ねこ娘が言うには。
久しぶりに町で鉢合わせた青年画家と話しているうちに、絵画モデルの話になったのだという。
ウェディングドレスを着れるということで、ねこ娘も喜んで通いつめたのだと。
「だって!なんていうか・・・アコガレがあるじゃないのー。鬼太郎には分かんないだろうけどっ」
子供用に合わせたとはいえ笠のあるドレス。詰め込まれた大箱を抱えながら、
鬼太郎はやはり分からないとばかりに気のない返事を返した。
「だったら別に・・・隠すこともないじゃないか」
「隠してなんていないでしょ!」
「・・・そうかなあ」 「そうよ!」
「本当に?」 「・・・そりゃあ・・・ちょっと内緒にしてたところもあるけど」
画家に描かれた奇麗なウェディング姿の絵を見せて、びっくりさせてやろうという気持ちも
なかったとは言えない。ねこ娘は口ごもった。
「ほらね」 「だからーそれは・・・!」
「モデルだなんて言われてほいほいついて行くなんて。砂かけのこと言えないね?」
「だって!・・・もしかしたら・・・花嫁衣裳なんて一生着る機会ないかもしれないし・・・」
「え・・・?」
思わず足を止める。
「どうしたの?」 「あ・・・いや。君は・・・お嫁さんにはならないの?」
鬼太郎が訊ねると、ねこ娘は困ったように笑い出した。
「相手がいなきゃお嫁さんにはなれないんだよ?」
「相手なら・・・っ」
目の前に、ここにいる。
しかしそう言い切るには・・・今日は日が悪い。
散々悪さした代償に、こうして大荷物を運ばされている身だ。
「なぁに?」 「・・・いや、何でもないよ」 「そう?」
足取りも軽く、ねこ娘はすたすたと先を進んでいく。
ああやはり今言っておくべきだろうか。
しかしいくらなんでもタイミングが悪過ぎる。
もう怒ってないとはいえ、歩幅も合わせてくれないし。
鬼太郎は思考の迷路に立たされて、歩く速度も遅れ気味だった。