【文系】化学メーカー40

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823就職戦線異状名無しさん
目算狂うサウジ合弁事業

「(欧州危機や中国景気の減速などで需給情勢は)いまどん底だが、長期的には心配していない。

資源のない日本での石油化学事業の拡大は相応しくなく、できる限り海外でやっていくというのがわれわれの戦略だ」
住化がサウジアラビア国営石油会社サウジ・アラムコと共同で進めるラービグ・プロジェクト。
その第二期拡張計画の実施を決定した五月二十五日、会見に応じた石化事業担当の石飛修副社長(当時、現副会長)は、
内包するリスクの大きさを指摘する記者団の質問に反論して、こう言い切った。

総事業費七十億ドル(約五千六百億円)を投じる二期計画では、新たに日量三千万立方フィートのエタンと年三百万トンの
ナフサを主原料として確保し、エチレンやプロピレンを増産。今後一年以内にEPC(設計・調達・建設)契約などを
終えて建設に着手。一六年前半から順次操業開始にこぎつけたい考えだ。

原料高と需要減にさらされ、確かに国内の石化事業を取り巻く環境は厳しい。六月中旬には三菱ケミカルホールディングス
傘下の三菱化学が茨城・鹿島事業所のエチレン製造設備一基を一四年で停止すると発表するなど、
大手各社は汎用品中心に設備集約化に躍起だ。
824就職戦線異状名無しさん:2012/10/12(金) 23:39:44.69
しかも、石化設備の大増強が進む中国は近い将来、輸入国から輸出国に転じ、いずれ国際市場に
殴り込みをかけてくるのは必至。さらにはシェールガス革命に沸く米国も原料調達コストの大幅低下で
石化産業の復活が取り沙汰されるなど、ラービグの存在を揺るがす潜在的脅威は目白押しだ。

業界関係者の一人は「石化設備は今後、世界的に供給過剰になる恐れがある」とも指摘する。
それなのに何故いま、巨費を投じてまで拡張に踏み切るのか。まして〇九年四月に稼働した
第一期事業すら誤算続きで、「十分軌道に乗り切っていない」(グループ関係者)にもかかわらず、だ。

住化がアラムコと合弁契約を締結し、ラービグ・プロジェクトに乗り出したのは〇六年三月のことだった。
三井化学との間で進めていた合併交渉が〇三年破談となり、危機感を募らせた米倉弘昌社長
(当時、現会長)が「生き残りをかけて決断した」(関係者)とされている。

ところが工事が捗らず、稼働時期が約半年遅延したばかりか、建設費高騰の煽りを受けて総事業費は
最終的に九十八億ドルと、二倍増超にまで膨れ上がる始末。おまけに現地スタッフの作業習熟に手間取ったうえ、
設備のトラブルも頻発し、いまだ「安定操業がおぼつかない状態が続いている」(事情通)とされている。
825就職戦線異状名無しさん:2012/10/12(金) 23:41:24.62
三菱ケミカルHDや信越化学工業、旭化成など上位陣に収益力で大きく水をあけられている住化にとって、
何といっても痛手だったのは事業費の膨張だろう。

着工前の〇五年当時、米倉社長らは「四十三億ドルの総事業費のうち、約七割をラービグの資産を担保にした
協調融資で賄い、残りを自社とアラムコで折半出資するといったそろばんを弾いていた」(周辺筋)らしい。
これだと住化の直接出資負担は六・五億ドル前後、当時の換算レートで六百五十億円ほどで済み、
年間設備投資額のおよそ半分だ。しかし、建設費が跳ね上がったことなどで協調融資では全体の約六割しか賄えず、
住化の負担は二・五倍の一千六百億円超にまで膨らむことに。米倉氏らの目算は大きく狂ったことになる。

それでも早期に投資回収が可能なら救われよう。だが、不安定操業に市況軟化も加わり、
一二年三月期に至るまでラービグの収益貢献度は「ほとんどゼロ」(住化幹部)。
仮にある程度市況が回復しても「サウジの要求を呑む形で、当初折半出資の予定だった出資比率を
三七・五%に引き下げさせられており、妙味は薄い」というのが業界関係者らの見立てだ。

事情通によると、住化では今回の二期計画の総事業費についても協調融資とエクイティの組み合わせで
調達する方針だという。仮に五?六割を協調融資で賄う場合、住化負担分は事業費が想定内に収まったとしても
八百四十億?一千五十億円。一期と合わせ二千五百億円前後を注入することになり、抱え込む減損リスクもまた巨大だ。
826就職戦線異状名無しさん:2012/10/12(金) 23:43:40.14
経営は最大の正念場に

不安はグループ関係者の間にも燻ぶっているらしい。

二期計画ではアクリル酸、SAP(高吸水性樹脂)やナイロン6樹脂など、いまの住化にはノウハウや
技術がない石化製品の生産も手掛けることになっているからだ。
住化では「第三者との協業も含めて対応を検討する」(石飛副会長)としているが、操業がうまくいかず、
赤字が続くような事態になれば、減損リスクが一気に顕在化して本体の屋台骨を揺るがす恐れもなしとはしない。

「これくらいのビッグプロジェクトになると、一期の事業が軌道に乗り、それが生み出すキャッシュフローや
利益を元手として活用できるといったメドがついてから二期に取り掛かるというのが常道。
いまの段階で二期に着手するというのは勇気があるというべきか、狂気の沙汰というべきか」。

プラント業界関係者の間では皮肉交じりにこんな声も飛び交っている。それでも事業化に踏み切るのは、
中国の台頭や米国の復活をにらんで先手を打つためか、それとも経団連会長にまで上り詰め、
最高実力者として君臨する米倉氏の意地と野望を単に充足させるためなのか―。

一九七一年に建設に着手したものの、イラン革命やイラン・イラク戦争に翻弄された揚げ句、頓挫した
イラン・ジャパン石油化学プロジェクト。
日本側の事業主体だった三井物産はじめ三井系五社は一千三百億円の清算金を支払ってまで
撤退を余儀なくされた。「そんなことの二の舞いはあり得ないし、全然心配していない」。

〇五年当時、ラービグの行く末に自信をのぞかせていた米倉氏だが、シリア内戦の余波で
サウジの政情も予断を許さない。住化の経営は最大の正念場に差し掛かりつつある。