●心からまったりと杉浦日向子について語ろう 2●

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19愛蔵版名無しさん

たのしいくらし                     杉浦日向子




 ごぶさたしています。お元気ですか。筆不精ですみません。元気でやっています。

 自転車買いました。二十六インチ変速機なし、アルミの軽いやつです。晴れた日には、これでどこまでも行きます。
初めの二、三十分は、そうでもないのですが、一時間先こぎ続けていると、とてもいい気持ちになって来ます。
ジョギングやマラソンをする人に、ランナーズ・ハイという快感があるそうですが、そんなのに似てる気がします。
自転車は愉快です。ペダルに乗せた足を上下させているだけで、ぐんぐん前へ進みます。
この単純運動は、呪文のようです。
えいえい漕いでいると、額の汗が、風でスースー消えるのと一緒に、いろいろなことを忘れて行きます。
ハッカ糖を食べた後に、水を飲んだみたいな気持ちになれます。

 毎日が、穏やかに過ぎていきます。
朝起きて、食事して、トイレして、自転車漕いで、風呂入って、少し酒飲んで、眠ります。
無事これ名馬の伝にならえば、何事もない日々こそが最良の人生なのかもしれません。
惰眠の日々を、思う存分にむさぼっています。
生きてここにあることを忘れてしまいそうなほど、しあわせです。

 近況を知らせて下さい。声を聞かせて下さい。では、今日はこの辺でさようなら。




                               (「東のエデン」(平成元年発行) あとがきより)