愛の若草物語 ベス 【三女目】

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834名無しか・・・何もかも皆懐かしい
 ジョオとマーサおば様が涙にくれたその日の夜。エド・キングは、とある場所で酒を呷っていた。しかし、彼の姿を見た人間は誰も・・・例え彼の両親であってさえも、彼がエドであるとは気付かないだろう。
 それもその筈、細い蝋燭の炎に揺らめく彼の顔はマスカレード・マスクで覆われていたのだ。しかも、ご丁寧なことに口から顎にかけては付け髭で隠されている。
 エドが今いるこの部屋はかなり狭い。それは、部屋の約半分を一段高くなったステージが占めているからだ。残りの半分に十基ほどの丸テーブルが置かれ、エドを含めて15、6人の男性が静かに着席していた。
 そう、ここは会員制の高級秘密地下クラブなのだ。もちろん、四姉妹が暮らすニューコードではなく、大都会ボストンの片隅にひっそりとこの店は存在していた。
 エドはどんよりと濁った目で真っ暗なステージを見やる。そして、ポケットから懐中時計を取り出そうとしたそのとき、後ろから彼の肩を叩く者があった。
 「いよぅ、そこのフラレ男!」囁くように小さいが、楽しげなその声にエドはいらつきながら振り返る。そこにいたのは彼と同じようなマスクを着けた親友、デービッドだった。
 「街中の話題の主がこんなところで自棄酒を呷ってるわけか」楽しげな問いに、エドは怒りを露わにする。
 「うるせえな。いい加減にその話はよせよ」
 二週間前、彼がフレデリック・マーチ大尉の長女マーガレットに求婚し、手ひどく撥ねつけられたことはもう既にニューコード中の笑い話となっていたのだ。
 「いやぁ悪いわるい。どうやら傷はまだ癒えてはいないようだな。」忍び笑いを漏らすデービッドに、今度はエドが尋ねる。
 「お前こそ、こんなことしてる場合じゃないだろう。伯母さんが重体だっていうじゃないか。行ってやらなくていいのか?」
 「なぁに、大したことはないだろう。あの伯母さんがそう簡単にくたばりはしないさ」
 言いながら、デービッドは腹の中でほくそえんでいた。
 (ふん、わざわざインドから取り寄せたという特製の毒薬を一年がかりで飲ませたんだ。これでくたばらねぇ筈がねぇよ!)
 ジョオはメグにこれまでの経緯を洗いざらい打ち明けた。秘密にすると約束していた