616 :
1/4:
「特技は、仲間の擁護とありますが」
その男――面接官が言った。
「はい、仲間の擁護です」
学生が、口元にうっすらと笑みを浮かべ、そう答えた。
「仲間の擁護とは、何のことですか?」
面接官が、再び質問した。
「冤罪です」
「冤罪!?」
617 :
2/4:2009/08/11(火) 14:23:42
にぃっ。
と。学生が笑んだ。
「はい。冤罪です」
くっきりと。
「全学に、大ダメージを与える、冤罪です――」
そう、言い切った。
馬鹿な。
ここが、どこだかわかっているのか。
ここで――面接会場で、よりによって――
冤罪などと!?
寒気に似たものが、背筋を通り抜けていく。
「――で」
ごろり。と石のように、重たい声が出た。
「その、仲間の擁護は当社において働くうえで……何のメリットがあると?」
この学生、何を考えているのか――
そういう思いが、声に滲んでいるのがわかる。
学生が。
にいっ。
と。笑った。
「ババアが襲ってきても、守れるじゃないか――」
「ぬぅっ!?」
馬鹿な――
618 :
3/4:2009/08/11(火) 14:24:47
「当社には、電凸してくるような鬼女はいない」
そろり。
と、面接官が言葉を紡ぐ。
「それに――それに、誹謗中傷を行うのは、犯罪だ――」
「でも、検察にも勝てますよ――」
この学生……
この学生、人の話をまるで話を聞いていない――
「いや、勝つとか、負けるとか……そういう問題ではない」
「bichiに、ダメージを与えるんだぜ――」
言いきった。
ごうっ。
と。ひどく熱いものが、腹の奥から沸きあがってくる。
「ふざけないでくれ」
止まらない。
止まらない。
もう、この熱いものを止めることが出来ない。
「それに――それにbichiとは何だ!? だいたい……」
「99.99%勝てるんだよ」
まるで、子供に教えるような口調で、学生が言う。
「 b・i・c・h・i と書くのさ……ビッチというのはな……」
「そんなことは聞いていない!」
叫びそうだ。
「帰れ」
叫びそうだ。
「帰ってくれ!」
だが、そこを堪える。
「聞いてません。帰ってください」
619 :
4/4:2009/08/11(火) 14:26:11
そこに。
張り詰めた糸のように、今にもぷつりと切れそうなそこに。学生が。
「あれ?」
と。
「あれあれ? 怒らせていいのかい――」
と。言葉を滑り込ませる。
「通報するよ。ICPOに」
ぷつり。
そこで、糸が切れた。
「いいとも……」
もういい。
通報できるならば、通報するがいい。
「通報してみろ。仲間の擁護意識とやらで――」
それが、どうしたと言うのだ。
「私は早稲田・慶応より賢い国立大の学生ですよ」
もはや、どうでもよくなってきた。
「それで、満足したら、帰ってくれ」
学生が。
にぃっ。
と。笑う。
そして。
「運がよかったな」
「何!?」
「また統合の話が流れたようだ――」
「帰れよ」
たまらぬ学生であった。