(2004年9月。とある田舎町、墓前にて)
……早いもんだな、コンちゃん。今日でお前が死んでから一年か。
俺はこの一年、相変わらず、この時の止まった町で、しょぼくれた暮らしさ。
けど、俺はこれで満足だよ。どうせ都会に出たところで――
(背後で足音。信、振り返り、そこに立つ女を睨みつける)
……何しに来た。
墓参りだと? お前にそんなことをする権利はないよ。何故って、分かるだろ?
ああ……そうだな。俺たち4人は最高のグループだった。あの頃は楽しかった。
18年前、まだ先の見えない中、事業を立ち上げた時のことは、今でも鮮明に思い出せるよ。
俺とお前と、それとお前たちふたり。手探りでやってくしかない時代だったが、4人で頑張ってきた。
お前とコンちゃんも、あの頃とても幸せそうなカップルに見えたっけな。
数年が経ち、俺たちは確固たるブランドを確立した。
やがて時代は変わり、俺たちが切り開いてきた道を新世代の連中が歩みはじめ、皆が都会へと出ていくようになっても、この町の老舗の熟練職人として、まだまだ俺たちはいけると信じてたよ。
けど、8年前。
そう、あの日、お前は裏切った。通の奴と二人で、都会に出ていった。
4人で築き上げたブランドイメージだけをかっさらって、後に残された者のことなど知らんと言わんばかりにな。……違う? 何が違う?
なあ。
コンちゃんがあのときどれだけ悲しんだか、お前は知っているか?
あいつは、あんな仕打ちに会っても、まだ愚直にお前を信じてたんだ。なのに……。
畜生……
コンちゃんだけが逝き、お前は今も、のうのうと都会で生き延びている。
……ふざけるな! お前は1年前、コンちゃんに連れ添って死ぬべきだったんだ!
そうだろ!? なあ!?
…………。
……すまん、怒鳴っちまって。
そうだな、お前の言うとおりだ。お前と通の判断は正しかったよ。いつまでもこの町にしがみついてるのは合理的じゃない。
ずっと4人の顔として愛されてきたお前たち二人、都会で新しくスタートを切るのが、事業を発展させていく一番の道だった。
ああ、本当は俺だって分かってたよ……。
だけど、それでも俺はお前が許せない。
コンちゃんを捨てて、通と生きていくことを選んだお前は、どうしても感情では許せないんだ……。
ああ。
そうしてくれ。この町には、もう二度と。
(信、涙を悟られないよう、女から目を逸らす。女、一礼すると、墓前から踵を返し、去る。)
――さよなら……ファミ。通にもよろしく。