愛の若草物語 ベス 【三女目】

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870名無しか・・・何もかも皆懐かしい
 しかも全ての不動産を処分しており、終戦後もアメリカに帰って来るつもりはないらしい。因みに、現在のこの屋敷の持ち主は、不動産会社も経営しているマーサおば様だ。
 エイミーは腹立たしげにパンをちぎって言う。
 「まったく、とんでもない“ごうばりつく”のお爺さんだわ!お父様は祖国の為に命がけで戦っていらっしゃるというのに・・・」
 大真面目なその言葉に、ジョオはプッと吹き出してしまう。
 「あははっ、エイミー、も、もう一度学校へ行きなさいよ!」数ヶ月前、エイミーは学校で手の甲を鞭で打たれるという酷い体罰を受けていた。そのことに激しく憤ったジョオは母と共に学校へのり込み、その場でエイミーを自主退学させていたのだった。
 「エ、エイミー、それを言うなら“ごうつくばり”よ!あはははは・・・!」間違いを指摘され、ふくれる末っ娘と大笑いする次女をメアリーは少し厳しい調子でたしなめた。
 「二人とも、二度とそんな穢い言葉を使ってはいけませんよ!それから他の人の悪口もです!人にはそれぞれの生き方や考え方があるのですからね?それに対してとやかく言う権利など誰にもないのですよ?」
 「はい。ごめんなさい、お母様。もう二度と穢い言葉は口にしません。」
 「ごめんなさい。お母さま・・・」
 素直に詫びる二人の愛娘に、メアリーはにっこりと微笑みかけるのだった。
 それから二週間ほど経った頃。ジョオの胸は悲しみで押しつぶされそうになっていた。それは、マーサおば様の健康状態が良くなるどころか悪化する一方だったからだ。
 あの日・・・つまり、デービッドの悪事をジョオが見つけた日から数日して、おば様は床に就いたまま起き上がることが出来なくなってしまたのだ。そして、日に日に食事が進まなくなり、見る見る痩せ細っていくばかりであった。
 今日も朝早くからジョオはおば様の枕頭につきっきりで看病していたのだが、そんな彼女に向かって、おば様は縁起でもない言葉を口にする。
 「ジョオ・・・そろそろお別れだねぇ・・・」(な、何を言うの、おば様!)そう大声を上げかけた最愛の姪を眼で制し、マーサは言葉を続けた。
 「自分の身体は自分が一番良く知ってるよ。・・・私は、あんた達のことは何も心配してないよ。お母さんをはじめ、あんたの家の人間はみんなしっかりしているからね・・・ただ、心配なのはデービッドのことさ・・・」