獅子丸に異母兄弟の虹でも書きたいの?
じゃあ、私が手伝ってあげる。
そうだね、獅子丸だったら人間できてるから、いろんな葛藤が
干渉縞のマーブル模様みたいに描けて面白いと思うよ。
例えばこんなのどう?
獅子がある日街を歩いていると、橋の上でチンピラが老人と子供いたぶってる。
コーラ瓶投げたその瞬間、横から一瞬早くビール瓶がチンピラの頭に命中、逆ギレのチンピラの
赤黒い視線の先に、首にほくろのある、今どきのスカした感じのイケメン。
首から下はもちろん、不釣り合いなマッチョ。
軽くボコられ橋からポイされ、ドブ水ガボガボ命からがら岸へ泳ぐチンピラを気遣って覗きこむ獅子に
「心配なんすか?ずいぶん優しいんすね。だから、コーラ瓶投げるのも
手加減したって訳っすか?」と、
斜め上から目線残して去るイケメン。デキる、いけすかない奴……。
その後の行き掛かりで、桃に隠し子がいるのを知ってしまい、
「アンタのことは見損なった」と胸ぐらを掴んで喰ってかかる獅子。
黙って喉元の手を外し「男は言い訳しないものだ」と一枚の写真を見せる桃。
総理時代に懇意になった料亭の中居だという和服姿の女が、幼児を抱いている。
「彼女には気の毒なことをした。清楚で教養高く情深く、金剛寺親子一派を向こうに回して戦っていた俺の
、
かけがえのない励ましと癒しになってくれた。
身重を知って、火の粉がかからぬよう、遠い土地に家を買って去らせた。咎めるなら咎めろ」
殴りかからんばかりの獅子。しかし、心のどこかに親父を憎みきれない、
いやどこか、男として逆に評価し始めている自分がいるのは、なぜだろうか……。
再び写真に目を落とし、釘付けになる獅子。幼児の首に、既視感のあるほくろが。……
「あんたはいいっすね。お坊ちゃんで堂々と日向歩いて来て、困った人助けて、可哀想な人に優しくして」
ほくろイケメンとの再会。
「俺のオフクロは日影者っすよ。だから俺は、邪魔になるものはてめえの拳だけで
ぶち砕けるように生きてきたんす。
あの日チンピラをやったのは、正義の味方こきたかったんじゃない。
赤絨毯に並んで写真撮ってるモーニングの連中テレビで見て、コイツらだってどうせ
叩けばホコリくらい出るクセに紳士ヅラしやがって、何が日本のカジ取りだよって
ムシャクシャしてたところに奴がいただけっす。
橋から落とした後、ヘドロ飲んで溺死しようが何しようが、知ったことじゃ…」
イケメンの涼しげな眉目の真ん中に、獅子の鉄拳が炸裂。
「ヘドロは、てめえのその根性だぜ」
倒れたところに容赦なく蹴り。
「わかんねえか。おまえはその根性と物言いで、てめえのオフクロを貶めているんだぞ。
敢えて、日影者だと。叩いて出す、ホコリだと」
「余計なお世話ってんすよ。誰も、頭下げて生んでくれなんて…」
口角から赤い筋を引き、起き上がって体勢を立て直すイケメン。
「この母が、悪いのですか」
背後から落ち着いた、しかし厳しい声。
「剣様と共にいられる一瞬のために、永劫の侘しさに耐える覚悟でした」
和服姿の女性。金縛りのイケメン。
「あなたを授かった戸惑いは、すぐに、消え入るばかりの奥様への負い目を塗り替えるほどの喜びに
変わりました。この母が、間違っていたというのですか。なるほど、愚かな女です。
あなたの言うとおり、日影者です……」
拳と唇を固く結び、走り去るイケメン。
「……なるほど、罪な人だな」
女性をしみじみ眺め、穏やかに、いたずらっぽく微笑む獅子。
「親父は、色香でどうこうなる男じゃないぜ。それを……」
深々と、一礼する女性。
橋の欄干にもたれ、緑とも黒ともつかぬ水面にただ目を落としているイケメン。
つぶれたペットボトルやポテチの袋や木切れの合間から、貪欲な口をぱくつかせる巨大な鯉。
やるかたなくため息をついたその時「おじいちゃん、この前のお兄さんだよ!」と元気な声。
「ほら、怖いお兄さんをここから落として、僕たちを助けてくれた、カッコいいお兄さん!」
老人と男の子。
「……ああ、いい天気だな。……日に当たるって、気持ちいいな……」
不思議くんみたいなセリフを口にして、笑うイケメン。