「あさりちゃん」ありがとネ
姉と妹 二人三脚で描いてきたギャグ漫画、100巻で幕 室山まゆみ
勉強は苦手だけど、スポーツや遊びは大得意の小学4年生、浜野あさり。小学6年生のお姉ちゃん・タタミは正反対の秀才だ。
この一家に起きるドタバタを描いた私たち姉妹のギャグ漫画「あさりちゃん」(小学館)の第100巻は今日が発売日。これでとうとう完結だ。
作者の「室山まゆみ」は室山眞弓と2つ違いの妹・室山眞里子の筆名。1976年のデビュー以来、二人三脚で漫画を描いてきた。
2人の女の子が登場する初のギャグ漫画「ハッピー・タンポポ」を小学館の学年誌で書いていた私たちに、
編集者から「『小学二年生』で新しい漫画を」と依頼が来たのは78年のことだ。
思い出話からスタート
同じく女の子2人の話にすることは決まっていた。だがお友達同士という設定の「ハッピー・タンポポ」と違い、姉妹にした。
当初の登場人物は基本的に姉妹と両親の4人。物語は家庭の中で完結するようにした。
というのも私たちは子どもの頃から、友達が少ないタイプ。やさぐれた子どもで、遠足や運動会の前の日には「雨ふれー、雨ふれー」と
家で言っていた。学校生活の和気あいあいの集団がどんなものか、いまひとつ分からなかったのだ。
だから家の中を舞台にする方が描きやすい。家庭は社会の一番小さな集団。題材はおかずや宿題、
年中行事など生活の中にあるささいなことでも、そこに力関係がありドラマがある。あさりよりタタミが強く、
最も権力があるのはお母さんのさんご、気弱な父イワシという家族から物語を膨らませていった。
ストーリー作りはまず、2人で思い出話をするところから始まる。掲載が5月になるとすれば「母の日」を思い出してあれこれ話す。
エピソードに肉付けして妹の眞理子がネーム(絵コンテ)を作る。できたら姉の眞弓が見てダメなら仕切り直し。
OKになれば妹が下絵を描いて、姉がペンを入れる。最初はけんかすることもしょっちゅうだった。
もともと少女漫画を描きたかった私たちにとって、ギャグは全く明るくない。読んだこともなかった。絵もうまく描けないし時間がかかる。
姉妹でコタツに向き合って仕事し、仮眠する時はそのまま後ろに倒れ、時間を決めて寝る。
先に起きた方が相手をモノサシでたたいて起こす。あれはつらかった。
幸い好評で、ほかの学年誌でも連載が始まる。どんどん忙しくなり、けんかしている暇もなくなった。
キャラ追加、話広がる
連載開始から4年、アニメ化の話が来た。「キャラクターを増やして下さい」と言われ、また頭を抱えたが、これが転機になった。
お隣さん、学校の友達や先生が加わったことで、物語が広がったと思う。時事ネタを入れて、40巻目でペットの犬・うにょを出せた時は、
自分たちの成長を感じられてうれしかった。
約1年のアニメ放映が終わった後、「これで連載も終わりかなぁ」と思ったが、打ち切りの話にはならなかった。
「あさりちゃん」を始めた時、姉は24歳、妹は22歳。「室山まゆみ」は2人の間にいる人物で、年齢も中間の23歳と思い描いていた。
その人物が30歳になれば終わりだろう、その頃にはどちらかが結婚しているだろうし、と思っていたが結局2人とも独身のまま。
学年誌からコミック誌、学年誌と掲載場所は変わっても、連載は途切れないまま、40歳を過ぎた。
それでもまさか100巻になるとは予想しなかった。90巻を迎えた頃から学年誌の休刊が続き、100巻は無理だろうと半ば諦めていた。
が、編集者にも励まされ、意地でも出そうという気になった。よく続けさせてくれたと思う。
特別じゃない終わり方
最終回はどうするか。昔、2人でよく話していたのは、あさりがオリンピックに出て金メダルを取るものだ。
でも結局、「特別じゃない終わり方にしよう」と決めた。
今月1日発売の「小学二年生」に最終話が載ったが、全然最後らしくない話だ。
学校で友達と「じゃあまたね、バイバーイ」と手を振るような形にしたかった。生活漫画に終わりなし、である。
正直に言えば、まだ連載を続けたい気もあるが、100という数字はキリがいい。100を過ぎて自然消滅するより区切りをつけることにした。
やめてあげるのも自分たちの作品への愛。「ありがとさん、よくがんばってくれたネ」と声を掛けたい。
(むろやま・まゆみ=漫画家)