2012/009conclusion GOD’s WAR
「サイボーグ009完結編」創作ノートより
1
全体的なMEMOと構成も
@ワタシ(ショーさん)74歳 とワシ(ギルモア
博士)77歳 による〈会話〉のみによるオカルト
論争。
☆老人二人の徒々なる未来のお喋り
◎後に、各々適宜 エピソードとエピソードと
の間に編入する
この間に「サイボーグ009」のひみつが語られる → ☆
●(宇宙人)
●神 ●UFO ●雪男 ●ネッシー
●死後の世界 ●生れ替り ●幽体離脱
●ポルターガイスト ●妖精 ●超能力(予知.予言. etc)
●幽霊 ●妖怪(河童) ●(超古代)遺跡
●オーパーツ ●ミッシング・リンク
●奇跡(ファティマ.etc) ●悪魔
●天国と地獄 etc
「聖書の暗号」
◎出会いは2010年である。
●時―2011年夏 conclusion =2011年の間の出来事 → 2012 夏
●場所―江ノ島の別荘(石森の)
*眠り続ける赤ン坊001(イワン)の授乳のみが仕事
●共同生活中 ◎二人で 炊事 洗濯 掃除
●時々アスカビルに住む"島村丈"がやってくる。
☆53年程前(1960年前後)
―石森章太郎は突然「サイボーグ009」というマンガの"原稿の下敷き用"
アイデアを思いつく(ひらめく)。本人は「LIFE」という
グラフ雑誌の記事("未来の宇宙探検")に触発された
と思っているが(勿論、それも一因とはなったろう)
実はこの時―
―2010年からイワン(001)が時空を超えてテレパシイ
を送っていたのだ。ある"計画"の下に―(つまり
ヒット作を描かせ、住居を用意させ"来たるべき日"の
ために一緒に暮し"記録者"とするためだ)
9人 それぞれの能力を持つ"改造人間" 巨大な敵…
石森は受信する。微かな"ひらめき"から膨らませていく。
・ロシアの赤ちゃん(頭脳改造"超能力")・ニューヨークの不良
ジェット、空を飛ぶ(ジェット団は当時当ったミュージカルに
出てくる不良グループの名前)・パリのバレリーナ(聴視覚)
・ドイツの全身武器・中国の火炎放射男・イギリス
の変身中年(シェークスピア役者)・アフリカの
水棲人間・日本の(混血児)非行少年(加速装置)
・ベルリンの壁・ベトナムetc 時代の背景が色濃
く出る事になる。 敵→ 死の商人
マンガ「サイボーグ009」の設定、ネーミング(キャラクター)
エピソードの大半は、従って石森の創作である。
そして"未来"の「事実(ファクト)」はこうだ。
*テレパシイを語り合う部分で
→「いや、それにしても 過去や未来へ自在に"送信"
できるとは思わなかったよなァ」
「イワンだけの能力かも知れんヨ」
「いまだにわからないのは、意図的だったのか 偶然に
キャッチしたのか、だ」
☆21世紀009
・島村ジョーは島村ジョーではない。ましてや009とも
呼ばれない。 以下
・ピュンマ(008)はピュンマではなく・グレート(007)
はグレートでなく・張々湖(006)は張々湖ではない。
・ジェロニモは勿論(005)ではなく・ハインリッヒ
(004)も然り・フランソワーズ(003)は"作者"の
好みの女優の名であり、彼女の本名ではない。ジェット
リンク(002)はこれまた映画からの借用で"遊び心"が
ゴッドファーザーなのだ。そしてイワン(001)。これは
ロシアの童話「イワンの馬鹿」に由来する。"超能(脳)
力の所有者"に敬意を表しての命名だった。が、実は
この名前だけは当っていた!(イワン・ウイスキーではなく
イワン・×××××)トルスキー? ・当然ギルモア博士もギルモア
ではなかったが・・・何故か"出会い"の後でも
彼らは、この名前(仮名)で呼び合う事になる。(彼らは既に
「サイボーグ009」(マンガ)を読んでいた
のだ・・・。知らぬは作者ばかりなりけり。
「ワレワレハ コドクデハナイ」
↑〈プロジェクト〉がスタートしたのは2005年
だった。50年程前1人のマンガ家がヒントになったと
思っていた"宇宙探査用改造人間"計画だった!
勿論、太陽系惑星には生命の痕跡なく、その外の
虚空からも生命体からの答信はなかった。
人類はひとりぼっちなのか?! 否、そんな筈は
ない。しかし、もしかしたら、地球は万にひとつの
偶然が生み出した奇跡の星かもしれない。
とにかく取り敢えず、もっとも"可能性"のある火星へ!
・・・これが"大義名分"だった。が、実は―
20世紀末から21世紀初頭にかけてのブームにも
似た"火星探査"で、火星で"奇妙な兆し"に出会っ
ていたのだ(勿論NASAの発表はない)
"""人面岩”""ピラミッド群”""大峡谷の地底の
怪音”etc―。その有人探査機の(第××"
探検隊)乗組員として、長年密かに研究されていた
サイボーグ・アストロノートを起用しよう
というのだ。が、
このプロジェクトも実は"邪悪な"影(シャドウ)の存在が
関与していたのだ。現代科学ではなく過去科
学ともいうべき"秘術"にも似た技術がサイバー
アストロノーツの極く一部分に、秘かに実行されて
いたのだ。宇宙のみではなく崩壊しつつある未来の
地球への人類の生き残りを賭けた壮大なる
実験・・・
・イワンの脳はスーパーコンピューターと"連動"
される筈だった…("怪我の功名"で超能力者になってしまう)
・ジェットは常人の5倍のジャンプが出来る筋力を持ち
・フランソワーズは、壁の向うが視え、10km先の物音も
キャッチ出来た。
・ハインリヒは全身武器―と言うよりは身体の3分の2を
"機械仕掛け"にし(ロボットに近い)
・ジェロニモは"起重機"の機能を持たされた。
・張々湖は熱を放射(熱線、火炎)した。
・グレートは変身し(細胞配列を変化させる)
*タコやカメレオンや擬態動物の能力だ。
・ピュンマは深海(500M)にも潜れた。 そして
・島村ジョーは常人の9倍の速さ(スピード)で動く事が出来た。
DRギルモアは〈プロジェクト〉のメンバー科学者の一人
だった。が"影"の邪悪な意図を嗅ぎ
とって、この9人を誘って叛乱を起した。
―こうしてプロジェクトの一部は瓦解し、9人は
逃亡者となり、世界に散った。
―話はここから始まる。
―…アーサー・C・クラークが、こんな事を言ってるよ
―……
―殆んどの超常現象は、"人間の脳"で説明出来る
―ほ?!
―つまり前世の記憶とか生まれ替りは何処かで
無意識のうちに聴いた会話の記憶、例えば幼児の
時に聞いた大人たちの世間話を、ある時ときっかけを
得て思い出す。それが周囲の人に"生れ替り"と
誤解させる。どう思います、ギルモア博士?
―ショウさん、クラークは、こんな事も言ってた筈だがね
アーサーCクラーク
*「非常に進んだ科学は魔法と区別できない」
●イワン・ウイスキーは眠り続けていた。もう何年も。ギルモアとショーさん
(と小松左京氏が私をそう呼んでいた)は定時にミルクを
飲ませ、オムツを取り替えて世話をしていた。
●ジェット・リンクはニューヨークで私立探偵をしていた。
依頼があって人探しを始める。冷酷な殺人などが
連鎖し、やがて舞台は地下世界へ。闇の世界で
黒魔術集団との死闘が始まる。
●フランソワーズ・アルヌールは「ルーブル美術館」の
地下3階にいた。長い間展示されない半端な美術品、出土品など
の資料づくりをアルバイトでやっているのだ。
奇妙な収蔵品をひとつみつける。20000年程前の地層から
発掘されたモノだという。"美術品"らしいが説明不能の
〈オーパーツ〉だ。謎を追跡していくうちに奇怪な事件が
起り始める。
●アルベルト・ハインリヒはドイツの高速道路、アウトヴァーンを駆っていた。
長距離トラックの運転手なのだ。途中のインターで
一人の少女と出会う。男友達とドライヴ中、大喧嘩
になって、一人残るハメになったのだという。少女を
助手席に乗せ出発…妖精の里へと迷い込む。
全身マシンの男と妖精にも似た奔放な美少女の
切ない恋と、妖精の恐怖と…
●ジェロニモはジャングルを流れるあのアマゾン
河の支流をカヌーで逆上っていた。レンジャー(密猟保護)
の相棒を密猟グループに殺され、追跡しているのだ。
グループの足跡は見えていた。密林の樹々が囁き
叫んで教えてくれるからだ。ジェロニモには精霊たちの
声を聴く能力があった。自殺者が続出している森の
集落の謎。やがて未発見の(埋もれた)古代都市
に辿り着く。そこに待っていたモノは…
●張々湖は料理人だ。今、黒豚に乗って、チベットの
秘境を目指していた。ある噂を聞いたのだ。シャングリラ
と呼ばれる理想郷があり、そこには不老不死も可能になる、
しかも美味なる、知られざる食材がある、というのだ。
「ムカシからの伝説」を確認すべく、張々湖のお笑い珍道
中が続く(食・論を黒豚と話ながら)、そして遂に―。
●グレート・ブリテンはロンドンの場末にある小さな劇場で
役者をやっていた。シェークスピア俳優を目指していたが
今は芝居が出来るだけで満足していた。ところが劇場に
幽霊が出没し始めて…。
●ピュンマはバミューダトライアングルの海底35メートルにいた。
もちろん素潜りだ。そこには(海底ピラミッド)があった。
その調査船のダイバーなのだった。太古から存在した
筈の海底ピラミッド、造ったのはナニモノなのか?やがて
"真相"が近づいてくる…。
●島村ジョーはトカラ列島付近の海にいた。
海底の巨石遺跡を調査にきているのだ。と言っても
●島村ジョーはトカラ列島付近の海にいた。
海底の巨石遺構を調査にきているのだ。と言っても
海底遺跡そのものが調査の目的ではない。〈縄文
古代文明〉の検証のためであった。ここは、もしかした
ら、青森三内丸山に至る"縄文文化"の出発点
だったのではないか。そしてその文化は予想だにしない
異質の(現代と)文化だったのでは…(モアイ・遮光器土偶)
"移次元"以前の文明が見えてくる。
―"神"はどうじゃネ、ショーさん。
―ハハ、ギルモア博士。これが一番厄介なんですよ。
9人それぞれが、それぞれの奇々怪々な事件と遭遇し
神に出会ったのだが。たまたまに9人が、では
なかった。同じ頃、世界の各地でいろんな人々が
それぞれの国の"神"に出遭っていた。そう
世界中に突如"八百萬の神"が湧き
出てきたのだ。これは幻か現実なのか!それとも
なにかの兆しなのか?!
(世界中の神 短いエピソードで)
その時、イワンが覚醒(めざ)めた。テレパシイに
よる召集がかけられた。9人は日本にやって
くる。そして001(イワン)による各人の
超脳力開発が始まった。
〈エスパー・サイボーグ・コマンダー〉
神々と闘う"超能力サイボーグ"の登場だ
―ジョン・キールという人は雪男やネッシーや蛾人間(モスマン)
といったもののけは異次元生物なんじゃないかと
いう説を提唱してますが。
―なんでじゃ。
―ふっと消え、ふっと現われる。とてもじゃないが長年
棲息できるような場所ではないところに…。
―UFOが連れてきた、という説もなかったかね。
―ええ。"宇宙人ペット"説…。
―ふむ。異次元は、ご都合主義に過ぎるでなア。
ドラえもんのポケットみたいに、なんでも出せる。
大体が"異次元"そのものが超常現象のひとつ
で、これじゃあ屋上屋、答えにならんわい。
―だから…
―と、待った。イワンの時間じゃ。続きはあと後…。
ワシがみてくるで、次のモチーフを決めといて
おくれ。
―ええ…。
アーサーCクラーク
*「非常に進んだ技術は魔法と区別できない」
―でもオカルトを信じている訳じゃないでしょう。科学や
技術の未来を夢も混じえつつ絶対に
信じている人の言葉。
―しかし、クラークには「幼年期の
終り」というSFがあるが、あれなんぞ相当に
オカルトっぽいところがある。
―ハハ、SF作家というのは、ある意味じゃホラ吹き
なんです。作品はそこで成立している。そういう後ろめたさ
みたいなものがあって、現実の言動には妙に
慎重になったりする。
―それにニュートンとかコナン・ドイルとか過去の
"知性"と称されている人が、後年、神秘主義に
走った例が意外と多い。それを見て世間は嘲笑
うからね。"老化現象"のひとつだといって…
―ワレワレも、こんなハナシに興じてるのは
それですかねえ。
―ワシや違うぞ。否定派の立場で話をしとる。
―チェッ、ワタシだけオイボレにする気だ。
―・・・。
〈この世界というのは、たぶん他の天体にとっての地獄だ〉
A・ハックスレー
神々は、こんな姿で現われる。
●放浪の予言者→黒いキリスト 世紀末 偽のキリストが現われる
●大司教 ●占師 ●大僧正(山伏)
●正義の使者→政治家などの不正を暴く(催眠術で本音を言わせる)
白いラスプーチン ・スカルマン ・バンパイラ
怪異―・奇人クラブ・雪女郎・海の部屋 他
○ニューヨーク地下(マンハッタン) 1700年代200年前の遺体群
300年前アフリカから(黒人奴隷)
イルカの乾燥ペニスが売られている
新しい未知の世界 ガンなどの薬
ボルヘス―引用
神々よ、私を裁くときは神ではなく
ひとりの人間として裁きたまえ。海に打ちのめされた
人間として―フェニキアの船乗りの美しい祈り
ジェームズ・スパーク ロバート・オーンスタイン
アックスメーカー 注)このあたりの名詞は自分の知識不足のため読み間違ってると思います
20世紀の終り頃、そんなネーミング
で"秘密結社"の誕生を
説明した男たちがいたが…
こういう連中が自分が動き
易いように"神"なる存在を
つくりだしたのかも知れない。
あるいは、この連中のひた隠し
にしてきた知識が無知なる大衆には神の御業に
見えたのかも知れん。
そして長い間に―"神"は固有名詞となった。
年表
〜1997 ソ連邦崩壊→核兵器大量流出 CO2―二酸化炭素
1998 世紀末的世界
1999 ノストラダムスの予言(1997、7の月…)ハルマゲドンへのプロローグ
2000 →石ノ森記念館
2001 あらゆる薬の効かない新疫病の恐怖→002の項
森林伐採(環境破壊の報い)
地球温暖化ますます激しく
2002 民族紛争頻発
北朝鮮→南(韓国)に侵入
2003 →珍しく平穏な年
もっともそれは嵐の前の静けさといった不気味さを含んでいる
絶滅種増 巨大深海魚浮上(予言書)
ハルマゲドン信仰起こる
2004 東京大地震→UFO?
首都機能を移動
中国VS台湾 両極から氷山流出
2005 テロ頻発
2006 中東中心に小規模な戦争
第三次世界大戦がすきあらば起こりえる
小惑星と激突の危機
2007 9人と一人と石ノ森出会う(「サイボーグ009」の謎、解明)
それは001の深謀によって仕組まれたシナリオだった。
→江ノ島別荘生活
2008 001 眠り始める
2009 予兆の数々が始まる
世界各地に超常現象が頻発しはじめる
2010 9人それぞれに神と出会う
黒魔術 オーパーツ 妖精 古代遺跡 シャングリラ 幽霊 海底ピラミッド 縄文文明
世界各地に神が出現
2011 "神々"姿を現わす
9人集結 闘いが始まる
第三次世界大戦(全面核戦争)の危機
2012 "神々との闘い(ハルマゲドン)
第五次元への移宙(天国と地球の交代)
2013 天国 宇宙に
―それぞれの時代のもっともすぐれた技術を
時には神の象徴とさえ見なす事を歴史は
証明している。 ポール・ディヴィス「神の精神」
(オーストラリアの物理学者)
―春雨や 天没地没 虚空没
永田耕衣
・全ての宗教の基本信仰は
―神の存在
―歴史は長編映画のフィルムのよう
それを事前に見られるのは神のみ
―「3月15日を警戒せよ」
シーザー暗殺の日―凶事を警告する時の諺として
―世界は二度創造された。正と邪という
絶対的判断の視点から構想され、次に世界は
このようなあり方では存在できず、不完全な人間の為の
場所がない事を神は見て、慈悲を与えた。
「ミドラシュ」(古代ユダヤ聖書読解書)
光の子と闇の子の闘い
第五次元 (聖書の暗号)
―アインシュタインの探してきたモノが、三次元空間や時間と
いう第四次元の中にではなく、現在ではすべて量子力学
物理学者が認めている第五次元の中にはあるようだ。
「最古の宗教文書は、第五の次元が存在するとも述べて
いる。それは『善の深さと悪の深さ』と呼ばれている」…
天国と地獄? それはかつて人々の関心事であったが、
いまでは科学者や新聞記者も殆んど相手にしないような
問題である。しかし、われわれにもっとも重要な問題を考えさ
せる。
それは神の存在を証明するものだろうか。答はイエスである。
「聖書の暗号は、その確固たる科学的証拠です」
―アインシュタインの“相対性理論”も暗号化されている。
アインシュタインにはわからなかった宇宙を完全に理解する理論
「統一場理論も、三千年前に聖書に暗号化されたかも…
一度は彼の名前とともに、二度めは相対性理論と
ともに。『第五の部分を加えよ』という同じ暗号がある…」
マイケル・ドロズニン(木原武一訳)
虚空と虚空で、時の無い時の瞬きの間に その惑星(ほし)と
惑星は、ところを変えた。見た目には微動だも
感じさせぬ振動だったが… →地球の大災厄の描写になる
―それは地獄から天国へ、天国から地獄へ
存在を変えた瞬間であり、“人類”が孤独に
胸を喰まれる事になる歴史の始まりであった…
周辺アラブ諸国
・シリア(同盟国、イラン、リビア)→核攻撃 イスラエル
ラマハ・ダビデ(イスラエルの空軍基地)
2000〜2006 ハルマゲドン 第三次世界大戦→2012
・中東紛争 ・北朝鮮 ・中国vs台湾 ・アフリカ ・インド ・病気
「われ傷にしてかつ刀なり
掌にして打たるる頬なり。
四股にしてかつ拷問車、死刑の囚徒かつ刑吏なり
われ、わが心の吸血鬼なり…」
ボードレール(悪の華)
"われ"とは"われにあらず" 両義を含む?
英知の象徴
「ミネルバのフクロウは黄昏に飛ぶ」ヘーゲル(ドイツ哲学者)
(歴史や世界の現象は最後にようやく意味がわかる)
過去と現在と未来との区別は、いかに
根強いとはいえ、単なる幻想に
過ぎない(アルバート・アインシュタイン)1955
―これはしるしを行う悪霊どもの霊であって、全世界の
王たちのところへ行った。それは全能者である神の
大いなる日の戦いに備える彼らを集めるためである。
汚れた霊どもはヘブライ語で"ハルマゲドン"と呼ば
れる所に王たちを集めた。(新約聖書 最後の章)
ハルマゲドン(ヘブライ語では)→メギド 荒涼たる古代要塞都市→メギド山、ハルメギド
サタンは、その牢から解放され、地上の四方にいる諸国
の民、ゴグとマゴグを惑わそうと出て行き、彼らを集めて
戦わせようとする。
―お前は北の果の自分の所から、多くの民を伴って大集団
大軍団となってくる。
E=mc2(アインシュタイン)「第三次世界大戦がどんな
武器で戦われるか知らないが、しかし第四次世界大戦は
棍棒と石で戦われるであろう」
新約聖書最終章 ヨハネ黙示録(第七の天使、第七の災害)
―それは、人間が地上に現れて以来、いまだかってなかったほどの
大地震であった。すべての民は逃げ去り、山々も消えうせた。
・エゼキエル(ゴグとマゴグの最後の戦い)―必ず、その日に
イスラエルの地には大地震が起こる。地上のすべての人間はわたし
の前に震える。山々は裂け、崖は崩れ、すべての城壁は地に倒れる。
―わたしは天を震わせる。大地はその基から揺れる(イザヤ書)
主が大地を揺るがすために立ち上がるとき、人々は主を恐れて
岩の洞穴と地の穴に逃れる。
―殲滅し全滅させるために彼は激しい力をふるい、すべての人に
大いなる恐るべき出来事、火災と地震を与えた。
ビデオ
スーパーヒーロー
・超能力戦士 コスチューム…日本の忍者風
・オカルト都市…新興邪教→呪術で怪物(オリエンタルムード)を解放する
↓裏世界
以上@終了
以下
A
(下書き・構成案)
◎天空の食
☆火星 カリフォルニア パサデナ
マースズ・パスファインダー ローパー ソウヤー マリーキューリー
警告 火星 記号 槍と盾
ローレル スキャパレリ 火星地図 HGウェルズ 火星着陸
オーソン・ウェルズ ラジオドラマ ナチスドイツ全盛の不安
クラーク これでローレルの亡霊から逃れられる
人面岩 火星ピラミッドと三山―並びが同じ
1924 ×××× アメリカで禁止
二酸化炭素を利用 高価な資源 ダイヤモンド
1977 ××× SETI
我々は孤独ではない イサリ火 ホタルメカ
◎世紀末の病 魚 虫 家畜
記憶喪失
食物感染源という恐れ
続く森林焼失 寒冷化? 温暖化?
激減を続ける動植物 食物連鎖の頂点にいる人類が
足元が崩れて生き延びられるのか?
貴重な薬品資源が失われてゆく
新種 未知の 恐怖のウィルスが目覚める
変身を繰り返し"抗体"を作るため制御不能
〈神々の作戦〉
・宗教―政府中枢
・地震 洪水 台風―異常気象
・その土地の(神)の形を借りて現れるだけで
その(神)ではない
天空の食 張々湖
不老不死食があるというシャングリラ―理想郷―チベット奥地の未知の土地
気候温暖で"神々"が住む ―という伝説
シャングリラ目指しての黒豚との旅
→"神々"はいた(チベット、中国、ネパールetc)
ドッコイ→不老不死食とは人肉であった
●黒豚はいつも無言(当り前だネ)しかし
タフである。一日中歩いても平気である。
雑食なので、放っておけばなんでも勝手に
食らう。(張々湖を背に乗せ旅用の荷物を
担がせても平気) *この道中の
ヤリトリの中に"中国食文化"のウンチクや
歴史を張々湖に独白(モノローグ)させる。
モチロン黒豚は無言であり、時折ブウと
鳴くだけだ。しかし張々湖は疑っている。
絶対ワイの話を理解している。していて
知らんぷりを決めこんで、腹の中で嘲笑っ
ている筈。あの小さなズル賢そうな赤い
目を見ろ。タダモノじゃない!
「張々湖」の生い立ち
↓
全員の本名は名乗らないというルールのもとに
「石森」が付けた名
・「石森章太郎選集」
(タイトル) 石ノ森章太郎
「食は火なり!」
黒豚の背中で揺られながら張々湖は叫ぶ。黒豚は無言だ。
「火なくして料理なし」
黒豚に返事はない。
「ワイは体内に火を持てり。よって世界一の
料理人と称すべきなりや!」
ブウ。黒豚がやっと鳴いた。
「このヤロー。よくも…鼻で嘲笑ったな!」
嘲笑った訳ではない。こういう鳴き声なのだ。
「いいや、嘲笑ってる!その顔が何よりの証拠!」
いい迷惑だ。黒豚は元々こういう顔なのだ。
「ふん、いいか覚えとれよ。オマエを連れて旅をして
いるのは、単にイザという時の非常食としてだからな!
ワシに逆らいおったら瞬時にして焼ブタにして食ってやるからな」
ふと、思いついたふうに一片の詩を付け加えた。
「黄州のよき猪肉。価銭は泥土の如し。
貴者は敢えて喰らわず。貧者も煮ること解わず。
弱き火、少なき水、火力足りる時に、其れ自ずから美味し」
(蘇東坡『竹坡詩話』周芝紫)
ブーッ
「ふん。どうだ恐れ入ったか。お前の肉など
泥より安価いんだぞ。ワシのような貴人は
食わないイヤしい食い物だ。ツベコベ
抜かしたら不足な火力で焼いたるからな」
石がゴロゴロしている細い山道をダラダラと
上へ登っていた。
左が崖、右は谷底である。
北京を出てから1か月、飛行機と列車とトラック
やバス。そして歩いて、歩いて…
ラサ市を出てからも、もう8日めになる。
そろそろ退屈してきていた。
ラサではマニ車を回して祈ったし、五体
投地もやってみた。しかし出張った腹と
丸い鼻が邪魔になって上手くいかなかった。
ポタラ宮殿の見学では世界一の釈迦仏像
を見て、旅の安全を祈願した。
市場にある屋台ではラマの高僧が食べるような
ニワトリ、野菜、羊肉などのチベット料理も
味わってみたが、それは不味くはなかったものの
今回、張々湖が目指す食とは異なった。
伝説のシャングリラ、桃源郷、理想郷の不老不死の食事。
それを一度、食すれば永遠の生命も得られるという。
「永遠に生きたい訳じゃない。寿命があるから
こそ、ある間の生命が輝く。しかし…」
張々湖は天を仰いだ。チベット山脈の天空の
連なりが黄金色に輝いて中国、ネパールへと
伸びていた。あの山の何処かに未知の食が
ある。一年中気候温暖で周囲の厳渓から
比べると天国と地獄のよう。蝶が羽を
広げ花びらが舞っている。
「ホンマかいな?」
プス。張々湖は鼻を鳴らした。
「信じられやしないが、ムカシムカシ
からの伝説だ。証言が幾つもある。
特に最近は著しい…」
黒豚は黙々と歩き続ける。一日中この調子で
歩き続けても平気だ。黒豚は異常にタフなヤツだった。
「それって…オマエはどう思う?」
モクモクと黒豚は歩く。
「オマエの豆粒のような脳ミソには負担
の大きい質問であったか。
とにかく、その鼻センサーで極楽浄土を
捜してくれや」
張々湖の声は、もう優しい。本当は黒豚が
好きなのだ。もう6年も飼っている。
食用に仕入れたの
だが、その笑っているような顔が余りにも
愛敬があったため屠殺し損ね、結局6年も
一緒に生活する羽目になってしまったという訳だ。
羊飼いと羊の群れなどに遭ってもおかしく
はないのだが人っ子一人にも出会わない。
移動のシーズンは過ぎているのかも知れない。
張々湖は黒豚を相手に退屈を紛らわせ
ていたのだ。でも時折は気になる事もある。
疑っているのだ、張々湖は。黒豚の知性を!
ヤツは絶対ワイの言う事を理解している。
時々小利口に嗤うし、鼻でバカにもする。
それに、あのずる賢こそうな小さな目はどうだ。
隙あらば盗み食いしてやるぞ、という油断も隙も
ありはしない目つきだ。もっとも、小さい目という
事ならワシも黒豚を嘲笑えんが…
ビョウと風が呻って視界が開けた。
ケルンの積み石
・フカヒレ うんちく―山がヒレの形
夢でフカに追われる張々湖
今日はゼイタクにフカヒレ 干しもので持っている
*ケンカばかりしているが黒豚とは強い友情で結ばれている。
・高山病―山の形―フカに追われる悪夢―フカヒレの話
・中国とチベット(独立争い)―ゲリラ(山賊)―秘かな暗闘
・猛吹雪―イエティ(雪男)と遭う―ネアンデルタール それとも?!
・桃源郷シャングリラの地図を手に入れた経過
―フランクキャプラ「失われた地平線(映画)」の主人公
記憶は第一次大戦で途切れている―さまよえるオランダ人
・シャングリラに入る―みんな若々しく健康で美しい郷人たち
共同体 支配者はいない?―が、チベットの神々が現われる。
不老不死の天空の食とは…!? ―人肉を喰らうこと
一番うまい(おいしいモノを食べさせて育てた)家畜。
○張々湖の旅行食
・インスタントラーメン
・ファーストフード―ケンタッキーフライドチキン(家郷鶏)
・フカヒレの干し物―姿煮が食べたい ・羊肉
・乞食鶏―鶏を蓮の葉で包み泥を塗り―丸ごと焼く
・羊肉の蒸らし焼き―遊牧民の一宿一飯―お返しに火の舞、名付けて火極拳
調理法のMEMOをとる
@白羊の肉(一年モノ)→細い葉状に切る
A・浜納豆―大豆を発酵させたモノで調味料代り
・(粒)塩 ・ネギの白把 ・ショウガ ・山椒
・胡椒に似た香辛料
B胃袋を洗い表と裏を逆にする。切った肉と脂
をその中に詰め(満杯にして)縫い合わせる。
C穴を掘り火を燃やし、土が赤くなったら灰を集める
胃袋を穴の中に入れ、灰で覆い、その上で
更に火を燃やす。一石の米が炊きあがるくらい
の時間で…出来上り。
アイヌ(人間) モシリ(大地)カムイモシリ(神の国)
ユーカラ 縄文人
人間が空を飛び怪物を退治する英雄譚 カムイノリ(神への祈り)
○遊牧民一家と出会う。羊飼いの少年。
○羊肉の蒸らし焼き→財産なのにと大感激
"火極拳"の舞を披露(酔って)
○翌朝一家に見送られて山に入る。(いよいよ!)
○山賊(ゲリラ)との出会い。(中国)とチベットの
独立戦争が続いているのだ。
○高山病(幻想)フカ(山の形)に追われる悪夢
フカヒレのうんちく。外は…吹雪―
○イエティ現わる(ネアンデルタール? 異次元生物?)
超常現象
回想 地図 フランクキャプラ ロストワールド 失われた地平線
―の主人公(第一次大戦以後の記憶なし)
〈さまよえるオランダ人〉不死の男なのだ
○翌日、晴れると
→朝日が示す"桃源郷(シャングリラ)"への入り口
○通路(トンネル)を抜けると…常春の郷!
平和そのものの村
○そして…神が現われた…人肉
○どうやって逃げるか?!
火薬 ダイナマイト 入口破壊 雪崩
相手は(超能力を持つ)"神(チベットの神)"だ。
対決→決着なし?
サルヴィン大河川の土流 渓谷の斜面で
チベット
・ヒツジ、ヤク、ウマ ・農業 ・フェルト布
・チベット(中国の西域)論 ・チベット語 ビルマ語
1903 イギリス←1951年 中国紅軍が解放
標高4000メートル→ヒマラヤ 崑崙山脈→6000〜8000
・ラマ教 ・区都ラサ ・薬草 ・じゃ香
・北京→ラサ間に空路 ・自治区
・中国南西部を占める高原 ・山岳地
北京 ヒコーキ―ゴビ砂漠越え
・タクラマカン砂漠
カラコルム山脈―崑崙山脈―敦煌
西域自治区―中国と小競合い
マナスル―ヒマラヤ山脈 エベレスト カンチェンジュンカ ブータン
ネパール カトマンドゥ
北京を出てから20日、ラサ市を出てから8日、
無人の高地を行く"張々湖"と黒豚
の会話→北京からラサ市―小さな
村々を越え…。今は夏。短い夏だ。
その間にシャングリラ(桃源郷)
を見つけて帰ってこなければいけない。
目指すは天空の食 不老不死の料理→のレシピ(献立)だ。
小さな盆地に出る。羊飼いの少年→テントの家。そこへ
山賊(ゲリラ)。チベット独立運動?
と名乗り、羊を数頭もらっていく、という。
と、張々湖をみつけ、襲う。が、
反対に火焔放射で追い払われる。
お礼に、と一年モノの羊を料理してくれる。
(めったに食べられない贅沢な料理)
大感激して"火極拳"を披露する。
でも旅はこれからが本番。あれから2週間人には会っていない。
→吹雪・フカヒレ料理の話
夜、洞穴―夢→フカに追われる。
声→雪男→ネアンデルタールなのか?それとも超次元生物
・吹雪が晴れると、フカヒレ状の山
そして太陽が…谷の入口を指し示す→
・インスタントラーメン、フライドチキンの話
(洞穴での2週間のうちに)
・谷へ→そして常春の郷。シャングリラ?
・郷人たち やさしく→しかしどこかおかしい
魂を抜かれているような手応えのない人々
平和ボケなのか→支配者はいない。出入りは自由だ
郷を円滑に維持していくための世話役が何人かいる。
・宮殿→1部屋だけは入ってはいけない。
―ワシはコック→調理室の手伝いをしたい。
・大女がやさしく親切だった。
人肉料理の時は恐ろしいオニババアとなって
不老不死と料理
そんなものはない。毎日の食事がそうだ。
ここの気候と空気とストレスのない生活が不老不死を与えているのかも
不老不死のレシピ
開かずの間に忍び込む。何か
隠している…。忍びこむ。誰かが
ベッドに寝ている→むくりと起き上る
エレファントマン!? チベットの神だ。
逃げ出す。黒豚を連れて、谷の
入口へ…決闘→大火焔→超能力の暗示
大雪崩になって未決。吹雪く山。エンド
・黒豚…心配する事ないからな北京に
連れて帰ってやるからな…。
*地図を手に入れた北京の店の
回想→日本軍から逃れて脱走
以後、記憶を喪失した男。しかしどう
見てもまだ30代、おまけしても40代
の初め…。しかし疲れている。地図を
おいていく(お礼に―食事をさせてやった
ほんもののフカヒレの姿煮を)
どうしてもウソとは思えない…。
張々湖とは…
・僻地のある村(ネーミング)→金持ちになりた
かった→ある科学財団の募集に応じた。
・宇宙時代の新しい職業教育…。そして
サイボーグになった。が目的を知って
ギルモアを先頭に10人で脱出。
地下実験場の爆発…(黒豚に話す)
天空の食
@黒豚うまいか しょっぱいか(料理 禅)
A羊の蒸し焼き(羊飼いの遊牧民・ゲリラ山賊との戦い)
Bフカヒレの姿煮(吹雪・回想)
C
D不老不死の料理(蓬莱食)仙境
犬肉を食す習慣について
単華鶏→地図を持った男 ケンタッキーフライドチキン
天空の食
@泥豚(どろのぶた)
A胡炮肉(羊の蒸し焼き)
B単華鶏(ケンタッキーフライドチキン)
C鱶翅(フカヒレの姿煮)
D鶏豚狗?(けいとんこうてい)神への供物 祭祀
六性一献・料理は人を食べる
諸神への供物
中国では犬肉を食べる習慣が…
犬肉は焼いてはだめ ニンニクと一緒に煮る
問答 タブーになったことも
新石器時代―先史の時代より 犬は友だち
・おいしいので…
D一献大饗(神への供物)
天空の食
(張々湖:桃源郷に不老不死の仙食を探す)
@泥豚(豚の肉は泥の価と同じ)
連れの“黒豚”(巨大である)をからかいながら無人の高原をシャングリラ
目指して旅をする。北京からラサ市(チベット自治区)
空港・そして市内一泊(マニ車・五体投地・ラマの
高僧?)あれから既に8日。小さな村々を過ぎ
もう三日以上、人にあっていない。野生のヤクは見たが。
左は絶壁、右は濁流の川(今は短い夏。終るまでに探して
戻りたい!)
*黒豚の丸焼き―調理法・バラバラにして、もう一度形にもどす。
A胡炮肉(羊の蒸し焼き)―張々湖も知っている
遊牧民の一家。山の麓の小さな草原で出会う。
羊の放し飼い。世話をする少年と仲良くなる。一宿一飯を
乞うとこころよく歓迎。と、騎馬の山賊が四、五騎
襲来する。ワレワレは中国から独立するために戦って
いるゲリラ部隊の者だ。食料に羊を数頭、寄贈して
もらう。張々湖みつかる。―キサマ、中国人だな!
だが勿論、張々湖の火焔放射器の勝ち。
お礼に羊の一年物による胡炮肉が振舞われる。
張々湖は更にその返礼に“火極拳”を舞ってみせる。
Bあれからもう2週間以上が経っている。しかし
吹雪に閉じ込められ、洞穴暮しが
3日も続いている。寒い。火種があっても燃やすものがない。
回想に入る。
・単華鶏(ケンタッキーフライドチキン)
北京 張々湖飯店―張々湖の由来
・日本のマンガ家の命名だ・生い立ち(福建省の貧乏な家)
・研究所へアルバイト→サイボーグ
・ギルモア博士と9人の仲間と共に
大脱走→研究所の大爆発…
・地図は一人の男にもらう(現代のさまよえる
オランダ人)失われた男とロナルド・コールマン
(仮にケンタッキー・フライドチキン氏)
―どうせワシらも仮の名前だ
・日本の中国侵略―を自家用機で逃れ
遭難→偶然にもシャング
リラの谷の入口→記憶がない―。
(超能力で消された)幸せだったが、なにか
がおかしい―おかしいのは当人だ
70年前に失踪した姿そのままなのだ。
―インスタントラーメンをすすりながら、ファースト
フードの話を黒豚にする。深い眠り。
C鱶翅(鱶翅は姿煮でなければ鱶翅といわない)
―などと話をしながら眠る→悪夢―海でフカに追われている
(背ビレ)―ジョーズ!! ハッと目が覚める
吹雪、いまだ止まず。と、吠える声。ギョッ?!
雪男(イエティ)との遭遇。ネアンデルタール人。異次元生物?
忽然と姿を消す…。吹雪やむ。晴れる。
目前にフカヒレの如くにそびえる三角の雪山。
―これは地図にもあった三角山!
そして→夕陽が…谷の入口を照射する。
→入る―しばらく歩く…。常春になる。
四方を山に囲まれた底にムラ。
―それが桃源郷であった。
D一献大饗(神への供物)
優雅で教養があり、若くて美しく
しかも病人一人いない健康人の村―
正しく不老不死の仙食を食しているからだ。
“迎食館”の調理師(猛女)にそれ
となく訊く(ワシは中華料理の鉄人や
―狗肉食いの話題)→そして正体を知る。
人肉を食べているのだ!長老格の世話係
開かずの間が→勿論、覗く。
椅子の人物。背を向けて座っている。
ゆっくりと振り向く。エレファントマン!
チベットの破壊の神(?)
ガルーダ(象神)だ!―逃げ出す。
追ってくる→入口が近い。火焔を
吹いて…雪崩を起す。神は避けて
超能力を使う。が、間に合わない。
雪崩を増強しただけだ!
―吹雪の山中、迷い…。へたばるなよ
黒豚。必ず北京へ連れ帰ってやるから
な!!… 天空の食 おわり
006は口が裂けてもいわないが、黒豚を食べて
生還したのだ。
(後で神がバラす―攻撃のきっかけにする)
ヒマラヤ―神の棲家
ヒマー(雪)・アラヤ(住居)―サンスクリット語
陶淵明―桃花源記
迦陵頻伽―美女の顔と美声
豚に真珠―黒豚に真実
ネパール チベット
「料理は火なり!」
黒豚は答えない。 ・ハンクシャ種
「火なくして、料理あらず」
黒豚はなお、黙々と歩き続ける。
「火加減の極意こそ味の極意なり」
ぶふっ。黒豚は始めて返事をした。
その巨きな背中に、籠や壺や
包みや、ポットや炊飯器といった
鍋物と一緒に座っていた小肥りの男
は、上からみると黒豚の段々によじれてみえる
首筋を睨みつける。
「オミヤァ、ワシをバカにしとる
アルカ?」
黒豚はトボトボと歩き続ける。
さっきの大小の岩がゴロゴロ
していた道なき道に比べれば
少しは歩き易いけれども、狭い。
左は断崖で右は濁流の川だ。
今は雨期。短かい夏の始めだ。
「いや、間違いない。オミャアはワイ
を嘲笑った。わざわざ、なんの
酔狂で、こんな阿呆な旅に出て
るんや、とな」
黒豚は応えない。
「ふん。とぼけてるがいいさ。しかし
言っておくぞ。オミャアを連れてきた
のは荷運びと乗り物は勿論だが
非常食としてだからな!」
ぶぶ…。
「ホ、ホ。少しは真面目に聞く気に
なったか。ヨロシ、では黒豚の
料理法を話してやろう。その
前に、こんな言葉があるのを
知ってるか。(豚肉は泥の価と
同じ)。マ、オミャアの肉は泥と
同じ。安いってことだ」
ぶひ。
「ハハハ、なに、それだけポピュラー
ということさ。神に捧げたり、孔子など
の貴人も食したというからね。ではさて
その料理法だが、まず首を切り、腹を裂き
心臓、肝臓、胃に腸に脾臓など
などを取り出す。洗って野菜や胡椒など
香辛料と一緒に詰めなおし、縫って
閉じて火にかける。
頭部はといえば、脳みそなどを取
り出し骨とともに七つに切り分け、中に
野菜や果物をつめ―リンゴなどをこれに加える場合もある
また元の形に復元し食卓に置く」
黒豚は応えない。狭い坂道は
ますます急になったが、その脚は
一向に衰えない。全くタフなのだ。
この巨大な黒豚は、もっともそこを
見込んで連れてきたのではあるが。
小肥りの男は天を仰いだ。
あくびをした。途端に転げ
おちそうになって慌てて前の
包みを縛ったロープにしがみ
ついた。
「この、気をつけ…」
突然、視界が開けた。
石が積んであり、念仏織がはた
めいていて、その向こうにドーンと
ヒマラヤの山々がそびえ立っていた。
その麓の小さな草原に、まるで
虫のような羊の群れがひとかたま
りで蠢いており、テントが
ひとつ。遊牧民が羊の放牧
をしているのだ。
ビューと風が息吹き、男はブルッ
と身体を震わせた。
人や家畜に会うのは何日振りだろう。
北京からはヒコーキで二日で着いたラサ
では―マニ車を回したり、五体投地を
したり(団子っ鼻と出っ腹を痛めただけだった)
世界最大の釈迦像を拝み、ラマ高僧
の話をきいた。そこを出発してから、もう二週
間以上になる。途中の二三日は
小さな村の傍らを通ったりしたが
その後は野性のヤクに一度だけ
会ったきりだった。
そびえる白く輝く山脈をみた。あそこへ
登るのだ。旅は今始まる。
黒豚を降りて小肥りの男は
(背は小さい)一緒に丘を
下って天幕に近寄って行った。
・ダライラマ15世―子ども―天才?
チベット
荒ぶる神々 魔神
・ツエン(天空神)
・ニエン(天空神)
・サダク(地神)
・ル(水の精)
ダライラマ 上人 聖王
チベット死者の書 ユキヒョウ
ゲルク
・ヤク→重要な動物 料理
「風の馬」
羊 山羊 馬 ・低酸素・寒冷・過乾燥
牧畜民 遊牧民
経文←タルチェ←ラツェ―積石塚
上海 飯店→四川省成都空港
から西域自治区のラサ市クンガ
約1000k
→尻が痛い チベット→平均海抜4500メートル
1日50K進む 天候不順 こんなところまで いやに暑い
高山病 雨まで降り始めた
聖山カイラスに近づくと猛吹雪→もう
三日も洞穴に閉じ込められている。
敵 狼と鷹―という山賊(ゲリラ)←・ヤクに乗ってやってくる
主食―クアンパ ムギラガン―山羊→張々湖 本当はヤクが食いたかった
飲み物―バター茶 灯油にも
トウクパ(雑炊)と呼ばれる食事もある
ヤク
・ムカシ、チベットの王たちは大事な客に弓を射らせ
ヤクを殺させ、その肉を宴会に出したという。
背丈 1.7m 3m以上にもなるが3000m以下では生きられない
重さ 750kg 長毛 ツノ
・乳―バターやチーズ ・肉―内臓 骨髄 血
・毛皮―織物(テント地)・糞―乾燥させて燃料
"高原の船"―輸送用
カイラス山
香炉 シシャヴァンマ 神の座
光が走る
聖湖 ヤムドゥク湖
ラサ―400kバスで移動―シガリヒ―100k―ラッヒ→カトマンズ
道は二本→雪 カイラース
・カイラース→ヒンドゥークシュ山脈の中に半ば地下に埋もれたシャンバラ
麓―神々の座 シャングリ・ラ 理想郷
ポタラ宮(サンスクリット語でポータラカ)
―ダライ・ラマの神聖な住居であると同時
に権力に憑かれた者たちの政治と陰謀の
場でもある。
・ラマ僧は至るところにいる。
・臨死体験とチベット死者の書
高僧が世界を救う チベットを救う それが目的
五人のダライラマ15世 呪文オン・マニ・ペメ・フーン(真言)
・50年後には(文明が始まった?)自然林を完全に
失う国がでる
・8千年前、80億8千万ヘクタール
現在、約62%減 30億4400万ヘクタール
3分の2が消滅したことのなる!
*手品 マジック 奇術師
・天幕の中
・家族→父の子 姉弟 隣の家長たち
・自己紹介→旅の魔術師→張々湖
風冷たい夕暮れ
・その時、赤ン坊を抱えてオカミさん
・―ヤクに乗った男たちがやってくる
テッポウを持って―
・黒づくめ 黒覆面 独立のために協力を
なんの、ただの山賊だ
羊を10頭 食糧として
・黒豚にも目をつける―黙っていられない
・―中国人だぞ! 手品 カードマジック
トランプ―手裏剣のように投げつける
それから火焔放射―ヤク びっくり
逃げ出す―男たちもスタコラ
・説明→つまり奇術師 ・礼に―羊を潰す
・本当はヤク料理が…まぁ贅沢は
いえないが― 生活の糧 正月か
祝祭日にしか食べないのに―
・お礼に→「火極拳」を舞ってみせる
・あれからまた1週間、途中、雨や風、季節が崩れた
そろそろだと思うが、吹雪に閉じ込められている・
3日も屏風岩の陰にテントを張って。
ユキヒョウ、狼がウロついている。
インスタントラーメン ファーストフード
料理 フカヒレの話 姿煮 悪夢
目覚めるとフカヒレの山 外 黄金の陽光
・陽光が走る!?―山ヒダに添っての怪現象―あの男の言った通りだ
・谷の入口を発見―降りてゆく
氷のアーム―その向うにムラ―シャングリラ
張々湖はシャングリラの村にきた
ムカシの映画、フランクキャプラの失われた地平線をDSでみて
あの男の名前、ロナルド・コールマンにしようと思ったが。
リアリティ―第二次大戦 日本の中国進出の頃
しかし、まだ30代にみえた
第一の天幕でファーストフード
第二の天幕でフカヒレ
・神との遭遇
世界各地でのショートショートエピソード ひとつひとつストーリイがある
羽音と共に舞い降りてくる
・天使(神)アスリートで(恐い程のハンサム)
2012 009
Conclusion GOD'S WAR
第一部 闇の編
・prollogue1
・vol.1 イワンの馬鹿 episode 天使の羽音
・vol.2 摩天楼の底 episode マーズ・カルト
・vol.3 ありえざるもの episode
・vol.4 フェアリー街道 episode
・vol.5 精霊の黄金 episode
・vol.6 天空の食 episode
・vol.7 幽霊劇場 episode
・vol.8 海底ピラミッド episode
・vol.9 女神の陰謀 episode
第二部 光の編 に続く
メンバーエピソード&インサートエピソード +(ショートショート)―各国―
第一部 光の巻
・プロローグ 1.ギルモア博士 石ノ森章太郎
・超常現象
・考察(お喋り)→超常現象の個々について
短い会話(のみ)で・神〜UFOまで
1.イワンの馬鹿(眠り続けるイワン、イワンからのテレパシイ
サイボーグ009の成立)
2.摩天楼の底(ジェット・リンク:ニューヨーク マンハッタン地下)
I.E1
3.ありえざるもの(フランソワーズ・アルヌール:フランス パリ ルーブル)
I.E2
4.フェアリー街道(アルベルト・ハインリヒ:ドイツ ロマンチック街道)
I.E3
5.精霊の黄金(ジェロニモ:アマゾンの森林)
I.E4
6.天空の食(張々:チベット)
I.E5
7.SPR(英国心霊現象研究会)(グレート・ブリテン:ロンドン)
I.E7
8.海底ピラミッド(ピュンマ:バミューダ・トライアングル海底)
I.S8
9.女神の陰謀(島村丈:日本 卑弥呼)
I.S9
第二部 闇
・プロローグ2 ・超常現象談義の残り―
1.神々の跋扈
2.神々
3.神々 総編集 ・epoch テーマのマンガ
4.神々の正体
5.神々のハルマゲドン
・エピローグ→宇宙移転 アースアポート
第二部 闇の編
Prollogue2
第一章 神話の世紀
傍若無人 跳梁跋扈
第二章 誰が為に戦う
神々との闘い 大超能力戦争 奇想天外
第三章 新黙示録
最後の戦い(ハルマゲドン) 神の正体(解ける全ての謎)
Epilogue 移転
闇から光へ 地球から天国へ 悪から善へ
そして孤独からの解放
PROLLOGUE *ランダムに思いつくまま
1.SF作家かく語りき(臨死体験、転生)
2.神々 天使 悪魔
3.バミューダ・トライアングル
4.ピラミッド
5.アトランティス
6.雪男 ビッグフット ネッシー モスマン
7.UFO 黒衣の男達 エリア51 エイリアン アブダクション
8.幽霊
9.妖精
10.洪水伝説(ノアの箱船)
11.火星の顔
18.ポルターガイスト
19.タイムスリップ フィラデルフィア実験 異次元
20.人体自然発火
30.トリノ聖骸布
31.吸血鬼 人狼
32.ゾンビ
33.ツングース隕石 UFO
34.ファチマの奇跡(涙を流す聖像)
35.黒魔術 白魔術
36.ミステリーサークル
37.超能力 テレパシー サイコキネシス テレポーテーション
38.レイライン(磁場)ダウジング 風水
39.オーパーツ
40.幽霊船 マリーセレスト さまよえるオランダ人
バートン&エヴァガードナー
ジェイムスメイスン
スティーヴン・ホーキング
偶然の法則は神には当てはまらない
アルバート・アインシュタイン
魔術と物理学の境界線がなくなる
神はサイコロを振らない
過去と現在 未来の区別は、いくら根強くても単なる幻想だ
T.Sエリオット
未来は過去の中に含まれている
ニュートン―未来予知に夢中
コナン・ドイル―幽霊
コリン・ウィルソン
アルバート・アインシュタイン
○影の法師―教会(ブードーと黒魔術を混在させたもの・妖しい)
・科学者チーム(NASAサイボーグチーム)の残党
(10人で潰して脱出してきた筈だった)の
一人らしいのを見かける。向うは気がつかない
*ゾンビ兵団を作ろうとしている
*突然異変新生物(失敗作)を作っている→下水湖
・この新興宗教の目的(支配)と手段を畏れる。
・"影の法師"尊師現る(スポークスマンはラスプーチン様)
コールマン髭のゼントルマン・弁舌、超爽やかである
・破壊(キックとジャンプ)と脱出→信者群の追跡
・もう一層下の"下水湖"・百足ワニ・超ジャンボアナコンダ・半魚人
・ゾンビ 怪獣 信者との
・アクションに次ぐアクション―(勝利しそう)
・その時マイケルが現われる―ぐったりと連れてこられた
・(兄だった)信者になろうとしていた。恐怖
・友人に誘われて ・友人を殺し 兄―睡眠薬で
眠らせて 自動看護―導管 下の世話
・―精神病院へ入れる→そこから ○犯人はエルシー
・絶体絶命→勝ち誇る尊師
突き殺される ―神の神 水中から出現
超能力(改造神)・深海のイカ状光を発する人間だ(失敗作)
(二)魔天楼の底
1.依頼人(弟を探して欲しい―女性)
2.探す男(探偵の仕事)
3.死体(弟の死)
4.地下(誘拐→地下世界へ)
5.影の法師(新興宗教 教会?! 導師)"本部"の残党の影
6.底から底へ―追跡、アクション
7.街獣−突然変異生物(ミュータント?クローン実験?)
8.解ける謎(殺人 身代わりトリック)
9.神の神(現れて導師を殺す)
新興宗教に守られて―科学者―街獣・神が作られた
動機
・エルシーは弟マイケル思いの優しい姉
(天使にもなれば悪魔にもなる―緩急自在)
・弟が"新興宗教"20世紀末に誕生した。
―黒魔術とブードーを組み合わせたような。
・悪魔崇拝(オウムのポアと同じで殺人が善の道)
・人の好いマイケルは友人にすすめられて入信
熱心な信者になってゆく。
・心配した姉はマイケルに睡眠薬を飲ませ
父や母ときた山小屋に閉じ込める。
その間にマイケルに似ていた友人を
エルシーは殺し、マイケルに仕立てる。
腐敗し傷ついて発見―。
・マイケルは既に逃げてきている。
・が、―そのトリックをしった集団は
エルシーを殺しにくる。地下に追い込まれ―た。
(地下に集団のアジト・帝国があった)エルシーと
002は、集団より更に恐ろしいモノを見る。
・汚染物質の地下水道に棲む突然変異
生物たち。ムカデワニ、半魚人、ガソリンを吹く手足のあるアナコンダ
・そして002たちを作った科学者の残党(ナチ風)が作った
光る深海イカの怪物 精神破壊
地下からの摩天楼爆破計画
002→最後の最後に
姿を現す"神"は、肉体とコンピュー
ターを同化させてしまった(大イカのように発光する)
「超能力コンピューター」
―ここで回想。002たちを改造した組織の"残党"が
地下で研究を続け、遂に新しい時代の
神を創ってしまった。イメージの"実体化"など
朝メシ前、相手の細胞組織、内臓を
破壊するのもカンタン。が、唯一の欠点は
常に与えられた(自分で)問題を処理している
事だ。ふい撃ちの質問「答えろ!ジャイアンツで
ジェームス・ディーンが死んだ年齢は?」と…
ジャンプ力―一撃必殺で頭へ…。火花と
煙…歪む空間 頭痛の共有→
未来を先取りした"怪物神"は死んだ
ビースト ピグマリオン
・変身可能 ・イメージ三次元化 ・あやつり―意志捕獲
・破壊
005 ジェロニモ1
・ジェロニモは森の声に導かれて、ボート
を操っていた。アマゾンの支流である。
アッチ"タクサン"シンダドウブツ
テッポウ"ソウ、ソノマママッスグ
頭上の梢がサワサワと葉を振った。
その上に青い空があり、なにか大きな
鳥が…オオワシだ。悠然と翔んでいた。
ジェロニモは目を瞑り、精神を
オオワシに送った。空から探すのも悪くは
ない。しかしオオワシの目はなにも捕えな
かった。川の道以外なにかを見つけるのは
不可能だった。ジェロニモは再び
ボートに戻り、櫂を漕いだ。なァに
急ぐことはない。どうせ逃げられはしない
のだ。おれはこの川だし、森だし、
そこに棲む動物たちでもある。魂が
継がっている。全ての精霊たちは味方になって
情報を伝えようとしてくれる…。
2
「ソウヨ、アナタ、ワタシタチノコエヲキキ
ナサイ」「ネエ、ドコカラキタノ」「アノヒト
タチ、ナニヲシタノ」
聞こうと思って心の耳を開いたら、精霊たち
のお喋りがとびこんでくる。とても好奇心
が旺盛なのだ。大地にしっかりと
根を張り、たっぷりある時間をゆっくり
使って夢と幻の迫をたゆたっている精霊
たちも―一度目覚めると、時には耳をふさ
ぎたくなる程、五月蠅くなる…。
「そういえば、この辺りの部族に近頃自殺者が
増えているという噂がある。しかも若い娘
ばかりだ。なにか知らないか?」
「ジサツ?」「自分デ死ヌコト」「オーコワイ」
「ドクノクスリジャナイ?」「森カラ開発区ヘ出テ
オボエテクルノヨ」「ソレトモノイローゼ
カモ。ダッテ、世界ガ切リ取ラレテ、ダンダン狭クナッテル」
3
「アタシタチダッテ、ナンダカ、イキグルシ
クテ…枯レテシマイソウニナルコトガ
アルモノ」 死んでるのはニュー
タウンへ出たことのある娘だけではなかった。
老人も子供も若者も無差別だった。
非行とはおよそ無縁の、むかしながらの素朴な
生活を続けている少数部族だ。
原因はきっとなにか他にある。二度三度
同じ様な小さな出来事を見た時から
気になっていた。自然の中には周囲が
放出しあい吸収しあっているエネルギー
がある。その中で育っていれば"心の病"
にかかることなど先ずない。
毒キノコなどを食べて死ぬのなら、具体の病だ。
わからないことはない、(もっとも、こういう部族
がウッカリでも毒キノコを間違えて口に
入れることなど、ありえないハナシなのだが)
なにかがおかしい。
4
―川がせばまって、ボートでは進めなくなる。
茂みの影に小型のエンジンつき水上船(クルーザー)が
隠されている。岸には足跡―乾いている。
二日の遅れ…。
相棒(密猟レンジャー)を殺された。二人で
行動する事になっていたのに、どうしても止むを
得ない緊急指令で外れた。その間の出来事
だった。005は直ちに追跡を開始した。
許せない。禁じられた絶滅危惧動物を
狩るだけでなく、その保護官までも
手にかけた。―密林を奥地へ
人間の生活じゃない。誇りも尊厳ももてない。
インディアン居留地でグレていた男
賭けボクシング―ギャングに襲われる 鉄パイプ
倒れているところを攫われる
サイボーグに―鉄人
どこまで"人工物"に変っているか本人にもわからない。
5
・密猟団員―恐怖の死体―コウモリの穴
遺跡→また一人→地下への入口を(根穴)
を見つける→中へ 悲鳴→巨大な
遺跡だ―団員、走ってきてバタリ
背中に毒矢→銃声→戦士族
・追いつく→二人生き残ってライフル
で応戦している→逮捕するぞ
→戦士族を引率いて
ケツアルコアトル現る(翼蛇神)!
・密狩人の一人→頭がバクハツ
仕掛けが次々と作動する
―崩れる黄金地下神殿
いったいいつの時代のものなのか?
完全に埋まる→地下水洞へ落下したジェロニモ
・やがて 滝 →助かる―樹々の声。
004→妖精の森
・かなわぬ異質の者同志の恋―シザーハンズ
004―全身武器は自ら喜んでOKした。
失恋して→手痛い裏切り
人生に絶望 ニヒル→ネオナチに誘われ自暴自棄→ここで攫われる
→サイボーグ
武器―レーザーメス 熱線 麻酔弾 ナイフ
空港の金属探知機に必ずひっかかる
・トラック運転手→ロマンチック街道を走る
・ヒッチハイクの女の子
普段なら見向きもしないのに惹かれる→妖精のテレパシイ
乗せて走る。
・目的は1000年に一度の 妖精の祭のイケニエ
犠牲―若い男 しかし好きになってしまう
・妖精→異次元の地球の生命体だが
こっちの地球と交わり、隠れて暮らしている者もいる。
ヒッチハイクの女の子(指令では犠牲者ハンター)
妖精(ニンフ)→色っぽい ・妖艶なフェロモン
異次元生物だが好奇心のカタマリ
・異変を感じたのも妖精たちが最初
・なにかが始まろうとしている。とても悪いことが・・・。
今度こそ本当にこの星を出て行こうと思っている。
・最後の祭のつもりだった。
→一緒に行かないか―向うへ渡るトンネルがあるんだ。
・004はよくわからないが(危険の匂いはするが)残る→仲間がいる・・・
本当に危険なのだったら、みんなに報せなきゃ
―002
光と闇の叫び
人間性のカケラもないニューヨーク犯罪事情の点描
ピストル ナイフ 麻薬 殺人 売春
民衆の意識の欠如→新人類になっている
弟を助けようと しかし偽り
殺されたのは弟ではなかった
偽証―催眠術―黒魔術の犠牲者である
地球は度々、気候を変え
それに合わせて、動物も変化した
神は?! ブードーの神 ホワイトハウス 地下から爆破
街の底(本格的ミステリーにする)
002 ムカシはチンピラ でもルールがあった
ジャンプ力は3倍―ビルからビルへは平気
・人探し(姉の弟探し 金持ちではない)
・殺人(殺したかった男を殺しの犯人に仕立てる)
・トリック(とんでもないトリックであったが解決は早かった)
・襲撃(解決した筈なのに襲われる)
・地下の街(住人たち)
・ブードー(黒魔術の呪術師・ゾンビ)
・闇の帝王(その哲学と妖しさと怖さ)
・街獣(突然異変生命体)―この事件をシンボライズ
・追い詰める(アクションに次ぐアクション)
・動機(超人間に変質しないと生きていけない世界に)
・意外な犯人・・・ところが
・ドンデン返し(もう一度)
002 街の底(ハードボイルドミステリー)
・摩天楼の底
・私立探偵ジェット→依頼人の美女
→兄が行方不明、探して欲しいという。
こういうケースが一番ムズカシイ。自分の意志で
姿を消したのなら先ずみつからない。なんでも飲
みこめるハキダメのような街なのだ、ニューヨークは。
また、他人の意志によるとしたら…気の毒だが
生存の確率は小さい。
謎とドンデン返し トリックと動機
伏線 意外な犯人
・人間でなくなった人々が棲む街ニューヨーク。
簡単に人を殺す、無表情で
しかし実は地下には温もりが残っていた
ラスプーチンのような闇の市長 黒魔術を操る
神はコンピューター?!
・地下帝国→地下の川にはミュータント―突然変異
生物がウヨウヨ
ブードゥ これがキーとなる
・豊かな国かもしれないが→
・飢餓→孤独
008 海底ピラミッド
素潜り→250〜300メーター
・人工肺・人口皮革スーツ→マッコウクジラ並みの持続力
3時間は平気
・本来宇宙探検用に改造されたが海底の圧力でも耐えられる事がわかる。
・ピラミッドの中にあったもの→
・異質の文明・異質の機械→
バミューダ・トライアングルの遭難事件の全ては
時々、稼動するこの装置が引き起こしていたのだ。
・調査船→バミューダに沈められる
大イカ ・電飾がすごい
生き残ったのは008
・ピラミッド 神々の基地
海面へ浮上してくる 宇宙へ
9(キュー)は動作開始の合図の音
009―「縄文超文明」→12000年前
大災害があった事―南の海の底に沈んだ
巨石文明→洞穴→零下を保っている(氷
結)その中に〈アイスマン〉→生き返る。が、
錯乱している→そして遂に狂気の超能力を
発揮し始める。
イースター島に秘密を解くカギがある→
ダミー―ジョーを襲う。
ヒミコも生きている(遺伝)
・細胞再生→定期的に若返る。
・女性考古学者がじつはヒミコだった。
モアイの彫刻(マキエだ)←娘(養女)と父親
001によって、009→最初に超能力者になる。
加速装置―感覚の
スピードUP・それに対応する筋力
003の実験の結果を更に進めた→思考する筋肉
・003→陽気なパリジェンヌ ダンス好き―モダンバレエ
・友達をジゴロから得意のテコンドーで助ける
→それを見ている男たちに浚われる。気がつくと…
サイボーグ(目と耳)→そして、脚力、腕力も倍増していた。
・サイボーグ以前はモダンダンスを
習っていた。ところが以後、テコンドー
の名手になっていた。記憶と筋力
(にも記憶を植え込む)→実験の成功
視力と聴力は副作用であった。
(ジョン・キール説への接近)
→次第に気付く
・最初は好意を抱き合う。
少年院から脱走―(知らぬ間にサポートされて)―して捕まる
003フランソワーズ・アルヌール
オーパーツアート・ルーブル地下3階
・ルーブルの地下三階は存在を忘れられた荷物置き場である。
どうしても陳列がムリなガラクタ置場。しかし時には
整理にアルバイトが雇われる。この年は003
とアランという青年だった。そして、リスト
づくりを始めて三日目、003はとんでもない
ものを発見する。箱に詰められたそれは、恐らく
「美術品」として収集され、送られてきたのだろうが
用途その他(モチーフも)が説明不能。結局は
地下三階行きとなったのに違いない。それは
石炭に半分以上埋まった、長方形のクリス
タル(?)。中央部分が凸レンズ状に緩やか
に膨らんでいて、中に…悪魔がいた!
今にも動きだそうとしておりカギツメの尻尾
がなびいている。赤い眼、とがった鼻…
絵というよりはホログラフィ(立体映画)の
ようにも見える。そう、今にも動き出しそう
にリアルに…
アラン「たく!世の中には物好きな暇人
がいるよな。こんなイタズラをしてなにが
面白いんだ?!」
フランソワーズ「でも…これは石炭に
ぴったり埋まっているわ。割れた片方
の石炭にも、そっくり同じ跡がついている」
「そこがそれ、いたずら魔の快感の感じ
どころ。どうやって?と思わせれば大成功
なのさ。ネッシーを見ろよ。妖精写真は
どうだ。もっといい例はピルトダウン人だ。
いずれも、ずっと長い間イタズラだった事が
バレなかったろ」「でも…」「さあフラン
そんなモノはうっちゃって、次へ行こう。
そろそろハラも減ってきたし…」
フランソワーズは渋々立ち上がった。しかし
どうもなにか、ひっかかるものがあった。
…気になる。なんだろう?
この後、フランソワーズは、こっそり一人で
地下に降りクリスタルを石炭からはがそうと
試みる。悪戦苦闘の末、外れる。が、それは
正に、まずクリスタルがあり、その後に石炭層が
形成された、という感じなのだ。もしそうだと
すれば、これはX万年前モノ、という事になる。
まさか!やはり考えられない。ふと気付く。クリスタル
の一角にVの刻み目が入ってる。指で何気なく
さわる。その部分が僅かに青白い光を
発し…悪魔がウネウネと動き出した!こちら
を見る。ニヤリと笑う。「キャァ」フランソワーズは
思わずクリスタルを放り出す。コンクリートの床
にカーンとはねかえる。徴かに光っている。その
光の中で悪魔が黒いトカゲのように蠢いている。
・アランがやってくる→異臭・モスマン(蛾人間)がとび回る
アランの死 消えてしまった
・フランソワーズ「テコンドー」でやっつける
・クリスタルを持って外へ・パリの街
・二人の黒い服の男(異次元の監視者だ)→テコンドーで戦うが…
・セーヌ・ボンヌフの周囲で…
UFO現る。何か尋常ならざる事が
起りつつある。(接触した)他者を死に追いやる。
・悪魔は「ウイルス」→病原菌として封じ込め
られていたのだ。
9人はそれぞれ“神”と遭遇した
1.001→夢の中で“光の王”と (仏陀?)
2.002→黒魔術・ブードー教 悪魔!?
3.003→南フランス―遺跡 封印されたオーパーツ
スリーブラックメン
4.004→妖精の王(ケルトの神)異質の愛
5.005→インカの神 ケッアルコアトル(翼蛇)
6.006→インド・チベット・ネパール・中国 “シバ”
7.007→ギリシャ神話―芝居から… ドルイド教?
8.008→エジプトの神―ピラミッド
9.009→古代縄文超文明―ヒミコは超能力者だった
遮光器土偶
1.001―眠っている(ギルモア、イシノモリ会話)―オカルト談義
2.002―ハードボイルドタッチ―ニューヨーク地下世界
黒魔術と変質した人間 「ミステリー」
3.003―ルーブルのオーパーツ
4.004―異質の愛
「ファンタジイ」―シザーズハンドみたいな話に
5.005―秘境発見と地下宮? 「冒険ファンタジイ」
6.006―天空の食・チベット シャングリラ 「ユーモアパロディー」
7.007―幽霊 「ゴースト・ホラー」ロマンチック編
8.008―海底ピラミッド バミューダ・トライアングル
9.009―超縄文文明―歴史の闇
・遺伝子(DNA)とは運命そのものだ
シャンバラ=シャングリラ
―理想郷―
上海からラサまではひととびだった。
ここは中国チベット自治区の空港がある。
ポタラ宮殿でマニ車を回し、願をかけ
五体投地をした。が、鼻と腹をすりむ
いて、直ぐやめた。世界一という
ネハン像に対面し、ラマの導師とあの世
の話などをし…出発。それからもう二週間
過ぎている。農村をひとつ、ふたつ
横に見て、野生の離れヤク1頭に出会った
きりで、後は時折、空をよぎる
鷲らしい影を見たきり、生ある者には
会っていない。そして、もう3週間。男は
退屈していたし、自分に腹も立てていた。
上海の飯店にいれば、こんな退屈は
しない。それに目的に少なくとも、もっと確信
が持てればいいのだが、時折り途方もない
カンチガイのような気がして、それで
腹立たしかったのだ。
あたっていたのは黒豚にではなく自分
にだったのだ。
カーリー
ヒンズーのシバ
ラマ教の神 ゾウの姿をした
・黒豚は別に感動しているふうではなかった。
ダライラマ14世
ノルブリンカ
ショートニ祭り 仏教暦 ご開帳
チベット自治区 沿海部と内陸部 格差開く
・バークシャー種
短い四肢 鼻が大きく よく肥えて繁殖力旺盛
250キロ 2メーターを超える。
インド ベータ神―天空の神
入口 フカヒレ山 マッターホーンが見える
・ケンタッキー・フライドチキン氏*の
地図→マッターホーンが逆立ちして
入口は 指し示す。
*ロナルドコールマンにしようと思ったが
それじゃフランソワーズ・アルヌールや
張々湖と無責任なゴッドファザーに
なってる石ノ森章太郎になるからやめて
代わりにケンタッキー・フライドチキン氏
(鶏単華)としておこう。
途中で嵐・難―気がつくと…
・本当に不老不死を望んでいるのか。
まさか。これは料理人の根性が
させていることだ。
どこでサイボーグに?
福建省の貧農。割り当てのやせた地。
脱出 香港の中華料理店で修業。
日本へ密航。
現われる神
・シバ神―ヒンズー教三大神の1
破壊及び生殖の神。仏教では
自在天、大自在天として現われる
赤ン坊を食す
・ゾウの顔の神は?
・ブラフマン(創造神)
・ビシュヌ(保存神)
・シバ(破壊神)
以上Aおわり
以下
B
光の子編
構成
精子異常
中国 二人っ子政策に変換
世界的老人社会
009 9(キュー)は行動開始の数字です
仙台 銀河園で犯罪 友だちを傷つけた
岩手 盛岡少年院
―脱走→手引きした看守(操られている)
外へ出た途端車に乗せられクロロフォルム
―気付いた時は(途中ヘリもあったような)
サイボーグになっていた。
島村丈 ハーフ 外人の父を知らない 女性院長
“加速装置” 003の進化型
脳内時間対処能力増大
筋肉―考える
自己状況判断で動く→ナノマシン ミクロコンピューター DNA
・片親で育てられようが、ちゃんとやっている者
は沢山いる。―文化人のコメント
「ちょっと変っている者も
包み込むくらいの優しさが必要」
→抗菌グッズの時代
排除の精神→孤独
第一部 天使編 光の章
001→眠り続ける。夢をみる。人面岩やピラミッド。
・どうやら火星の夢らしい。やさしい精神生命体(ボンヤリとした光生物)
・突然、戦いが仕掛けられる。
・犠牲にされた 衛星―月 クレーターだらけ
・宇宙戦争―地球vs 金星、木星、土星、水星、火星、冥王星…
(全部にそれぞれ平和を愛している生物がいる?!)
・危機に連合軍を結成
火星の精神寄生体の尊い犠牲で
・地球人―封印を解く方法を見つけた―即ち「神の力」
連合軍がそれを封じ込める
・表太陽系…そして裏太陽系(平行宇宙)へ地球まるごと追放した。
・善と悪の葛藤・天国と地獄思想・多重人格
・UFOは監視船
UMAは表太陽系惑星のペット生物
幽霊は空間移動中
・さて、どうやって故郷へ還れるか?!
・南米(ジェロニモ)ケッアルコアトル(翼蛇神)
*ギリシャ(オリンポスの狂宴)神々がいっぱい
・フランス(フランソワーズ)―デビル(ウイルス)←見える
*ルーマニア(マリア像? 走る老女)
・チベット(張々湖)ヒンズーのシバ神―ネパール
*中東―アラビアンナイトの神々
聖書の神々 アラブ、イラン、イスラエル→火種
・アメリカ(ジェット)未来神(人間とコンピューターの合体した新生命)
*オーストラリア ニューギニアの神
・バミューダ沖(ピュンマ)トトメス―エジプト
*どこかの小島―カーゴ伝説 お伽噺ふうに(カカシ)
→直ぐに喜んで受け入れる。神は人間
・イギリス(グレート)
*アフリカ(ドーゴ族の宇宙神?)
・日本(イワン)―夢の神 それは異次元の
*ロシア―北方四島 アイヌ・カムイ―大自然
・日本(ジョー)ヒミコ―再生する女神
*ハワイ(火山の女神)―自然
・ドイツ(ハインリヒ)妖精の王
*北欧―ケルトの神々(神話より)
○神々は、これまでのイメージとは少しずつ違っている(創作)
第二部 悪魔編 闇の章
・001―目覚める
・009に“超能力”を授ける。(脳改造)
・全員がテレパシイで呼ばれて日本へやってくる。
・順序に“超能力”が付与されていく。
・戦かう敵―というよりは―追ってくる敵は
“神々”だ。復讐の神々、殺戮の神々
戦さの神々だ。
・世界の各地で人間支配が始まる。
“偽キリスト”は正論で一国の政府を
瓦解させる。・大災害―火山、地震、洪水
・一人は原発を爆破する。
・また一人の神は、ある軍隊を混乱に
おとしいれる…最新兵器など役に
立たない。(誰彼なしの戦争が始まる)
・UFO―監視はするが―手出しは禁じられている
・自滅するのなら、それが運命
・しかし帰還したい!
光の太陽系へ!!
・一部のアックスメーカー以外は「小市民」
命令で戦争に(日本)
・だが犯した罪は償えない―事情はどうあれ
・最後は全地球人の祈りがテレポート
を可能にする。心を一つに出来るか。
・邪魔者のアックスメーカー“聖者”
―知を秘匿した者た―を封じなければ
ならない。
・002の出遭った“未来神”が参考に
なる。実肉体とサイボーグ化された
付加物(DNAミクロマシンetc)―サイバーパンクを読む
・天地が荒れ狂う―イースター島?!
地震、津波、風雨、イナズマ…その中で一大
決戦が行なわれる。 ここまでくれば…
・一気呵成→勝利と敗北
→009の死?―救済あり→光の宇宙で再会
・祈る!!→ヌルリ
地球が消えて―同じ場所に 死の星
ハルマゲドン→荒廃した地球の各地で決戦が
続く。しかし―その他の人類が
犠牲になっている。無意識下の意識の
集合なくては“祈り”は叶わない。
そのパワーを維持できる数が残って
いるのか?!インターネット、衛星放送、光通信…
人間の作った通信手段は
全て使用不能→“口コミ”
一人一人にワンポイント精神通信法を
伝えてゆくスタイル→祈れ!光の国へ
行けるように、祈れ!奇跡は起る
・大混乱の中で、そのメッセージが
ものスゴイ速さで地球を駆ける。
怒りの“神々”と“超人”たちとの
壮絶な戦い(cut backで)
神話世界―神と英雄の戦い
・勝利―勝因は?!
・火星人―精神寄生体の結合
応援―死んだ人たちから抜け出して
・それと改造部分と超能力神経の融合して
力を発揮→無敵にし―神の力を封じた
・神とは地球人自身の事であった!
・神々の力*超能力で破壊(肉体)が
できるのだが、超戦士には通じない
・ゼウスのイカズチ
・シバの毒息(ゾウの鼻から)
火星―精神体
蛍の沼 冷たい光 見立てた日本人
第二部 カタストロフ
春雨や天没 地没 虚空没 永田耕衣
神は人の夢 人は神の夢 ストーン・ウッド
*プロローグ
・ギルモアとイシノモリの会話
エピソードに見合ったモノを分散
掲載―
・エピローグのある仮定も
@光童子 A闇童子→二部共に挿入する
ヒョウがイスラエル(キリスト教の聖地)
を襲う。異常気象、大洪水
が、油断はするな!!
第一部 光童子編
第二部 闇童子編
「神々との闘い」
2012・009
Conclusion GOD’s WAR
2012・009
妖精街道
ハインリヒ
2012・009
海底ピラミッド
ピュンマ
構成案
・アニミズム(自然崇拝)
・ニライカナイ(海の彼方の楽土)
ジェロニモ―スコール―雨(驟雨)―相対湿度80%超
植物・オイルを放出・土と混じり合って…
檀香のような匂いを発する。(オゾンの匂いではない)!
酸性雨(硫酸、硝酸)でなければよいのだが…
先進諸国―アメリカや日本
普通のダイバー
ダイビングスーツ 作業―1回40分 1日2回
2.3分で一気に潜る。―35メートル 25分
→潜水病予防減圧 数メートルごとに数分止まる
遠吠え
・コヨーテ・ヴァッファローのひずめ
・ナゲキバトの泣き声・ハチドリの羽音
・熊・ガラガラヘビ・カラス・ワシ・タカ
・エルク(大ツノ鹿)
・メモリースマン(長老)・メッセンジャー(語り部)
・月 ・お下げ髪の少女
・アメリカ先住民(ネイティヴ・アメリカン)
白人の侵略者 居留地に封じ込められている
→そこにいるべき者として
00ナンバー
・9人との思いを
ありえざるもの
フランソワーズ
幽霊劇場
グレート・ブリテン
ガイアの都
ジェロニモ
ガイアの都 概要
ジェロニモ―密狩者ハンター
1.アマゾン・ジャングルのお喋り
エンジン付きボート アマゾン支流奥地の村
鳥・獣
1.アマゾン・ジャングルの樹や草花、そして動物たちの
長いお喋り…ジェロニモ―相棒(密猟
取締官)を殺されて、怒りの追跡中。
上流に向かって、エンジン付きカヌー。
2.ジェロニモ(ネイテブ・アメリカン→居留地での
反発、種族間でも…ヒッチハイクで
旅に出て・捕まる)の過去、部族の歴史。
3.大掛りな密猟団(20名強との
長い確執)→その歴史―種の絶滅
環境破壊etc―ガイア(地球生命体説)
の怒りを一人畏れるジェロニモ。諦めのため息。
4.ジャングルの村→外の
世界が直ぐ近くに在った。病気!
5.自殺する若い娘の謎→ウィルスの棲み場
を奪っている。
6.古代都市の発見―そして、その都市の
地下に密猟団のアジト
そしてケツアルコアトル(鳥神)登場
7.20数名のギャングとのランボーの如く
孤独な戦い。が、最強の男には彼らも
敵わない。(銃を使わない密やかな戦い)
8.黄金伝説の実現―しかし、失われた
部族(守っている)に、それを託す→
インカの祖神 ヴィラコチャ
・ホルスト・ブッフホルツ ・バルジェス・メレディス
・ホセ・ファーラー
アトランチスの謎 ヘンナ映画
与えるはダメ ・相続させる と書く―遺言書
樹や草は、お喋りだ。そう、
ジャングルは一日中騒々しい。
ところがジェロニモの一番の苦手は
このお喋りだ。入るときは
この騒々しさを覚悟しないといけない。が
代わりに秘密の情報もふんだんにもらえる。
時には噂話の中から、時にはわざわざ呼び
かけて教えて(情報提供)くれるのもいた。
情報を他人に喋れない事に恨みはない。
彼は喋るなと言われたらいつまでも沈黙する
伝説の男だ。
今日も
「あっちよ」「昨日通ったわ」「大勢、銃を
撃ってた」ジェロニモは片手を上げて、礼を
言う。「あら、あのヒト、挨拶したわよ!?「なンで
ワシらの言葉がわかるんだ?」「見慣れない
インディアンね」
「違う、そっちじゃない。こっちの流れだ」
ジェロニモはジャングル奥深くアマゾン支流
の××川をエンジン付きのボートでさかのぼっ
ていたのだ。
小さなカヤック(丸太の小舟)に
ジェロニモは小さなカヤックから、はみ出し(ている)
そうな巨人だった。
ジェロニモのご先祖は精霊の存在を信じていた。
生きとし生けるものすべてに心はない。
鳥や獣となら直接ハナシが通じるし
それを精霊と思っていたとしても
不思議ではない。
植物もこれだけお喋りなのだから
お喋りは生き物の特徴…
長老の何人かやまじない師には
岩や水とも語る者もいるという。
ジェロニモには、まだそんな経験
はないが、植物たちのお喋りや
鳥や虫たちとの通話なら
出来るのだ。
・手がしびれて描けない!! 10/26
・ガイアの都 ガイア(地球母神)―敵か味方か?!
・ビラコッチャ(祖神)・ケツアルコアトル(鳥神)
・アマゾンジャングルの黄金都市→クライマックスの舞台
・木の根や蔦に覆われている
→カタストロフ(破局)がどうやってくる?!
ガイアとは(大地母神)
・ゼウスの父クロノス その父ウラノス ガイア結婚
クロノスに王座につくよう夫の殺害を命ず
陽物を切り落として海中へ アフロディーテ
クロノス、レイアと結婚 沢山の子供を産んだが
ノイローゼになり飲み殺す―マクベスの原型
レイア―ゼウスをクレタ島の山中に隠した
→ガイアの呪い…・黄金都市のカタストロフ
1.植物のお喋り
追跡行とその目的―相棒 →密猟者 ハンター
*スコール
・密林の夜と朝
2.動物はお喋りだ
希少種の問題
ネイテヴアメリカン―原住民も
3.未知の種族との出会い
自殺病→他の部族の村でも流行している
4.黄金都市での戦い
盗掘―資金稼ぎ…マフィアもどきの学者
5.ガイアの呪い
―黄金都市崩壊 地中の双子都市 入れ子細工のようだ
地中に呑み込まれる
エピローグ
更に町が忽然と
ガクゼン ショック
・若い娘たちの死→新種のウィルスの出現―エイズ、エボラ熱
・自殺病 ・ガイア(大地母神)の嫉妬―ウラノスの陽根を切り落した女
クロノス(時間)→子供を呑む
ギリシャ神話の説明なしでもいいのか?
ヘカテー 魔力
アウトレット・モール ドイツ風商店街
ジェロニモがどこかで読んだ神話を思い出す
・復讐の密林(ジャングル)
・緑の魔境
失読症(スラスラと読めない)→天才の脳 ダ・ヴィンチ「逆に書く」
脳細胞ネットワークの差
アインシュタイン―誤字・脱字 ピカソも…
右脳 直観・原始人 左脳 現代人が読み書きを覚えて発達
誕生から5年間で 整理され
ネットワークが形成
ニューラルプルーニングが作られる
その進行の差 天才と普通人
アインシュタイン 右脳と左脳の連結部分が違っていた
ハーバード大学 プロジェクト・ゼロ→天才教育
未知の部分が殆んどだ。
ジャーミナルチョイス(ノーベル賞)
冷凍保存精子→天才教育→異常天才?作られる
ノーベル賞受賞学者がドナー(現在はIQ190以上)
母親もIQが高い200以上 →摩天楼の底―神(ボス)
作られた天才だった。
・新しいモノを創る能力
・時代が天才を作る―早過ぎても遅過ぎても天才になれない
サヴァーン症候群の人たち
協会もある
石像―縄文時代
・ストーリーの流れ(整理!!)
1.お喋りな森林(アマゾン)
森の神秘A ―サボテンの実話
*アマゾン逆行・追跡行→相棒(密猟取締官が殺される)
2.森の神秘B
"香り"*ネイテヴアメリカン
・出身部族の想い出
保護区の悲哀
3.森の神秘C
*癒し
4.母神(ガイア)の都
*慈しみ
5.黄金都市の崩落
太古に入れ子細工のような仕掛けにされていた→地下へ
インデアン(象徴的な)の生き方を考える!
*もう一度最初から書き直し
1.アマゾン支流を逆行―追跡(空村のふしぎ)
「復讐の逆流」→森とお喋り*サボテンの話も
2.「過去への旅」→インディアンの生き方
3.「待ち伏せ」→舟を追う 密猟団との 銃撃・小競り合い
4.「首縊りの樹」→若い娘ばかりが…の謎
→未知の少数部族との出会い→白人が追い込んだと思い込んでいる。
5.戦の化粧
6.母神(ガイア)の都の事
ギリシャ神話(フランソワーズの話)を思い出す。サイボーグ手術
7.黄金神殿を巡る戦い―神殿の中で
8.冥府世界へ堕ちる都(第崩落の仕掛け)
「ガイアの呪い」「冥府への呪い」
エピローグ 女神の放つ復讐のウィルス
ジャングルの最奥(と思っていた)の遺跡が
*80枚前後で仕上げる。
・AIM(アメリカン・インディアン・運動《モーション》)
―自然というものの概念を
根本的に考え直す時が近づいた。
自然―この大地は"お金"では無い―
それは"生命" 自然はこれからの
世代の"生命の泉"であり、
神聖なものです。
(グランド・マザー)
・グランド・ファーザー
・死霊がさまよう丘 ダンスの歌
癒しの歌 戦いの歌
病のための歌(それぞれにある)
鷲の羽根で患部を火で7回なでる
・メディスンマン→医療―薬草
・スティック・ピープル(魔法医)
・スピリチュアル・エルダー(精神・長老)
今こそ、わしらインディアンが知っている事を
世界中に伝える時だ。…自然の事
神の事をな。わしが知っていること
そしてわしが誰であるかを今から教えて
やる。よく聞くんだ。学ばなければ
ならん事はうんとあるぞ!!
・羽飾り―儀式(戦いの帽子と呼ぶが戦いのためではない!)
・化粧―神に覚えてもらうため(死んだ時)
・歌―神への祈り―ドラムも踊りも
白人は意味を取り違える―戦う事しかしらないから
インチキ酋長→金儲けに毒された
・火をおこす 死の踊り パイプを回す 麻薬
・インディオ達の集落→黄金郷伝説
・金の埋蔵場所の像 神が護り人として配置
・神の復讐―怒っている―判決→全世界を壊す
呪術師 巫シャーマン
全ての生き物は死に絶え、新しい命が
生れるまでは100万年―母なる大地
は悩まされる事なく、休みに入る。
神は世界から悪を一掃する
セント・ヘレンズ噴火 地震 ハリケーン
・スピリチュアル・ルネッサンス
・私たちの神から贈られた精神を、白人その他
へも分け与える時
人類を滅ぼさない為にも…
「居留地」→白人の学校へ ひどいいじめに合う
―シャワー室で(シラミ退治)
モカシン 羽飾り
・リトル・レッドと呼ばれていた
・今じゃみんな事から学んどるが
しかし、人間の忘れちまった事が見い出せる
ように神に祈るんだ。
・この世では誰も事実に生きていない。
存在しているだけだ。
・近頃じゃ、みんな叡智じゃなく、知識を
求めたがっておる。知識は変って行くもの。
過去のものだが、叡智は真実を伝える
永遠のものなのだ。
・インディアンに秘密や謎はない。
あるのは常識だけだ。
・人の命はなにより重い等というが―おごり。
人間は全体の一部でしかない。
開発し利用するには よく仕える事―力ではなく責任だ。
・人は悟る 叡智は求めて得るのではなく
創造主に与えられた人生を大切に
生きてこそ叡智が授かる、と。
・この地球は動物みたいなものだ。
動物は病気にかかると、体を揺すったり
摩擦したりする。死の直前となると思いっ
きり暴れるんだ。地震や火山がそれだ。
もう始まっている…
ホビ・ナバホ
・政府の操り人形に過ぎない種族
も多い―ワレワレは先住民
精霊のお許しを得て、ここに住んだのに
白人の議会とやらがワレワレの住むべき
場所を法律で勝手に定める。
「大地の法」とは「精霊の法」に他ならない。
住む場所が決められるのは精霊だけだ。
・平和で調和のとれた暮しを!!この大地と全ての
生命との調和をとれる暮しを―世界の調和
を保つには祈りと瞑想しかないのだ!
・私たちの存在は精神エネルギー
このエネルギーには核エネルギーなどと比すべくもない
力がある。ひとつの体、ひとつの精神になる
事を 全ての人々の意志と自然界の精霊
が融合して出来た。
・創造主はワレワレに夜と昼を与えてくれた。
夜は眠りと休息の時 月は祖母で
大地に潤い、潮も動かす。星は―旅の
行方を教えてくれる。
・セントラル・ファイアー(中心の火)
首長は火の科学者
首長になるには―良い心と
・後を振り返ってみよ。子ども、息子や娘―未来
そして子どもの子ども…7世代先までみえる。
ワレワレも言われてきたんだ。そしてよく考えれば
お前さん自身も7世代先の人間だった。
素晴らしい自然との共生
・インディアン赤い民―嘆くばかりの想い出になってしまった。
海嶺は目に見えない インディアンの霊と
一枚になるだろう。 ・死者は無力ではない
・死は存在しない―魂が生きる
世界次元を変えるだけ
豚→死ぬ時 だまらせる
*サボテン実験の話
はギルモアとイシノモリ
のプロローグで―
母神の黄金都市
幽霊劇場(異界ホラー)
トワイライトシアター(グレート・ロンドン)
に囚われて脱出に四苦八苦
グレートの18番(シェークスピア)
・ああ、生きている事は有難い。たとえ死の
苦しみを少し延ばされたにしても(リア王)
・人の邪魔 妨害、そいつが何より
俺には楽しみなのさ(から騒ぎ)―幽霊が引用
・"老い"論議
ドイル、ワイルド、ポー…超常現象に関心―いや
文系ばかりかニュートンやアインシュタインだって…
―想像力のせいでは?
*ギルモアの引用―グレートならこういうぞと
シェイクスピアからこんな引用を
・人は年が増えると、知恵が減る(から騒ぎ)
でも、こんなのもある。
・年よりになるのでしたら
知恵を貯めてからにして下さい(リア王)
・学のある人は、自然の法則により
かくかくしかじかと説明なさるが
その自然が元来、神罰を受けて
いる事には気が付かない(リア王)
・人生は歩き回る影法師
に過ぎぬ。哀れな役者だ(マクベス)
・よしよし夢だとしておこう。
それが現実になるまではな(から騒ぎ)
・この地球というものが、俺には
どうも毒気の塊のように思われて
ならない(ハムレット)
・自然が造ったものの中で、もっとも
汚れているのは人間の心だ(十二夜)
・この人生の生き甲斐が
眠る事と食べる事が主だとしたら
人間とは一体、何者か?!(ハムレット)
・学問っていうやつは、なんて可笑しな
ものだろうか(じゃじゃ馬)
・どうやら俺は、自分をみくびって
いたらしい(リチャード三世)
・今さら物を覚えるには少し年を
取り過ぎました(リア王)
・今後どうしようか、と考えている
暇も無いうちに、我らは退屈を
始めてしまった(ハムレット)
・生きている時は、お喋りな奴だったが
今や、静かで真面目くさっている(ハムレット)
・お前の光は、いま何処にある(リア王)
・相手をだまそうとする時は、偽りの顔
で隠すしかない(マクベス)
・われながらよくやったと思った瞬間
万雷の拍手。これが果たして自分のものかと
疑う一瞬の恍惚と不安(ベニスの商人)
・おい、元気出せよ。どんな長夜も必ず
明けるものだ(マクベス)
・随分、長い事生きてきたものだ。ふと気がついて
見れば枯葉が散り始め、いつしか老いが
忍び寄っている(マクベス)
・俺はね、手のあいてる時が一番忙しいのだ(あらし)
・言葉というものは、もてあそんでいるうちに
いいかげんなものになってしまうものだ(十二夜)
・考えてみればこの俺も、人並みの
知恵しかないのではないかと思う(十二夜)
・どんな剥き出しの悪といえども
表向きは大義名分を立てているものだ(ベニスの商人)
・一旦権力を手にすると、力に溺れ
哀れみを失うものだ(ジュリアス・シーザー)
・どうもマスコミというやつは、正義漢
ぶって世の良心を錯乱させるだけだ(オセロー)
ありえざるもの
(オーパーツもの)
(フランソワーズ・パリ)
・ルーブル美術館
地下倉庫(ガラクタ置場)が舞台―。
魔天楼の底
権力は肥大化すれば腐敗する。
街も同じだ。ニューヨークは
世界一の巨大都市だが、世界一の犯罪
都市でもある。殺人、銀行強盗、強姦、
誘拐…。ここで無い犯罪を探す方が
難しい。
犯罪が多ければ、それに関係する職業が
同じ様に増える。裁判官、検事、警察―。
犯罪を取締る、法律にたずさわる人々だ。
これまた、組織が大きくなるに従って、それ
なりに腐っている。
車が軽い接触事故を起こした。当事者同志
が車を降りて顔を合わす前に、あっと
いう間に驚く程の弁護士が集まってきた。
これが笑い話じゃないのが、つまり
ニューヨークなのだ。
探偵もそのひとつだ。
で、俺はその探偵で「蟻(アント)」と呼ばれる
食餌(えさ)を探して歩き回っている"ほっつき探偵"
のひとり…。弁護士同様、早い者勝ちの
世界だ。文字通りの意味で、早く歩ける
早く走れるのが俺たちの条件であり、
人が生まれた瞬間から死に向かって
走り出すように、権力は手にした途端に臭いを
放ち出す。どんな理想主義を掲げた
組織も、肥大化すれば腐敗から逃れ
られない。
街も同じだ。
ニューヨークは世界一の都市だ。従って
世界一の腐った街、世界一の
犯罪都市ということになる。
1秒間に1人刺され、2秒の間に
1人強姦され、3秒あれば1人殺さ
れる。
女神の陰謀
女神跳梁跋扈す。
島村ジョー
*ヒミコ登場
(縄文超前紀 謎の古代文明)
マンガジャパン
このままでは私物の印象強い
・もっとオープンに
・世話人会で十分なことを話しているのだ
→公共団体っぽく
・必ず不満が出てくるだろう
→マンガジャパンはなにをすればいいのか?
BY SHOTARO ISHINOMORI
2012・009 conclusion
GOD'S WAR(神々との闘い)
第一巻 光の子 第二巻 闇の子
(全二巻 400字×500、1000枚)
vol.1 Light vol.2 Darkness
Vol.1 light
・プロローグ―
日本、江ノ島のとあるマンション
二人の老人(ギルモア博士、石ノ森章
太郎、共に70歳代である)が、
イワンと呼ばれる眠り続ける赤ン坊の
世話(時々、少量のミルク、おむつ)を
しながら"超常現象"について
雑談を始める…―
第一巻 闇の子・第二巻 光の子
女神の陰謀―ポリティカルロマンス
登場人物
・懈(だるい)教授55歳(玄樹)―羅城門大学
考古学者。名字の印象とは大違い。大男で精力的。
縄文前古代文明の立証に夢中。ゼウスの如くに君臨。
・助手(娘)藺(いぐさ) 大学院生(24)・霊能力者→卑弥呼
実は「神」の一人。超能力を駆使して、政界、官界、
財界に食い込み(御用達巫女として→占いがよくあたる)
ダウジングなど助手としても力を発揮している。
スポンサー役の黒幕と世直しを始める。喝采を持って
迎えられるが…偽キリスト出現と同じ現象(外国で
既に何件かの例が起きている)
・島村ジョー(21)羅城門大学(四年生)
考古学研究会所属。発掘も手伝っている。
・高垣沙織(20)ジョーに思いを寄せてはいるが…
藺の秘密を嗅ぎつけ殺されてしまう。
・合田真太(21)ジョーの同級生。発掘作業
遺物復元、器用である。明るい皆のマトメ役
正義漢(コメディーリリーフ)
・順手銅人(助教授)アル中気味の弱気な酒好き
懈教授の意見をチェック、独自の理論で対する。
がハゲ、デブ、チビ…藺に片想い。
・黒幕―藺(いぐさ)を愛している。見返りを求めない大人の
無償の愛。実生活では
篝矢(かがりや)藤兵衛 80歳 だが60位にしか見えない。
精力的でカリスマ性を持つ大臣
・ダイバーは三人。藺とジョーと沙織(一番のベテラン)―が、海で殺される
・合田は船上でチェック役
・懈教授、順天助教授はクルーザー上でウロウロ
・雇われた船長は、伝説など海の言い伝えを話してくれる
・金属探知器、魚群センサーよりダウジング
の方が役に立つわ!
・モアイのアポート―現地で視察の学者―一体行方不明―真相
・小さな岩礁―下は大きい→洞穴→入ると空間
→涅槃の釈迦像の如く横たわるモアイ像の影
・ジョー…イースター島へ一人旅立つ(調査行)
しかし…手掛りはなにもない
・シノプシス
1.ジョー・与那国島―ギルモア博士とTVフォン
午前中―爺サンたちは朝が早い
2.藺に呼ばれ調査船へ(クルーザー)
3.出発、沖へ30キロ。小さな岩礁―が、
下に大きく広がり洞穴の入口もある。隧道
に階段状、塔状等の人工的建造物
があるのだ。(海上)―キャラクター
(簡単に)紹介。―海の様子、イルカ
トビウオ、鴎など(船上のムカシ話etc)
4.岩礁→潜水は三人。藺、ジョー、沙織。
サポーター…合田や教授たち
5.潜水―洞穴の中へ。BiB(ビーンズボム)を
使って…モアイ像(岩に埋まった!)が
出てくる。岩壁には鳥人の絵も描かれて
いる。―やっぱり!!―岩の組成が全く
違う。謎よこれは、大きな謎―ジョーを
見る。(ふと気付くと慌てて外すがいつも妙な目で見ている)
・藺は絶世の美女と言っていい。少し古典的
ではあるが、一目でひきつけられる不思議な
力を内蔵している妖しい美しさだ。
6.縄文前期古代文明と、南回り(インカ
イースター島を含めた)種族と文化の関係が
解明されるかも・・・。また妙な目でみる。
ジョーは自分がイースター島へ翔ぶ事を感知
する。
7.運び出したい。相当の浮力が必要だが不可能では
ない。―そのプロジェクトを進行中に
イースター島を調査して来て!縄文古代文明
からの視点だったら今までと違うなにかが
解るかも…
8.ジョー、イースターへ飛ぶ。住み込んで調査を続けている。
ポリネシア大学のムニ博士に案内を依頼。
二人でロンゴロンゴや鳥人やモアイを調査して
回るが…なにもみつからない。しかし―
ひとつだけ、失われたモアイ像のある事に
気付く。ここで真相に行きつく。
9.篝矢にモアイ引き出し作戦の資金
援助を頼みに来ている。勿論二つ返事
―その代り→首相に会ってもらいたい。
器じゃないのがなっちまって迷っている
ので占ったフリでいいから方向指示器を
出してもらいたい。
ふふ…もっとも本気でやられたら、首相の
椅子など忽ち木っ端微塵だろうがな。
・えっもう呼んであるんですの―(橋本の
ような総理)―冷やかな藺→
既に“女神ヒミコ”として国の変革を
考えているのだ。つまりそれは、日本の
「支配」という事だ。
10.ジョーをイースターに追いやる工作
(モアイのアポート)はジョーが気に
なったからだ!そう、なにかが気になる。
“予知”といってもいい閃き。
―今度は是非、内閣審議会へきて
そういうお話をして頂けると…
→会う者ごとに催眠術をかけて洗脳をして
いるのだ。そして
11.ジョーが帰国した頃には、政・官・経
の大部分が掌握されている。その何人かを
犠牲にして(族議員、公共工事、天下り)
国民の喝采も受けている。そう、日本は
「女神ヒミコ」の出現に夢中になっていた。
12.しかし、偽キリストと同じくヒミコは胡散
臭い。が、いい事はしていても、なにひとつ
悪い事はしていないのでは、戦いようもない。
13.モアイ浮上計画で沙織が死ぬ。
助教授も海に落ちて行方不明に…。
懈もここにきて、急にしぼむ。何か得体の
知れぬ凶々しい、まやかしの計画に踊らさ
れているのかも知れない、と考え始めたのだ。
14.羅城門大学の学生を中心に、まるで
新興宗教のように「世直し運動」が
盛んになる。ヒミコを女神として崇め
行政、医療、ヤクザ、麻薬、風俗、教育
―あらゆる不備(国民の不満)をぶち壊して
いく。(水清ければ、魚棲まず状態)
ギルモア―イシュメルとジェロニモなら呼ぶだろう
・小さな島国での壮大な実験は破綻する。
(僅か1ケ月余りの出来事)
15.そしてモアイをはさんでの対決となる。
「本来の場所に帰してやって下さい!」
「…どうしてわかったの」「それを気づか
せるためにイースターへやったのでしょう?
そして、貴女の“力”にも!」女神ヒミコ
は熱っぽくジョーに“日本支配”を語る。
パートナーが必要。アナタならぴったり。
アナタには、いえアナタにも“力”が備わっ
ている。愛しているとそれを感じる。是非
一緒にやって欲しいのよ!
「ボクはそんな権力などには興味
がありません!お断りします。それより
藺さん。力をもてあそぶのは、おやめなさい。
人は良くも悪くも自分の運命は
自分で決めなければいけない」
「でも、このまま放っておけば自滅するわ。
滅びるのよ!」「それも…運命ではないで
しょうか。でもボクはそうは思いません。
人はそんなに愚かじゃない。窮地に立って
知恵や勇気を出し合えば道がみつかる。
それが進化だと思うんです」
16.「どうしても従わせて見せる!!」
イナズマの海岸―モアイを真ん中にして
静かな戦いが始まる―テレパシイ攻撃
・酔っ払って現れる父親
*“加速”とは意識のスピードUP
周囲の動きがユックリになる。(人間と植物の
ような時間差)その意識の中で、全細胞
が動くので、通常の9倍の速さで動くかに
見えるのだ。 だが、ヒミコには更なる
“超能力”があった。―危うし、その時
・悲鳴→父親に3メートルのモアイが倒れかかっている。
・ハッとなるヒミコ―呪縛が解かれて
ジョー、ヒミコを―倒す(気絶させる)
そして、モアイを吹き飛ばして教授の
身体から除ける。ヒミコ驚く。
・アナタはサイボーグだとは知っていた。
でもアナタにはそんな"力"は無かった
筈よ!いつの間に…何故?!
やはりアナタはワタシたちの仲間なの?!
・「モアイを帰してもらおう」「そんな力があるの
なら、自分で…」念動力と念動力が
絡み合い、ヒミコ、ふらふら。アポートを
しようとして(精神が)よろめく。―そして
モアイに融合してしまい…消える。
・助けて…と微かな悲鳴が…。
・感情移入(瞬間他の力が→介入)=肉体移入してしまう。
・イースター島、ムン教授。いつの間にか戻っている
失われたモアイ像…なにか声のようなものが!
―またか…首を振って言う「おかしな事ばかり起こる」
―世界の終り(カタストロフィ)の兆しでなければ
よいが…。
・実はジョーは既にイワンから"超能力覚醒"
をやらされているのだ。―ボクが戦う相手は"神"だ。
・心霊手術→サイコオペレーション
改造 コンストラクション 強化 ストレングスン
・超能力強化 psychic strengthen
・みんな"超能力者"になりうる能力は保有している。
使っていないだけ。それを"覚醒"(awakening)させる。
・イワンの思考から読み取れるのは意志―一番近い言葉
・押さえ
・縄文研究の現在
・プレ縄文の可能性(海底遺跡)
・縄文人南下説―南方ルート説
・宮古島のドルメン(巨石建造物)
卑弥呼の死(大いに塚を造る)―墳丘墓
・海底遺跡の類似性
・縄文人は2500年前に絶滅―弥生人に殺された?
・縄文人―成人になれば刺青(顔中)
・抜歯
懈翡翠 懈―黒幕に?→玄哲 政財界の黒幕 懈玄哲
篝矢藤兵衛 考古学者 大学教授
篝谷翡翠かがりや ひすい
ドルメン文化―沖縄周辺にゴロゴロある
・ジョー→10年前 神戸少年鑑別所
・少年院 重い罪を背負っている
→AM6:30起床 家の前に出て「お早うございます」
・傷害致死―覚醒剤 内観―個室で自省
・手に職 熱中する事がなかった ソロバン 農園実習
・仮退院→誓約書を書いて出る・保護監察 嬉しい反面、不安…
・少年鑑別所との違いは?
→医学、心理学、社会学の専門家による少年の資質の鑑別を行う(国立)
→家庭裁判所→少年院
女神、跳梁跋扈す(一ケ月の間に)
1.琉球列島
2.海底の穴
3.水晶占い
4.イースター島
5.翡巫呼
6.対峙
(跳梁跋扈)企業、政界、官界、財界、教育界
全ての不正を正し国民の不満を解消する
女神である 正義の鉄槌を下す
3.水晶占い 政界@メンバーA官僚B
懈玄哲―政財界の黒幕 78歳
・元気だが 白髪 短躯(160p弱)
痩身 ―翡翠の"催眠術"中に
ハマっている。後は簡単だ。
財界の大物―大企業の会長→二三分
資金を引き出す話―そして占い→
全部当たる→大感動―シンパになる
・短い章でエピソードつなぎ
・懈邸での政官財 三人との出会い
・翡翠にみんなを紹介しよう
・三日後、総理に会う
・一方、ジョーはアトランティスに飛ばされ
ていた。現地のモアイ学者と調査
を開始。しかし、手掛かりはない。イースター
島の描写。(南十字星、火口)
・1週間後→教授、助教授が加わった防衛庁所属
の海洋調査船が与那国島へ向かっていた。
この船ならなんでも可能(浮標で洞穴の外
へ、海面まで運んでしまえば)
・教授は淋しい(娘と離れて)。篝谷と
合田は二人で酒ばかり呑んでいる。
海上保安庁の乗組員たちがテキパキと
なんでもやってしまうから。
・イースター島―今日も収穫なし
・10日後→TVワイド番組のゲストになって
いる占い師(水晶球占い)の
翡巫呼―ヒミコと名乗る→翡翠
・政治家の出演する番組
徐々にパニックが起こり始めて
本音を言ってしまう政治家
国会答弁―大蔵大臣→本音
―官僚も同意 騒然となる!
・公共事業―面子かけて、あんなの
を作る必要はない。
→国民の怒りバクハツ寸前
・イースター島→驚くべき手掛りが
みつかった。今迄気付かなかったが
像が一個失くなっていたのだ!!
→真相に近づく。これは…
・テレポート空間瞬間移動―アポート物体引き寄せ
・三週間後
・懈の用意した事務所に続々と
集まってくる善男善女、エライさん、有名人
・地方議会でも知事、市長、町長
村長…たちが続々本音をいい
始める。一体なにが
・帰国するジョー
・水清くして魚棲まず→確かに
―殺人を告白する者。不倫、汚職
詐欺、銀行員の不正
5.翡巫呼 カルトが誕生しつつ
あった。本音を言い合おう!
理想の国 ヤマトを作ろう!
ワラワは女神ヒミコなるぞ!!
6.対峙
・三週間後 翡巫呼に連絡
・羅城門大学―考古学研究室―外にモアイ
新しく巨きな研究室を急ピッチで建設中
・ゲッソリした教授
・研究所(建設中の)プレハブ
・沙織の行方不明を知る―呑んだ
くれている場合じゃない!教授のいない
間に話したい。
・沙織 カビを見つける―それを丸い
プラスチックケースに入れて翡巫呼に渡す。
―しかし何も言わずに逃げ出す―走る沙織
―カッ―消える―街路で突然消滅する沙織
―たまげる通行人 ポカン
・ジョー 呼びつけた―報告したい事実が
あって、どうしても話したいことがあるんです!
・今夜行きます→そして対峙
翡巫呼の姿→ジョー→
超能力…その時、教授ふらふらと入ってくる。
ハンマー―モアイを壊そうとするが、
・よろめく モアイ倒れかかる 危ない
・その瞬間に二人の超能力が交差する。
・送り返すのです。元あった場所に。
何故、ボクをイースター島に?
からかった、のと ちょっと邪魔になりそう
だったからよ。それにお前の本当の姿も
みてみたかった。ワラワたちと同じような
力があるのなら真相に近づく筈…。
それにモアイはワラワのこれからの権力
の象徴にもなる。
バカな。そうはさせない!
ワラワと共にヤマトを日本を改革しよう!
・二人―モアイが倒れかかり
教授→走る→サイボーグ超能力
走り始める―"加速意識"翡翠
加速細胞→超能力の空振り→ギョッとなるヒミコ
瞬間、勢い余ってモアイに
ぶつかって、中へめり込む→瞬間
力のギアが入れ違い
イースター島のモアイ―消える―呆然とするムン博士
・ジョーはいち早く帰って二人の老人に事情を話す
そしてイワンが目を覚ます
・アウェイキング"覚醒"をしそうだ、とギルモア!
・ジョウ―目が虚ろ 膝をつく 身体中の力が抜ける
脳が燃えて…
・父・篝谷教授の問いかけ
「翡翠、お前は一体、何者だ。
何者なんだ?!あの優しく聡明で明るい
お前は何処へ行ってしまった?!何故―
そんな怪物になってしまったんだ?!」
「お父様、私はここにいるわ。そして
―貴方の娘よ。怪物ですって?非道いわ!
私は何も悪い事などしていない。むしろ
正義を行っているのよ!この世の―
日本という国の腐敗を放って
置けなかった。だから…」
「いや、お前のやっている事は、毒を更に
強い毒で制しているのと同じだ。お前は
怪物的な―何か得体の知れない
力で彼等を操り従えている。そう、
例えば強力な催眠暗示のようなもの
で、連中を言いなりになる奴隷に変えて
しまったんだ!彼等は個性もない。
真実とやらを告白し、懺悔したが
結果はどうだ。国民は、国はパニックに
導ち入って収拾がつかなくなった。
確かに政治家や官僚や財界人たちの
庶民を侮った態度は非道い。確かに
その腐敗は鼻が曲がりそうだ。しかし、奴等
は、いわば―だましあいの世界の実は潤滑
油だったのだ。その油をお前が断ち切って
しまったから、あの機構は機能しなくなって
しまった。考えてもご覧、日本を稼働させて
いたのは、良くも悪しくも、その嘘で固めた
機構そのものだったんだ。だから
一緒に国民も死ぬことになった…」
「いいえ、お父様。国民は死なないわ。
嘘や暴力や貧困の無くなった世界で、平和
に暮していけるわ!」
「…お前の操り人形としてか。結局は
彼等は、またちょっと質は違うが同じ権力
に支配される奴隷になったんだ!」
「違う!違うわ!私は女神翡巫女よ!
人間は間違うが、神には間違いはないのよ!」
「う…神だと?!女神だと?!ううう…
一体、何故、いつ、どこで、そんな"力"
を身につけたんだ?!」
「身につけたんじゃないわ!身について
いた元々あった力よ。自分で
掘り出し、鍛練し、協力にしたんだわ!
その力の存在を、ある日「啓示」によって
気づき―そう、後でわかったんだけど
同じ"能力"を持った〈神々〉が、もう
何人もいるのよ!」
「それが、人々を操り…モアイをイースター
島から日本までテレポートした"力"か。
そして、このモアイこそ、最初の〈神の力〉
の顕現の象徴と言う訳だ…クソッ」
教授は突然、本来の荒々しいエネルギー
を取り戻したとでもいうように呻くと
鉄槌を高く振り上げた。モアイを破壊
しようとしていた。灰色の踏み荒らさ
れた雑草のような髪が逆立った。
「やめなさい!!」
女神翡巫女の凛とした声が響いて
ピクリと教授の身体が静止し、モアイ
に打ち付けられる寸前で鉄槌も止まった。
「そんな事はさせない!」また声…。いや
それは声では無かった。勿論教授にも
ジョーにも、はっきりと聞こえたが、それは
心の声だった。テレパシイの声だった。そして
教授の自由を奪ったのはサイコキネシスという
力だった。正に〈神の力〉だった。
が、さすがに瞬間に停止は不可能に近い。
ましてや鉄槌の勢いあった。教授は
よろめいてモアイの足元にぶつかった。まだ固定
していない台座がグラグラと揺れた。かと思うと
倒れ、教授の上に―倒れそうに…二人が同時に走り出した。
「お父様!!」翡巫女の声の無い声。
翡翠に戻っている声―走った。ジョーの
意識にカチリ―スイッチが入った―走る。
「ジョー、もう貴方は邪魔よ。
遠大な〈神の計画〉を邪魔する敵よ。
死になさい!!」意識のスピードが
10倍になった。肉体が霞んだ。ジョーの
肉体もまた、過ぎる時間の先を走っていた。
翡巫女の〈神の力〉は移動を
開始直後の一倍のジョーを襲った。
が、ジョーは既に、その時間には
いなかった。
翡巫女は愕然となった。ジョーは
われわれが持つ〈神の力〉に加え
別の力も持っている?!以前からどうも
妙だと思っていた。不思議な力を…
一瞬、白くなった意識が翡翠を翡巫女
をモアイに激突させた。ハッとなり
「イースターへ戻れ!!」と念動をかけた。
翡巫女の肉体は、何故かモアイに
めりこんだまま―念動が作動し
―消えた。
「教授!」―倒れた教授を抱き
起こしたジョーの肉体は、もう実体であった。
「う・う…」教授は呻き、薄眼を開けた。
「…翡翠…!」そして、そのまま事切れた。
モアイ―戻っている像
微かな翡巫女の声…出して…誰か、ここから出して
一体…ここは何処なのですか…助けて
聞いていたのは濡れたように光る
南十字星だけだった―。
江ノ島の四人
―イワンは覚醒といっとるようじゃが
なにはともあれ、こうなる事に気づいて
先にこっちも"超能力者"に―ジョーの
事じゃが―覚醒しといてもらって、よかっ
たよな。
―あのネ、博士。こっちもその覚醒とやらをして
もらえるんでしょうかね?!私は…その、
少年の頃から"超能力"というモノに憧れ
て…空を翔んで、美女の行水を見て…
―昔話の久米の仙人かね、ショウさん。
今さらそんな力でなにをしようというのかね。
それこそ、年寄りの冷や水と笑われるだけじゃ。
―イワンは他になにか?
―ああジョー、こうも言った。間もなく
みんなやってくる。カタストロフと
ハルマゲドンに備えるためにな。で、
来たら起してと言って、またあれじゃ。
―たく、寝ぼけた…いやとぼけた赤ん坊
だよ。
―みんなが間もなく、日本へくる…。
・父娘の対決シーン
「わかって欲しい。モアイをアポートしたのは
お父様を喜ばせたかったからよ!
お父様を私は愛しているのよ!!」
「い、いや違う、翡翠。それは愛じゃない。
エゴじゃ。自分の力の誇示、功名心、
自己顕示…ワタシへの愛とは違う。自分へ
の愛じゃ!」
「非道い!お父様、それはあんまりだわ!
私は―〈神の力〉を得てからも―
暫く、お父様の為に尽くしたわ!
早く自分の新しい力を試して
みたかったけど…お父様が
淋しがると思うと、離れる訳には
いかなかった!」
「確かにワシは母親を早く亡くしたお前を
可愛がる余り、傍らに留めて置き過ぎたか
も知れん。それはワシの我儘だったが…」
・モアイと合体するシーン
・二人の思念が空間を歪めた。
加速が時空に渦流をつくり…
・翡翠はそのままスルスルと
モアイの中へ入った。まるで
イースター島からアポート(引き寄
せ)して岩砂の中にスルリと
収まるように…。そしてその
瞬間、念動によるテレポート
の思念を発した。
「イースターへ戻れ!!」
モアイは倒れかかった篝谷
教授の上に
倒れながら、消えた。
超能力は自然の法則をも無視して起こる
だから、やがて説明がつきようになるま
では"超"なのだ。
それが今、起きた!
春雨や 天没 地没 虚空没
192 :
愛蔵版名無しさん:2009/01/14(水) 20:28:58 ID:BghxA9O/
・入れ変りの瞬間
〈ヌルリ〉
・ひとつは既に死んでいた。
もうひとつは、これから死んでゆくのだ。
それは一瞬という時間さえ数えられない
“一瞬”の入れ変りだった。
その“一瞬”では、雷鳴も轟かず、地鳴りも
せず、山も崩れなかった。が、やがて
居場所の異常に気付いた時、惑星は
身震いし、悲鳴を上げた。
海の水は天まで駆け登り、大地は割れて
火を吹いた。山々は沈み、またそびえ立った。
そして、その星に棲んでいた豊かな多くの
生き物が消えた。その多くの生き物の
食物連鎖の頂点に君臨していた
“人間”と呼ばれている生物も、その大半が
死んだ。しかしこの人間は、それまでに
手に入れていた“文明”という利器
(例えば洪水を乗り切る箱船のような)
を巧みに使って、少数ではあったが
かろうじて生き延びた。
1万2000年ほど前の出来事である。
惑星の名は地球―アースといった。
―仮に、ひとつの宇宙は“光”と称ぼう。
―仮に、ひとつの宇宙は“闇”と称ぼう。
光の宇宙の星々には生命が溢れていた。
銀河と呼ばれる小宇宙の更に端に
太陽系と呼ばれるムラ宇宙があったが、
そんなところにさえ惑星それぞれに様々の
進化を遂げた生き物たちが棲み
平和に暮していた。地球を筆頭に
金星にも火星にも木星にも土星にも冥王
星にも海王星にも生命が溢れていた。
正にそこは“光の宇宙”であった。が、
ある時突然、地球の「人間」と
呼ばれる食物連鎖の頂点の生物が
凶々しい“力”を手に入れた。
一説には、一人の学者の研究していた
何かの“香り”がその脳に影響を
与えたという話があるが、よくはわからない。
凶々しい“力”とは、意志の指令ひとつで
どんなことでもできる、という事だった。
“力”は人間に“支配欲”をもたらした。
太陽系の全惑星を、全生物を支配したい!
宣戦布告なしの無差別な攻撃が開始された。
一撃で滅ぼされかけた惑星もあった。地球
の直に隣り合った“月”は一番の被害者だった。
フォース攻撃で忽ち大気が吹き飛び、
クレーターだらけになり、勿論、
生物は死に絶えた。房々の尻尾を持った
耳が長い温和な生物だったのだが…
次の攻撃目標は当然のように火星
だった。が、火星人は思い切った反撃
に動いた。肉体を捨てたのだ!物理的
攻撃には肉体など脆弱でモロいもの。
向うが精神の力で攻めてくるという
のなら、こちらも精神で闘えばいい。
こうして、火星の精神生命体生物は
地球を、人間を襲った。
人間にどんな“力”があろうとも
一人一殺、いや、ひとりにふたりなら
敗れる事はない。肉体に侵入し
“力”の源を押え込んだ。そうすれば
もう“力”を使えない。人間はただの
生き物になる。―そして、その通りになった。
そちこちで抵抗があり、小競り合いもあり
都市が滅んだり(ソドムとゴモラ)したが
大勢は決した。
人間はしぶとく生き延びた。
火星人の多くが犠牲となった。
人間の“力”が再び目覚めないように
その凶々しい力を押え込み続け
なければいけないのだ。結果的に
火星の精神生命体は地球人の
肉体の虜囚とならざるを得なかったのだ。
あらゆる惑星の生き物が集まって
太陽系惑星連合裁判所で裁判が開かれた。
196 :
愛蔵版名無しさん:2009/01/14(水) 20:36:32 ID:BghxA9O/
裁判官たちがジャッジメントを下した。
ギルティ! こんな危険な惑星は追放
すべし。いつまで火星人精神体の力が
保つのかも不明だ。ギルティ!追放だ。
追放処刑は簡単なモノだった。表と裏を
一回転すれば終わる。五次元の軸が
回り、三次元のAと三次元のBが…
←ヌルリ→
…闇の宇宙では、月は勿論、火星も金星
も水星も土星も木星も海王星も冥王星
も、みんな死んでいた。
この宇宙には生物は誰も存在しな
かった。死の宇宙。闇の宇宙。
地獄の宇宙であった。
衛星の月は憂鬱な灰色だった。
火星は赤かったが埃っぽい水のない
―つまりは生命のない惑星だった。
水星、金星は灼熱の、木星は毒ガスの地獄星だった。
木星は毒ガスで充満していた。土星、海王星、冥王星
も他の惑星も同様。大きな衛星小惑星群も
親星の死の病が伝染したように。
どの星も冷たく暗い墓の中で眠り続ける
死の星だった。
―1万2000年程前、惑星移動(テレポーテーション)が
あった。前の宇宙の記憶は消されていた。
が、微かにワレワレの他に誰かが何処か
にいる(た)と感じてはいた。
そうした無意識の衝動―遺伝子レベルの
懐旧の念―が、物忘れ(未来は過去の物
忘れ…ある精神病患者の言葉)を思い出さ
せ、前の宇宙で築いていた文明を、徐々に
取り戻していった。そして、天体望遠鏡で
星々を眺めたり、空を翔び、宇宙に飛び立と
うとしたりしているうちに「ワレワレは一人
ではない」との思いを強くしていった。
が、この"人間"という生物は
―食物連鎖の頂点、弱肉強食の王である
事をやめなかった。抑え込まれている筈の
凶暴な資質が時折、顔を覗かせ、他者を
衝動的に殺し、自然を破壊し、気に入らない他人種
や民族の大がかりな抹殺(戦争)を試みたりした。
…人間の精神にシールド(封印)してコントロール
していたのは火星精神体たちである事は
前に述べた。彼らの疲れを知らない
かのような努力も、しかし、次第に疲労の色を
濃くしていた。それまで抑え込まれていた"人間"
の本質が外的要因により、次第に目覚め始めて
いたからだ。―人口増加、競争社会…ストレス、ハイテク文明
社会格差、異常気象、核戦争などによる破局…。
続々生まれる新しい病気
そしてある日突然、伐採されて焼かれ、緑が少なくなった
森林から、(それまで知られていなかった―登場する必要も
なく埋もれたままで存在していた)殺人ウィルスが
顕現するように…。
シールド(火星人精神体)は老いて病んでいた。
オゾン層のように綻びも大きくなっていた。
シールドは食い破られた。
本能的思考が頭をもたげ、それを制
しようとする精神体との葛藤は、二重人格
や多重人格分裂病などの患者を増加
させた。冷酷無残な動機の無い殺人が
横行し始めて、麻薬や銃が当然の
ように取引され、犯罪はジリジリと
低年齢化していった。凶暴な野性
動物は油断していれば幼獣の時から
腕の一本位は噛みちぎるのだ。
・そして遂にある人間が―
特に本能的資質を強く残していたものが
目覚めて
精神体を殺し、くびきを外れた。
そして忽ち太古の記憶を…
太古のあの凶々しい力を―
脳の中の未知と言われていた
殆んど使われていなかった部分
―その部分に封印されていた凶脳力
が覚醒した!
太古の凶々しい"力"を使ってみた。
人が死に、物が、建物が崩れた。
人々は驚き畏れ、その足元にひれ伏した。
これが「神」の…「神々」の復活だった。
黙示録が予言する"再臨"であった。
―〈神〉とは"人間"―人間自身の事だったのだ!
*その子らとて完璧ではないのだ。悪戯もすれば
小さな犯罪も犯す。
―UFOは第5次元を一瞬に越えてくる
光の宇宙連合の監視船だったという説明は
もう不要だろう。さまざまの惑星から、ある
一定期間、義務的に選抜された監視員。―
退屈が時に、地球人をからかったり…
ミステリーサークル(接近は禁じられている)、
密猟をさせたり…キャトルミューティレーション。
不特定多数の人体調査は定時調査のひとつだった。
・UFOに乗っていたペットが逃げ出し
大騒ぎを引き起こしたり、××惑星人の
容姿が"首長竜"そのものだったり、
ビッグフットだったり、もある。
次元移動中を"幽霊"と見間違え
られたり、中には時々シールドの
綻びから"凶能力"を発揮する人間
がいて―スプーン曲げや占いじみた程度
のモノではあったが、―彼らの何人かは
超能力者という呼ばれ方をしたが…。
→その他、奇妙な現象に遭遇した地球人
たち。
・私にある日、"光"が "啓示"が
憑依した→私は(神)になった!
―凶戦士vs超戦士―
超能力大戦
・指令 イワン ギルモア ショウタロウ
「ナバロンの要塞」スタイル
・牙城攻撃のスタイル
・スパイ、トリック、電撃…団体戦
・牙城の魅力(難攻不落)
・神々の能力と、それぞれの能力を生かした戦い
・TOKYO→魔都
・新宿―都庁を天守閣に
した高層ビル群が城
(クモの)巣を張った神々の軍団
・地下鉄のあちこちに妖怪変化
禿山の一夜(ムソルグスキー)
月はドクロ―死体の叫び―
・ゼウス・カーリー・ケツアルコアトル・アラー…
・9人の戦士 イワン ジェット フランソワーズ
ハインリヒ ジェロニモ 張々湖 グレート ピュンマ ジョー
・大噴火―大火災 ボルケーノ―富士山
牙城のまわりは破壊されるが…
・大洪水―都内から郊外にまで及ぶ
・大地震―地割れ ビル倒壊
・ネズミにゴキブリ―疫病
―鳥は列島から逃げ出した。
・神々日本列島占領!
・他国より―ミサイルを撃ち込んでくる
しかしシールドあり
・日本の都市、農村の生活
中産階級 住宅ローン
狂乱の様々な現実―神々の破壊に巻き込まれる
人々のエピソードに使われる。
アポート―大魔王の凶能力 魚 鳥 バクダン
・空中から氷、岩…なんでも降ってくる。
・水―大洪水 ・火―火災―逆噴火
・雷電―イナズマ撃ち
・空間を歪める
・毒ガスを吐く ・巨大化―ウルトラマン化
・放射能
・幻―ヴァーチャル攻撃
見てしまったら幻とは見えなくなってしまう
(現実喪失)
・とにかくあらゆる"超常現象"の再利用
(リライト・リサイクル)による総"力"戦
にする。・三段階攻撃
・その戦闘の様子を描くだけで満杯
になるか…
・幻が現実を喰らう
●ジェット(ジャンプ、脚筋力)
・バネ足ジェット・仮面ライダーと同じキック
ホップ・ステップ・ジャンプ効果(フラッシュ)
・動作の途中を"省略"する(中抜き戦法orフラッシュ効果)
・思考する筋肉(細胞)
・スローモーション・ジャンプ―空中浮遊に似てる。
●アルヌール(聴・視覚)
予知precognitionで未来を変化させてしまう(念動力)
P.K念動力で相手を封じ込める
●ハインリヒ(武器、レーザー、銃etc)
千発千中―狙われた相手の命はない。
アポート、テレポート、ポルターガイスト現象など
妖精のサポートあり。
●ジェロニモ(筋力、腕力)
精霊がサポーター ・オーラ強化―生体エネルギー
物体の応援→動・植・鉱物
●張々湖(火炎)
・人体自然発火 ・バックドラフト効果
→隠れていて急に現れる(酸素隧道)―自在に動き回る
・球電型の火炎(鬼火)―速度…テレポート、アポート
●グレート(変身)
・憑依→相手になってしまう
*火星精神体と同じ
・Wもやれる(相手を自分にしてしまう)
●ピュンマ(潜水)
・水の圧力→空中浮遊…自分の体内を変える
・周囲を深海と同じ圧力にする。アポート現象
●ジョー(加速)
・時空間移動(テレポーテーション、タイムスリップ)
時空間の壁を越える
・バイロケーション(W効果)→二か所に存在
残像 ドッペルゲンガー
・変性意識・時間認識を変える―周囲スローモーション化
Alterd States
・変性意識の意識変革
●イワン
・体外離脱・空中浮遊
・念動力・テレパシイ・タイムスリップ
・テレポート・催眠暗示 etc
殆んどのESP(超感覚知覚)を駆使
出来る。が憑依や変身は(見せかける事は
暗示で出来るが)実際には出来ない。
・地獄の妖鬼、餓鬼、小悪魔、小鬼etcが
跳梁跋扈→する荒廃した
シンジュクの街に。(高層ビル街のみ
は、しっかりと建っている―但し、粘液質の
クモの糸のようなものが張り巡らされている)
9人の超戦士たちと神々の凶戦士の
肉弾戦となる。 結局は
各個撃破しか方法はないのだ。(例えば
核ミサイル攻撃もシールドで効果ナシ)
・1人ずつ潰してゆき、最後は
ジョーとサタン…大魔神の対決になる。
パニック―核ミサイル 朝鮮から、中国から、
インドから、アメリカから…全部シールド
・地下水道もダメ
・ジェット機(自衛隊)もダメ
・地上からも攻撃不可能
→どうやって戦う…それとも
日本沈没!!
世界が救われるには―犠牲:いけにえとなって
→小松左京氏(ショウさんという呼び方の由来)の傑作
・日本は"神国"也
神道
・五次元攻撃→先を読み、5段階の
仕掛けをし→最初へ戻り→攻撃
を開始→追いつめてゆく→かわされ
ても次が待つ→更に次が…
・ヴァーチャル攻撃→幻影が
現実を喰らう!むしろ幻影の
方が強い。ダメージを受けても
幻ゆえに直ぐ復元出来るからだ。
・二段階攻撃→HIVウィルス
二種類で交互に…虚をつかれる
ウィルスの知恵だ。
・ミクロ(コンピューター)・ウイルス(細胞より小さい)による攻撃
→スイッチオン(刺激)になると
一瞬で大増殖―相手を死に到らしめる。
幻と現実→どちらも真実、どちらも虚構
・アルファベットが出来たその頃
ギリシャの〈詭弁派―ソフィスト〉と呼ばれた一人
プロタゴラス→絶対的真理や正不正は
存在しないかもしれない(相対主義?)
と言ったが、彼は正しかったのだ。
プラトン・アリストテレス「至高の原動者」神
精神(―世界とは別のモノ。世界よりも
秀れている―)
・アウグスティヌス
人間には恩寵を受けた者と見捨てられた者がいる。
「神の国」に住む前者は永遠に神と共にあり、
後者は「地上の国」に住み、未来永劫、悪魔に
苦しめられる運命にある―。
・南太平洋東南部、隔絶した火山島
イースター島 128KM2弱
・マヤ遺跡 アマゾン・ジャングル
・ハルマゲドン―各個撃破の
戦いが一段落…と見えたのだが
遂に"大魔神(ゼウス)"の出現。高層ビル
の間に"ウルトラマン怪獣"状態で
立ちはだかる。雷鳴と稲妻。揺れる大地、
崩れるビルの窓。稲妻が身体に纏いつき
きらめき続けている。"超能力"が
その体を守りシールドされているようだ。
「ワシは大魔神ゼウス。うぬらを抹殺する
ためにやってきた。うぬらも、もう気付いて
おろうが、その通り、ワシは幻じゃ。現実で
はない。幻を消そうとしても無理じゃ。
しかし、ワシの方からは攻撃を仕掛け
られる。知っての通り幻は現実を喰らうものでな!
そして、幻は常に現実にもなり得る!」
→ジョーの"超能力"(サイボーグ)アタック
丁々発止があって、ジョー危うし。しかし
その時、既に「ミクロイス」と
名付けられたミクロコンピューターウイルス
が大魔神に侵入―幻から現実
になった瞬間に→そして、一挙に
大増殖―内破→溶岩のように
ひび割れがおこり、イカズチがはためき
空が割れ大放電をしながら
消える。
・サイボーグ・エスパー
―妖術、忍術、超常現象の
ごったまぜ戦法―エンタテインメンタル
山田風太郎ふうのナンセンスなかっこよさ
ワレワレの身体は、敵か味方か
見分けられなくなっている!
・ジョー
走りだしてから最後の瞬間に"超能力"
を出す。仰天の翡巫女―
そのためにモアイと合体
・張々湖の炎―自在に
動く。形も自由。―フラッシュ・ファイヤー
・ある大蔵省官僚「税金を国民の為に?
笑わせちゃいけない。ボクらは自分の
出世コースに生かすプロジェクトしか興味ありま
せんよ。ハ、ハハ…」
・教師「生徒を全部ぶっ殺してやりたい!!
キ〜ッ!」
・生物学者「クローン人間、あンた、
もう何十万人も造られているよ!」
・軍人「も、もう限界だ。この持てる力を
何故使えない、とぶちまけそう
になる。う・う・う…もう限界だ…!!」
・カンボジア―アンコールワット
神 ネアク・ター→コウモリ モスマン
・エジプト―イシス神 犬神
・イワン(ギルモア、イシノモリ)日本
1
・ジェット(ニューヨーク地下)→人造神―コンピューター
2.偽キリスト
・フランソワーズ(パリ)
3.ギリシャ神
・ハインリヒ(ドイツ)
4.妖精の王or北欧神話の神々 敵はどっち?
・ジェロニモ(南米)
5.ケッアルコアトル・アステカ戦士
・張々湖(チベット)
6.シヴァの女神(象) カーリー?
・グレート(ロンドン) 幽霊
7
・ピュンマ(バミューダトライアングル)海底
8.イシス神など、エジプト
・ジョー(日本)→翡巫女
9.女神アマテラス
エピソード9 その他の世界各地の神々
1.天使の羽音(エンジェル現る)
ロシア(ギリシャ正教?)ヤクーツク永久凍土
2.ハワイ(火山の女神ペレ)マウイ島
3.ギリシャ神話の神々―イタリア? ギリシャが舞台
4.北欧(フィンランドの神々)
5.オーストラリア大陸(アポリジニの神)
6.中国大陸→
7.アイルランドorスコットランド
8.アフリカ大陸―狼の牙(シリウス)ドンゴ族の神
9.日本、エゾ―カムイ(アイヌの神)
世界のどんな小さな国にも"神"はいる。
*外来(毎週)→月、火 薬 毎週
光の宇宙へ帰還するシーン
―"地球人"の反乱には訳がある
と、金星人(アダムスキーが金星人に会った
という話は、だから真実だったのだ)の
弁護士がいった。金髪の人間型(ヒューマノイド)だった。
―あんたは類縁の種だから同情的なんだ。
アメーバ型の海王星人が反論する。
―孤独は生命には毒になる。光と闇、天国と地獄
白と黒、善と悪…そして幸福と不幸。
誰でもポジ世界の中で生きたいと願う。ネガ世界から
抜け出したいと祈る。そのエネルギーは
自暴自棄である、闇が滲み出させた
悲しい悪しき精神の病である。
それならいっそ、こちらの世界で
ワレワレみんなで温かく見守って
いてやれば…
―いかん。地球人の病は
癒しようがない。温かい接待を
受容する感性を欠いている。
「そんな事はありません!」
参考人として出席していたジョーが
叫んで立ち上がった。フランソワーズ
も、その腕にイワンを抱いたまま
やはり立ち上がろうとした。
裁判長が槌を打とうとして…止めた。
「地球人は…その大部分は火星人の犠牲の
おかげかも知れませんが…感情は
ちゃんと持っています!だって、その証拠に
こんなにみんなで、光の世界に
憧れているじゃありませんか!
体内の火星人と協力しあって
力を善のみに使えるような工夫
…まだちょっと時間はかかりそう
ですが…し始めています。
そして話し合いもしました。これからは
あなた方だけではなく、ワレワレ自身で
お互いに監視し合い、一日も早く
恥ずかしくない光の宇宙の一員になろう…
―孤独は悪を引き出す、という弁護士さんの言葉は
事実です。ワレワレはワレワレ自身の
〈神〉と、いえ〈悪魔〉と戦って、勝利を
収めたのですよ!!」
ジャッジメント
心の目に光の糸が見えた。慈悲の糸が。
審判が下った。―帰還を許す!
「但し…(そこでいかめしい裁判長の顔が初めてほころんだ
…)ワレワレは引き上げてはやらない。
一人で這い上がってくるのだ。
それが自立の儀式(セレモニー)でもある」
ジョーたちが祈る。11人が祈る。
日本の、生き残りの人々が祈る。
アメリカ人が祈る。インド人が、
アフリカ人が、フランス人が祈る。
鳥が祈り、魚も祈り、獣も祈る。
水も樹も草も、山も海も祈った。
暗闇に針の穴の光が差し込み
一瞬とも言えぬ一瞬の間に、
―地球は入れ替った。
陽光のサーチライトと荘厳で華麗な
天上の吹奏に迎えられて…
ヌルリではなくヒラリと
2012 009 第二部 光の子 完
金星人―感じませんか。既にして悪寒が
ワレワレを浸し始めているのを…
このザワリとした感じを―。
弁護士も検事も傍聴人も
各々、互いの隣人と顔を見合わせた。
ザワリ…。身震いし慌てて
目を逸らし、裁判長を見やる。
裁判長の眉間にも皺があった。
「早く終わらせて引き上げよう」
その皺がピクピク動いた。
(下書き用)
2012・009
超常現象に関する対話
(prollogue)用
・プロローグ(1〜2本)
・個人エピソード
・世界各地の神の顕現
2011年の晩秋
―Dr.アイザック・ギルモア(75)
と石ノ森章太郎(73)が
冬の近い江ノ島の海を眺め
ながら、"超常現象"について
語り合う。退屈しのぎに始め
たのが、実は翌2012年の
黙示録的異変へのプロローグ
(各編での)となってゆく…。
・火星→絶対の孤独←・ツングース隕石
・臨死体験
・死後の世界
・オーパーツ・タイムスリップ
学者は―物的証拠がなければ否定
論理のすりかえをする
・神―カムイ…アイヌが一番よく知っている
魂…精霊が宿る
…神に返す
・未来は過去の物忘れ―ある精神病患者
Prollogue@
・SF作家かく語りき
―アーサー・C・クラークがこんな事を言ってますよ。
"超常現象"の殆んどは人間の脳(ブレーン)の中に
解答がある…。
―ふゥん。かも、ね。
―ですかねぇ…?例えば―と、こう続けています。
〈サヴァーン症候群〉に見られる驚くべき記憶力
(主に暦とか平方根の計算とか数字の記憶だが)
が示しているように、人間の右脳・左脳、意識・
無意識に"未知の能力"が秘められているのだ。
―〈サヴァーン症候群〉と言うのは、あれかね。
知能指数などは極端に低い、精神障害
などを持つ者が、なにかひとつ誰よりもズバ抜けた
才能を持っている、というあれ…。
―そうです、そうです。そういう人達というのは全く
世界が、我々とは別物に見えているんでしょう
なァ…。
―それより"超常現象"と脳の関連はどう
なってるんだって?
―へエへエ。え…と。そ、ここ、ここ。また例えば
〈輪廻転生〉―.
―なんじゃい、そら?
―生まれ変りですよ。一度、死んでも、また生まれ
変る。仏教とかヒンズー教の信仰です。だから
生まれ変りのハナシも、あっちの方に多い…。
―はッ、それだな。信じればサンマもイワシもみな
一緒…。
―違いますよ、ギルモア博士。サンマの頭も信心
から。これだと信じ込めば、サンマの頭だって
尊いモノに見えてくる。意味が違いますよ。
―いや、違わんね。サンマの頭は尊い!と思い込む
事と、私は生まれ変りだ、と思い込む…その
思い込みに差はないんじゃ。
―そうかなァ。なにやら博士の思い込みに丸め
込まれたような気がするけど…。マ、とにかく、
クラークはこんな例を引いています。隣の
若奥さんが突然亡くなって、間もなく、B村に
女の児が生まれた。やがてその女の子が成
長し何歳かの女の子になった時、何年か前に
亡くなっているA村の若奥さんの話をするように
なった。で亭主の名前は勿論、自分の産んだ子供達
の名前、両親の名前、それに家の様子、おまけに
隣近所の人達の事まで詳しく話し出した。で、
スワ生まれ変りじゃー、という事になった。
―なるほど。それでオチは?
―落語じゃねーんだから…。それに話はまだ続く
んです。この娘が余りいろいろ言い張るものだから
両親は仕方なく隣り村へ連れて行く事にした。
自動車に乗って出掛けたんだが、ところがなんと
初めての村の筈なのに、娘は運転手に、そこを
曲ってとか…真っ直ぐにとか指示を出す。そして
遂に、そこで止めて、と言ったのがドンピシャ。
目的の死んだ若奥さんの家だった。そして出て来た
亭主を見ると抱きついて泣き出し、子供を
見ると―自分より大きいわな―また、泣き出し
た。そして、家の何処そこには何があって、どう
なってる、とまるで若奥さんのように喋り出した。
という話…。
―だから、早くオチをと聞いとるんじゃ!
―へへへ。要するに、これぞ“超常現象”だ!
と思えるような余りにも不思議な話だから、早く
結論を知りたい訳ですな、ギルモア博士として
は。へへへ…。
―……。
―へへ、結論いやオチに行く前に、この話、何人
かの“科学者達”が調査をしていましてね。これ
は事実である、と宣言しちゃってるんですよ。
―なぬ?
―ところが、クラークの意見はこうなんです。娘が
赤ちゃんの頃にか、もう少し成長した幼児の頃に
隣り村の人がやってきて―あるいは家族の一人
だった可能性も大きい―あれこれと、死んだ
若奥さんや家族や近所の噂話など四方山
話をしていった。その話を、ウツラウツラと昼寝
でもさせられていたか、なんかお人形さんの
ようなもので遊んでいたのか、その女の子が聴く
ともなく聴いていた。意識してではなく無意識で
大人達の“声”が耳にとび込んで、脳の記憶
の中に閉じ込められた。そして、やがて
なんらかの刺激をきっかけにして、その若奥さん
の話を始めて、生まれ変り話になっていっ
た…。
―うむうむ…なるほど、なるほど…。
―つまり、人間の脳には迷走するそーゆー能力
がまだまだあるんだ、というハナシな訳ですよ。
私なんかは、そーゆー“超”能力じみた力も
オカルトに見えるんですけどねえ。
―いやいや、ショウさん違うね。ワシはクラークの
説に大いに賛成じゃね。実に理論的、説得
力がある。さすがは通信衛星を考案した科学者!
―あのね、「2001年宇宙の旅」とか「幼年期の
終り」とか…SF作家としての方が有名なん
でゴザンスがね。それに「2001年―」も
そうだけど「幼年期―」なんて、相当に
オカルトチックでファンタスティックなんだけど…。
―さよう、ハードでクールな理性があるからこそ
そのように“超常現象”をも面白おかしい
フィクションとして書けるんじゃな。
―そういえばアシモフなんかもそうだし、日本の
SF作家の大部分もそうなんだけど、頭っから
UFOなんか否定しているくせに、ワープとか
ロボットとか書きまくってるんだよなァ。ずるいや。
―ショウさん、どうかね。Mrクラークの
オカルト=ブレーン説は確かに面白いけど
どうやらショウさんには不満があるようじゃな。
―いやァ、不満という訳じゃないけど脳説だけ
じゃ説明つかない事だってもっと…。
―だからじゃよ。そういういろんな視点を混じえて
“超常現象”を論じてみないかって事。
―え?ああ…そりゃァ面白いですね。
―イヤかね?
―いや一寸、吃驚したんですよ。ギルモア博士が
らしからぬ事を言い出したもんで…。
―らしからぬ、とは失礼な。ワシだって―そう、“超常
現象“を赤ン坊にしたようなイワンと生活しとる
んじゃからね!
―ハハ。そう言えばそうでしたね。いえ、私は
冷徹な科学者だって言いたかったんですよ。どうせ
全部に理屈をつけて、否定の立場を取るだろうと…。
―わかっとらんな、ショウさん。否定もひとつの視点じゃ
ろうが。勿論、ワシは否定論者の立場を取るつもり
だが、議論というものは、否定と肯定の立場が
あるからこそ成り立つものでな。
―ギルモア博士。どうやら博士は、私を最初から
オカルト信奉者だと思っているようですね。
―違うかね?描いている作品を見れば…。
―クラークやアシモフや小松左京はどうなんです?
―あ、なるほど…。
―私だって丸ごと信じてる訳じゃないですよ。どちらかと
言えば疑ってかかる事の方が多いんです。でも…
否定してゼロにしてしまうより、もしかしたらとイメージを
広げた方が世界観が広がって楽しくなるじゃありま
せんか。
―わかったよ、わかった。謝るよ。謝ったついでに告白
するが、実はワシもかねがね、オカルトに大いに
興味を持っておってな。こっそりその関連の本を読ん
だりしとったんだわ。
―それは知ってましたよ。でも、いつも苦虫を噛み潰し
たようなムズカシイ顔をして読んでいたから、バカバカ
しいと思っているのかと…。
―理由(わけ)がある。オカルトに興味を持つようになるのは
老化現象の始まり、理性が衰退してきた証拠
と言われとるんでね。
―そう言や、そう言われても仕様がないような例
も随分とありますもんね。コナン・ドイルなんか
妖精の…最近わかったんだけど、インチキ写真を
信じたり、幽霊や死後の世界にのめり込んだり…。
―反対の例もあるぞ。例えばアインシュタイン。
科学者のシンボルみたいに言われ、事実その通り
の物理学者が、理性的にオカルトに接近
した。量子力学や物理学の最終的部分では、オカルトに
頼らないと解明出来ない。進んだ科学は魔法
と区別がつかないと言っていたそうだが、案外
アインシュタインは真実を見ていたのかも知れんな。
“過去と現在と未来の区別など幻想に過ぎない”
なんていうアインシュタインの言葉、好きだなァ。
―よし、決った。それじゃ早速、始めたいが…その前に
イワンのミルクとオムツじゃ。
―それじゃ私は、その間に関連本を何冊か
用意しときます。
●U.F.O.
―サテと、最初はなにから行きます?
―ハッハ。オープニングの景気づけには20世紀
最大の謎だったUFO以外ないじゃないか。
―ドン、と大テーマですな。いいでしょう。私とし
ては。ああ…UFOとは…。
―いやっ。ファッファ、ハハハハ…まァ、そう
緊張せんで。フフフ、これはショウさん、
学会の発表会じゃないんだから。雑談
なんじゃから、気楽に気楽に…。
―へへ…。すンまへん。なに、つい張り切り過ぎて
しまったんです。
―UFOとはUnidentified Flying Objects
つまり“未確認飛行物体”の略で、今や
カーとかエアプレーンとか…いや、もっとじゃな。まあ
空気。空気とか水とかと同様に、知らん者の方が少ない
くらいの“名詞”になっとる。現にアメリカ市民の70%
程がUFOの存在を信じ、50%程が見た事が
ある、と信じている。こんなところかな。
―そ。サンキュウ、サンキュウ。でも…、その見たという
90%ぐらいは星だったり月だったり、航空機のランプ
だったり、あるいは沼からのガスとか球電とかの自然現象
で説明が出来てしまい、信用出来る“実見談”は意外と
少ない、というのが現実。大体、UFOの写真という
のもニセモノが多いし、存在証明をする“物”が殆
んど無い。
―おいおい、ショウさん。立場を忘れてもらっちゃ困る
な。お前さんは否定派じゃなく肯定派。
―わかってますよ、これからです。…1947年6月24日。
ケネス・アーノルドという男がワシントン州レイニア山上
を小型飛行機で飛んでいた時、編隊を組ん
で飛行する9つの物体を目撃した。それはまるで
コーヒー皿のように見えたのでフライング・ソーサー
“空飛ぶ円盤”と名付けた。このバツグンの
UFOのネーミングこそ、その現象を20世紀
最大の謎に輝かせる事になる大きな要因だった。
…まだカタイですね。実を言うとですねェ
本を読んでるからこうなるんです。
取り敢えず記憶だけで雑談しましょうか。
本を見るのは年号とか数字とかの記録を確認
する時だけにして…。
―そうそう、その調子。リラックスして行こう。
―私が田舎から東京へ出て来たのは60年近く
前の事なんですが、丁度その頃は“空飛ぶ円盤”
の第一次ブームだったんです。円盤特集の
雑誌が出たり、アダムスキーの“実見記”なんて
単行本が出たりしてましてね。いやァ、ワクワク
して忽ち夢中になりました。トキワ荘ってアパー
トに居たんですが、赤塚(不二夫)なんかと
毎晩、空を見上げたりして…。フフ、結局は
夜鳴きソバを食って、お開きになるんですが
夢がありましたねぇ。そう、“空飛ぶ円盤”は
見えませんでしたが、星がまだ見える時代
なんです。東京にも空があった時代…。
―ワシもアダムスキーの本は読んだなァ。でも
直ぐにこいつはインチキだ、フィクションだ
と思ったよ。大学生になりたての、まだ
青い生意気盛りという事もあったんだろうが、円盤に
乗せてもらって金星に行ったなんてアホらしくて…
―それは多分、続編の方。まァ確かにね。でも後で
事実とマッチする事になる記述もあるんです。例えば
“宇宙ホタル”なんての。
―偶然じゃよ、偶然。
―それに、その後何度も目撃されたり、写真に
撮られたりする事になる“アダムスキー型円盤”
の事もある。
―写真の殆んどはニセモノと言ったじゃないか。
アダムスキー型なんて、その最たるモノだと思う
がねぇ。
―葉巻型母船はどうです?
―想像力には感心するがね。しかし、それ
以前にはツェッペリン等、飛行船ってのがある
し、第二次大戦終了の頃には、ロケットの研究
も盛んにやった。連想は容易じゃよ。
―ウーン。アダムスキーじゃ戦えないかなァ。
私にとっては、アダムスキーとの出会いが最初
なもんで、カルチャーショックがあるんでしょうね。
なにか、こう何処かひっかかるところがあって、無下に
できない。
―ノスタルジーに決別出来んのじゃね、青春
時代への…。ピーターパン症候群かも知れん。
―冷たいなァ。いや、ピーターパン症候群やノスタル
ジーが出たついでなんで言いますが、私は
少年時代に―終戦直後ぐらいでしたから
小学2,3年の頃、UFOとは断言出来ないが、
「らしき」光り物を見ているんです。青空でした。
私が発見したんです。金色にキラキラ光るモノが
ジグザグに飛んでいたんです。勿論、空飛ぶ
円盤もUFOも知らない時代ですからね、
吃驚して見ていたら、何人かの通行人が周囲
に集まって来ましたから…。結構長い時間
だったようですね。その中のかなり年輩の、子供の
私から見たら老人とも言っていい程の男の人が
徐にこう言いました。一番の年長者として何か言わ
なきゃ、と思ったんでしょうね。「あれは彗星じゃ、
流れ星!」私は子供心にも、なにをバカな
事を、と思いましたねぇ。だってジグザグに
空中を横切る流れ星なんて聞いた事が
ありませんからね。
―ふむ、そいつは一体、何だったのかねぇ?
―今だに不明。飛行機は勿論、飛んでいましたが
金色に照り輝く飛行機雲が出来る程の高度を、その頃に
飛んでいたとも思えませんし、故障で墜落してる時
でも無い限り、ジグザグ飛行はしないでしょう。
―第二次大戦の前後と言えばフーファイターと
いうのがあるな。アメリカやドイツの戦闘機に
つきまとったという光る球体…。
―球電ですかね、あれは。しかし、どうも意志が
あったみたいだし…。20世紀の終り頃、一時、
何処かの大学教授というのが、UFOも
幽霊も、ミステリーサークルも、人体自然発火も
なんでもかんでも、全ては球電で説明が出来る
と、クラークのブレーン説みたいなひとまとめ屋が
いましたが、いくらなんでも、偶然に発生した
単なる放電現象が、美しい幾何学模様の
ミステリーサークルなんかまで作っちゃうとは、とて
も考えられない。
―いやァ、わからんぞ。自然に時間と偶然を
考えれば超自然以上の事だってやってのける
かも知れん。例の火星の人面岩だって、
―ストップ!それは後でひとつの大きなテーマに
しましょうよ。どうもアダムスキーの金星と同じで
火星はとうに死んでる星と頭ではわかって
いても、何故か何処かで、それがナットク
出来ないところがあるんです。
―なに、同じもんじゃよ。カルチャーショック。
言うなれば人類の精神的外傷(トラウマ)だね。
古代人の頃から、あの星の赤い色は、夜間に襲って
くる獣の目の色に見えたのかも知れんし、
その恐怖心が、やがて“マーズ”戦う神の
星にした。そこへ持って来てスキャパレリや
ローウェルの“運河(カナル)”間違い騒動があり、
ウェルズ(H.G)の「宇宙戦争」、同じく
ウェルズ(オーソン)のラジオ放送パニック
があって、とうとうトラウマが完成という訳じゃ。
―火星の自然が見せる、あの“顔”も、トラウマの
せいだと?
―その通り。だからクラークのブレーン説には
説得力があるんだ。これにユングの
集団無意識説を加えると、UFOが
見えるのも、エイリアンと遭遇するのも
精神の問題、あるいは脳の問題と
結論づける事が出来る。
―ちょ、ちょっと博士。ギルモア博士、ダメですよ、まだ
結論なんか出しちゃ。論ずるテーマは山ほど残って
るんですから…。それに大体、UFOだって論じ尽して
いない。
―そうか。じゃあ、べティ・ヒル夫妻の第三種接近遭遇
拉致誘拐事件くらいまで、とばそうじゃないか。
―いや、その前に「エリア51」“ロズウェル事件”
は話しましょうよ。アメリカ空軍は、ロズウェル地区
の牧場に墜落した円盤を回収していた。
エイリアンの死体―直後は生きていた、と
いう説もありますがね―とも共、隠している
というヤツ…。
―これは名のみ高いが、それだけに胡散臭さの
方がかなり大きいな。原爆製造などもそう
だったが、国家がなにか国民の目を逸らし
てやりたいプロジェクトがある時は、目眩
ましに、別の耳目を引くフェイクケースを
でっち上げる。大体、前後して調査員とか
称して脅しや監視に現われた三人の黒服
の男、というのが気に食わん。やってる事が
全て中途半端。つまりお座なりの型通り
で、芝居じみ過ぎておる。たく…、
―ニベもないなァ。その調子じゃ、ヒル夫妻の
誘拐事件(エイリアン・アブダクション)も
どうせ幻影って事になるんでしょうねえ。
―そう。人類共通の無意識の欲望、畏れ、
神々への依頼心…それが作り出した
思い込み…。
―ユングが確か、大衆の50%だったか
70%だったか、とにかく多勢の人々が
同時に同じ事を思えば、それは現実
になる、とか言いましたよね。
―同調しなさんな、と言ったでしょ。反論しなさ
いよ、反論を…!
―キャトル・ミューティレーションはどうです?牛など
の家畜が、現代の外科手術の技術では
不可能なような技術で、切り裂かれ、
血は一滴も残さず抜き取られていた。
UFOのエイリアンが必ず近くで目撃
されている、という怪事件!
―ふ、ホホ。現在、出来ない外科手術など
というものはないし、あの頃も…一部の
者は“未来的”といえるような技術を持って
おった。血を抜き取る事など簡単な事だし…。
―…一部の者たち、というのは前に話してもらった
S.A.Pの…?ギルモア博士も、そのお一人だった?
―ウ…。それを持ち出しての議論、攻撃はルール違反だ
とは思うが…。まァ、お前さんもイワンと
時空を超えたテレパシイコンタクトをした
お陰で、今や“仲間”だ。身内の思い出話
としてなら話す権利があるわな。
―すみません。実はそれを持ち出したのは
UFOもそうなんですが、未来に実現される
いわゆる先進技術が、そんなものが存在
しない、それ以前に出現して人々を驚かす
という事例がよくあるからなんです。
例えば、飛行船が現われる前の謎の
飛行船。飛行機が現われる以前の謎の
航空機。円盤も色や形を変えな
がら進化しているようにも見える…。
―それだって、集団願望で説明出来るん
じゃないのかね。例えば神の出現の
前には精霊がいたし、神が人から離れて
雲上人となって姿を消すと、妖精になった。
妖精が時代の衣を変えて、エイリアンに
なったのだとしても、ワシは愕かんね。
いわばエイリアンは現代の神で、UFOは
その神聖なる光る乗り物だという事に
なる。人類は何故か原初のムカシから
神を求め続けている、という訳じゃ。
― 一体どんなトラウマなんですかねえ?!
―やれやれ。どうやらワシの方が優勢のよう
じゃな。少しハンディをあげようじゃないか。
では、もしUFOが実在したとしたら
その目的は何だね?
―監視。
―監視?なんで?自ら破滅してしまわない
ように見張ってくれている?何とも
お節介焼きな人だね。宇宙連合?
―かどうかは別にして、それ以外には
考えようがないんです。征服に来ている
にしては時間をかけ過ぎている。
種として絶滅寸前の惑星から新しい混血用の
血を求めて来ているにしてはスケールが小さ過ぎる。否、
あるいは知らぬまに人類の半分位は侵略
されているのかも知れないけど…。でもとにかく
ミサイル基地とか原発とか化学基地
とかの上空によくたむろしているという
が、やっぱり監視なのでは。
―宇宙から来ている、という発想もどんなもんか。
光速やタキオンは使えない。ブラックホールや
ワープ利用だって絵空事。監視や
観光に来るにしては、地球など銀河の
中でも辺境の星に過ぎない。非常に距離が
隔たっていて、エイリアンはやってこれない。
勿論、人間も行けやしない。
人類はひとりぼっち、孤独なんだよ。
だからこそ…。
―夢を見る。神の夢。子宮から外へ出る臨死
体験の夢。目の吊り上がった、そういった
胎児がエイリアンだという夢…。
●アトランティス
―コーヒーを入れてきたぞ。
―ありがとう。
―いやァ、ショウさん。なかなか面白かったけど
上手く噛み合ったとは言えなかったじゃろ。
―ええ、最初から核心に入ったみたい
にテーマが大き過ぎたのかも知れ
ませんねえ。
―次はアトランティスで行こう。これなら手頃
じゃろう。
―そうですか。アトランティスもUFO同様に
茶飲み話の格好の話題になる位に
有名ですからね。かえって一筋縄では
行かないかも知れませんぜ?
―とにかくやってみよう。ええと、アトランティスは
プラトンの「ティマイオス」と「クリティアス」の
二冊の著書に始まってるんだな。語り手
はクリティアスで約7000語。彼はと
いえばソロンという人物が聞いたと
いうし、ソロンはソロンで古代のエジプト
で聞いた…という事だから、伝聞の
伝聞。噂話ってのは倍々ゲームのように
広がってゆくから、どうもアテにならない。
―アトランティスはオーストラリアとかアフリカみたい
な広大な島大陸だったと言われていますが、
その場所もまだ特定されていませんよね。
太平洋のアゾレス諸島付近だ、いやビミニ諸
島付近だ、地中海だ、と様々。南極大陸
アトランティス説まである。これは例のピリ・レイス
の南極が氷漬けになる前…○○○年以上前は
温かで、豊穣な土地があり、文明が栄えて
いた、という説に由来するんですがね。実は
「ティマイオス」の中で神官ソロンが語る
アトランティスが沈んだのは12000年程前
だし、広大な島大陸だったという類似点も面白い。
―ハハ、しかし幾ら地震計などで測定した
からと言って、3000メートルも氷の下じゃ
確かめようが無くて…。
―アトランティスはこんなところであった。地球
的通信網や飛行機などの輸送手段も
持っていた文明国だったが、それよりも何
よりも、そうした物理的力より、精神的
力が、文明推進の基盤になっていたと
いう…。これって“超能力”でしょうね?
そして、その崩壊後、世界に散ってピラミッド
を作ったりインカ帝国を建設したり…。
―ねえ、それ誰が言ったの?
―“眠れる予言者”エドガー・ケイシー。
―ふふっ、だから言ったでしょう。伝言ゲームじゃ
アテにならないと!眠って夢をみながら、その
夢のウワ言を聞かされたって何の役にも立た
ない。マ、もっとも、わが家にもスリーピン
グベイビィ“眠り続ける赤ン坊”の、しかも
スゴイ“超能力”の持ち主らしいのがいる
から、あまり否定もできんがね。
―そういえばアトランティス同様のムー大陸
伝説というのがあるんだけど、こっちは太平
洋で、しかも日本近海も含まれていたって
話も面白くありませんか。ちょうど今、丈が
与那国とか、あっちの方で海底遺跡を
調べていますからね。
―ま、地球は荒ぶる生きている惑星じゃ。
現在でも地震も洪水も噴火も起きて
いる。その災害スケールがちょっと大きくなった
だけで、あるいは日本ぐらいの小さな島国
が海没してしまう事もあるかも知れんな。
これは否定のしようもないキビシー事実じゃて。
ところで久し振りじゃ、丈にちょっとFTV(テレビ電話)
でもしてみようかの。調査の進展具合も知りたいし。
―しましょう、しましょう。
●バミューダ・トライアングル
―いやァ、丈、元気で良かったですね。
―ふむ、調査も順調そうじゃし、なんかとんでも
ないものが見つかりかけてると言っとったから
楽しみじゃな。ところでショウさん。お前さん
とこの丈はどうしてる。
―ハッ、相変わらず、うだつのあがらない役者をやって
ますよ。ちょっとは味のある、なんて評をされるような
中年役者にはなっているようですが…、早いとこ
諦めて、物書きにでもなってくれればいいんで
すがねえ。
―おいショウさん。お前さん年齢(とし)を忘れとるぞ。
お互い幾つだと思ってるんだね。もう爺イとオジさん
だぞ。まったく言った通りじゃ、ピーターパンじゃ。
子離れも親離れも出来とらん!
―はいはい、次へ行きましょう。アトラン
ティス、海底遺跡と来たらやはり、バミュー
ダ・トライアングルでしょう。
―ビミニ諸島に浮上しつつある、というあれか。
―それに今やはりピュンマが潜って調査中
の“海底ピラミッド”があります。この結果も
待ち遠しいんですが…。これは1900年代
に一度発見され、行方不明になっていたんで
すが、最近また発見されまして…。ピュンマは
その探査船に応募して乗ってるんですよ。ピュンマは
人間潜水艇。身体自体がニュートスーツみたいな
ものですからね。
― …。
―あ、ごめん…まだ…やはり気にしてますか?
みんなはもう、とっくに前向きに考えてる
んですけどね。こんな末期的ご時世だから
親がもらった肉体だけじゃ、なかなか生き伸びられ
ない。だから、これをプラス思考で考えればって。
―わかっとる。半分は本気かも知れんが、半分はワシを
慰めてくれる為じゃ。みんな優しい、いい子達じゃ。
それだけにワシは…ワシだけではないが
S.A.Pのやった事が許せない。研究開発費の
出所が国家ではなく企業。それも武器専門の
“死の商人”とわかった時には…もう遅かった。
愕き慌て、後悔し、みんなに密かに真実を
打ち明け、それから密かに計画を立て、ある日
チャンスを掴んで、研究所を根こそぎ“内破”させ
脱出した。
―ギルモア博士、すみません。もういいですから。
―いやショウさん。これは、お前さんに話してる
訳じゃない。時々こうして吐き出さんと、ワシが
堪らんのじゃ。頼む、もうちょっとだけ喋らせて
おいてくれ!
― …。
―ワシらは逃げた…。研究所の爆発は事故
と発表され全員が死んだと思われた。
追跡は無かった。極秘の研究だったから
大っぴらには動けなかったのだろう。
各自がそれぞれ世界中の思い思いの国へ散り、
―故郷に戻った者もいる―ワシは…ジョーと
イワンと一緒に日本へ来て…お前さんの世話に
なることになった。
―世話ったって、こうして一緒に住む事に
なったのは全部001、いやイワンの“お膳立て”
なんですから…。
―フフ、いやワシらもずっと一緒にいてさえ、少しも
気付かなかったから、あの時は驚いたよ。
―突然テレパシイが入って、×月×日×時×分
着、成田空港へ迎えに来い、でしょ!でも
博士とジョーとイワンを抱いたアルヌールを
見た時、直ぐにわかりましたよ。わが目を
疑いましたけどね。マンガにした顔とは
勿論、相当の違いがあったけど、説明を
受ける前に、ああそうなんだ、そうだったんだ
とわかったんです。なにしろ、もう40数年の
長いつきあいだったんです。
―そう、まったく…。イワンに関してはワシも
とても否定派にはなれんでな。まったく
“時空間ジャンプ・テレパシイ”だなんて想像
を正にジャンプしとるもんね。
―それを知った時、実はガックリ来ましてね。
「サイボーグ009」が自分のオリジナル作品
じゃなかったなんて…。才能など無かった
んだってね。まァ時折、こんなアイデア
一体どこから出てくるんだろう。オレって
もしかして天才か、なんて思ったり、
どうもなんか誰かに操られて描かされているような
気がしたりはしてましたがね。まさか、そのアイデア
が未来からやって来てるとは…夢にも思いま
せんでしたよ。
―いやいや、落ち込む必要はなんにもないよ。イワンが
送ったのは単なるヒントだけじゃった。“死の商人”
“戦士用サイボーグ”の開発実験。被実験者の
9人と科学者ひとりの反乱と脱走…。そこ
までじゃった。大体9人には00ナンバーなど
ついておらんかったし、名前も違う。名前は身分
などを隠すのに好都合だし、みんなの過去を忘れ
たいという切ない思いもあって、作者の作ったもの
を敢えて、そのまま使わせてもらってはおるが…。
国籍やイメージは、まァ、イワンが見た通りに送ったの
じゃろうから似てはおるが、その後のストーリーなど
は、まったく存在しなかった。いやはやマンガを
見た時は…驚いたし、面白かったよ。つまりは
イワンは大勢のコミック作家の中から―いやホント
やたら大勢いるね、日本には―ショウさんを
選んだというのは、そういう面白いヒット作品を
描いてくれるだろう、と読んだからだ。
―そして儲けた金で、あんたがたを受け入れる。
こういう別荘を建てさせておく…。
―ま、その、そこまで計算しとったかどうか…。
―いや怒っている訳じゃないんですよ。なにか
とてつもない、遠大な計画の一部に組み込まれて
いる、という思いがありますからね。でも、ここに
着いた途端に眠り始め、目を覚ますのは決まっ
た時間のミルクとオムツの時間だけ。取りつく
暇もない。そしてそのまま、あれから2年…。
二人の老人が眠る赤ちゃんのお守りをしながら
退屈しのぎにオカルト談義なんかしちゃってる。
―まァまァ、そう言わず。この世の中、平和が何よりなん
じゃよ。棲ませてもらっとる世の中、地球そのものが
断末魔の様相を呈して来とるだけに、余計にな。
―断末魔か、そうですねえ。世紀が明けて
華やいだのは、ほんの一時、後はズルズル
あの世紀末ムードが続いてるんですものねえ。
―ああ、あはん…いや話がちょっと横道へそれたよう
じゃな。今はバミューダ・トライアングルを論ずる
時間じゃ。戻ろう戻ろう。
―そうそうバミューダ・トライアングルとは、アメリカ
東海岸沖の大体、三角形の地点の事だ。その
中で多くの航空機や船舶が行方不明になって
おり、その消え方には謎が多い、という事で
有名になったんですね。中でも一躍その名を
高らしめたのはフォート・ローダーデールの海軍
飛行場から演習のために飛び出した
TBMアヴェンジャー5機。海がおかしい、空が見え
ない、何処にいるかわからない、などという謎の交信記
録を残したまま、全機、行方不明になってしまった。
しかも直後に捜索に出たマーティンマリナー号も同様に
して消息を絶った…。で、これにはいろんな原因
説があって―"埋蔵ガス噴出説""磁気異常"
"沈没隕石引力説"等など。で、その中のひとつに
"アトランティス・エネルギー説"というのがある。
アトランティスを動かしていた、なんらかの巨大な力、
エネルギー供出機のようなものが、まだ稼働して
おり、それが船や飛行機を海の中へだか
異次元だかへ引きずり込む。そのなんらかの
奇っ怪な"力"の源がもしかしたら、ピュンマが潜って
調査している"海底ピラミッド"にあるのかも…
という事なんですよ。
―ふうむ。ピュンマからの報告がますます楽しみに
なってきたが…。ピュンマ、あまり無茶をせんと
いいのだが。あの子は時折、生命を大事に
しなくなる…。
●幽霊
―ガラッと雰囲気を変えて、幽霊はどうです。
球電説や脳内幻影説ではない、なにか
他の説明は出来ませんか。
―ショウさん。否定論者に聞かんで欲しいな。
幽霊など存在しないのに説明など出来る
もんか!
―まァまァ、そう言わずに。だって幽霊はUFO
などより更に知名度の高い古典的超常現象
なんですからね。たとえ"幻影"にしろ、見た
遭ったという報告や記録の数は、驚くべき
ものです。私の身近にもいますが、私は残念
ながら―会いたいと思う人が、この世より
あの世に多くなって、期待さえしているのに、
まだその機会には恵まれてませんがね。
―"持続的で個人的なエネルギーの発現など、ある
種の力は死後も残る"これは英国心霊
現象研究協会の創立者フレデリックW・H
マイヤーズの言葉、とあるな。
―怒りも怨みも未練もエネルギーなんでしょうね。
―人間の発現するエネルギーの最大は歓喜
だと思うがね。
―それはダメです。喜びはその場で爆発し
発散し、四散してしまう。後々の時間と
場所に影響を及ぼすにはジックリと
籠らせて、発酵させないといけないんです。
―要するに…ストレスという菌糸をくっつけて腐らせる
という訳か。
―上手い!座布団一枚!
―フエッフエッフエッ…
―そういや、懲りずにシェークスピア役者を目指し
ているコメディアン、ロンドンのグレートも確か
英国心霊現象研究会の会員でしたよね?
―だったかな。まァ、イギリスという国は幽霊噺の
メッカみたいなところじゃでな。スティタスの為には
その位の肩書きが必要なんじゃろうて。
―ダメだ、こりゃ。
―ま、幽霊ってのは、さっきのW.H.マイヤーズの
言葉に尽きるんじゃないの?
―次元移動とか、死後の世界とか、霊魂―重さを
計ったという科学者のハナシ知ってます?―とか
幽霊にはもっと奥深い議論が必要なん
ですがねえ。ま、いいか。それは臨死体験と
か、天国とか地獄とか、そういうテーマの時に
また…。次へ行きましょ。
●超能力
―どうです。これは否定できないでしょう。
―むムう。敵もサル者引っ掻く者ってヤツじゃ。
しかし…否定出来ん訳じゃないぞ!
―ととと、これはまた強気なお言葉!?
―超能力―即ち、思念力(telepathy)
念動力(psychokinesis) 予知(
Precognition) 透視(psychometry)
等々は、イワンのみの特殊な
才能で、他のは証明もされていないの
だから論ずるに値しない。
―ちょ、ちょっと待った。そりゃア、あまりと言えば
あまりにアコギな!強引に過ぎますよ!
ユリ・ゲラーはどうです。ペーター・フルコスは?
―ショウさんこそ待ちなさい。いいかな。
ワシはイワンはサヴァーン症候群の
一種ではないかと思っておる。脳の中で
数を数える代わりに"超"と呼ばざるを
得ない能力が活動している。そう考えれば
確かに不思議は不思議だがナットクはいく。
ショウさんだってイワンは、ロシアの民話
(イワンの馬鹿)から付けた名じゃろ?
空中浮遊や体外離脱、瞬間移動等々
はみな、そのバリエーションの組合せで出来て
しまう。若きショウさんに送った、あの時間と
空間を越える思念も、そのひとつだった
んじゃよ、きっと!
―そ、それにしたって、イワンだけの特殊な能力
にしてしまったんじゃ、一般的な超能力の解
説になりませんよ。だから例えばユリ・ゲラー
のスプーン曲げとか…。
―あれはマジシャンにも十分出来たじゃろ?
―TVの向うの全国の茶の間に思念を送って
故障の時計などを直させたってのは?
―それこそ集団無意識じゃ。ユングじゃ。
みんなで祈れば願いが叶う…。
―私の友人につのだじろうというオカルト
の絶対的信奉者がいるんです。当然、
スプーン曲げを信じている。それを聞いて
よく赤塚がからかってた。オレは東京タワー
を曲げたら信じるぞって…。
じゃ、ペーター・フルコスという"超能力
探偵"は?所持品から行方不明の人を探し
たり、犯人をつきとめたり…。
―幽霊じゃよ、幽霊。霊媒体質という者が
おって、よく幽霊を見るなどという
話を聞くが、物体に残されたその"者"
の、いわゆる"残留思念"というやつを
その男は感じとれる力があるんじゃろう。
そう―サイコメトリー。
―だったら、それだって"超"能力でしょうか!?
―違うんじゃよ、それが!ムカシならごくごく
当り前の能力だった。誰もが持っているな。
それが無ければ生き延びられなかった
んじゃよ。現在でも、すぐれたハンター
や、森の住人たちの中には、足跡など
見なくとも、気配で今ここをナニナニ
が通った。向うの岩陰からナニナニが
狙っていると"察知"出来るそうじゃ。
そう"察知能力"じゃ。相手が今ナニ
を言いたいのか"察知"する。
言葉なんぞ交わさなくとも―言葉が
存在しない時代もあったしの―
通い合う。これはもうテレパシイと
同じじゃろうが!え?!
―まァ…。現在の"超"能力は古代人に
は普通の能力、という説は、よくある
んだけど…。
―そーゆー事。愚かにも内部にあった自ら
の能力を代行する道具を、人間は作って
しまった。それで失ってしまった。う…む、
うむ…。
―どうかしました?
―うむ、これはどうも、ちょっと言いにくいんじゃが
ワシらは…また、人間自身の体内に能力を
戻そうと、あるいは更に強化しようと、改造
人間作りに挑んだ訳じゃ、愚かにも!!
―ギルモア博士…あの、それイワンもですか?!
―うむ。脳はワシの専門では無かったから
はっきりは言えんが、訊いたところによると―
ソイツは嬉しそうに答えてくれたっけ―古代より
遺伝子に埋め込まれた生命記憶にまで
迫ってみたよ、だと。おそらく脳の中でも最も
原初的な部分でもいじったんだろうとは思うが…。
―それが大成功?
―うむ。いや、ワシはそうは思っとらん。イワンは
元々、特別なサヴァーン症候群の赤ン坊で
この"超能力"は類を見ないイワンだけの
もの…。
―あーあ、頑固なんだから。やれやれ結局クラーク
説に戻るのか…。
あ、イワンが泣いてる。夢中になってミルクの
時間を忘れてた。今度は私が行きますよ。
―うう、ああ…いや待て。ワシも一緒に行くよ。
●雪男(イエティ)
―UMA(謎の未確認動物)という言葉は
私の知人の一人である南山宏氏の造語だが
…本人は、世界に通用していないと後に
引っ込めてしまったけど…雪男もこの中に
入ります。主にヒマラヤなど高山に棲む多毛の
巨人。ネアンデルタールとかペキネンシスとか
古代人類の生き残り、という説もあり、同種
のUMAは中国では"野人"、北米では
ビッグフット、カナダではサスクワッチ等と
呼ばれています。足跡その他、写真など
証拠らしき物は若干あるが捕獲された
事はありません。と・まァ、こういう所で
ドーゾ。
―ンなもの"超常現象"でも何でもないわ。
人間は絶滅生物を増やし続けておるが、
それでも地球はまだ広い。その証拠として
深海からは毎年のように新種の"生き物"
が発見されている。高山や密林に、まだ
見つかっていない―UMAね―生物がいたと
しても、おかしくはないでな。
―ところが、やはり"超常現象"なんですよ。
追いつめられると、ふっと消えてしまうとか
近くにUFOが飛んでいる事例が多いとか
妙な噂がついている。
―UFOの乗員?もしくはエイリアンのペット
説、というやつだな。
―UMAは他にもいます。西ヴァージニアに
現われた"蛾人間(モスマン)"、名前通りに蛾のような
羽を持っていて飛び回る。つい最近、写真が
インチキと判明してガッカリさせられたネッシー
等の"水棲怪獣"類もまたUMA…。
―50メートルの大イカ、100メートルの大ウナギ
がいたとしても驚かんね。条件さえ整えば
それくらいまで育ち得る。"蛾人間"?幻影
じゃよ、幻影。
―ズルイよ、それじゃ…。
―だってショウさん。"蛾人間"はUFOから出て
くると言われているんだろう?UFOそのもの
が"未確認"なのに、また"未確認"。0に0を
たしても1にはならんよ。幻影、幻影、幻影。
●ノアの箱船
―おいおい、また"超常現象"じゃないテーマ
じゃないか。洪水伝説がらみじゃろ。
洪水はあったじゃろうね。例えば、天候
のバランスがちょっと狂って大雨が続けば
洪水になる。たまたま隕石が1個、海にでも
落ちれば、タライの水が溢れるように水が
浸水し陸を覆う。気温が1.2度上昇し
氷河が溶けてもそうなるし、地球はコマ
のようなバランスで回転しとる訳だから
"地軸転移"なんて事も起り得る。これは
ショウさん"超常現象"じゃないよ。単な
る"自然現象"…。そうなれば当然、大洪水。
氷で出来ている彗星の尾に入っても。あるい
はベリコフスキーという男の説のように
宇宙を漂う水を含んだガスの雲に突入し、
大雨となった、なんてのもある。ま、じゃから
洪水は度々起ったと考えていい。で…
―ちょっとギルモア博士。一人だけで司会進
行しないで下さいよ。議論にしないと。
―まァまァ、どうせここまで話したんだから
続けさせてチョーダイ。洪水はあった。
ノアという男もいたかも知れん。
世界中の動物のつがいを乗せられる巨大な
箱船は―本当に作って乗せたとすれば、それ
こそ本当の"超常現象"になると思うが―
大いに疑問だが、まァ何組かの家畜のペア
は乗せていたろう。それでアララット山。大洪水
なんだから山の中腹に着船したとしても少しの
不思議もない。発見した、されたと騒がれて
いる船型の木片がノアのかどうかは関係
なく、洪水を乗り切って、そこに着いた船があった
と考えるのは、それ程奇異な事じゃあるまいね。
―あーあ、とうとう一人で終らせちゃった。
●フィラデルフィア実験(エクスペリメント)
―へへ。これなら"超常現象"として扱える
でしょ?
―ふむ。
―1943年10月。アメリカ海軍は、ヴァージニア
州フィラデルフィア海軍工廠において、駆逐艦
エルドリッジを"透明化"した。見えない駆逐
艦実験だった。が、思わぬ"副作用"があった
という。エルドリッジ号はノーフォークへ
テレポートされ、また戻ってきた!ジャーン。
―そんなにハシャグ問題(テーマ)でもないぞ。大体
この話のもとは〈噂〉じゃろうが。噂を
まともに論じ合うなど愚の骨頂…では
あるが、これの本当の論点はテレポーテーション
空間−次元移動だろう。
実を言うと、例のアインシュタインも含めて
現代の量子物理学者の多くは、行き詰った答え
が存在するのは、この三次元世界じゃ
なく、四次元をも越えた五次元の
中にこそある、と信じている。
そこにはきっと全てを解決して
くれる"魔法"も"善も悪"も"天国と地獄"
もあると思っとるんじゃろうさ。
まァ、彼等に敬意を表して、仮にでもその
次元を認めたとすれば、テレポーテーション
(瞬間移動)やアポート(物体転移)などは
素直に説明がつけられる。
―つまり、ここでは肯定派という事ですな?
―言ったろうが!噂話に結論など糠に釘だ。
たく、しかも次の瞬間には10にも20にも話が
膨らんじまっている〈噂〉こそ次元移動自在の
モンスターじゃて!
●ポルターガイスト
―これは結局また、クラークのブレーン説に
加点させる事になりそうでイヤだったんだけど
でも結構有名な"超常現象"ですからねえ。
―家の中の大小の物体が動き回り
現われたり消えたり、時には肉体を傷つけ
たりする。ドイツ語で"騒々しい幽霊"と
いう意味なんで"騒霊"と呼ばれている。
この現象の起きる家には必ずといって
いい程、思春期の娘や息子がいる…。
こんなところかな?
―ええ。で…研究者によって、ある程度の
結論が出ているんですよね、もう。思春期
特有のストレスのような煮詰まった精神状態が無意識
のうちにエネルギーを解放して
物体引き寄せやら、念動力による瞬間移動を
やってしまう。つまりはこれもまた、人間の
脳が持っている神秘的力が…
―待った待った。そう簡単に降参してはいかんよ。
ポルターガイストの中のアポート現象だけを例に
とってみれば、思春期の子供がいなくても
起っている事例もある。大人だけの家に金貨やら
石ころなどが降ったり…
―データーには無くとも、よく調べてみれば
近所に子供がいたりして。
―たく。どっちが肯定論者じゃよ!サイババの
信仰書にあるぞ。集まっている群集に
群集分の"食物"を空中から取り出した。
ハッ、ユリ・ゲラーよりスゴイ!もっとも
これはキリストの挿話などと同様の宗教
的プロパガンダに過ぎんじゃろうがね。
マ、科学も魔法も、技術も奇跡も行きつく
ところでは区別がつかんようになるのかも
知れんねえ。
― 一体ナニが云いたいんです!?
●臨死体験
―脳内酸素の欠乏による幻覚症状。それに
民族や宗教による差はあるが、"見る"光景"が
似通っている事だから、死の恐怖を和らげる
ための遺伝子の防御本能。脳内無意識
同様遺伝子レベルの偽りの"生命記憶"にも
そういうエネルギーが備わっているのかもね。
―…生命が切れかかると、先ず空中への浮遊現象
が起ります。ふわふわと天井に上り、死にかけて
いる自分の身体、生命と戦っている医者や看護
婦を見ます。後に―生還した後に、その時の
会話や動作を正確に話す、といいます。
―と、これはマジに論じたい、という訳ね。
なら答えるが、人間の身体は、個体差はある
ものの、他が死にかけてても聴覚や神経の一部
は、やや暫くは生きておる…
―でも視点は上からなんですよ!それに
病室を出て、その病室からは絶対に見えな
い筈の場所で見てきた物も、後に当てた。
―うむ。"体外離脱"は、イワンなら"常"能力
だから、普通の人間にもそうした最後
には、火事場のバカ力のように、出来るよう
になるのかもな…
―ということは博士!離脱する"魂"の
存在を認めるんですね!
―バ、バカ言え!魂じゃない。意識だよ
意識!
―あのネ、死の瞬間、魂が肉体の外に抜け出すと
考えて、魂の重さを測った科学者も
実際にいるんですけどね。装置とか方法、魂
の重さなど、詳しいデーターの書いてある
本、見つからなくて、持ってこれなかった
けど…。
―ナンセンス!
―抜け出した魂は、暗い渦状のトンネルに入る。
この間に走馬灯のように自分の一生を見る者
もいる。進んで行くと光が見え始める。
出口だ!その光はとても明るく輝いている
のだが、目には優しい。眩しくない。
そして、その向うには小川が流れていたり、お花
畑があったりして、向うには人影。死んだお爺
さんや、お婆ちゃん…。肉親の出迎えのない者
には、そよ風のように、マリア様のような、あるいは
キリストのような"光の天使"が付き添ってくれる。
―おいおい。お前さん仏教徒だろ?
―観世音菩薩、如来様でもヨロシイ。
思わず行きかける。すると後方から、自分の
名を呼ぶ声が…!ハッとなると急速な
リバースで、死にかけていた肉体へ、病室
へ戻る。
―…。
―全快後、これらの"臨死体験者"達は
自分の性格が変化している事に気付く。先ず
死は怖いものではなくなった。他人に優
しく接する。ボランティア活動などをする
ようになる。芸術や知識の吸収に情熱を
傾ける。生きる事に、より積極的になる。
―ふん。死にかけたんだ。そのショックで
どこかの神経がプッツンし優しくなる。
つまり、人間を前進させている闘争心や
欲望を生み出していた神経、そして
無意識の意識が、いずれはあっちへ行か
なきゃならないから、今のうちにこっちで
楽しんでおこうと、生きる事に精を出し
始める。
―ふーっ、たく夢が無いんだから。
でもね博士、とにかく"臨死体験"
とは"死後の世界"への入口訪問と
仮定―キライだろうけど―したら、
死後の世界は存在する、という事になる。
それに、体験者の約3分の2ぐらい
の人は極楽浄土ではなく、恐ろしい
地獄を見て戻ってくる。となると
天国と地獄の問題も浮上してくるん
ですがね。
―地獄じゃ?ヘン。打ち所が悪かった
か、体調がおかしかった、飲み過ぎた
かしたんだろうよ。いいかね。側頭
葉の一部を刺激すると、体外離脱
同様な感覚を得られる。幻覚剤を
使っても"臨死体験"そっくりのイメージに
浸れる、という実験データーもある。肉体の
危険に反応して"脳内麻薬"が放出される
のさ。でなければ酸欠などによって脳が
機能障害を起した。それが答じゃよ。
●火星の人面岩
―よしなさいよ。一度やった。
―でも、どうもあのエジプトのファラオみたい
な、あの顔が気になって。長さ1600メートル
高さ460メートルという馬鹿デカさはなんなん
だと思うけど…。
―NASAの探査機が送信してきた、もう一枚
の写真、知らないかね?"MR.スマイル"ピース
マークそっくりのニコニコ顔がクレーターの
中に形成されている。フォボスとディモスの
2つの衛星騒ぎもそうだった。その奇妙な
軌道と軽い質量。スワ、知的生命の人工衛星
に違いないと言われたが、なアに、ただジャガ
イモみたいにいびつで、中が中空らしいとの
事だった。
火星は何十億年かの太古には確かに
水も大気もあったかも知れないが
現在は、鉄のカタマリ、マントル、岩層
からなる完全に死んでる世界なんだ。人面岩は
シャッターチャンスの時、丁度、光と影が
やらかしたいたずら。ピラミッド群はたまたま
集合した岩山のふきだまり。
〈自然は超自然を越える〉と言ったじゃろ。
それが冷たい現実。神秘など入れる余地
はない。
―そ、そ、その…じゃあ。ジョナサン・スイ
フトの「ガリヴァー旅行記」にある
ディモスとフォボスの描写は?天体望遠
鏡など無かった時代に、全然なにも
知られていなかった時代に、動きや
重さの描写まで近似値だったんで
すゾ!!
―聞いた事がないかね。地球の裏側と
表側で見知らぬ他人同志が、ある日
ほぼ同時刻、ある同じアイデアが閃い
て発表…なんて事がよくある。偶然だ
よ偶然。偶然に当たったんだ。
―へーっ冷徹な科学者が偶然に頼るように
なっちゃ世も末だなア!
―し、知らんかショウさん。カオス理論
とかバタフライ効果とか。偶然は今やリッパ
な理論として研究されとるんじゃぞ!!
―あのねえ〈アックス・メーカー〉ってのを知って
ます?石斧なんかを最初に作ったヒトの事。
そのヒトたちが、その技術を自分達だけで
ずーっと隠し持っていて、やがてそれを権力に
変えていった。時代と共に蓄積し続ける知識
と共に、その存在も隠すようになり、地球
人類の歴史を左右する"影の集団"として…
―わハハハ、そんな…。"人類管理秘密教
団"やら"古代の英知"やらを持ち出す
必要はないよ。当時、既にいりいろと天文学
的データーは出揃っていたんだ。
スイフトはそういう学者の何人かとも友人
だったからね。その情報を大いに活用
したんだと思うよ。
―グウ…。
●ツングース・ミステリー
―1908年6月30日午前…。中央シベリア
ツングース地方で謎の大爆発。衝撃波
は世界中を駆け巡り、半径70k、4万本の
木々がなぎ倒された。が、妙な事に…
1.隕石の落下…隕石の破片がどこからも
見つからず?しかも爆発は空中で起ったのだった。
2.宇宙船の着陸失敗…核爆発?機体を
跡形もなく消滅させるような推進用
エネルギーなどあるのだろうか?
3.ブラック・ホールまたは反物質…他の
解釈も幾分なりと、ご都合主義であるが、
この説はその最たるものだ。無いとはいえないが…
4.彗星の衝突…これも便利に使われ
過ぎるが、彗星の本体は大部分が氷と
わかってみると、その後痕跡が残って
いない(溶けてしまった!)事の説明がつく。
問題は、その航跡、いや軌跡だった。
スピードを変えた、から、方向を転換した、など
意志を感じさせる目撃談が多かったのだ。
SF作家アレクサンドル・カザンツェフ(ソ連)
が"地球外生命宇宙船"説を唱えたのは
そんな所が理由だろう…と。
―どうやら"超常現象"ネタも種切れのよう
じゃなァ。これは恐らく、巨大な氷の塊が
墜ちてきて、着地寸前、空気圧と熱に耐え
かねて大爆発、が真相じゃよ。この日本
の百倍もありそうなシベリアのツンドラ
森林地帯だよ。しかもそこには日本のマイナス
1000倍ぐらいの人しか棲んでいない。となれば
ショウさん。"目撃談"など当てになると
思うかね?100kmぐらい離れてて、アッチ
から飛んできた、ソッチへ行った、とバラバラ
の証言を聞いてみな。スピードを変え、方向転換
をし、宙返りしたっておかしくない。
―しかしなァ、この宇宙船説は捨て難いなァ。
もし宇宙船だったら人類と宇宙人のファースト
コンタクトになったかも知れないのに。
―孤独。絶対の孤独だ。この宇宙の距離
はただの距離ではない。死と同じなんじゃ。
生命体がいそうな惑星を持つ一番近い恒星まで
光速で飛んでいっても何十年、何百年とかかる。
やっと行き着いたとしても、いるとは
限らない。地球はさまざまな僥倖と
偶然と運に見舞われて、豊かな生命が
育めた。そんな幸運な惑星が、この
広大無辺の宇宙の中、他に幾つあるやら…。
だからこそ―UFO神話のようなもの
が生まれるんだ。
意識の奥に、ワレワレは、ひとりぼっち
なんだという恐怖にも似た孤独感が
あるからこそ。
―孤独、か…。
●吸血鬼
―ビョーキ。
―それだけ?せめてもう一言。
―ヒル、コウモリetc。吸血が食餌に
なっている生物は結構いる。
人間もスッポンの血を呑んだり蝮の血を
呑んだり…古代には倒した敵の、つまり人間の
血を呑んでいたかも知れないし、現代にも
その習慣を守っている原始的な生活をしている
種族が残っているかも知れない。
吸血鬼に噛まれた者も吸血鬼になるという
設定は伝染性ウィルスによる、と
診断できるかも知れん。光と十字架と
ニンニクがキライというのは背徳感を
強調するための"設定"だろう。
何度も言うようにフィクションにマジな
理屈はつけられない。おわり!
●人狼
―やれやれ、段々とセコクなるなァ。
満月を見て狼男に変身する…か。
擬態。色を変える…。"変身"する生物は
沢山いる。サナギがチョウになるなどといった
昆虫達の"変身"は、大変身と言える。
それにこっちにはグレートがいるし…
改造強化による、とは言っても変身その
ものの仕組みはシンプルじゃ。
細胞の配列を変えてやればいい。
生物達の"形態"を決めているのは
その細胞の並び方だ。並び変えれば、形が
変わる。変わる引き金になる刺激が必要だ。
狼男は満月の光で。変身はゆるやかだ。
別の表現をすれば危険なほど遅過ぎる。
変身して逃げよう、なんて時には間に合わない。
そこへいくとグレートは知っての通り、
意志…というよりはイマジネーションの
力で瞬時に変われる。
もう少し詳しく言うと、この意志…イマジネーション
はグレートの脳内にあるだけじゃなく、
身体全体の"変身"細胞にもあって、ツーカー
に反応する。そう、細胞は個々に生きて意志
を持っているんじゃ!
―そこんとこがアタシにゃ、よくわからん!
ミクロコンピューターとかインテリ・ウィルスとか
イマジネーション・シンパ細胞とか…
―科学は魔法と同じ、じゃよ。ひとムカシ
前の人ならテレビも魔法に見えたろう。
今はチャンネルを言えば、壁にプログラム
が現われる。その仕組みを知っている人など
何人もいないはずじゃろ。
―で、なんで狸男や熊男じゃなくて狼なの?
―熊や狸じゃ、月に吠えてもサマにならんじゃろうが。
満月の光度が、丁度スイッチオンを促すトリガー
なんじゃろ。そしてイメージが稼働し身体に元々
備わっていた狼配列になる。
●神 (第二部のプロローグに)
―ギルモア博士、最後に"超常現象"の中の
(あるいは、ただひとつだけの)"超常現象"
神さまについて話しましょうや。
―ふむ、神か。しかし神は果して"超常
現象"なのかね?"超常現象"を含めた
この世界の森羅万象を取りしきっている
存在なんじゃ…?
―そ・その存在そのものを論ずるんですよ。
"神は不在だ"、"神は死んだ"などと
流行語のように言われていますが、果して
元々、神さまという存在がいたのかどうか、
―この地球に、あるいは宇宙の何処かに"神"
なる肉体…あるいは精神が、存在するのかしない
のかは別にして、人類が〈神〉という概念
を持ったのは、かなり後になるじゃろうね。
しかし恐らく、感情が芽生え、知性―と
まではいかなくとも、考える、と言う事を覚え
始めた…誕生して間もない頃から、そうした
"存在"を、畏れという形で感じていたには
違いない。…獲物がとれる。怪我をする。
生れる。死ぬ。自分の意志以外の事をなにかが
決めてやってくれている。そうした畏怖の潜在
的意識が、やがてはその存在に〈神〉という
名前を与える事になる。
―でもそれじゃ、いるかどうかわからない。
"神"は宇宙人だ。自分の似姿で人間を
創ったというのは…類人猿に遺伝子介入
かなんかして進化させたのだ。ミッシング
リンクがあるのは、その為だ。…という
方が、ずっとわかり易いですよ。
そういやクラークの「2001年宇宙の旅」も
そういう連想を促すようなハナシだったっけ。
遠く何処とも知れぬ深淵から、惑星の、生命
体の、人類の進化を見守っている存在として…。
―いやいや、そういうシンプルな考えでは、なかなか
神には近づけんよ。そんな一筋縄でゆくような
存在じゃあない。もう少し順序立てて考察
していったら、あるいは結論に達せられるかも
知れん。…そうは思えんか。
―なんですか初めから、心細い!
―アボリジニやアメリカインディアン、アイヌ
などは太古から、万物にはみな精霊が
宿っていると考えていた。だから獣や魚を
食材として殺すと必ず、その精霊を神の
元にお返しする儀式を執り行った。
つまりじゃ、精霊とは神の子、あるいは神
の魂の一部と考えていた訳だ。
―神の存在を信じていた!
―エジプト人は、神は天におはす、と、死後は
そこへ行きたがった。生きている時にも
なるべく、お傍に近づきたい、とピラミッドなどを
作り、その中に"天空まで翔べる船"を
入れたりした。イスラエル人は、やがて神の使徒となる
キリストで神の存在を明確にしたし、十戒を作って
おのれを誡めたり、聖書をつくり、「死海写本」(20世紀
最大の発見と言われた)などを書き、神の
御業を讃えたりした。そしてギリシャ人も・・・
―ノンフィクションを書いた。実在する神々
を主人公にしたドラマ、「ギリシャ神話」。
―ノンフィクション?
―へへ、だって"神話"の神々は個性
豊かに描かれているでしょうが。怒りっぽ
かったり、嫉妬深かったり、人間の美女
に出会うとデレーッとなったり…
とにかくリアリティがある。傍で観察
でもしていなきゃ、なかなか書けるもんじゃ
ありません。ホメロスの「イリアス」とか
「オデッセイア」だって真実の記録かも…
シュリーマンがトロイを発見したのだって
その有力な証拠だ。
―〈神〉はやがて地域によって異なる
スポークスマンを…
神の託宣を伝える使途を用意…。キリスト、
マホメット、ブッダ…。その"代表"を中心に
信者が集い、"宗教"になった。どの宗教も恐らく
同じ神を崇めているのだろうが、しかしどの宗教
からも、その真の正体は、唯一神か多神なのかも
含め、類推するしか出来ない!
―だからそれは、ノンフィクションの「ギリシャ神話」
なんかから、わかるんですよ。神さまは、やたら
めたら大勢いるんです。つまり、ある「種族」
なんですよ。聖書なんかにもGODと単数では
書いていない。GODS―複数なんです。
―…ショウさんの言うとおり、神は決して万能、万善
じゃない。ミスをしたり、怒りに任せて災害を
起したり、時には犠牲を求めたりする。残酷
さも持っておる。それは神が人間的なのか、
人間がそうしたキャラクターまで神に譲られた
結果なのか。まだそれだけでは神の存在証明
のリアリティとなるかどうかはわからない。
―やれやれ、やはりどうやら理論派ギルモア博士
にして、結論が出ないようですねえ。
私はまァ、イメージから人間が生み出した
にしろ、ユング的無意識のトラウマにしろ、
宇宙の何処かにいるにしろ、これだけ
人類の遺伝子に刷り込まれてしまっている
という事は、やはり実在していた証拠
なんじゃないかと思うんですけどね。
― ……。
●憑依
―エドガー・ケイシーは睡眠中に医者の指示の
治療法を喋った。目覚めた本人は覚えて
いなかった。エクソシストという悪魔払い師
がいる。本来牧師だが、民間にも呪術師の
巫女のような"お祓い"をしてくれる人々がいる。
それから、"自動書記"・・・。死んでいる画家や文豪や
作曲家が取り憑いて、平凡な男、あるいは女に
そっくりの絵を描かせ、文章を書かせ、作曲を
させる、というのがあります。変性意識とも
表現される。
死後の世界の証明とまでは言いませんが、
何かこう―別の世界の存在を証明しては
いませんかねぇ、ギルモア博士。
―それこそショウさん、クラーク脳説が全て
説明してくれる。カッコイイ映画を見て、ヒーロー
ヒロインになったつもりで映画館を出てくる者
が何人いる事か!悪魔に取り憑かれたと思いこん
でしまう者もいる。聖痕などというのも典型
的例だ。人間は影響を受け易い。
暗示に弱い。そして予想を遥かに越えると
推察される膨大な記憶力の"巣"。
自動書記は、一度何処かでチラリとでも
見て、その巣に転がっていた記憶があたかも
技術のごとくに出現するんじゃな。
―なんだか簡単過ぎて、やになるなぁ。
●オーラ、エクトプラズム
―オーラとは、この世のあらゆる物体(生物・
無生物も)をシールドのように包むエネル
ギー、あるいは星気(アストラル)と言われている。
―キルリアン写真の、あの発光と違うんじゃな。
―あれは導電場。測定可能で、オーラのような
エネルギーじゃないと言われていますが。
―全ての物を包む"気"か。地球そのものが
有機生命体ガイア説もあるな。
―ええ、それ。"霊能者"が見れば病気の人のオーラ、
健康な人のオーラの違いがわかると言いますね。
森のオーラを見て、この木は枯れるとわかったり、
海のオーラを見て大漁を当てたり、どうも
霊能者にだけ、というのがね…。
―未測定の自然現象でいいんじゃないのかね。
―エクトプラズムはいいですかね。現在じゃ殆んど
インチキだったという結論が出ていますが…
しかし一応どんな説明が付けられていたのか
読んでみますよ"基本的には目に見えないが
気体、液体、固体の形態をとる事が出来る。
毛穴などから滲み出し、蛍光を放ち、僅かな
異臭を放つ"。へへ、やっぱりヘンですよね。
…と、こんな事も書いてありますよ。"殆んどは
インチキ霊媒師たちの商売用カラクリだが、ある
厳しい監視の中で検証され、説明不能の
結果が出た事もある…。
―ま、その監視というのも、検証できる程度のモノ
だったかどうか。相手にせんどこう。次。
●オーパーツ
―その属する時代や場所に存在しなかった筈の
科学技術、文化、知識の産物。時間と場所が
合わない遺物だが。
―古生代の地層に三葉虫を踏んずけた
アディダスの靴跡が残っていた、あれか?
確かに、そら合わんなァ。
―博士、これは冗談ナシでやりましょうよ。ケース
によってはタイムスリップもかかわってくるんです。
―ハハ、悪い。しかしなァ、ショウさん。これは伝聞
やエンターティメントな研究書で騒いどるだけの
事象じゃろうが。物を揃え、証言を揃え、
機器を使って検証した、というモノがない。
―そんな事はありません。炭素年代測定器
とかで現に地質学者とか考古学者が調べてい
ますよ。もっとも頭をひねるだけで、答は
出ませんでしたが。
―例えば?
―ネアンデルタール人の頭蓋骨に開けられた
銃の弾痕。
―雪男やビッグフットが、その生き残りだ、という説
があると言ったじゃないか。銃を持った者
と時間を同じくしても、これなら不思議は無い
じゃろう…?
―グヤジー! じゃ、これは?
インカの黄金遺物の中に、現代の航空
機そっくりのヒコーキのミニチュアがあった。
―シンクロニシティ、偶然の産物さ。
鳥を作ろうとしたら、未来に出現する飛行
物体に似てしまった。もっとも、飛行機の
方が鳥を真似て形を決めたのだがね。
―だからそうじゃないんですって。その黄金
ヒコーキにはちゃんと垂直尾翼も立って
いて、航空力学の専門家が計測した
結果、このまま実物大のヒコーキを作って
も、ちゃんと飛べるだろうって…。
―自然界には、尾翼を立てる鳥など
幾らでもいるし、土台、古代人の壁画など
を見てもわかるが、描線にデフォルメが
大きいもんじゃて。それに航空力学を無視
したら鳥は空を飛べんようになる。
―クーッ、ああ言えばこーゆー!
●タイム・スリップ
―今世紀初頭、シャーロット・モバリーとエリナ・
ジョーデンという二人のご婦人が、ヴェル
サイユ宮殿の庭園に建つプチ・トリアノンを
訪ねた時、17世紀とおぼしき光景を
目撃した。著書もあり、かなり信憑性が高い
として有名なタイム・スリップ事件…です。
他にも19世紀初頭の服装をしている観客しか
いない劇場へ迷い込んだ。後に、その劇場
へ通じるドアを探したが遂に見つからず
仕舞い…。
―デ・ジャヴュというのがあるね…既視感。
一度も訪れた事のない場所、あるいは体験
した事など無い筈の場面に出会って、どうも
何故か前に来た事があるような、知ってる
シーンのような、そんな気がする事だ。
これなど正にクラークの"脳内秘密"説で
説明できる。"側頭葉機能不全"でも
"過剰作動"でも何でもいいが、ちょっと
した脳の、たちくらみ状態ともいえる。
そう、脳は時にその持主に、見たいと
思う物―幻影を見せるという事さ。
そんなモノ見たいなんて思っていなかった
と言い張るなら、ユングの無意識や
潜在意識の底の底に沈殿して、
普段は浮上する事のない古い古い記憶
―生れ変りのハナシなどを思い出す
ことじゃね。
―最近でも、こんなハナシがあるんですよ。
現代のセスナと第一次世界大戦直後ぐらい
の複葉機が衝突寸前にすれ違った。
後に「航空博物館」を訪れたセスナの
パイロットは、展示されていた複葉機に
その"時"の傷があるのを見つけた。
―よく出来たフィクションじゃな。
若い頃「夏への扉」という誰かのタイム
マシンSFを…
―ロバート・A・ハインライン。それは私も
青春時代に読んで感動したもんです。
―そう、用心しなきゃならんのはその
感動じゃ。時間にはロマンチックな
香りがある。過去には取り戻せないという
切なさの加わったノスタルジィ。未来には
なにがあるかわからないという未知と希望。
―そういや、ジャック・フィニーの時間モノ
はロマンチックでしたなあ。「ふりだしに
戻る」とか。
―曲者なんじゃよ、時間は。だからアイン
シュタインやホーキンズといったインテリ
たちでさえ、その魅力の虜囚となって、の
めり込む。"超常現象"も同じじゃ。
コナン・ドイルなどは時代の影響も
あるが、現在のコリン・ウィルソンの
ような男まで、夢中で取り憑かれておる。
要するに一筋縄ではいかん妖しい魅力
がある、という事じゃ。
―そういやカール・セーガン博士なんかは
"超常現象"―つまり似非科学と戦って
いた一人でしたね。
●人間
―さて"超常現象"について、いろいろ
話してきたんですが、そう言われる"現象"が
結局は、わからずじまいのまま、おしまいに―
―ショウさんもじれったいね。
結論は出とるじゃろうが。この宇宙に
人間が不思議と思う"現象"はまだまだ山ほど
ある。しかし、それはまだわかっていない
だけの話だ。それまでが"超"常現象
であり、わかってしまったら"常"現象に
なる。それが結論じゃろうが。
―ふーっ、私が幼い頃の故郷の空は、
天の川が―銀河の細かい枝肢まで見えた。
その空一杯の星の海をじっと見ていると、
驚くほどの数の流星が縦横に翔んで
消える。神秘を感じたなァ。宇宙人は
必ずいる。そのうち必ず地球にやって来て
会える。でなければこちらから行って―
人間の宇宙旅行もまもなく出来ると思っ
ていた。横井福次郎という漫画家の
「ふしぎな国のプッチャー」なんて火星探検の
SF漫画があったりして…。で、やがて、何百光年
何千光年という広大な距離に思いを馳せ、ワープ
とかブラックホールの前に、少年は次第に"テツガク"
的になって、"存在"の有無を考えるようになった。
宇宙には、人智や法則を越えた、この世の森羅
万象を統治する"存在"がいるに違いない。
それはもう"宇宙人"などという軽いネー
ミングではよべない、そう"神"としか
よびようがない存在…。
その神も、人間の脳の、想像力の
産物だったなんて事になってしまったら
一体、どうしたものやら…この世界、この
宇宙には、それじゃ人間しか存在しないのか。
人類は本当にひとりぼっちなのか。
―絶対の孤独の中で、善と悪をもて
あそび、光と影を追って、自己満足の
井の中の蛙。お山の大将を演じている
だけだとしたら…。
―ふふふ。話下手を自称するショウさんが
そんな長い独白をするとはな。そんな
具合に、人間が一番の謎なんじゃよ。次々と
新しい面が出て来て、わからないことだらけ。
ずっとテーマになっている"脳"ひとつだけ
とってみても、地球の深海と、この宇宙を
合わせたくらいの神秘のヴェールに包まれ
ている。そう、実は眠るイワンを見ていると
つくづくそう感じるんじゃよ。人間の存在
そのものこそ"超常現象"なのではあるま
いかと…。
オワリ
・第三種接近遭遇(エイリアン)と臨死体験
「胎児の世界」
・物語入り
・他の遭遇 バーストラウマ 生と死の瞬間
胎児―出生 トラウマ説―幻覚
水子―堕胎―捨てられた→再生 成長を止めて
人間―大人になる…失われる能力
以前の能力を保持 SEX
女性の深層心理を絡めた
カール・ユング説 ハイブリッド
永久凍土→メタンガスの気泡
→古代動植物―のCO2
産業革命−急激に増加
××変る恐れあり―
CO2=21世紀は に
・入れ子細工戦法
アックス ハンマー 鉄槌
スラックス 脚の線―黒い
アンコールワット ナーガ(蛇神)
ビシュヌ神 ヒンズー教
・援助交際―小4 いつも金をもらえるし
・地下鉄サリン
・俺を見て笑った―飛び蹴り
・スタンガンで1日10万円が目標
・内臓が見たいと殺す
・エンターティメント化したニュース番組
が諸悪の根源。温暖化も行政改革も
クソもミソも一緒くた。そして誰も真剣に
考えなくなった。
汎神論 神は宇宙の一部
四次元から―三次元地球へ ・この言葉は使われない
・地球になだれこんだ―恐怖
・しかもサイコばかり
・精神病棟
合言葉・三次元(地球)には干渉するな!
・医者はコンピューター ロボット
・レストランシアターのみがボーッと建っている
外は、ひどい濃霧のみ
ラビ・牧師・僧
光の子編 闇の子編
光でも闇でもないトワイライトタイム
(プリスティス) 薔薇
イメージソース=自然
幽霊劇場(ゴーストシアター)―ホラー
Or四次元劇場
(story)
・大劇場でシェークスピア芝居に出たいと憧れている
グレート・ブリテン(シェークスピアの引用が得意)だが、
現実はキビシク、場末の小さなレストランシアターで"顔真似芸"
で生計を立てている。変身技術を利用している
のだが、そのあまりの早業、そっくりサンに人気は上々、
暮し振りは悪くない。英国心霊研究協会の会員なんか
にもなっちゃっている。ロンドンはなにしろ幽霊のメッカ
なのである。チャールズ・チャップリン、エリザベス女王、
ローレンス・オリヴィエ、コーンパイプのポパイ、
人気者のバーチャルアイドル、ニンジャ、
ネアンデルタール人etc…今日も舞台を終え―協会に。
情報交換盛ん。どうやら街のそちこちに幽霊が出没して
いるらしい。そこで2.3か所、見物に行く事にする。
なるほど、いた。女を殺す男。次の…しかしこれは、やばい
殺人現場。マシンガンを撃ちまくる…若いが、ヤク中?
弾が飛んでくる!? そして―次に。塔から飛び降りて
バクハツ→死体の山に―どういう事だろう?
ヘレン・メリルのような中年の歌手。上品な色気。友人(?)惚れている。
歌を聴きながら食事…。
突然、メリル・胸に短剣・倒れる。"何のパフォーマンス?!"
沈黙の間があって悲鳴…バンドから出る。慌てて駆け上がる
グレート→死んでる。血だらけ―スコットランドヤードが
かけつける。犯人にされそうになる。
逃げようとする。―煉獄次元(四次元)…
・片想いだった そーいえばアイツは××シアターで妙な芸を
花などを贈ってた ↑客席から短剣を投げた、などと言い出すやつもいる。
大混乱のレストランシアター。
―マジシャン? さて、ふと気付くとグレート一人だけ。
・退屈しのぎに三次元の地球に向って幻影照写
それが幽霊→もっとも地球(三次元)の犯罪を盗撮
バーチャルにしたものだが
・アヤフヤでモーローとした世界―イメージの混乱は
変身も思うに任せない。
場面は死者と 入り混じって 殺される恐怖
・劇場の中だけで話は進む。 途中エイリアンが出てきたりするが(看守)
・劇場ではなくセラピーのための病院だった。
流刑の惑星
サイコ―五次元からきた金星の男…太陽系は生命の惑星
向うの地球で思いっきり殺人 四次元煉獄の異常者
三次元への脱出を試みている。
・幽霊芝居(ホラー)
・幽霊になってしまうグレート あやふやなままだと、あやふやなモノに変身
―イメージで変身 混じり合う
変わる事の 哀しみ 危険 恐怖 おかしさ
薄明の世界―中途半端な次元に?まる
・シェークスピア芝居をする幽霊たち
煉獄 悪意の神々―神の正体 ばれないよう
天国と地獄
・逃げられるか ・その方法は?→意外な方法を
汚染が循環する―地球全体を回る
中国、ロシア、アジア―タイ・インド
アジアから酸性雨 工業地帯が ―日本の森を枯らす
・日本は吹きだまり
二酸化硫素 SO2―9割減 が、経費がかかる 1台900億円
空中鬼
2010〜20
・土壌劣化―世界規模で破壊が続く
・緑がなくなっていく―時間はない
―地球が危ない!!
10代―殺人
環境に優しい車
・ハイブリッドカー 太陽電池カー
・ナビゲーカー 自動道路
・地球温暖化防止
・シベリア凍土異変
・永久凍土(15%)
温暖化―時限爆弾
1961年―オタマジャクシ 神が伝えた技術
・バイオクローン―無限の人間複製計画は可能
・超バイオ産業
・gene(遺伝子)
・産み分け可能 受精卵
造血管細胞 クリオハンター ・宗教団体
死後の世界 2004年 カッシーニ
・ポルターガイスト
・臨死体験
・ツングース隕石
人類以外はいない→孤独
・スピーシーズ(種)
サイボーグ009 神々との闘い 前・闇の章 後・光の章
1.会話A(作者とギルモア)オカルト論
2.アマゾンのジャングルをゆくジェロニモ
エコロジイ 新しい遺跡の発見
3.会話B
4.ニューヨークのジェット・リンク(世紀末超過激新宗教集団とのハードな戦い)
5.会話C
6.張々湖(チベット紀行→密教と超能力)
7.会話
8.004と妖精の国(アウトバーン)
9.会話
10.008→海底ピラミッド探検
11.会話
12.グレート・ブリテン
13.会話
14.009と003―日本の神々
15.会話
後・闇の章―神々との闘い開始
1.会話
2.001→“力”の注入
3.会話
4.
5.会話
6.
7.会話
8.
9.会話
10.
11.会話
12.
13.会話
14.神々の正体
15.大団円(真相の解明)驚くべき真実の歴史
・やさしい町
・都市―つきない
・青年時代 トキワ荘近辺 ぬくもりがあった頃
・幼少から高校時代まで住んでいた 幻想の町
鮮烈に
四季の記憶
・仲間とひとつ屋根の下で
町は優しかった
謝意(前書きふうに)
00ナンバーと知り合ってから、もう数年
になる。私が彼らの“冒険”を描いていた<
偶然>から、接触して来たのである。
「ボクの名前は島村ジョーです。ボクと仲
間の話を是非聞いて欲しいんですが……」
全てはこの一本の電話から始まった。そし
て今、その結果がここにある。
1
「超常現象を考えてみるか」
ギルモア博士が突然に言った。鼻にはかか
っているが、良く響く大きな声だ。
「え?」と私。「……超常現象、と言いま
した?」
「そうだ。いわゆるこの……」指が膝の上
の本をポッポッと叩く。日本語を勉強するた
めに、と読んでいる私の本棚の本だ。その手
の本ならけっこう置いてある。「……要する
に、この星で起きておる超常と呼ばれる現象
を、科学的に解明する事こそ、未来を開くカ
ギのような気がするでな」。目は天井を睨ん
でいる。冗談じゃないのかも。
「へ、へへ……」
“ン”と、目が天井から降りて、私に向く。
「なにがおかしい?」左の白い眉が釣り上が
る。
「だって、博士もいよいよトシか、と思っ
て……」
「いよいよじゃなく、とっくにトシだ。72
歳。それがどうした」こりゃマジだ。
「って……。もっともそんな事を言ったら
私なんざ、ずーっと若い頃からトシだったっ
て事になりますけどね」博士より11歳、私
の方がトシ下だ。「――インテリが晩年にな
ってオカルトに興味を持つようになるのは、
精神の老化現象以外のなにものでもない、と
言われてるんですよ。簡単に言やボケ始めた
って事ですか……。例えば、知性の、と言う
か、科学者と言うか、代表みたいなあのア
インシュタインも、エドガー・アラン・ポー
もコナン・ドイルも……」
“ふン”ギルモア博士の鼻が揺れて、目玉
がギロリと回転した。
「もうひとつの見方もあるぞ。知性が円熟
すると、やっとそれが見えてくる。そう、視
点の問題なんだよ。オカルティズムや超常現
象もまた同じ事さ。頭から妄想、錯覚、そん
な事はあり得ない、と思ってのぞんだらそう
見えてくるし、答はまだ出ていないが現象そ
のものはあるんだと思ってしまったら、ある
意味ではなんの不思議もなくなってしまう」
なるほど、こりゃあ本当にマジらしい。
「UFOはただ単に、まだわかっていない
だけの飛行物体、てな具合ですね」
「さよう、ただ……」またペタペタと指が
本を弾く。「――鉱山に埋まっていた化石化
した木の洞から出て来て、その後28時間生き
ていたカエル、なんていう事実は、あの昆虫
たちの擬態と同様のただの生物学的脅威に過
ぎないのかどうかをだ、見究めにゃならんと
いう事だ」
「確かに。擬態とか、全身でも躯の半分で
も自在に“光通信”がやれてしまうモンゴー
イカとか、もうそれ自体“神秘”としか言い
様がない訳だが、神秘と脅威は少々違います
ものね」
「その神秘にちゃんと説明がつけられたな
ら脅威に変えられる。それが本来の科学とい
うものだろうて」
「しかし、アーサー・C・クラークなんか、
幽霊もポルターガイストも、数学の天才も前
世からの生れかわりも、なんでもかんでも脳、
脳の持っているらしい不思議な潜在能力、仕
業のせいにしてしまっている。どうもなんだ
か強引過ぎるようだし、味気ない」
「クラークの説、ウィルソンの説、セーガ
ンの説。いろいろあっていいさ。それらも一
緒にひっくるめて検証しながら、二人で論じ
てみるのさ。どうもなにか、結論がみつかり
そうな予感が……」
「予知、ですかな?」
冗談っぽく切り返したつもりだったのだが
この時何故か、私は背筋がゾクリとした。鳥
肌。例の、皮膚の下から毛穴を押し上げられ
る感覚。そしてそれは(後にわかったのだが)
正に“予感”だったのだ。
その時、隣室のイワンが呼んだ。眠っては
いるのだが、ミルクの時間なのだ。そう、こ
こでは既に、テレパシイは証明されていた。
ギルモア博士が立ち上り、用意をしに行っ
た。私も立った。
(精神の老化した、暇をもて余している
トシヨリが二人で、オカルト論争を、ね)
窓の外は雨だった。雨の中に、橋に串刺し
になった江ノ島が見えた。
浜辺に人影は無く、冬を迎えようとする海
は不機嫌そうに黒ずんでいた。
「予知が現象となるのは、ヒトの脳の隠れ
た働きのせいか、あるいは霊魂のせいか、は
たまた時間のねじれのせいか…はこれから解
明していくのだが、わかっている事はひとつ
ある」
驚いた事に、博士は真面目に応じてきた。
「予見や予測は、過去に於ては神秘であり
奇跡であり、妄想だったものもある。細胞や
原子、電子レベルまでいじって新しい“生命”
を造り出す、などとという考えもそうだ。と
ころが、今では現実になってしまっている。
遺伝子操作で神の領域と考えられていたとこ
ろまで入り込んでしまっておる」
神の領域!そうだ、神の存在という問題も
大きい。
「神が、人間を造ったのか、人間が、神を
想像(つくっ)たのか……」
二 魔天楼の底 A
二 魔天楼の底
@依頼人
探偵と言ったって、俺クラスのところに
は、殺人やら銃撃戦やら、複雑怪奇なトリッ
クやら遺産相続、それに色気が溢るような美
女、なンてのはやって来ない。精々失せ物か、
よくて人探し、それも夫婦喧嘩家出の片割れ
とか、ただただ遊び回っていたいだけの自堕
落な非行少年とか、そういう連中ばかりが相
手だ。
ニューヨークには結構、探偵を"稼業(な
りわい)"、生活(たつき)の道にしている者
が多いのだが、つまりはそうしたチンケな事
例(ケース)は、探偵の胃袋に飢えない程度
のパン屑を送り込める程、日常茶飯、多いっ
て事だ。そしてこっそり、ムービーランドの
潜り込み、脚を投げ出し、ポプコーンで、冬
眠前の公園のハトみたいに頬を膨らませ、ヘ
ッ、阿呆らし、なんて言いながら、ハードボ
イルド・ミステリーものなんかをカンゲキし
て観ちゃったりしてる訳だ。酒とか、今じゃ
ヤク並みに後めたいケムになっちまってる煙
草と同じ、ストレス解消だな。要するに――、
ニューヨークに探偵は多いが、10人中9人
が俺クラス、てえ事なのさ。
今日のもそうだった。人探し。但し、珍ら
しく美女が付いていた。
パサパサのドーナツを、泥水みたいなコー
ヒーで流し込みながら(遅い昼食代りだ)、
出しても出してもナシのツブテの一件に、半
ば自虐的な、何枚目かの請求書を(ちゃんと
依頼通りに探してやったのに!!)書いている
時だった。ノック――。
「おゥ」
いつも退屈しのぎにやってくる近所のガキ
共、と思い、いつも通りの返事をしたが、ド
アの開く音も、床の軋む音も、賑やかで甲高
い声の流行(はやり)のスラングも聞こえて
こない。目を上げた。
美女はそこにいた。驚いた。ドアはそっと
開けたのだろう。それだけでも、少なくとも
アバズレじゃなさそうだ。わからないが、女
は。
「ジェットさん?のオフィス?」
?を2つ使って、区切った喋り方で、小首
を傾けた。声も、天使のよう、なんて言わな
いが、悪かァない。
「ええ、俺がジェットで、ご覧の通りこれ
がオフィス……」
角々が禿チョロケた事務用机がひとつ。旧
型の電話とメモ用紙などがその上に散らばり、
椅子が2つ。自分用と客用。壁に古いモノク
ロ映画の「マルタの鷹」のポスター(のコピ
ー)が張ってあるが――、ただそれだけ。そ
う、とてもオフィスなんて呼べる代物じゃな
い。知ってるヤツが持っている倉庫の一隅を
借りているだけだ。
美女は(本当は部屋に明りは無い。廊下の
方が明るく逆光だった)まだドアを開けたま
まだった。探偵として値踏みでもしているの
か、突然レイプ魔に変身しかねない男なのか
と迷っているのか。まァ、その心配は分らな
いでもない。殺人、強盗、暴力沙汰、幼児虐
待など等と同様、レイプも珍らしくない日常
茶飯事なのだ。
美女が支えている右手(蛇のブレスレット)
のちょっと上に、ピンでカードが張って(斜
めになっちまっているが)ある。
detective
office.Jet
へへへ、このオフィスと俺の"格"に合わ
せて、全部小文字の手書きだ。俺の控え目で
謙虚な性格がわかってもらえるってもんじゃ
ないの。それにしても冗談はともかく
このオフィスに依頼人がやってくる、なん
てのは珍らしい事だった。大概の仕事は外で
拾う。人伝ての噂を頼りに訪ねて売り込む(
弁護士ドモをハイエナなんて嘲笑えないな)
とか、知人のまた知人の紹介で、とか、非道
い時には(自分でもつくづく、そう思う)事
後承諾という場合もある。その辺で悪振って
ウダウダしている女の子や男の子をひっつか
まえて、家へ連れて帰るのだ。どうせ直ぐま
た飛び出すし、連れ帰られた家の方も無感動
無関心―鼻もひっかけちゃくれないが、それ
でも10に1ツぐらいははずみで、メシの種
になったりする。手間さえ惜しまなければ、
そんな 種(ネタ)はより取り見取り、わん
さか街路を彷徨(うろつ)いていると、いう
訳だ。
ギッ、とドアが鳴って、やっと美女の入
場。品定めが済んだらしい。
目で顎で、机の前の椅子を指差し、「どう
ぞ」と声を掛ける。スーパーマンとまではい
かなくても、優しく逞しい、頼りになる若い
私立探偵――らしい声に聞えてくれればいい
が。
「人を探して欲しいんです。弟です」
美女は(まァ、良く見ても美人の方だ)腰
を降すと直ぐに、急いた口調で言った。早く
済ませて帰りたい、とでも言うように。
なんだよ。また不良ガキの家出かよ。わざ
わざオフィスまでお出まし願う程の依頼じゃ
ねえよ。俺は黙っていた。ちょっぴりがっか
りしたのもあるが。こっちが喋べった分、向
うサンの喋べる分が少なくなる。つまり依頼
者の話は全て"情報"になる、という事だ。
「弟で……。名前はマイケル。マイケル・
ライト。26歳です」
おいおい。お姉ちゃんそれじゃ、あんたは
何歳なんだよ。とてもそうは見えないが。そ
れにこれはどうやら、不良ガキの家出でもな
さそうだ。で?
下を向いて、ギュッと握った膝の上のバッ
グを睨んで黙っている。よせよ。俺のテクニ
ックを真似るなよ。それとも、行方不明の弟
を想い出しているのか。話の入口を何処にし
ようか、と考えているのか。黙っている。し
ゃあねえ。誘い水を入れて……
「突然いなくなったんです。一週間前です。
姉弟二人だけなんです。心配で……心配で」
美女がまた突然、急くように話し出す。そ
れでいいんだよ。メモ用紙を引き寄せて、ボ
―ルペンを持つ。と、また話が途切れる。
「……弟さんの名は、マイケル・ライト。
で、ええ……」いつまでも"美女"じゃ不便
だ。
「あ、私はエルシー……」エルシー・ライ
ト。年齢まで言うか、と思ったが言わなかっ
た。ま、30を越してるって事は無いだろう。
関係はないが……。「俺は、ジェット。ジェ
ット・リンク。よろしく」ちょっと腰を上げ
て右手を差し出す。美女、いやエルシーも慌
てたように腰を浮かし、机越しに「よろしく」
の握手。また椅子に戻って、沈み、沈黙。ミ
スったかな。このささやかなアクションと触
れ合いが、話の方もついでに動かす、と思っ
たんだが、無口で口下手な客には、有効なテ
クニックの筈なのに。よろしい。それじゃ戦
術転換だ。が、それにしても一体、なにを躊
躇ってる?姉弟二人だけの、仲の良い弟がい
なくなったんじゃないのか。早いとこ事情と
手掛りを喋って、一刻も早く探しに出て欲し
いとは思わないのか。
「あの……。いか程なのでしょうか?費用
……」
なんだ、そうか。それが気になっていたの
か。俺も最近まともな探偵をやっていないか
ら、勘が鈍った。殆んどの依頼者が先ずこれ
を訊きたがるものだ。余程のお金持ちで無い
限り。で、これでこの美女、エルシーがリッ
チじゃない事はわかった。やれやれ。俺は相
場を言った。安価くはない。ガソリン代(何
しろ人探しは歩き回る距離が勝負のようなと
ころがある)、袖の下(お巡りを始め、今時、
ただで答えてくれるような殊勝な奴などいや
しない)、それに一人を探し始めたらカケモ
チでもう一人なんて事は出来ない。その時間
代でもある。一番デカイのは、危険手当だ。
たかが人探し、なんて言葉は今や死語だ。姿
を消した人間を探すには、消し易そうな場所
に行くのが早道だ。そんな場所は大抵、胡散
臭くて危険(ヤバイ)。たかがとナメてかか
って、あの世に逝っちまった仲間が何人もい
る。エトセトラ、エトセトラ。ホント、だか
ら相場、なのだ。
「あの……、いいでしょうか。一週間分で?」
この女の喋り方には、妙な癖がある。
「取り敢えずは……」
ホッとしたように、バッグを開ける。チラ
リと拳銃が見える。まァこれは"生活必需品"
だ。また急ぐ。ボウッとしたりセカセカした
り緩急の激しい女だ。声を掛ける。
「ライトさん、その前に、もう少し詳しく
事情を――」
「事情も何も、無いんです。あの……、エ
ルシーでいいです」やっぱりヘンだ。「デザ
イン会社に勤めているんですが、弟は、仕事
は順調で……。才能があると思うんです、と
ても。恋人もおりましたし……。姿を消す理
由なんて何もありませんでした。誰かに怨み
を買うなんて事も考えられないし。ええ、と
ても明るく素直で、誰にでも愛されるような
性格だったんです」それは珍重に値する性格
だ。今時。ジェームズ・スチュアートやフラ
ンク・キャプラの時代じゃないんだから。小
切手を出す。
「……警察へは?」数字を書いてサインを
する。「参りました。でも……」
わかる。どうせいい加減な対応をされたに
決まってる。子供じゃない。好きな時に好き
な場所に自由に行ける立派な大人だ。ストレ
ス社会だ。そんな気になっても責められやし
ない。恋人以外の女と、どっかにシケ込んで
いるのかも知れない。犯罪は増加の一途。警
察は慢性の人手不足症候群。マ、死体でも発
見かったらその時に動きますよ。そうなのだ。
警察を動かせるのは、動かなくなった死体な
のだ。
エルシー・ライトは、一週間分の"調査料"
を払い、弟マイケル(まアまアハンサムだ)
の写真を渡した。これまた今時珍しい、ちょ
っとピンボケの"写真"。この女、少し前の
時代からタイムスリップでもしてきたようだ。
「お願いします。どうぞよろしく」と言って
連絡先を教え帰って行った。入口まで見送
り、階段へ消えてから(ここは二階だ)、斜
めの表札を真っ直ぐにした。ジェット。ジェ
ット・リンク。俺は結構、この名前が気に入
っている。大ムカシのなんとか言うミュージ
カル映画に出てくるワルのグループ名が「ジ
ェット団」だったんで付けたのサ、と作者が
言ってたが、ワルってのがいい。正義の味方
の名じゃ照れ臭くて、もうとっくに別の名前
に変えていた。
真っ直ぐにした表札は、収まりが悪かった。
もう一度斜めに戻して、サテ、どこから手を
つけようか、と考えながら部屋に戻った。
街を彷徨こうと思ったら、それなりの準備
がいる。
A探す男
ある学校の教室で。教師がマシンガンをぶ
っ放し、クラスの生徒を全滅させた。騒いで
ばかりで講義を聞かないので黙らせた、のだ
と言う。
最初から期待はしていなかったが、写真で
での尋き歩きは、当然のように成果ゼロだっ
た。この街は底無しに広いし(面積だけの事
ではない)、住人は他人に無関心で、自分の
事を考えているだけで精一杯なのだ。
廃屋の裏の空地で、少年が一人で遊んでい
る。ポツンと立っているバスケット・ボード
にボールがグシャリと当って、赤い飛沫を散
らした。髪の毛を剃り落とされた女の子の、
切られた頭部だった。ボールの代りにしたら
面白いだろうな、と思いついたのが、犯行の
動機だった。普通の、いわゆる中流の、家庭
の8歳だった。凶悪犯罪の低年齢化も驀進中
だった。
そちこちの警察に、一人二人づつ友人(袖
の下をまけてもらえる程度の)がいる。彼ら
にはマイケルに関係のありそうな情報はなに
も、入っていなかった。
公立のモルグも覗いた。気休めにだ。係員
は面倒がった。わかる。死体がテンコ盛りで、
いちいち顔を(身元さえ)確認する、などと
いう事は不可能に近かった。
このアプローチも空振りだった。やはり当
然の如くに……。
ユニオン・スクエア・ストリート。人が多
勢歩いている。男・女・老人・若者・黒人・
白人・黄色人・ホモ・レズビアン・役者の卵・
ダンサー・モデル・ストリートガール・ポン
引き・ギャング・スポーツマン・病人・ホー
ムレス……。この街は人種の坩堝だった。
東から長髪で小肥りの男が、のんびりと歩
いてくる。西から短髪でミニスカート、耳に
も鼻にも首にも腕にも足首にも、光り物をゴ
チャゴチャガチャガチャとくっつけて、同じ
ような賑やかな音を立てながら、のんびり、
とは言えないが、堂々とは言えるかも知れな
い歩き方で、歩いてきた。人混みの中でこの
男と女が出会う確率は、そんなに高いもので
はなかった。が、出遭った。
すれ違いざまに、パンパンパンパンパンパ
ン。乾いた、弾じけるような音が六回した。
男が膝から、ゆっくりと倒れた。腹や胸
あたりの路面にジワリとなめるように赤い
血が広がった。乱れた長髪の間からキョト
ンと見開かれた片目が見えたが、間が抜け
て、表情が無かった。
女の持つ銀色のデリンジャーXから、薄
く硝煙が出ていた。それを真っ赤な、形の
よい唇に近づけると、フッと吹いた。持っ
ていた小さなポシェットから取り出したの
だが、勿論、ポシェットにはそれだけしか
入っていなかった。
「アタイ、こーゆータイプの男。一番キラ
イなのよ」
流れが中断し、周りを取り囲む人の輪が出
きていたが、女のセリフに誰も応えなかった
し、悲鳴も上がらなかった。少しは驚いてい
たかも知れなかったが、それだけだった。倒
れて死んでいる男など見慣れた"風景"だっ
たのである。
赤毛の(染めたと直ぐにわかる)短髪の女
は、ポシェットにデリンジャーXを仕舞うと、
また急ぐでもなく、そう、堂々とも言える歩
き方で、崩れた輪から外へ出て、何事もなか
ったように流れ出した人混みの中へ、消えた。
警察が駆けつけて見つけたのは、間の抜け
たキョトン目の、小肥り男の血の絨毯の上に
転がった死体だけだった。
ブルックリンの隅にあるブラック・ボック
スというデザイン会社に行った。同僚たちの
大概は丁寧に応対してくれた。が、役に立つ
情報が丁寧さに比例するものでもない。
いい奴。腕も立つ。将来有望だった。
ただ、ひとつだけ気になる褒め言葉があっ
た。性格が穏やかで皆に好かれたのは、信心
のせいだと思うね。
信心?クリスチャンだったのですか?
いや、そう言えば……。教会へ行ったとい
う話は聞いてないが。
それでは、マイケルは、どんな宗教を、あ
るいはなにを、信じていたんです?仏教?マ
ホメット教?ヒンズー教?それとも……。
あ、待って下さい。そう言えばこう言った
んですよ。僕は〈神〉を信じている。だから
いつも心穏やかでいられるんです。
思わずズッコケてしまいそうになる〈答〉
だった。これでは〈答〉とも言えやしない。
でも、何故か、その〈答〉は頭の隅にひっ
ついて、忘れられなくなった。
ガソリンが8分程入ったポリバケツを下げ
て、男が一人、コンビニにやって来た。直ぐ
に床や商品棚にバシャリバシャリとかけ始め
る。驚き慌てた店員が、護身用のライフルで
男を撃った。
ボン。
男の身体が火を吹いた。ガソリンを浴びて
来ていたのだ。炎が床を走って、細々とした
商品と商品棚が燃え上り、忽ち店中に広がっ
た。逃げ遅れて店員も焼け死んだ。
カリカリに焦げ崩れた男の身元は、遂にわ
からず仕舞いだった。勿論、目的も、だ。
恋人に会った。
悲しみ(まだ行方不明、だ)を押えて、呆
然としていた。
思い当る事はなにも無い。何が何だかわか
らない。嘘を言ってるとは思わない。
マイケルは、なにかの〈神〉を信じていた
お陰で、心平穏だった、と言っていたそうで
すが、一体なんの宗教の〈神〉だったんでし
ょう?
恋人がプッ、と吹いた。それから泣き笑い
の顔になった。
神を信じていた、ですって?!まさか。ののし
っているのなら聞いた事があるけど。
ののしっていた?!
航空機事故で、一度に何百人も死んだ、と
いうニュースを観た時よ。糞ったれ!ヤツは
世界最悪のサディストだぜ。信じさせ。愛さ
せておいて、残酷に殺すんだ!って。
訊かなきゃよかった。これじゃ増々なにが
なんだかわからなくなる。
12歳の少女が、手斧で両親の頭をかち割り、
倒れた身体に何度も何度もその刃をめり込ま
せた。挙句、首と両手脚をバラバラに切断。
帰宅した姉も、背後から忍び寄り、同様に
殺害した。
翌朝、用事で訪れた隣人が発見(TVで、
ピースサインを出しながら、ニコニコ愛想笑
いをしながら"解説"していた。今は誰も彼
もコメンテイターなのだ)、警官が駆けつけ
た。
少女は、自分の寝室で眠っていた。血は既
に洗い流され、少し大きめの絹のネグリジェ
(姉のか、母のだろうか?)にくるまれて、
幸せそうだった。
警官にはなかなか信じられなかったが、後
に残された、現場の血の足跡と、無造作に脱
ぎ捨てられた洋服が、少女の犯行だ、と語っ
ていた。
そうよ、と少女は、ちょっとすまし、ちょ
っと得意気に、言った。パパもママも、アタ
シのしたいという事を何ひとつさせてくれな
かったし、お姉ちゃんは意地悪ばっかし……。
そうよ。だから殺してやった。
8歳の少年に無期懲役の判決が下った。三
人の友達を面白がって殺した。
ニューヨークでも評判の斬新なホテルが丸
ごと爆破された。21世紀に変った記念に建て
られたものだったが、計算して仕掛けられたテ
ロ爆弾による破壊だった。7500人が死んだ。
20世紀は「ひどい世紀」という評価で幕を
閉じたが、21世紀もさらに「ひどい世紀」に
なりそうな予兆を孕んで幕開けし、その通り
になりつつあった。
CO2は減らず、オゾンホールは増々ほこ
ろびを広げ、皮膚ガンを増やしていた。中国
は自暴自棄になったのか、数で世界を制覇し
ようという"方針"に変えたのか、とっくに
一人っ子政策は止めていたし、アメリカ
はアメリカで、政府は企業に牛耳られ、相も
変らず、二酸化炭素を大気中に垂れ流し続け、
追いつけ追い越せで、金の魅力を知った低開
発国は、森林を伐採―燃やし続け、大地から
緑を削り続けていた。その森林減少は人類の
歴史が発生して以来、3分の2以上の減少な
のだ、と言う。エルニーニョ現象は恒常的に
なって、洪水やハリケーンや竜巻が、思わぬ
時、思わぬ場所で起った。南極と北極の氷が
溶けて、南の環礁はもう半ば沈み、住民たち
は移転を余儀なくされた。絶滅動物の種と数
のリストは、第二次世界大戦中のアーリント
ン公園墓地の十字架のように、日ごと月ごと
年ごとに増えて、誰も余り何も感じなくなり
始めていた。動物どころでは無かったのだ。
人間自身が死にかけていた。世界の各地で、
民族戦争やら宗教戦争が、絶え間なく続き、
地下鉄や高層ビル、公共集会所、輸送手段な
どがテロの犠牲で血まみれになっていた。携
帯用原爆が、どこかの大都市で、いつ爆発し
てもおかしくなかった。
しかし人々は、案外平気な顔で暮していた。
諦めている者もいただろうが、大部分は無関
心、だった。他人など存在しない、と思う事
で平静を保っていたのかも知れない。だから
平気で、人を殺すのだ。そんなやつは存在し
ない。ユングではないが、人類の集団無意識
が、レミングのように、絶壁へ追い立ててい
るのかも知れない。知らぬ間に破滅の坂を転
がり落ちているのかも知れない。
人間は変質しつつあった。情や思考などと
いった能力は2011年の現代では人間の生存
に邪魔になりこそすれ、無用の長物に成り下
がりつつあるような気がした。
B死体(ボディ)
事務所に戻ると"留守電"に、エルシーか
らの連絡が入っていた。液晶画面の中で、エ
ルシーが泣き喚いていた。
弟が!マイケルが!!死んだ!!死んでみつか
った。来て。直ぐに来て……!
猟師の網にかかって引き上げられたものだ
という。一週間前、行方不明になったその日
に死んで(殺されて?)いたのだろう。
モルグ(民間だった)の検死室。ここもま
た死体が山積みだった。ベッドを確保出来た
死体は幸福なのだ。
そのひとつのベッドの傍で、エルシーが泣
いていた。液晶画面よりは落着いていたが、
目は真っ赤に腫れていた。
シーツをめくった。腐敗と破損が非道く、
人相は良くわからないが、髪の色は写真とよ
く似ていた。服のポケットから出て来た所持
品はマイケルの物だったし、今調べてもらっ
たばかりの血液型も同じ(ここでやってくれ
るのは精々そのくらいまでだ。なにしろ滅茶
苦茶に忙しいし、費用だって節約しないとい
けない(民間だから)。
「弟よ。マイケルよ。ほら、この耳の後の
ホクロ!小さい頃から良くからかってた……」
エルシーが涙声で囁やいて、それできまり
だった。
俺は、エルシーの肩をそっと抱いて慰めと
お悔みの言葉をかけながら、何かもうひとつ
釈然としないものを感じていた。
ピンボケ写真に、同じようなピンボケ死体。
〈神〉を信じている。〈神〉を罵っている。
それに誰が何故海に運んで……?!
「自殺の可能性はないかね?4630」
検死官たちは、フルネームより、死体番号の
方が記憶し易いらしい。
「無いね」と、頭蓋を電動ノコギリで開け
ながら、その若禿の検死官がニベもなく答え
た。「心臓を鋭利な刃物でグサリ一突き。ま
ァ、即死だな」
それからニューヨーク港か、何処かの港か、
海に運ばれて捨てられた。波に揉まれ、身体
のそちこちを岩礁に叩きつけられ、魚に食わ
れ、エルニーニョの温い海水で忽ち腐敗し、
カジキの代りに、おぞましい土左衛門が哀れ
な漁師の網にかかった、という訳だ。
ま、一件落着という所だろうな。そう一度
納得させようとしたが、なにかが執拗にチ・
ガ・ウと叫んでいた。バンシーのように叫ん
でいた。探偵などにならなきゃ良かった。何
でも疑ってかかる癖が付いちまった。いや、
違うな。人を疑うようになったのは、あの拉
致されて、改造されて、ムカシの俺ではなく
別の異形の者にされてしまった、あの時から
なのだ。
C地下
尾けられている事に気付いたのは、エルシ
ーを送って行く車―ライト・シェビー(ポン
コツだが"愛車"なんだ)の中だった。いろ
いろと手続きを済ませ、帰途についた時は、
街灯にくまなく光が入っていた。後方の確認
が習慣になっている(これも後天的悪癖のひ
とつ)俺の目はバックミラーに、何度も同じ
黒塗りの車をとらえていたのだ。
窓外をボンヤリと眺め、哀しみに沈むエル
シーを怖がらせたくは無かったから、黙った
まま捲きを試みた。俺の愛車はよく走る。小
型車なのに大型車並みの心臓を積んでいるか
ら、速いし、身軽に小回りも効く。が、敵の
ドライバーはしたたかだった。スピードを上
げても下げても、曲ってもUターンしても、
距離は常に一定を保っていた。
何者だ?!この殺人に関係が?!弟のマイケル
を殺したのだとすれば、姉のエルシーをも狙
っている?理由は何だ?しかし、今何故?!実
力は知らないにしろ、私立探偵のはしくれが
ボディガードめいた事をやっている今、何故?!
そんなリスクを犯してまで襲ってくる動機は
何だ?!本当に襲ってくるつもりなのか?!威嚇
か?警告だけなのか?!いや、この執拗さは、
はっきり目的がある。ただの脅しじゃない。
黒塗りは相変らず、ピタリとくっついて後
に尾いている。これでは埒があかない。
賭けに出る事にした。それにはエルシーが
邪魔だった。
急回転した。火花と煙。車体の痙攣。
「今だ!降りろ!!急げ!!」
この頃にはエルシーも尾行に気付いていた。
素早く反応した。ドアを開け、外に飛び出し
ドアを閉め、走り出す。緩急自在の女だと言
ったろう。
黒塗りが真正面からどんどん迫っていた。
今度はこっちに合わせてスピンしたり、止ま
ったりするつもりは無いらしい。じゃ、どう
しようってんだ?!
俺は思いっきりアクセルを踏み込んだ。愛
車はピョンと飛躍をするように尻を一振りす
ると、突然全速力で突っ走り出した。黒塗り
がぐんぐん大きくなる。今のところ、ハンド
ルを切るような意志は見えない。
チキンレースでもやるつもりかよ。
突っ込む。迫る。激突寸前、お互いが僅か
ずつ逸れ合った。車体に産毛が生えていたら
こすれ合っていた事だろう。が、
黒塗りはそのままスピードを落さず、薄暗
い露路に真っ直ぐに突っ込んで行った。エル
シーが逃げて行った、と思しき路だ。
しまった!やっぱり連中の狙いはエルシー
だったのか!マイケル共々始末しようとして
いるんだ!
またスピンした。追った。朱い尾灯がスー
ッと接近する。止まってる。5メーター程の
間隔を置いて。愛車を止めて、目を凝らす。
黒塗りの社内は、見えない。蒸気や排ガスが
燃え尽きて昇天する魂のように立ち昇る。そ
の向うに、霧に包まれたようにボンヤリとし
た街灯の灯がポツンとひとつ……。静かだ。
スチャッ……。俺は銃を構えて、愛車の外へ。
ふっ、と一瞬裸にされたような心細さに襲わ
れる。物音は?…しない。
クツー……ン。僅かな、くぐもった音がし
た。上からじゃない。横からでもない。周囲
は丈の高い茫々の雑草と瓦礫の山。虚ろな黒
い単眼を見開いて、建ったまま死んでいるア
パート群。半壊したコンクリートの防壁が、
だらだらと斜めに下へ……。下へ?!暗がりに
更に黒々と、やはり半分以上を瓦礫で塞がれ
て、トンネルの入口らしいものが見える。
カラン、カラカラ……。
音は地の下から聞えて来たのだ。エルシー
は本当にこの中に逃げ込んだのだろうか。今
の音は黒塗りの男(達?)が、小石にでも蹴
躓いて立てた音なのだろうか。瓦礫を上って、
中へ入る。真っ暗だ。ウオッチ・ライトが点
る。足元で周囲2、3メートルが、微かに明
るくなるが、これじゃ下手すると、かえって
標的になっちまう。アルヌールをふっと想い
出す。彼女なら猫のように、暗闇でも平気だ
ろう。
カツーン。カンカンカン……
甲高い音がした。近い。走り出す。
ひーッ。あれは、悲鳴か?!誰の?!走る。走
る。人の気配だ!ウオッチ・ライトをその方
向に向ける。両手で眩しそうに光を遮ぎろう
としている〈もぐらびと―モール・ピープル〉
が二、三人。男が二人、女(らしいの)が一
人。三人共歯が何本か欠けている。
「誰か、此処を通らなかったかい?例えば
若い女……」三人が一斉にコクリと肯首く。
「銃を持った男、達は?!」またコクン。そ
して揃って右手人差し指を奥の暗がりに向け
る。揃い過ぎだ。どうも信用が出来ない。大
体、〈もぐらびと〉達は、地上の人間達が嫌
いだ。出来れば接触を避けたい、と思ってい
る。今だって早々に追い払いたい、だけの仕
草かも知れない。
「有難とよ。お邪魔さん」それでも丁寧に
礼を言って、俺は奥に向かう。黴臭い、湿っ
たような、食い物の饐えたような匂い。垢と
汗の匂いが、ふっと背後で塵のように渦巻い
て、闇の底に沈んでゆく……。
パーン。音が、弾けるような感じの、鮮烈
な光が、まともに顔を射た。目が眩む。
「銃を、捨ててもらおうか!」しわがれた
男の声。ゆっくりと薄目を開けて……、光の
シールドを透かし見る。エルシーだ。その後
に、片手でスティック・ライトを照射しなが
ら、片手でエルシーの首を絞めようとしてい
る男……。よく見えないが、どうやら痩せぎ
すの若い男のようだ。目が吊り上がって、冷
酷そうに見える。
「捨てろ、と言ってるんだぞ!!」俺に、レ
ーザー銃らしいものを構えたしわがれ声の大
男が立っている。坊主頭にゴツイ顔。状況は
五分五分、だ。人質にエルシーが取られては
いるが、敵は二人。何とでも出来る数だ。
こいつらの頭脳と運動能力が、俺より優れ
ていなければ、扱い方は何通りもある。何と
でもなる。
俺は銃を捨てた。こいつらが何者なのか、
これから俺達(俺とエルシー)をどうするつ
もりなのか。何処へ連れていくのか、それが
知りたかった。動くのはそれからでいい。イ
ザというギリギリの瞬間、というのはいつか
必ずやってくるものだ。
「手を上げて、歩け!」しわがれ声が銃口
を振る。俺は大人しく従った。エルシーが押
され、つまずいて、俺にしがみついた。ステ
ィック・ライトが俺達の足元を照らし、長い
影が奥へ伸び、暗闇に消えていった。まるで
闇が、俺達に影の足枷をして、地獄へ引きず
り込んでいるようだった。
外へ出るんじゃないのか?!奥へ行くのか?
それとも向うに、地上への出口があるのか?
何処へ行くんだ?!
古代の大規模な都市と同様に、ニューヨー
クの地底も、穴だらけであった。それも縦横
に、二重三重に広がっていた。
廃墟になった初期の地下鉄トンネル。上下
水道の坑。電気や通信設備の元通路。20世紀
の半ば頃、原水爆による第三次世界大戦騒ぎ
の折に掘りかけて、何故か放置されてしまっ
ている核シェルター、なんてのもある。おま
けに、もう数世紀に渡って汚染され続けてい
る地下水脈。いや、地下川、地下湖などまで
ある。一時、捨てられた水棲ペットが、突然
変異を起して生き延びている、などという噂
が実しやかに流された事もある。
そんな地下の世界に、驚く程大勢の人間達
が住んでいる、という。一説によれば50万、
あるいは100万……。正確な数字は把握され
ていないが、無機質に変質し、凶暴化した地
上の光の世界よりも、地の底の闇の方が温か
い、と感じている人々がそれだけいる訳だ。
それにしても、こいつらは一体何処まで行
くつもりなんだろう?もうたっぷり、二時間
以上は歩いている。しかもだらだらとだが、
下へ下へとと降りている。見込みが違った。
敵味方とは言え、暗闇を一緒に歩く"連帯感"
のようなものとか、勝者という立場の高揚感
とかで、結構余計な事まで喋っちまうものだ。
土台、しわがれ声は喋り過ぎ?(煙草の所為
もあるか)のツケじゃねえのか?若いキツネ
目などはまだ一言も発していない。息もして
ないようだ。時々ひそひそと相談し合ったり
(喋っているのは、しわがれ声だ)、磁石(
?)を覗いたり、突然に出遭う〈もぐらびと〉
に方角を訪ね(金をやったり、脅したり)て
は、また歩き始める。〈もぐらびと〉達は無
表情で見送り、また闇の底に沈んでゆく。
土台、〈もぐらびと〉達は、地上に過去を
捨てて来た人達だ。ホームレスやバックレデ
ィだけとは限らない。元大企業の社長だとか、
アーチストだとか、スポーツ選手だった者も
いる。まァ、これらの人々は何らかの挫折を
抱えてやって来ているのだが。ヤク中、アル
中、指名手配犯などの犯罪者、それに不法入
国者など等。おカマやレズビアンもいるのだ
から。まァ、マンハッタンのもうひとつの"
地下都市"と称んでもいいだろう。もし闇に
倦んだ時には、焚火もあるし灯油ランプもあ
る。上手に盗めば、電気だって幾らでも使え
る。今は夜、と思えば、それなりに納得して
暮せる。とは、元〈もぐらびと〉の言だ。ま
ァ、とにかく彼等は、暗闇が好きなのだ。落
着くのだ。明るい、光の溢れる世界が好き、
という者がいるのなら、瓦礫と闇を愛してい
る者がいてもいい。
突然、スティック・ライトの輪が、極彩色
の壁を浮かび上らせた。カラー・ペイントで
描かれたポップ・アート。細密にキチンと仕
上げられている。なかなかの出来栄え、とい
っていい。誰かが、普段は暗闇であるこのト
ンネルの壁に、なにかの祈りを込めて制作し
たに違いない。ラスコー等の洞穴の壁に、牛
やカモシカや狩りの絵を描いた太古の穴居人
達の祈りと、何処かで繋がるものがあるのだ
ろうか。
線路を越した。まだ電気が流れている危険
がある。要注意だった。
「気をつけて」とエルシーの手を引いてやる。
サンキュウは口の中なのか、エルシーも以来
だんまりを続けている。
どう考えても得体の知れない、古代インカ
の遺跡のような石積みの壁があった。トンネ
ルに寄りかかるようにしてあったのだから、
目的は、ただ積んでみたかっただけ、としか
思えない。
色とりどりの長い大きな布を、両端を固定
し、低い雨雲のように幾重にも天井からぶら
下げてある、小ホールのような広場に出た。
ただそれだけで、舞台も椅子も無いが、正に
時折、〈もぐらびと〉達の芝居や、アジ演説
会や会合の"集会所"になるのかも知れない。
音も結構聞える。個人の足音が聞えるのは
当然として、耳を澄ませば、上を走る地下鉄
の車輪の音、笑い声、歌声、囁くような声、
言い争う声、そして水の滴る音。いや、地下
を流れる潜ったような水音も聴える……。暗
闇から静寂をイメージするのは間違いなのだ。
余計なものが見えないだけに、音のみが際立
つ。退屈はない。
マンハッタンの底を、もう三時間はたっぷ
り歩いている。何度も簡単に逆襲出来そうな
機会はあったが、止めておいた。敵には銃が
ある。こちらにはエルシーがいるという、リ
スクを考えた訳じゃない。連れて行かれる先
が知りたかったのだ。それがこの事件の、解
決の鍵になる。
依頼人は、よく堪えて歩き続けている。前
方に広がる闇に向って、黙々と進み続けるそ
の姿は、頑固と思える程だ。歩廊の良し悪し
によっては、時折、腕に掴まってくるが、震
えてはいない。シャイで弱々しそうに見える
が芯は強い。やはり"緩急自在"の女なのだ。
エルシーの小切手は、後一、二時間分残って
いる。いい探偵は"契約"をキチンと守るも
のだ。それなりに、だが。というよりも何よ
りも、いつものただの人探しが、いつの間に
か映画のようなハードボイルド・ミステリー
になりそうなので、この先の展開に期待して
いる(不謹慎にも!)というのが本音だった。
D影の法師
いつの間にか、周囲に人影が目立つように
なって来ていた。荷物らしき物を運ぶ筋肉マ
ン。ケースを持って、目的あり気に急ぐ、ビ
ジネスマン風の男。ヒソヒソと話し合いなが
ら通り過ぎる男と女……。
それも進む程に数を増す。その中に垢じみ
た洋服のホームレス風老人やバック・レディ
といった人達の姿があまり見えないので、異
様だ。アーチ形の天井と、ところどころに埋
め込まれてある薄暗い灯りが無ければ、ここ
は地下なのか、と思える程だ。
「ふン、どうやら地下のメイン・ストリー
トへ、ご到着らしいな」
男たちは相変らず無言である。たく、無愛
想なヤツラだ。ポーカーの相手には絶対にし
たくない。が、ホッと、聞えるか聞えない程
度の小さな溜息と、急かせるように強めた足
音が、目的地が近いゾ、と教えた。
角を曲る。
エルシーが息を呑んだ。ハッと、しがみつ
いている指に力が入る。
何の目的で掘られた場所だろう。天井も横
壁も暗闇が吸い込んでしまっているので知る
術はないが、相当広大な面積の広場である事
は間違いない。
中央にライトアップ(悪趣味にも朱い血の
色で、だ!)された巨大な、教会(だと思う。
キリスト教ともロシア正教ともモスク風とも
仏塔風とも、何とも形容できない建物だった
からだ)。そして、その広場には人が溢れて
いた。
「ほウ、今夜は(ウオッチ・ライト)真夜
中に(もう直ぐ小切手の数字も切れる)、法
皇サマのミサでもあるのかい?」
後ろで男達がギクリと息を止めた気配がし
た。なンだ。冗談を言ったのに、当らずとも
遠からず、だったって訳か?!間髪を入れず、
銃の台尻が背中にドン、と来たので正確度は
高まった。おまけに情報も――。
「罰当りめが、法皇じゃねえ〈神皇〉だ。
闇と光の世界を統べる万能の神であらされる
〈神皇〉さまだ!」
「神の皇ときたか、なるほど…。こりゃま
た大仰な。20世紀末に、雨後の筍のように
現われた"新興宗教"って訳か」
また台尻が突いて来るか、と思ったが来な
かった。怒りをまぶしたしわがれ声が来た。
「そんじょそこらの新興宗教と一緒にする
な。やっと極めた、究極の宗教だ。不信心者
を排除し、神と人とが一体になる永遠の楽土
を築くんだからな!!」
しわがれ声が一段と低い。どうやら真剣ら
しい。こういう連中の"盲信"というやつは、
時としてとんでもないエネルギーになる。用
心してかかる必要があるかもな……。
自然に割れる人ごみを縫って(従順な連中
だ。神の羊てぇ訳か)、教会に近づくと正面に
バルコニー状の出っ張りがある。ふン、ここ
でお説教をやンのかい?入口の扉を開けさせ
教会の中へ踏み入る。
エルシーの指に一段と力が加わり、今度は
震え始めた。それもただの震えじゃない。ガ
タガタと表現されるような震えだ。
正面に、キリストが逆さま(の十字架)に
吊り下げられていた。
そうか、そうだったか。こいつらは"悪魔
崇拝者"ドモだったのか!しかし、
逆十字架の左右に林立するポールは何だ?
突き刺されている骸骨は、なんだ?!赤や青や
黄色の、極彩色の羽飾りはなんなんだ?!ぶら
下げられている首を切られた鶏は?!
ブードー教?!
祭壇は、無い。代りに犠牲(いけにえ)の
為と見える大理石(らしい)の長方形の台が
ひとつ。椅子はなく、床一面に五芒星の図…。
赤や黄や黒い色の、大小のローソク。
黒魔術だ。
髪の毛が、ザワリと立ったように感じた。
こいつら、何でもいいから邪悪なカルト教
を集めて混ぜこぜにし、究極等と称して、妖
しげな集会を開いているのだろうか、それで
一体なにをしようというのだ?!
「こっちだ!」
促かされて、右側の、黒いビロードのカー
テンの中へ入る。扉がある。しわがれ声が扉
を叩く。「入れ!」中から意外にも若い女の
声が聞こえ、エレベーターのように中央でス
ッと左右に割れた。
女が立っていた。床まで届く赤い長衣を着
て、腕を胸の下で組んでいるのだけが、イメ
ージ通りと言えばイメージ通りだった。まと
もな女だ。ひっつめの黒い髪、細いフレーム
の眼鏡。薄い化粧。そこらの会社の秘書みた
いに、まとも過ぎる女だ。
「あなた方の"処分"は、神皇がお出まし
になり、ミサと儀式が終った後に、神皇御自
ら決せられます。それまで瞑想室に閉じ込め
ておくように」
やっぱりね。秘書だ。口先き女のスポーク
スウーマンだったか。
「ちょっと待った。何の処分だ?俺達が一
体なにをしたというんだ?!」
「……わが信徒を一人、殺しました。高い
位の兄弟でした」
眼鏡の奥の女の目がキラッと光って、エル
シーを見た。エルシーは俯き、まだ頑固に黙
っている。殺した、って?!俺は誰も殺した記
憶は無いから、とすればエルシーだ。が、誰
を?弟のマイケルを、か?!マイケルの信じて
いた〈神〉というのは、この訳のわからない
混沌神の事だったのか?でも何故!?
「……私は」エルシーが口を利いた。暫く
沈黙していたせいか、少し掠れている。
「――殺していない、誰も……」
「ふン、それは神皇がお調べになれば直ぐ
にもわかる事。神皇の前では、誰も心に扉を
立てられない。さ、連れてお行き!」
しわがれ声が、銃を動かす。
瞑想室だと?どんな部屋だ?エルシーとは
別々に入れられるのか?機会はいまなのだろ
うか?いや、もう少し、神皇とやらにお目通
りしたい……。
あれこれ考えを巡らせながら、ドアに振り
向いてドキリとした。入口に立って銃を構え
ていた、スティック・ライトの若い男。その
顔色、その目。蒼白く、どんよりとした肌と
目。まるで死人だ!いや、動いているのだか
らゾンビか。そう、この若者の印象は、生き
てる死人、ゾンビそのものだった。口を利か
なかった筈だ。が、まさかそんな筈はないか
ら、ひどいヤクでもやっているのかも知れな
い。
扉が吐息のような音で閉まるのを聞いて、
外へ。再び教会の中へ。今の女と同様の赤い
長衣を纏った五、六人のスキンヘッドの"僧"
らしい男達が、一斉にこちらを見る。が、直
ぐ無関心に顔を戻し、なにやらひそひそと話
を始める。
逆さキリストの前を横切って、左のカーテ
ンの中へ入る。また同様の扉がある。しわが
れが、センサーらしい豆粒程の赤ランプに手
をかざす。シュッ、と左右に開く。その向う
には長い廊下が続いていた。
何人もの人とすれ違う。長衣の男と長衣の
女。時折、白衣の実験服のようなものを着た
男達……。白衣の、実験室?!待てよ、おい、
このデザインは……!?まさか!でも、そっく
りだ!!忘れたくて、忘れようとして、でも忘
れられなかったあの、白衣の実験服。あの時
……。そう言えば、向うから来るあの男の顔
は、確か何処かで(勿論あそこで、だ)見た
ような……。男が、通り、過ぎ、る。表情は
変らない。知らない者を見る目だ。でも確か
に、しかし、まさか……。白衣の科学者なん
て連中は、みんな同じように見えるし……。
くそっ、頭を整理する必要がありそうだ。瞑
想室へ入れるのなら、さっさとしてくれ。
カシャリ。鉄の扉か。まァ、いいだろう。
どうせ逃げるのは、全ての謎を解いてからだ。
エルシーも一緒か?
「トイレくらい、行かせてよ!!」
突然エルシーが叫んだ。アバズレの声にな
っていた。"緩急自在の女"なのだ。で、
俺一人がその部屋(2メートル四方程の、
なにもない)に閉じ込められ、そしてエルシ
ーは戻って来なかった。別の部屋に閉じ込め
られたのか。なにがあったのか。まァ、心配
しても仕様がない。大丈夫、"緩急自在の女"
だ。それに、24:00だ。もう小切手も金
切れだ。その上、今や頼り無さげな依頼人で
はなく、凶悪な殺人容疑者でもあるんだ。
何故殺した?〈神皇〉は言ったが、一体何
故?俺は壁に寄りかかり、組んだ両腕に頭を
乗せ、じっくりと考えた……。
……"神皇"の前に引き出されたのは、そ
れから二時間程過ぎた後だった。〈フーチョ
ー教団〉とやらの儀式を見たかったのだが、
虜囚のゲストでは、我儘は言えない。エルシ
ーは、既に来ていた。蒼褪めた顔をして、少
しオドオドしているようだった。もう尋問が
終っているのかも知れない。スポークスウー
マンと"僧"達が左右に数人佇んでいる。
「私立探偵か。気の毒だな。ヒチコック型
の巻き込まれ男だ」
朗らかな、とも言えそうな声だった。ラス
プーチンのようなおどろおどろしい男を想像
していたのだが、ツルリとした美男子と呼ば
れてもおかしくはない男だった。ちょっとニ
ヤけたコールマン髭、俺が好感を持つタイプ
じゃない。
「人は私を"神皇"等と称してくれるが、
実は私は、別の呼ばれ方の方が好きなのだよ。
影の法師と言うのだ。神皇よりそれらし
く親しみ易い。カッコもいい。ハハハ」
チッ、なにがハハハだ。一体俺達をどうす
るつもりだ。
「そうだな」と男は応えた。え、なにッ?!
そう言えば、この男の前では、心に扉を立て
られない、と秘書が言っていた。
「ここに来た以上は、お前たちの選択肢は
二つしかない。我々と同じ神を崇めるか、死
ぬか!」
冗談じゃない。どっちもご免だ。
「冗談は言っていない。入信するか死。ど
うやら死を選びそうだな。お前は破滅型の男
らしいから」
なめやがって。破滅型だと?!俺は首が飛ん
でも動くくちだ!
バン!
頭が真っ白になった。身体の骨という骨が
ゴムになって、ふにょり、と身体が崩折れた。
ひっ、とエルシーが両手で口を押えたのが
目の隅に見えた。が、そこまで。記憶がプツ
ンと音を立てて途絶えた。
E溶ける謎
痺れが消えて行くような、ビリビリとした
感じが、頭蓋を引っ掻いて、意識が戻り始め
た。そのむず痒さが頭から首、肩、腋、腹、
腰、腿、脚と下がって行き、足指の先からツ
ッと抜けた時には、完全に元に戻っていた。
プツン直前までの記憶は明瞭に残っている。
その脳の入れ物は、柔かな女の膝枕に乗って
いた。目を開けて見上げると、エルシーだっ
た。
「やァ」と俺は言った。
「良かった。直ぐ気が付く程度のお仕置き
だ、とは言ってたけど……」
「お仕置きか?!ケッ、まるでガキ扱いだな
……。しかし、奴が超能力者だったとは、な
ァ……!!」
「この男は、ちょっと気になる所がある。
強い男だ。出来れば側において私に仕えさせ
たい。洗脳してみよ。今、やっても良かった
んだが、急ぎ過ぎるとただの木偶人形と化し
てしまう恐れがある……とも言ってたわ」
「ふン、ご側近にお召し抱えて頂ける、と
いう訳か。光栄の至りだな」
「でも、どうするつもり?あんな……凄い
能力を持ってる神の皇を相手に……」
「神の皇?」
「神皇」
ムクリ、と起き上る。膝枕の感触は離れ難
かったが、もうそんなお楽しみ時間は残って
いないだろう。気が付いた、と知れば(何処
かに監視カメラがある筈)、直ぐにも洗脳班
がやってくるかも知れない。その前に、エル
シーに訊いておかなければならない事がある。
「エルシー。正直に答えてくれよ。誰を殺
した?!」質問は意想外の方向から、機先を制
してやる事。
「……」沈黙が応えた。
「ふン、エルシー。君は、質問には答えな
いように、既に洗脳されたとみえるな……」
「……弟のマイケル」エルシーが答えた。
声にも表情にも感情が無い。本当に洗脳され
ているのか…それとも。
「そいつは嘘だろう。愛している、たった
二人だけの肉親。その弟を、か?!ピンボケの
むかし写真を使ったり、顔面を破損させたり、
海に放りこんで腐敗させたりしたのは、身元
を隠す為の初歩的トリックだぜ。とすれば、
あの死体は身替りだ…じゃあ死体は誰なんだ?!」
「……」
黙っているので、俺が答えた。
「多分、この新興宗教〈フーチョー教団〉
の信徒だった…違うか?!」
エルシーの表情が、少し動いた。待った。
「そう……。あの男は…ここの・・・・〈フ
―チョー教団〉の幹部だったの。――人の好
いマイケルに近づいて、入信を進め始めた。
―信念は人の命にも勝る。ステージが高まれ
ば、人も神に近づける。―"供金"と称する
寄付の要求も非常識だった。―私も一、二度
話を聞いたけど、知れば知る程コワイ宗教。
信じれば信じる程、人間じゃなくなってしま
う、しかも財産も失ってしまう、と思ったわ。
だから必死に反対した。でもマイケルは……。
扉が開いて
マイケルが現れた。
どんよりとした蒼白い肌と目。あの男と同
じだ。
「マイケル!?ど、どうして?なんで、ここ
に?!」
マイケルは答えない。あの若いゾンビ男の
ように……。俺がまた、今度はマイケルの口
になった。
「エルシー、君はあの男をマイケルの身替
りにして殺し、マイケルを何処かに隠した。
しかし見つかって連れ戻され、君は幹部殺し
の罪で捕えられた……」
エルシーはマイケルの顔を訝しげに、食い
入るように見つめているが、マイケルの目は、
誰も、何処も見ていなかった。俺は話の接ぎ
穂を探した。
「……マイケルは何処に隠した?」
「え?」
「マイケルは若くて元気だ。仕事もある。
おとなしく閉じ込められている筈はない。二
人だけしか知らない人里離れた場所にある山
小屋とか、あるいは…薬でも盛って、病院へ
でも入れたのか?!」
「…友達の勤めている…精神病院。私は―
実は看護婦よ」
それは調べて知っている。眠らせる方法も
殺す方法も知っている……。コワイよ。
「…話し込んでいる二人に、強い睡眠薬入
りのコーヒーを呑ませたわ。で―、一人は殺
し、身元が分らないように細工して海に捨て、
一人は眠ったまま病院へ……」
「しかし、見つかった。君のその病院の知
人というのも、案外、信徒だったりして…」
冗談だったが、エルシーはギクリと蒼褪め
た。そして、相変らず無表情のマイケルを見
つめたまま、堰を切ったように話し出した。
「こ、この宗教は〈フーチョー教団〉は、
信仰の為になら殺人だって許される人殺しの
集団よ。それに…」
その時、マイケルの右手が上がった。ピス
トルが握られている。銃口はしっかりとエル
シーを狙っていた。
「マイケル!?」
エルシーの悲鳴を合図のように、ブシュッ
と銃口が火を吹いた。
胸に、穴が開いて…、血が吹き出し、流れ
落ちた。後ろにのけぞった頭がガクリと前に
傾くと、目から、こぼれるように涙が吹いた。
間違いなく哀しみの涙だった。人を殺してま
で、守ろうとしたのに。愛していたのに……。
マ・イ・ケ……ル!! でも
それは、この新興宗教の宗旨とそれ程異なっ
ていなかった。神への愛と肉親への愛……。
その答は死であった。
エルシーの生命が脱け出しかけている柔かい
肉体が、冷たい床に落ちるより前に、俺は跳ん
だ。
回転し、動きを追おうとするマイケルの、そ
の肩に蹴りを入れ、マイケルが無様に宙で両脚
をばたつかせながら、エルシーが倒れているの
と同じ床に、ぶっ倒れた頃には、廊下を30メート
ル奥へ走っていた。
F底にいる街獣
30メートル走った廊下に長衣の"僧"が一
人、吃驚して立っていた。近づいて、胸倉を
掴んだ。
「研究所は何処だ?!」
外に脱出する前に、どうしても確かめてお
きたい事がひとつだけあった。
もしあの白衣の実験服の男達が、あの時の
残党だったとしたら……!?
「そこの階段を降りて、地下へ……」
エルシーには効かなかったが、質問は機先
と、意外性なのだ。
素直に答えてくれた礼に、鳩尾に一発。眠
ってもらっておいて、階段へ。地下フロアの
最初の扉を開ける。と、そこはもう実験室だ
った。ついてる時はついてる、のだ。つきが
続いている間に、事を進める。いい探偵の条
件のひとつだ。
中へ入っても、誰も顔を上げない。10数人
の白衣の男女。各々のデスクで各々の研究に
没頭しているのだ。奥に、あの研究所で見た
覚えのある(確かではないが)男がいる。つ
きは続いている。素早く接近する。さすがに
その頃には、不審顔の視線が一、二上がって、
見つめている。
「お前は、〈S・A・P…サイバー・アスト
ロ・ノーツ〉にいただろう?」機先だ。「ここ
で造っているのも、あの時と同じ"怪物"な
のか!?研究所は何処にあるんだ?!」
男の目が丸く見開かれた。口も丸く開かれ
て、言葉が出そうになったが、慌てて、閉じ
た。さすがは科学者だ。冷静で頭がいいのか
も知れない。で、首を絞めた。
「正直に答えた方がいいぞ。俺は今機嫌が
悪いんだ。怒っていると言ってもいい。何も
かも知っているからだ!!」ブラフ、だ。
「い、いたよ。でも、あ、あそこはもう、
とっくに……」
「破壊した。俺達が……!」
ゲッ、と男があえいだ時、誰かが立ち上が
る音がした。椅子の倒れる音と、引き出しを
開ける音(ピストルでも出すんだろう?!)。
同時に甲高い警報が、蛇を見た吠え猿のよう
に喚き出した。あの時も、警報の喧騒の中を
走っていた。記憶が、凶暴な怒りに火を点け
た。俺が覚えていたのに、この野郎は覚えて
いなかった。虫ケラのようにしか見ていなか
ったのだ。いや、それは理不尽な怒り、とい
うものだったかも知れない。ただすれ違った
だけで、あるいは、遠くからチラリと見て、
俺の記憶に残っていただけ、かも知れないで
はないか。男を抱え上げた。振り返りざま、
引き出しから取り出した、扱い慣れないピス
トルを構えようと焦っている男に、投げつけ
た。
グシャッと肉体と肉体がぶつかる鈍い音が
して、バン、とピストルが暴発した。
キャーッ。ひーっ。ワーッ。誰か……!!
全員が悲鳴を解放した。俺は走り出した。
長居は無用だ。知りたいことは、知った。い
ずれこの研究所も、どこかにある怪物製造所
も破壊しなければならない。でも今ではない。
然るべき装備をして必ず戻ってくる。許せな
い、人の生命をいじる…神の御業の猿真似な
ど。……と、待てよ。ここにも神がいたっけ。
神だと?神の皇だと!ふざけやがって!!
前方から人の群。後を振り返る。やはり走
ってくる人の群。銃を持っている奴がいる。
サバイバル・ナイフをちらつかせている物騒
なのもいる。
前へ進む。ギクリ、とする全員が、どんよ
りとした肌と目、だ。跳ぶ。天井すれすれに、
群の頭上を、跳び越える。俺は少し慌ててい
た。わかった、のだ。ここで造っているモノ
が。ゾンビ、だ!だからブードーなのだ。黒
魔術なのだ。反キリスト教なのだ。〈フーチ
ョー教団〉とは、死を崇める新興宗教なのだ。
超能力を持った異常者に引率いられた…。
が、やつが使った"超能力―サイコキネシ
ス"を思い出した途端、氷に代っていた怒り
のほむらはまた燃え盛った。
25メートル程跳んで着地し、目の前にいた
運の悪い一人の男の、ボキリ、腕を折った。
一歩下がって、様子を見る。折れていない方
の腕を伸ばして襲撃してくる。痛みを感じて
いないようだ。やはり、だ。
喉に空手のチョップを叩き込み倒しておいて、
クルリと振り返る。後方から、跳び越されて
後戻りしてくる群の足音が聞えたからだ。ゾ
ンビはゾンビでも、どうやらニュータイプら
しい。これが研究の成果、なんだろう。生者
と同じ運動能力を持ちながら、苦痛は死者の
もの。命令も素直に聞くのだろう。となれば、
目的はひとつだ。無敵の戦士。俺たちを造ろ
うとしたのと、同じ目的だ。が、こちらの方
が進んでいる。抵抗(レジスタンス)をしな
い。あるいは、その抵抗・俺たちの反撃に懲
りて、開発したという訳か。
扉。蹴破る。闇。そうだった。ここはマン
ハッタンの地の底だった。闇に、飛びこむ。
走る。誰かにぶつかる。誰かがひっくり返る
音。失礼!アルヌールなら!!の目のU.P。
後に追ってくる群の足音。ヤツラ、暗視眼
にでも改造されているのか?!だったら、多勢
に無勢、早く地上に脱出しないとヤバイ事に
なる。いや、待てよ。光!振り返る。スティ
ック・ライトの光の柱が躍っている。よかっ
た。ヤツラにとっても闇は闇だ。走る。走る。
地上への出口はどっちだ?!前方にも、ライト
の、円を描く、光の、無数の柱。その、近く
まで着いた。微かな光の一本が、横の壁の亀
裂を報せる。飛び込む。隣りのトンネルに、
出口はあるかも知れない。つきが続いている
ならば……。
つきは、裂け目の内側には、無かった。瓦
礫の、坂道だった。礫が転げ、バランスを崩
して俺も、転げた。転げた。結構な距離……。
ザンッ、バシャッ、シャバッ、バシャッ……
チャパン……。そこは下水道だった。イヤな
匂いがした。飛び込む前に、この匂いに気付
くべきだった。上から、壁の裂け目から、数
本の光の柱が降って来た。ブシュッ。バシュ
ッ。銃弾も降って来た。跳んだ。管理用の歩
道に足が着いた所は堅かった。ヌルヌルする
コンクリートだ。いいぞ。つきは完全に消え
てしまってる訳ではない。見やると、光の柱
が次々と、裂け目から入って坂を下り、地下
水道へと雪崩れ込んで来る。
ゾンビ戦闘員には、恐怖もイヤな匂いも、
存在しないのだ。増え続ける光の柱で地下水
道が明るくなった。天井の、巨大な、コンク
リートのトンネル。ドロリと濁った水が、そ
れでゆるやかに、何処かに流れている。錆び
た鉄の、ガードレールのような柵に添って、
走った。汚れた水に脚を突っ込みたくない。
この脚が唯一、ヤツラから俺を守ってくれる
武器だ。忌み嫌いながら頼っている。この矛
盾は、解決の無い俺の最大の悩みだった。
ドウ、ドウ、ゴウ、ゴウ……。
下水の、濁流の、大きな滝、だった。コン
クリートの堤防は切れていた。振り返れば、
光の林。ヤツラは下水道を、汚水の中を進ん
でくる。やはり、匂いを感じていないのだ。
…と、
光の林が、割れて、乱れた。バシャ、バシ
ャバシャッ、と水音が起った。何本かの光の
柱が近づくのも構わず、思わず目を凝らした。
なにかが、ゾンビ集団を襲っていた。光の柱
が近づいた。仕方がない。跳んだ。汚泥の中
に着水する前に、二人を倒し、着水して一人
を沈めた。空中をクルクルと回って堕ちよう
としている、スティック・ライトを掴んだ。
コイツがあれば、行先を照せる。人には、導
いてくれる光が必要というものだ。
跳んだ。そして、見た。下の混乱の原因を。
数匹の鰐が、ゾンビを襲っていた。ゾンビは
鰐と戦っていた。が、その鰐には、水中から、
群がるゾンビの山を撥ね飛ばしてジャンプし
たその巨大な鰐には、何本もの長い脚がつい
ていた。“百足鰐”だ。
あれが、伝説の突然変異生物なのか?!下水
の化学物質等に汚染されて変化した、捨てら
れたペットの末裔なのか?そちこちで光の柱
が割れている。“百足鰐”数匹?!待てよ、そ
れでは変だ。突然変異生物の殆んどは、子孫
を残さない、という。ワクチンに次々と抵抗
する新種のウイルスが誕生している昨今だ。
余りあてにはならない説だが……。ゾンビが
二、三人、気付いて襲って来た。素早く動い
て、倒し、サテ、逃げようとして、ギョッと
なる。目の前に大きく牙と歯だらけの口を開
けて、水中から長い脚で身体を持ち上げ、攻
撃寸前の姿勢を取っている鰐がいる。見れば、
その向うからも黒々と、何匹もの鰐がこちら
に泳いで来る。ふんだんの餌。機会は逃せな
い。洒落ではないが普段の餌はそうふんだん
では無い筈だ。誰かが与えなければ、これだ
けの数が育つ筈はない。この怪物を造って、
飼育している可能性が強くなった。あいつら
ならやりそうだ。しかも今度のスポンサーは、
“死の商人”ではなく、狂信的なカルト集団
だ、としたら、一体目的は何だ?!
鰐が飛び上がる。俺も跳ぶ。列をなす鰐の
背を飛び石のように利用して、先刻の裂け目
に、更に跳ぶ。
跳び出たそこには、待っているモノがいた。
予想もしなかった、とんでもないモノ。
〈神〉と〈神の神〉……。
G神の神
数本の光の矢が、俺を射抜いた。
スティック・ライトの光だが、俺は動けな
くなった。
「そこまでだ!」
光の矢に負けない程の明るい声。〈神皇〉
と名乗る新興宗教〈フウチョー教団〉の親玉
だ。左右に“秘書”のスポークスマン、長衣
の幹部“僧”などなどがズラリと控えていた。
いけない。頭を白くしなければ!行動を先に
読まれたら、喧嘩には勝てない。そんな心配
は無用な事だった。身体は指一本動かず、思
考は白濁していた。
「お前が気に入った。お前を私の所有物に
するぞ」
そ・ん・な・こ・と・は・さ・せ・や・し
・な・い。
「神に抵抗など、無駄だよ。そう、神の代
の頃、我々は“英雄”と後の人の世で謳われ
る事になる強い人間を傍に置いていた。これ
から、間もなくまた“神の世”になる。だか
ら、強い“英雄”も欲しいのだよ。ハ・ハ・
ハ。もっとも私は“神”など信じていないが
ね。信じているのは〈科学〉のみ!科学が神
をつくるのだよ!!」
その時、奇跡が始まった。脚が、生来の筋
肉ではない、後に強化された人工的筋肉が、
勝手に動き出した。脳からの指令は、無い。
思考は止まっている。指令は筋肉自身が発し
ていた。サイバネティック・バイオ・マスル
ズそのものが考えて、動いていた。
「な、んだ?!」なにが起った?!
心の底から驚いた声、も、明るかった。
〈神皇〉の両手がサッと上がり、鍵爪状に
折れた指先が、爪が、発光した。イナズマ。
神の武器!
や・ら・れ・る・!?
止まった思考にも、その“神の稲妻”はイ
メージとして見えた。…が、
稲妻に撃たれて吹き飛んだのは、〈神皇〉
の方だった。途端に呪縛がほどけた。前のめ
りに、つんのめって、倒れた。頭上をギザギ
ザの光の帯が走っていた。
バリバリバリバリ……。地の底の冷たい、
あるいは二酸化炭素一杯の外気よりは清潔か
もしれない大気が裂ける音がした。
“秘書”が飛び散った。“僧”達が消えた。
倒れたまま俺は、“電源”に首を回した。
トンネルの闇の奥に、人型の、光の斑が見
えた。上げられた右腕が強く光って、放電し
ていた。
「も、もういい。やめろ!!」
悲鳴のような声がした。白衣の実験服の男
と女。あの科学者達……。奴等、今度はなに
を連れて来た?一体、なにを創ったんだ?!
「神よ……!!」
科学者の誰かが、絞り出すような声で言っ
た。人型の斑が近づいてくる。まるで、発光
する深海生物のような、点滅する光の斑、だ。
白衣の科学者たちを後に引き連れて近づいて
来る。
「こ、こんな能力があったとは……」
更に近づく。もうはっきり見える。
「わ、わし等は一体、なんてものを造って
しまったんだ?!」
決まってる。〈神皇〉と自称する“神”を
殺したのなら“神の神”だ。お前ら科学者の
虚栄心、功名心、権勢欲には飽く事が無い。
そして、その後に少しばかり悔んで見せる。
そして今遂に、神の領域まで侵し、神そのも
のを創り出してしまった。
神は元々、人の心が創り出した象徴なのだ
ろうが、幻が具現したら、ただの“物体”に
なってしまうように、みすぼらしくなるだけ
だ。物はいつか壊れる。滅びてしまう。幻の
象徴なら永遠の生命が保てるのに。哀れな…。
突然、光る斑の“神”が立ち止まった。じ
っと俺を見る。今、倒れている俺に気付いた
とでもいうように。頭の中がチクチクした。
こいつも考えを読む。創られたとはいえ、や
はり〈神〉なんだ。もう、これまでだ。しか
し、ここに這いつくばったままでは消されな
いぞ。さァ、来い。もっと近づけ!哀れな
〈神〉め。敵わぬのはわかっているが、それ
でも闘ってやるぜ。勇気と抵抗こそ、人間の
誇りなんだ。
〈神〉の光る目が、ジッと見続ける。科学
者達も、やっとその視線の先の俺を見つけ、
「奴だ!まだ生きてる!!」投げとばしてや
ったS・A・Pにいたあのヤローだ。松葉杖
をついている。片手も吊っている。ざまァ見
ろ、いい気味だ。包帯だらけでやがる。
「やれ!早く、そいつを殺せ!その為にお
前を、始めて連れ出したのだ!!」そうだった
のか。「そ、それなのに〈神皇〉達を殺して
しまうなんて!」俺はゆっくりと立ち上がっ
た。それならご希望通り、勝負してやろうじ
ゃないか。
「出来損いが!!あの男」ン、誰に向って言
ってる?
〈神の神〉が振向いて、科学者達を見た。
表情のない冷たい光る目で。ギクリとなって、
全員が後ずさった。震えている。闇の底に溶
け込みたい、という風情だが、実験服の白さ
が、そうはさせない。
「ち、違う。お前……。あんたの事を言っ
たんじゃない。あの男。以前わし等が造った
あのサイバーマンの事を言ったんだ!」
いいや、奴は、俺をののしると同時に、〈
神の神〉をもののしったのだ。奴等は、自分
の創造物を「物」と考えて、全く敬意を払わ
ない。神になった気分が遂、言わせた言葉に
違いない。
〈神の神〉の、冷たい目に熱い火が入り、
指先に放電が渦巻いて、光った。
科学者達が、塵になった。そして〈神の神〉
は、また、振り向いて、俺を見、対峙した。
長い長い沈黙が続いた、かに思えたが、ほん
の一瞬だったかも知れない。〈神の神〉がフ
ッと消えた。テレポート?!どこへ?!
しかし、それにしても、なんとやはり、こ
の創られた神も“超能力”を所持していたの
だ。そしてあれは、〈神の神〉は、俺を識
別した。自分と同族。人間のあやまちが産み
出してしまった存在なのだ、と。あれは…
自分で自分を消してしまった、のかも知れ
ない…俺が、俺たち仲間が、ふっと時折、そ
う思うように。いや、あるいは、もしかした
ら、何処かで……。
二 完
母神の黄金神殿
五―ジェロニモの場合
植物達は、お喋り、だ。
昼も夜も、四・六時中、ひそひそと囁き合
ったり、クツクツ笑ったり、泣いたり喚いた
り、ブツブツと独り言を言ったり、している。
無数の木の葉などが音を吸収するので、森
林はいつもシンと静かだ、と言う者もいるが、
それは、植物達のお喋りが聴えない者の感想
だろう。
植物達は、常に喋っている。密林ともなれ
ば、それはかしましい、とさえ言える。だか
ら、聴える者が密林に入る時には、ある種の
覚悟がいる。お喋りに耳を塞いで無視するか、
一緒になってお喋りするか……。が、
この騒々しさ、には利点も多いのだ。
他愛の無い四方山話や、哲学的、思索的と
も言えるような独言の中に、貴重な"情報"
が混っていたりするからだ。特に、どちらを
向いても緑の壁ばかりで、行先を見失無いそ
うな時、何かを、誰かを追いかけている時等、
有難い、とさえ思えてくる。そう
わざわざ訊かなくとも、向うから勝手に答
えてくれるからだ。植物達は結構、お節介焼
き、でもあるのだ。
"そっちよ。ええ、そっち!""違うって
ば、こっちじゃない""……ひとつ夜の前、
お天道さまが梢の天辺におられる頃、じゃっ
たな。それよかちょいと大きな〈舟〉がふた
つ。男達沢山。ケモノ達を殺す〈銃〉を持っ
とった、な""ええ、そう。そこを曲って。
雨が多めに降ったから「水の道」が変って、
通れる様になったのよ!"
植物達の"意識"や"共感性(シンパシイ
)"については、20世紀の半ば過ぎの、サボ
テン実験(鉢植えの二つのサボテンを隣接し
て置き、ひとつの茎を切ると隣のサボテンが
悲鳴を上げる)で既に衆知の事実だ。
"気を付けて”
今もそうだった。幹を軋ませ、枝を揺り、
葉を戦がせて、懸命に教えてくれている。
ジェロニモは、片手を挙げてそれに謝意を
表し、〈舟〉――エンジン付きのカヌー――
を、見知らぬ水路に入れた。エンジンの音に
驚いたか、小魚がそちこちで跳ねて、束の間
茶色の水面に波紋を作る。"水路を拓いた"
という雨の所為か、流れは早い。ジェロニモ
の〈舟〉は、その流れに逆らって、奥へ、密
林の奥へ、と突き進んでいるのだ。舵を握る
巨躯は、当然の如くに縁から食み出して危な
っかしいが、ジェロニモは気に懸けてもいな
い。心を占めていたのは、ドス黒い怒り、だ
けだったからだ。
ト・ト・ト・ト・ト……。エンジン音はそ
んなジェロニモの思いとは別に、快調だ。次
第に狭まる水路に谺するそれは、血管の中に
反響する心臓の鼓動の様に、時には眠気を誘
いそうな子守唄の様に、単調に続いていた。
それでも驚いたのか、川面から突き出した白
骨の腕に似た枯木から、カワウが数羽、飛び
上った。
ジェロニモは「密猟取締官」だ。
迷彩服と、腰の後に手挟んでいる山刀だけ
が、僅かにそうと報せている。銃は無い。帽
子も無い。バッジも無い。怒りに駆られ、む
しり取って、投げ捨てたからだ。そして、飛
び出した。指令と規則を破って。
指令は、後で"追跡隊を編成するから"そ
れからにしろ、と言うものだった。確かに、
追跡隊は出発する事になるだろう。だが、彼
等が成功した例は無い。人手も無く、時間も
無い。おまけに敵は多勢で、密林に詳しく、
兇暴、と来ている。いきおい、お座なりにで
も追ってみるに過ぎなくなる。まァ、もっと
も、余りその事は責められない。「密猟取締
り警察」の予算は、吃驚する程少ないからだ。
恐らく、密猟者グループの、一・二度の"稼
ぎ"で充当できる程度ではあるまいか。密猟
ハンター達が真っ先に狙うのは、絶滅寸前種
の動物達だ。希少であればある程、高値で取
引くされるからだ。こうして増々、絶滅への
カウント・ダウンは早まり、値は吊り上がる。
オカロット(山猫)、ジャイアント・オッ
ター(カワウソ)、カピバラ(ネズミ)、カ
イマン(ワニ)、ボトウ(淡水イルカ)、ナ
マズ……。
余り名前をあげても、意味が無い。なにし
ろアマゾンの生存種は、一日百数十種絶滅し
ている、という計測があるからだ。開発によ
る熱帯雨林――密林が、昔日の3分の1以下
に縮小してしまった事と、密猟団の跳梁跋扈
の所為である。つまれは、殆んどが、希少絶
滅寸前種、という訳だ。
後で、という上司の言葉も、哀しみでザラ
ついていたジェロニモの、心の傷口を押し開
けた。今だ。今直ぐに追いかけたい!!
パトロール中、相棒が、殺された、のだ。
現地出身の、インディオの若者で、北と南の
違いはあるが、同じネイテヴ・アメリカン。
希少種族という事で、気が合った。〈ミッキ
ー〉というのが呼名だった。巨人を倒して、
お姫さまと結婚した仕立て屋ミッキー・マ
ウス。ディズニーのクラシック・アニメーシ
ョンに由来する。ミッキーは小柄。はっきり
言えばチビで、巨躯のジェロニモとは、絵に
描いた様な"凸凹コンビ"だった。
署に定時の連絡を入れてくる、とジープに
戻り、そこで音も無く、喉を掻き切られた。
「密猟警察パトカー」の文字と紋章が押印さ
れている扉に、血のりで、MANKIND!
と書かれている。"人間第一"とでも言いた
いのか、何とも凝った、密猟団の呼称だった。
ほんの、僅かの時間だった。ジェロニモは
嘆き、激しく自分を、責めた。そして
規則(パトロールは二名以上。追跡行は五
名以上)を破った。どうせ一度破って、その
為に相棒が死んだ、のだ。
そんなジェロニモの心の傷を癒そう、とで
も言う様に舳先を、横を、ボトウの影が滑べ
った……。
動物達もお喋りだ。
当然に聞える"声"があるだけに、少し野
卑で、わかり易い。つまり、植物達程(ある
程、だが)"哲学的"には思考していない、
という事だ。発信するメッセージも、単純だ。
"警告!""警告!!""警告!!!"
"腹が減った。餌は何処だ?""警告"
"暑いな""寒いな""眠いな"
"オレの嫁サンになってくれ""警告!誰
か、川を上ってくるぞ!""警告!!"
クロハゲタカが、狭い空――両側から、覆
い被さる様に、密林が迫っているのだ――を
舞い、枝の高い所で、吠え猿の群が吠えてい
る。
みんな"絶滅寸前種"だ。ジェロニモに、
愛おしさと怒りが、再びこみ上げて来る。そ
う、そうなのだ。お前達も俺も、この惑星で
は最早、"希少種"なのだ。望んでそうなっ
た訳では無い。"神の仕業"とも思いたくな
い。だが、間違いなく、それは"運命"であ
った。突然、水路を遡行している様に
時がめくれた。
なにかが、ジェロニモの目を覚ました。
コヨーテの遠吠え?ヴァッファローのひづ
めの音?ナゲキバトの泣き声?
いや、そんな〈夢〉なら、毎晩みている。
その朝の目覚めは、少し、変だった。
ガラガラ蛇の……?カラスの群が、喧しく
騒いでいる。が、
不安、と呼べる程鮮明(はっきり)したな
にかでもない。聴こうとすると消えてしまう。
100メートル先のハチドリの羽音にも似て、
捕えどころの無いなにか……。
しかし、今になって思えば、その日、それ
から起きる、ジェロニモの"運命"を変えて
しまう事になる出来事の予兆――。精霊達か
らの警告、だったのかも知れない。そう
あの頃はまだ、それ程良く、精霊達の"声"
を聴き取れなかったのだ。
居留区の〈テカヘ族〉の町は、小さくて、
汚れていて、侘しかった。
ジェロニモの部族テカヘは、少数民族であ
るネイテヴ・アメリカンの中でも、更に少数
民族で、既に消えてしまった幾つもの部族同
様に、近々名のみになるのでは、と心配され
ていた。もっとも
心配しているのは、ほんの時折訪ねてくる。
保護・調査官の、お座なりのコメントであり、
インディアンの叡智、を盗んでは"商売"に
利用する民族学者と称する連中の、これまた
商売用の嘆き、の中でだけだった。テカヘの
町の誰も、そんな先の事、などに頭を悩まし
てはいなかった。
長老はいたが、ただの肥った酔っ払いだっ
た。町の住人の殆んどは年寄りで、酔っ払い
だった。女達も、自分達への言い訳の様に、
観光客用のみやげもの(羽飾り付き鉢巻。ガ
ラス玉のネックレス。ポシェット――殆んど
が出来合いを組立てる、だけだ)作りをやっ
てみたりするが、矢張り、酔っ払いだ。イン
ディアンには酒を売るな、などという差別的
法律は既に無い。酒を売る店も、金もあった。
規格品の薄っぺらな住居がチョボチョボと
立ち並ぶ町は、泥酔して無気力で乾いていた。
テカヘの町に、ジェロニモ世代の若者の姿
が殆んど見えないのは、そんな生気の無さに
耐え兼て、と言うよりは、噂に聞く"刺激"
を求めて、白人の都会へ出ていってしまった
からだった。白人のネイテヴ・アメリカンの
過去も未来も考えない、帳尻合わせに過ぎな
い倫理観や法律による"過保護"で堕落させ、
また更に堕落させようと、言う訳だ。
かって20世紀の終り頃、こうしたマイノリ
ティに対する社会的優遇措置…積極的差別是
正措置の廃止が検討され始めた。ACLU(
全米市民自由連合)などの強硬な反対(憲法
で認められた権利を侵す)もあって、各州そ
れぞれ対応は異なったが、就職などの白人種
差別(妙な言葉だ)、過保護…等の声が、次
第に強くなっている事はいるのだ。しかし、
都会に出た若者達に開かれた就職口は左程多
くはないし、老人や女達となれば、皆無に等
しい。居留区で、日がな一日、酒を飲んでい
るより仕方が無い、という事情もあった……。
ジェロニモも、何度も、町を出ようと思っ
たが、その都度脚を躊躇わせたのは、俺が最
後のテカヘ族になるかも知れない、俺が居な
くなったら、この町も失くなる、俺はここで
インディアンとして生きる……、と言った奇
妙な、あるいは頑固な思いだった。が、しか
し、心の奥底では、多分そのうち、出て行く
事になるだろうという思いもあった。このま
までは生きているとは言えない。そうなのだ、
この町で生きられるのは死人だけ。町は既に
半ば死んでいたのだ。
ゴツゴツした岩だらけ。みすぼらしいサボ
テンが少々。そんな延々と広がる荒野の細い
道を、ジェロニモは中古のランドローヴァー
をガタガタと転がしていた。テカヘの町は、
忽ち砂煙の中に消えてしまう。
この道の先に、ハイウェイが走っている。
その真っ直ぐの道路沿いに、ポツリと、ガソ
リンスタンドが一軒。それが、ジェロニモの
仕事場だ。働いているのは一人。と言っても
勿論、経営者ではない。持ち主は、白人だ。
スタンドの前に、車が二台駐っていた。ま
だ、真新しいリムジンと大型のワゴン車だ。
もう客が来ているのか?いや、違う。白人の
男が二、三人。鍵をこじ開けて、ガソリンを
盗んでいる!
ブレーキ音で威嚇しながら、ランドローヴ
ァーを下り、ジェロニモはのそりと男達に近
付いた。男達も普通かそれ以上の身長だった
が、その彼等が見上げる様な巨人だった。
男達は顔を見合わせて、後へ退がりながら、
三人同時に、サッと胸に手を入れる。次の瞬
間、引き出された二本の腕にはピストル。も
う一本には――、クリップで束ねられた分厚
いドル札。二本の腕を制しながら、札束が言
った。
「怒るな。悪かった。急いでいたし、誰も
居なかったもので、な。壊したモノも、勿論
ちゃんと弁償する……」
クリップから三枚外して、差し出す。百ド
ル札。これなら、ガソリン代を入れても悪く
ない取引きだろうが……。しかし
ジェロニモが掴んだのは、札ではなく、そ
の腕、だった。グイと引き、その身体を持ち
上げ、後で銃を仕舞いかけていた二人の男に、
投げつけた。三人は、同じビックリマークの
表情で、固まって、転がった。
突然の怒り、だった。
ずっと、町の事を考えていた所為かも知れ
ない。白人の作ってくれた町。テカヘ族を腐
らせてしまった町。世のならいとは言いなが
ら、滅びて、消えてしまいそうな部族に対す
る思い。哀しみと焦燥……。それが
銃と札束が象徴する白人への、矢も楯も堪
らぬ怒りになった、のかも知れない。
リムジンの、スモーク窓が降りて、シュブ
ッ。乾いた西部の空気が切れた。ジェロニモ
はビクリと振向き、リムジンに一歩、足を踏
み出した。が、膝が折れ、そのまま、ドウと
倒れて、動かなく、なった。
「……象でも眠らせる弾だ」
スモークガラスの中から、声がした。
「よし、このインディアンはいただきだ。
このでかい躯は使えるぞ。急げ。運び込め」
頭や腰を押えながら、立ち上りかけていた
三人の男達が、ふらふらしながら、倒れてい
るジェロニモに近づいた。
以来、ジェロニモは、テカヘの居留区には
帰っていない。"脱走"して以後、帰れる機
会が無かった訳ではない。町が、部族の人々
が、(自分が去った事で)もう滅びて消えて
しまっているかも知れない、という例の奇妙
な思い。多分、滅びる事への予兆に脅やかさ
れる潜在意識が齎らした思い。それが現実に
なっているかも知れない、という怖れが、帰
郷を遠ざけていた。が、いずれは――町を出
ようか、と惑い揺れていたあの頃と同じに―
戻る事になる事も、わかっていた。だがそれ
は、まだだ。今ではない。
"気を付けて!""危ないヨ!!"
植物達の警告が、ジェロニモを、アマゾン
の密林に、今に、引き戻した。
"待っている""〈銃〉を持った、沢山の
男達""気を付けて、危険……"
筋肉が、ゾクリ、と音をたてて緊張した。
細胞たちが、ビッ、と一斉に首をもたげる。
"待ち伏せ"を怖れた、のではない。イン
ディアンの、ご先祖の戦士達を戦かせたのと
同じ血が、騒ぎ出したのだ。そして今は、
ジェロニモは正に〈赤銅〉の男になってい
たからだった。
〈舟〉は、エンジン全開で走っていた。
両側から覆い被さる様に迫る枝葉が、急激
に空を狭めている。後へ後へと流れる青い空
と白い雲の、スピードが増している。切れな
いナイフの切り傷の様なギザギザの空が綻び
に変り、綻びはやがて、縫い合わせられた様
に、閉じた。これではワシの眼でも、タカの
眼でも、水路を見分けるのは難しいだろう。
エンジン音が籠って、大きくなる。
密猟団の待ち伏せは、それが聞こえての事
かも知れない。
ジェロニモは〈舟〉の速度を落さなかった。
待っているがいい。それだけ"相棒"の無念
を早く晴らせる。
のたくる紅い蛇の群の様な、怒りの炎の中
で、"相棒"が笑っていた。ジェロニモだっ
て?アハハ。ジェロニモが本名でない事を知
っていて、よく冗談のタネにしていたのだ。
よッ、インディアン代表。
そう。ジェロニモは〈研究所〉の連中が、
沈黙を続けるインディアン青年に業を煮やし
て、唯一知っていた名前を呼名にしただけだ。
それを、イワン(これも本当の名ではない)
の"精霊"が時を越えて運び、あの日本人の
コミック・ライターが"作品"の中で、より
確たるものにしてしまったのだった。しかし
今は、ジェロニモが最も相応しい名前にな
っている気分だった。あのシャイアン族の、
戦かう酋長の名……。突如、
視界が開いた。水路が水面になって、湖沼
のように、大きく広がっていたのだ。とは言
っても、水中から林立し、天蓋のように覆う
密林が、たまたま窪地に、多かった降雨が貯
っただけ―という事を示していた。が、
ガガガガガ。タララ……。ダーンダーン。
銃声が響き、樹々の幹がビキッ、バシッと
裂ける。"ヒーッ"、その樹だけではなく、
沼湖の周囲の樹々も悲鳴を上げた。植物達に
とって、喜び以上に苦痛は、共感する感覚だ
った。チョブ、チョブ、チョブ!!!水面に、小
さな水柱が立って、走った。
ジェロニモは既に舵を切り、〈舟〉を樹
々の隙間に添わせて、ジグザグに、走らせて
いた。奴等の船の位置は、わかっていた。見
えた。数人乗りの〈漁船〉だった。当然、ジ
ェロニモの〈舟〉よりは大きいが、それ程差
がある、という訳でもない。突っ込む。ダッ、
ガ・ガ・ガ……。耳元の空気を銃弾が焦した。
慌てた様に〈漁船〉のエンジン音が高くなっ
て、ユラリと船体が揺れた。ぶつけられては
堪らない。移動しようという動きだった。が、
間に合わない。
ガッ!
木と木の激突する鈍い音がして、〈舟〉の
舳先が〈漁船〉の船尾に突っ込んで、砕けた。
揺れる〈舟〉の上に巨躯が伸び上がり、走
って、跳んだ。
腰を落したり、四つん這いになったり、縁
に掴まっていたり、の密猟団の男達が、慌て
て銃を構え直す暇も無かった。バキリ、バキ
ッ、バシッ。手刀が飛んで、首の骨が崩けた。
少し離れた甲板にいた男が、泡を食って逃げ
かけた。ジェロニモの太い指が、男の首に食
い込み、息を詰まらせる。ジェロニモは、男
をぶら下げたまま、前進する。操舵室から、
男が飛び出して来て、ピストルを、撃つ。質
の男の身体に衝撃が走り、胸と腹に血が滲む、
心臓から、血が吹き出す。その血潮を顔面に
浴びてピストルの男が目をむき、ガスッ、後
方に激しく倒れ、頭が、割れる。導く主を失
なった〈漁船〉が〈舟〉を引き摺ったまま、
ズ・ズ・ズとそのまま前進し
ドスッ。
前方の太い樹に、ぶつかり、停まる。エン
ジンがブスブスと煙を吐き出した。
"危ない、危ない!"
言われるまでもなかった。ジェロニモが跳
んだその瞬間
グアッ、ドオオオンン……!!!
〈漁船〉が爆発して、火を吹き上げた……。
『死は存在しない。ただ霊魂が、その居る
場所を変えるだけ』
『神は我々に夜と昼を与えた。夜は、眠り
と休息の時だ。月は祖母であり、大地には潤
い、海も動かす。星は……旅の行方を教えて
くれる』
『近頃、みんなは"叡智"ではなく"知識"
を求める。知識は常に変化し、忽ち過去のも
のになる。が、叡智は、真実を伝える永遠の
ものなのだ』
『インディアンに"秘密"や"謎"など存
在しない。あるのは"常識"だけだ』
『我々は先住民だ。偉大なる精霊のお許し
を得てここに住んでいる。白人の"議会"と
やらが我々の住むべき場所を(白人の)"法
律"で勝手に定めた。"大地の法"は"精霊
の法"。住む場所を決められるのは精霊だけ
なのだ』
『この大地は"動物"みたいなものだ。動
物は病気に患ると、身体を揺って痙攣する。
死の直前になると、思いっきり暴れたりする
様に、地震を起したり、火山を噴火させたり
する。それはもう始まっている』
夢の中で、いろいろな部族の首長達が話し
ていた。以前、彼等首長達の発言を纏めたC
Dを聴いた事があった所為かも知れない。目
を開けると洞の外に
折重なる様に、中を覗き込んでいる顔が六
ツ、見えた。見知らぬ戦装束をした原住民達、
老人、壮年、若者だった。
その顔が、すっと消えた。ジェロニモが身
動ぎしたからだ。ゆっくりと、外に出る。複
雑に絡んだ根や茎が作った、太い老樹の"洞"
だった。周囲の茂みや樹の陰に、六人のイン
ディオが、半ば身を隠して、遠巻きに、待っ
ていた。音ひとつ、たてない。薄い霧が、夜
明けの薄闇を白く染めていた。が、大騒ぎの
好きな吠え猿も静かだったし、鳥達の鳴き声
も平静だった。彼等にとっては、
インディオ達の存在は、密林と同じ、いつも
の光景だったからだ。ジェロニモが、覗き込
まれるまで気付かなかった、のもその所為
だった。
しかも、わざと、半ば見える様に隠れてい
る理由も、直ぐに判明った。ジェロニモは、
精霊達に話しかけるのと同じ"言葉"で訊い
たのだ。ジェロニモが普段、周囲から寡黙と
思われているのは、殆んど("声"を出して
は)喋べらず、この"言葉"で大概の用は済
んでしまうからだ。
インディオ達は、ジェロニモを畏れてはい
たが、怖れてはいなかった。老樹の胎児"木
の精"、だと思っていた。彼等の部族(やは
り、まだ外の世界とは接触の無い未知の"少
数部族"だった)の、生死の懸った最大の危
機の為に遣わされた"救いの戦士"、とも思
っていた。ジェロニモの巨躯は、他のインデ
ィオ種族と比べても小柄に見える彼等に、そ
う思わせるに十二分の、威圧感とパワーに溢
れている。昨日――
・・・人殺しの銃を持つ、悪い白い男達の船に
火を放って破壊し、水から密林に這い上り、
迷う事無く歩き(彼等と同じ様に)、夜にな
ると、老樹の洞に潜り込んで、スヤスヤと眠
った。
精霊の児、にしか出来ない事ではないのか?
後を尾けられ、見詰められていたのに気付か
なかったのは、植物達にとっても、このイン
ディオ達も、見慣れた光景の一部、だったか
らに違いない――。
あるか無しかのけものみちを、時々山刀を
振りながら、ジェロニモが進む。その前を後
を横を、見え隠れに、音もたてずに、インデ
ィオ達が案内する。これから、インディオ達
の集落に寄り、それから"戦い"に出る。
"会話"は、その間も続いていた。
集落に齎らされた、最大の危機とは、"銃
を持つ悪い白い男達"によるものだった。彼
等は密林を伐採し、獣達を射ち殺し、おまけ
に今は、その太古、大地母神の住居だった神
殿から、母神の黄金を盗み出そうとしている。
神の神殿?遺跡があるのか?あの〈漁船〉に
乗っていた連中の仲間が、密猟団が、盗掘を
している?我々の部落は、神殿を護る為に、
母神に創られ、近くに住まわせられていたの
だ。幸いな事にこれまでは、ここ迄は余所者
は入って来れず、神殿も密林が上手に隠して
(根や茎や葉や苔や羊歯で)くれていて、平
穏だった。それなのに、とうとう見つかって
しまった、のだ。神殿の破壊が始まった。食
止めようとして、部族の戦士の半数が、銃で
撃たれて、死んだ。我々は神殿を護れない。
だから、母神が怒った。若い娘ばかりを密林
に呼んで、高い樹から、首を縊らせる。犠牲
(いけにえ)だ!若い娘ばかりが首を縊る、
だって?!いや、待てよ。それは、あんたらの
部族だけの事じゃないぞ。確か"相棒"の集
落でも、その周辺でも、起った、と聞いてい
る。町に住むインディオ種族の間にも、一時
流行病の様に、首を縊る若い娘達のパニ
ックが広がった、という噂だし。これは、そ
うだよ。"母神の犠牲"等ではない。原因は
不明だが"流行病"の、"伝染病"、の一種
なのでは?!いいや、わし等にはわかっている。
この災いは、全て母神の復讐なのだ!子孫を
作る若い男と若い娘がいなくなって、我が部
族は滅びるのだ……。
その"会話"に脅えた、とでも言うように、
密林は静まりかえっていた。お喋りの植物達
さえも、黙っている。いや、違う。これでは
静か過ぎる。みんな息を潜めているのだ。
突然、
「ヒエッ」と、悲鳴に似た声が、聞える。
先頭を行く若者の声。ジェロニモとインディ
オ達が、走った。
集落は間もなく、という密林の切れ目に、
若者が上を見上げて、へたり込んでいた。ヒ
ョロリ伸びた、一本の白骨めいた高い樹に、
若い娘が、首を蔦で巻き、ぶら下がっていた。
まただ。部族の娘だ。
インディオの一人が、呻く様な、絞り出す
様な声で、言った。
集落の出迎えは、複雑なものになった。
集落を救うべく出現した"巨神"への歓び
と、首を縊った娘の死体への哀しみ……。
小屋に閉じ込めて、見張っていたのに。い
つの間に抜け出したのか……。母親が、娘に
取り縋って、嘆く。そう言えば、出迎えたの
は、老人と女と子供達。若い娘の姿は無い。
嘆く母親を見て、ジェロニモは、改めて恐
怖を覚えた。
密林で、怒る母神が呼んでいる。
精霊が存在(い)るのだから、神もまた存
在るだろう。神は、精霊をも支配する強大な
力を持ち、わがままで、時に残酷な仕打ちも
する。神なのに、は通用しない。神だから、
そうなるのだ、と言う。密林を荒し、神殿を
破壊する白人達に怒り、それを護れないイン
ディオ達に怒り、若い娘の生け贄を求めてい
る、のだとしたら?!
隠されている娘が、後何人残っているのか
はわからないが、その数を加えても、部族の
人数が大して増えないことは間違いなかった。
この一ケ月で半分以下に減ってしまった、
というその数、たったの三十人弱。部族の絶
滅、その危機は、すぐそこに迫っているのは、
誰の目にも明らか、だった。
"首長"と"呪術師"と"治療師"を兼ね
ている、という長老が、勝利の祈りを籠めて、
吠え猿の肉を焼く。ジェロニモと戦士達を送
り出す〈出陣の聖餐〉だった。
終ると煙管が回ってくる。これを吸えば、
煙の向うに、精霊の世界が見える。そして
戦化粧。ジェロニモの顔には、深い傷跡が
掘られている。〈研究所〉で、技術者の一人
を殴りとばし、怒ったそいつが麻酔銃で撃ち、
意識を失っている間にメスで刻み込んだのだ。
その溝に、ジャガーにもらった血と、ウルク
ンの赤い実と、若い娘の"聖なる血"を混ぜ
て作った"朱"を入れる……。
出発は、激励の掛け声も無く、涙も無く、
静かに行なわれた。ジェロニモの寡黙の如く、
インディオ戦士の移動の如く……。
アマゾンの密林を、ワシの眼で見ると、濃
い緑の天鵞絨を敷き詰めた様に見える。降下
して近づけば、モコモコと毛玉の重なり立っ
た古絨毯、だ。
その四方八方を、白く光る大小の蛇が泳い
でいる。アマゾン川と、その名も無い支流で
ある。途中で絨毯に潜り込んで、姿を消して
しまう子蛇も多いが、密林の下を血管の様に
流れて、この世界最大の熱帯雨林を、そこに
棲息する何千種、何万種という動・植物を育
くんでいる。もっとも
この"描写"は正確では無い。水蛇、蛇行
する河川を生んだのが密林なのであり、また、
この密林の大半は、水の上に浮いていて、た
またま密生した森林の裂け目に露出して見え
るのが、アマゾン川、なのだから。
高温多湿、雨がよく降るのだ。が、その降
雨の全てが、直ぐに下の水面へ堕ちる訳では
ない。そんな事になれば四六時中洪水、で植
物を育てる"地面"も流されてしまう。
樹層の高さ七、八十メートル、と言われる
密林が、途中で、吸収している、からだ。そ
して、この巨木群を支えている"地面"が、
実は、平均四、五〇センチ程の厚みしかない
貧弱なスポンジ状で、樹々の根(板根)も伸
びて一メートル位で、直ぐに倒れると言われ
ている。"地面"が"(かっこ)"付きで、密林
は水に浮いている、としたのはその為なのだ。
アマゾンは、世界の熱帯雨林の30%を占め
ている。と言っても、世界の熱帯雨林が激減
し、至る所"砂漠化"している現状での30%
だ。言うなれば"瀕死の30%"……。
植物達は呼吸をしている。二酸化炭素(C
O2)を吸って、酸素を吐き出しているのだ。
もはや手遅れ、もう打つ手は無い、と言わ
れている"地球温暖化"の深刻さは、このC
O2(とその他のガス)の増加による。原因
は、先進工業国、後開発国が競争の様にして
吐き出し続けた、工場や輸送車(最近やっと、
殆んどの自動車を"電気"や"ソーラー"に
切り換えたが……遅かった)からの排気ガス、
だ。そして、人間の生活優先の旗印の下、開
発・開発、による森林破壊――。しかもCO2
を吸えなくなっただけではなく、森林をエネ
ルギーに転換する段階で、20億トンもの排気
ガスを作り出してもいる……。
……雨が降る。密林は貯水槽となって、ゆ
っくりと、下に落とし、薄い地層を保護する。
落葉、倒木、動物の死骸。腐葉土、微
生物。土壌は貧弱だが、滋味は豊かである。
この栄養が再び根に吸われ、樹々や植物群を
育て、水は蒸発して再び雲となり、雨となっ
て、降ってくる……。
この自然な、幸福だった"平和なサイクル"
は、一体何処へ行ってしまったんだろう。
森林を伐採し、開発する。ハイウェイを作
り、自動車を走らせ、ダムを作る。この変化
に、繊細な植物達はついていけない。動物達
も同じだ。死んでゆく。そして、森林がCO2
を吐き出す温床となる。いつの頃からだろう、
こんな"不幸なサイクル"に変ってしまった
のは。確かに
もう手遅れかも知れないが、しかしそれで
も、なにか打つ手を捜さなければ……。
ジェロニモが、アマゾンにやって来たのは、
それが一番の理由だった。
自然を、精霊達を救わなければならない!
だが、ジェロニモのそんな祈りの力も、無
類の肉体の力も、政治の力、金の力―なだれ
の様に流れるエゴという名の時代の力には、
なす術が無かった。それは恐ろしい皮肉、悪
夢の様な"戯画"だった。
もう手遅れだと?!何も打つ手は無い、だと?!
いや、まだ間に合う。何かある筈だ。
怒りと、焦燥の炎の中で、ジェロニモは(
密猟取締官)――絶滅危惧種保護官――にな
った、のだった。
ゴムの樹、カスターニャ(ナッツ)、アサ
イ(ヤシ)、トークマン(繊維・飲料)、バ
バスー(ヤシ・油)、ジュート(繊維)。
ウルクン、キャサバ、ゴヤバ、カイシカネ
―ラ、コカ……。
毒草、薬草、苔類、羊歯類、菌類、蔦に葛、
老いた樹、若い木、高い木、低い樹、赤い花、
青い花、堅い実、柔らかい実、果物、大きい
葉、小さい葉、ギザギザの葉、刺のある枝、
ツルツルの枝、甘い樹液、苦い樹液――。
アマゾンの、密林の植生は豊富だ。何でも
あり、その気になれば、衣食住の全てを賄え
る。
〈母神の黄金神殿〉は、そんな密林の中の
密林、だった。根、幹、枝、葉、蔦、葛、苔、
菌、花……で、びっしりと包みこまれた、巨
大な塊だった。あの中に、石造りの遺跡があ
る。そして、密猟団――四、五十人の盗賊団
も、いる。
奴等、盗掘の資金にする為に密猟をやって
いたのだろうか?それとも、金になる事なら
何でもやる、という無頼漢共なのか?そして、
もしかしたら、首縊りの"病"は、奴等"
侵入者"が持ち込んだウィルスが原因、かも
知れない。初めて接触した途端に、絶滅して
しまった、という少数部族の話は少なくない。
白人――文明社会では何でもない病原菌に対
する免疫が無いのだ。が、若い娘ばかりとい
うのは解せないが……。
見張りがいた。密生した密林の中の密林、
巨大な枝や茂みの壁、に添って、一定の間隔
で配置されている。肩から斜めに弾帯。手に
は銃…サブマシンガンやライフルの奴も。腰
には短剣。短銃までさげている奴もいる。白
人に黒人。原住民さえいる。インディオも人
間だ。生きる為ならなんでもする。ジェロニ
モは、インディオ達の密猟もよく知っていた。
白人バイヤーが、金になる事を教えてしまっ
たのだ。
お互いの姿が見える位置だ。そんな風に、
壁の周囲の密林は伐り開かれている。な
るほど、これでは迂闊には近づけない。
油断なく目を凝らす見張り達――部族の襲
撃に、余程懲りたのだろう――に見えない様
に、遠巻きに、巡る。前方に、やはり伐り開
かれた広場状の空間。そこに、大小10張り程
の天幕……。銃を持った男達が出入りしてい
る。その中の三人程が――残りは見張りだ―
壁に向かう。遺跡の〈神殿〉の入口だ!
いや、
絡みつく根や蔦を伐り取られ、刈られ、露
出した巨石に、乱暴に穿たれた穴、こじ開け
られた傷口――。作業の疲労がそうさせたの
だろう。
接近する。天幕の裏から、密林から、音も
無く、接近する。こちら側には見張りは、い
ない。……接近する。ジェロニモの
山刀が閃く。ブシュッ。天幕を切り裂く。
フシュッ、フシュッ、フシュッ。戦士の吹き
矢が三本、射込まれる。二人は既に転がって、
いぎたなく眠りに入っている。一人は腰を下
し、未練がましくビールのラッパ呑み……。
その仰向けた喉頭に、矢が刺って震えていた
が、男はそのまま、後方へ、ひっくり返った。
毒矢だ。横になっていた二人の男の、いびき
が絶える……。
昼尚暗き、と形容される程だから、密林の
夜は、早い。
〈神殿〉の"入口"付近に屯する見張り達
が、焚火を始める。灯影が葉群を、揺らす。
と、
ヒュッ。
男が一人。天幕から頭を覗かせて、口笛を
吹く。腕が出て、手招きし、引っ込む。
ン?!見張り達が顔を見合わせ、肩を竦め、
中の一人が、天幕へ向う。覗く。中は、神殿
入口の、焚火の灯影から届く灯りと小さなラ
ンプの灯りとで、ぼうっと暗い。なんだよ。
どうしたんだよ。と言いながら中へ踏み込む。
スッと見えなくなる。
ゲフッ……。
入った男が顔を出す。虚ろな目は、遠くか
らは見えない。手を振って、引っ込む。残っ
た見張り二人が、訝しげな顔になり、今度は
一緒に、天幕へ近付く。首を突っ込む。と、
ザッ。凄い勢いで引き摺り込まれる。
ジェロニモの鷲掴みだった。男の頭の骨が
砕かれる。
続く男が、ビクリ、と立ち止まり、よろよ
ろ、と、天幕の入口に倒れ込み……消える。
他の仲間達と一緒に横たえられたその男の、
捻じれた首の皺の間で、毒矢の羽が揺れてい
る。
密林が、風に似た溜息を漏らし、ひそひそ
声が高くなる。
"他の見張りの場所からは、此処は見えな
い。行こうか"
ジェロニモと戦士達は、天幕から外へ出て
入口へ走る。その風が、焚火の炎の舌を
踊らせる。と見る間に、一行の影は、"入口"
の闇に溶け込んで、消えて、いた……。
南米大陸は、"遺跡"で有名だ。
遺跡、と名の付く場所は、他の国、他の土
地にも数多く存在するが、アマゾン、アンデ
ス地方のそれは、エジプトのピラミッドと同
様、〈巨石造り〉という異様(威、偉容)さ
と、神秘的とも言えるスケールの大きさと、
時も寄せつけない精緻な工法で群を抜いてい
るからだ。
ティワナコ。マチュピチュ。クスコ……。
マヤやインカの古代都市。そして、ナスカ高
原の地上絵……。既に発見されているこれ等
遺跡群の"謎"も、まだ碌に解けていないと
いうのに。更にまだまだ、未発見の遺跡が存
在する、と言われている。
アマゾンの深い密林が、古代の眠りを、夢
を、隠し、護っているのだ。
インディオ達の言う〈母神の神殿〉も、そ
のひとつ、だった。開発という名の破壊が進
み、密林はどんどん、驚く程のスピードで小
さくなり、この奥地まで、白人が――人間が
入り込んで来て――、発見(みつ)けられた。
〈黄金〉や〈財宝〉が埋蔵されている。と
違法な盗掘に走るのは、この掠奪者達の属す
る文明社会なるものが、正に"奪う"という
行為の上に築かれたものだったからに他なら
ない。
〈大地母神〉の眠りを護る、と信じて、た
だそれだけのために〈神殿〉の傍に存在する、
未開の少数インディオ種族の生き方等、理解
の出来よう筈も無い。密林で行手を阻む葦や
刺のある下ばえ。吠え猿の如く小五月蝿く、
ジャガーやカイマン(ワニ)の如く邪魔で、
危険な奴等だ。しかも
奴等は理由も無く一度、襲って来た。姿を
見次第、射ち殺せ!
〈神殿〉の内部は、左程暗くは無かった。
コードが走り、適度の間隔で、照明がぶら下
げられて、いたからだ。"自家"発電機なの
だろう。ブーン、という微かなハミング音。
"照明"の通路を奥へ進むと、別な音が聞
え始める。石と金属の競い合う音、だ。
カッ・カーン。カン、ズ、カカカカカ……。
金属音が焦っている。石は頑固で、どうやら
まだ〈黄金〉は見付かっていない、らしい。
次第に高まる騒音の中を、影がひとつ、や
ってくる。"照明"に入る。ヘルメットを被
った男。不精髭を伸ばし放題。多分、ビール
が作ったせり出た下腹。土埃りで薄汚れたラ
ンニングシャツ……。ひょい、と横路に曲が
る。匂いからすると、急造トイレの様だ。石
壁に添って掘られた溝に、小便をしている。
罰当りめが!
首に毒矢が立って、男は溝の中に崩折れた。
喧ましい音の中心、に辿り着く。そこは広
間の様な空間で、十人程の男達が、鶴嘴や削
岩機で巨石の壁と闘っていた。少し焦げ臭い
石粉が舞っている。しかし音は
既に開けられた、二本の穴の奥からも聞こ
えてくる。どうやら、この"広間"から道路
が、放射状に延びているらしい。片隅に銃が
立て掛けられている。ショットガン、サブマ
シンガン、ライフル、カービン銃……。種々と
りどり。雑多。
ジェロニモが飛び込んだ。復讐に躊躇など
要らない。その、巨躯とは到底思えない素早
い動きは、ドリルの喧騒が無くとも、音がし
なかったろう。腕が弧を描く。
三人の男が、一度にふっ飛び、人形の様に
クシャクシャに潰れた。
インディオ達が続く。石の刃先が、やっと
驚いて振り向いた男達の腹に、胸に、首に、
突き刺さる。
ジェロニモの、またの一振りで、二人の男
の、首の骨が砕ける鈍い音がした。手加減し
なければ、千切れて飛んでいるだろう(手加
減しても死が見舞うのは同じだが)。強力な
手刀だ。もう、ドリルの音もピックの音も消
えている。
あっという間に、声ひとつたてずに、男達
が"広間"に横たわっていた。
・バミューダ・トライアングル
深海流 ストリーム
ブレイク・プラトー … 海底の地形
・メタン・ハイドレート
ガスの泡 浮力を失う
人類の叡智
ゲーテ もっと光を…
五 ガイアの都
植物達は、お喋り、だ。
夜も昼も、四・六時中、囁やいたり、喚い
たり、泣いたり、笑ったり、している。
植物達――密林の"植物"達は、こう総称
するしか呼びようが無い。樹もあれば草もあ
る。蔦もあれば苔もある。花も咲いているし、
果実の種も多い。太古から生きている種族、
それ程でもない新種族、薬草もあれば毒草も
ある――、数えればキリの無いその連中が、
我勝ちに喋っているのだ。五月蝿くない筈は
無い。だから
密林へ入る時は、その"声"が聴える者に
とっては、それ相応の覚悟がいる。
このお喋りに耳を塞ぐか、無視するか、で
なければ、一緒になってお喋りするか……。
しかし、この騒々しさも"悪い"事だけじ
ゃない。他愛の無い四方山話や、哲学的とも
言える独り言の中に(その点動物達のお喋り
は、声を出すだけに野卑で単純だ)、貴重な
情報が含まれていたり、する。心の耳を開い
ていさえすれば、向うから呼びかけて来て、
教えてくれたりもする。結構、植物達は、お
節介焼きでもあるのだ。
"そっちよ、ええ、そっち!""違うって
ば、こっちじゃない!""ひとつの夜の前、
お天道さまが梢の天辺にある頃じゃったが、
それよか大きな〈舟〉で、沢山の〈人間〉が
……""ケモノを殺す〈銃〉を持ってたよ"
"そっちじゃない。こっち、だ""ええ、そ
"
"う。それでいいのよ。〈雨〉が少し多く降っ
"
"たから、水の道が変って通れる様になってい
"
る。気を付けて……!
今も、そうだった。幹をきしませ、枝を揺
すり、葉を戦かせて、教えてくれていた。
ジェロニモは、右手を挙げてそれに応え、
これまでは"通行"不能と思っていたこっち
の水路に〈舟〉を入れた。
〈舟〉は、エンジン付きのカヌーだ。それ
程大きくはない。"巨人"と呼んでも、誰か
らも異論は出ないだろうジェロニモの舵を操
って斜めに座る躯は、当然の様に縁から食み
出している。
エンジン音は、今の所快調だ。ト・ト・ト
・ト・ト……。血管の中に聴えてくる心臓の
子守唄の様に、時に眠気を誘う響き。
両岸から次第に根や幹が迫ってくる。覆い
被さる、重なり合った樹々の枝葉が切り裂い
た空が、どんどん狭まる。そしてやがて、綻
びが縫い合わされていく様に閉じて……消え
た。
この川は、密林の中を縦横に流れる、アマ
ゾンの正に血管の様な支流の一本なのだが、
現われたり消えたり、上空からの確認も出来
無い、となると、地図にも描き込めない。こ
うして"通行不可"の、無言の、未知の水路
が無数に生まれる。が、
植物達の"言葉"に嘘は無い。水路は続い
ている。しかも、密林が湖沼の中に侵略して
きて四方八方みな水路、という具合だ。これ
が、多量の雨が現出させた"通行可能"な新
しい"水路"なのかも知れない。
"そのまま真っ直ぐ""右に曲って……"
植物達の、適切な"指示"が無ければ、忽
ち路に迷ってしまいそうだ。
ジェロニモは、また軽く右手を上げて、素
直にその"指示"に従いながら、植物達に感
謝した。
元々、ジェロニモはお喋りは苦手だ。好き
ではない。"仲間"達と一緒の時でも寡黙だ。
黙っていろ、と言われれば、一年でも二年で
も黙っているだろう。沈黙は苦痛では無い。
誰かが〈沈黙する岩の如し〉と、形容した
事があったが、実は、これは、間違っている。
岩も"喋る"のだ。
森羅万象、ものみなに"精霊"が宿ってい
る。"精霊"を"言霊"と言い換えても一緒
だ。
そう言う目と耳と心で"自然"と接して
いる、ジェロニモ達ネイテヴ・アメリカンに
とっては、植物や動物達が"喋る"のは当然
の事だったし、山や河や、時に大気とですら
話す事が出来た。囁き叫び、たゆたい駆
け抜けながら、遠い異国の珍らしい祭事を、
隣りの部族の深い哀しみを、風の"言の葉"
で知るのである。
岩の如く、ジェロニモも、だから"喋って"
いた。"言霊"で、"心の言の葉"で。ただ、
相手に聴えていない、だけだ。鳥や虫、魚、
それに獣、動物達の"お喋り"は別にして、
植物達の"お喋り"が聴えない様に、だ。
それにしても、樹や草や花々はよく喋る。
密林ともなれば、かしましい、になる。だか
ら、ある意味での"覚悟"が必要になるし、
耳を閉じたり開いたり、の"調節"もし
なければならない。夜になり、眠りが要る時
にも、夜行性の植物達に引き継がれる"お喋
り"は止む事が無いからだ。が、
今は、そのかしましい"お喋り"が有難かっ
た。ジェロニモは、人殺しの動物密猟団を追
跡していたからだ。
"その〈舟〉より大きい〈舟〉、ひとつと
ひとつ""ケモノ達を殺す〈銃〉を持って、
沢山、人間の男達"
ジェロニモは、現在、〈密猟者取締官〉を
やっていた。今、植物達の声を頼りに追って
いるのは、徒党を組んで、絶滅寸前種ばかり
を狙いにしている(高値の取引きが約束され
ている)、悪名高い密猟グループだった。
いつもなら、最低でも二人、通常なら四・
五人でのパトロール、あるいは追跡、が規則
だ。今日の、一人で、には理由がある。近頃
の"二人パトロール"の時の相棒(やはり無
口な、現地出身の若者だった)を、密猟団に
殺された、からだ。
偶々、本部へ連絡する事が出来てジェロニ
モと別れ、車に戻ったほんのちょっとの間に、
殺されたのだ。喉を掻き切られて……。ヤツ
ラの仕業、という事は直ぐにわかった。車の
ドアに血糊で〈MANKIND!〉という、
挑戦的で驕った密猟団の自称グループ名が、
殴り書きされていたからだ。
ジェロニモは、そのほんの間を、油断を悔
やみ、自分を責めた。そしてそれは直ぐに、
激しい怒りになった。
気の合う"相棒"だった。北と南の違いは
あっても、同じネイテヴ・アメリカンだ。
時折、ジェロニモという名前を――本名で
は無いと知っていて――からかっては喜こん
でいたっけ。
"よォ、映画スター!"
古い"西部劇映画"の悪影響で、インディ
アン(その頃はネイテヴ・アメリカンでは無
かった)なら誰でも、ジェロニモと呼びたが
る単純な発想の男が"名付けた"のだ。ジェ
ロニモはシャイアン族の酋長で、テカヘ族に
はその名の者はいない。テカヘ族は、ネイテ
ヴの中でも更にネイテヴで、"相棒"の種族
も、またそうだった。
だから二人共、絶滅寸前希少種の保護に心
底、熱心だった。彼等も希少種だったのだ。
後で必らず追跡隊を組むから、という本部
の慰留と忠告も聞かず(追跡隊、はこれまで
も何度か組織され実行されたが、思うような
効果は得られなかった。密猟団の方が、取締
警察より、何倍も組織的で密林にも詳しかっ
た、からだ)、孤独な怒りと復讐の逆流追跡
行が始まった。
植物達の"指示"に従って暫らく進むうち、
いつの間にか水路はまた、一本になっていた。
狭く、折れ曲ってはいたが、鬱蒼たる密林の
トンネルを、密猟ハンター達にも未知の奥へ
奥へと続いていた。
動物達も"お喋り"だ。
直接"音"で伝え合うだけに、植物達の"
お喋り"を女性的(囁き合い、噂話好き、か
しましさ)とすれば、こちらは少し野卑で男
性的、である。
ジェロニモは、吠え猿の、早朝の"発声練
習"で目を覚ました。この時刻の吼え合いは、
鶏の"目覚し"程の意味もなく、そうとしか
思えない。
宿を借りていたのは、洞状の根を持つ古木
だった。夜も無く昼も無く、いつもウツラウ
ツラと半覚半睡状態の老木の胎の中は、居る
だけで心落着けたし、眠りを邪魔する夜行性
のケモノ達の好奇心からも、夜鳥からも護っ
てくれた。
夜、植物達(夜型)の"指示"に従えば、
そのまま進み続ける事も出来たし、疲労も感
じてはいなかった。"鉄の男"は元々、疲れ
る事を知らなかったし、今は"復讐"という
思念が、全身の筋肉に、触れれば弾けそうな
緊張感も与えていた。それに、ヤツラの居場
所は、もうわかっている。〈舟〉で後半日の
距離。既に着いて、そこにいる。気は急くが、
慌てる事も無い。ヤツラは、〈人間〉達は、ず
っとそこにいる、と植物達が話している。"
お喋りネットワーク"は、密林の途切れるま
で、健在、なのだ。茂みの隙間から夜の密林
へ上り、仮眠を取ったのは、ただ、昼型動物
や昼型植物への"心配り"からだった。エン
ジンの音は、思うより大きく、遠くまで響い
て、彼等の夢路を妨げる事になる……。
薄闇を、深い霧が埋めていた。ミルクか羊
水のような淀みは、ジェロニモをますます胎
児の様な気分にした。
ふっ、と気配がした。
"息"物の気配。今日覚めたばかりか、そ
れともこれから寝穴に戻る、いずれにしろ寝
惚け眼の、余り危険の無い小動物。吠え猿の
声も警告にはなっていないし、植物達の
お喋りにも変化は無い。見慣れた日常の
光景の中に収まっている"息"物。だから
一対の弓と矢が、霧の壁の中から投げ出さ
れ、足元に落ちた時には、滅多に驚く事のな
いジェロニモもさすがに少し、驚いた。音も
無く、霧が産み出された、とでもいう様に、
見た事もない羽飾りのインディオが数人、周
囲から湧き現れた。そして一斉揃って、ぺた
りと地面に膝を付き、腰を折り、地面に額を
擦りつけた。つまり、服従の挨拶をしている
のだ。
見知らぬ種族達のサインは、直ぐに読めた。
老木の胎から目覚めて出現した巨人、は、彼
等の目には"神"と映ったのに違いない。
"違うよ"とジェロニモは念じた。普通の
言葉が通じないだろう事は、彼等の"祈
り"が未知の言葉の連なりから成っている事に
気付いたからだ。密林の懐中は深く、まだ時
折、少人数(大人数の部族なら、とっくに存
在を察知されている)の、部族とも呼べない
ような部族が、発見される。
"俺は、お前さん方と同じインディオだ"
そう、絶滅寸前希少種の動物と同じ。俺の
部族も、滅びかけている。いや、既に滅びて
しまっているのかも知れない。"保護区"と
称される監獄の中で、朽ちて、果てて……。
インディオ達は、ポカン、と顔を上げ"巨
神"では無い、と言う"巨神"を見詰めた。
植物達に話しかけるのと、同じ"方法"が
通じたのだ。
"俺は、悪いヤツラを追って来た。そう、
狩人なんだ"
"……そいつらなら知っている!"
インディオの一人が勇気を振って言った。
吠え猿達の"発声練習"は、いつの間にか
止んでいた。霧も晴れ始めている……。
大きい葉、小さい葉、老いた樹、若い木。
蔦、蔓。赤い実、青い実。花、苔、羊歯、下
生えの雑草、菌類……。
密林を進む。チラチラキラキラ、木漏れ陽
が一緒だ。
"巨人"ジェロニモの後になり先になり、
小柄な原住民達が、音も立てずに、進む。
"近道を案内する""ついでに、我々の集
落にも立ち寄って欲しい""〈舟〉は、ここ
に置いて行くべきだ。川沿いに、あいつらの
見張りが何人もいる""あいつらは〈母神〉
の都を荒している""我々は、ずっと先祖
の昔から、〈母神〉の都を護っていた"
インディオ達の申し出を有難く受けたのは、
あいつらの情報がもっと知りたかったし、母
神と都の話も訊きたかった、からだった。
"〈母神〉の都?!"密林に埋もれている、
未知の遺跡の事か?! "荒してる"とは、盗
掘?!あいつら密猟団の真の目的はそれだった
のか? そうなのか?!”
かって、この大地の全てを治める〈母なる神〉が、
あの〈黄金の神殿〉に住んでいた。
母が去り、家臣が去り、住民が去って、
都と神殿と黄金だけが残された。
それが何故なのか、最早集落の長老にもわからない。
あいつらは、その黄金を盗み出そうとしているのだ。
止めさせようとして、血気に逸る集落の若者の
何人かが射ち殺された。
あいつらの数、およそ50人……。
“あなたはやはり“精霊”の使いだ”“あ
いつらと戦うためにつかわされた”“我々も
一緒に戦う”“都が護れないので〈母神〉が
怒っている”“……若い娘ばかりが、次々と
死んでいる”
“若い娘ばかりが?!”
“高い樹に登り、蔓で首を縊って、跳び降
りるんだ……”
ジェロニモは吃驚した。以前にも何度か、
幾つかの集落で起った、若い娘ばかりの首縊
り事件、の話は聞いていたからだ。殺された
相棒の集落でも、それは流行病の様に起って、
若い娘を持つ家は、戦々恐々となった、と言
う。が、いつしかそれも収って――その終焉
の仕方も、正しく流行病の様であった――、
やっと“恐怖の伝説”になりつつあるが、今
もって原因が何なのか、何だったのかわかっ
ていない……。
それが今、この種族の集落で始まっている
という。一体、何なのだ?!住んでいた、その
“黄金の都”を荒された母なる神、ともあろ
う者が、いくら怒りに任せて、とは言えそん
な事をするだろうか?密林の奥にある、違う
集落でも同じ事が起っている。いや、わから
ないぞ。密林は続いている。大地も川も続い
ている。全てを治めていた〈母神〉だと言う
ではないか。それに、時に“神”は、気紛れ
で途方もなく残酷な悪戯もする、と言うでは
ないか。
“精霊”が存在するのなら“神”も存在す
るだろう。
ジェロニモの“筋肉”が、ビリビリッと震
えた――。それを冷まそうとでもするかのよ
うに、突然、スコールが墜ちて来た。
出迎えたのは、老人と母と子供、十数人で、
若い娘はいなかった。残った娘は小屋に閉じ
籠って(こめられて)いるのだろうか。
戻った男達と合わせても30人足らず、正に
“希少種族”だ。
〈長〉と呼ばれる老人の一人が、“戦士”
達の出発を、火と水と塩で清めた後、一行等
は出発した。結局、若い娘達はその間、姿を
見せる事は無く、その死の秘密も、封じ込め
られたままになった……。
下生えの羊歯、雑草、蔦や根、折れた枝、
など等が重なり合い絡み合って、とても“道”
には見えない“道”を、弓や槍で武装した、
6人のインディオ戦士達が進む、素早く、音
も無く。ジェロニモにはその“技”は無かっ
たが、しかし
“巨躯”にしては、夜の王(黒豹)の様に
動く。
なんとか歩調は合わせていた。迷彩服は既
に、あちこちカギ裂きだらけになっている。
〈都〉に着いたのは、集落を出発してから
二時間程、後の事である。
〈都〉とわかるのは、所々で、“密林の塊”
に出遭い始めたからだ。根や葉という包装紙
に、すっぽり包まれた遺跡という贈物。
直ぐに、その、時間を包みこんだ密林の塊、
密生した植物の壁の間を通る、様になった。
その壁のひとつを曲った所に、インディオ
が一人立っていた。初めての顔。少年だ。塊
の上にもう一人。見張っていたのだ、と言う。
“中を壊している様な、大きな音が何度か
した”“でも、黄金らしい物は、まだ運び出
されていない”
そこから見える一際、巨きな壁が〈母神の
住居〉、〈黄金の神殿〉、であると言う。そ
れは、成程はっきりと、遺跡に見えた。あい
つらが密林の包装紙、根を伐り、枝を落し、
葉を払って、中の巨石の多くを露出させてい
たからだ。
位置を摩らす。巨石に穿たれた大きな“入
口”とおぼしき穴。
肩から斜めに弾帯、連発銃を構えた町の(
派手な柄シャツの)インディオが、見張りで
立っている。腰に短銃を下げた、不精髭の白
人が二人、何か喋りながらその“入口”から
出て来る。忙しそうに、矢張り武装した黒人
が中に駆け込む。
傍らに大小幾つかの天幕が張ってある。
うむ。インディオ達の数を信ずれば、50人
だ。こちらは子供2人を入れて9人。(ふっ
と“仲間”達の顔が過ぎる)5:1か。まァ、
何とか出来ない数ではない。
木陰から樹陰へ、茂みから繁みへ、9つの
影が移動する。近づく、中の気配を、探る。
人のいそうな天幕は、そっと覗く。覗いたイ
ンディオの指が立つ。2本。3本。2本……
7人。先ず大天幕の3人から始末しよう。
ジェロニモが山刀で、一気に、切り裂く。
いぎたなく眠ってる奴、酒を呑んでる奴……
交代要員なのだろうか。インディオが三人、
素早く、かわりばんこに、吹矢を、射る。
目を押さえ、耳の後を押さえ、首を押えて
三人はまたいぎたなく眠りこけ、泥酔して崩
折れる。もう二度と、神殿の盗掘交代要員を
勤める事は、無い。
残る二つの天幕も、同様にして片付ける。
さて、後は、あの入口の見張りと、中にいる
40人ちょっとの悪党共だ。どうする?
外へ出て来るのを待って、少しづつ殺って
いくか。中へ飛び込んで一気に、あるいは、
暗闇に乗じて一人づつ、消していくか……。
待つ間、には、川添に散っているという見
張り等が、引き上げて来る危険がある。出て
来た者が、銃を撃ちまくる恐れも多分にある。
中に入れば、仲間同士で誤射する、という
リスクがあって、そうポンポンは撃ちまくれ
ない。それに……
インディオ達は、中に入るのを畏れ、尻込
みしたが、ジェロニモは、銃を持った相手と
狭い(しかも暗い、であろう)場所で戦う利
を上げて説得し、では、と動き出そうとした
時――、この案は、見事に反故になった。
ガヤガヤ・ワハハハ・ハハハ……。
声高に
六.天空の食
@泥豕(どろのぶた)
「食は火なり!」
小肥りの男が天を仰いで、突然叫んだ。
火なり"火なり"火なり 左右に、天を
区切るように聳える峨々たる岩塊から、忽ち
木霊が黒豚の背に揺られる男に投げ返されて
きた。
「炎の芸術なり…バクハツだ!!」
黒豚は無言だった。
「火無くして料理ならず!」
防水布を筒状に丸めたものやジュラルミン
のトランクや、ランプやポットやジャーや、
その他その他の雑多な旅行用荷物の隙間から
首を伸すようにして、男がまた言った。
黒豚はやはり、黙って歩き続ける。
「味の極意こそ、火加減の極意と見たり」
黒豚「……」
「故に、わが体内に火持てるワレは、世界
一の"炎の調理人"はたまた"料理の鉄人"
と申すべき……」
ブフ。
黒豚が初めてその、トレードマークでもあ
る大きな鼻を鳴らした。鼻なら負けんわ、と
ばかりに、その大きな団子鼻を突き出して、
ジロリ。男は、上から黒豚の(あればだが)
の捩れたような何本もの皺をねめつけた。
「オミャァ、この、ワシをバカにしてるア
ルな!」
黒豚は、トボトボと坂道を上り続ける。そ
の重そうな巨体に比しては、悲しい程に短か
い四肢にも拘わらず、スピードは一定で変ら
ない。左は威圧するように、絶壁が切り立ち、
右は反対に大小の岩塊がゴロゴロとランダム
に重なって落ち込み、そしてその重なりの底
は渓流だった。渓流と言っても、透明な水が
サラサラ流れている沢ではない。濁流だ。茶
色の水が白い息を吐いて迸っている。今は雨
期、間もなく夏だ。時間は余り無い……。
道の小石でも踏んだか、黒豚がブッとなる。
「いンや、言い訳するな。オミャアはワシ
を嘲笑ったのに違いない」
カラン、コロカラ、カツン。落石だ。時折
降ってくる。小肥りの男は、特製の鍔広の帽
子の顎紐を絞める。が、別に慌ててる風でも
ないが、チラッと目に生気が戻る。変化はど
んなものでも歓迎だ。
「オミャァはこう思ってんだろう。上海の
飯店にじっとしておれば呑気に暮しておれる
のに、なにを好んでこんな苦労の多い阿呆ら
しい旅に出たのか?!」
黒豚は応えない。上海のネオンもチベット
の岩だらけの高地も、黒豚には区別のつけよ
うがない。ただこの山道は、ちっとばかり歩
き難いだけだ。男はまたジロリと首筋の(あ
ればだが)皺をねめつけて、言う。
「いいだろう。そうやってボケてろ。オミ
ャァはそーゆーヤツなンだ。大体その、如何
にも小狡そうなチッコイ赤い目が気に食わん。
人間サマをバカにしとる目だ」
黒豚の目など…見ようによってはギリシャ
の哲学者のような気難し気な、また、見よう
によっては不機嫌なガキが、路上に掻きまく
った神経症的な混乱した線のような皺の中に
埋もれて、見えやしないのだ。それに、ブツ
ブツ言っているこの男の目だって、他人サ
マ(ではないが)の目の事をとやかく言える
程、パッチリなどしていない。
「いいか、これだけは覚えておけよ。オミ
ャアを連れて来たのは、荷物運搬用兼乗り物
用兼、非常時用食材、としてだ。いつだって
調理して食っちまえるんだ。ふン、もっとも、
世界一の中華の達人に料理してもらえれば、
食用バークシャーの最高最大の名誉となるだ
ろうが、な」
ブヒ、ブフ……。黒豚が鳴いた。
「ほ、いいぞ。やっと真面目に聞く気にな
ったか。それでいいんだ。ニンゲン、素直じ
ゃないと大きくなれんからな」
黒豚は体長2メートル近く。体重は500
トン、あ、いやkg位はありそうだ。丈夫に
素直に育っていた。
「豚料理の最高は、あハン、何と言っても
丸焼き、姿焼きだろ。勿論、丸焼きと言って
もそのまま火にかける訳ではない。先ず丁寧
に皮を剥く。次に腹を裂いて内臓という内臓
を取り出す」効果を味わうように、ちょっと
間を入れてみた後、続ける。「使える内臓は
よく水洗いして再び腹の中に戻し、使わない
もの、と言っても一品料理や別の料理に使っ
たりするんだが……。取り皿に分けて、余っ
た場所には野菜やヒトウ、チンピ、ニンニク
といった香辛料を詰めて、凧糸で縫い合わせ
る。そして串刺しにして火に掛けるんだ!あ
あ、で――。時に頭などは、七つに切り分け
るぞ。特に脳ミソは珍味になるからな。こう
して置いてちょいとした細工を施し――リン
ゴなんぞ咥えさせることもある――これまた
火にかける。時折少量の水を振りかけるのは、
焦げ過ぎないようにするためだ。強くもなく
弱くもなく、程よい火勢で焼き上がった時は、
焼いた人間サマも焼かれた豚も、ああ、この
世に生を受けてヨカッタ!としみじみ思う。
どうだ?しかし、いい気になるなよ"豚肉な
どは、貴人は食せず、泥の価と同じ"と言う
た者もおるんだからな」
黒豚は感動しているようには見えない。傷
ついたふうにも見えない。相変らず歩調を緩
めず、トットコトットコと、凸凹の急坂を登
り続けている。
異常に暑い。空は吸い込まれそうな青さだ。
このところ恒常的になりつつある地域的異常
気象、というやつのせいかも知れん。
男の団子鼻がヒクリと動いた。と、いつの
間にか左手に長い煙管が現われた。右手には
革袋。片手で器用に紐を緩め、中からキザミ
葉をつまみ出して(たっぷりと)管首に詰め
る。その盛り上った葉の上に、ペッと唾を
吐く。いや、唾ではない。マッチの先程の小さ
な火。ふーッ、男の団子鼻が大きく開き、紫
煙が勢いよく吐き出された。この見事な奇術
師のような男の手並を見ている者は誰もいな
かった。
「ふむ、酸素が少ないせいか、味がチョイ
違うな」酸素が"商売道具"の男にとっては
高山病など関係ない。
黒豚の肺も、今のところ低酸素に影響され
ているふうには見えない。とにかくタフなブ
タ、という事だ。
ワシは……。鼻から洩れ上る薄い煙をボン
ヤリと見ながら、男は考えた。……こんなと
ころでヤニをしている。これじゃ退屈から逃
れようとして、また別の退屈に捕まっちまっ
たのと同じだ。それとも……
「あのお伽ぎ噺を本気で信じているのか?」
驚いたことに男は半ば以上信じていた。こ
の話には、そしてこの地図には真実の匂いが浸
みついている。ワシの鼻が微かなその匂いを嗅
ぎ取っている。が、しかし確信ではない。そし
てなによりも退屈だった。
上海の飯店を出発してから、もう優に三週
間は過ぎている。四川省の成都から西域自治
区のラサ市クンガ空港までは、それこそ、ひとっ
飛びだった。ラサ市は例の、ダライラマの聖
所(であると同時に、権力闘争と陰謀も渦巻
く)が建つ場所、として有名なところだ。
現在も、途方も無い異常事態が発生して騒
然となっている。なンと、ダライ・ラマ15世
選びの条件に、5人もの少年がピッタリの当
確をしてしまったのだ。おまけに中国政府か
らも、やはり同条件を満す3人が発表され、
計8人の未来の聖王が犇めきあっていた。
人々は、なにか善い事の起る前兆か、それ
とも凶事の兆しなのかと、不安そうに囁き交
わし、増々神々へ祈る時間を増やしていた。
8人ものダライ・ラマ候補の出現が、オメ
デタイ事の前触れ?ンな筈あるかヨ。低酸素、
寒冷、過乾燥の、平均海抜4500メートル
のこの高地。この異様な暑さ。地域温暖化や
異常気象が恒常化になって来ているとは言っ
ても、これはヒド過ぎる。
小肥りの男は、鼻の頭に朝霧のようにびっ
しりついた汗の玉をプルンと振り落としなが
ら、特製のチベット探検用、チャイナモード
コートを脱いで、下腹に袖で巻きつけた。
そして、祈る人々の流れに入った訳だった。
街中の道の真ン中に設置されている香炉の
煙を浴びながら、「オン・マニ・ペメ・フーン」。
これまた街中にあるマニ車を回して願をかけ、
五体投地もやってみた。が、これは鼻と腹を
擦り剥いて、直ぐにやめた。異様と神秘のな
い混ざったポタラ寺院では、多くの仏陀や神
々(の壁画)とご対面し、ラマの高(?)僧
と(院内は坊さんだらけで、誰がエライのや
らエラクないのやら)「チベット死者の書」
と"臨死体験"の近似について論じた。しか
し、どの僧に訊いても(修業中の少年僧さえ
も)ラマ僧になったのは、一・世界を救う為、
二・チベットを救う為、という答が返ってき
たので驚いた。心からそう信じて勤めている
のだ。
ラサを出てギャンツェまで100km、そ
こからシガツェまで300kmはバスに乗っ
て、約一日の旅だ。黒豚の事をブウブウ言わ
れ(運ちゃんと乗客の両方から)、運賃を3
倍払わされた。マ、身体の大きさや重さから
言えば妥当なところか。シガツェからラツェ
までの100kmは、日本のテレビクルーの
4WDに便乗させてもらった。名古屋生活で
憶えたキャアモ、名古屋弁が役に立った。つ
いていた。が、彼らの取材はカトマンズだと
言うので、そこで別れた。
男は西へ、取り敢えずの目的地である聖山
カイラースを目指す。残るは約500km。
黒豚との"同行二人"が始まったのだ。ヤル
ツァンポ河を左に見ながら、ゴツゴツした岩
だらけの道無き道、といった道を進む。1日
20km進むのがやっとだった。景観は延々
と変わらない。広大なる荒地なのだ。時折、
野生のヤクの群をチラリと見たりする事はあ
るが、人には遭わない。
吸い込まれそうな青空、ジッと動かない銀
色の群雲。時折耳を嬲る生温い風以外は、ジ
ンと音がしそうな静寂。意固地に沈黙を続け
る黒豚。退屈が始まった。おまけに
あの地図は本物だ。あの男の話は真実だ。
という匂いも、空腹時の胃袋の退屈という胃
酸に消化され、消え始めていた。確信が揺ぎ
始めていた。ふン、と男は鼻に深い皺を寄せ
た。小人閑居してナントやらだワ。たく、な
にやってんだオミャア。あたっていたのは黒
豚にではなく、自分にだった。
突然、視界が開けた。だらだら坂を登り切
ったのだ。瞬間、季節も一変したかに思えた。
〈風の馬〉が踊っている。ルンタと呼ばれる
護符だ。下の盆地から涼しい風が吹き上げて
いるのだ。中央に天地を祀る祭壇が、死んで
も立っている巨人のようだ。その両側に白い
積石碑がひとつづつ。経文や陀羅尼を書いた
祈祷旗が、バサバサバサバサと意外な程の大
きな音で、うねり、悶え、叫ぶ。まるで本気
で嘆く、泣き女のようだ。
空、雲、岩山、草原。その一隅に白い毛玉
の虫のような一群が、微かに蠢めいている。
少し離れて、地面にしがみつく黒い地蜘蛛の
ような天幕が二つ、三つ。遊牧民だ。天幕の
ひとつから煙が一筋立ち上がっている。緑、
茶、白、青……。こんな景色の中では、久し
振りの、殊更にホッとする温もり。
小肥りで団子鼻でチビの上海から来た中国
人は、黒豚から降りると、今度は下り坂を、
煙の方にゆっくりと歩き始めた。空、雲、連
なる岩山、黒い天幕、羊の群。その群の中央
あたりに頭ひとつ。目を真ン丸にして、近づ
く黒豚と中国人を見つめている少年の顔……。
A胡炮肉(羊の蒸し焼き)
目を丸くしたままの少年は、小さな妹を膝
に抱えた母親の背に半分隠れるようにして、
それでもまだジッと、中国人を見つめている。
少年はルン、この家族の長男だ。放牧してあ
る羊の世話が仕事である。
「俺はラサンだ」
高地の風に晒された、渋紙のような手であ
った。「ワシは・え……と」その手を握り返
しながら男は、ちょっとの間言い淀んだ。
「――張々湖。中国の上海から来た。ああ、
その……、旅の奇術師アル。ほっほっほ」
張々湖、だと?ふンとに!あのイシノモリ
とかいう爺サン、いい加減な名前をつけてく
れよって……。まァ、もっとも、本名は使え
ない。いずれにしろ偽名で通さなきゃならな
いのだから構やしないと言えば構やしないの
だが。それにしても張々湖。おいおい、もっ
となにか、カッコいい、ましな名前があった
ろうが?!
奇術師と聞いて、少年は目をパチクリさせ
たが、今はまた真ン丸だ。言葉はなんとか通
じている。香港に出稼ぎに行った事がある、
という"隣り"の天幕の亭主が歓迎に、いや
覗きに、来ていたからだ。
スーチャ(バター茶)が振舞われた。タン
茶の茶汁にバター、塩、牛乳を入れ、攪拌し
たモノ、だそうで蛋白質に富んだ飲物だそう
だ。なによりも、久し振りの、舌にピッとく
る熱さ、が美味かった。
とにかくみんな人懐っこく、身振り手振り
を交じえた会話が弾んだ。が、やはり、話題
の中心は5人の、いや8人の(と言いながら、
隣りの亭主は上目遣いにチラ、と張々湖を見
た)ダライ・ラマの事だった。前代未聞、驚
天動地、末世の兆しなのかそれとも……。が、
大方の意見は肯定的なものだった。神と人が
更に一体となる世の中を創る為の準備に違い
ない。その為には5人、いや8人ぐらいの手
は必要だ。
神や仏に祈り、交わり、一切衆生と世の幸
せを願い、人と人との温もりを何より大切に
しながら、かくも厳しい自然の中で暮してい
るからこその"確信犯的楽天性"なんだ、と
張々湖は感心して思う。と、その時、「あンた!!」
天幕の入口から幼児を抱えた、隣りの(ら
しい)女房(かみ)さんが飛び込んできた。
「銃を持った男たちが、やってくるよ!!」
「えっ?」
「なにッ?!」
先を争うようにして天幕の外に出てみると、
既に家族…老人や女子供が7、8人、彼方を
見やりながら、集まり始めている。その彼方
には、五つの黒い巨大な影。銃を持ち、ヤク
に乗った、五人の男のシルエット。
陽が冷え込んで、空は黄色に染まり始めて
いた。影は意外とも思える速さで、みるみる
大きくなっている。近づくにつれて、影に濃
淡が生じる。ギラギラ光る眼だけ出した黒の
頭巾。チュパにズボンというチベット山岳民
独自の服装(ジャンパーを着ているやつもい
る)に、肩から斜めの弾帯、腰には短剣と、
ウルドと呼ばれる狼除けのムチ、短銃もどっ
かに持ってるかも知れんな…と張々湖は、小
さな目を更に小さく眇める。右手に銃。どう
やら古い型のロシア製トカレフに見える。黒
一色で愛想の無いやつらだぜ。ヤクも黒い長
毛に覆われ、その巨体は鈍重そうに見えるが、
小走りで接近するスピードは中々のものだっ
た。威嚇的な大ぶりの角と、土を蹴散らす蹄
の音との相乗効果で、凶暴な怪獣にさえ見え
る。いや、実際、ヤクは気が荒く短かく、扱
いにくい野獣ではあるのだ。
ドドドッ、ヤクの一団が、居並ぶ家族の7、
8メートル先に止まった。フーッ、蒸気機関
車のような白い息を吐き出す。
黒の一団は無言だ。牧畜民たちも黙ってい
る。朝の霜の先っぽのような、尖ンがったイ
ヤな沈黙だ。と
「ワレワレは、わが祖国の独立の為に戦っ
ている兵士である」
突然、一人の男が喋った。野太い声だ。
「あの山中には、仲間がまだ多勢いる」
だからどうした。
「空腹である。腹が減ってはナントヤラと
言う。そこで、」男は一段と声に凄みを利か
せる。「諸君にご協力をお願いしたい。ワレ
ワレは、諸君の為に生命を賭して戦っている
のだ!」
遊牧民たちは黙りこくったまま、答えない。
「羊を10匹!」男の声にイライラトーンが
混じる。「もらってゆく!!」
「それは……」少年の父親だ。「ダメだ」
「な」
「だってよ、羊は俺達の生命だ。そんなに
持ってかれたんじゃ、みんなで飢え死にせん
ならん。一頭だけなら、やる」
男の右手が上った。銃口が真っ直ぐに家長
の心臓で止まる。カシュッ。冷気と妙に合う
撃鉄の音。
「ふざけるな!!」
怒気が声を割っている。ヤバイな。
「そ、それじゃ2頭……。じゃ、3頭?!」
「……」
無言は更にヤバイ。一体どうすりゃいい?
敵は五人、銃は五丁。こちらは無防備の女子
供ばかり。役に立たないどころか、足手纏い
になってコチラの身をも危険にする。
「あれを見ろ!」(と多分)と、ヤクの男
の一人が叫んだ。「黒豚もいる!」
指した銃口の先に、黒豚がペタリと寝転ん
でいた。
「あれももらって行こう。へへへ、久し振
りに豚が食えるぜよ!」(多分)
今だ。アクションのキューが出た。
「ああ、旦(那)サン……」張々湖は両手
を揉みながら一、二歩前に出た。
カシャッ、シャッ。
5ツの銃口が一斉に張々湖に集中する。
「アレはダメです。アイツはいけません」
その銃口を無視して、張々湖が喋る。「あ
の黒豚は若い頃から性悪で、ずっとそのまま
育っちまって、今じゃもう煮ても焼いても食
えない因業ジジイ。水っ気も脂っ気も無く筋
張ってるだけで旨くもなんともないアルね」
「き、貴様?!」
「中国人だな!」
「中華野郎が何故こんな所に?!」
ヤクの背の男たちが身じろぎし、口々に叫
ぶ。「野郎も一緒に食っちまおうぜ!」血迷
っているのか、誰かがとんでもない事を口走
る。
張々湖の揉み手をしていた手が、ふわっと
左右に開く。
五つの銃口が再び集中する。
張々湖の広げた手に、トランプカードのア
ーチが懸っている。
「ヘヘ。ワシ、旅の奇術師アルね。あの豚
はだから、旅の必需品を運ぶ為の大切な車代
り。食われちゃ堪まらない」
カードのアーチと一緒に、張々湖の両手が
素早く閉じて、ポン。手がなると、カードは
跡形もなく消えている。
少年の目がパチクリ、とまた一段と見開か
れた。
「この野郎、ふざけやがって……」
野太い声の男の、血走った目が凶器の光を
放った。瞬間、
張々湖の右手が閃めいて、その先からブー
メランのようなカーブを描く白い線が飛んだ。
ゲッ。
カードの一枚が、野太い声の男の手の甲に
突き刺さって震えている。ポロリ、
引き金に掛けられていた人差指が、落ちた。
張々湖が横に走る。牧畜民家族達が、並ん
で立つ位置から、男たちの銃口を外さなけれ
ばならない。乱打されたらとんでもない悲劇
になる。しかしそれは、敵味方、見ている者
の想像を超える動きだった。だから何が起き
ているのか誰にも判断が出来ず自分の動きを
決めかねた。
シャッシャッシャッ……。
走りながら次々にカードを飛ばす。
ギャッ、ヒッ、ウガーッ。悲鳴とも雄叫び
ともつかぬ声が合図のように、ガ・ガ・ガ・
ガ・ガ……。銃声が響く。弾がどこへ飛んで
いってるのかはわからない。闇雲に引き金を
引いてるだけだ。しかしそれもまた危険だ。
流れ弾には意志はない。そして
張々湖は既に男たちの側面に回り込んでい
る。実際にはこの間たったの数秒。ドド・ド
ドド、ヤクが蹄を鳴らし、地面を蹴るが、体
がデカイだけに方向転換は苦手だ。
ヴァ、アーッッッ。
張々湖が火を吹いた。ヤクと5人の男を火
焔放射器のような紅蓮の炎が嘗める。
プフッ、バウッ、ブーッ。
ヤク達が悲鳴を上げ前脚で宙を掻いて立ち
上がり、まるで二本脚で走るように走りだし
背中の主人達を振り落した。男達の黒頭巾が
燃えている。ヤクの払子のような尻尾に火が
付いている。ヤクの脚がこんなに速かったと
は!転げた男達もやっと起き上り、腰を押え
たり、足を引き摺ったりしながらヤクが巻き
上げる土埃りを追って行く。こけつまろびつ、
というヤツだ。
ビュウ……。
風が鳴る。張々湖が振り返る。家族の目は
一様に、少年の目と同じになっている。
「へ……。どうでした皆さん。ワシの奇術
ショーは?」
誰も口を利かない。固まっちまっている。
少々ショックが大き過ぎたのかも知れないな。
なんとか"解凍"する必要がありそうだが、
さて、方法は……?
パチパチパチパチパチ。
突然、乾いた小さな拍手の音がした。少年
が手を叩いているのだ。それに釣られて、全
員が一斉に拍手を始めた。ふう、これでヨカ
……。
ひとつふたつと、星が頭上にギラギラと輝
き始めた。
「ふン、なにが独立だ。なにが解放軍の兵
士だ。あんな奴等、ただの山賊に過ぎねえ」
白羊の一年児の毛を手際良く刈りながら、
香港に出稼ぎに出ていたという隣りの家長が
陽気に言った。
「本当だよ。チンケなこそ泥だァな」
少年の父も、ヤクの乾燥させた糞を、石積
みの竈に放り込みながら言う。その少年は、
張々湖の傍にべったり、となっている。時折
団子鼻の顔を眩しげに見上げる。もう目は真
ン丸ではなく、笑っている。張々湖は今や、
少年の憧れのヒーローだ。チベットの英雄ケ
サル王だ。
「あンたは、俺達の命の恩人です」と男達
は口を揃えた。「これから、正月にも、どん
な大事な祀りの日にも食べる事がないかも知
れない、特別な羊料理をお礼にご馳走したい」
腹を裂く。胃袋を取り出す。
「向うに行ってる時に覚えたんです。料理
人になる勉強をしてたんです」
香港に出稼ぎに行っていた、という男が、
セッセと手を動かしながら話ている。傍で少
年の父が、男の書いたレシピを見ながら、調
味料を揃えている。?(大豆を発酵させたモ
ノ)粒塩、ネギの白根、ウコン(香辛料)、
胡椒、山椒……。
肉を細い葉っぱ状に糸切りする。胃袋を洗
って表裏をひっくり返す。切った肉をその中
にギュウ詰めにし、縫い合わせる。
「で、この肉詰め胃袋をあの穴に――」
男に命じられて、少年たちがあらかじめ穴
を掘り、火を燃やしている。土が赤くなった
ところで灰を取り出し、胃袋を穴の中に入れ、
灰を被せ、
「――その上で更に火を燃やすんです。そ
の時間は……」
一石の米が炊き上がるくらい。張々湖は知
っていた。当然。〈胡炮肉〉という"泥の蒸
し焼き"とも呼ばれる有名な焼肉料理だ。食
った事もある。当然。本当は
張々湖は、ヤク料理を食してみたかったの
だ。先刻のヤクを追いかけて行けば、一頭く
らいは焼肉になって転がっているかも知れな
い。そいつをチベット流に調理してもらって
……。しかし
そんな事を言える筈はなかった。ここでは
奇術師であり料理人ではない。しかも、こん
な厳しい自然の中で生活(くら)す遊牧民に
とって、羊は財産だった。生命の源だ。家族
と同じ、とさえいえた。その羊を…自分の為
に料理してくれている。それなのに、なんか
言える奴がいると思うか、オミャア。
ブシュン。
黒い天幕の陰で黒豚がクシャミをした。
中では――、女達がツァンパ(麦こがし、
こね団子)やトゥクパ(雑炊)作りに勤しん
でいる。まだ誰も、一度も食べた事のない、
一年羊の泥蒸し焼き、に添えるのだ。普段は
トゥクパとバター茶が主食だ。お正月だって
これだけで過す年さえある。トゥクパとなれ
ばご馳走の部類になる。それなのに今夜は…
…。酒もアラク(チャンという清酒の蒸留酒)
だ。手間が掛かるので滅多に作らないが、ア
ルコール度も最高の"上級酒"だ。
天幕は一辺が7メートル程、天井が2メー
トル。意外と広い。中央は泥で固めた炉があ
って、ヤクの糞が燃やされ、炊事などは殆ん
どここで行われる。煙は真上の細長い通風口
から外へ出る。家財道具も豊富だ。戸棚、木
箱、革袋、桶、筒桶(バター茶を作る)、鍋、
水差し、毛皮、絨毯、諸神の絵に仏壇。魔法
瓶だってある。
みんなの声が華やいでいた。奇術師と名乗
る不思議な男が、黒い豚と一緒にやってきて
山賊を追い払い、こんなご馳走を食べる、と
いう宴まで用意した。これこそ、真実のマジ
ックだった。
5人だろうが8人だろうが、ダライ・ラマ
15世の資格所有者が現われても、これなら何
の不思議もない。世界は救われる……。
宴が終った。
アラクでホロ酔い気分の張々湖は、乞われ
るまま返礼に、青や朱や白や黄の、小さな炎
を自在に操って見せながら"火極拳"(即席
の造語だったが)を舞った。
夜、
張々湖のイビキなどものともせず、傍には
スヤスヤと眠る少年がいた……。
……それから10日後、張々湖と黒豚は、岩
陰に張った小さな天幕の中で、もう3日も吹
雪に閉じ込められていた。
B栄華鶏(ケンタッキー・フライドチキン
氏の事など)
遊牧民一家と別れて(少年の垢染みた頬を
ボロボロと大粒の涙が流れた)からの旅は、
最悪だった。
雨が降った。ドシャ降りだった。風が吹い
た。刃物のような寒風だった。そして雪。慌
てて手頃の岩陰にテントを張って、黒豚も中
に入れ、やり過そうとしたのだが、これもも
う3日、となると、またもや張々湖はイラつ
きだした。もうそろそろの筈だ。最初の目的
地。それなのに……
みやげに持たされた生煎団子はとうに無く、
カップラーメンには飽き飽きした。フカヒレ
の干物?ヘッ、あんなモノはフカヒレじゃァ
ない。フカヒレと呼べるのは姿煮だけだ。
ああ、いや、フカヒレの姿煮とまでは言わ
ない。なにかもっとちゃんとした料理を食い
たい。上海の「張々湖飯店」に居たなら今頃
は……。
途端に疑惑がまた、ふっと頭を持ち上げた。
あのロナルド・コールマン氏は、さまよえる
オランダ人氏は、ケンタッキー・フライドチ
キン氏は何者だったのか?彼の話は真実なの
か?!彼の書き残していったこの地図は、本物
なのか?!
ゴウ・ドドド……。
地鳴りのような風が天幕を軋ませた。しか
し天幕の半ば以上は吹き寄せた雪に覆われて
重しの役をしてくれているので安心だ。
その上、若干の熱の保存もしてくれる。
ブッ。
黒豚がおならをした。
「オミャア、ただでさえ臭いのに、なんて
事を!場所と時を弁まえろッ。今度やったら
必らず外へ放り出すから、覚えておけ!!」
遊牧民達の天幕と違って、旅行用の携帯用
テントはそう大きくない。過酷な旅のダメー
ジも全く無縁のような黒豚の巨躯と、これま
たダイエット効果が見えて来ていない張々湖
の小肥りの身体が横になったら、もう殆んど
満杯になる。
ブウ……。今度はイビキだ。聞いてやしな
い。いや、どうせ外に放り出す、なンて事の
出来る筈がない事を知ってるのかも知れない。
なにしろ並外れた強かさとタフさを持ったヤ
ツなのだ。確かに、黒豚を放り出すのは、暖
房器を捨てるのと同じだ。この寒さの中では
自殺と同じ。それに、外にはユキヒョウやオ
オカミが彷徨いている。折角携帯した非常食
を食われちゃ堪らない。
ぷふッ。
鳴ったのは張々湖の鼻だった。そう言えば、
カップラーメンを啜りながら、まともな食事
に焦がれた時にも、何故かこの非常食の事は
思い出しもしなかった。
ブスー、ブススス・スー……。
黒豚はもう安らかに眠っていた。何か食っ
ている時以外の殆んどの時間は睡眠タイムだ。
これがコイツのタフさの秘密なんだろう。
ヒュルルル……、ゴゴゴゴゴウ……。
あの奇妙な夜。
張々湖は、頭の下に短かい両腕を組んだ。
雨のビショビショ降り続ける、陰気な夜だ
った。
日常茶飯事を想い出すように、極く静かに
回想が始まった。
上海。「張々湖飯店」。普段から余り流行
っているとは言い難いが、雨のせいもあるの
か、今夜は特にヒドかった。客はいない。手
遊びのカードマジックも、視ているモノ(ゴ
キブリでもネズミでも!)がいてこそのもの。
飽きた。退屈だ。閉店までまだ時間はあるが、
もう閉めようか。その時、ギッ、入口の戸が
鳴った。あああれ、油を差しておかなきゃと
思ってたんだっけ。え?張々湖は顔を上げた。
男が一人立っていた。客?!随分と古い型のト
レンチコートだな。水滴が流れ落ち、男の脚
の周囲はもう水溜りになっていた。
「いらっしゃいませ。さア、どうぞどうぞ
こちらへ・・・・・・」
張々湖はカウンターの椅子から滑り降りな
がら愛想良く声を掛ける。が、男はぼんやり
と店の中を見回しているだけだ。
「お食事でしょうか?それとも酒でも……」
張々湖が、男に向って一、二歩踏み出した
時、男がポツリと呟やいた。
「懐かしい」
「はァ?」思わず足を止める。
「……あの頃の面影が残っている。もしか
したらこの店にも、一、二度来た事があるの
かも知れないな……」
あの頃?上海租界と呼ばれ、日本軍などが
侵入していた頃の事?そりゃァまァ、そうだ
ろうな。これはその当時の建物を改造した(
わざとレトロに、と)飯店なんだからな。し
かし……。
「懐かしい。ちょっといいかね?」
男はベルトをほどき、ボタンを外し、コー
トを脱ぎながらゆっくりと奥へ進んでくる。
大きな幅広の襟だ。「カサブランカ」だぜ、
こりゃ……。中折れ帽の水を切って……また
周囲を見回す。
「その辺にどうぞ。どうせもう今夜は、誰
も客は来ませんや」カウンターへの扉を潜り
ながら、「で、お食事?それとも……」また
訊いた。
「酒が欲しい」
スッとカウンターに両手を置いて、一本脚
の高い椅子に易々と(跳び上って座らないと
いけない張々湖とは随分の違いだ)尻を乗せ
て、男が言う。品のある感じのいい声だ。イ
ギリス人だな。「ただし」男が続ける。ふっ
とイヤな予感がした。「金が無い」それが当
った。
「いや、あるにはあるんだが……」男はポ
ケットに手を突っ込んで一握りのコインや紙
幣をカウンターに広げる。「前の店では使え
ない、と断られた」
ン?!となったが、その理由は直ぐにわかっ
た。コインにはエリザベス女王が浮いている。
紙幣にも……。紙幣の中には、日本の"圓"
らしいのもある。但し、その頃の。70年前、
租界上海の頃の……!往時の雰囲気を再現す
るためのインテリアのひとつに、額に入れて
飾ってあるので識っていた、のだ。
「どういう事でしょう?」
「それが……、記憶が失いんだ。1937
年11月……日本軍が南京に迫って我々は安
全区(難民区)を作ったりして中国人を日本
軍の虐殺から護ったり、安全を確保したりし
ていたが……12月、南京占領直前に脱出し
た。双発機でヒマラヤ越えの途中遭難したん
だ。そして、何処か、途方もない場所へ行っ
て……、戻って来たら……」男の眉間にギュ
ッと縦皺が寄った。「戻って来たら?」「――
ム、ムービーの映る壁のニュースで、年号と
日付けを見た。そしたら今は、現在は……」
男は喋べるのが、つらそうなので、張々湖が
代って答えてやった。「2010年5月……」
ふうーーッ。男が驚く程大きな息を吐いた。
「そ、そうだ。それが本当だとしたら、ボ
クは……(また言葉に詰まるのかと思ったが、
)今100歳を越えている!(続いた)」
え?!おいおい。酒が欲しいだって?もうベ
ロベロじゃないか!
ドン!「信じてもらいたい!!ボクは嘘を言
ってるんじゃない!!」男が両の拳でカウンタ
ーを殴った。コインや紙幣がビックリしたよ
うに飛び上った。拳がジュリー・アダムスに
迫り来る「アマゾンの半魚人」の指のように
開いて、頭を割らんばかりの勢いで、白っぽ
い金髪の中に突っ込まれた。俯いた顔の、貴
族的ともいえる細い鼻梁が震え、その傍をツ
ーと光る筋が滑り落ちる。途端に、張々湖は
後の棚に手を伸ばし、ボトルを掴んだ。
匂う!この男は本当の事を言っている。も
し違っていて、全部この男のつくりばなしだ
ったにしても、ワシャこの手の噺が大好きな
ンだ。酒の一、二本で済むなら安価いものじ
ゃないか!
男の、虫食いだらけの記憶を引き出し、な
んとか継ぎ合わせ、信じるか信じないかは別
にして、どうにか辻褄を合わせるのに、ボト
ルは5本要って、時間は早朝にまで及んだ。
当然二人は"ご機嫌"になり、張々湖は得意
料理のフカヒレの姿煮を料理し奮発してやっ
た。男はその礼に、おぼえている場所までだ
が、と断わりながら"地図"を描いてくれた。
これがその時の地図だ!
ブウウ、ボオオオ……。
猛り舞い走る吹雪の音。張々湖のリングラ
イトの淡い光りの中を、あの時男の引いた、
少し滲んだ線や文字が揺れている。
グウルルル。腹が鳴る。ふン、フカヒレか。
だがワシは、あの名も知らぬ奇妙な男には、
飯店の通りの向い側に見える。濡れたハデハ
デネオンの店の名を付けてやったっけ。
「栄華鶏」。要するに、ケンタッキー・フ
ライド・チキンだ。あの白髪のオジサンが中
国にも侵出して来た時、中国は直ちにこの「
栄華鶏」で対抗した。中国人は臨機応変、ハ
シッコイのだ。ファースト・フードであろう
が何であろうが、儲かるとなれば真似る事も
躊躇わない。いや、むしろ進んで取り入れる。
なに、中国4000年の食と言ったって、ど
れもみんな初めは"ファースト・フード"な
のだ。ファースト・フードをバカにしちゃい
けない。そのうちきっと歴史になるものも出
てくる……。で、男は、「ケンタッキー・フラ
イド・チキン氏になったのだが、そのうち、
それが本名と同じに思えてくる。例えばのハ
ナシ、ワシの張々湖(あのイシノモリの爺イ
め!もっとマシな名を付けてくれりゃよかっ
たのに!)だって、今じゃすっかり身につい
てしまってる。もっとも本名を名乗れない事
情もあるにはあるが……。
ケンタッキー・フライド・チキン氏。実は
始めは、ロナルド・コールマン氏にしようか
と思ったのだが、やめた。虫食い噺が継がっ
た時、なンだこいつはジェイムス・ヒルトン
の「失なわれた地平線」のパクリじゃねーか、
と直ぐに気がついたのだ。ロナルド・コール
マンは、この小説の映画化の主演役者だ。シ
ャングリ・ラ、ヒマラヤの奥の理想郷。遂こ
の前に〈T・T〉("時の壁飾り:タイム・タ
ペストリー"いい商品名だと思わないがネ。
掌サイズの映像ディスク、コイツをセット・
オンすれば壁面(白い方がいい)に向け、自
在のサイズで、映画やミュージックシーン、
ドキュメンタリーなど好きな映像が楽しめる)
で見たフランク・キャプラという大昔の名監
督の傑作映画(紛失していた未発見フィルム
が見つかって補完された完全版!)、張々湖
は大いに気に入っていたが、それとそっくり
同じと認めてしまっては、自らフィクション
(男の)を容認してしまうのと同じになる。
でも1930年代の終り、日本軍が侵攻して
来たので、双発機で上海を脱出、ヒマラヤ越
えを断行しようとして遭難。気がつくと……
シャングリ・ラ!とは!!しかし、事実は小説
より奇なり、という諺もある。フィクション
は往々にして真実をネタに再構築される場合
も多い。それに――ワシの鼻は利く。この男
の話には真実という匂いがある……!
次に考えたのが"彷徨うオランダ人"だ。
死ぬ事が叶わず、永遠に海上を彷徨う幽霊船
の船長。その頃男は30歳代の初めだったと
いうが、現在でも30歳代(少しクタビレテ
はいるが)の初めに十分見える。100歳を
とうに越している老人には、映画のようにメ
―クアップしたって、見えやしないだろう。
男はシャングリ・ラ(シャンバラが正しい一
般的呼称だが、張々湖は何故かこちらが好き
らしい。ロマンがある、といっている)で暮
していた。その地で食べたものか飲んだもの、
あるいは最先端の医療技術かによって、年齢
をとらなくなっていたのだ!
虫食い記憶で当てにはならないが、とにか
く誰も彼もが健康で、自分も医者の治療など
受けた事はない、と言う。しかも、一度確か
に、この地には不老長寿の食があると、聞い
た事がある。
不老長寿!不老不死の食!
それだ!ワシは料理人の端くれ、いや、世
界一の炎の料理人として、その食材を、その
調理法を、探しに行くぞ!決めた、もう誰に
も止めさせない。え、おい。文句あっかオミ
ャア……。
……翌朝目覚めると、男の姿は消えていた。
手元には、張々湖のヨダレで滲んだ地図と、
男の、奇妙な、しかしヤケに匂う話の記憶が
残っていた。
C鱶翅(フカヒレの姿煮)
ドドド・ゴボガバゴボ……。
海水がどんどん噴き込んでくる。始めから
浮かんでいるのが不思議なくらいのガタボロ
船だったが、とうとうイカレた。大体、定員
の3倍というのは、幾らなんでもアコギ過ぎ
る。バリッ
バリバリバリ……。水中で鈍い胸の悪くな
るような音がして、船が真っ二つに割れた。
ズーッというような感じで、男や女が吸い込
まれる。誰も悲鳴も上げない。妙に静かだ。
そう言えば、船に乗ってから誰もが沈黙を守
っていた。巡視船に見つかる、大声の会話は
禁止する、という命令のせいだけではない。
誰もがそれぞれ最初っから、人生を諦めてい
る、ようなところがあった。とくに今回のこ
の密航船は “格安”だった。成功などする筈
が無い、と念を押されたような胡散臭さに満
ちていた。その通りだった。海に出て半日足
らずで船は割れ、男と女と子供たちは大人し
く運命を甘受して、暗い海の底へ引き込まれ
ていった。
肺が裂ける。苦しい。溺れる。薄れゆく意
識の中に、突然パァーッと、わが家を含めた
福建省の村の景色が蘇った。貧しさに嫌気が
さして逃げ出した筈なのに、直ぐにも飛んで
帰りたい程の懐かしさで光り輝いていた。母
ちゃん!叫んで開けた口から、勝ち誇ったよ
うに海水が浸入し、肺を一杯に満たした。
真っ黒な闇の世界
真っ白な光の世界 のカット・バック。
……白い世界。温かく柔かい白い光。天井
も白、壁も白、時折視界を過ぎる人(?)も
白。白いキャップ。白い大きなマスク。白衣
……。ブーンと微かな、眠気を誘う蜂の羽音
のような音。ピ・ピ・ピ・プ・プ・プ。時折
機械音。
ヌッ。目だけの白坊主が、斜めに覗き込む。
目は、東洋人の目だ。
「こ、ここは……」
「……」
「病院、ですね。日本、のですか?」
「……」
スッ。目だけの白坊主が消える。
青年は日本へ密航しようとしていたのだ。
21世紀になっても、何故か“出稼ぎ長者”伝
説は生き残って居た。毎年何人も何人もオン
ボロ船で海に乗り出し、難破し、藻屑となっ
て消え、あるいは中国の、あるいは日本の巡
視艇に拿捕され、送還され、にもかかわらず
何人かは成功して、伝説の火を灯し続けてい
たのだ。
そうか、日本の病院か。捕まったんだ。し
かし、生きていればまたチャンスがある。
またヌッと、目だけの白い影。あ、この目
は、青い。冷たい青い目だ。日本人じゃない。
ここは日本じゃないのか?!いや……、日本に
は沢山外国人が来ているそうだから……。日
本じゃないとしたら、香港?シンガポール?
もしかしたらこの目は、いい印なのか?
その時、青年はなにも知らなかったが、溺
死しかけていた青年を拾い上げたのは、日本
人ではなかった。そしてここは日本でも香港
でもフィリピンでも……、何処でもなかった。
そして、あれから既に3ヶ月以上が過ぎて
いた。そしてある日、目だけの白坊主の誰か
が、始めて中国語で口を利いてくれた。
「キミは、生れ変ったよ」
青年の身体は、あるモノは捨て去られ、あ
るモノは補強され、またあるモノは並べ変え
られ、全ったく別の身体になっていた。
そう、改造されて、いわゆるサイボーグに
されていた。意識は元の場所に置き去りのま
ま、肉体のみが過去のモノから未来のモノに
変っていた。
青年の名は……
……張々湖(クソ。あの、イシノモリの爺
ィめが!)。ウム、そしてそれから、いろい
ろと波乱万丈があって……、
波乱万丈?!プハッ、海だ!?な、なんで、海
なんだ。まだ溺れているのか?!今までの事は
みな、夢だったのか?!待てヨ、おい、待て。
あれは、な・ん・だ?!ヒレだ!!フカの、鱶の
鰭だ!!しかも、なんというバカでかさ!こっ
ちにやってくる!な、なにをするつもりだ?!
決まってる。ワシを食うつもりだ!バカな!
フカヒレは食うもので食われるものじゃない!
ガボ、グイ、来る。逃げろ、急げ、早く!!プ
ハハ、グルジー、こら来るな。それ以上近づ
いたら、姿煮にして食ってやる!バシャバシ
ャバシャ。い、言っとくけどオマエ、そのヒ
レも本当に使える部分は6cm…10cmでほ
んのちょっぴり、後は糸状の、いわば廃材な
んだ。フカヒレスープだとか、フカヒレラー
メンだとか言って有難がって食ってるのはこ
の切れっ端ってこと。マ、だからこそその、
新月状の部分の姿煮が珍重されるんだが。あ、
こら、寄るなってのに。シッシッ、言う事を
きかないと、本当に料理しちまうぞ。ああ、
思い出す。フニッとしたゼラチン状の柔らか
み、なめらかさ、軟骨のコリンとしたあの弾
力。そそ、フカヒレの姿煮には、極上のスー
プも必要なんだぞ。地鶏や家鴨をグツグツと
長時間煮込んでから、その中に入れるんだ。
ゆっくり掻き回すと濃厚だが、飲んでみると
さっぱりしていて……。あ、おい、よせっ、
このフカヒレめが!ワシの周囲をそんなにグ
ルグル回るなッ。目が回る。ワッ、本気か?
来るのか?!ワーッ、助けてくれーーッ。こ・
こ・こ・これは、悪夢だ!!
……悪夢だった。見ると、目の前に黒豚の
巨大な丸い尻があった。払子のような薄汚れ
た尻尾もある。これは現実だ!
ガバッ。機械仕掛けの人間のように上半身
を起す。ドウッと汗が吹き出す。な、なんて
夢を見させるんだ!ワシの大好きな、ワシの
十八番の鱶鰭の姿煮料理に、ワシを追いかけ
回らせるとは。悪夢だ!なんでこんな事に…。
原因は直ぐにわかった。シン、として物音
ひとつしないのだ。ひどい静寂。
張々湖は跳び起きて、テントの入口を、
ジッパーを引き下げる。雪の壁を夢中で崩
す。薄明の空が見える。早朝だ。吹雪はすっ
かり収まっていたのだ!
あ!!
目の前に巨大なフカヒレがあった。これが
悪夢の正体だった。
神秘と荘厳を形にしたような聖山カイラー
ス山が屹立していた。
と、その時
なんの前触れもなく唐突に
奇跡が、始まった。
山の右肩に、光が宿った。
朝陽である。
それが金色の星になった、と見えた次の瞬
間、一本の光の矢が、氷壁の溝を走り降りた、
と見る間に、光は横の溝に移って尚も走り続
け、ぶつかって、斜め下方へ下る。そして
手前の岩山の、ゴツゴツした稜線の少し手
前で、ピタリと止まった。
「あ、あれは……、見ろ黒豚、あれを!!」
黒豚に見る暇はなかった。次の瞬間、カイ
ラース山の溝を飾ったジグザグの光の線は、
消えていた。正に一瞬の出来事だった。しか
もそれは、神の山にしか成し得ない、尋常な
らざる出来事だった。光は直進する(しかし
ない)。光の折れ線グラフなど聞いた事も無
い不可能事だ。山の壁に大自然が刻んだ溝の
角度が、光を反射した、とも考えられるが、
そんな何百万分の一、何千万分の一の偶然や
僥倖よりはまだ、奇跡の方が信じられる、と
いうものだ。
「あ・そ・こ・だ」
急に身体が震え出した。とめどなく震え出
した。歯の根が合わない……。張々湖はやは
り震える声を、絞り、出した。自分の耳に言
い聞かせておかなければ、と思ったのだ。
「あそこが、多分、間違いなく……、不老
不死の郷への入口だ!」
そんな直感にも似た予感がしたのだ。黒豚
もやっと入口から顔を出し、雪に鼻型を押し
て、ブシュン、クシャミをひとつした。
「オミャアも聞け!誰かが……。いや神サ
マが、ワシらを招んでいるんや。あれは案内
の光通信やった!」
刻々と明けて行く空を背景に、雪と黒い岩
肌の巨大なフカヒレ・カイラース山から目を
とき離すには強い意志が要ったが、張々湖は
固く目をつぶり、頭を振り、ギリギリと音を
立てそうな恰好で身を振り、這うようにして
バックに辿り着き、ノートを取り出し、また
同様にして入口まで戻り、手前の山々を入れ
込んでカイラースの形をスケッチし(手の震
えが止まらない)、光の矢の先端が止まった
(意志あるが如くに!!)場所にしっかりと×
印を書き込み、ノートを閉じ、それから……、
ヘナヘナと腰を下した。
あそこに誰かがいる。あそこで、なにかが
待っている。
D蓬莱食(不老不死の仙食?)
待っていたのは"雪男(イエティ)"だった。
まったく。突然ですがって感じだ。暫らく
ボウと、何が起きてるのかわからず、何が起
きてるのか、を考えていた程だ。「やァ、ど
ーもどーも」と、バカ陽気な作り笑いのタレ
ントが"ドッキリカメラ"とかなんとかいう
プラカードを振って、その辺の岩陰から出て
来るんじゃないか、来てくれ!、と思った。
足跡だった。
新雪の中に、その体重を連想させる深さで
くっきりと刻まれ、狭い小丘の上に消えてい
た。"雪男"の足跡は、張々湖も噂や写真(
多くはピンボケの)で識ってはいた。しかし
実物の迫力は、それとはまるで異うモノ
だった。ゾッ、とする。なにか妖気にも似た
尋常ならぬ気配を発散しているようだった。
恐る恐る触れてみる。当然冷たく、おまけに
その体重で押し固められて凍り、通った時間
など推し測るべくもなかったが、紛れもなく
微かにだが、牧畜に押された焼印が残す煙の
ように、見えない異様な匂いが漂っていた。
瘴気を感じるとはこんなものだろうか。そし
て
オノレが探し当てたくせに、黒豚が脅えて
いた。あの無表情でタフを誇る、ハードボイ
ルド探偵のような、日本のスモウレスラーの
ような、あの黒豚が異様に脅えていた。あの
デカ鼻には、人間の何倍もの鋭敏な嗅覚が備
わっているのかも知れないが、それにしても
始めから――あの、吹雪に閉じ込められた場
所から出発した直後から変だった。これまで
ずっと変らなかった歩行ペースが乱れ、立ち
止まったり、物思いに沈んだり、Uターンし
て引き返そうとしたり、までした。
それを宥めたり賺したり、時にはウルド(
遊牧民のみやげ。狼を追い払うためのムチ)
をちらつかせてみたりしたが、黒豚の脅えは
一向に収まらなかった。
道は(らしきものは無かったが)増々厳し
いものとなり、地図には理想郷のある(
と思う)場所に印を付けたのだが、それらし
い地点へ行くのは至難の業に思えた。高低様
々の岩山の峰々を、幾つか越えなければいけ
なかったからだ。
カイラース山は、聖なる山として、最大の
信仰の対象となっている。夏期には、五体投
地を繰り返しながら山の周囲を巡る善男善女
の信者がひきも切らないのだが、幸なのか不
幸なのか、今は人影ひとつない(異常気象め
が!)。こんな聖山としての畏れから、地元
の人は当然、巡礼たちも、外国の登山家達も
(許可が下りない)触れるどころか、近寄り
もしない。そして、季節外れの大雪は(異常
気象めが!)目安を消している。
「おい黒豚、頼むぜよ。今はオミャアの、
その鼻のカンだけが頼りなんだから、な!」
半分以上"本気"だった。大き過ぎる程大
きいその鼻は、何キロ先もの食い物(雑食だ
から、その先にナニが待ってるかわかりゃし
ないが)を嗅ぎつける。それが、唯一の頼り
なのだ。シャングリ・ラ(シャンバラ)に住
人がいるのなら、霞を食っている仙人達でも
ない限り、なんらかの食事を摂っている筈。
なにか料理を作っている筈。そしてその調理
場からは、必らず"匂い"が漂い出す。この
清涼の地では、その匂いは、通常よりも更に
長く広い旅をする事になるだろう。そして
その匂い"薫り"の源こそは仙食、
不老長寿の"天空の食"に違いない!
ところが、なンと、どっこい、黒豚の鼻が
嗅ぎ出したのは、とんでもないモノだった。
雪男の足跡だって?!想像を越えてら!こ
んなモノがウロウロしていると知っていたら、
誰だって近付きやしない。おまけに
肝心の黒豚は、自分の嗅ぎ出した足跡に脅
え切っている。これじゃ、昨夜テントの中で、
理を尽して話してやったあの話など、もうな
んの役にも立ちはしないだろう。
昨日、午後遅く。風が冷え、鉛色の空から
チラホラと雪が舞い降り始めたので早めにテ
ントを張ってしけこんだ。まァ、余りにもビ
ビって元気の無い黒豚の気分を、少しでも変
てやれば、と思った事もある。
侘しい夕飯を分け合った後、煙管で一服。
紫煙の切れ目から横目で見ると、黒豚は、た
だでさえ深い哲学者のような皺を更に複雑に
深くして顎をグデッと地面に投げ出していた。
「明朝には止んでてくれりゃいいんだが、
長い夜になりそうだな、オイ……」
独り言のように呟いて見せてから、張々湖
は黒豚に、おもむろに語りかけ始めた。
「……昔、秦の時代だが、徐福という男が
おってな。始皇帝の家来で船乗りだったんだ
が、ある日、皇帝の命を受けて旅に出たんだ。
〈蓬莱島〉、今の日本だよ。目的はひとつ。
不老長寿、あるいは不老不死の霊薬を手に入
れる為だった」
チラリと黒豚に目をやる。短い四肢を投げ
出し、ベタリと顎を地面に付け、この世の憂
鬱と苦悩を一人で引き受けている、というよ
うな顔で、身動きもしない。軽く頭を振って
張々湖は続けた。
「霊薬が発見かった、という記録は残って
おらんから、多分ダメだったんだろう。大体
日本という国は現在もそうだが、この頃から
過大評価ばかりされていたんだ。マルコ・ポ
ーロは"黄金の国"と称したし、それを信じ
てコロンブスなども探検に出た。ふン、なん
となく大陸の吹き溜りという位置と印象があ
るんで、なにか――お宝や知恵も溜っている
と思われるかも知れん」
「……」
「で、だ。話はちょっと横道に外れたけど、
始皇帝の例を持ち出すまでもなく、強大な権
力を手に入れた者は、今度は永遠の生命を手
に入れたくなる。そう、一度手に入れた権力
を他の者に取られたくないからだ。マ、もっ
とも、その辺の社長、会長クラスの老人や人
気スターなんかでも、不老不死とはいかない
までも、ドリンク剤やら健康食品やエクササ
イズやらと、少しでも寿命を伸ばそうと足掻
いたりしてるんだがね」
「……」
「そこで――、ワシだが。オミャアさんも
知っての通り、ただの飯店屋の主人だ。一度
も二度も死んでるし、いや、死にかけている
し、土台、生まれて来た時からシマッタてな
もんだった。なのに、なぜ不老長寿、不老不
死なんだ?!料理人の端クレだからだ。そんな
料理が、しかもこの中国の中にあると知った
ら、その食材はなにか、調理法とはどんなも
のか、知りたい!知りたいと思うのが、料理
なんだ。別にその料理を食して長生きをしよ
うってんじゃない。豊かな老人社会、長生き
が尊い、なんてのは嘘っ八だ。延命医療が勝
手に進んじまったんで、そう言わざるを得な
くなってるだけヨ。長老の知恵?ボケてミス
が多くなるだけだ。老害政治家がもたらして
いる迷惑を見ろよ。体力も思考力も衰えてる
から生産力にはならない。若い連中にオンブ
にダッコで……」
張々湖の声が急に途切れた。黒豚の顔が老
人に見えたのだ。途端に、連想ゲームのよう
に東京の、いや江ノ島だったかな、二人の老
人、ギルモアとイシノモリの顔が浮かぶ(ハ
ックシ、ヘーショッ。その時、江ノ島で二人
が同時にクシャミをした)。
「あ、ああ。つまり、だ。ワシは死なない
為の食を探しているんじゃないって事を、わ
かってもらいたいんだ。これまで巷の料理人
の誰もが出来なかった事を、このワシがやっ
てみたい。ただそれだけの事なんだ。ま、そ
んなワシの我儘につき合わせて、オミャアに
こんな苦労を掛けちまってる訳だが……」
サササ……。何処かを滑り落ちる雪の音が
した。風は、無い。
風は無い。シンと静まり返った、さほど広
くない新雪の雪原(下は氷河かも)で、黒豚
が脅えていた。
深く大きく重い"雪男"の足跡が、不気味
な程、規則正しく並んで続いて、丘の向うへ
消えていた。
"雪男"。なんとまァ、"雪男"だって?!
ある日突然奇妙な男が現われて、それからア
レヨアレヨという間に事が進み、偶然と奇跡
のような僥倖が、ワシをここまで連れてきた。
これまでのそれに、もし意味があったのだと
したら、"雪男"にも同様に意味があるのか?
あるに違いない。黒豚の異常な脅えにだって、
きっと何か重要な理由がある。
頭の中に、ポッと火が灯った。"雪男"。
"雪男"がここの、シャングリ・ラの、シ
ャンバラの、不老不死の郷の〈住人〉ではな
いのか?!
火が更に大きく燃えだした。
"雪男"はネアンデルタール人!という説
がある。その生き残りなのだ、という……。
もしそれが、強引に過ぎる説だ、と言うの
なら、まだ未知の、人類傍系の別生物、類猿
人と仮定してもいい。いずれにしろ
"理想郷"の住人だとしたら、宙天に近い
こんな酷寒の高地で、太古からの長い長い時
間を、種として生き延びて来た説明がつく。
彼らは、不老長寿の食を持っている。
それを偶々、ケンタッキー・フライド・チ
キン氏がご相伴に預かって、80数年後、秘密
の園に入った時の30歳前後の若さのまま、脱
け出してきた……。
ここまでは、調理の順序を間違えていない
か?脂と水の量はどうだ?
ネアンデルタール人、いや、理想郷の獣人
は正に住人なのであり、温和な性格なのに違
いない。だからチキン氏の世話もした。なる
べく人目につかないようにして、ひっそりと
暮している。足跡や噂ばかりで、実物が見つ
からないのはその為だ。シャイなのだ。
しかし
黒豚が脅えている。その脅えで、ワシに一
体なにを訴えようとしているんだ?!
足跡……。と
また雪が降り始めた。まずい。こんな場所
に突っ立っている訳にはいかない。とにかく
ワシは、ワシのカンを信じる。信じて、この
足跡を尾けて行く。黒豚――
「――黒豚、オミャアは来たくなければこ
なくていい。オオカミやタカやユキヒョウや
イエティの襲撃に気を付けながら、凍え死な
ないようにして、待っていろ。止めるなよ。
止めてもワシは行く。一人でもワシは行く。
死んでも行く!」
雪は次第に激しさを増してくる。風も加わ
ったようだ。このままでは足跡も消えてしま
うだろう。なんとかその前に……。チラリ、
後を振り返る。トボトボと黒豚がついてくる。
巨躯だけに、ションボリ首(があるとすれば)
を項垂れた姿は、一層の哀れを誘う。でも今
は、同情などしている暇はない。判断を誤ま
れば、誤まっているとすれば、二人とも、死
ぬ。
ブヒーッ。黒豚が鳴いた。悲鳴のようだ。
目の前に"雪男"が立っていた。
絶え間なく墜ちてくる雪片の紗の向うに、
音もなく、聳えて、立っていた。光った頭頂。
長髪、全身も房々の体毛で覆われている。鼻
梁は短かく、鼻穴はゴリラに近かった。口は
大きく、突き出して、顎は張っている。そし
て、眉の下の目は、驚く程穏やかだった。
張々湖は思わずニコリ、となった。思った
通りだ。この巨人達は、心穏やかに理想郷で
暮している。恐怖など、無かった。
パウーッ。
突然、乾いた音が降ってきた。角笛のよう
な音。
「なンだ?!」
驚いて張々湖はその方向に目を凝らす。絡
み合うように舞い狂う雪だけ。目を戻す。
"雪男"が消えていた。
ほんの一瞬……張々湖は雪を掻き分けて…
…なのに……雪男の立っていた辺りに……消
えてしまったって?!……こけつまろびつ、走
った。消えたって?!
立っていた場所に、巨大な足跡はついてい
た。が、それだけだった。その二つの踏ん張
ったような足跡からは、どの方向にも、他に
は、続いていなかった。狭いとはいえ、雪原
のド真ン中、隠れる場所などある筈もない。
"雪男"は、一瞬の間に、忽然と、消えて
しまっていた。
パウーッ、パウーッ。
また、あの角笛……。
ブヒヒーッ。黒豚が懸命に張々湖の傍へ走
って来る。珍らしく、皺の間から目が(小さ
いがまん丸に見開かれた)見える。ブヒッ。
張々湖に抱きつくように身を寄せる。震えて
いる。
ゴロゴロした大小の岩と絶壁だけかと見え
た辺りから、毛皮の長衣を着た(つまりはチ
ベット人のような)人影が数人。次第にその
輪郭をハッキリとさせながら、近づいてくる。
黒豚が脅えている。黒豚は
"雪男"ではなく、この男達を怖れていた
のか?!
E一献大饗(神々への供物)
…それからの展開はスピーディだった。
ここに来るまでの、厳しかったが一見単調、
一見悠長な時間の流れが、急に短かく区切ら
れて色鮮やかに彩色され、忙しなくなった、
ように思えた。が、
実際の舞台は素朴な田園風景であり、住人
たちの立居振舞いや生活のリズムも、優雅、
とさえ言えた。
そっくりイメージ通り、ではなかったが、
おおよそは思っていた通りだった事に、張々
湖はホッとした。シャングリ・ラだ。これこ
そ理想郷なのだ。
角笛はやはり、出迎えの住人達が鳴らした
ものだった。銃も持ってはいたが
「使わないで済んで良かったですよ」
と、ニコニコしながら言った。
「あのイエティは、角笛の音が嫌いなんで
す」そうか、そういう事だったのか。しかし
「どうも不思議なんです。突然消えてしま
ったんです。あンた方を探して一瞬目を離し
た隙に、パッと消えてしまった。そうとしか
思えないんです!」
ハ・ハ・ハ。と男達を顔を見合わせながら
笑った。
「ニンジャみたいに、ですか。そうなんで
す。アイツは躯が巨きいくせに、動きは実に
素早いんです。だから、消えたように……」
「いえ、違うんです。見て下さい。足跡が
無いんです。どっちへも向いていないんです。
ほれ!」雪は舞い続け、足跡は、無かった。
「……イエティは、素早く動く時は雪面を
余り深く踏みません。我々もそうですが、最
も速く移動する時は、地面に足を付けません。
それにこの雪です。あっという間に薄い足跡
など消してしまいますよ」
「え?!」着地無しの移動?!それじゃ
「あ、あなた方は、ラマ僧?!」宗教僧達の
この"技"の事は、何度か噂で聞いている。
「いえ、我々はラマ僧ではありません。が、
彼らと同じ事は出来るのです」
「さァ、雪が激しくなって来ました。風も
冷たい。その黒豚、震えてるじゃありません
か。急いで郷へ参りましょう」
「歓迎しますよ。来る者はこばまず、去る
者は追わず、が我が郷のモットーですからね」
「そ、その郷というのは、もしかしたらあ
の、理想郷と呼ばれているシャング――いえ、
シャンバラの事?!」
「まアまア、詳しい話は郷に着いてからで
も。時間は永遠に、たっぷりとありますよ」
まさか、と思う岩と岩の狭間に小さな割れ
目があった。そこをくぐると細長い洞穴にな
っており、抜けると、断崖絶壁に出た。が、
少し横に移動すると、アーチ状の岩の橋があ
り、恐る恐る渡りきると(黒豚はぴったり張
々湖にくっついてついて来ていた。まだ震え
ている)、谷の底へ降りるだらだら道があり、
谷の底は、緑豊かな"郷"だった。森があり
滝があり小川が流れ、大小幾つかの館と藁葺
き屋根の農家が田んぼや畑の間に点在してい
る、まるで絵に描いたようなのどかな風景だ
った。雪も降っておらず、風も暖かだった。
「ちょっと……出来過ぎだ、なァ」
「は?」ここは常春の園なのか?!
「あ、いや、へへへ。なに、夢に見たよう
な美しい景色なもンで……」
笑って誤魔化したが、なにかちょっとつく
りものめいた胡散臭さ(のようなもの)を感
じていた。
そのようなものは、郷に入って増々強くな
った。すれちがう郷人たちはみな、ニコニコ
と挨拶し、用事を頼めば、親切に世話をして
くれる。
公共の施設らしい中位の館の、来客用の部
屋に案内され(黒豚は、裏の小屋に引っ張っ
て行かれた。勿論、大いにイヤがって泣き叫
んだのだが……)、世話係の女性が付けられ
たが、何故か言葉は通じなかった。窓を開け
ると、笑い声、遠くから歌声。花の香りがそ
よ風に乗って部屋に入って来た。
若い女性に若い男性、中年の女性に中年の
男性、時に老人も子供も見かける。犬もいれ
ば猫もいる。馬や山羊や小鳥……。極く極く
平凡な"人の郷"に見える。ここが本当に
不老長寿の理想郷なのだろうか?!
それにしてもこの、フェイクめいた、芝居
の舞台を観ているような、胡散臭さは何故な
んだろう?何処から来ているんだろう?
強いて考えれば、現実には光と影がある。
綺麗もあれば汚ないもある。喜びの裏には哀
しみがある。それがここには、明るい光の部
分しかない、ように見える。だからかも知れ
ない。もしそうなら、つまりは、ここは真実
の"理想郷"だという事になる!
でも、なにか、まだ不安だ。とにかく急い
で不老長寿食の存在を確認し、そのレシピを
憶え、上海へ、黒豚を連れて懐かしの飯店に
帰るのだ。
気配、に、振り向いた。
ヒョロリ、と背の高い男が入口に立ってい
た。スキンヘッド、ヌルリと胸まで届きそう
な泥鰌髭。前で両手を組み、それを基点にし
たようにちょっと前かがみ。ニッと笑ってい
る。丸い小さな鼻眼鏡は、明らかに伊達だ。
「ようこそ」流暢な広東語。「これでよか
ったんでしたね?」さっきの出迎え人達が報
告しているんだろう。名古屋弁だっていいん
だぜ。それにしても、ノックもせず……。
「私の名はアル・ハーン。言うなればまァ、
この郷のまとめ役、世話係、といったところ
でしょうか」
「ワシは……張々湖(イシノモリの爺イめ
!)。始めましてヨロシク。お世話になりま
す」まとめ役のおエライさんなら、気に入ら
れていた方がなにかと得策だろう。
「私共の郷では、家の入口に鍵をかけませ
ん。勿論、部屋の扉にも。食べ物も財産も全
郷人の共有です。泥棒、などという愚かな解
決法は必要ない訳です」ワシの考えを読んだ
のか?ふん……愚かな解決法、ときたか。そ
れじゃ不老長寿食の秘伝も共有させてもらえ
るか、ね。
「が、ただ一部屋、鍵のかかっている部屋
があります。私共が"開かずの間"と呼んで
いる大切な部屋です」ほう?なんか何処かで
聞いたような、いや、観たような……。
「ふ・ふ。なに。この郷の歴史が詰ってい
る宝物の部屋なのですよ。盗っ人の心配をし
ている訳ではなく、大事なモノだという事を
認識してもらう為の鍵なのです」ナルホドね。
あンたが仲々の理屈屋だと言う事がわかった
よ。「開かずの間の前で戸惑われてはお気の
毒、そう思ってお話をした訳です。後は、ど
こへでも出入りは自由、ご自由にご滞在を楽
しんで下さい。では……」
ちょっと前屈みでニッと挨拶、スーッと出
て行く。
「どうも、わざわざ……」チッ、気味の悪
いヤツだ。よウし、では早速、開かずの間と
やらに。こういうのは電光石火で意表を突く
のが――。
ヌルリ、と入口にスキンヘッドの泥鰌髭!
「ひとつ、言い忘れました。今夜はあなた
の歓迎の会食です。特別料理を用意致します。
今準備中ですがもう直ぐですので、余り遠出
をなさらぬように……」
特別料理!だって?!例の、か?!それなら準
備中を是非見たい!が、もう入口から泥鰌髭
の姿は消えている。廊下、にも姿はない。ク
ソッ、意表を突かれたのはこっちの方だ。
廊下を歩き出す。と、いつの間にか後に世
話係の女が尾いている。たく、どいつもこい
つも人間離れしてやがる。
「ああ……。厨房を見せてもらいたいんだ
がね。実は、ワシは料理人なもんで」
女はキョトンとしたまま。ふン、そうだろ
うさ。女は言葉が通じない。こんな時用の世
話係、なんだ。なら、せめて邪魔はしないで
くれ。シッシッ、部屋へ帰って掃除でもして
いてもらいたい!シッシッ。
張々湖が腕を前に伸し、手の甲をヒラヒラ
上下させると、女はムッとしたような顔にな
り、クルリと踵を返すと、サッサと歩み去っ
た。また、速い。それにムッとしてくれた。
皆がみんな、ただニコニコのお人形サンでな
くて良かったよ。それにしても
シッシッはどうやら世界共通語らしいな。ン?!
お人形サン?!郷ですれ違った若い女若い男、
大人、子供に母親、赤ン坊……。胡散臭い芝
居じみて見えたのは、あの、人形のようなつ
くり笑いのせいではなかったか?!
ちょっと歩くと、厨房は直ぐに見つかった。
家のどこら辺にあるかは、料理人の勘が教え
てくれる。が、却ってそれが不安にした。多
分こう直ぐ見つかるようでは収穫はあるまい。
その通りだった。厨房で働く、如何にもそ
れらしい男達女達は、ニコニコと迎えてくれ、
今用意している料理の説明をしてくれた。当
り前の中華料理……。これじゃ仙食でもなん
でもない。特別料理だと?ヘッ、ヒトをバカ
にして……。よし、そんなら今度はこっちが
意表を突いてやるぞ。
「じゃなく――。今夜の歓迎パーティ用の
特別料理とやらを作るところを、拝見し
たいんだが……」
全員一斉にキョトンの表情と笑顔を続けた
が、一人だけ、その芝居に乗り遅れた者がい
た。チラリと目が合うと、慌ててみんなの後
を追ったが、これでわかった。
特別料理は実際に、何処かで、秘かに作ら
れている。不老長寿の霊材を使って……!
どんどん進んだ。次々と扉を開けた。嘘で
はなかった。鍵のかかっている部屋はない。
だから目指す部屋を探すのは簡単だ。鍵のか
かっている部屋が"開かずの間"だ。ハハ。
かかっていた!植物らしい紋様の浮彫つき
の把手が動かない。
「ホイ!」
張々湖はノブの真ン中に開いている開いて
いる小さな丸い鍵穴に、とんがらしたタラコ
唇を近付けて、フッ、と吹いた。ヴオッ。中
で小さな音がして、一瞬把手が赤くなり、薄
い煙が溜息のように洩れてきた。焼き切った
のだ。
チ・チ・チ・把手の上で丸まっちい指を踊
らせて、回す。ギッ、微かな音がして、開く。
観音開きだ。中へ……。思ったより広い。が、
部屋の中にはベッド(天蓋付き、四隅にレ
ースのカーテン。古典的なヤツ)がひとつ。
大きなベッド、その上に、大きな影が腰を降
している、窓側を向いて。窓の厚手のカーテ
ンは10cm程開いていて、光の粒子を泳がせ
たビームを、大きな影にそそいでいる。それ
が、影の輪郭に光輪を作り、影を更に影らし
くしていた。頭部には冠らしい飾りものと、
象の耳のような横に広がったヴェール(?)。
女、か?
「ゲストにはゲストのマナーがあるのだよ」
女、だ?少し鼻にかかった声だが、良く透
る声、美声とさえ言える。
「鼻にかかったは余計だが、褒められるの
はイヤじゃない」
「ゲッ!?」こいつはワシの……。今までも
ここの何人か、そうじゃないかと感じていた
けど、心が読めるんだ!?こいつは油断が……。
「愚か者よの!今頃気付くとは。ワレワレ
は随分前から、ソチの来る事を察知しておっ
た。だからこそ、ソチの希い通りに、永の生
命を与えてやろうと思っていた。この里にも
時折、新しい血を増やさねばならぬでな。そ
れも"力"のある……。ソチは外形こそ醜い
が、これからのワレワレに必要な"力"を持
っている。そう、だからこそ今宵の秘祭に、
最初の晩餐に招んでやったのに!」
影がゆらり、と立ち上がる。
「……」張々湖の頭は痺れている。さっき
から一段と深さを増しているような、眠気を
誘うような、影の大女の、鼻にかかったよう
な声のせいか?!こちらに身体を……
「鼻にかかった、は余計だと言ったろう。
愚か者……。黙って食卓に座って居れば、明
日にはワレワレの同志となれていたのに」
こちらに身体を……回す。
ギラギラと何重にも巻かれた宝玉のネックレス。
乳房。大きな乳房。……回す。
せり出した腹。張り出した腰。豊饒を祈
った太古のヴィーナス像のような、女だ。鼻
にかかった声。鼻に……。回す。かかった…
…。鼻、があった!女の頭は"象"だった。
耳は、ヴェールなどではなく耳で、三つ編の
髪のように、クネクネと蠢いているヘビ。蛇
が数匹、扇子の骨のように支えていた。象嵌
(正に)を施した短かい牙には金銀などの光
り物で装飾。そして眼は――瞳が無かった。
ただ冷たく光るホワイトホール。は、鼻に、
か、かっ……。そして衝撃は、その鼻の先に
ぶら下げられていた、健康そうな丸々と肥っ
た、赤ン坊だ!死んではいない。眠っている
のか、静かだ。
「これが、ソチの食したがっていた不老長
寿の食材だよ。一歳児。霊茸に霊根、それに
秘薬を煮込んだスープで姿煮、ね。ホ、ホホ
ホ。ソチの得意料理のひとつに出来そうだっ
たのにおしい事だったね」
鼻の先で片脚の踝を巻いた赤ン坊を持ち上
げて、ぶらりぶらりと振って見せる。
は・な……。ダメだ・も・う・考えら・れ
な・い!?
「殺しはしない。安心おし。百年かそこら
働き次第では、ちょっとの生命をやってもい
い。だが、ここではただの働き蟻だ。本来の
コックの仕事をさせてやってもいいわね。と
にかくソチは、思慮と分別を欠いた軽率な愚
行の為に、エリートへの道を自身で潰えさせた
のよ!」
グッ。誰かが襟首を掴んで張々湖の身体を
引き上げた。足が宙に浮いた。その軽い衝動
が、頭脳の、痺れた頭の一部を"正気"にし
た。火をポッと灯した。
「覚えておおき。ワラワの名はシバ。天地
万神の女王……」
ヴォーアー……ッ!!!
張々湖の口から、大きな炎の柱が飛び出し
た。火竜の、どんな生命も焼き尽そうとする
ような凶暴な意志を持った炎だった。が、張
々湖は、なにも考えていなかった。
キエーン!!
象頭の奇怪な女王、シバの悲鳴だったのだ
ろうか?襟首を掴まれたままクルッと回転す
ると手応え、いや足応え、があった。蹴上げ
た足が、プロレスラーのような筋骨逞しい若
い巨人の顔面に、見事に埋まっていた。
グブッ。顔面靴型の男がゆっくりと後に倒
れていく。襟首の指が開く。倒れていく。男
の盛り上った胸肉をトン、とバネにして、ペ
ッと"唾"を吐きかける。短銃を引き出そう
としていたハゲドジョウの袖に火がつき、ゴ
トリ!短銃が落ちる。ひっ。世話係の女が逃
げ出す。張々湖、跳ぶ。長剣を振り上げつつ
あった髭面の男に回し蹴り。剣は天井に、刺
さる。張々湖、また跳ぶ。なにも、考えてい
なかった。銃を持った若い奴。喉にチョップ。
振り返る。ベッドが燃えている。カーテンが
燃えている……。
女王の、姿は、無い。
張々湖は走り出す。廊下に飛び出す。前方
に、あたふた走る世話係の女の後姿。追いつ
く。前に回り胸倉を掴んで、尋ねる。優しい
声で。
「ワシの黒豚、何処にいるかね?」
女が震えて止まらない指で指し示す。方向
はわかる。張々湖は少し考え始めている。
「なンだ。言葉も通じるじゃねえの!」
鳩尾にチョンと拳を触れる。女が崩折れる。
張々湖、走る。思考力が徐々に戻りつつある。
走る。走る。裏庭へ出る。走る。速い速い。
人は外見で判断してはいけない。
ブヒーン!
黒豚だ。よかった、まだ無事だったか!豚
小屋の戸を蹴破る。黒豚が飛び出してくる。
「走れ!ここから脱け出すぞ!」
ヴアッ。豚小屋に火をかける。走る。黒豚
が走る。豚も外見で判断してはいけない。走
りながら、ボッ。左右に、ヴオッ。点在する
建物に、バッ。次々に、ペッ。放火する。
この頃になってようやく、郷のあちこちか
ら悲鳴や、慌ただしく動き回る人の気配が、
聞えて来始める。
黒豚が走る。物凄いスピードで走る。迷う
事なく郷の出口に、唯一の入口でもあるらし
いあの岩のアーチ状の橋へと向っている。黒
豚の鼻のカン。思っていた通りだ。張々湖は
満足しながら、走る。もう直ぐだ。あれを渡
ってしまえば……。
ブキキキ、キーッ。黒豚が急ブレーキで止
まった。橋の上に、象がいた。象頭のシヴァ
の女神と名乗る異形の者が立っていた。
点火!の意志が動く。
「およし!!!無駄な事だよ!!動けば殺す!」
見れば、火傷の跡も無い。張々湖は、自分
の身体が"内破"するイメージを"覗"る。
「殺すのは簡単。でも、今夜は"一献大饗"
の聖なる日。殺すのは生かす為にのみ……」
チラッと、逆さまにぶら下げられた一歳児
の姿が蘇える。ドッと汗が吹き出した。動き
を読まれては、勝ち目はない。黒豚が震え始
める。
「どうせソチらは何処へも逃げ出せない。
もし運に恵まれてこの郷から出られたとして
も、外は猛吹雪。険しい幾つもの山嶺を装備
も無しで越えられる筈もない。しかし……」
聞くな!何も考えるな!頭を白くしろ!
「……ソチは身体を改造しているらしいか
ら、もしかしたら、その"力"でソチの故郷
へ帰れるかも知れぬ。そうなったらこの郷の
話をせよ。理想の郷、神々の住まう郷がある、
という話を。それだけを!後は、全てを忘れ
よ!」
き、聞くな。頭を白く……白く……。
ヴァーッ。
張々湖は、蒼い天空に向って焔を吐いた。
最大の出力で、放った。火が伸びた、伸びた。
炎の先は女神には向いていない。アーチの上
の絶壁にぶつかって四散し、火の粉を散らし
た。岩と雪が崩れて、転がり滑り墜ちだした。
女王がフッと消えた。
テレポート、と張々湖がボンヤリ考える。
落石と雪崩が次第に大きさを増し、迫る。
ドン、ブヒブヒッ。黒豚が張々湖の背中を
押す。走り出す。ドン。走る。ド・ド・ド。
バラバラバラ……。雪と岩が前後左右を乱打
する。走る。黒豚が走る。張々湖が走る。ザ
ザザザザ。ドン。
ドカッ・ドカン。
巨大な落石がアーチを直撃する。アーチに
ひびが入り、割れ、崩れ……る!!
張々湖と黒豚はやっと渡りきって、絶壁の
割れ目に飛び込む。洞穴のトンネル。幻の世
界から現実の世界に抜けるタイムトンネル。
グワララ、ガラガラガラ。ドドーン。と後
方から大きいが鈍い音が聞えてくるが、二人
は後を振り向かない。ヒラ。顔に、団子鼻に、
雪のひとひら、ふたひらが降りかかる。入口、
外だ。
ビュウウウウ。グオオオ……。
突然、サウンドが爆発した。雪はもう雪片
ではなく白い帯だった。白い渦であり白い濁
流だった。その流れにウッと押されて、張々
湖と黒豚の共に短かい脚は止まったが、それ
も一瞬だった。流れの中へ泳ぎ出すように前
へ前へ前へ……。洞穴で大自然のご機嫌が直
るのを待つ、という考えは思い浮かばなかっ
た。一刻でも早く、そこから遠ざかりたかっ
た。一体なにが起きて、なにがどうなってい
るのか。その時の張々湖が、覚えている事は
殆んど無かった。ただ
「……黒豚。オミャア、済まんな。ワシの
勝手に付き合わせてしまったばかりに……。
でもな、安心しろ。必らず上海へ、飯店へ連
れて帰ってやるからな!」
ブ……。黒豚が哀し気に呻いた。哲学者皺
やデカ鼻のカンは伊達じゃない。オノレの来
たるべき運命を知っていた。
視界が歪む。白い渦が牙を剥いて噛みつい
てきた……。
E天空の食 END
2012・009
H
女神の陰謀
島村ジョーの場合
Dガイアの都(補)
ジェロニモの場合
H女神の陰謀(はかりごと)
「ああ、ギルモア博士。ええ……。こちら
は順調に進んでいます。え、ショウ先生もそ
こに?いやァ、お二人共お年齢を感じさせな
い若さで。安心して離れていられるんで、助
かりますよ。アハハ、いやいや……。ところ
でイワンは?相変らず?ふゥん、まったく、
一体いつまで眠り続けているつもりでしょう
ねえ。充電中?なんのです?……単なる予感
ですかァ。まァ、とにかく、この世の中には
どうも近頃、訳のわからない事が多過ぎます
よ。今日はこれからB・M(ビーン・マイト)
で例の"異物"をもう少し、露出させてみよ
うって事になってるんですが……。あ、一寸
待って博士。はーい、直ぐ行きまーす。翡翠
さんが、呼んでいるんですよ。もう出航なん
です。ええ、戻って、何かわかったなら直ぐ
連絡しますよ、勿論。じゃ、バーナード・シ
ョウ先生にもよろしく。ハハハ。え、ええ、
こっちのガンコ教授にも言っておきますよ。
ハハハ。じゃ……」
H女神の陰謀
「やァ、ギルモア博士。ええ、こちらは変
りありません。え、ショウ先生も?いやァ、
お二人ともお年齢の割りには元気なので安心
ですよ。イワンはどうです?え、相変らず変
化なし。ふゥん、一体いつまで眠り続けるつ
もりなんでしょうねェ。え、はい、こっち?
順調に進んでますよ。今もこれからB・M(
ビーンマイト)を使って掘り出し作業を開始
しようとしているんです。きっと一両日中に
スゴいニュースをお報せ出来ると思いますよ。
え、いや、ハハハ。気を持たせる訳じゃあり
ませんよ。どうも何か、一言じゃ説明の出来
そうもない理解不能な事が起りそうな気配な
もんで……。あ、ちょっと待って下さい」
「ジョー、何処?急いでちょっと来てちょ
うだいッ。ジョー!?」
「はい!今行きます!翡翠さんが呼んでる
んですよ。じゃ、ギルモア博士、FTV(フ
ットビ)有難うございました。今度はこちら
からとばしますから。バナナード・ショウ先
生にもよろしく。ハハハ。ええ、はい。こっ
ちのガンコ先生にも言っておきますよ。じゃ
バイバイ」
FTVは、ごついダイバーズ・ウォッチの
液晶フレームにとび込めるようにしてある。
イヤフォンは、耳の後の〈ツケボクロ〉だ。
ジョーは装備(と言っても軽量)を抱え、
翡翠の声の方に歩き出した。もう出発の時間
だ。
@琉球列島
こっちの頑固教授、というのは、羅城門大
学の篝矢藤兵衛(かがりや・とうべえ)教授の
事である。考古学者だ。
名前と職業が似合い過ぎているというのがコ
ワイ。こわいと言えば、180cmをゆうに
越す堂々たる巨躯も迫力があった。少し猫背
なのは巨躯のせいだろうが、キビキビ(ある
いはドスドス)大股で歩く。広い肩幅、太い
腕。張りのある大声で喋べりまくる。空気が
破られて悲鳴を上げる音、が聴えそうに振向
く。言動はエネルギッシュを越えて、一度会
ったら忘れられないキャラクターになってい
た。長い顔。踏み荒された、伸び放題の雑草
のような、乱れた灰色の髪。不精髭。が、太
い眉毛の下の目だけは、不似合いと言いたく
なる程、優しかった。その目の先に、翡翠が
いた。
翡翠(ひすい)。この変った、と言うよりは、思いき
った名前の女性は、羅城門大考古学科の大学
院生で、篝矢翡翠。つまり篝矢教授の娘、で
あった。しかも一人娘。しかも同じ道を一緒
に歩いてくれている。それが何よりも優しい
目の原因であった。父59歳。娘27歳。
翡翠は美しかった。ただの"美人"とは形
容の出来ない妖しい美しさ。瓜実顔の中はピ
シリ、と整っていて、気品はあったがニコッ
と笑えば愛敬もあって、考古学科の学生達に
は、憧がれの的、であった。だから篝矢のチ
ームには、参加希望者が殺到したのだが。
翡翠は、全ったく男には興味が無いようで
あった。翡翠の、いつも何処か、異う次元で
も視ているような(時折、その関係だろうか、
緑色にも見えたりする)瞳の先には、地中に
埋もれた失われた時間、しか無いのかも知れ
ない、と思わせた。
翡翠は、この島でチャーターした漁船の、
少し腰を上げたような艫に、少し脚を開き、
両腕を腰で軽く支えて、これから命令を下そ
うとするシヴァとかクレオパトラみたいな女
王のように、立っていた。
「ジョー。B・M」
いつもこの調子だ。素っ気無い。
「持って来ましたよ」
ほら、と言うように箱を上げて振って見せ
る。B・M50発入り、だ。大丈夫、危険は
無い。ソラマメ状のこいつらは、莢を抜かな
ければ眠り続ける。イワンのように……。
「じゃ、急いで」と言いながら、翡翠はふ
っと、ジョーの顔を見直す。訝かし気な、と
でも表現出来そうな、一寸小首を傾げ、目は
眇気味。これもいつもの(と言ってもジョー
を視る時の)癖だった。最近は少し慣れたが、
それでも、ジョーは首筋あたりをチリッ、と
鳴らした。眇気味の女性には美人が多い、と
は昔から言われているが、最初にそれで見詰
められた時、ジョーはゾクリとなった。それ
程、奇妙と言っていい程、色っぽかったのだ。
船に乗る。狭い船縁の甲板にベタリと座り
込んでいた猿渡助教授が、顎を上げて合図す
る。出発前に、もう酔った、と訴えているよ
うだ。が、もし酔っているとしたら、酒で、
だろう。鼻の頭が赤かった。陽焼けではない。
酔う程に目の淵なども赤くなって、名前通り
になる。まだ歳は若く(32歳)独身だった
が、頭は早くも禿げかかっており、眼鏡の底
は厚く、少々肥り過ぎで、背は低かった。絵
に描いたようなコメディリリーフのバイプレ
―ヤー。秘かに翡翠に憧がれているようだが、
叶いそうも無かった。いや、こんな風に観ち
ゃいけないな。これでは差別だ。それに、世
の中、なにが起きるかわからないからな。
高垣沙織と合田真太(みんなマトモには呼
ばない。アイダマコトダと呼ぶ)は、舳先に
いた。ダイバースーツや、酸素ボンベの点検
中だった。
篝矢教授は、狭い操舵室に船長といた。紙
(海図だろうか)と船のレーダーを交互に見
ながら何やら話し込んでいる。
「いいわよ。お父様!」
翡翠が声を掛け、教授と船長が振り向き、
教授が外に出て来て、漁船はブルルッと身震
いして、動き出した。
与那国島から、西表や石垣島へ向う方向の
数km程先の海面に、チョコンと頭を出して
いる小さな岩礁がある。勿論、海図に記載さ
れてはいないし、訪れる人もいない。その岩
礁が目的地だった。
海は穏やかで、そう新しくはない漁船も滑
るように進んだ。途中、船をトモダチと思っ
ているらしいいつもの連中(イルカ、だ)が、
いつものように横を、先を、後を泳いで併走
(?)したが、今日は何故か、すぐに飽きた
のか、早々に姿を消した。まァ、何か別の面
白い遊びでも見つかった、と仲間からのコー
ルが入ったのだろう。
「島村センパイ……」
いつの間にか傍に沙織がいた。少し遠慮勝
ちな声だ。ジョーは船縁に寄り掛って、栗色
の髪(生れつきの"色"だ)で、駆け抜けて
行く風を感じていたところ、だったからだ。
「うん……」
舷に肘を置き、反転した。
「いえ、別に大した用事じゃ無いけど、あ
たし……」一寸わざとらしい間だったが、次
に沙織の発した言葉は意外だった。
「……あたし、今度の発掘は、何だかとて
もこわい!」
「恐い?」
「ええ、だって、組成の違う岩の中に、あ
んな、人工的に手を加えられたように見える
巨石があるなんて。とても不自然。それに天
井の岩に刻んであった、イースター島の"鳥
人"の絵の事だって……」
聞いてくれてる、という思いが、息堰切っ
たような声になっていた。
「あれは、最近の、誰かの悪ふざけ、落書
きだろう。ケシカラン、と篝矢教授も怒って
いた。オレもそう思ってるが……」
「でも、それだって良く調べての結論じゃ
ないから……。もし"鳥人"が本物だったら
……」
「なんだい?」
「い、いえ。何でもないわ……」
話は突然途切れた。沈黙が微かな居心地の
悪さを作った。
「あーあ」
それを振り払おう、とでもするように沙織
はジョーと同じポーズで空に顔を向けた。空
は青く、カンと晴れていた。
「これが終って、秋になったら、大学に戻
って、キレイなお洋服を着て、街を歩きたい
なァ。ウインドウ・ショッピングして、なん
かおいしいモノ食べて……」
沙織はジョーの「いいね、それ!」という
一言を待っていた。ジョーには、沙織の気持
ちがよくわかっていた。でも、応じなかった。
応える訳にはいかなかった。オレには過去が
ない。この、島村ジョーという名前だって、
名付け親はショウ先生だ。いつだったか誰か
に、「島村ジョー、なんてなんだか、ムカシ
のマンガの主人公と同じみたい!?」と言われ、
お袋がそのマンガの大ファンだったらしくてね、と
誤魔化したが、少し慌てた。あのマンガの成
立過程を知っていれば尚更だ。だからこそ
余計、沙織に応える訳にはいかない。その
くらい(食事をするぐらい)は、つきあって
も構わないが、それでは済まなくなるだろう。
それにオレには……。
まァ、それはいい。所在無く周囲に目をや
った。猿渡助教授の姿が見えない。本当に酔
って(船か酒かは別にして)、その辺にひっ
くり返っているのかも知れない。前方を見た。
篝矢教授と翡翠が、なにやら熱心に話し込ん
でいる。今度の発掘のテーマは、博士の持論
でもある、〈プレ縄文ドルメン文化の存在〉、
または〈縄文人南方ルート説〉を実証出来る
かも知れない重要なものだった。
20世紀の末、沖縄から台湾周辺の海底に、
人工的建造物としか思えないような、巨石の
〈階段〉や〈城壁〉など等が発見されており、
篝矢教授の動き(日頃の)に、増々"力"を
加えていた。翡翠は胸の上で腕を組んで、黙
って聞いている。そんな、ちょっと男っぽい
ポーズや仕草が、翡翠には良く似合う。
その先、舳先にはアイダマコトダが腰を下
して、ボンヤリと海を見つめている。が、本
当にボンヤリで無い事は、時折、チラリチラ
リと、翡翠を盗み覗ている事でわかる。麗わ
しの翡翠先輩に憧がれて、チームに応募して
きた一人なのだ。そして今や虜囚、だ。
バカヤロー、お前、合田。目を覚ませ。傍
にこんないい娘が、高垣沙織がいるじゃない
か!好きになれよ!それ以外にはお前の、ア
イダマコトダを発揮出来るチャンスはないぞ。
ジョーは心で話しかけたが、勿論、余計な
お世話だろう。
「鴎」
青い空を二、三羽。白いブーメランのよう
に舞っていた。
「綺麗……」顔を上に向けたまま、沙織が
いった。空も海も鴎も、陽光を細かく砕いた
ようなキラキラの光が覆っていた。沙織の目
の隅で光ったのも、その破片のひとつだった
のだろう。
「あれです!」
船長の胴間声がした。見やると、水平線に
台形の小さな影が、ポツンと見えた。
「フジツボジマ」
船長はまた、独り言のように説明したが、
言わずもがなだった。一行はもう二、三度こ
こへは来ていた。フジツボジマもみんなで、
冗談のように付けたのだ。形は藤壷、中はが
らんどう。
「……そろそろ用意をしなきゃ、な」
ジョーが沙織を急かして歩き出す。沙織は
フーッとひとつ、小さな息を吐いて、その後
に続いた。
翡翠は既に、ダイバースーツに片脚を通し
かけていた。三人で潜る。翡翠とジョーと沙
織。合田は上で"命綱"等のサポートをする。
なにしろ、海底の洞穴に入るのだ。帰路の確
認や三人がバラバラになったりしないために
も、ロープは必要なのだ。
猿渡は船の揺れに酔い続け、篝矢教授はイ
ライラと待つ事になる。自分では潜らないの
だ。翡翠に止められている。心臓が弱いのだ
そうだ。人には意外な弱点があるものだ。
「島村くん!"豆"の扱いには、くれぐれ
も慎重にな!」
「大丈夫ですよ、教授」
「絶対にあの"物"に傷を付けるなよ!」
なんだ。こちらの身の安全の事では無かっ
たのか。フフ。まァ、そんなところが篝矢教
授を篝矢教授にしているんだが。
舷側の昇降板を開け、酸素ボンベの重さを
利用して(と言っても、ボンベは3本、背中
に横に並べて付けてある。かなり小さいし、
軽量でもある。それでいて圧縮酸素の量は以
前の2倍以上)、頭から落ち(このスタイル
はある種の習慣だ)……、沈んだ。
A海底洞穴
海は、海中は、数多の汚染による環境劣化
にもめげずに、まだ透明度を保っていた。水
天井の散乱する光が、かなり下まで見せてい
る。翡翠を先頭に岩礁に接泳する。台形はそ
のまま裾を広げ、底の深淵に消えている。様
々の魚の群が、無関心に周囲を往き交する。
マスク越しに少し左右に視線を振っただけで、
直ぐに入口は見つかった。この前訪た時に、
赤い浮標を三個くっつけておいた、からだ。
翡翠に一瞬の躊躇いも無かった。中へ、中
へ中へ。"チャリライト"とギャグった仇名
を付けた額のミニ・サーチライトが三本、真
っ直ぐに闇を裂く。
また赤い浮標が見えた。翡翠は足鰭を優雅
に一掻き二掻きすると、方向を上に向ける。
ポカリ。
浮かぶ。海中の、いや岩礁の、空洞だ。三
本の"チャリライト"がグルリと交錯して、
ゴツゴツした、湿った洞穴内を照らす。それ
程の広さではない。
ピシャーン。ポシャーン。ピシャーン。
絶え間ない水滴の音。"チャリライト"が
一本に束ねられ、一ヶ所を照射した。光の輪
の中に、黒茶けた周囲の岩礁から露出した、
まるっきり異質の、灰色の"石"の一部が浮
かんでいた。
前回来た時に、残しておいたランプ(古
典的な)に灯を入れると、ジワーッと滲むよ
うな黄色っぽい灯りが広がった。影が揺れ、
隅々の闇が濃くなった。
「少しづつ?それとも一気に?」
翡翠らしい訊き方をした。一気に、やりた
そうだった。
「それは勿論、少しづつの方が……。埋ま
っているのがどんな"物"か、どんな形かわ
からないんだし」
「大きさならほぼわかってるわ。こないだ
のダウジングで」翡翠はこれまた前回、放り
投げたままだった、くの字型の針金を拾い上
げながら言った。
ダウジングは古来から、地下水源を探知す
る方法として日常的に用いられた方法で、や
がては鉱物資源の発見、等にも一役買うよう
になり、現代でもその種の企業は、探知機等
と併用で、大マジで取り入れている。
古代人が誰でも持っていた能力のひとつ、
等と言われているが、翡翠は、つとに秀れた
ダウザーであった。時に、と言うよりも常に
針金や振り子は、周囲で見守る人達へのサー
ビス。ショーアップのための小道具、と見え
る事の方が多かった。多分、誰も見ていない
場所では、そんなものには手も触れないので
はあるまいか。事実
篝矢教授の、重要な考古学的発見、遺跡、
遺物の埋蔵地は、翡翠のその"能力"による
ものだ、という噂もあった。と
翡翠はベルトから、ペンシル型スプレーを
抜き出して、シューッと岩に"線"を吹き付
け始めた。横に横に縦に、横に横に……。か
なりの大きさの長方形だ!
「間違いないわ。これが大きさ」
驚く、というよりは呆気に取られ、沙織を
見た(こういうシーンのパターンだ。でない
と間がもたない)。沙織の目は、怯えていた。
そうだった。沙織はこの発掘を畏れていたん
だ。途端に、ジョーも緊張した。
「上部に5個。左右に1個づつ。下部には
10個。その方がスルリと、"物"が傷つかず
に転がり出る、と思うわ」
「一体……、中の"物"って、何なんです
?!」ジョーが思わず訊いていた。まるで、知
っているモノを取り出す時のような口調に聞
えたからだ。
「そんなこと、わかる訳がないでしょう!」
翡翠がピシャリと言った。例の、妙なもの
を視るような眇になっていた。
"B・M"の仕掛けは、簡単だった。岩に
小型のドリルで穴を穿ち、"芽"と呼ぶ突起
を起して"糸"を引き出し、その長さを調節
する。つまり、同時にバクハツさせるために
は、最後の"糸"を一番短かくすればいい訳
だ。そして、岩陰に身を屈めて、待つ。
バウッ……!!!ン・ン・ン……
破壊力はそこそこだが、一個の"豆"の出
す"音"はそれ程大きくない。大都市のド真
ン中や住宅街などで使うために開発されたモ
ノだからだ。しかし、纏まれば、それ相応に
大きくなる。ましてや密閉空間だ。沙織が両
手で耳のあたりを押さえて縮こまる。
カッ、コッ、カ、カ、カ、バラバラバラ。
岩礁の破片が弾けて当たる音。ムアッと
土埃。こんなに湿った場所なのに……。
翡翠がサッと立つ。ジョーも、覗く。
開けられた穴から、ゆ・っ・く・り・と・
ゴロリ。背面から滑り落ち、仰向けに収まっ
た転がり出たものは、
モアイだった。
あの、イースター島の。そっくりのモアイ
だった。
穴の中で、滑り落ちる直前のモアイの背は、
涅槃の釈迦像にも見えたのだが、礫石の中で、
岩天井を見上げているニヤニヤ笑い(場所が
場所なら愛敬になる)は、不気味だった。正
にこれは"異物"だった。こんな場所に、あ
ってはならないモノだった。
「やっぱりね。"鳥人"の絵を見た時から
もしかしたら、とは思っていたの!」
翡翠が、割と平然と、言った。
「キャーーッ」
沙織が悲鳴を上げた。状況の奇妙さで生じ
た緊張を、解放したのだ。それに、沙織はず
っと、なにか良くない事、の予感に悩まされ
てもいた。
「何ですか。高垣さん。これは、考古学的
には予測の範囲よ。ネイテヴアメリカンが、
インカやマヤの文明と一緒に、北回りで日本
にも来た。そのルートに、ペルーとかイース
ター島が入っていたとしても、少しも変な事
じゃないでしょ?縄文の土器とそっくりの土
器が北米で発見された、という例だってある
わ」
でも、モアイだぜ。選りに選って、イース
ター島だぜ。と、ジョーは思った。断定的な
翡翠の言い方への反発もあって、まるで絵に
描いたような、その説には、なにかセンセー
ショナルに書かれたアトランチス本とか、ま
ことしやかで押しつけがましいオカルト関連
本等と共通の、いかがわしさを感じたからだ
った。
シャクッ、シャクッ、シャクッ……。
フラッシュを閃めかせて、翡翠は写真を撮
り始めた。
「お父様に、早く、見せて上げたいわ!」
「で、でも。こんな巨きなもの。ど・どう
やって……?!」
沙織が口を利いた。声が震えている。
「……浮力の大きなブイのような浮袋を、
モアイに装填し、先ず洞穴から外へ出す。そ
れから更に浮力を上げて海上に浮かべ、船で
曳いて行く。勿論、今日の漁船じゃダメね。
でなきゃ……」
翡翠は考えている振りをしている。もう、
とっくに答を出しているくせに。そう鼻白ま
せても仕方が無い程素早く、アイデアと称す
る次のセリフがすらすらと出てきた。
「……岩礁に穴を開け、直接クレーン船な
どで持ち上げる。これは、環境保護団体に格
好の餌食を提供しそうね。いずれにしろ、大
プロジェクトになるという事ね。お金と人脈
が早急に必要になるわ!」
急に屈んで足鰭を着けながら、
「さ、それじゃ急いで引き上げましょ。写
真を現像し、港へ帰って――。いえ、東京へ
戻って、直ぐに準備に入りたいわ!それから
ジョー……」
また、あの眇(すがめ)だった。
「なんですか?」
「いえ、いいわ、これは後でも……、じゃ
行くわよ!」
B水晶占い Cイースター島
カ・コーン。
ししおどしの音。
ササ・サササ……。葉擦れの音。
リリー・リ・リ・リ。コロコロコロ
……。
風の微かな戦ぎに促がされたかのよ
うに、虫達が囁やき出す。
植木や庭石に、座敷の灯りが一際の
陰影を添えている。障子の桟に区切ら
れて人影が二つ。
「おじさま……」
徳利を差し出したのは、篝矢翡翠で
ある。ニコリ、と微笑む。あの、誰を
も惹き込むチャーミングな笑顔だ。
脇息に寄りかかり、片手で猪口を差
し出したのは、懈玄哲(だるい・げん
てつ)。猪口を持つ、老人斑の浮いた
手は、少し震えている。かなりの老人
だ。短かく刈った白髪の頭。何本か撥
ねるように長く跳び出した眉毛。ギョ
ロ目。その上の深い皺。その下のとび
出した頬骨。とんがった顎。小鼻から
伸びた溝による線でぶら下げているよ
うな、一文字の薄い唇。が
普段なら対面した相手を威嚇するだ
ろうこの顔も、隠しても染み出る、人
を怖れさせる老獪さも、今は、とろり、
と優しく溶けてしまっていた。
翡翠が大のお気に入り、なのだ。
長い交際ではない。まだほんの四、
五年。財界人のあるパーティに、学生
だった頃、アルバイトで出掛けたコン
パニオンをしていて出会ったのだった。
翡翠に言わせれば意識的に、そうなっ
たのだが。それから、こうして、時々
会う事になった。と言っても色っぽい
関係は無い。ただお喋りをしながら酒
を飲んだり、おいしい、あるいは珍ら
しい食事を楽しんだり、そういう関係
だ。気に入った女は大金を積んでも、
力づくの無理強いでも、泣き落しでも
モノにすると噂された懈玄哲の、この
翡翠との関係は、もうかなりの年齢と
は言え、珍らしいものだったが、当然
の如く、周囲の誰もが、そうは思って
いなかった。
「おじさま」
もう一度徳利から猪口へ酒を移しな
がら翡翠は懈に話しかけた。
「今夜は済みませんでした、ご免な
さい。ご面倒をお掛けしてしまって」
「ふっふ。なんの、なんの。あんた
の為にする仕事なら、世界中のどんな
偉い奴の為にする仕事より、嬉しいわ
い」
その言葉が合図のように、隣り座敷
に気配がした。
「お見えになりました」中年らしい
女性の声。
「おウ、どうぞ……」
かなり練達の山水画が描かれた襖が
スッ、と開く。
「やァやァ」「どうもどうも」「お
待たせしました」
でっぷりしたの、中肉中背、ひょろ
りと背が高いの。三人の、いずれも、も
うそう若くはない男達が入って来た。
途端に、今まで時折の笑い声はあっ
たものの、奇妙と言える程の静溢が訪
れた。
「いや、こちらこそ、急に呼び出し
たりして済まん。君達にも暫らく会っ
ておらんし、何か旨い食事でも食いた
いし、それに……、今夜は是非君達に
紹介したい女性がおったもので、な。
三人の男は、各々の席に腰をもぞも
ぞと落ち着かせながら、チラリと顔を
見合せる。目が、誰にでもわかる簡単
な会話をする。新しい"女"を見せた
いんだな。
彼等は間違っていた。
モアイ。
与那国島沖の海底洞穴にあった。あ
のモアイと同じ、いや、そっくりの、
モアイが、海に背を向け、その長い顔
の角張った顎をちょっと上げ、並んで
立っていた。宙のずっと遠い所を眺め
やっているような虚な眼が、見る者に
様々の感慨を抱かせた。それが発見(
昔日のイースターの日に)されて以来、
世界中のロマンチスト達の、興味を引
き続けてきた大きな要因のひとつであ
る事は間違いない。何故こんな巨大な
石像を刻んだのか?石切場からどうや
って海岸まで運んだのか?そんな謎も
モアイの魅力に輪をかけた。
与那国島でモアイ(そっくりの)と
出会ってから5日後。ジョーは、その
居並ぶ本場のモアイの前に立っていた。
イースターに飛ばされたのは、篝矢
教授(恐らくは翡翠)の指令で、であ
った。確かに
有るべき場所ではない場所に、モア
イがあった。あの後調べて(徹底した
科学的、化学的検証では勿論無かった
が)見ても、新しく作られたニセモノ、
つまりレプリカである筈はなかった。
しかも、岩礁の岩にぴったりと包まれ
ていたのだ。そんな"技術"は現代に
は無いし、そんな手間暇を懸ける物好
きがいる、とも思えない。
イースター島のモアイを調査に行く
必要と価値は、あった。それはわかる。
しかし、何かひっかかる。腑に落ちな
い。そんな思いのまま到着したのだが、
今はすっかり、そんな気持ちを忘れて
いた。
謎を別にして、この、日本のお地蔵
さんと同じ種の温かさを持っているモ
アイに会えただけでも、良かった!
ジョーがイースター島を訪れたのは
初めて、だった。ショウ先生の作品の
中で、は別にして。
この島の小学校の教諭をしながら、
モアイの研究を続けている、という、
人を介して紹介してもらったムン先生
に案内を頼んでいた。30歳、6人の子
持ちだそうだ!
「一体何を調べたいんです?」
観光じゃない、と答えた時に、そう
訊き返された。当然だろう。が、ジョ
ーにはその答が無かった。まさか、日
本にもモアイがあった。しかも何百万
年か何千万年か太古の地層の中に、と
は言えなかったからだ。自分でも信じ
ていない"怪しい"ハナシ過ぎるのだ。
ムン先生は、訝かし気に首を振って、
それでもとにかく、島中に散在するモ
アイを見て回る事にした。そういう説
明(研究の成果)をしてくれるムン先
生には悪いが、その間に、この為に来
た意味を、イースター島と与那国のモ
アイを結ぶ線を、一体何が起ろうとし
ているのか、その答を見つけよう、と
思っていた。
火成岩のザラザラした岩肌にしがみ
つくように生えている雑草が、急にザ
ワザワと騒ぐ。ビョウと空が鳴る。南
極おろしだろうか。いつの間にか空を
グレイの雲が覆い、その綻びから、数
本の壮大な陽光が、イースター島と、
その島の主人であるモアイと、四方に
広がる果の無い太平洋の海面とを、天
上の探検家がなにか新種の動物でも探
す為に点けた探照灯のように、あるい
は下々の世界を見降す神の目のように、
照射した。
ビュウウウ、ルルル……。
風の呻りが強くなった。ツッ、ツッ、
ツッと煌きながら、小粒の雨も墜ちて
きた。
「天気はよく変るのです」
ムン先生は、説明の続きのように、
律義に言った。
一人は政治家だった。一人は官僚だ
った。一人は財界人だった。いずれも
その世界ではナンバー2とかナンバー
3とか称われている。いわゆる"大物
達"だった。
「大物と称ばれるような実力者の方
々にお会いして、是非お願いしたい事
があるのです」
翡翠が、懈玄哲に、こんな風に頼ん
だのは二日前の事だった。
「ふむ、その願い事とやらは、わし
一人の力では叶えてやれんような事な
のかね?」
TVFの3D玄哲が、少し妬まし気
な顔で訊く。フ・フと翡翠は小さく笑
って答えた。
「おじさま。願い事だけなら多分、
直ぐにもおじさまが叶えて下さるでし
ょう。でも、これには"後"がありま
すの。皆様のお話を伺いながら"実験"
したい事が……」
翡翠のこの奇妙な頼みを玄哲が受け
て、直ぐに各々に"一声"が飛んだ。
それが今、この集まりであった。
懈玄哲こそ、その世界に顔の効く大
物中の大物、"黒幕"と呼ばれ畏れ敬
まわれ、忌み嫌われる男であった。
紹介が進む間に、卓上には酒や突き
出しが並べられ、雑談には勿体ないよ
うな高級料理がそれに続く。
やがて、酒の印がほの赤く二人の男
の頬を染める位――官僚の男は、酔う
程に青白さを増したし、玄哲と翡翠の
顔色は始める前と同じだった。玄哲の
胃は、その持主同様に老獪な曲者だっ
たし、翡翠は酒に酔わない方法を知っ
ていた。だから、三人の男の、先を争
うような酌を全て受けても、平然とし
ていられたのだ。
食事が片付けられ、間がポツンと開
きかけた時、玄哲が翡翠に目配せをし
た。"お願い"は今だぞ。
「あのォ……」
翡翠が、二コリとして話し出した。
三人の男を、酒以上にメロメロにしそ
うなあの笑顔。
「先程も申し上げましたように、私
は考古学者の端くれでございます。実
は、先日、これまでの考古学の定説を
引っ繰り返す様な、自分で言うのはお
こがましいのですが、大発見を致しま
した……」
与那国島の海底洞穴。モアイ。問題
は、そこからの搬出と研究所(羅城門
大学内の)迄の搬送。その為の装備と
人手と、そして資金……。
「船と人手は、直ぐに何とでもなる
だろう」「そーそー」「資金だって、
翡翠さんの大発見に比べれば、微々た
るもんだよ!」「そーそー」
男達は興奮して捲くし立て、結局、
海上保安庁の海洋調査船が最適、とな
った。あの船なら人手は十分、ダイバ
ーだっている。なに、ちょいと特別予
算を組んでやれば……。
三人の男が、それぞれ力の誇示を続
けている間に、翡翠はそっと、袱紗に
包んだ桐の箱を卓上に乗せた。
「皆様、本当に有難うございます。
その件はそういう事で、どうぞ宜しく
お願い致します。で、そのお礼と言っ
ては何ですが、これから……」
言いながら翡翠は袱紗を広げ、霧の
箱の蓋を開ける。そして中から
「……皆様に水晶占いをお目に掛け
たいと存じます」
水晶球を取り出した。水晶球に合わ
せるかの様に四人の目が丸くなった。
玄哲のギョロ目も、だ。玄哲にもこれ
は、初めてお目にかかる代物だった。
「ほう?」
「どんな事でも結構です。お悩みの
事、お知りになりたい事、これからの
運命……、占なわせて戴きます」
「ほ、ほう!!」
「さァ、ご遠慮無く。何方からでも
どうぞ……?」
先程の、先を争うような酌が嘘のよ
うに、三人は顔を見合わせながらモジ
モジしている。
「水晶には、神秘的な力が沢山あり
ますの。チャクラと称ばれる"第三の
眼"を開いたり、患者さんの気付いて
いなかったような病気まで治療したり、
それに……、生殖能力も高めるんです
のよ」
ニコリ、とする。その二コリが効い
たのか"生殖能力"が効いたのか
「よッしゃ!」
と、禿げの肥満体が立ち上がり、翡
翠の前に座る。政治家である。
「では……。この水晶球をご覧にな
っていて下さいね」
翡翠は袱紗の"台座"に置かれた水
晶球の上に、両手を掲げる。
「ああ、あはん。翡翠さん、一体何
を訊けばいいンかね?」
翡翠の指が、水晶球の上でゆっくり
ひらひら、と動いた。
「いいえ、お尋ね戴かなくても……、
球の中に心が見えて参りますので」
と、水晶球の中央に、ポッと光が灯
った。よく見ると渦、渦状星雲の様な
光の渦、だった。ゆっくり、静かに回
転している……。
座敷から、突然、音が逃げ出した様
な沈黙が支配した。それが、気にかか
る、とでも言う様に、玄哲が
「ハ、ハ。翡翠が水晶を操る……」
冗談めかした言葉を発したが、途中
で、消えた。翡翠の目が、緑色になっ
ている事に気付いたのだ。
翡翠が、突然、口を開いた。
「先生。貴方は昨夜、"黄金組"の
社長とお会いになりましたわね?赤坂
の"しののめ"。今度の公共事業の事
で一億円もらっている……!」
衝撃的な発言、の筈だった。が、そ
の座の誰もが、言われた政治家センセ
イさえも、驚いた様子を見せなかった。
身体を凝固し、沈黙し、水晶球の、渦
の炎を見詰め続けていた。政治家の、
テラテラと脂照りしている肉付きのい
い顔の上を、水晶球の炎が踊り回って
いるだけ……。
イースター島は、南太平洋東南部に
浮かぶ、隔絶した火山島である。12
0km2弱、と小さい。
1722年のイースター(の日)に
発見されたので、その命名となった。
島名と共に、一躍世界の注目を集める
事になったのは、1000体にものぼ
る奇妙な石像の存在だった。重さ約5
0トン、高さ4〜5メートルの、モア
イと呼ばれ巨石である。
更に、石切り場から掘り出して刻ん
だモアイを、どうやって現在の、各々
が立っている場所まで運んだのか?と
いう謎ときが、発見の日以来尽きる事
のない話題となった。様々の説が、実
験共々(例えば、トール・フェイエンダ
ールetc)主張されたが、今だに万
人が首肯する"証明"は成されていな
い。
島の人々の伝説には、モアイは神の
似姿――と言うよりは、神そのもので
あり、自分で歩いてやって来た、とい
うものや、"鳥人"の姿をした"魔法
使い"が、その魔力で石像を空中に浮
かべて運んだ、等というのがあるが。
移ろい易い表情の、イースター島の
高い空を、音のみで虚しく駆け抜ける
風音を聴いていると、そんな説こそが
真実のように思えてくる。
一度視てしまったら、目の裏に張り
付いてしまい、二度と離れなくなって
しまうモアイの、愛敬と哀愁と、そし
て奇妙な気品に満ちた長い顔は、その
異次元を凝視する虚ろな眼は、しかし
何も語らない。
ジョーは、石像達の重い沈黙の前で、
やや呆然と立ち竦んでいた。
モアイは、与那国の海になど居るべ
きではない。あってはならない事、な
のだ。しかしそれは、この目でも見た
"事実"なのだ。"事実"である、と
いう"事実"が、イースター島のモア
イ達を侮辱しているように思えた。
案内係のムン先生の、推理混じりの
解説を聞きながら島を巡り、残らず石
像を見て回ったが、当然の如く、答は
見つからない。
風がジョーの頭上で渦巻いた。混乱
した思考の呻きに聴えた。と
その時、目の隅でなにかが動いた。
影、だった。首を少し振って、中央で
捕えた。
鳥人、だった。
"鳥"の頭をした"人"だった。
驚く間もなく、並ぶモアイが、一斉
に跳んだ。風の渦をBGMにしたかの
ように、空中で、順番に動いて、輪を
作り、ズ・シ・リ・同時に着地した。
円陣の中央にジョーがいた。取り囲ん
だ格好だ。円陣の外、現われた場所を
まだ動いていない"鳥人"に指令が出
されれば、石像の円陣は狭まり、ジョ
ーを押し潰す。
石像の円陣が揺いだ。
それを合図のように、クラクション
が鳴った。ムン先生の、TOYOTA
と太書きされた、ガタボロの軽四輪が
迎えに来たのだ。
ジョーの思考と視線がほんの一瞬、
そちらに向いた。
モアイ達は、愛敬のある四角い顎を
心持ち上に向け、行儀良く並んでいた。
"鳥人"はいなかった。
風の音だけは、あった。
今のは一体、何だったのだ?!思い悩
み過ぎての幻影、だったのか?!この島
の持つ特異な雰囲気が作り出した幻影
……。それとも
"鳥人"が、石像を空中に浮かせて
飛ばした、という"超人"の生き残り
かなにかが現われて、本当に、ジョー
に攻撃を仕掛けてきたのか?!
それとも……。
あの夜から三日後。翡翠はあるTV
の主婦向け3D番組に出演していた。
もっとも、この時間帯のチャンネルは
古くから主婦と老人だけのモノ、だっ
たが。
〈的中率100%の水晶占い師、翡
巫女(ヒミコ)〉
懈玄哲か、あるいはあの夜の三人の
男の誰かが、手を回したに違いない。
そう言えば、この番組の提供企業の会
長は、財界の男、だった。
いずれにしろ翡翠・翡巫女(芸名に
合せた長髪に赤い鉢巻、縄文風の模様
の入った奇抜なコスチューム)は、キ
ャスターやゲストのタレントを仰天さ
せた。"的中率100%"は単なる宣
伝文句では無かったのだ。
翌日、翡巫女は別のTV局の、ゴー
ルデン・タイムに出演していた。ヴァ
ラエティ番組だったが、やはり"10
0%"で、出演者達をパニック寸前に
追い込んだ。
そして、その次の日も――。
翡巫女は、水晶で、相手に真実を告
げただけでなく、相手に真実を告白さ
せた。本人は蒼褪め、周囲はとび上が
り、泣き出す者、笑い出す者。しかし
何故か、怒り出す者、はいなかった。
スポーツ紙が取り上げ、女性週刊誌
が取り上げ(どちらも予測に反して、
21世紀まで生き延びていた。スサマジ
イ生命力だ)、"ヤマタイ国からの使者"
“超能力女王ヒミコ”“美人だし”“妖
しい色気も”“新世紀の世直しの為に
現れた〈女神〉なのかも”…など等な
ど。
一週間後。
翡巫女は何故か
国会中継、に出ていた。
〈女性・真実の会〉代表、と紹介さ
れたが、誰もそんな会の名を聞いた事
がなかった。実際、そんな会等、存在
しておらず、翡巫女がここに居る理由
(にもならないが)の為だけの、急拵
えの、名称だけの、会であった。誰も
信じていなかった。にも拘わらず、誰
も疑っていなかった。
議員でも無い者が、国会で、質疑応
答をしている、というバカ気た構図を、
議事堂に出入りしていた誰も彼もが、
至極当然、の顔で受け入れていた。
さすがにTV中継では、なによ、こ
れ?と思った人達も全国には数知れず
にいたが、次の瞬間には、そんな事は
もうどうでも良くなっていた。
「総理にお伺いします」
翡巫女は最初から、ストレートに総
理大臣彪正温(たけき・まさはる)を
指名した。気は強いが正直で温かい。
が、外見の印象は、それとは裏腹だっ
た。62歳(まァ、歴代首相の間でも
若い方だろう)という年齢を感じさせ
ぬ艶のある黒い髪を、後に綺麗に撫で
つけてあり、細身・長身、顔も細長く、
端正と言ってもいい。鼻筋はスッと通
り、ちょっと吊り目、紅く薄い口唇。
そう、見様によってはあのドラキュラ
のように、冷やかなのだ。しかし、ド
ラキュラもそうだが、ミーハー的女性
票に支えられている、という総理下馬
評は、あながち、当らず(結構、凄腕
の策士だ)とも遠からず(女性人気と
臆面もなく利用した)であろうか。
「総理。貴方は、この間の某世論調
査で、国民の50%以上が、政治に期待
していない、という返答をした事を、
どうお思いですか?総理。一国を治め
る長として、貴方は国民をどの様に考
えていらっしゃるのでしょう?」
「彪総理大臣」鼻眼鏡の議長が気の
無さそうな掠れ声で呼び、彪がゆっく
りと立ち上がる。答弁用のデスクに、
細い上半身を支えるかのように両手を
置き、ニッと笑う。"女殺し"と評判
の"微笑"だ。
「――国民とは、衆愚であります。
なにも判ってはいない。少しは期待に
応えてやろうと動けば、甘ったれて付
け込むし、無視すれば拗ねて不貞腐れ
る。そう、一言で表現すれば、ただ厄
介な愚か者の集まり。政治に、政府に
無関心、大いに結構じゃありませんか。
その間にワレワレは好き勝手が出来る
のですからね!」
声も滑らかなその答弁は、女殺しの
微笑を張り付けたままの唇から流れ出
し、マイクとカメラに載って全国に流
れた。
パニックが始まった。
眠れなかった。
この島に一軒しかないバンガロー風
のホテルの一室から、ジョーは外に出
た。庭から前方の海にかけて、灯りは
殆んど無く暗かった。
風は相変らず駆けていたが、身体に
はそれ程感じない。夜になるとこれに
波音の合奏が入る。
見上げると、ギラギラと濡れた様に
光る巨大な南十字星が目に飛び込んで
くる。満天の星……。
ジョーはふーっと大きく息を吐く。
こんな星空、久しく見ていない。い
や、久しくじゃない、今まで見た事が
無い。こんなに星が、あったのか?!
大学に入り、考古学に興味を持ち、
篝矢教授に付いて方々"地方"と呼ば
れる土地を回ったが、今や、日本の何
処の夜空からも、星の数は減っていた。
追い着き追い越せの、アジア後開発国
の工業地帯から流れ込んでくる〈ガス〉
が、夜も昼も日本の大気にに紗を懸け
ていたからだ。日本は"吹き溜り"だ
った。
テラスの木の階段をそっと下り、庭
(?)に出る。これまた庭石等とはと
ても呼べない、この島の何処にでもゴ
ロゴロ転がっている、火山が吹き飛ば
した大きな石のひとつに、腰を掛けた。
風と波と星が、サァ、話してご覧、
と語りかけた……。
その前は、少年鑑別所生活……。
父は顔どころか名前さえ知らない。
母は、一度面会に来たが……一度目の
鑑別所生活の時……会わなかった。そ
れっきり。後でお節介な看守に見せら
れた面会者カードには〈島村かおり〉
とあったので、今は島村ジョーだが、
ふふ、これだってあのショウ先生の"
創作"だ。
これじゃあクローンと変らない。
仲間(ジョーのように正常なグレる
理由を持ったヤツは少なかったが)と
つるんでの、ゲーム感覚の暴力や窃盗、
暴走の荒んだ日々。鑑別所送り。
そして
二度めの鑑別所の所内から、何者か
に(勿論、今ではわかっているが)一
服盛られて拉致されて……。
思えば、その結果は別にして、この
意想外の、途方もない出来事が、オレ
には幸いしているのかも知れない。何
故ならそこで、とジョーは思う。
仲間(前の、ではない。今の、だ)
やギルモア博士と出遭い、戦うべき真
実の"悪"が見えた、からだ。
そう、鑑別所以前の、身寄りも血縁
も無いクローン、という思い、その孤
独だった境遇と余り変ってはいない。
が、ひとつ大きく変ったものがあった。
〈サイボーグ〉という絆で結ばれた
大きな"秘密"を共有する〈新家族〉
――という意識。鮮烈で、そのくせ胸
熱くなるような想い……。
それが少年ジョーを支え、前進させ
た。そして……、此処にいる。が
これはなにかおかしい。ジョーの神
経をチクチクと逆撫でするような、し
かし捕えどころのない、不安ななにか
が――。ふぃっ、と
翡翠の顔が浮かんだ。
翡翠。その名前通りに、妖しい美し
さと更に妖しい魅力に満ちた先輩。ジ
ョーが篝矢教授のチームの一員になっ
たのには、その魅力が、大きな一役を
買っていた事は否定出来ない。
翡翠が、動いた。
暗闇に、白く、ぼうと、立っていた、
ボッティチェリのヴイナスのように、
あるいは、その侍女のように、薄物を
纏っただけの裸だった。
重症だな。ジョーの頭の片隅は嘲笑
っていたが、目は見開かれて翡翠を見
続けていた。
翡翠がニッコリと笑って、歩き始め
た。こっちへ来る。いやに鮮明な妄想
だな。暗いのに細部まで見える、のが
幻影の証拠だろう。翡翠が、前進して
来る。呆然と巨石に腰を下したままの
ジョーに向って歩いて来る。そして
一歩ごとに、細密画は印象派の絵の
ように崩れぼやけ、最後はモネの点描
画のようになって、消えた。
ジョーは立ち上った。
日本へ帰らなければならない。凶々
しきもの、は日本にいる。
羅城門大学、考古学部
の銘入りの見慣れた封筒を、政治家センセ
イからの借りものである秘書の一人(どうせ、
センセイは何人も持っている)が持って来た
のは、来客と来客の間に設けた、ほんのちょ
っとのコーヒー・タイム、の時だった。
「先生の後輩だと言う、女子学生みたいで
したが、これを渡してくれと……」
高垣沙織?なァに?!
封筒の中に入っていたのは、標本用の、小
さなプラスチック・ケースだった。透明なの
で、中が見える。コケだ。
即座に、その意味するところが閃めいた。
ケースを見た。これを届けたという女子大
生に、意識を集中する。
俯き加減に、足早に、翡翠・翡巫女の急拵
らえの事務所を遠ざかろうとしていた高垣沙
織は、何かが気になって、ふと、後を振向い
た。そして
バウッ。 消えた。
時の女性、翡巫女詣でで列をなしていた大
勢の人々が、その瞬間を目撃した。が、誰一
人として、声も上げない。いや、それは理解
の埒外の出来事で、声も上げられなかったの
だ。目の錯覚。自分は幻を見たのだ。で、悲
鳴になった筈の声を呑みこませ、忘れた、の
だった。
先を争う様にして、日本のオピニオ
ンリーダー、と自称他称する連中が、
真実の告白を始めたには、それか
ら間も無くの事だった。
土台、こうした〈ワイド・ショー〉
やら、お笑いタレントを司会に起用し
た〈おもしろニュース番組〉が、地球
温暖化も行政改革も、クソもミソも司
会者やタレントコメンテイターが笑っ
て面白おかしく解説する。これでは何
も考えなくなる。
"100%水晶占いの女神翡巫女"
に、占いを依頼して訪れた悩める大企
業の社長、大学教授、成金、詐欺師な
ど等が、その直後から懺悔を始めた。
そして、点いたその"火"は、今や
脳の指令が瞬時にして足の小指の先ま
で届くように、整備された"情報通信
網"に乗って、連原の火の如く国中に
広がった。
正にヒミコは"火の巫女"となった
のだ。
それはまるで、軽薄な流行のようで
あった。TVでラジオ(映像に邪魔さ
れずに音が趣しめる、と増々ニーズが
上っていた)で、新聞(読者の大半は
60代以上だったが)で、週刊誌で、
彼等、彼女らは泣いて告解し、要職を
辞すと約束し――自殺した。
大臣から村長に至る、行政に携わる
人々。官僚、小役人。人間国宝とか文
化勲章等の尊称を与えられている芸術
家達。有名なスポーツマン。人気者の
芸能タレント……。
その"エリート"を、そうあらしめ
てきていたマスコミの"文明の利器"
が、今や"凶器"となって、彼等、彼
女らを追い詰めていたのだ。
妻は夫に浮気を告白し、子供は教師
に、コンビニで万引きした事を話した。
教師は女生徒と寝ている事を白状し、
ネコはイヌを引っ掻いた、と鳴いた。
――大火じゃな。
――これじゃまるで、みんなでバラせ
ばコワクない、だわな。
――やり過ぎじゃ。古人曰く、水清く
して魚棲まず。人間は余り清潔過
ぎる世界には住めん生き物じゃ。
下手をすると滅びちまうぞ。
――え?
――人間の身体の中を考えてご覧、ジ
ョー。敵にも味方にもなり得るウ
ィルスがウヨウヨいる。時に善玉
になり、時に悪玉になり、という
相互作用で、バランスを取っとる。
それが善玉だけになったら……。
――人間は、人間で、なくなる。
――そ。お前さんが急遽帰国したのも、
その為なんじゃろう?
――……ギルモア博士。翡巫女は、い
や篝矢翡翠は、一体なにものなん
でしょうか?彼女は一体、なにを
しようとしてるんでしょう!?
――"女神翡巫女"と称されておるよ
うだから、案外ホントに"女神"
かも、よ。
――ショウ先生、冗談は抜きにして!
――ふむ、冗談はさて置いて、女神で
は無い、としても、催眠術に長け
た超能力者に近い存在――。いや、
もう、超能力者、かな。
――ジョーはジョーダンと、や、これ
は洒落じゃないゾ…言ったけど、
女神説、案外本気なんだよ、俺。
何しろ、小なりと言えど大国、な
んて気取った事もあるひとつの国
を、アレヨアレヨという間に大混
乱に陥し入れたんだからな。純粋
に世直しを目的としているのかも
知れんし、腐敗しきっているこの
国を、この惑星から抹消しよう、
としているのかも知れないが、な
……。
――あるいは……、支配しようとして
いるか……。
――ジョー。どうするつもりなんじゃ?
――わかりません。とにかく、一度会
って見なければ……。
――気を付けろよ、ジョー。どうもイ
ヤな予感がする。このストーリー
展開は気に入らん。
この時、イワンの泣き声が聴えた。定時で
は無かったので、ギクリ、となって三人は立
ち上った。イワンが目覚めて泣いている……。
D対峙
羅城門大学の構内に、プレハブではあった
が、かなり大きな建物がある。そう新しくは
ない。建てられた当初の目的が何であったの
か、もう殆んど誰も知らないが(今は立派な
建物が建っているが、仮講堂だったという噂
もある)、その一棟が今は"考古学研究所"
になっている事は、微かに知られている。
縄文土器の破片。首の失い埴輪。石や骨を
削った鏃。丸木舟の(ものだと言う)半ば腐
ったような木片……。
研究所、と言うよりは一見、ガラクタ置場
の様に見えるが、ガラクタの正体が判れば、
大概、考古学の・・・と理解できる。
細長い建物の、入口に近い半分以上は、空
いていた。その中央に
モアイが立っていた。
与那国島の沖から運ばれて、そこに置かれ
たのだ。意識したのか偶然か、天井にひとつ
だけ点いている薄ぼんやりとした蛍光灯の光
の輪の中に、モアイはポツン、と立っていた。
光の届かない右奥から、島村ジョーが音も
無く、湧き出たように現われた。黒いシャツ
に黒のジーンズ、グレイに近いモスグリーン
の上着。
「忍者のようね。ジョー」
左の奥から翡翠の声がした。いや
今夜は翡巫女、だった。腰まで伸ばした長
い髪(鬘、だ)、赤い鉢巻、両脇でリボン結
びにし、その端は、髪と同じ程の長さに垂ら
している。赤と黒で刺繍された、縄文風模様
のチマ・チョゴリ(韓国のキモノ)型のコス
チュームだ……。
「翡翠さん。今夜は単刀直入に訊きたい。
貴女にもそうして答えてもらいたい」
「ふふ、相変らず、まだ蒼臭い少年のよう
ね。ジョー」
翡翠は、三種類の"声音"を使い分けた。
威嚇と揶揄と媚、である。今は揶揄って、面
白がっているようだった。
「このモアイも、イースター島調査も、ダ
ミーだった」
「そうよ、ジョー。君の為にだけ用意した
撒き餌なのよ」
「……何故です!?」
「君を愛してるからに決まっているでしょ
う、ジョー。わかっているくせに!」
それは、それ程意外な答でも無かった。時
折、瞬時だが、熱波のように送られてくるそ
んな思いを、感じていたからだ。そして、翡
翠のその声音には威嚇も揶揄も媚も含まれて
いなかった。普通の女性の、考古学を勤しむ
大学院生の声だった。
「俺を……、日本に混乱を引き起す弾丸を
発射するまで、引き金を引くまで、俺を遠く
へ離しておきたかった?」
「ふ……。"地球のお臍"へ、ね」
「このモアイは、イースター島から貴方が
運んだ。結局、不明のモアイというのは確認
出来なかったけど……。そうだよね、翡翠さ
ん。"引き寄せ(アポート)"と呼ばれている
念動力で、か。それとも"空間移動"で、
ですか?!」
「よく知ってるわね、ジョー。普通の子は
そんな事、識らないわよ。やっぱり話してお
いて良かった!持って来たモアイはね、まだ
未発見だったもの。まだ幾つかあるわよ」
威嚇と揶揄が戻っている。そして、あの緑
色の眇になって止まった。ジョーも連られて
脚を止める。モアイを中心にして、ジョーと
の距離は20メートルだ。"超能力者"には
さほど長い距離ではない。
「感じていたのよ、時々。この男は私に危
険を齎す。チリチリする様な香り。私と"同
種"じゃ無いけれど、なにか"力"を持って
いる。だから肝心の時には、傍にいて欲しく
なかったのよ。君は必らず、私のする事を邪
魔した筈だから。そして、万が一、争う事に
なったら、私は君を殺さなくちゃいけなくな
る。それだけは避けたかった……」
言ったでしょ。愛しているって。
「……翡翠さん。貴女は、人殺し、だ!大
勢の人を、殺した」
「いいえ、ジョー。あれは自殺よ。犯した
罪を悔いて、自分で自分に罰を下したの」
「いや、貴女が"念力"かなにかを使って、
そうする様に仕向けたんだ。貴女が殺したん
です!」
「ふ、威勢がいいのね、ジョー……」
「人に、人を裁く権利など、無い!おまけ
に貴女は、明らかな"殺人"も犯した。高垣
沙織を、何の罪も無い沙織くんを殺した。許
せない!!」
ウッ、とジョーが息を詰まらせた。
「そこまでよ、ジョー!許せない、ですっ
て?!誰に向って言ってるつもりなの!?」
翡巫女の眼から、緑色の炎が、メラッと吹
き出した、かに見え、ジョーの呼吸は殆んど
出来なくなった。
「……あの娘は、私の"秘密"を知ってし
まった。黙っていればいいものを。雉も鳴か
ずば撃たれまいに、とは良く言ったもの……」
翡巫女は古代の女王らしい言い回しをした。
「私の仕事に邪魔になったから……」
「し……、仕事?!」
「増長し、堕落しきった人間の世界を、整
理し直す仕事。ワレワレの"力"で、秩序あ
る支配をするのよ!」
「ワ……、ワレ・ワレ?!」絞め上げられた
微かな擦れ声。
翡巫女がニッ、と笑った。あの誰もが惹か
れる微笑では無い。誰もが震え上る凄みのあ
る笑いだった。
篝矢藤兵衛教授は、鉄槌を、ガガッ、ガガ
ッと引き摺りながら、"研究所"に近づいて
いた。ブツブツ何か絶え間なく呟いている。
胡麻塩の灰色だった頭髪は白髪となり、増々
乱れている。背中の曲がりは大きくなり、逞
しい長身は精気を抜かれて凋んでいる。足元
はふらりふらりと覚束ない。実年齢より10
歳以上は若く見えていたのに、たったのこの
一週間のうちに、実年齢を遥かに跳び越えた
本物の老人が歩いていた。後を
猿渡助教授と、合田真太が、オロオロと尾
いて行く。この二、三日、篝矢教授の様子が
おかしい、と合田が猿渡に報告し、二人で見
張っている、つもりなのだ。う
ガガッ・ガガッ。ブツブツ・ブツブツ……。
深夜の羅城門大学の校庭に、後の二人がは
らはらする様な音が木霊する。
プレハブの"研究所"の入口に着く。
ゼーゼーと肩で息をして、動かない。気を
利かしたつもりか、合田が扉を開けようと近
付く。ゼーゼーの間のブツブツが聴えた。
「翡翠……。娘よ、何処にいる?」ゼー。
ゼー。「お前は、何処へ行ってしまったん
だ?」ゼー。「娘……、翡翠。帰って来てく
れ。お前は何故、変ってしまったんだ?!」ゼ
―。「お前は何故、化物になってしまったん
だ?なにがあったんだ?」ゼー……。
扉を開ける。
モアイが正面で出迎えた。身長5メートル。
天井に胸を張って、立っている。いつ見ても
いつもドキリとする大きさだ。
扉の開く音は、翡巫女を微動だにさせなか
った。
校庭のコンクリートを擦る鉄槌の音で、翡
巫女はとうに、父親の登場を知っていた。だ
が今は、翡巫女であって翡翠では無い。
翡巫女の父は"神"だった。
ジョーも動かなかった。動けなかったのだ。
翡巫女が、笑顔で男の心を捕え、溶かしたよ
うに、今は冷たい怒りの炎で、意識を焼き、
神経と筋肉組織に"動く技術"を忘れさせて
いた。
妙な事に、動こうとする者と動かすまいと
する者のバランスが拮抗していて、静止状態
を作り出していたのだ。
そしてそれから合田は、光の輪の外側の闇
にボウッと浮かぶ翡巫女を見つけた。その視
線の先にはジョーがいた。二人は睨み合う様
に対峙したまま、妙な事に動かない。
合田も凍り付く。猿渡が合田の異常を感じ
て、度の強い眼鏡を押し上げながら覗き込も
うとする。ガガッ、ガッ。その時
篝矢教授が、動いた。
ズッ、ズルー。リノリウムの床になって、
引き摺る鉄槌の音が変わる。ズー……。ふら
ふらと。それでも真っ直ぐに、モアイへ向か
う。教授の虚ろな目には、最早モアイしか見
えない。
「こ、この化物、めが!!」
"化物"が教授の頭を占めているキーワー
ドの様であった。このモアイを"化物"その
ものと見ているのか。このモアイの所為で、
愛娘の翡翠が"化物"になってしまったと思
っているのかも知れない。いずれにしろ鉄槌
は、このモアイを叩き壊す為に持って来たの
だ。合田は、その頃には猿渡と共に、中を覗
き込んでいた。ズ・ズ……。
ズッ。教授がモアイの前で止まる。肩で息
をしながら、角張った顎を見上げる。それか
ら・ゆ・っ・く・り・と柄を握り直し……、
振り上げる。
やめなさい! 「やめなさい!」
声でない声と(声である声)。
教授の萎びた躯が、一瞬シャンと元通りに
なった、かの様に見えた。鉄槌はすでに、ス・
ロ・ー・モ・ー・シ・ョ・ン・で・弧・を・
描・い・て・お・り……ガッ、ッッ、と石像
に当たり、一瞬後にまた萎びてしまった躯は、
鉄槌の重さに引っ張られる様に、あるいは石
像を打ったショックに耐え兼た様に、前のめ
りに倒れた。ドスッ。まだ固定していない土
台の上で、モアイが身動ぎし、グラリと長い
頭を振ると、蹲る教授の上に倒れかかっ……。
「お父様!?」
……翡巫女が翡翠に変った。
……ジョーが動いた。一瞬の"意識"のズ
レに無意識と"細胞"が反応したのだ。
目の片隅でその動きを捕えながら……
……ジョーが走る。9.5メートル。教授
を助けなければ……
翡翠も動く。いけない、ジョーを自由にし
てしまった。予測のつかない"力"の持主(
これだけ、私の"意志"に抵抗を続けらた者
はいない。これは…もしかしたら――。まさ
か!?……)。止めなければ……止まれ!!
止まらない。翡巫女の念動力を撥ね返した
のだ!ジョーは、そう?!そうだったの?!"同
種"なの?!やはり"力"とは"超能力"だっ
たの?!
……ジョーが教授の倒れた躯を抱え上げ
では、尚の事、消さなければ、"同種"の
敵程、始末の悪いものは無い……。
……モアイから
……サイボウガワレガチニソトヘトビダス
ネンドウリョクヲハナッタ……
離れる……。細胞が我勝ちに外へ飛び出す
念動力を放った。……離れた、安全な場所に
横たえ……。またシールドされた!そんなバ
カな!!そんな事は有り得ない!!!……叫ぶ。「
合田くん!猿渡助教授!教授をお願いします
!」……。そんな事は有り得ない!!!私の最大
の力を放射したのに……。ジョーが……。さ
いぼうがわれがちにそとへとびだすねんどう
りょくをはなった……消えた。
やった!?
……現われた。左奥の暗がりに。ジョーが。
忽然と……。翡巫女は、仰天し、後退さった。
モアイが倒れかかって……、加速した。細胞
が、加速し、意識が、ジョーの……、翡巫女
とモアイが"交差"した。ジョーが……。モ
アイをイースター島に、もどす。
翡巫女も、消えていた。
594 :
愛蔵版名無しさん:2009/02/23(月) 10:16:26 ID:3Z7t9Cqk
D対峙
上弦の月。叢雲、翔ぶ。
晩い秋の風が、もう痛い程、冷たい。深夜。
黒々と建つ羅城門大学。静寂。
町から離れている事と、敷地の広大さが、
そして、所々にポツンと点る常夜灯の薄灯り
が、余計に静けさを強めている。
ガッ・ンンン……。
その静寂に挑戦しようとでもする様に、構
内の何処かで、微かな金属音がした。
同じ構内の一隅。
プレハブの様な造り、ではあったが、かな
り大きな建物がある。建てられた当初の使用
目的が忘れられている(仮講堂だった。いや、
仮体育館だった。今ではそのどちらも別の場
所に建っている)程だから、そう新しくはな
い。細長い。
その内部。
ほぼ中央の、交差した軽量鉄骨からぶら下
がっている裸の蛍光灯が、ぼんやりと床を照
らしている。そこに
モアイが立っていた。
モアイが立っていた。
ひとり、ポツねんと、立っていた。島で、
仲間と並んで立っている時でさえ、その
温和と言える表情は、哀愁にも見える事があ
る。頭上からの、蛍光灯の――時折チカチカ
と瞬く――儚な気な光が、目と鼻と顎の影を
濃くしていて、一層、その"孤独感"を強調
していた。
ひとりは可哀相だ。"仲間"と切り離すべ
きではない。此処は、モアイのいる場所では
ない。
ジョーの心に、これから対峙する事になる
翡翠への、翡巫女への、怒りにも似た感情が
湧き上って、閃いた。
ジョーは、石像の15メートル程右奥の、光
の外の暗がりにいた。
翡巫女に何とか連絡を取り(今や、それも
難かしい状況になりつつあった)、やっと話
し、今夜の真夜中に此処で――この〈羅城門
大学考古学研究室〉で会う、事を約したのだ
った。もう24:00は回っている筈だが、
翡巫女はまだ現われていなかった。まだ、来
ていない。いや、それとも……
〈考古学研究室〉は、この得体の定かで無
い建物の一郭に――ジョーのいる場所から、
更に斜め奥、だ――あった。今は闇に溶けて
よく見えないが、卓球台の様な大きな机が二
つ、折畳み椅子数脚、ダンボール箱が数個。
そして、土器の破片、首の無い埴輪、割れま
くっている甕、石や骨で出来ているらしい鏃、
その他その他の、知っていれば(大概の学生
は無関心で、ここが"研究室"なんて知らな
かった)考古学的遺物とわかるが、不用意に
見れば、ゴミか、ガラクタ置場にも思われ兼
ねなかった。
ガッ・ガガッ・ガ……。
外の、校庭を密封しているコンクリートの
上を、何か金属を引き摺って来るらしい音が、
次第に大きくなって来る。音の主は、此処を
目指しているらしい。そしてジョーには、そ
れが誰だかわかった。音の主であると同時に、
この〈室〉の主でもある教授、篝矢藤兵衛で
ある事が。
まずい。何で今頃、何処へ?一緒に居る事
になっている猿渡助教授と合田真太は、一体
どうしているんだ?!
猿渡助教授と合田真太は、いた。
鉄槌を引き摺って、ふらふらと建物に近づ
いて行く教授の後を、オロオロしながら尾い
て来ていた。教授の様子がおかしい。様子を
見ていた方がいい。この一両日、それを実行
していたのだ。
自宅で――大学から左程遠くない、町の端
にあった。何の変哲も、特徴も無い、当り前
の小さな家――、二人でチビチビ酒を汲んで
いる猿渡と合田に丸い背を向けて、何やらブ
ツブツ言い続けている、背は、丸い背中は増
々丸くなり、広かった肩幅は狭み、太かった
腕は萎み、胡麻塩だった頭髪は、たったのこ
の一週間で白髪に変わり、前にも増して乱れ
ていた。実年齢より10歳以上は若い、と評
されていた、その逞しいとさえ言える巨躯を
動かしていた"精気"が抜かれ、今は、実年
齢をとうに通り越し、10歳は老けて見える
本物の老人になっていた。
22時を少し回った頃、突然、教授は、ふ
らりと立ち上った。発掘用の愛用の、と言っ
ても一張羅の、ポケットの一杯付いたアノラ
ックのジャンパーを着ると、外に出た。納屋
から長い柄の鉄槌を持ち出すと、それを右手
に握り、ふらふらと歩き出した。
「教授、いけません。風邪をひきますよ。
何処へいらっしゃるんです。教授?」
ブツブツブツ……。それが応えだった。
仕方なく猿渡と合田もコートを羽織り、マ
フラーを首に巻き、ジャンパーを引っ被り、
飲み残しのボトルを抱えて……、後を追う事
にした。
ガッ・ガガガ・ガ……。
そして今、三人の目前に、建物が黒々と迫
っていた。
ジョーが、闇の奥で身を潜めている事は、
直ぐにわかった。接近する、静寂を冒涜する
ような不快な音の原因も、その主も、すぐに
わかった。いけない、何で!?ジョーと同様に
翡翠・翡巫女もそう思ったが、出たのは小さ
な舌打ちだった。
チッ。
それはジョーへの合図にもなった。
左奥の闇の中に、ボウと翡巫女が浮かび出
た。それまでは何の気配も無く、突然……。
長い、腰まで届きそうな黒髪(カツラだ)。
両耳の上でリボン結びにし、髪と同じ位にそ
の先を垂らした、赤い鉢巻。赤と黒の、縄文
風渦状紋様が刺繍された、モンゴル風のコス
チューム。これまた赤の、幅広の帯が腰に巻
かれ、その先端はやはり、膝の辺りまで垂ら
しているので余計にモンゴル風の上着、に見
える。その下は、細い脚にひっ付いているか
のような、黒のスラックス。そして、時折ギ
ラッと光りそうな錯覚を持たせる銀のシュー
ズ……。
今や、マスコミの寵児"水晶占星術の女神・
翡巫女"である。
「今晩はジョー。暫らくね。でも、君の用
事はもうわかっている。無駄な事よ!」
いつの間に、「どうやって」現われた?!
「……」
「モアイを、イースターから引き寄せ(ア
ポート)した、同じ"力"でか?"念動力"
?"瞬間移動"?!」
「ふ、物識りね、ジョー。普通の子は、そ
んな事、識らないわよ」
翡巫女は、三つの声音を使い分ける。威嚇
と揶揄と媚、である。今の声は勿論、揶揄で
あった。でもそれは、今に始まった事ではな
いし、翡巫女、翡翠の、逆らい難い魅力の要
素でもあったから、ジョーはいつものように、
無視する事にした。
「……翡翠さん。貴女は知っている。無駄
と言うけれど、単刀直入に訊きたい。何故、
こんなトリックを使った。モアイもイースタ
ー島もダミーだったんでしょう!?」
「ふ、ふ。そう。君一人だけの為のね。モ
アイは、君をイースター島に離して置く為の
撒き餌だった、という訳」
「何故です!?」
「――君を、愛しているからでしょう。ジ
ョー。わかっているくせに!」
それは、ジョーにとって、それ程意想外の
返答ではなかった。これまでも時折、瞬時で
はあるが、熱波にも似たそんな思念を感じた
事が何度かあったからだ。
こんな時に、こんな場所で、しかも、その
声には揶揄の気配はなく、普通の、大学院生
の女性の"声"だった事が、かえってジョー
を鼻白ませたが、続けた。
「俺が……、俺をイースター島にやってい
る間に、今度の"騒動"を仕組みたかった?」
「ふ、そう"地球のお臍"へね。君を殺し
たくなかったから……!」
揶揄と威嚇が、戻っていた。
ガッ・ガズズ……。
教授が、扉の前にやっと着き、肩で息をし
た。合田が前に出た。扉を開けてやろう、と
いうのだろう。ブツブツブツ。
「……化物めが……」
傍を通る時、教授のブツブツが聴えた。
「翡翠、娘や……。お前は一体……何処へ
行ってしまった?!」
扉を開ける。モアイが出迎える。
合田は、教授の覚つかない足元の運び先を
確認し、先導でもするかのように、先に建物
の中に入り
翡巫女を、見つける。その視線の先に――
首を回す――ジョーがいた。
モアイを挟んで10数メートル。まるで、
モアイを審判にして、これから何かの格闘技
が始まる、とでも言うように、二人は睨み合
ったまま泰然として、動かない。
ジョーは、動けなかったのだ。
声どころか、息をするのさえままならない。
強力な"念動波"と思しき衝撃波が、ふいに
襲って来たのだ。それは蜘蛛の糸の様に絡みつ
き、喉を、手脚の筋肉を絞めつけ、引っ張り
食い込んだ。
恐れて、いた、通りやはり翡翠、は、超能
力者、だった……!
持っていかれそうな"意識"にしがみつき
ながら、ジョーは始めて"死"の恐怖に震え
た。
今、翡翠・翡巫女を支配していたのは"怒
り"だった。怒りが網を投げていた。
「……チリチリするような"危険"の香り。
感じていたのよ、ずっと。私と同種の"力"
じゃないけど、なにか得体の知れない"力"
を持っている。きっとこの男は、やがて私に
危機を齎す、そんな感じ……。災いは芽のう
ちに摘み取れって言うけど。でも、殺せなか
った。言ったでしょ、それが愛だったって、
最近気が付いた。…だから、行動を起
す時だけでも、せめて傍にいて欲しくなかっ
た。心を乱されたり、実際に邪魔をされたり
したくなかった。したでしょ?君は、居たら
……」
「翡翠さん……、貴女は、人殺しだ!たっ
た一週間足らずの間に、何という数の人達を
殺してしまった事か……!」
「あれは自殺よ、ジョー。自分の犯して来
た罪の重さに耐えかねて、自分に自分で罰を
下した結果よ!」
「いや、貴女が殺したんだ。貴女が、念力
か催眠術か知らないが、貴女のその、"力"
を使って誘導した。だから我勝ちに死んでい
ったんだ。貴女が殺したんだ!……人に、人
を裁く権利など無いのに……!!」
「威勢がいいのね、ジョー」
揶揄。そしてあの、眇になっていた。危険、
の信号だ。瞳の色は緑に……。
「……おまけに貴女は、明らかに直接の、
殺人も犯した!高垣沙織を、何の罪も無い沙
織くんを、殺してしまった。許せない!!」
ウッ。ジョーの息を詰らせたのはその時だ
った。怒りが膨れていた。
「許せない、ですって?!ジョー、誰に向っ
て言っているつもり!私は、女神翡巫女なの
よ!!」
そして、意識の網を投げた。女郎蜘蛛の様
に。危険な緑の燠火は、今やメラリと吹き出
しそうな焔に変っていた。
「……あの娘は、私の"秘密"を掴んだつ
もりになって得意になっていた。脅迫して来
た。だから、消えてもらうしかなかった!」
「あーっ!?」
合田が――建物に踏み込んで、事の成り行
きが理解出来ぬまま呆然、としていた合田真
太が、悲鳴の様な声を上げた。
二、三日前〈研究室〉で、合田は沙織に、
プラスチックの小さな丸い容器に入れた、妙
なモノを見せてもらった。深い緑色の、コケ
の様なモノだった。
「ええ、コケよ、合田くん。モアイの長耳
の後に付いていたコケ。多分これは、あのイ
ースター島のモアイ達も付けている、あのコ
ケと同じ。古い岩石層に、長い間密封されて
閉じ込められていた石像には、決して付かな
い乾燥したコケ……。あたし、これを……」
一気に、まくし立てるように喋っていた沙
織の言葉が途切れたので、合田は促した。
「それ、どうするって?」
「これ……、翡翠さんに、送る!あたしは
何かとても、不安なのよ。これは、あたし達
の想像を越えたところで進んでいる、とんで
もない陰謀なんじゃないかって。だからジョ
ー……島村センパイが、とても心配……」
沙織は脅えていた。だが、その日のうちに、
翡巫女の事務所(何処かのセンセイの提供だ
ろう)に容器を届けた。考古学研究室の後輩、
急用、のメッセージが効いた。そして、引き
返す時、事務所に詰めかけていた多勢の人々
の目の前で、"内破"して、血の霧になって、
消えた。
「あーっ」
合田がまた、声にならない声を上げた。が、
その声は途中で、消えた。声を出す合田の首
そのものが、ポッ、と消えたからだった。首
無しの合田の肩から下が、ゆっくりと、妙な
事に音も無く、崩折れた。
ジョーは、動けなかった。
合田の異変を察知し、まだ外に、篝矢教授
の後方にいた猿渡助教授は、思わず前に出た。
度の強い眼鏡を擦り上げながら、中を覗き込
もうとした。その時
ガッ・ズズッ……
篝矢教授が、建物に入った。
ズッズッ・ズッ・ズー。
脚は相変らず覚束なかったが、躊躇なく真
っ直ぐに、モアイの石像に向って進んだ。床
に転がる合田の死体も、左右に対峙する翡巫
女とジョーの姿も、教授には見えなかった。
混乱する教授の頭脳を占領していたのは
「翡翠……」「娘や、お前は一体何処へ行
ってしまったんだ?!」「お前を、あんな化物
に変えてしまったのは、こいつなんだな!」
あんな化物、とは翡巫女で、こいつとはモ
アイの事だった。このどちらも
愛娘を溺愛していた、学究肌の良き父親、
篝矢藤兵衛の、思考の枠を食み出す"異物"
であった。
いささかススンデいた、とは言え、縄文前
紀文明の設定には自信があった。しかし、南
米イースター島の石像、となると、1+1は
3にも4にもなり、方程式は音を立てて崩れ
去る。しかも、娘翡翠は、その異形の化物に
魂を抜かれたのだ。呪いをかけられ、翡巫女
などと名乗る"化物"に変ってしまったのだ。
ズッ。リノリウムの床を引き摺る鉄槌の音
が止まる。石像の前に着いたのだ。
グイと見上げて、睨みつける。
教授の、今まで萎びた様に見えていた躯が、
元の、精気に溢れた逞しさを取り戻したかに
見えた。精気の源は"怒り"だった。
ゆっくりと柄を握り直し、降り上げる。敵
の砦の城門を打ち破る"破城槌"の様に。鉄
槌はゆ・っ・く・り・と・弧・を・描・き・
「やめなさい!!」
やめなさい!!
鋭い声と、声にはならない、更に鋭い刃物
の様な意識の声で、翡巫女が同時に叫ぶ。
教授が、ギクリ、と震えた様に跳び上がり、
そのまま、鉄槌の重さに引っ張られる様によ
ろめいて、ドスッ、とモアイの足下(?)に
激突する。仮台で、しっかりまだ固定されて
いない石像が、グラリ、と頭を振った……。
ジョーは動かない。
メキッ。仮拵えの木の台座が、嫌な音を上
げる。石像は後と前に頭を、少しづつ振幅を
大きくして振りながら、前へ傾斜むき……、
ジョーは、動けない。
……前に、のめる様に、ス・ロ・ー・モ
・ー・シ・ョ・ン・で倒れかかる5メート
ルの巨像の下に、教授の躯が、蹲まってい
る……
ジョーは、動けない。
お・父・様・!?
瞬間、翡巫女が、翡翠に、戻った。
ジョー、が、動いた。
一瞬の隙、意識の網の綻びから、スルリ、
と抜けだしたのだ。
しまった!動くな!
慌てて翡巫女は、再び網を投げた。が
ジョーは既に、そこにはいなかった。
教授を抱き起し、素早く、倒れかかってい
る石像から、脱出する……。
翡巫女は一瞬、え?!、となるが、すかさず
三度めの網を飛ばす。が、今度もジョーは、
動いていた。なにっ、なによ?!シールド?!ジ
ョー、君は矢張り、私と"同種族"だったの
?!まさか……
グァスッ!ズォオォンンン……!!
モアイが、床に、転がる。
呆然としていた猿渡に、ぐったりした篝矢
教授を預け。
ジョー・が・消・え・る。
翡巫女が、振り返る。衝撃に近い気配を、
感じたからだ。
ジョーが、暗闇の奥から、こっちに、走っ
てくる。コマを、中抜きした映像のように、
フラッシュ・ライトの中で、踊・っ・て・い
・る・よ・う・に・走って……
翡巫女は、最大出力の、内破の念動力を、
放射する。
……走・っ・て・く・る。
愕然となり、尚、射かけながら、後退り、
する。後退り、する……。
ジョーは、意識を"加速"していた。瞬時
に、血と肉と神経と骨と体液は、意識に同調
して"加速"し、肉体は〈慣性駆動〉とも呼
べる動きを獲得する。周囲の動きは見る間に
遅くなり、周囲の者には、ジョーの動きは見
えなくなる――
――猿渡は、目を見開き、中腰で、ぐった
りと、項垂れる篝矢教授の、両腕を、抱えた
まま、ぴくり、ともしない。
――翡巫女は、凄いスピードで、後退し、
かかって、いた……
――時々、ブレーキをかけて、スピードを
調節し、フラッシュが瞬く様に、わざと、姿
を見せてやる。蛍光ランプの寿命切れの喘ぎ
と相まって、幽霊の出現、の様な凄味に、な
る。これは威嚇してるんですよ、翡翠さん!
翡巫女は、猛然と、後退、して、いた。し
ながら、自家薬籠中だった筈の、"内破"の
念動を、射続けた――。
――骨も、肉も、神経も、細胞も、ズタズ
タに千切れて、飛散せよ!我勝ちに、外へ飛
び出せ。DNAの霧となって、大気の中に消
滅せよ――。
――射続けながら、猛然と、後退する。ハ
ッ、と気付いた時は、遅かった。倒れている
モアイ像に、もろに、激突していた。
激突した、かに見えた。が、奇妙な事が起
った。石像の中に、翡巫女は、めりこんだ、
のだ。
中腰の猿渡は、篝矢教授を抱きかかえたま
ま、ヘナヘナと膝を付いた。翡翠がモアイに
ぶつかって、そのまま、滲み込む様に、石の
中に、消えてしまった、からだ。
逃げた、とジョーは思った。"瞬間移動"
で、自分を何処かに――いや、モアイも一緒
に、だ――モアイも、同時に、消えていた―
―送った、のだ。
何が起ったのか、翡巫女にもわからなかっ
た。モアイと"衝突"する、のはわかってい
た。だからその瞬間、腹立ちまぎれに(邪魔
な!イースター島へお戻り!!)と念動力を発
射していた。それは効いた。モアイは、消え
た。が、翡巫女も、石像の中の翡翠も、一緒
に、だった。なにが起ったのか、なにが起こ
っているのか、彼女にはわからなかった……。
逃げられた事に、消えてしまった事に、あ
る意味でジョーは、ホッとしていた。こちら
に"攻撃"の隙を与えぬ様に、絶え間なく浴
びせてくる、彼女の強力な念動波をシールド
するのに精一杯だった事もあって、翡巫女と
の決着に関しては、何の方策もなかった。殺
し合いになるかも知れない、などとは考えた
くもない。だから、消えてしまった、事にホ
ッとしたのだ。
――ふむ。そりゃァ……、危機一髪じゃっ
たな、ジョー。こっちにも"超能力"が
無かったら、一巻の終り、という場面じ
ゃった。
――そう。イワンが偶々目覚めて、ジョー
の"超能力"開発をやってくれたから。
――いンにゃ、ショウさんや。偶々、では
ないぞ。イワンは、そのために目覚めた
んじゃ。ことある事を"予知"して、な。
そして目を覚まし、正に〈覚醒の儀式〉
を、ジョーに施こした。そしてジョーは、
この世界初めての〈サイボーグ・エスパ
ー〉になった。
――〈覚醒の儀式〉って……、イワンが言
ったんですか?
――いや。そういう"ニュアンス"。
――そうなんだよな。いつも、そういう"
感じ(ニュアンス)"なんだ。50年前、
俺ンとこに送られて来たのも、そういう
感じだったもんだから、後は自分で
補完作業を……
――ちょっと待った。イワンはもうひとつ
の"感じ"を話した。"仲間"が、〈覚醒
の儀式〉の為にやって来る……。
――えっ。"仲間"が、日本へ、来るんで
すか?!しかし、一体、なにが起きている
んです?!イワンは……?!
――あの後また直ぐ――お前さんに、考え
てもみなかった〈覚醒の儀式〉とやらを
行なって、くたびれたんじゃろうが、直ぐ
にぐっすり眠っちまったよ。
――"仲間(みんな)"が、やってくる…
…。
ムン先生は、"鳥人"の彫られた岩から、
ふっと顔を上げた。南極おろしの風に乗って
なにか、声のようなものが聴えた気がしたの
だ。しかし、風の音そのものが悲鳴に似てい
るので、また直ぐ目を戻して、ノートをつけ
始める。
タ・ス・ケ・テ……。
あの、この間やって来た、自分でも何でや
って来たのかよくわからない、と言っていた
あのヘンな若者と、同じ言葉の様な気がする
が……?!
タ・ス・ケ・テ。コ・コ・カ・ラ・ダ・シ・テ。
ダ・レ・カ……。
確かに、聴える。風の音じゃない。でも、
一体、誰が、何処で……。
ムン先生は立ち上がり、ノートを尻のポケ
ットに突っ込むと、坂道を下り始めた。
完
*もう少し"地理的"に詳しく
↓
入口 歩いている 地下の"上"
*"精子バンク"出身の天才科学者
→・殺される為の"神"も
この男の指導で造った
1
「月 」月は女性
太陽は男性 ―最近は逆(もっとアダムとイヴの昔から)
違っていた――
・西洋では凶々しいイメージ――満潮・干潮に関係(神経・出産)
日本は――"かぐや姫"はあるが……?
・月世界探検→リアルで夢を失なった?―「夢の象徴として→」存在する
ポルトガルのホテルの窓―子どもの時代…その頃は兎が住んでいた
オーストラリア―地平線に沈む
中空にあるので 否応なしに
それぞれのかかわりあいあり―(影響) 時に感性にかかわる
月ぬ夢
場末の酒場でファドを聴いて帰り、ホテルの窓から観た、寂しい程に眩しかった
ポルトガルの月。地平線にかかった赤い巨大な円盤を、思わずUFOかと見違えた
オーストラリアの月……。
子どもの頃、団子とススキで、縁側から見上げた故郷の秋の月――この頃、
月にはまだウサギが住んでいた――。
月は人類の誕生以来、夜の空に浮かび続けている
ふしぎな存在だから、人それぞれに否応なしに、様々の影響を与えてきた。
それはイマジネーションの源としてであったり、探究心の対象としてであったり、
また、時にはその満干が、精神や肉体をも支配するとさえ言われた。
(最近の研究では、出産や病気に関係する、とある)
特に西洋では、満月の夜の狼男伝説など、凶々しい対象としてとらえられ
たりする。アメリカの宇宙計画による人類の月面着陸以来、そうしたファンタジック
な、あるいは謎めいたイメージが消えるかと思ったが、一向にその気配はない。
科学的に、月面に人類が足跡を、一歩印したお陰で
むしろ謎は増々深まって、夢を拡大しているのだ。
例えば、月は太陽系創成の頃に地球から
分れた兄弟だという説がある一方、その構造(質量など)の不自然さから
中は空洞の"小惑星型宇宙船"ではないかという説があるかと思えば
月はUFOの基地という説まである。
月は女性、太陽は男(アダムとイヴ以来、特に昨今はこのたとえは
反対のような気もするが)。
とにかく月は、頭上で、人類の感性や知性を誘導してきた、といっても
過言ではない。
やがては月面に植民地が作られ、ホテルが建てられ、観光客が多勢
出かけ、月のホテルの窓から地球を見たりする時代がくるだろうが、
現実との接点が広がっても、闇世に進路を見失った人類の未来を
照らす灯台であって欲しい。"月ぬ夢"の対象であって欲しい。
3億3千3百万―インド神々
→インドネシアなど
八百万―日本
…・もとはひとつ→超(能力)人→旧地球人
・ギリシャ
・ローマ
・北欧(ロシア)
・南米(マヤ・インカ)
・中国(チベット)
・オリエント(アフリカ)シュメール
これではヒトの勝ちめはない
・墓荒し→骨の散乱している→想い出す 美しい骨を拾って帰った
―インカ・マヤ
・インディアン居留地 ・ベン・ナイトホース・キャンベル
ノースシャイアン
アルコール症候群の影響を受けた
胎児の出生率は、全米では五万人に
一人なのに、インディアン居留地では
四人に一人の割合だ。保留地では失業率も
五割以上、自信や誇りを持てず、自殺や酒
に逃避する若者が、後を絶たない
川・木 精霊が宿る
ヒマラヤ チベットの民
原始宗教 (仏教と同じ)
ドルポ
*精霊との対話が実際にあったからだ!
005 ジェロニモ ニックネーム
神は狡猾だが、悪意は持たない。
アインシュタイン
地球の住人の大多数は、何らかの神の存在を
信じている。しかし神が、明日、生身の体で出現
した場合、そういった信念があったところで、
物的事実を、目のあたりにするショックは、決して
少なくはない。
ベンフォード&エクランド「もし星が神ならば」
科学が認める神とは普遍的な法則のみにかか
わる神でなくてはならない。神は卸問屋であって
小売店ではない。神は個人の利便のために
意志を働かせるわけにはいかない。
ウィリアム・ジェイムズ「宗教体験の変様性」
神々から見れば、われわれは悪童の目に映った
蠅同然。神々は気紛れに人を殺すのだ」
ウィリアム・シェイクスピア「リア王」第四幕第一場
悪魔は見た目の姿を変える術を知るもの
ウィリアム・シェイクスピア「ハムレット」第二幕第二場
私が前にそのヒントに語ったことがあるように、私の本性の
いずこかで捉えることのできる、あの恐ろしい悪魔が私の内に
うずき始めた。それに捉えられたときには悪魔そのものの力を
もつものである……。
私は、かつての私には一度もなかったほどありありと人生の
秘訣は神の狂気をみずから共にすることにあると気づいた。
神の狂気を共有するというのは「生きざるもの」と対面する処に
自分自身のうちに、ある特異な昂揚感を呼び醒ます力という
ことにほかならず、その昂揚感は真実に宇宙エロティシズム
なのである。 ―ジョン・クーパー・ボーイス
コリン・ウィルソン「オカルト」より孫引き
悪魔は神と人間のあいだをとりもつ使者で
あって、われわれの清願を神に伝え、神の助力をわれわれに
もたらすのだ、というがごとき意見は、決して信じてはならない。
事実は正反対であって、悪魔とは害をもたらすのに熱心な悪霊
とわきまえねばならない。彼らは正義のなんたるかを知らず
慢心にふくれあがり、羨望に顔青ざめ、精妙な詐術を
弄する存在なのだ。
―聖アウグスティヌス「神国論(第13巻 第22章)」
万物は被造物なり、自己もまた神の芽なればなり。
―トマス・ブラウン「医師の宗教」(1642)
天使は、姿容を持たなくてはならない。
自分たちのためではなく、我ら人間のために
である。
―トマス・アクィナス「神学大全」第一巻第51章第2節
大衆神学は無知から来る矛盾の塊である。
神が何故存在するかと言えば、それは自然
そのものが人間の意識に神々の概念を植え
付けたドグマである。
―キケロ「神々の本質について」第一巻第十六章
名曲というものは、どうしてことごとく悪魔のもの
なんだろう?
―ローアンド・ヒル
神はいない。私は自由だ。
―「カッティング・エッジ」新潮社
神が存なくてもいい。人生は説明がつく。
―映画「冬の光」イングマル・ベルイマン
・この世界は神によってではなく愚かで自惚れの強い
悪魔(もしくはデミウルゴス)によって創造された。神は
創造を超えており「アリエン」「深淵」「存在せざるもの」と
いわれていた。
・ユリアヌスがもっと長生きしていたならば魔術の歴史は
大きく変っていたろう。異教徒たちは魔術を悪魔(もし
くはその異教版であるセトやアーリマンなど)と結びつけては
いなかったので、魔術にたいして何の恐怖心も抱いていな
かった。キリスト教の体制下において魔術は黒魔術と
なったので、その力は人間の隠れた能力からではなく、悪魔から
導き出されるものとなったのだ。
―コリン・ウィルソン「オカルト」
・1999年1月〜7月まで―"7の月"に大団円
・日本(江ノ島)私(石ノ森・61歳)の"別荘"に住むギルモア博士
PR.ギルモア(74歳)1925年生れ(ユダヤ人)
つれづれなるままに"オカルト"について論じる。
*私と009たち(島村ジョー、フランソワーズ、イワン、ギルモア)
はふとした事で知り合い、住居を提供する事になる。
世界中に散っているメンバーが"無意識"に(実は001の"夢"が触
発している)つき動かされて"神"との出会いのシーンへ接近し、事
件に遭遇という形で、それぞれのストーリーが展開する。
・ストーリーのブリッジをなす、あらゆる怪奇現象論が
やがて全てひとつの結論に、トータルされていき……
001の"目覚め"と同時に驚くべき真相がわかる。
・そしてメンバー全員の"覚醒"によって
地球は「元の世界」に戻れるか?!
*多元宇宙("天国と地獄"の思想)Aは"生"の
世界(太陽系の各惑星は、それぞれ生命に満ちて
いる)と、B"死"の世界(現実、現在の太陽系)があり
地球は罪を負って、B次元宇宙に流されていたのだ。
・005(ジェロニモ)マヤ 熱帯雨林にて未発見の遺跡
基調となるシンボリックな章である
☆ギルモアと私@(001、003、009、の近況含み)
・007("幽霊屋敷探検")―ロンドン郊外?
☆ギルモアと私A→例・UFO・幽霊・ポルターガイスト・異次元
・ファティマ、ルルド…・妖精・ネッシー、雪男
(UMA)・超能力
・002(ニューヨークの怪異)
☆ギルモアと私B・世紀末の都市相
・006(張々湖―コックである―は、チベットの奥へ)ブツブツ言いながら
☆ギルモアと私C・"私"の手記という形でストーリーも進行する
・004(オカルト集団ネオナチとの戦い)
☆ギルモアと私D
・008(ピュンマ)―動物保護官 アフリカ・エジプト
☆ギルモアと私E
・009・003
☆ギルモアと私F
*生い立ちを加えながら"神々"と出会う迄を
書く。00NO.がそのまま小見出しになる。
第一部(天使編)→光
第一章 接近と遭遇
*第二章・第三章……も同様に進む、00NO.
エピソードの順列は可動とする。
*第二部(悪魔編)―闇 第一章・戦闘
第二章
人口は60億を越えている
*
・ジャングルの中では、目に見えると思っているものには
慎重にならねばならぬ。
ジャングルでものを見るには、コツが必要。
――光が頭上に、濃く厚く生い茂った枝葉の天井を通って
くるから、濃い陰を背景にして、目も眩むような
小さな斑点を作る――次にバラバラになった
陽光がジャングルのものの形を粉々にして、影と光の
でたらめなパターンにしてしまう。軍隊のカムフラージュと
同原理――結果、実際に見えないものが見え、
(悪いことには)あるものが見えない。
――色彩は強烈すぎて本物とは思えない。
樹木の幹の灰色と褐色、腐っている落葉の匂いと
黄色、下ばえや地衣類の冷たい緑、頭上を
覆う枝葉の白っぽい緑。――しかし何よりも気に
なるのは、ジャングルの異様な沈黙だ。
005の章
・005―ジェロニモ(ニックネーム)―本名は他にある。
アマゾンの密林に分け入る。樹々や動物たちとの"会話"
から異常を知る。未発見の埋もれた都市にいる神々と出会う
・先住民の謎(突然の消滅)
・インデアン自殺(若者たちに忍び寄る→悪魔の囁き。
004―アルベルト・ハインリヒは現在、長距離トラックの
運転手。一人のヒッチハイカーを乗せる―(ネオナチ・グループ)
の党首―だが(トルコ人迫害)疑問を持って解散―昔の
仲間たちや他のグループに追われる―ワーグナーのカーステレオ
カセット・音楽etc)―古城―そして妖精たちと小鬼たちの出現
アーリアの神々(北欧神話系)……
党首―女性?
サイボーグ009(神々との闘い)
*アイヌ音楽→テーマ曲
吾ありて自然あり、自然ありて吾あり
・心(魂)を揺らす―ゆらぎの中に"宇宙"
・全てに生命あり
・先住民侵略の歴史 ・インカ
・アイヌ―カムイ
・インディアン
・火星人→反逆
地球人―"神"の侵略者
005 ジェロニモから話を始める。
→精霊たちとの"会話"を通して
白人侵略前の幸福を描く
――インデイアン(マヤ・インカ)の歴史を
当時から生きる大樹と語り合う
大樹―同じ時間感覚―赤ン坊・嬰児(胎児)と同じ
ゆっくりと超スピードの混在する世界観
2
「アーサー・C・クラークがこんな事を言ってるよ」
「ほ…」
「―〈大部分の超常現象は人間とその脳で
解決できる〉」
「……」
「つまり〈人間の脳の機能は素晴しいんだが、
素晴し過ぎて未解明の部分が多いのだ。そのゾーン
に答が隠れている。例えば、前世の記憶――誰かの
話をチラッと聞いただけで記憶され、思わぬきっかけで
出てくる。それを見て聞いた者たちは、てっきり
生まれ代りと思ってしまう。歴史のどんな記念日も
憶えている、どんな数の計算もアッという間に出来る、
全部、人間の脳の働きだ〉」
「ふん。SF作家の中では、アシモフとクラークは、
まァ、コチコチのハード派だからなァ。作品では
なく、本人が、な」
「〈脳はまた、存在しないものも作り出す。幽霊やUFOや
妖精といった幻影だ〉」
「"幼年期の終り"でカギのついた尻尾のある神
を考えた男とは思えんな」
「…ギルモア博士、それじゃあんたは、UFOについてはどう
思う?」
「ふ…ショウさんや。ワシはいろいろ不思議も見てきたし、
傍には"実例"も居るから、一概には否定は出来んかな。
まァ、それでもしかし、サー・クラークに一票を投じるじゃ
ろうな」
「あいまいだねえ。どっちかにしなさいよ。そう、それじゃ
ワタシが超常現象肯定派の立場、ギルモア博士は
ガチガチの否定派、それで議論してみる。どう?」
「やれやれ、そんな議論は不毛だと思うがねえ。過去
数百年に渡って議論されて来ているが、確たる
結論は出ずに堂々巡り。時間の無駄だと思うがね」
「時間が余り過ぎて退屈だとボヤいていたのは
何処のどなたさんでしたかね。ワレワレ爺さん
には、こんな事でもせにゃ時間潰しにならんのだからね」
「いンや、することなら、山ほどあるぞ、ショウさん。
お前さんは、仕事をしなさい。〈009〉の
原稿もまだじゃろうが。それにワシには
書きかけの論文が二、三本あるし、それに第一、
一番大切な、イワンの子守りがある」
「"保爺"の役なら、二人でやってんじゃないのよ。それに
001は、ずっと眠り続けているばかりで、時々授乳させ、
オムツを取り替えてやればいいんだし」
「……」
「それに議論するったって、このロッキング・チェアに
腰を降して、ああでもないこうでもない、と言うだけだ」
「ふうん、こうゆう話になるとショウさんも燃えるから
のオ。それに――、お前さんと出会ったお陰で
ワシらはこうして暮していられるのだし、敬意を表さん
とな…」
「なんの水臭い。連絡を取って会えたのは、そっちの
…001のテレパシイのお陰なんだし、その流して
くれた断片的情報を使って『サイボーグ009』を
描いたんだからね」
「ふふっ、奇想天外、奇妙奇天烈、シッチャカメッチャカ
ジョナサン・スイフトもスティーブン・キングも
びっくりのでたらめコミックを、な!ふむ。たく
よくまァ粉飾して大袈裟なドラマに仕上げたもんだよ。
恥かしげもなく」
「だから…001の時間を跳び越えた"送信"が切れ切れ
だったし、後は想像の翼にまかせるまま、時代に合わせて
話を作ったからね。でも、時間が空いての通信だったから
話と話の間に、辻褄が合わないとこも出てきた。
けど、元ネタが面白かったから、まァまァ成功した。
本が売れて収入も増え…、だからこそやっと出会った時、
ここでこうして一緒に暮せるようになったんじゃないか。
そうさ、ギルモア博士。この別荘はあんたの009、丈
たちのものなんだよ」
「わかったよ。年齢をとると性格がしつこくなる
のかねえ。じゃあ待て、始める前にイワンの
様子を見てくる。オマエさんはどうかね。
小便が近くなってるんじゃなかったかね」
「ケッ、お互い爺いなんだから違いはナシ――
そうそうイワンが目を覚ましてたら、聞いといてよ。
なんで今頃、会う事にしたのか、何でおれの脳に
九人の戦士の情報を送り込んだのか。
いつまで眠り続けるのか。これから何が起きるのか。
…へっ、応える筈ねえか」
「…相変らず、良く眠っとったが、少し心配じゃよ。こんどの
眠りは異常に長いんだ。…何も起らんといいんじゃが…」
「さあ、それじゃ博士。第一の課題はなににします?
超常現象とか、UFO関連の方とか、古代文明とか神とか…
に関係する本をちょい集めておきましたかね」
「へへへ、ショウさん。そんな文献など、ワシの方は
必要ないよ。そちらから出されたネタを否定するだけで
事足りる訳だからね。フォッフォッ……」
3
1999年7の月
アンゴルモアの大王のような
恐怖の王が天から降ってくる
その時 軍神マルスは 大義の
ために統治するだろう
→"神々"の予定?
・サイボーグ009 神々との闘い
第一部 光と
第二部 闇の
第三部 彼方へ
・謝意(前書きふうに)
・00ナンバーと私の出会いの事―記録係としての筆者
・参考文献の開陳――補足、納得のために使用
選抜した責任は著者にあり
・序章
・第一部 ギルモアと私の「合活」にする構成
a.b.c−
・以後〈オカルト〉検証のブリッジP 同様に
・「……」これだけでつなぐ
オカルト →組み替える事
アンゴルモアの大王のごとく 一XXX年の第七の月に
恐怖の大王が天降るであろう そのとき、軍神マルスは良き
大義名分のために統治するであろう
・アンゴルモア→ジンギスカン
・紀元前4千年―創世紀にある至福千年紀
1999・7は始まり?
・ノストラダムスの前にも予言めいたモノはあった
・オーインの占星術師ターレルetc
・占星術
・火星(マルス)―好戦的な影響・軍神の名にちなむ
・水星(マーキュリー)―知性と能力(神々の翼ある使者)
・金星(ヴィーナス)―愛の女神
・木星(ジュピター)―父親的性格(保護、上機嫌、秩序、愛)
・土星(サターン)―悪と失敗
・太陽(サン)―創造性
・月(ムーン)―不安定な変化→狂人:ルナティック
・序章――"神々の翼ある使者"と人々の出会い
(ファティマの奇跡のように)
「哀れなメキシコよ。神からかくも遠く、天国にかくも近いとは」
ポルフィリオ・ディアス
神は過去のうち、そうあるべきでなかったということを
変えることは出来ない。それは死人を蘇らせるより
もっと不可能なことである。
―トマス・アクイナス
アダムとイヴ、オイディプス、ファウスト、エイハブなど
神と運命に抗した者はすべて、その傲慢さのゆえに地獄に
落されているのだ。人間の悲劇的欠陥とはいえ、神に抗する
その行為が、文学のテーマとして繰り返し現われているのは
それが逃れられぬ「人間の条件」の一部であるからに他な
らない。
エド・レジス「不死テクノロジー」
・アインシュタインの四次元連続体――空間:時間(時空間)
時間と空間は別々の実体ではなく、一つの時間軸と三つの
空間軸が混然とまとまって織りなす網のようなものである。
―空間の軸を渡れるなら、時間の軸も渡れるはず。
2世紀 ギリシャ風刺作家 ルキアノス
・ハイパーマン―スーパーマン
超人 トランスヒューマン
4
アンコール・トム
誰かが背後で
呼んでいるような。何度も後からの視線を感じた。
チーターと009
前面のみ水彩 チーターは図鑑風にキチンと
遮光器土偶と009
009と呼ばれた男
肖像画
鯨と008
油彩
山水と黒豚と旅する張々湖
墨絵 黒豚もリアルに
華やかな中国衣装
パステル
あるインディアンの肖像
夕陽のインディアン
パステル
001(ぬいぐるみ)
人形と カゴ…リアルに
009(作業服)
老インディアン 005
006−ラサ市から出発
温泉 300万年前 海だった 隆起―山脈
シガツェ インド ネパール
ポタラ宮 マニ車 五体投地 神々の土地チベット 標高3000米 カンチェンラマ
・天空の食 火について述べる 食は火だ!−火焔男 張々湖
009 CONCLUSION GOD'S WAR
・生体工学者 Dr.ギルモアと引退した萬画家石ノ森章太郎の
会話(どちらも70歳前後の老人だ)。"神"の存在から始まって
UFO、輪廻転生、ネッシー、ESP、雪男、幽霊、人体自然
発火、妖精、妖怪、バミューダトライアングル、アトランティス、
古代文明、火星の人面岩、異次元……etc.etc、超常現象に関す
る穏やかでユーモラスな論争が続く。途中、何度も001の授
乳に追われるが(何故か眠り続けている。少し心配だ)、それ程
手間はかからない。また、1週間に一度は発掘(縄文遺跡―三
内丸山の近くor沖縄近海の無人島、海底)から009、丈が
帰宅する。江ノ島、別荘風の建物(石ノ森の所有)に四人で住
んでいるのだ。(009は、石ノ森の友人で考古学者である松羅
教授の助手として参加している)。サテ、論争だが、
――石ノ森はどちらかと言えば超常現象の肯定派であり、
Dr.ギルモアは否定派である。とは言うものの、目の前に
001という得体の知れない"超能力者"がいるので、完全には
否定しきれない。で、ついつい石ノ森に言い負かされる形になる。
――この"論争"を適時、00ナンバーの(神との)遭遇
エピソード(マンガにしては50ページ前後を基本(ベース)
とする)のつなぎ(ブリッジ)として挿入する。
・尚、1050年代中盤から石ノ森によって描かれ始めた「サイ
ボーグ009」は、実は時間を越えて001が石ノ森の頭にヒ
ントとして投射(2009年に現実に出会う!!)その準備を
していたのである。
STORY OUTLINE
・地球 世界各地 ・2010〜2012まで
――この頃、神々(その国・その土地の)と人類の遭遇事件
が多発する。最初はよくあるマリア像の血涙とかネッシー
とかUFOと同様の神秘現象…マニア向けのニュースかと
見られていたが、噂は次第にリアリティを増し看過出来な
くなり始める。殊に00ナンバーたちが、それぞれの国で
"事件"に巻き込まれたとなれば、これはもう只事ではな
い。
――メンバーの、結末のない各エピソードが終了し、神々の
正体とその意図などに、邪悪なモノを感知したメンバーた
ちは、一ヶ所に(仮にイースター島)集結し、"神々との
闘い"に備える。
――"神々"出現の目的はなにか?!地球人と惑星・地球の
支配を目論む、宇宙人なのか!?それとも……
その向うに、更に巨大な意図と謎が隠されているような気
がする。……戦闘が開始される。
――神々は超能力者だった。サイボーグ、メンバーの特殊改
造能力でも、これには敵わない。遂に"眠れる赤児"00
1が目醒める。長い時間を眠り続けていたのは、この日に
備えての事だった。メンバーそれぞれの脳を刺激して、次
々と"超能力者"に変えてゆく。エスパー・サイボーグの
登場である。
・壮烈、凄絶のGOD'S WARの後、遂にその正体と
意図が明らかになる時がやってくる。
以上で終了です。
テキストは「石ノ森章太郎萬画大全集」特典の
「サイボーグ009完結編」創作ノートでした。
>>1-653 乙!途中で一度カキコした者です。
今までありがとうございました !!
>654
ども。
というか、このスレは普通だと読んだり活字に起こしたりする
気力がわかない分厚い自筆コピーのノートを読み通すため、
自分にノルマとプレッシャーを課すために立てた、全く利己的なスレでした。
読み違い(今読み返しても最初の方はかなりあります)や、どうしても読み取れなくて飛ばした単語はありますが
特典本の全ページを一応書き写しているつもりです。
ここに書くことは著作権を侵害している行為かもしれませんが、
多分、1000人程度のごく一部の人しか、先生の最後の仕事を知ることができないという悲しい状況も打破したい気もありました。
まあ肝心の内容については、個人的にいろいろ言いたいこともありますが
これで去ります。
スレの残りは完結編ネタバレスレとしてでも使ってください。
深謝です。
独特のくせ字をよく解読されましたね。
お疲れ様でした。
>653
どなたさまか存じませんが大変な作業お疲れさまでした
ただただ感謝です
658 :
愛蔵版名無しさん:2009/03/03(火) 10:06:03 ID:Ch9gg4mx
創作ノート、まず読む機会など得られないだろうと諦めていました。
本当にありがとうございました・・・!
創作ノートは全部で何冊あったのでしょうか?
中には白紙状態に近いものもあったかもしれないですね
何冊あったのかは知らんけど、
「とことん石ノ森」見た限りでは
フランソワーズの章のノートは真っ白けっけだったな。
ああ、そうだったなあ
ここにまとめてある003の章の粗筋は
他のノートに書いてあったということか
あんた凄いよ……!乙、烈しく乙
ノートの内容を読む機会なんて無いとあきらめてたから、すごく嬉しいです
どれだけ感謝すればいいのか分かりません
御大は005と006みたいなストーリーを凄く書きたい(書きやすい)気分
だったのかもね。
何度も書き直しているところを見ると渾身、という印象がする。