183 :
CC名無したん:
「はっ、はっ、はっ、はっ」
夜。
友枝町の路地裏を走り回る影が一つ。
その影、観月歌帆は何かから逃げるように走り、
そしてとうとう壁際まで追い詰められた。
数瞬、歌帆は呆然と壁を見詰めていたが、
すぐに逆側の空間に体を向ける。
目線の先、そこには奇妙なモノが存在していた。
顔である。
それは人間の男のものであったが、
生気が微塵も感じられない。
死体のようでもあるが、
死体が歩き回るわけはないし、
ソレは先ほどからブツブツとなにかをつぶやいている。
奇妙なのは、
顔しか見えないということだ。
この暗闇のなかで顔だけが浮き上がり
その下にあるはずの体がまったく見えない。
それは普通の世界で普通の生活に
身を置いている者には理解しえないモノであったが、
そうではない歌帆はそれがなんなのか知っていたし、
それが自分に殺意を抱いていることも理解していた。
しかしまさか自分が襲われるとは。
なぜ逃げ道の限られてくる場所に逃げ込んだのか。
こんなことなら無理にでもエリオルに付いてきてもらうんだった。
いまさら考えてもしょうがないことだが、
考えずにはいられなかった。
冷たい汗が、額を伝う。
184 :
CC名無したん:03/05/07 16:30 ID:z3te+1Fs
『鈴』を持っていたあの時ならともかく、
今の自分では勝てる気がしない。
エリオルが颯爽と助けに来てくれるなんて
都合のいいことがあるわけもない。
歌帆のそんな考えを見通したかのように、
『顔』は少しだけこちらに近づいた。
『顔』の体の、全貌が見える。
それは人の体ではなく、
異形の肉の塊だった。
歌帆の倍ほどの大きさで、
左右非対称で、手足がなくて、
人の血肉を寄せ集めただけのような醜さで、
月明かりで肉の表面がテラテラと光っている。
唯一口のようなものが確認でき、
全開まで広げたその中に『顔』はあった。
歌帆が顔をしかめると、
口の中の顔は表情を変えることなく言った。
「もう、逃げ、ら、れない」
そうね。歌帆は口の中で
小さくつぶやくと、覚悟を決めた。
肉塊は足もないその丸い体で、
ゆっくりとこちらに迫ってくる。
そして異形の肉を突き破り、
長すぎる人の手が数本伸びた。
それは歌帆に掴みかかろうとしたが、
そうなることはついになく――。
叫びを上げる異形。
185 :
CC名無したん:03/05/07 16:31 ID:z3te+1Fs
切断され、宙を舞う手。
夜空を血の噴水が飛び、
歌帆の全身を少しだけ赤く染めた。
「李くん!」
異形を傷つけた者、
李小狼は漆黒のコートを闇に翻しながら
両手に持った剣の片方を異形の口内の顔に突き立てた。
刀身の三分の一ほどが異形の顔中心に埋め込まれる。
浅い。
小狼は残った左剣を振りかぶったが、
異形からさらに突き出てきた数十本の手によって地面に押さえつけられ、
身動きが取れなくなってしまった。
その際に少し息が漏れたが、
小狼の表情に変化はない。
いや、薄い笑みさえ浮かべたその口元で、こう呟いた。
「火神」
異形に突き立てた剣に
あらかじめ巻きつけておいた札が反応し、
爆炎が起こった。
体内より焼かれた異形は
断末魔の声を上げながら、
今度こそ死んだ。
肉の焼ける臭いがあたりに充満する中、
小狼は歌帆に近づく。
「驚いたわ」
歌帆は素直な感想を口にした。
「五年前とは別人みたい。
『力』もそうだけど、なにより……
大人っぽくなっちゃって」
186 :
CC名無したん:03/05/07 16:32 ID:z3te+1Fs
そう言われた小狼は肩を竦めると、
すぐに異変に気づいたように背後を振り返る。
先ほどの異形と同じ形の肉塊がもう二体。
狭い路地裏をこちらに這ってきていた。
「李くん!」
「だいじょうぶ。大道寺!」
「分かっていますわ!」
歌帆が上空を見上げると、
そう背の高くない建物の上に大道寺知世と、
異形を囲むようにして重火器を構えた女性たちが数人いた。
知世が、
「それでは皆さん、
よろしくお願いいたします。
ファイア(撃て)」
そう言い放った途端
重火器は火を噴き、
たちまち異形どもを穴だらけにして
絶命させた。
後には未だ燃え続ける肉と、
体に無数の穴をあけた肉と、
重火器の轟音の余韻だけが残った。
小狼が封鎖の結界を解除し、歌帆のほうに向き直ると、
歌帆は少し疲れた顔をしていた。
「大丈夫か?」
「ええ、おかげさまで」
そう言って歌帆は少し笑った。
けれど。
一つの事実が。
歌帆に口を開かせた。
187 :
CC名無したん:03/05/07 16:34 ID:z3te+1Fs
「さくらちゃんは」
それは問いではなかった。
それは確認であった。
小狼は答えない。
無表情のままで、
なにかを考えているようだった。
そして結局、
いつの間にか下りてきていた知世が、
「さくらちゃんは」
代わりに答えた。
「いません」
そう、答えた。
188 :
CC名無したん:03/05/07 16:36 ID:z3te+1Fs
予告編
「なぜ消えたのか。いつ消えたのか。どこに消えたのか。どうやって消えたのか。なにも分からないんだ」
あれから、五年。
「ケルベロスも月(ユエ)も、姿を消した」
消えたさくらカード
消えたカードキャプター
「人間開発機関『エヴォルヴ』。
僕がまだクロウ・リードだったときに
敵対していた組織ですよ」
五大魔導師
李家四聖獣
魔術師連盟
「木之本さくらは気づいたのさ」
「月(ユエ)に魔力を譲渡したお前など、敵ですらない」
CC計画
「自分が存在していてはならない存在なのだということに」
189 :
CC名無したん:03/05/07 16:46 ID:BJY70FJ4
記念パピコ
あぼーん
191 :
CC名無したん:03/05/07 16:53 ID:z3te+1Fs
混沌
すべてはここより。
「クロウ・リードは確かにこの世で一番強い『魔術師』だった。
だが、この世で一番強い『存在』だったわけではない」
破局
ここよりすべては。
「魔連の無敵魔導艦隊が全滅…。
これを全部お前一人がやったのか?」
混沌の破局
すべては、すべてへ。
「さくらカード!?」
「違う! これは…」
星の力。
「二つに分けた魔力を戻すことぐらい、造作もない」
「桃矢がボクにくれた力、返すよ」
192 :
CC名無したん:03/05/07 16:54 ID:z3te+1Fs
死の力。
「小狼くんも、知世ちゃんも、知世ちゃんのおかあさんも、
桃矢おにいちゃんも、お父さんも、雪兎さんも、ケロちゃんも、
月(ユエ)さんも、エリオルくんも、観月先生も、寺田先生も、
苺鈴ちゃんも、千春ちゃんも、奈緒子ちゃんも、利佳ちゃんも、
山崎くんも、みんなみんなみんなみんなみんなみんなみんな
みんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんな
みんなみんなみんなみんなみんなみんなみんな………………
…………………………………………………………………死ね」
最強の魔法。
「『絶対に大丈夫』! さくらなら、そう言うんやないか?」
「いいや、もう『絶対に無理』だね」
禁断の魔法。
「馬鹿な! 全カード同時発動だと!?」
そして。
「レリィィィィィィィィズ(封印解除)!!」
〈CCSS(カードキャプターさくらセカンド)〉
来春公開