283 名前:名無しさん@恐縮です sage New! 投稿日:2005/07/26(火) 17:29:34 ID:I6URmQ+30
(略)
ところで、ちくま日本文学全集の「岡本綺堂」の最後に杉浦日向子が解説を書いてるんだけど、
この文章が秀逸なんだ。ちょっと長いので後半部分だけうpしようと思うんだけど、彼女の江戸
への気持ちと言うか、彼女の生き方と言うかがよく出てると思う。
もし読んだことある人はスルーしてください。
284 名前:283 sage New! 投稿日:2005/07/26(火) 17:30:44 ID:I6URmQ+30
うつくしく、やさしく、おろかなり 杉浦日向子
(略)
なんのために生まれてきたのだろう。そんなことを詮索するほど人間はえらくない。三百年も
生きれば、すこしはものが解ってくるのだろうけれど、解らせると都合が悪いのか、天命は、百
年を越えぬよう設定されているらしい。なんのためでもいい。とりあえず生まれて来たから、い
まの生があり、そのうちの死がある。それだけのことだ。綺堂の江戸を読むと、いつもそう思う。
うつくしく、やさしく、おろかなり。そんな時代がかつてあり、人々がいた。そう昔のことではない。
わたしたちの記憶の底に、いまも睡(ねむ)っている。
江戸の昔が懐かしい、あの時代は良かった、とは、わたしたちの圧倒的優位を示す、奢った、
おざなりの評価だ。そんな目に江戸は映りやしない。 (つづく)
285 名前:283 sage New! 投稿日:2005/07/26(火) 17:31:46 ID:I6URmQ+30
(つづき)
私がなぜ江戸に魅せられてやまぬのかを、人に語るのはむずかしい。惚れた男が、相馬の金さん
のようなやつだった場合、親きょうだいに、かれをなんと説明したら良いのか。それと同じ気持ちだ。
いい若いもんで、ぶらぶら暇を持て余している。とくに仕事はない。たまに友達と、ゆすりたかりを
する。ちょくちょく呑んで暴れるけれど、喧嘩は弱い。でもかあいい。なによりだれよりかけがえない
のだよ。
私が惚れた「江戸」も、有り体に言えば、そういうやつだ。
近年「江戸ブーム」とやらで、やたら「江戸三百年の知恵に学ぶ」とか「今、江戸のエコロジーが
手本」とかいうシンポジウムに担ぎ出される。正直困る。つよく、ゆたかで、かしこい現代人が、封建
で未開の江戸に学ぶなんて、ちゃんちゃらおかしい。私に言わせれば、江戸は情夫だ。学んだり手
本になるもんじゃない。死なばもろともと惚れる相手なんだ。うつくしく、やさしいだけをみているのじゃ
駄目だ。おろかなりのいとしさを、綺堂本に教わってから、出直して来いと言いたい。
江戸は手強い。が、惚れたら地獄、だ。