(私たちが毎日どんな気持ちでお父様のいらっしゃらない食卓を囲んでいると思ってるの!)愛する父への想いにメグは遂に堪え切れずに立ち止まり、その父からの贈り物である使い古したハンカチを目頭に押し当てた。
「メグ・・・?」聞きなれた穏やかな声と同時に、突然後ろから両肩に優しく手を置かれたメグは、振り返るなりその人物の大きく暖かい胸に顔を埋めて激しく泣きじゃくる。
「おっ・・・お母様!わ、わたし・・・悔しい!くやしい・・・ッ!」その人物は四姉妹の母、メアリーだった。彼女は、珍しく取り乱す愛娘の背中を優しく叩き、落ち着いた声で訊ねる。
「エドワードさんにまたプロポーズされた・・・そうでしょう?メグ?」メグは泣きながら何度も頷いた。三日前のエドからの求婚を、母にだけは打ち明けて相談していたのだ。
「さあ、メグ・・・話して頂戴?ゆっくりとでいいから・・・」そう言いながら、メアリーはメグの秀でた額に優しくキスをする。そんな二人の姿を他人が見れば、歳の離れた仲の良い姉妹だと思ったかも知れない。
それほど、メアリー・マーチ夫人は若々しく、美しかった。
涙まじりのメグの話を聞き終えたメアリーは、その美しい眉をひそめ暫く何か考えていた様子だったが、やがてメグを真っすぐに見つめてきっぱりと言った。
「メグ。明日、私も一緒にキングさんのお家へ伺います。そして、あなたの家庭教師のお仕事を終わりにさせて頂きましょう。」
メグは驚いて顔を上げ、そしてすすり泣きながら言う。
「お母様・・・そ、それはできないわ・・・」
メグとて好きこのんで働いているわけではなかった。だが現実問題として、ゲティスバーグの戦いで全財産を失ってしまったマーチ家の家計を支えているのは、父と彼女とジョオの僅かな給料だけなのだ。
それを一番解っているのはお母様の筈なのに・・・。そんなメグの心の中を見透かしたように、マーチ夫人は言葉を続ける。
「大丈夫ですよメグ。何も心配は要らないわ。それとも・・・キャサリンとトーマス、そしてパティのことが気になるの?」キャサリンとトーマスはメグが教えているキング家の子供たちであり、パティは彼らの姉で、数少ないメグの友人の一人であった。
「え、ええ・・・」メグは小さく頷いて言う。