愛の若草物語 ベス 【三女目】

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805名無しか・・・何もかも皆懐かしい
(こ、このガキ・・)真っ赤に腫上がった頬を押さえながら、デービッドは屈辱と惨めさとが入り混じった憎悪で思わず我を忘れそうになった。
(俺さまを誰だと思ってやがるんだ?)そう喚きながら、目の前の美少女に掴み掛かりたくなるのを必死に堪える。実際、デービッドはこの港町ニューコードの
与太者連中や愚連隊の間では多少は名の通った存在である。その自分がわずか15歳の少女に手も足も出せないとは・・・。
 いや、相手がジョオ・マーチでなかったら、そう、マーチ家の人間でなかったら、すぐさま防音完備の図書室に引きずり込み、どのような暴力的手段に訴えてでも
その糞生意気な口を塞いでやるのに・・・。
 デービッドがその考えを実行に移せないのは、別に良心が咎めるからではない。ただ、ある恐ろしい男の名が常に頭の片隅にあるからだった。その男とはフレデリック・マーチ大尉・・つまり、この少女の父親
だった。
 家族をはじめ、マーチ家と親しい人々、いや、一度でもフレデリックと会ったことのある全ての人々にとっては、彼はいつでも笑顔を絶やさない温厚な紳士であり、子煩悩な良きパパである。
しかし、ただその名を知るだけのデービッドの様な人間にしてみれば、フレデリック・マーチ大尉とは、自ら志願して入隊した誇り高き戦士であり、数ある北軍将校の中でも最も勇敢な大隊長であり、敵に対して
は情け容赦無い恐ろしい男であった。
 その男の愛娘であるジョオにもしものことがあったら・・・。(俺なんか片手で捻り殺されちまう!)それを思うとデービッドはこの一回り以上も年下の少女に対して、恥も外聞も無く
土下座して許しを請うことしか出来なかった。
 デービッドはカーペットに額を擦り付け、惨めな告白を始めた。投機に失敗して莫大な借金を抱えてしまったこと。その返済の為におば様に金を借りに来たが、「借金を借金で返すバカが何処に居る!」とすげなく断られ、
心ならずも盗みを働いたこと等々・・・。