愛の若草物語 ベス 【三女目】

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869名無しか・・・何もかも皆懐かしい
 「ねえお母様・・・家庭教師とはいえ・・・やっぱり先生というのは、責任ある仕事だと思うの・・・今ここでわたしが突然いなくなったら、あの子達は“見捨てられた”と思ってしまうんじゃないかしら・・・」
 「メグ!」突然メアリーは両眼から涙を溢れさせ、愛娘を力いっぱい抱きしめた。
 「嬉しいわ、メグ!あなたが責任感のある立派なレディに育ってくれて・・・私は、あなたの母であることを心から誇りに思います!」突然の母の言葉に、メグも感極まって泣きじゃくる。
 「・・・でもね、メグ。やはり辞めるべきです。」
 「え・・・?」意外な言葉を訝しがるメグに、マーチ夫人は教え諭すように言った。
 「私はかねがね、あのエドの噂を耳にする度に、あなたのことが心配でならなかったの。ああいう人間のそばにいるということは、あなたの人生にとってマイナスになりこそすれ、プラスになることは一つもありません。
私はね、メグ。あなたやジョオにとって、とても有意義な社会勉強だと思ったからこそあなた達が働くことに賛成したの。そして、あなたはこんなに立派に成長してくれました。
 あんな男性にもうこれ以上、こんなに可愛い、素敵な娘が付き纏われるだなんて、母親として耐えられないのよ。ね、メグ。辛いかも知れないけど、どうかわかって頂戴・・・」
 その日の夜。四姉妹は優しい母を中心として食卓を囲み、ハンナの作ってくれた美味しい夕食を味わっていた。
 「ねぇジョオ。お隣に誰か引っ越してきて下さればいいと思わない?」相変わらずおしゃべりなエイミーの言葉にジョオは頷いて言う。
 「そうね。誰もいない大きなお屋敷というのはちょっと気味が悪いわね。こうして夜に見ると特に・・・まるで幽霊屋敷だわ。」
 「キャッ、や、やめてジョオ。怖い夢を見てしまいそう・・・」
 「あははは、冗談よ、ベス。幽霊なんてこの世にいないから安心しなさい。」怯えるベスにジョオは明るく笑いかけた。
 マーチ家の隣にある大邸宅は、彼女達がこの土地にやって来る直前に無人の空き家になっていた。聞いたところによるとローレンスという大金持ちの老人が住んでいたらしいのだが、戦争が長期化するに及んでイギリスへ逃亡してしまったそうだ。