204 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/14 01:05
「毒にも薬にもならないような自己PRなんて、マクドナルドのコーヒーみたいなものよ」
良い!
206 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/14 07:23
ちょっと面白い
207 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/14 17:48
場面がシンプルで良い!けど贅沢を言えば、
「僕は溜息をついて、マクドナルドのコーヒー的自己PRを書き始めた。」
の後に「ジャンク・フード。」があっても良いかな?とオモタ
208 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/15 00:07
面接官はなぜか僕にまったく質問をしてこない。
僕の横に座っている一橋の学生にニコニコしながら聞くだけだ。
学生時代にアジアへ一人旅をした話のどこが面白いのか、僕には分からない。
あるいは分かりたくないのかもしれない。
一橋はまるでどんぐりみたいな顔をしている。
僕はこの一橋生に対して微かに苛立っていた。
そしてそれは微かではあるが確実に。
「意志と意義のある大学生活をしてきたので私(わたくし)の顔つきは
この3年間でがらりと変わってきたのです。」と一橋生は自信たっぷりに面接官に言った。
その瞬間僕の中で何かが変わった。一橋生の言葉は僕を変えた。
まるでオセロが白から黒へと変わるように。
「君を壊したい」と僕は言った。
「圧倒的な意志と意義を持って強固に抹殺したい。」と僕は言った。
すると横に座っていた一橋生は初めて僕の顔を見た。初めて僕を見た。
「やれやれ」とどんぐりに似た男は言った。
209 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/15 00:12
面接会場にはどんづまりの空気が流れていた。
他にいた日本大学と青山学院大学の学生は顔をひきつらせている。
しかし彼らの瞳の奥にあるアクシデントを楽しみたいという期待感を
僕は見逃さなかった。
「君はなにか勘違いをしているようだね」とどんぐりに似た男は言った。
「私と君との間には溝がある。しかもとても深い溝だ。例えるなら
男と女の関係くらい底が知れないと言ってもいい」とどんぐりに似た男は言った。
「まぁ、落ち着きなさい」と丸めがねをかけた面接官は言った。
少しだけうんざりした顔で僕を見ている。
ここには何かがあるように見えて、実は何もないことに僕は気づいてしまった。
僕はここから出ることにする。
幸の薄そうな明大生とまゆ毛の太い青学生がこっちを見ている。
凝視している。アクシデントをもっと起こせと言われてるような気さえしてくる。
舌打ちをして僕は席を立った。 出口まで最短距離で行く。
「よう。逃げるのかい?」とどんぐりに似た男は言った。
「お前こそ勘違いしてるんじゃないのか。 逃げるんじゃなくて、気づいたから出て行く。
あんたの言う意志と意義でね」と振り返らずに僕は言う。
ドアを開けて、そして閉める。
あきれ顔の面接官を簡単に想像することができた。 おわり
おもちろいけど春樹ぽくない
212 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/15 21:18
時期的にそろそろ、内定通知の瞬間を読みたいな。
それも、キー局か新聞社あたりの大穴。
ちょっと考えてみたものの、ネタが出てこなかた。
213 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/16 20:53
夕方の6時34分に携帯電話が鳴った時、僕は夕食のスパゲティーを茹でていた。
「はい」
相手は僕の名前を確認し、自分は朝日新聞の人事の者だと名乗った。
「わかりました。それで、朝日新聞が僕になんの用なんですか?」
「おいおい、ずいぶんじゃないか。君は採用試験を受けた、私はその結果を連絡するために電話をかけた。わかるだろう」
「そうですね」と僕は言った。
新聞を取っていない、記事にもならない僕のような平凡な学生に朝日新聞が電話をかけてくる用事なんて、たしかに一つしかない。
「それで、僕はどうなったんでしょう?」
鍋をかき回し、スパゲティーの茹で具合を確かめながら僕は言った。最適な茹で上がりまであと2分といったところか。
人事は早速だが、と前置きしてから言った。
「早速だが、君は採用となった。おめでとう」
「ありがとうございます」
「あまり嬉しそうじゃないね?」
「そんなことはありません。申し訳ないですけれど、用件がそれだけなら電話を切ってもいいですか? 今ちょっと手が離せないんです」
人事はたっぷり10秒ほど沈黙した。おそらく、僕の手が離せないという事情について考えていたのだろう。
「今君が何をしているのか聞いてもいいかな?」
「スパゲティーを茹でているんです。多分、あと1分足らずで茹で上がるでしょう。
あなたにもわかると思いますが、スパゲティーというのは茹で加減が命なんです。
ペペロンチーノにするつもりなら、アルデンテより少し前に引き上げなきゃいけない」
「スパゲティーだって? そんなのどうだっていいじゃないか。この電話は君の一生を左右するかもしれないんだぞ」
人事はもう一度スパゲティーだって?と呟いた。何事も二回繰り返すのがこの人事の癖なのだ。
「ええ。にんにくは弱火でじっくりと炒めて、唐辛子は焦げる前に取り出す。苦味が出ますからね。
正統派のペペロンチーノならあとは麺を入れて塩コショウを振るだけですが、僕はここにベーコンを入れます。
そうすると味に深みが出る。ベーコンは薄すぎても厚すぎてもいけない」
「わかった、わかったよ。とにかく、君は内定だ。それにしても、何だか腹が減ってきたな」
「まともな人間なら夕食の時間ですからね」
人事は電話の向こうでまともな人間、と言った。
「君のおかげで、今夜の夕食に悩まなくてすむよ。とにかく、おめでとう」
「ありがとうございます」と僕は言った。
僕は電話を切ると、スパゲティーをフライパンへ移し、軽く炒めて皿に盛った。
ハイネケン・ビールとスパゲティー・ペペロンチーノの夕食を食べ終え、食器を片づける。スパゲティーは少々茹ですぎだったが、まだ許容範囲内だ。
内定だって?
>213-214
こんなところで才能無駄使いせんでも
まさに職人だな
音楽ネタとかはさんだらさらにいいかも
うーん このすれ面白いな
落ちないように誰か一日一回はあげてね
218 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/17 22:53
オーケー、僕がageよう。
219 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/17 22:56
オーケー、僕がageよう。
220 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/18 00:26
一週間で一度だけ学校に行く水曜日は、いつも決まって青空だった。
洗濯の出来ない日に晴天であるということは、ESを出した後に
もっと良いフレーズを思いつくのと同じくらい無意味なことであった。
僕にとって多少なりとも大事である事柄について、いつも僕の手を
離れてからでしか幸運は舞い降りてこないのだ。
「わかるわ。私もいつも、カップ焼きそばのソースを最初に入れてしまうの。
お湯を捨ててからつかうべきなのに、最初に入れてしまうからお湯と
一緒に流れ出てしまうの。ソースの袋には『お湯を捨ててからかけて下さい』
と大きく書くべきじゃないかしら?アメリカだと、1億はとれるわね」
いつか、僕が思うところについて述べたとき、彼女はそう返事をした。
君の考えていることと僕の言いたいことは違うと思う、と僕は穏やかに
抗議をした。
「そうかもしれないわね。でも、そんなものよ。たかだか20分の
面接で、面接官はあなたのことを分かるの。そして不合格とサインするの。
あなたは魅力的な人なのに、面接官は違うことを『分かって』しまうの。
そうじゃない?」と彼女は言った。
僕はなんと答えていいかわからず、ただもそもそと口を動かした。
221 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/18 01:48
>>220 状況がよくつかめないな。
適当に推敲せずにいきおいだけで書いてしまった感じ?
>>220 うおおおこれいい!!!!
ミドリっぽい!
夕飯のオカズを買うため星くず商店街に来ていた。
人口3万人の小さな商店街に似合わないロマンチックなネーミングだ。
季節はいつのまにか初夏になっていた。 午後から入道雲が積乱雲に
変わり、空はどんよりとしている。 今にも雨が降りそうだ。 Tシャツが汗でじっとりと濡れている。
星くず商店街に来るときはたいてい駒田精肉店にも寄っていく。
一つ100円のメンチカツがとても美味しい。
松坂牛なんて使わなくてもこんなに美味しく作れるなんてちょっと感心する。
「メンチ、ふたつ。」とピースサインで僕は言う。
「いつも、どうもね。」と笑わずに駒田店主は言う
客商売なのに無愛想すぎるこの店主が、僕は嫌いではない。
駒田精肉店を出て、歩き始める。
20mほど先を行くと角っこにタバコ屋さんがある
そのタバコ屋の自販機の下に猫が一匹座っている。
まだらな模様の入ったどこにでもいるノラ猫だ。
雨がポツポツ降ってきた。 僕は気にしない。
タバコ屋の前まで来て、ケータイが鳴った。
正確に言うとジーンズの後ろポケットで振動していた。
非通知なので迷わずに出る。
ネコがこっちを見ている。
「はい、もしもし。」
「あ、えーと○×商事の採用担当の村岡です。こんにちわ。」
「あ、こんにちわ。坂です。」 声を聞いた瞬間、僕は一次面接のときからいた頭の薄いメガネの人を思い浮かべていた。
「えーとね、先日やった最終面接の結果、ウチは坂君に内定を出すことにしました。」
「え?本当ですか!?」 と僕は言った。
「うん、今年は君ひとり内定だよ。」
「そうですか!嬉しいです!。」嬉しさが伝わるように僕は言う。
「君も知ってのとおり、ウチは社員40人の小さな会社だ。最終面接を受けた5人の中で坂君の人柄が良かったと
社長の水口が言っていたよ。 あ、もちろん私もね。」 とってつけたようなフォローを入れてくる
「ありがとうございます」
「うん。でもまだ就活してるだろうし、いきなり返事をくれとは言わないよ。 2週間ほどしたら連絡くれないか?」
「はい、分かりました。失礼します。」と僕は言った。
村岡さんが先に切るのを待って終話ボタンを押す。
ケータイが雨で濡れている。
ネコがまだこっちを見ている。
自販機の下でまだらなネコが僕を見ている。
そのとき、僕はふと思った。
この僕はこのネコと一緒なんじゃないだろうか。
誰も聞いたことのない企業から内定をもらい、心の中でガッツポーズをする僕と、
普段誰にも相手にされず、たまに近所のオバチャンから余りものの煮魚をもらい喜ぶネコは似ていると思う。
これから先、僕は40年働く。たぶん。 その後20年の老後生活を送る。
そして、死ぬ。 死んだあと僕はこんなネコみたいに
生まれ変わる気がする。
「僕はネコだ。」声にだして言ってみる。
「僕はネコだ!」もう少し強く言ってみる。
するとまだらなネコはめんどくさそうに、僕から離れていこうとする。
お前なんかと一緒にするな、冗談じゃないと言わんばかりのタイミングである。
いつのまにか、ザーザー降りになっている。
傘を持っていないので、濡れながら帰ることにする。
1K、月6万2000円でモルタル製の3階建てアパートへ帰る。
遠くを歩く、まだらネコも濡れていた。 おわり
ここにいる奴らは俺が知っている中で一番まともだよ。
228 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/20 19:07
空気には終わりかけた春の匂いが混じり、遠くの音がいやにきれいに聞こえた。
「君に必要なのはおそらく自己分析と企業研究なんだ。ぼくはそう思う」
「自己分析と企業研究」と、すみれは言って、不採用通知を見つめた。
「時間はこうしてどんどん過ぎ去っていく。自己分析?自己分析の話なんかしないで。自慢じゃ
ないけどわたしは学生生活で大した事なんてしてないのよ。こうして就活を始めてしまったのに
今更自己分析を重ねて方向を変えることができるっての?
こんな風に不採用の通知を重ねる以外に無いじゃない」
「君が経験から得た事については、なんとも言えない」とぼくは言った。
「それはどこかの隅っこに隠れているだけかもしれない。遠くに旅に出て、帰ってくるのを
忘れているのかもしれない。でも自己分析から自分を発見するという事はあくまでそういうものだよ。
それはなにもないところから突然発見できるようなものではない。過去の積み重ねなんだ」
彼女は不採用通知からぼくの顔に視線を戻した。
「わたしの過去からでも見つけられるの?」
彼女はしばらくの間自身の学生生活を思い返しているようだった。
「ところでわたしの過去から、あなたが見つけられる強みってある?」
「ない」とぼくは言った。
口先だけで(本当にそう思っていたとしても)なかなかそう上手くいくことが無いという事も
ある意味で就職活動の真実なのだ。
229 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/20 20:18
「村上春樹的就職活動」僕は声に出して読み上げてみた。
その声で初めて僕を認識したというように彼女は一瞬振り返ったが、
すぐにまた指を動かし始めた。彼女は、なにやら小説を書いているようだ。
「ねぇ、君、ここは就職課で、そのパソコンは企業の情報を調べるための
ものなんだ。それは知っているかい?」僕は80℃のお湯で沸かしたコーヒーを
飲むときと同じくらいのスピードで彼女に問いかけた。
「文化的雪かき」
「え?」
「これは、文化的雪かきと言うのよ」彼女は繰り返した。問いへの答えらしい。
「私も、こんなものを書いている暇があるならESでも書いて持ち駒を
増やした方がいいのは分かっているの。太陽は東から昇るっていうのと
同じくらい当然の真実として。最初はそんなに焦っていなかったけど、
周りで内定出た人が増え始めて、私みたいに内定なしがマイノリティに
なるとものすごーく焦りだしたの。でも、そういうエネルギーは、就職には
向かないの。部屋の片づけをしたり、徹夜して眉毛を整えたり、そういう
方向に向かってしまうのよ。もし今が冬なら半径1キロくらい雪かきを
したんでしょうけど、25度も気温があるから文化的雪かきで我慢してるの」
「文化的雪かき」僕はその言葉を繰り返し、その場を後にした。
230 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/20 20:28
>>229 春の熊のようにかわいいな。
「エントリーシートを書くことだって、文化的雪かきのようなものだと僕は思った」
って一文を最後に入れたい。
231 :
就職戦線異状名無ぬるぽ:04/04/21 09:53
「良い会社なんだけど、そういうところ偏狭なの」と緑は言った。
「たとえば私が白以外のシャツをつけると落としたりね。
偏狭だと思わない、そういうの?」
「うーん、でもそういうのは好みの問題だから」と僕は言った。
僕としてはそういう会社が緑を最終面接によんだこと自体が驚きだったが、
それは口に出さないことにした。
「あなたの方は何してたの?」
「何もないよ。ずっと同じだよ」それから僕は約束どおり学歴詐称して
ァィヮィバンクにエントリーしてみたことを思いだした。
僕はまわりに聞こえないように小声で緑にそのことを話した。
緑は顔を輝かせて指をぱちんと鳴らした。「どうだった?上手く行った?」
「途中でなんだか恥ずかしくなって説明会に行くのはやめちゃったよ」
「ひよっちゃったの?」
「まあね」
「駄目ねえ」と緑は横目で僕を見ながら言った。
「ひよったりしちゃ駄目よ。すごくひどい仕打ちしていいから。
ね、どうせ学歴フィルターかけてるんだからいいんじゃない。
そうだ、今度2chで晒してあげるわよ。【とにかく】ァィヮィバンク【エントリー】、
【学歴フィルター】ァィヮィバンク【早計?マーチ?】、とかそういうの。それで1000を目指すの」
232 :
酔っ払いの会社員:04/04/22 02:26
「なるほど、
『A4のエントリーシートなんかで自分をわかるわけがない。』
というのは、僕でもわかる。」
と向かいに座ったOBは蝋人形のように無表情に言った。
「だから、僕は就職活動なんかに興味をもてないんです。」
と力を振り絞ってつぶやいた。
やれやれという顔でOBは話しだした
「A4のエントリーシートがもし、1枚じゃなくて100枚だったら君が伝わるわるのか?
どれだけ時間をかけてもいいといったら、僕の会社の偉そうな連中に君は伝わるのか?
残念だけど答えはノーだ。愛し合って結婚した二人だって一生わかりあえないままで死んでいくんだ。
自分の伴侶がどうしてペペロンチーノを嫌いかってことすら理解できずにね」
普段文章なんて書いたこともないが、参加してみる。
やっぱりいきなりうまくはいかないね。
そして内定まだでないのに内定の話を書いてみるオレ orz
*******************************************************************************
内定?内定だって、この僕が。
僕は携帯電話をポケットにしまい「な・い・て・い」とつぶやいてみたが
それは自分の声のようではなく、一層非現実感をつのらせるだけだった。
太陽が西から昇ったってこんな非現実的な感じはしないだろう。
確かに僕は就活をしていた。
成績だって悪くないし自分で言うのもなんだが品行方正な青年だ。
内定の一つや二つ取ってもおかしくないだろう。
でも僕は自分が働くということが何だか信じられなかった。
やれやれ。こんなにも訳の分からない気持ちになるならなんで就活なんてしたのだろう。
それからしばらくの間、僕はハイネケンを空けながら就職するということについてじっくり考えてみた。
いくら考えても実感がわかないので諦めて寝ることにし、部屋の明かりを消す。
ベッドに入ってもう一度「な・い・て・い」とつぶやいてみると、
それはさっきよりも幾分親密な響きを持っていた。
内定のない就職活動は、アンチョビのないマルゲリータみたいなものだ。
235 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/22 15:24
>>233 それはまた、なんと言っていいか…w
いい感じに願望がにじみ出てて味があるよw
236 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/22 23:13
一次面接を通ったからといって、二次面接を通るとは限らない。それが就活だ。
倍率は下がる。面接を受ける人数は減り、面接官の人数は逆に増えていく。
しかしだからといって僕の自己PRが中身のないものだということに変わりはない。
リーダーシップ、協調性、独創性、そして個性。そのような相反する素質をもつ学生とは何だろう?
僕にはわからない。僕には、それがほとんど神経障害をきたしたもののように思えるのだけれど、人事はそれを求めている。
上手に嘘をつける人間と、だまされたふりをする人間。
結局はその2種類の人間達によって、社会は運営されていくのだ。
どちらにもなれないのなら、斜に構えて悟ったような顔をするか、ドロップアウトするしかない。
2004年4月、僕はそんな風にして21歳の春を終えようとしていた。
「考えが甘いのよ」
直子は不機嫌そうにそう言った。
僕はどう答えていいのか分からずに、どこかの木から聴こえてくる
ねじまき鳥の声に耳を澄ました。ギイイイイイイイイイイイ。
内定が出ないと言うことに予感はあった。だが、何社か受ければ通る
んじゃないかと言う油断は確かにあった。つまり僕は就職についてあ
まり深く考えていなかったのかも知れない。
「あなたが働かないと、やっていけないのよ」
喉元に石がつまっているようにうまく声が出なかった。調子がいいピッ
チャーにあった時に叩きのめされる貧弱打線プロ野球チームみたいだ。
「ねえ、リンカーンだって、何度も選挙に落ちたんだぜ」
何とかそう言った。
「それが一体、何だって言うのよ」
「要するにどんな偉人にだって・・・失敗はつきものなんだ。ましてや
僕だよ。もっと失敗するに決まってるじゃないか」
ねじまき鳥は鳴き続けている。さっきより声が大きくなったみたいだ。
ギイイイイイイイイイイイ。
直子はため息を吐く。
「ねえ、あなたってつくづく駄目な男ね」
僕は首を振る。駄目なんかじゃない。ただ、少しだけ、うまくいかない事
が重なっているだけだ。<そう、ただ運が悪いだけなんだ>
ねじまき鳥はねじを巻き続けている。やがて長い時間が経過する。そこに
あいかわらず直子はいる。内定は今だないのかも知れない。ここを追い出
されて樹海の彷徨う日も近いのかも知れない。しかし、確かに、僕は、隣
で眠っている直子の寝息を感じているのだ。それでかまわないじゃないか
。
どんなことがあっても就職に負けてはいけない。
羊男はどこに行ってしまったのか。辺りは真っ暗で何も見えない。
僕はただ先が見えない闇の中を歩き続けている。やがて憂鬱にな
ってくる。手首が痙攣し、このままでいいのだろうかと言う気が
してくる。
微風が頬をよぎった。
ふう、やれやれゴールは近いのだろうか。明かりが見える。内定と
言う名の明かりがようやく。
光に導かれ、僕は温かな空気に包まれる。
「カフカ君、ようやく、内定が取れたようだね」
そこには羊男がいた。彼はにやりと笑い、僕の肩に手を置く。わず
かにストロベリーの香りがする。
「君はもう悩む必要なんてないんだよ」
「良かった」
「ただし、ブラック企業だけどね」
「え??」
やがてドアが目の前に立ちはだかる。そこを開けると、さらに長い
闇が続いていくのが見える。
「嫌だ。入りたくない」
「入らずにはいられないんだよ。なぜなら後ろは樹海なのだから」
OFF・・・・・・・・・・・・・・・やれやれ、もうどうすること
もできないんだな・・・・・・・・・・・・・・ON・・・いやブラ
ックでだって、うまくやれるはずさ・・・・・・・・・・・・・・
OFF・・・なぐさめにもならないね・・・・・・・・・・・・・・
僕はドアの前に立ち止まる。他に道がないかと模索する。
僕は就職先に電話をかけ、どうしても御社に入りたいんです。アピ
ールすることならいくらでもあります、取ってください、お願いし
ます、何だってします、と言った。
就職先は長い間電話の向こうで黙っていた。まるで昨日買ったばか
りのカツラが酸性雨に溶けてしまって、どうしようもなくなってし
まったみたいな。そんな、困っているような沈黙が続いた。僕はそ
の間、他の就職先をリクナビで探していた。
それからやがて就職先が口を開いた。「君、今どこにいるの?」と
就職先は静かな声で言った。
僕はどこにいるのだ?
僕は携帯を持ったままクリックし、リクナビから2ちゃんねるにジ
ャンプしてみた。
・・・・・・・・・
僕はどこにいるのだ?でもそこがどこなのか僕には分からなかった
。見当もつかなかった。いったいここはどこなんだ?僕の目に映る
のはいずこへともなく荒らしすぎていく無数の書き込みだけだった
。僕はどこでもない場所のまん中から内定を呼び続けていた。
オドルンダ、オドッテオドッテオドリマクルシカナイ
思考がこだまする。羊男はさらに僕に問いかける。
「君はFランクなんだろう?とにかく踊るしかないじゃないか。
高校時代に戻ろうったって無理な話さ。君は社会の音楽に合わせ
て踊るしかないんだよ」
「ここはどこなんだ?」
「ここは現実だよ。目を離したい気持ちも分かるけれど、内定を
もらえないのはFランクも関係してると思うよ」
「僕はただエレベーターに入って、面接室に行こうとしてただけ
なのに」
「何を言ってるんだ?君には受ける資格なんてなかったんだよ」
「そんな・・・」
羊男は笑う。
「はは。冗談だよ。学歴なんて関係ない、きっとね。できる奴は
できるものさ。さあドアは開かれた。面接に行ってきなよ、思う
存分、君オリジナルのダンスを披露してくるんだ」
「ありがとう、鼠」
「その言葉を口にしちゃいけない。それはもう失われてしまった
ものだから。ジェイによろしくな。もう一緒に酒は飲めないけど
、内定がもらえるまで頑張ってな」
「ああ・・」
エレベーターは開いた。その先に面接官がいる。僕は後ろを振り返
る。そこには何の変哲もないエレベーターがあるだけだ。
さあ踊ろう。いくら落ちても、オドルンダ、自分のステップで。
241 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/25 23:59
みんな上手いあげ
242 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/26 00:12
>>240 オンドゥルルラギッタンディスカー
かとおもた
243 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/28 00:51
オーケー、僕がageよう
244 :
就職戦線異状名無しさん:04/04/30 02:59
オーケー、僕がageよう
245 :
就職戦線異状名無しさん:04/05/01 12:07
age
246 :
就職戦線異状名無しさん:04/05/01 12:52
「自己分析をすればするほど、その行為を通して浮き彫りになる
“自分”と言う存在の希薄さに、真夏の炎天下の中着ぐるみの中に入って
小学生の相手をするくらいにめまいを感じるの。こんな気持ち分かる?」
「それは、程度の差こそあれ誰もが感じることだよ」僕は即座に答えた。
「そんな簡単に言わないで。あなたは、それでも何かしら誇れることが
あって、内定をもらって優雅なゴールデンウィークを過ごすわけでしょう?
“誰もが感じる”だなんて、なんの慰めにもならないわ」
彼女は、普段からは考えられないほどに険しい顔をしている。
もしかすると、最初からただ僕とケンカをしたいだけなのかもしれない。
「僕が人に誇れることがあるとしたら、スパゲティの茹で時間に最新の
注意を払い、ミートソースも挽肉から自分で作り、それでも50円で
立派な昼飯を食べることが出来るということくらいだよ。でも、それは
店で食べたら立派な値段をとられるだろうから、僕はスパゲティを
食べるたびに数百円は得をしている。僕はいままでにそうした食事を
129回はしてきたし、家庭を持ってみんなの分も作ると今後1000食は
作るかもしれない。百万近い利益を生み出すことが出来る」
「それを、人事の前でアピールしたわけじゃないでしょう?」
「いや、これについて話したよ。ロスを省く姿勢と、茹で時間に妥協しない
忍耐力が評価されたんだと思う。別にイラクに行って人質にならなくても、
介護施設に行っておじいちゃんのおしめを替えてあげなくても、
20数年の人生で何かしらのことはやってるはずだよ」
彼女は、小さくイラクとつぶやいた。僕はその輝きだした瞳を見て余計な
ことを口走ったと気づき、明日のイラク行の便に空席がないことを祈った。
247 :
就職戦線異状名無しさん:04/05/01 16:23
248 :
就職戦線異状名無しさん:04/05/02 19:10
リクと会った翌日から僕は早速エントリーシートを作る作業にとりかかった。
自己PR欄は広すぎもせず狭すぎもしなかった。つまり僕の想像力や認識能力を
凌駕するほど広すぎはせず、かといって全貌を把握できるほど狭くはないということだ。
おちないからやーめた。
>>248 ただageるんじゃなく、何か書こうとするその心意気や良し!
250 :
就職戦線異状名無しさん:04/05/03 22:38
「あなたは何しているの?」
「営業をしてる。地方でね。」
「出張中なのね。」
「そう。」
「仕事は楽しい?」
「うん。営業は好きなんだ。」
「私も好きよ。」
僕は手元にあったESに目を通し、営業志望の彼女を一般職に向かわせる術を考えた。
「ねえ・・・・・・、うちの会社の平均的な地方営業は先月に200時間の残業をした。」
「そう?」
「そして希望に満ち溢れた新入社員も営業は、本社も含めてこの1ヶ月で1割が離職してしまった。
それでも営業が好き?」
彼女はリクルートスーツの襟を直し、コーヒーを一口飲んでから感心したようにしばらく僕の顔を眺めた。
「あなたって正直すぎるわよね。営業ってそんなに大変なものなの?」
251 :
就職戦線異状名無しさん:04/05/03 22:40
最近春樹何もしてないみたいだな。
カフカの文庫本いつでるんだ。
ageage
253 :
就職戦線異状名無しさん:
>>251 この前に「世界のすべての七月」っていう翻訳本が出たよ。
ティム・オブライエンのやつ。