【緑】三井住友銀行4【SMBC】

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52就職戦線異状名無しさん
それはちょうど梅が咲いてくる時期、そう3月も中旬だったかな、そんな頃の話だ。

当時はバブル期並みの売り手市場と騒がれていたから、
関関同立の学生だったらどこか受かるだろうと余裕だった。

そんな3月のある日、一本の電話が入る。
「あ、福田くんのケータイ?おれこの前、学校で話した○○銀行OBの小泉だけど!!就活どう?進んでる?」
(またリクルーターか、鬱陶しいな。)
「あ、まぁぼちぼちです。」
「明日梅田で会えないかな?どう?」
「あ、はい。お願いします。」
「じゃあ駅前で待ってるから!!」

(銀行か…。)
あまり考えずに即答してしまったことを少し後悔したが、
それでも良い経験になるからと自分に言い聞かせた。
53就職戦線異状名無しさん:2008/03/13(木) 23:42:07
最近じらされてると感じる
心が渇ききったところに兄貴からの電話があると…
54就職戦線異状名無しさん:2008/03/13(木) 23:42:43
当日、梅田駅前で小泉さんを待った。
梅田駅ではリクルートスーツに身を固めた就活生が皆それぞれの会社へ向かって忙しそうに歩いている。
「よう、福田くんだよね?小泉です!!こんにちは!!」
急に肩を叩かれ振り向くと、ガッチリした体格の男性が立っていた。
「あ、どうもこんにちは。○○大学の福田です。よろしくお願いします。」
身長は180センチ近くあるだろうか。オレなど突かれただけで吹き飛びそうだ。

そして、近くのホテルの喫茶店に入った。
「コーヒーで良い?」
「あ、すいません。おれコーヒーだめなんです。」
「そうか!!じゃあ紅茶で良いね。コーヒーと紅茶で!!」
野太い声で注文を告げると、大学の話など一通りした。
小泉さんは学生時代ラグビー部だったらしい。通りでこれだけいいを身体している。
飲み物が届くと、彼は砂糖もミルクも入れずにブラックコーヒーをすすった。
「さあて、どう?就活。」
(とうとう来たか)
「金融もみつつって感じです。」
「ほぉ、具体的に銀行とか保険とか?」
「はい一応。」
「なんで?」
「メーカー第一志望ですけど。なんとなく。」
「なんとなく?じゃあなんでメーカーなの?」
「いや、別に。そもそもあんまり働きたくないんです。」
「じゃあなんで就活してるの?」
「え?まぁ、みんなやってるんで…。でも、あんまり乗り気じゃないです。今日も正直…。」
「…。」
(あれ?)
55就職戦線異状名無しさん:2008/03/13(木) 23:43:07
「そんなんでいいのかよ。」
(え?)
「もっとちゃんと考えないでいいのかよ。自分の人生だろ?」
「はぁ、まぁ。」
「一応今日も選考という形で受けてもらってる。やる気がないなら帰ってくれて良い。」
「…。」
「一先輩として言わせてもらうが、もっと就職することとか人生について考えた方が良い。」
「…。」
「どうした?」
「実は。オレ、前に付き合ってる人がいたんです。その人は銀行の人で。忙しいからって結局切られちゃって。」
「社会人か。まぁそうだな、銀行が忙しいのは事実だから。総合職の人?」
「はい。」
「じゃあキャリアウーマンか。」
「いえ、ちがいます。」
「ん?」
「男です。付き合ってた人は男なんです。」
「え?」
「ナンパしたんです…。友達が学校に来ない日とかは、オレよく昼に鴨川を散歩してるんです。
彼は法人営業で外回り大変らしくて。鴨川沿いでお昼食べてるのを時々見かけて。好みだったんで、お昼一緒に食べませんかって言って。」
「…そうか。付き合ってたって…付き合うって?」
「…。最後までっていうことです。」
「…。」
56就職戦線異状名無しさん:2008/03/13(木) 23:44:14
小泉さんは飲みかけのコーヒーを置いてすっと立ち上がると、
オレの手を掴んでホテルのロビーに連れ出した。
「やっぱり、そうだったか。」
「え?なんですか?」
「最初に肩を叩いた時に、こいつはそっちに興味あるんじゃないかって感じたんだ。俺らにしか分からない感覚、あるだろ?」
「はい!おれももしかして、とは思っていました。」
「…いくか?」
「…はい。」
そのままホテルをあとにして、梅田の少し離れた所にあるラブホ街へ歩いた。
「いまごろ、他の就活生は説明会だ、面接だってしてんのにな。」
「小泉さんの同僚の方々だって今頃お仕事されてますよ。」
「そりゃそうだな。ハハハ」
と威勢良く笑う姿に、もう自分の息子も限界だった。
ホテルの部屋に入ると、もう言葉は要らなかった。
「福田!!おまえこんなに可愛い顔して…!」「あっー!兄貴!!中で!中でぇ!」
獣のように重なり合い、お互いをむさぼるように求めて、何度も絶頂した。
57就職戦線異状名無しさん:2008/03/13(木) 23:45:00
「じゃあこれ、おれのプライベートの方の携帯番号だから。いつでもかけてきなよ。」
そういってメモを渡してくれた。
「はい、ありがとうございます。兄貴。」
「ハハハ。内緒だぞ。じゃあまた。」
「はい。」

そういって、小泉さんは梅田の人ごみの中に消えていった。



帰宅後、さっそく小泉さんの教えてもらった番号に電話をかけようとした。
(また、個人的に会ってくれるかな)
「この電話は使われておりません。こちらは…」
(え?)
メモを確認すると、番号は間違っていない。
どうして?なんで?
志望企業からのお祈りメールなんかよりも、
その絶望感は激しかった。
(おれ、あんまり良くなかったのかな?なんで?なんで…?兄貴…。)
オレに残されたのは、首筋についたキスマークだけだった。
58就職戦線異状名無しさん:2008/03/13(木) 23:46:02
あれから、5年が経った。

オレは結局、それなりのメーカーに就職して大変ながらも充実した社会人生活を送っている。
もう季節は3月。暖かくなってきた。
「福田さーん、例の書類できましたよぉ♪」
こいつは一般職の森だ。都内のお嬢様大学を卒業してるだけあって、それなりに可愛く優秀で苦労はしない。
彼女が入社一年目に、もう仕事を辞めたいと言い出した時期があった。オレのアドバイスで持ち直したらしい。それからやたら絡んでくる。
「そういえば、今度大阪の出張私も一緒みたいですね!!大学って向こうだったんですよね?案内してくださいよー♪」
今度一緒に関西支社に出張が決まっている。どうやらオレに好意があるらしいし、ホテルで誘ってみようと思う。
「ああ、そうだよ。でもそこまで大阪に詳しくないから期待するなよ。」


あの小泉さんとのあと、何度か他の男をひっかけてまわったが結局あれ以上の快感は得られなかった。
合コンで出会った女も何人か抱いたが、結局は身体は虚しいままだ。
59就職戦線異状名無しさん:2008/03/13(木) 23:46:38
出張の日の朝、東京駅のホームで新幹線を待っている。森が寝坊して少々危ないところだった。
「駅弁買ってきますねぇ♪飲み物どうしますか?」
(お前はのんきだな)
「ああ、コーヒーで。」
「はーい♪」

(兄貴…。いまどこの支店で、どんな仕事してるのかな。オレも、あの頃の兄貴に追いつけたかな。
あの広い背中、分厚い胸板。野太い声。もっと人生を考えろといった言葉。
あれからオレは、ずっと兄貴の言葉に支えられて、兄貴を追いかけてきた。兄貴…!)

「あれ?なんで泣いてるんですかぁ?」
「ちげーよ。花粉症だ。それよりコーヒーくれ。」
「あ、はい。」
「おい!砂糖入りじゃねーか。男はブラックだろ!」
「ええ?知りませんよぉ。そんなもんなんですかねぇ。」
「ああ、そうなんだよ。」

今日も、大阪はあの3月のように暖かいんだろうか。
西の空は、晴れ渡っている。そして、オレは新幹線に飛び乗った。