吐き出された白濁液はねこ娘の頬、肩、そしてドレス上に撒き散らされ、
ソファの背もたれにまで及んだ。
ぶるぶると硬直した鬼太郎をきょとんと見上げていたねこ娘も、硬直がとけた瞬間に
はっと我に返って辺りの惨状に目を見開いた。
「や・・・やぁだ〜!この格好じゃモデルさんできないじゃないのーっ」
「・・・も・・・モデル・・・?」
一体何を言っているのだろうか・・・。
浅い息をつく鬼太郎を置き去りに、ねこ娘は慌ててドレスのあちこちを見ていた。
「これ、ちゃんとお洗濯しなくっちゃっ」
「洗濯・・・?」
まだ呆けている鬼太郎にばんっと学童服を渡し、ねこ娘もまた大急ぎでいつもの服に着替え始めた。
「ねこ娘ちゃ〜ん、遅くなってごめんねー。いやぁ新しい画材が揃っててつい話しこんじゃって・・・あれ?」
画家が戻った頃、二階の室内はしんと静まりかえっていた。
片面を終えたレコードの針はコツコツと空回り、ひょいと針をあげる。
「怒って帰っちゃったのかな〜・・・」
ふと丸テーブルの上に挟まれた置き手紙に気付く。
───ドレス汚してしまいました。ごめんなさい!お洗濯して来週うかがいます。───
慌てて書いた走り書きを見て、画家は軽笑いした。
「紅茶でもこぼしちゃったのかなあ。クリーニング代くらい僕が出すのに〜」
律儀な子だねと笑いながら、レコード盤のB面に針を合わせた。