「ジョオ、じゃ、今夜で・・・いいわね?」
メグもまた頬を赤らめると、嬉しさにジョオの胸の痛みは一瞬にしてかき消された。
「ええ!今夜ね!」
間もなく、歩き続けるふたりの前に分かれ道が見えてきた。別れ際、ジョオはチュッと
メグの頬にキスをすると元気よくパタパタと駆け出していった。走り去りながらこちらを
向いて大きく手を振るジョオを見てメグはくすくすと妹のかわいさに笑みをこぼした。
ジョオのマーサおばさまのお屋敷での仕事自体は楽なもので、おばさまの話し相手や
身の回りのちょっとしたお世話をするのがその主なものだった。さらに、おばさまが昼寝を
している間は書斎でそこの豊富な蔵書を読んだり、小説を書いたりして時間を自由に使う
ことを許されていた。
今日も天気がよく、昼下がりにおばさまがグッスリと寝入ったのでいつものようにジョオは
書斎を使っていたが、この日は彼女の執筆が思うようにはかどらなかったので気分転換に
なにか面白い本はないか書斎の巨大な本棚を相手にすることにした。
「小説以外に・・・何か変わった本はないかしら?そうだわ・・・」
毎朝、メグとジョオが一緒に仕事に出掛けるのを合図にマーチ家の一日はゆっくりと
動き始める。メグはキング家の家庭教師、ジョオはマーサおばさまの身の回りのお世話が
仕事だ。いつも分かれ道にさしかかるまでの幾ばくかの時間、とりとめもないおしゃべりを
するのが2人の朝の日課のようなものだった。
そんな会話の合間、ジョオがぽつりと、メグの顔を見ずにまっすぐ前を向いたまま
つぶやいた。
一月のコンコード辺りには大寒波が来てたはず。寒そう。でもいいなあ…
エイミーことアビゲイル・メイの落書きなんて見たの?うらやましいいい!
行きたいなあ。旅行関係の出版社もアンのプリンスエドワードに負けないぐらいの
旅行案内を出してくれ〜出してくれないなら俺がでっちあげてでも出す。
ジョオとローリーがボートで遊んだ川とかローレンスキャンプが行われた場所とか
「アリー?いる?これ、おすそわけよ。」
あの鼻にかかりぎみの甘ったるい、それでいて元気な声を聞くたびに生き返る思いがしたものだった