愛天使伝説ウェディングピーチ お色直し4回目

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566名無しか・・・何もかも皆懐かしい
あの事件には、妖怪は関与していなかった。
彼の───人間の心の奥に巣食う情念が忌みなる形で働いた。
だから鬼太郎も妖気を感ずることもできず、抵抗する隙もなく絵の中に取り込まれてしまったのだ。
何の悪意もなく、人の心にある狂気が起こした怪事件。
あの時は、それで終わったと思っていたけれど・・・
最後に見せたねこ娘の笑顔を前に、青年画家も魅入ってはいなかっただろうか。
 「まさか・・・」
彼がもし、母の死を乗り越えたのではなく・・・
別の娘を、聖なる存在として拠りどころにしていたのだとしたら、まだ事件は終わらない。
 「!」
館の扉が開き、数人の学生達が出てきた。
簡素な格好、動きやすい服装には油絵の具が飛び散っていた。
大荷物の画材を肩に抱えながら、ふと視線を落とす。
 「・・・あの・・・」 「あれ?君も先生の教え子かい?」 「教え子・・・?」
絵画教室でも開いているのだろうか。よくよく見れば門のところに看板が掲げられていた。
 「まあどっちにしろ午後は休校だよ」 「”花嫁さん”が来ちゃったからね」
教師をからかうように笑い合い、「また明日」と手を上げてそれぞれの帰路に散った。
 「花・・・嫁・・・?」
鬼太郎の思考が一点に集中する。
たとえあの画家が絵画教室を開き、ねこ娘もまた教わっているのだとしよう。
しかし彼らは午後は休校だと出て行った。無論その中にねこ娘の姿はない。
見上げた二階の窓からはレコードの音に紛れて、ねこ娘の笑い声が聞こえた。
まだこの屋敷にいる。そして、花嫁とは・・・?
 「まさか・・・そんな」
画家とねこ娘が寄り添う姿が浮かび、まさかと笑い出したが、その目は二階を見上げたまま。
さすがに話し声ははっきりとは聞こえない。
 「・・・」
気付けば鬼太郎は足音を潜め、画家の洋館へと足を踏み入れていた。