に発達しきった腕 そのひじ関節がありえない方向に曲がっている
「ううううう…」
 よろよろと立ち上がる葵ちゃん おそらくあの右腕は折れており 靭帯にも深刻なダメージを受けているに違いない でも
「私っ!綾香さんに勝ちたいんですっ!」
 そう叫んで今度は右の蹴りを繰り出した そのミドルキックは駆けつけたセリオによってガードされた そのとき漏れは異音を聞いた 初めて聞く音だった
 人工皮膚と肉がぶつかり合う音 そして 
 そして
 葵ちゃんの足の骨が折れ飛ぶ音だ

155邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/04(水) 21:01:01 ID:OuW8Cvie0

「ぎゃあああああ!」
 壮絶な痛みに違いない さっきまで坂下が転がっていたマットの上に、今度は葵ちゃんがぶっ倒れる 腕も足もつかえない 一体葵ちゃんになにがあったというのだ
 見れば葵ちゃんの足はぐにゃぐにゃに折れ曲がり 太腿からは白いものが突き出している あれは…骨なんだろうか
 頭が理解を拒否する

「葵…」
 放心状態のなかから綾香が立ち直って もがき苦しむ葵ちゃんに近寄っていった
「葵、どうして此処まで…」
 さっきは冷然としていたが 今は慙愧に耐えないといった面持ちだ
「あ、綾香…葵ちゃんにいったい何があったんだ」
「浩之…あなたなの?葵ちゃんにこんなことをしたの」
「こんなことって…」
「私です!」
 毅然とした声が体育館に響き渡る 琴音ちゃんの声だった
「藤田先輩はステロイドや成長ホルモン剤やインシュリン投与には関わっていません」
「ふうん」
156邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/04(水) 21:04:23 ID:OuW8Cvie0


 綾香はじっとりと琴音を見つめた そこに敵意はあるのか漏れには判らない だが琴音ちゃんのことを快く思っていないことはわかる
「いい、浩之。葵が受けていたのは酷いレベルのドーピングよ」
「なにか薬物を注射しているって言うのは聞いていたけど…拙いのか」
「拙いなんてもんじゃないわ。よっぽど強力なステロイドを使ったのね、短期間でこんな肉体を作るなんて。でもね」
 葵ちゃんの手当てをセリオに任せる綾香
「筋肉は薬で増やせても、靭帯や骨は鍛えられないのよ」
「…どういうことだ」
「つまり…」
 葵ちゃんはうんうんうなっている返り血や自らの流した血 さらには糞尿鼻水涎 もう滅茶苦茶な状態だ しかし綾香の視線はけして見下したものではない
「発達しすぎた筋力のパワーに、それ以外の体のパーツの強度がついていけないのよ。坂下との試合を一試合こなして疲労した後、自分の限界を超えた打撃。
 …よほど私が…いいえ、とにかく練習でも使ったことのないところまで力を使ってしまったのでしょうね。それでも人間の体はリミッターがかかるものだけど…たぶん」
 そこで綾香は再び琴音ちゃんを見た 今度は琴音ちゃんは眼をそらした
「筋力増強剤に、ここまでわれを忘れるほどの興奮剤…とんでもないことをしたのね」
「とんでもないこと?」
 話が抽象的過ぎてわかりにくい 綾香は漏れの疑問には答えなかったよ
「その結果、パンチを出せば肘関節脱臼、上腕二頭筋断裂。キックを受けられれば大腿骨粉砕骨折、アキレス腱断裂。
人間の骨や腱が受けられる限界を超えてしまった。ここまで端的な例は聞いたことがないけれど」
157邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/04(水) 21:08:21 ID:OuW8Cvie0

「そんな…琴音ちゃんは安全な量を守って…」
「それは嘘よ」
 綾香はすっぱりと否定した 琴音ちゃんはもうこちらを見なかった
「でたらめな量のステロイドを入れ、でたらめなトレーニングをした。どう、最近の葵のトレーニングは。そうとう激しかったでしょう?」
「……常軌を逸していた。毎日スクワットを20セットも30セットもやるんだ。吐いてもまだやって。筋力トレーニングだけじゃない、ロードワークも、組み手も何もかも量も強度もでたらめで」
 また溜め息を綾香はついた 深く憔悴しきったため息だった
「それは…限界云々って話じゃないわ。そんなでたらめな量のトレーニングをやるとね、人間の体や筋肉はかえって萎縮してしまうのよ。ただ、成長ホルモンを薬物で弄ると回復が早くなって、無茶なトレーニングを続けられるって訳」
 漏れは一言もなかった 漏れはまるでそんな知識がなかったから 葵ちゃんのことを気づけなかったんだ
「それだけだといいこと尽くめに聞こえるけどね。勿論副作用はあるわよ。それも惨いのが。見てのとおりの靭帯への負担。それにホルモンバランスの狂い、甲状腺機能の低下。内臓の破壊」
 やめてくれ… 
「綾香、葵ちゃんは…」
 綾香は押し黙った そしてうんともすんとも言わなかった むっつりした表情で救急車が校内に入ってくる様を眺めていた
 
「葵は、悪魔と取引してしまったのよ。覚醒剤まがいの興奮剤やステロイド―それも多分強烈なスタッグね、そしてそれらを投じることで確かに表面的には強くなった、けれど…」

 綾香は泣いているのかと思ったが さすがに泣いてはいなかった ただ呆然とした表情でこの惨劇の終焉を見守っていた 

158邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/04(水) 21:10:58 ID:OuW8Cvie0



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 琴音ちゃんが死んだのはそれから3日後のことだったよ(;´Д`)
 服毒自殺だったそうだ 遺書は遺族宛てのものが一通と 葵ちゃん宛てのもの それと漏れ宛てのものが一通だった
 このデジタル全盛の時代に 丁寧な筆跡で書かれた手紙は 琴音ちゃんの真面目で一途な性格をあらわしているようで 漏れは封筒の宛名を見ただけで涙がこぼれそうだったよ
 
 学校は一週間後 琴音ちゃんの退学処分を告知するつもりだったそうだが 琴音ちゃんが自殺したことで 処分は取り消しになったようだ 
 葵ちゃんは自主退学という形になった 漏れはあの試合の後会うことができなかった 綾香が手を回して 違法な薬物に関しては葵ちゃんに責が及ばないように取り計らってくれたらしい
 しかし搬送先の病院から 特殊な病院へと転送されたようで その先は教えてくれなかった
 綾香は人を介さず 漏れにわざわざ電話でそう伝えてきたので 漏れも深くは追求しなかった 漏れ自身酷いショックを受けていて 追求する気力もなかった
 漏れは長く暗い学園生活を過ごしたが あかりや雅史 志保らの励ましを受けて ある勉強を始めることにした 
 その勉学の道はとても険しい道のりだったが、自分にとっては絶対に必要なものなんだ

 だから頑張るよ
159邑田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/04(水) 21:12:24 ID:OuW8Cvie0


 
 これが漏れの語ることのできる エクストリーム同好会解散の顛末だよ
 漏れがもっと気をつけていれば 悲劇を回避することもできたんだ そう思うと本当に口惜しいよ
 みんな漏れを軽蔑するだろう いくら非難しても良い
 ただ 葵ちゃんも琴音ちゃんも本当に一生懸命で いい子だったんだ それだけは覚えておいてほしい
 いま あの学園には エクストリーム部が正式に部活として立ち上がっているらしいと聞く
 葵ちゃんのことは学園の黒い歴史として封印されているはずで恐らく関係のない人たちの努力で部活が認められたのだろうが 漏れはそれでも葵ちゃんの蒔いた種子が芽吹いたと信じたいんだ

 以上がこれが葵ちゃんと琴音ちゃんがToHeart2に登場しない原因なんだ 一人は死んで一人は今でも病院だからな 出てくるわけがないんだよ
 つたない文章で長々とすまなかった(;´Д`)葵ちゃんたちはこんなことになってしまったけれど みんなは間違えず楽しい学園生活を過ごしてくれ 
 



160CC名無したん:2006/01/04(水) 21:46:28 ID:rKCyqUvQ0
 
161CC名無したん:2006/01/07(土) 09:38:56 ID:ivPMJH1d0
村田死ね
マジで死ね、リアルで死ね
162妄想 ◆GqVfLUITBY :2006/01/07(土) 18:05:26 ID:8oV1tKMA0
>>邑田
乙カレー
こないだは悪かった。
163村田 ◆PIjcvUfWbQ :2006/01/07(土) 21:43:04 ID:f47woPyS0
>>162
実はまだ3/2くらいしかかけてないんだけど、もうここでやるのはやめとくよ(;´Д`) あとははてなで
もう少しやりやすい雰囲気なら良いんだけどちょっとキツいね、ここは
なんとうか、どうしようもない一部の奴と妄想さんの好きな人たちとを漏れははっきり区別しているんでその点をわかって欲しいよ
164CC名無したん
── =≡∧_∧ =!!
── =≡( ・∀・)  ≡    ガッ     ∧_∧
─ =≡○_   ⊂)_=_  \ 从/-=≡ r(    )
── =≡ >   __ ノ ))<   >  -= 〉#  つ>>たまき
─ =≡  ( / ≡    /VV\-=≡⊂ 、  ノ
── .=≡( ノ =≡           -=  し'
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
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