「そんなぁ、ひどいよジョオ・・・」と哀れっぽく呟きながらも、クズ男は腹の中で赤い舌を出していた。じつはデービッドにはこんなダイヤ泥棒なぞよりも、もっと重大な二つの秘密があったのだ。
その内の一つでも明るみに出れば、勘当どころか刑務所送りになることはまず間違いない。
(”行きがけの駄賃”と思って焦ったのが失敗のもとだったな。危うく全て水の泡になるところだった。ふん、ジョオが甘ちゃんの小娘で助かったぜ・・・)
「ただいまぁ!」その日の夕方、ジョオはいつもと変わらぬ調子で元気良く帰宅した。居間からベスの弾くピアノの音が聞こえて来る。ジョオが居間に入ると、ピアノに向かうベスの隣で絵を描いていた
エイミーが、「お帰りなさぁい、ジョオ!」と言いながらクスクスと悪戯っぽく笑った。
「なぁによ?わたしの顔に何か付いてるの?」一瞬、今日の出来事を知られてしまっているのではないかと焦るジョオの前に、にこやかな顔のベスがやって来て、「お帰りなさい。お仕事ごくろうさま。」と一通の手紙を
手渡す。「お父様からね!」と喜んでその封筒を裏返したジョオは、差出人の名前を見ると、美しい顔を赤く染めた。
「アンソニーさんからよ。あらぁ、赤くなっちゃって。嬉しいんでしょ、ジョオ?」エイミーがからかうように聞いてくる。
「うるさいわね!子供には関係ないことよ!」とジョオは一喝した。
ジョオの友人、アンソニー・ブーンは地元紙ニューコード・タイムスの敏腕記者で、数ヶ月前から従軍記者として戦場の最前線で活躍している。そして、二十日に一度ほどの割合で、ジョオに手紙を寄越すのだ。(アンソニーったら・・・)
胸を熱くするジョオの耳に、エイミーのキンキン声が飛び込んでくる。
「あらぁジョオ、私もう12歳よ!ベスと一つしか違わないんだからね?ジョオとだって三つしか離れていないわよ!」どうしてこの末妹だけはこんなに喧しいのだろう?気分をぶち壊しにされて、思わずエイミーを叩こうとしたジョオをベスが優しくなだめにかかる。