◎◎村上春樹的就職活動2005年卒◎◎

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246就職戦線異状名無しさん
「自己分析をすればするほど、その行為を通して浮き彫りになる
“自分”と言う存在の希薄さに、真夏の炎天下の中着ぐるみの中に入って
小学生の相手をするくらいにめまいを感じるの。こんな気持ち分かる?」
「それは、程度の差こそあれ誰もが感じることだよ」僕は即座に答えた。
「そんな簡単に言わないで。あなたは、それでも何かしら誇れることが
あって、内定をもらって優雅なゴールデンウィークを過ごすわけでしょう?
“誰もが感じる”だなんて、なんの慰めにもならないわ」
彼女は、普段からは考えられないほどに険しい顔をしている。
もしかすると、最初からただ僕とケンカをしたいだけなのかもしれない。
「僕が人に誇れることがあるとしたら、スパゲティの茹で時間に最新の
注意を払い、ミートソースも挽肉から自分で作り、それでも50円で
立派な昼飯を食べることが出来るということくらいだよ。でも、それは
店で食べたら立派な値段をとられるだろうから、僕はスパゲティを
食べるたびに数百円は得をしている。僕はいままでにそうした食事を
129回はしてきたし、家庭を持ってみんなの分も作ると今後1000食は
作るかもしれない。百万近い利益を生み出すことが出来る」
「それを、人事の前でアピールしたわけじゃないでしょう?」
「いや、これについて話したよ。ロスを省く姿勢と、茹で時間に妥協しない
忍耐力が評価されたんだと思う。別にイラクに行って人質にならなくても、
介護施設に行っておじいちゃんのおしめを替えてあげなくても、
20数年の人生で何かしらのことはやってるはずだよ」
彼女は、小さくイラクとつぶやいた。僕はその輝きだした瞳を見て余計な
ことを口走ったと気づき、明日のイラク行の便に空席がないことを祈った。