「ファッション雑誌に飛ばされたのに、堀江さんはマンガ作りをあきらめていなかった。
『いい作品やろうよ』って、張り切ってるんですよ。そんな姿を見ると、かわいそうになった」(原)
堀江の失脚に心を痛めていた原のもとにも、雑音は聞こえてきた。
「堀江は社内での立場がなくなっているよ。奴と付き合ってると損するから、関係、考え直した方がいいんじゃない?」
こう迫る関係者に対し、原はきっぱりと告げた。
「おれは堀江さんと組む」
原には夢があった。マンガ製作会社を設立して、マンガ家の地位を上げる。
マンガだけではなく、映像も扱う総合エンターテインメントを目指す。
こう考えていた原は、堀江に切り出した。
「会社なんて辞めればいいじゃないですか。二人でやりましょう。
おれが稼いだ金の半分は、堀江さんの金と思っていいですよ」
これまで徹底的に鍛えられた堀江に、今度は原が決断を促した。
だが、堀江にも意地がある。マンガから離れたとはいえども、部下を抱えた編集長だ。
「頑張れ」と励ましている仲間を見捨てて、会社を辞めるわけにはいかない−。
そう考えていた堀江にも、決心するときが来た。「ニューメディア企画室」への異動。
部屋には自分の机と、アルバイト一人の机しかない。仕事も決まっていない。
「これで、すべての責任は一段落したと思った」
堀江は12年4月に辞表を提出し、6月にマンガ配信会社「コアミックス」を設立。
原も出資し、取締役として新会社に参加した。
コアミックスは、会社がアシスタント集団を用意して、マンガ家がこれを共有する新システムを導入。
新潮社のマンガ雑誌『週刊コミックバンチ』の編集を手がける。
原は現在、『バンチ』で「蒼天の拳」を連載している。
「北斗の拳」のケンシロウの伯父である霞拳志郎が、1930年代の中国・上海で活躍する物語だ。
原作者は堀江。「北斗の拳」原作者の武論尊は、監修者として堀江の相談に乗っている。
担当編集者から原作者へと立場を変えた堀江だが、原とのかかわり方は変わらない。
「つい最近も机をけり上げられましたよ。『締め切りに間に合わない』って」。
こう話す原は、自身のホームページにある文章を掲載している。
「(『バンチ』の他の執筆陣に対して)もちろん文句も言いますよ。
普通、わざわざ文句とか言いたくないですけど、これはあえて言ってみようと思っています。
(中略)もっと漫画家同士がどんどん口出しあって鍛え合っていかなきゃいけないと思うんですよ」
原が述べる「鍛え合う」関係とは、堀江との関係をモデルにしていることは言うまでもない。
ときには嫌われても、怒鳴り合い、意見をぶつけ合うマンガ家と編集者。
原と堀江は、今のマンガ界が失いつつある姿を取り戻そうと戦っている。
(おわり)