戦後犯罪史再検分

�@ヤクザの国権主義化

1894年
朝鮮で東学党が反乱を起こすと、これを玄洋社は支援し、日本政府も出兵して日清戦
争が勃発。ヤクザは愛国的行動として政府・経営側に接近して、労働者の管理や搾取
を強化していった。説教芝居的な大道芸にすぎなかった波花節は、勧善懲悪と義理人
情を訴える高座芸となり人気を博した。本国劇として「清水の次郎長」などの任侠劇
を開拓していく。波花節と本国劇によって、江戸幕末のヤクザたちは理想化・伝説化
していった。日清戦争において大国清国に勝利したことこそが日本のナショナリズム
を高揚させた。欧州列強との不平等条約と日本初のナショナリズムとがあいまった。

1900年
清国の義和団が反乱。欧州列強が派兵して、清国を半植民地化してしまった。日本も
参加したが、この事件は日清戦争の戦果を欧州列強が奪取したにも等しく、日本の欧
州列強に対する反感はさらに強まった。ロシアは満州南下を進め、朝鮮半島にもおよ
ぼうとした。
1901年
大陸では玄洋社の分派として、黒龍江、すなわち満露国境のアムール川まで国権の拡
張をめざす黒龍会が内田良平を中心に結成され、大陸におけるさまざまな諜報工作活
動に従事し対露「復讐」戦の準備をしていった。彼らは大陸において大アジア主義を
提唱しアジア民族興隆の指導者と公言したが、実際は日本の国権主義に基づく活動に
すぎなかった。
1902年
政府、伊藤らは日本の朝鮮支配とロシアの満州支配を相互承認する「満韓交換論」と
いう対露妥協論を主張し、山県らはロシアをヨーロッパとアジアで挟撃する対露強硬
論を主張し、日英同盟が成立した。

1903年
ロシアの南下はやまず、対露問題は社会的論争にまで発展。キリスト教徒の内村鑑三
ら平民社の幸徳秋水、堺利彦、ロマン主義者の与謝野晶子らが反戦論を主張したのに
対し、頭山らは〈対露同士会〉を結成。新聞や雑誌もさかんに対露開戦を扇動した。
ロシアの拡大を嫌う英米も、日本の財政の６倍という軍費の半分を購入として資金提
供し、日本を代理戦争に利用しようとした。

1904年
日露戦争が勃発。戦況は05年の日本海海戦によって日本有利に。長期戦は不可能であ
ったためルーズヴェルトの斡旋に従って、ロシアとポーツマス条約を締結終戦。しか
し、戦争の多大な犠牲にもかかわらず同条約では償金もなく、領土や権益も得るとこ
ろが少なかったので、一般大衆はこれを屈辱的講和として日比谷焼打事件を起こし、
この暴徒の鎮圧に軍隊が出動した。明治維新、松方不況に次ぐ第三の没落民衆を生み
出した。産業革命や貿易拡大によって、旧守の米作などの零細農業経営者の没落と、
新取の生糸などの商品作物経営者の隆盛とで階層分化が進展し、大地主が戦争好況の
中で地代を元手として証券投資や企業創設を行って耕作から遊離する一方、小作農は
二三男坊や子女を工場などの出稼賃金労働者とせざるをえなかった。
1906年、神戸にやってきた淡路島の没落漁師山口春吉（25）も出稼青年の一人だった。

�A大正デモクラシーとヤクザ

日清日露好況の後には反動不況がやってきた。労働争議が自然発生的に多発し鎮圧に
軍隊を必要とするほどであった。このため、主な企業は、労働者に対する福利厚生を
充実して家族主義的経営を行うことを宣言して、組長請負制度を廃止し人員整理能率
給制を行うようになっていった。家族主義は、実際は労働者の直接管理の強化であり、
高齢者や弱能者の切り捨てた。このため失業者が増大し日本経済は恐慌的な状態に陥
った。もっとも、このような企業の直接管理にもかかわらず、親方子方制に基づく前
近代的な職人組織そのものは企業内部に温存された。失業者の中には、やむなく都市
で素人露商となろうとする者も少なくなく、これに対して、定住的屋は、彼らに営業
手段を貸し付け、彼らを支配搾取するようになっていった。都市においては、学生や
徒弟や無職青年などによる愚連隊が発生蔓延し、窃盗・恐喝・傷害など暴力性を強め
ていった。労働管理を行うだけの組織博徒は合理化によって主な企業からは締め出さ
れ、業務量と労働者が流動的なために企業の固定的な家族主義的経営が成り立たない
産業分野、すなわち、建設・運輸・港湾・炭坑・開拓などの事業にさらに収斂してい
き、失業者を低賃金労働者として調達管理し、企業の必要に応えた。

1914年
第一次世界大戦が勃発。生産力を失ったヨーロッパに代わって、日本経済は突然の戦
時景気となり、重化学工業を中心として、新規企業の創設があいついだ。このため、
企業間において職人組織単位の引き抜きが活発に行われた。山口春吉も、人夫供給業
大島組（大島秀吉）の配下で活躍した。
1915年
労務者50人を抱えて山口組を創設した。
1917年
ロシア革命。戦争と革命で一時的に勢力が弱まった大陸に日本は侵略を進め、この軍
需に冷害が加わって米価などが高騰。
1918年
富商や地主を襲撃する米騒動が全国で同時に発生し参加者は70万人にも及んだ。社会
主義運動がロシア革命と米騒動をきっかけに一気に普及し、吉野作造らも「大正デモ
クラシー」として民衆の政治参加を先導した。黒龍会の一部は、とくに革新的な大阪
朝日新聞に不満をつのらせ、同社社長村上龍平を拉致し、大阪中之島公園灯篭に縛り
付けてさらし者にするという事件を起こした。さらに、頭山らは、玄洋社から新たに
浪人会を結成し、東京日比谷で大阪朝日新聞弾劾集会を開いた。しかし、このような
右翼の行動を吉野が雑誌で批判したため、同年、東京神田で吉野と内田らとが立合討
論を交わしたが、その結果は、双方ともに相手の憂国の情を認めあって、全員で天皇
陛下万歳三唱をするというものであった。このように右翼の側にも社会主義に共感す
る部分が存在した。

1919年
社会主義の影響を受けた北一輝、大川周明らは猶存社を創り、国家主義運動を起こし、
軍人や学生などの青年層に熱狂的な支持を得ていった。社会主義の拡大を嫌う政友会
の原内閣の内相床次竹次郎は、頭山満を顧問として、博徒や労働者や超国家主義者な
ど６万人を集めて大日本国粋会を結成。その地域支部団体として上州家の梅津勘兵衛
らを中心とする関東国粋会などを組織した。この組織は、政友会の私兵的な性格も持
っていた。
1920年
軍需インフレに加えて戦後恐慌となる。
1921年
民政党も土建談合屋の河合徳三郎を中心として、同様の反社会主義私兵組織である大
和民労会を組織した。
1923年
関東大震災。大量の素人露商が出現した。これを定住的屋は搾取支配したが、素人露
商を中心として急進的な全国行商人先駆者同盟が西日本の16都市において形成され、
社会主義運動を展開することになった。労働争議・小作争議も深刻なものとなってい
った。これに対して、大日本国粋会が武力的な争議破りの実行部隊となり、２万８千
人の労働者が参加した八幡製鉄所大争議などに攻撃を加え、また部落解放運動のため
に全国水平社と奈良で乱闘事件を起こした。大和民労会も争議破りや社会主義者襲撃
を行い、大日本正義団、大日本赤化防止団、東海聯盟などの反社会主義団体があいつ
いで設立され、争議破りや社会主義者襲撃を行った。

1925年
政府は普通選挙法と治安維持法とを同時成立させるという両面作戦によって事態を収
拾し、極端な左翼運動も右翼運動も停滞することとなった。震災復興において組織博
徒と土建職人との関係が深まり、「組」としての博徒再編が行われた。これらの集団
は、大手建設会社の下請となり、さらには施主企業の実行部隊となった。この時期に
全国的な財閥が急速に形成され、吸収拡大の過程における地方地元との摩擦・同業他
社との対立を、とくに電気・鉄道・ガスなどの分野において、その企業の施設を建設
する下請の組が代理することになった。東京の電気に関しては東京電燈と東邦電力と
が激しく争い、後者の鶴見発電所建設をめぐって、両者の建設下請組数百名による大
規模な武力衝突事件を起こしている。
神戸の山口組も大島組配下から独立を強めるべく、初代山口春吉が隠居し、長男山口
登（23）が跡目を相続した。大陸においては、黒龍会などの多くの国権主義者が潜入
して諜報工作活動を行い、日本政府に協力していた。北一輝のように社会主義の影響
を受けて中国革命に参加支援する者もいた。黒龍会の内田良平も中華民国の外交顧問
に招かれている。第一次大戦前後の不況で没落した人々が生活のために大陸に渡るこ
とが多くなり（大陸浪人）、江戸時代の行商的屋のようにいかがわしい商品販売をし
ながら日本人の知人や地元有力者、盗賊的集団を渡り歩いた。政府は、大陸侵略政策
を明確化すると、野心のある大陸浪人を取り込み、彼らを通じて、物資（とくに武器
と阿片）を地元有力者や盗賊的集団にばらまくことによってこれを組織し、諜報工作
活動のためのネットワークを固めていった。大正時代は右翼や博徒は政治や経済から
排除されたが、ふたたびすぐに政治工作や争議破りや企業競争のために近代ヤクザと
して再編されて政府や企業と密着していき、その非合法暴力的実行部隊として利用さ
れるようになっていった。

�B昭和恐慌、第２次世界大戦とヤクザ

1927年
震災のために日本は金融恐慌に陥った。財閥は金融資本化してその集中を強めていく
一方、不況によって農村から出された過剰労働力によって中小企業も乱立。浜口内閣
は、企業整理をして国際競争力を強化しようとする国益財閥保護育成的な産業合理化
を推進した。大陸では蒋介石を中心とする反帝統一運動が興隆したため、日本政府は、
山東出兵。

1929年
ニューヨークに発する大恐慌と昭和恐慌が発生し、大量の企業倒産と失業者をもたら
した。行政は不況失業対策として街商地区の拡大を許すとともに、社会主義運動の防
止のため、これをヤクザによって組織化させた。東京では約１万数千の街商が発生し
たが、これを東京露店商会（海原清平代議士）の他、大日本神農会（中川良長男爵）、
昭和神農実業組合（倉持忠助・飯島一家）が支配搾取するようになった。
神戸の山口組も大島組から完全に独立し上納を取り止めた。神戸の川崎造船所の人員
整理で失業した田岡一雄（16）は、やがて山口組に拾われることになる。神戸市は不
況失業対策に中央卸売市場の建設を計画したが、その建設予定地が大島組の縄張にあ
ったため、山口組（山口登）は先制攻撃に出て、大島組の戦闘指揮者を射殺し、事務
所を建設予定地の目前に移転し利権を奪取した。

1930年
左翼と平行して、頭山、北、大川らの右翼国家社会主義も急速に影響力を増し、下層
労農出身者の多い少壮将校と結び付いて軍事クーデター的な昭和維新運動へと高まっ
ていき、彼らのシンパによって、浜口首相狙撃事件。

1931年
満州事変（1933年まで）　三月事件。十月事件。

1932年
上海事変で中国を牽制し、侵略を拡大。不況と戦争による国民の窮状をよそに、民政
党は「三菱財閥の走狗」、政友会は「三井財閥の番犬」と呼ばれるまでに政財界は腐
敗し、数々の汚職事件が発覚した。不況の深刻化とともに左翼的労農運動も活発にな
ったため、政府は繰り返しこれを弾圧した。血盟団事件、五一五事件が勃発。大阪の
笹川良一も国粋大衆党を結成し、先行する博徒系の大日本正義団とともにイタリア的
ファシズムを広めていった。
右翼青年児玉誉士夫も独立青年社を設立し、政治家暗殺を計画したが、未遂のうちに
逮捕。大陸に清国廃帝溥儀に傀儡国家の満州国を建国させた後、斎藤実挙国一致内閣
のもとで国内景気も回復し始めた。軍需拡大と保護政策によって、重化学工業化が急
速に進展していった。日本軍の大陸での行動は列強の反発を招いた。
山口登は田岡一雄を子分とした。彼は浪花節のファンであったので、この景気回復と
ナショナリズムに合せて、資金源として娯楽的な浪曲興行をうった。

1933年
日本は国連脱退。各国のブロック経済化によって、日本は自由貿易国アメリカへの貿
易依存度を高めた。国内ではナショナリズムが再燃し、左翼からの国家社会主義への
転向が増加した。わずかに残った社会主義運動も、政府の思想言論に対する取締強化
によって獄死した。この頃、山口組は興行部を作った。

1934年
山口組は、吉本興業の創始者である吉本せいと共に、浅草の浪花節興行の元締である
浪速屋金蔵に会い、広沢虎造の吉本専属契約を取り付けた。浪曲は最盛期を迎え「清
水の次郎長」「国定忠治」「人生劇場」などが講談や歌謡曲とともに流行した。

1936年
二二六事件後、国家社会主義運動も国権拡大のために政府財閥に利用されていった。

1937年
日中戦争が勃発。「国民精神総動員運動」樹立。右翼青年の児玉誉士夫は仮釈放にな
ると、外務省情報局のスパイとなり、大陸や東南アジアに児玉機関の諜報ネットワー
クを形成しつつ、大陸ゴロとして戦略物資を掠奪的に調達して利潤を蓄積した。終戦
時には、34歳にして海軍少将、東久迩宮首相参与にまで成り上がった。右翼の巨頭で
あった頭山は（1944年）89歳で死亡。
田岡一雄（24）は不良組員を斬殺し、懲役８年の刑に服す。神戸港荷役を支配する鶴
井組（広田寿太郎）、酒井組（酒井新太郎）、藤原組（藤原光次郎）の組長が「鶴酒
藤」兄弟会を結成したが、山口登もこれらの組長と兄弟縁組を行った。横浜の柔道吉
田道場に通っていた稲川角二は、警察の内定を振って片瀬の博徒の堀井一家（加藤伝
兵衛）の子分となり横山新次郎を兄分として修業したが、35年には徴兵を受け、軍隊
で２年を過ごした。除隊になると堀井一家に戻ったが闇打を受け重傷を負わされた。

1938年
国家総動員法によって、ほとんどの事業は政府統制となり、組織員を取締や徴兵によ
って失い、一般にヤクザも動きが取れなくなっていった。賭博はあいかわらず開かれ
たが、客は減ったので、軍事関係の工事などを下請して組織を維持した。太平洋戦争
も始って、労働力が不足すると朝鮮人自主移住者に加えて、朝鮮人強制連行者を調達
して奴隷のように使用するようになっていったが、この調達や管理に大陸ゴロや新興
愚連隊が協力した。このような朝鮮人労働者管理としては、警視庁とも協力関係にあ
った土建愚連隊の大安組（安藤明）などがいる。

1940年
大政翼賛会が設立。無法地帯での大陸ゴロを除いて、右翼も独自に活動する余地はな
くなった。鶴酒藤兄弟会が横浜に拠点を移すと、山口は同会神戸支部長となったが港
湾荷役事業に関心がなかった。戦争によって港湾荷役は政府統制を受けた。

1942年
広沢虎造の映画出演問題で、山口は篭寅組に急襲され41歳で死亡した。

1943年
田岡は出所したが、戦時下ではほとんど組員は残っていなかった。稲川は、加藤と兄
弟分で関東きっての大親分である鶴岡政次郎の綱島一家に預かりとなっていた。

安保闘争で学生デモ隊に日本刀振りかざした、対米追従馬鹿右翼がいたな。
あれはヤクザみたいなもんか？

　ちょっと待って、続きは戦後史から追々上げるからさ。

�C戦後混乱期とヤクザ勢力の変容

終戦、第三国人は日本人の支配から解放されたが、報復のために暴徒となる者らが多
かった。台湾人は台湾省民会を、朝鮮人は在日朝鮮人連盟を組織し、日本人も復員兵
らが愚連隊を組織し、その一部は貨車や倉庫を襲撃して物資を掠奪し、ヤミ市を開き、
暴利を得るようになっていった。第三国人や愚連隊の間で物資の奪い合いの抗争が繰
り広げられ混乱。警察は手の打ちようがなかった。児玉のような右翼は戦争犯罪者と
して占領軍によって逮捕され、軽微の者で約２１万人が公職追放されたため、日本は
民間指導者のほとんどを失い、混乱を収拾するものは武力のみの世界となった。45年
東京では、松田義一が関東松田組を創設し、ヤミ市の街商を管理した。46年、松田は
子分に射殺されたため、その妻の松田芳子が組長となった。台湾省民会が新橋租界の
ヤミ市を中心として支配を拡大してきたため、松田組は襲撃し排除した。渋谷の台湾
省民会のヤミ市では渋谷署が襲撃を受けた。これに対して警察は落合一家（高橋岩太
郎）他のヤクザにも支援を要請し台湾人を撃退した。

神戸では、台湾人を含む国際的愚連隊の菅谷政雄が朝鮮人連盟を襲撃し（支配拡大）、
懲役18年の刑に復する。山口組の田岡一雄（34）も神戸に田岡組を創設し、ヤミ市を
支配する台湾朝鮮人に攻撃を加えた。約３百名の台湾・朝鮮人が神戸の警察署を襲撃
したときにも、田岡らが駆逐し、田岡は山口組三代目を襲名した。東京の朝鮮人や中
国人は、横浜のヤミ市を支配下に納め熱海まで勢力を延ばしてた。綱島一家預かりの
博徒の稲川角二は、熱海の第三国人を駆逐し、48年には正式に綱島一家（鶴岡政治郎）
の子分となり、49年、真鶴の親分の跡目を相続して稲川一家を名乗った。
社会の変化にともない、ヤクザの新旧勢力の交代が起った。博徒系ではまず、戦後復
興に従って、ヤクザがらみの土建業務も活況を呈した。戦前は朝鮮人管理で政府に協
力していた土建愚連隊の大安組（安藤明）は占領軍と結託して厚木飛行場他の改修工
事を請け負い、銀座等に高級売春クラブを開いた。土建博徒の関根組（関根賢）は、
戦中戦後に墨田、江東区から勢力を拡大していったが、49年、団体規制令によって解
散させられた。上野周辺では、45年、武蔵屋一家から義人党（高橋義人）が反共土建
博徒として成立し、焼跡整理に始り浮浪者救済なども行いながら人足管理、債権取立、
手形詐取、エロ事業、用心棒業などによって発展していったが、50年、団体規制令に
よって解散させられた。神戸の本多会（本多仁介）は土建業を得意とし急速に勢力を
拡大した。

戦後復興は、港湾を縄張とする組織が伸張。東京では、明治初頭の柏の壮士・住吉左
団次に始まる住吉一家が、戦前から九段・赤坂・芝浦を支配していたが、48年、倉持
直吉の跡目を阿部重作が継承すると、芝浦の港湾を中心にその縄張地域が急速に発展
し、49年、解散を命じられるも、水面下においてしだいに関東の中心的組織となって
いった。また、横浜や神戸などにおいては、横浜港湾作業（酒井組、酒井信太郎、住
友倉庫系）、藤木企業（藤木組、藤木幸太郎、三菱倉庫系）、笹田組（笹田昭一、三
井倉庫系）、東海荷役（綱島一家、鶴岡政治郎）、本多会（本多仁介）などのヤクザ
が支配した。神戸の山口組（田岡一雄）も、49年、旧鶴酒藤兄弟会系列の神戸の二次
下請港湾荷役業者を再結集して港洞会を創設した。港湾ヤクザ団体は、荷役下請を禁
止するＧＨＱに従って各地の港湾に直営の事務所を開設していったため、かえって戦
後型の広域組織の原型を成していった。 48年の競馬法、49年の競輪法によって競馬場や競輪場が開設されると、各地のヤクザは、ノミ行為等の利権に群がった。山口組も49
年に神戸競輪場が開設されると、地道行雄を中心に暴力的が利権を獲得。相撲、野球、
プロレス、ボクシング等のスポーツ興行とトトカルチョがヤクザの主な収入源となっ
た。芸能興行もヤクザの重要な収入源となった。山口組は戦前から芸能興行が得意で、
48年に浪曲興行を再興すると、演劇や歌謡曲興行にも手を出した。軍部残品や米軍流
出の麻薬売買も、ヤクザの重要な収入源となった。

的屋系では下町ではなく、山手を中心とするものとなっていた。東京では、沼津の極
東桜井一家から分れて池袋に移ってきた極東桜井一家関口組（関口愛治）や、戦後に
組織化した新宿と中央線沿線を支配する関東尾津組（尾津喜之助）が勢力を伸ばした。
尾津は新橋のヤミ市などにも勢力を伸張し博徒や愚連隊をも統轄、東京商工会議所に
も入会し、47年には新宿から衆議院選挙に立候補したが、共産党候補野坂参三に破れ
た。その後、ＧＨＱによって組を解散させられ、本人も恐喝罪や脅迫罪によって逮捕
された。
右翼の児玉はＡ級戦犯容疑者ではあったが、資産と情報の提供によってＣＩＡと取引
し、48年末釈放された。彼は反共の名の下に、ＧＨＱとヤクザの仲介役としてみずか
らの地位歩を確保していく。ＧＨＱのウィロビー少将らは、日本の左傾化を懸念して
おり、児玉の他、「キャノン機関」「服部機関」「加藤機関」等を用いて、反共諜報
活動を行っていた。さらにＧＨＱは、キャノン機関員の韓国海軍少佐町井久之（鄭建
永）の組織した朝鮮人愚連隊（町井一家）を使って組合潰し等を行った。

一日空けたら凄い書き込み・・。

>キャノン機関員の韓国海軍少佐町井久之

↑ほんとかネ？ん〜。

�D戦後ヤクザの威力

冷戦の険悪化とともに占領政策は、戦後急速に拡大した左翼的運動を抑制する方向に
転換した。50年の朝鮮戦争勃発前後から、約10万人にも膨れ上がっていた共産党員中
心に政府やマスコミ、教育界や産業界でレッドパージを行うとともに、戦争関係者の
公職追放を解除。51年、サンフランシスコ平和条約によって日本は主権を回復した。
大日本武徳会幹部の木村篤太郎は、戦後、吉田内閣の法務長官となった。戦犯として
公職追放を受けたが、50年の追放解除とともに法務総裁に復職したのだ。朝鮮戦争と
ともに警察予備隊が組織された。この内部に多くの共産党支持者がいることが噂され、
木村は、警察予備隊による赤色クーデターを懸念。部下の辻宣夫とともに、関口愛治、
尾津喜之助、芝山益久、梅津勘兵衛、倉持直吉ら、約20万人のヤクザによる愛国反共
抜刀隊の創設を計画した。しかし、吉田は木村の復古主義に応ぜず、この計画を認め
なかったが、その代わりに52年、木村を保安庁長官に任命した。警察予備隊を保安隊
に改組、組織内外の左翼運動を制御させた。木村は53年、37の右翼団体を朋友会とし
て組織し、保安隊支援圧力団体として利用した。朝鮮戦争特需や傾斜生産による神武
景気によって鉄鋼、造船、石油等の基幹産業が整備された。消費も急増していった。
ヤクザは武力と実業とを連結した組織として急速に勢力を拡大していった。

関西では、山口組が51年以降、田岡が社長である甲陽運輸�鰍ﾈど、次々と港湾関係の
会社を設立した。52年には田端義夫を専属とするが、53年には山口組を無視した鶴田
浩二を山本健一らに襲撃させ、芸能界の支配も強化していった。実業による資金力を
バックに、54年、地元の中小ヤクザを次々と駆逐。さらに56年には横浜の笹田、鶴岡、
藤木らとともに全国的な全国港湾荷役振興協会を創設するとともに、一次下請企業労
働者による総評系の全港湾労組神戸支部に対抗して、二次下請企業労働者に神戸港労
働組合連合会をつくらせ、一次下請企業と全港湾労組を弱体化させて、系列企業を一
次下請へと昇格させた。58年、美空ひばりを迎えて神戸芸能社を発足させ、高田浩吉、
里見浩太郎、山城新伍らの役者、橋幸夫、フランク永井、マヒナスターズ、船木一夫、
村田英雄、三橋美智也、坂本九、三波春夫ら歌手の西日本の興行権の掌握した。

関東では、暴力集団の組織化や旧来団体の実業化が見られた。学生上がりの愚連隊、
安藤組（安藤昇）が50年、渋谷に進出し、賭博のとともに、広告宣伝、芸能興行を介
して地域一帯に支配を拡大し、58年には債権取立のために東洋郵船社長横井英樹襲撃
事件を起こし。53年、関根組の子分だった藤田軍治（卯一郎）は、土建博徒の関根組
の残党を集めて、墨田・江東区を地盤とする松葉会を再結成し暴力性を強めた。また、
戦後の朝鮮人の実力行使部隊であった町井一家（町井久之、鄭建永）は57年、内外興
行社を設立、債権取立や手形詐取によって勢力を拡大し、1400人を抱える首都最大の
暴力団東声会に発展していった。解散させられた義人党（高橋義人）も、新日本義人
党として暴力団化していった。

�Eヤクザ抗争と警察、企業

60年安保では、左翼運動が暴力的争乱に発展してしまったために、鶴政会の稲川角二、
住吉一家の磧上義光、的屋系の尾津喜之助らは、児玉を介して自民党の依頼に応じ、
数万人の暴力的動員を確保した。山口組の田岡一雄はひたすら組織拡大に努め、関西
や山陰、九州へと進出。本多会、錦政会（鶴政会を改称）、住吉一家、松葉会、日本
国粋会、極東一家等も組織拡大を始め、地元ヤクザの確執も経て、九州、山陽、北陸、
中部、北海道では血を血で洗う抗争となった。一般市民も巻き添えになる危険も増大
し、60年代になると、政府と警察は姿勢を一転させ、彼らを「暴力団」と命名して追
放に乗り出した。取締の結果、多くの組織が表面上は解体を余儀なくされた。しかし
実際は、東京オリンピックと大阪万博へ向けて、ヤクザは建設や港湾役務や運輸にお
いて利益を得ていた。全学連や労働組合の左翼運動はべトナム戦争や成田空港問題で
再燃、運動は過激化していった。政府や企業は、かつてのようにヤクザに左翼運動鎮
圧を依頼できず、武装した警察機動隊を強化したいった。

70年代、オイルショックによる企業変革が行われと、ヤクザも列島改造ブームにのっ
て建設のみならず、不動産転売、土建材採取、廃棄物処理などへ業務を拡大。企業が、
政界との癒着や公害問題等の闇をおざなりにしたまま変革を断行したため、ヤクザは
総会屋や示談屋、情報屋、揉消屋、ブラックジャーナリズム等の新分野で大いに活動
した。労働者からサラリーマンに転じた大衆に消費ブームが起り、ローンやサラ金が
普及したため、小売業や金融業の依頼により、一般市民に相手の債権取立代行が急増
していった。
80年代、大衆消費ブームが起こる。土地や株式等で資金を得た人々は土地や株式に投
資し、いわゆるバブルの到来。カード社会の債権取立代行も増し、地上げや株投機で
も大活躍するＢ勘屋が中小企業主の所得隠しに協力もした。山口組は、78年の京都ベ
ラミ事件（田岡組長狙撃事件）をきっかけとする松田組への報復、四代目継承（84年
〜89年）をめぐる一和会との抗争など凶悪な面を社会に露呈させた。山口組、稲川会、
住吉会の全国的な組織化が進行したのは80年代後半だ。89年４月、山口組では、渡辺
芳則が正式に五代目を襲名。90年代、稲川会は90年10月、石井進が引退して、初代稲
川角二の息子・裕紘が継承する。住吉会は同月、堀政夫が死去して西口茂男が継承。
91年５月、暴力団対策法が成立する。９月、山口組渡辺芳則、住吉会西口茂男、稲川
会稲川裕紘、会津小鉄高山登久太郎が東京で極道サミットを開催した。

1992年３月１日から「暴力団対策法」が施行された。暴力団を指定し、その「暴力的
要求行為」や「対立抗争時の事務所の使用」を規制するものだ。しかし、この法律で
は公安委員会による「暴力団」「暴力的要求行為」「対立抗争時」等の判断基準が曖
昧である。解釈を変えれば、労働組合や報道機関までも「暴力団」に該当することに
もなる。個人や団体を取り締まることは、人権侵害との見解もある。暴力団とは何だ
ろうか。辣腕営業マンと暴力団の境目が曖昧になってきた。暴力団という言葉は、戦
後の混乱期に生まれ、60年代の警察の取締り時代に名指しされたものだ。現代、暴力
事件を起こすのは、末端組員かチンピラくらいだという。粗暴なアウトサイダーは、
いつの時代にも、どこの社会にも存在している。今や、ヤクザとは金満な企業重役で
ある。彼らは現代においては暴力では仕事にならないことをよく知っているし法律に
も精通している。彼らはもはや暴力では定義できない存在となってきたのだ。